皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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[ ハードボイルド ] アンブローズ蒐集家 エド・ハンター&アンクル・アム |
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フレドリック・ブラウン | 出版月: 2015年08月 | 平均: 7.00点 | 書評数: 2件 |
論創社 2015年08月 |
No.2 | 8点 | 人並由真 | 2021/01/09 07:34 |
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(ネタバレなし)
「ぼく」こと新米探偵の青年エド・ハンターは、私立探偵として豊富なキャリアを持つ伯父アム(アンブローズ)とともに、伯父の知己ベン・スターロックが経営する「スターロック探偵社」に勤務。いずれ叔父と甥で独立した探偵事務所を開くため、資金を貯めていた。だがある日、事件を調査中のアム叔父が行方不明となる。エドは必死に伯父の消息を追い、スターロック社長を初めとする探偵事務所の仲間や旧知の警官フランク・バセット警部も手を尽くすが、成果は得られなかった。渦中「アンブローズ」の名を持つ人間を拉致する怪人「アンブロ-ズ・コレクター」の存在までが取りざたされる。そんな、叔父を捜し続けるエドの周辺では殺人事件が。 1950年のアメリカ作品。エド&アム・ハンターシリーズの第四弾。 評者の大好きなシリーズではあるが、それでも未読と既読がランダムにいりまじっている、このエド&アム・ハンターもの。 大昔に読んだ作品も細かいところはほとんど忘れちゃってるので『シカゴ』と『火星人』以外なら現状どれを読んでも(再読しても)いいのだが、とりあえず読みたくなった現時点ですぐそばにあったコレを手にした。これは確実に未読の一冊(新刊刊行時にとびついて買って、そのまま今までとっておいたので)。 でまあ、内容については前もってうっすらしか情報を聞かされてなかったので、詳しい設定を知って驚き。要はエラリイのすぐ脇のリチャード警視が、あるいはポアロものの初期編でヘィスティングスが突然いなくなってしまう(たぶん誘拐か監禁された?)ような、ぶっとんだ話だったのね。実際にそういう趣向に近い狙いを行った作品としては「87分署」シリーズ途中の某長編を思い出した。 アム伯父の安否を案じて焦燥するエドを支えてスターロック社のチームがフル稼働するあたりは、集団捜査ものミステリの面白さが炸裂。丁寧な翻訳も効果をあげて、そんな彼らの捜査線上に浮かんでくる劇中の人物も、おおむねそれぞれキャラクターがくっきりしている。 さらに、評者がなにより愛してやまない<青春ハードボイルドミステリとしてのエド・ハンターシリーズ>としての要素が今回も十全で、その煌めきがすごく心の琴線に触れる。 本当なら『火星人』(シリーズ5作目で本書の次)の再読より先に、こっちを読むべきだったかな。うーむ。これは、しゃーない。 まあシリーズものだからアム叔父さんが最後には(中略)なのは分かっているんだけれど、複合的な犯罪の真相が明快に暴かれる終盤の流れなどは鮮やか(悪事の仕掛けについては、後年のある連作短編ミステリシリーズの一編を連想した)。 しかし名前「アンブローズ」への執着だけで、一人前の大人のアム叔父を連れ去った? イカれた犯罪者~そんなのが実際に作中にいるのかどうかは、なかなかわからないのだが~のイメージはケッサクであった。さすがは狼男だの火星人だの、トンデモナイものが事件の視野に入ってくる愉快なシリーズだけのことはある。 実質、ミステリとしては7.5点なんだけれど、ごひいきのシリーズが期待通りの楽しさだったことを喜んで評点は、8.5点の意味合いのこの点数で。 【最後に余談】 以前、どっかに書いたかもしれんが、周知の通り、この作品は唯一、未訳のまま長らくほうっておかれたエド&アム・ハンターシリーズの長編であった。 それで、実は1980年代に<SRの会>の関東(東京)例会に、当時の創元社の現役の編集主幹だった戸川安宣氏が来訪したことがあり、その席でSR会員のひとりから「未訳のこの作品は、出ないのですか」という主旨の質問が寄せられたことがあった。その場での戸川氏の返答は「自分も気になっているので、機会を見て出したい」であり、そのやり取りを聞いた自分も20世紀の間中ずっと、刊行を待っていたのだけれど、ついに実現することはなく戸川氏は退社。本作は未訳のままさらに十余年眠り続け、論創さんのおかげでようやっと、発掘された訳だった。個人的にも感無量だったけれど、自分なんかよりずっとはるかに歓喜した人もいたんだろうな。ミステリファン長いことやってると、いろんなことがあるわ。しみじみ。 |
No.1 | 6点 | 空 | 2018/02/27 23:53 |
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フレドリック・ブラウンというと、どちらかと言えばSFの方が有名なように思えますし、自分自身もSFは2冊読んでいるのですが、ミステリは短編集『真っ白な嘘』しか読んだことがないという状況でした。しかし長編の数ではミステリの方がかなり多いわけで、最近翻訳されたこの作品を手に取ってみたところ、なかなか気に入りました。
エド・ハンターのシリーズ(彼の一人称形式とは言え伯父のアムと一緒に私立探偵をやっているのですから、エド&アム・シリーズと呼ぶべきかもしれません)の第4作です。ジャンルとしては本作の段階では2人は私立探偵ですし暴力的な場面もあるので一応ハードボイルドに入れてみました。 アム(アンブローズの愛称)伯父の失踪事件で、邦題は犯人の偽名アンブローズ・コレクターのことですが、原題 "Compliments of Fiend"(『悪魔より愛をこめて』)より内容に合っている感じがします。 |