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[ サスペンス ]
不思議な国の殺人
フレドリック・ブラウン 出版月: 1964年01月 平均: 7.00点 書評数: 3件

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東京創元社
1964年01月

No.3 6点 蟷螂の斧 2021/09/28 19:09
地方新聞主筆のドックは、せめて一度でいいから、町中がひっくり返るような特ダネを載せたいと思っていた。偶然にも、その日はいろいろなニュースが飛び込んできた。更にドックは強盗事件の犯人と出くわすなどのビックニュースで大忙し。そんな中「アリス」ファンという見知らぬ人物が訪ねて来た・・・。
殺人事件は二の次か?というような展開です(苦笑)。でもオチで笑わしてくれました。

No.2 8点 人並由真 2021/09/08 05:44
(ネタバレなし)
 アメリカの一地方にあるカーメル市。そこで「わたし」こと52歳のドック・ストージャーは、地方新聞「クラリオン週刊紙」の発行人兼主筆を23年間にわたって務めてきた。そんな晩春~初夏のある夜、ドックは新聞紙面の差し替えの可能性を気に留めながら、帰宅するが、そこに一人の小柄な訪問客がある。「エフーティ・スミス(スミティ)」と名乗った客は、かつてルイス・キャロルの研究家だったドックの前身を知っており、市内の無人の幽霊屋敷で行われるというキャロル愛好家の同好の士の集いに彼を誘う。だが、そんなドックのもとに突然の事件の知らせがあり、彼は来客を自宅に待たせたまま飛び出すが————。

 1950年のアメリカ作品。
 地方新聞の発行人で、土地の人々ほとんどと面識がある初老の主人公ドック。その彼のもとに、一晩のうちにニュース種になりそうな事件の情報が続々と持ち込まれたり、あるいは彼自身がなりゆきから関わっていく。そのうちに物語の主軸となる奇妙な変死事件、さらなる……が勃発する。
 なんかまるで、若竹七海の葉村晶シリーズの長編みたいな大小の事件のミキシングぶりだ。これだけでもエンターテインメントミステリとしてはなかなかイケてるが、評者などがブラウンのミステリに期待する独特な洒落っ気とペーソス感の方もさらに豊潤で、実にたまらない。

 あと主人公のドックは、本当にわずかな描写でその素性が語られるが、若い時に何らかの事情で婚約者と死別しており、その後もずっと独身を貫き、仕事一筋に生きてきた男。しかし市内の銀行の頭取から話があり、その頭取の弟が新聞社を経営したいというので、権利を譲ってこの仕事から身を引こうかとも考えている。青春の残滓と中年の重みが絶妙にまじりあったキャラクターで、いいねえ、なんかウールリッチ以上にアイリッシュだ(アイリッシュ以上にウールリッチだ、でもいいのだが)。

 物語の大枠は当初から推察がつくとおり、一晩のうちに始まり、同じ夜のうちに決着する<ワン・ナイト・ストーリー>(評者がいま作った造語)。
 その趣向の中で、とにもかくにもベテランのジャーナリストとして、目の前に次々と現れる記事ネタに食いつき、対処し、そして振り回されるドックの姿がテンション豊かかつユーモラスに語られる(中にはとても悠長に構えてられないサスペンスフルな状況もあるが)。
 そしてその上でメインの怪死事件の舞台が、J・D・カーかブリーン、ロースンみたいな幽霊屋敷なのだからたまらない。ニヤニヤ、ゾクゾクしながらこの筋運びを楽しんだ。
 
 終盤はさまざまな事態の絡み合いの結果、窮地に陥ったドックのサスペンス劇に、フーダニットの興味が融合する。
 ドックが思いついた仮説がそのまま真相を言い当ててしまうのはちょっとアレだが、ちゃんと一応の伏線というか解決に至る布石は張ってあり、まあいいんでないかと。良くも悪くもブラウンのミステリらしいし。
(ただまあ、中盤で語られた謎の怪事件の方は……。)

 今まで読んだブラウンのノンシリーズものの中では、間違いなくコレが一番面白かった。
 こういうものを半年に一冊くらい読めたら私のミステリライフは、かなり満足度&充実度がさらに上がるんだけどな。 

No.1 7点 2020/04/12 23:25
邦題はルイス・キャロルの代表作を元にしていますが、原題は “Night of the Jabberwock”。『鏡の国のアリス』の方に出て来る「ジャバウォックの詩」に描かれた鳥のような怪物です。と言っても、実は『不思議の国のアリス』でさえ忠実な翻訳は読んだことがないのですが。
一人称の主人公、小さな町の週刊紙主筆ドックはアリス・シリーズの研究者でもあり、アリスおよびキャロルについての蘊蓄はふんだんに出てきます。これまで大した事件も起こらなかった町で、新聞発行の前日の夜、ドックが特ダネになるような出来事に次々出会うことになる、その積み重ねが楽しい作品です。中心となるのは、作品紹介にも書かれたドックが容疑者になる殺人事件ですが、それが起こるのは6割ぐらい経ってからで、それまでにも様々な事件が、これでもかというぐらい起こります。それら全部の最終的なまとめ方がまた、ばかばかしいようなおもしろさでした。


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