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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ]
寒い国から帰ってきたスパイ
ジョージ・スマイリーシリーズ関連作品
ジョン・ル・カレ 出版月: 1964年01月 平均: 7.56点 書評数: 9件

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早川書房
1964年01月

早川書房
1972年01月

早川書房
1978年05月

No.9 8点 斎藤警部 2024/02/24 12:48
「一分あれば、壁まで行きつける。では、しっかりやれよ」
「きみはおれたちをなんだと考えている。 スパイだぜ」

本作が忍ばせた連城三紀彦スピリット(?)は後からじわじわ来る。 将棋のように、ゴールに向かい一手一手詰めて行った挙句のどんでん返しではなく、オセロの如く、状況の瞬時転覆が連鎖する形で大反転の真相暴露。 この小説の外貌の醍醐味はそこにある。 主人公の直接相対する相手がステージクリア風に次々切り替わって行くのも小気味良い。 そして、最後には・・・・ 敵味方驚きの構造が明かされてお終いではない。 それは飽くまで組織の枠組。 中で実際に動く者たちの関係は複雑に推移する。 そこにまた意外性を醸すミステリ興味の重要エレメントがある。 統制された心理の暴力が荒れ狂うクライマックスの査問会(裁判)シーンは圧倒的。 だが、それすらも、、、、これ以上は言えません。

“どんなに愛情に富む夫であり、父親であったにしても、つねに愛し、信じている相手から、遠のいたところに身をおかねばならぬ。”
“第二、第三の人物として生きることを、おのれ自身に強いたのだった。 バルザックは死の床にあって、かれが創造した人物の健康状態を心配したと聞くが、同様のことがリーマスにもいえた。創造の力を棄てることなく(以下略)”

ラストシークエンス、事務的側面含んだ緊張と、それすら裏切る予感。 物語の、そして最終章のタイトルが意味するところ、確かに受け取りました。
怖るべきは、物語内の比重高く大胆不敵な□□トリックさえ実は●●●だった、という物語構造でしょうか。 それは本作主題の痛切なメタファーですらありましょう。

「神とカール・マルクスをおなじように軽蔑する男たちーー」
「しかし、リーマス。 きみも利口な男じゃないな。」

さて、最後の一文ですが・・

No.8 9点 よん 2021/04/26 12:48
スパイ小説の名作。これでスパイものの世界が変わった。ドラマは東西緊張を舞台にした二重スパイ形式をとっているが、硬玉よりも冷たくならざるを得ない。「男の仕事」が共感をそそる。緻密なスリルが味わえる。

No.7 8点 蟷螂の斧 2019/12/13 20:08
「東西ミステリーベスト100」(1986年版)の第33位。英3位米6位(英米合算では第2位)1953年「007カジノロワイヤル」から10年後の発表で、アンチ007のような作品と感じました。リアリティを追求した”非情”をメインとした作品と言えるでしょう。ボンドも女性に弱いが、本作の主人公も同様???。読みどころは、その点と査問会議の真相究明場面です。緊迫感がありました。なお、ベルリンの壁が出来た2年後の作品ということでした。

No.6 8点 クリスティ再読 2018/07/30 00:58
暑中お見舞い申し上げます。納涼3連発、第3弾は「寒い国から帰ってきたスパイ」

ベルリンのスパイ網を壊滅させられて、失意のうちに帰国した英国情報部員リーマスは、その失敗を逆用して東独情報部に一矢報いる作戦に参加した。それは異例の作戦だった。目的のために、リーマスは「堕落」した。堕落の底に沈んだリーマスに男が接触したきた...

古い話だが、評者とか昔高橋和巳に凝ったんだよ。そういう世代さね。執拗にインテリが「堕落」する話を書きつづけて、70年代初めに亡くなった作家である。自意識を強く持ちつづけ、堕落する自分を奇妙なほどにクリアに捉えつつ、倒錯的にその「堕落」を愛し「堕落」によって逆に救われるような逆説を描いたわけだけども、ル・カレの本作、高橋和巳みたいなリーマスの「堕落」が評者は今回一番印象に強く残った。もちろんスパイ小説なので、そういう「堕落」も納得づくのものなんだけどもね。しかし「作戦」は卑劣な男を助け、マジメな男を破滅させるものだし、リーマスさえも、愛した女がトラブルに巻き込まれる可能性を否定出来ないような作戦だった....何を選び、何を捨てるのか。そのときに自分が捨てたものが、本当に自分に不可欠なものでなかったと言えるのか?
そういう「アオさ」みたいなものが、本作の一番イイところになっている。本作の「寒さ」というのは、そこで捨てたものが実は一番大切なものじゃなかったのか?という疑念なんだろう。作戦のために「堕落」したんじゃなくて、スパイという職業を選んだことですでに「人間」から「堕落」していんじゃないか。そういう疑念を抱えてしまったリーマスは、職業スパイという「寒い国」から帰還できるのか...

