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[ 本格 ]
モーテルの女
フレドリック・ブラウン 出版月: 1967年06月 平均: 6.00点 書評数: 1件

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東京創元社
1967年06月

No.1 6点 人並由真 2019/02/06 16:04
(ネタバレなし)
 アリゾナ州の小さな町メイヴィル。「わたし」こと29歳のロバート(ボブ)・スピッツァーは、週刊タウン誌「サン」の記者職に従事。二年間の安月給での雇用期間を、記者としての修行と思って耐えている。そんなある夜、会社の側にあるモーテル「ラ・フォンダ」の一室にひと月前から入居していた女性エイミー・ワゴナーが、何者かによって刺殺される。ボブは電話交換手で美人の恋人ドリス・ジョーンズとの恋愛を楽しみながら、記者として素人探偵としてエイミー殺しの事件を追うが。

 1958年のアメリカ作品。日本でモーテルといえば1970年代から、ほぼラブホテルと同意という認識が昔からあった。そのため大昔の少年時代に本書の存在を初めて知った際には、これはどんなイヤらしい作品かと楽しみ……いや、敷居が高い感じであった。
 さらにこの作品、昔の創元文庫ではよくあることながら、ページ組みの関係か作品固有の解説が巻末についてない(同じ作者の他の同様の仕様の作品と兼用の、作者フレドリック・ブラウンについての概要を語った1ページのみの定型記事はついている)。
 そういうわけで、本書の中味が実際にどんなかなと探るには、あれこれ妄想を越えて現物を読むのが一番手っ取り早い。そういうわけでウン十年単位で遅ればせながら、このたび思いついて本作を読んでみる。
 
 はたして何というか案の定というか、実際にはエロさとはほとんど無縁の(笑)、50年代のアメリカのローカル色が豊かなB級パズラー。一応は誰が殺人犯かのフーダニットにもなっている。モーテルも単に、自動車の駐車に利便性のある普通のホテル以上の意味はない(いや、それがそもそも本来の字義だが~汗~)。
 地方の小さな町で起きたちょっとだけ不可解な殺人事件(不可能犯罪とかではなく、動機や事件の筋が見えないという意味で)に関わり合う周囲の人々それぞれの姿を、ボブの視点からとても丁寧に描いていく。そんななかで記者として社会人としての誠実さや矜持を主人公ボブ自身が試される局面もあるが、いかにも50年代のアメリカの良識面といった感じで真っ当に対応する彼の態度がすごく気持ちよい。この辺はノンシリーズながら、エド・ハンターものに通じるアメリカ旧作青春ミステリ風の趣もある。

 ミステリとしては犯人確定の決め手となるカードが最後の真相判明の少し前に初めて出されるため謎解き作品としてはちょっと弱いが、一応はそのキモとなるファクターが出た時点で、読者がギリギリのところで犯人を推察可能となる作りにはなっている。
 ただし本作の場合、犯人とその動機や事件の真相が明かされてそれで終り、ではなく、作品前半から撒かれていた小説としてのいくつかのフックにちゃんと多様な情感を含ませた決着をつけているところが実に良い。うん、フレドリック・ブラウンのミステリで読みたいのはこういう味わいだ。
 ヒロインのドリスもとても可愛く、エド・ハンターと違う一作限りの主人公だからこそ、このクロージングだなあ、という実感。

 ちなみにAmazonでの本書のレビューが2018年になって初めてついてますが、この作品への愛情を傾けたなかなかの名文でした。やはりこの邦題に関しては、似たような思いを抱いていた人はいるらしい(笑)。


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