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[ 本格 ] 霧の壁 |
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フレドリック・ブラウン | 出版月: 1976年01月 | 平均: 8.00点 | 書評数: 1件 |
東京創元社 1976年01月 |
No.1 | 8点 | 人並由真 | 2022/06/05 14:48 |
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(ネタバレなし)
「ぼく」ことロドリック(ロッド)・タトル・ブリトンは、「カーヴァー広告代理店」に勤務する28歳のコピーライターだったらしい。どうやらロッドは4日前に、不動産業界で成功した祖母ポーリン・タトルが何者かに殺された直後の事件現場にいて、その時のショックで以前の記憶を失ってしまったようだ。一時は殺人の嫌疑もかけられかけたが、犯行時刻と思われるタイミングに、信頼性の高いアリバイの証人が現れて難を逃れた。ロッドは5つ年上の異母兄で劇作家志望のアーチャー(アーチ)・ホエーリイ・ブリトンから情報をもらい、欠損した記憶の回復に努める。そして、自分が何らかの事情で別れた美人の元妻、ロビン・トレンホームのもとを訪れるが。 1952年のアメリカ作品。 あらすじの通りに記憶喪失テーマもののミステリで、終盤まで殺人を為した犯人の正体も伏せられた内容。あえてジャンル分類すればフーダニットの要素を抱えたサスペンス作品ということになろうが、主人公の無実は一応は担保されているし特に危機的な緊張感などはない。また真相の解決もぎりぎりのところで情報が開示される構成なので、通常のパズラーというわけでもない(それでもジャンル投票は、一応、犯人捜しの要素を考慮して「本格」にしておく)。 なおAmazonの現状のデータはヘンで、創元文庫の初版は1960年12月の刊行。評者は73年3月の12版で読了。 要はおなじみのブラウンらしい、1950年代の都会派風俗ミステリという感じだが、記憶の回復を試みながら一方で、少しずつ祖母殺害事件についての情報をアマチュア探偵として調べていく、そして別れた魅力的な妻ロビンへの愛情を改めて自覚する主人公ロッドの叙述が丁寧で、かなり面白い作品だった。 中盤、ロッドがもうひとりのヒロインで会社の同僚ヴァンジイ・ウェインに肉欲を感じながら、あまりにも愚直な誠実さを見せてしまうあたりとか、ああ本当にブラウンらしい、オトナの青春ミステリ(あ、特にここで「ミステリ」とつけんでもいいか)だなという感じで、思わず微苦笑が漏れる。 最後の着地点は、苦みと温かさが本当に良い塩梅で組み合わさったクロージングで心地よい。 書庫から出してすぐそばに置いておいたはずなのに、本の山に埋もれて見つからなくなっていた。やはり読みたくなってちょっと手間かけて探し出した一冊だが、とても良かった。今のところ、これまで読んだブラウンのノンシリーズ長編ミステリの、マイベスト3には入れたい。 評点は0,25点くらいオマケ。 |