(あと本作はちょっと「死者にかかってきた電話」の後日譚という感じの設定がある。ル・カレって単品で読んでも悪くはないけども、全体的なサーガみたいに読んだほうが良さそうだ。どっちかいうと本作は番外編みたいな色彩が強いと思う。)

No.5 6点 E-BANKER 2014/02/16 21:34
1963年に発表されたスパイ小説の金字塔的作品。
アメリカ探偵作家クラブ賞&英国推理作家協会賞受賞作。

~薄汚れた壁で東西に引き裂かれたベルリン。リーマスは再びこの地を訪れた。任務に失敗し、英国情報部を追われた彼は、東側に多額の報酬を保証され、情報提供を承諾したのだ。だがそれは東ドイツ情報部副長官ムントの失脚を図る英国の策謀だった。執拗な尋問のなかで、リーマスはムントを裏切り者に仕立て上げていく。行く手に潜む陥穽をその時は知る由もなかった・・・。英米の最優秀ミステリー賞を独占したスパイ小説の金字塔~

さすがに「看板に偽りなし」という感想。
冷戦下のベルリンを主舞台とし、英国対東ドイツの構図を背景に、スパイ達が虚々実々の駆け引きを行う。
それまでのスパイ冒険小説というと、超人的主人公が危機一髪の場面を乗り切り、最後には任務を華々しく遂行する、という図式がほとんどであったが、巻末解説によれば、作者はあくまでもリアリテイに拘り、本作を描いたとのこと・・・
確かに、ドラマティックなラストこそ目につくが、序盤から終盤までは割と平板な展開が続いていく。
(そういう意味では、いかにも冒険小説という派手な展開を好む方には向かないかもしれない)

あくまでも、主役はスパイたちの「心の中」ということなのだろう。
資本主義対共産主義、東側対西側というイデオロギーの対立軸なども当然垣間見えるのだが、その辺りはあまり気にせず読める。
終盤以降は、本作の主人公リーマスが囚われ、東ドイツで私設法廷にかけられるなど、緊張感のある展開が続き、悲劇的(?)なラストになだれ込む。
ラストシーンの背景として登場する「ベルリンの壁」こそ本作のもうひとつの主役ということなる。
まぁ21世紀の現在から見れば、「ベルリンの壁」など今は昔・・・ということになるが、やはり東西冷戦の象徴なのだと再認識させられた。

時代性もあるけど、ミステリーとしては今ひとつ盛り上がりに欠けるかなというところがマイナスなのだが、重厚でスキのないストーリー展開は十分に楽しめる。
評点はちょっと辛めだけど、そこは個人的な好みの問題。
(50歳のスパイも恋をするということだな・・・)

No.4 7点 mini 2012/04/24 10:16
明日25日発売予定の早川ミステリマガジン6月号の特集は、”SPY ル・カレから外事警察まで”
先月にル・カレ「ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ」の新訳版が刊行された
未読だが菊池光訳の旧訳版に別段問題無いだろうに何で今頃と思ったが、映画化されて今月21日に公開されてるってわけか
私はもちろん旧訳版は持っているし、この機会に読んでみるかとも思ったのだが、どうせ新訳版が出たならそっちにしようと思って保留

そこで横綱土俵入りとして「ティンカー、テイラー」の代わりに初期代表作の「寒い国から」に御登場願おう
「寒い国から帰ってきたスパイ」は、本格っぽかった第1作目「死者にかかってきた電話」とはうってかわって直球王道のスパイ小説って感じだ
一応スマイリーは登場するのでシリーズ作品ではある
しかしこの作でのスマイリーは、決して狂言回し的役割ではなくまぁ重要な役では有るのだが、登場場面がそれ程多いわけでもなく明らかに主役になっていない
東西冷戦下の政治状況に翻弄される現場スパイの心理戦と悲哀を描いたこの作品は、一種のスピンオフ作という位置付けとも全く違う、言わば単発的作なんだと思う
ル・カレの代表作の1つなんだろうけど、スマイリーを中心に考えるのなら他の作も読む必要はあるんだろうな

No.3 7点 あびびび 2011/01/12 12:23
本格的なスパイ小説は初めてだったが、緊迫した場面が連続してなかなか楽しめた。

国と国との駆け引きは、スパイ同士の心理的葛藤となり、われわれ一般人には、別次元の世界に見える。当然そうであるべきだが、かといって、その苦悩が分からないわけではない。

これがベルリンの壁崩壊の前の話だから、余計に緊迫感が増す。

No.2 7点 kanamori 2010/07/19 17:12
東西冷戦時代のドイツを舞台にしたリアリズム・エスピオナージュの傑作。主役はある意味「ベルリンの壁」だろう。
読者サービスに徹したエンタテイメント小説とは対極に位置するような作品なので、重たい文章とシリアスなシーンの連続に、読了後ぐったり疲れてしまった。

No.1 8点 2009/08/07 20:46
冷戦時代の象徴だったベルリンの壁が崩壊して東西ドイツの統一化が始まってから、今年11月でちょうど20年になりますが、それよりさらに20年以上も前に書かれた本作では、その壁がラスト・シーンで非常に効果的に使われていて衝撃的かつ感動的です。
ル・カレの他の作品でも登場するジョージ・スマイリーが今回は完全に裏方に回って、プロットを支えています。政治的思想的な問題を「人間」の側から考えるテーマ性をもったシリアス・スパイ小説の傑作というだけでなく、知的なサスペンスを充分に備えたミステリでもあります。


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