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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ]
鏡の国の戦争
ジョージ・スマイリーシリーズ
ジョン・ル・カレ 出版月: 1965年12月 平均: 6.50点 書評数: 2件

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早川書房
1965年12月

早川書房
1980年06月

No.2 7点 クリスティ再読 2022/03/02 09:22
その昔「国家は幻想だ」といういい方が流行ったことがあるわけだけども、国家のために命を懸けて非合法活動をするスパイに向けて「国家は幻想だ!」と言い切った場合に、いったい何が起こるんだろうか?

本作で一番興味深い部分は、最終的に東ドイツに潜入する工作員ライザーの訓練プロセスそのものだ。バディに当たる立場でともに訓練を受ける若手のスパイ官僚エイヴリーを中心にこの作品が描かれるわけだけども、この訓練を通じて、ライザーの心理を巧妙に操作して「仲間意識」やら「一体感」やら「使命感」を醸成するのが、事実上エイヴリーの役割だったりする。このプロセスが丁寧に描けているのが、本作の一番の手柄のように感じる。
スパイ活動そのものは、実のところ検証可能なものですらない。「それが役に立つか?」という具体的な戦術的有効性以上に、当事者の「幻想」に支えられている、というのが、根本に横たわるどうしようもない事実なのだ。

しかし、そういう「幻想」に囚われた工作員を使って営まれる本作の「作戦」がとんでもなく愚かしい。作者の分身でもあるスマイリーは、その愚かしさを指摘して幕引きをするのだが、ではスマイリーに戦時体制そのままの古臭い作戦を批判する資格があるか?といえば、たとえば「寒い国から帰ってきたスパイ」での役回りを考えたら、単純にそうもいかない。本作でスマイリーを「いい子」にするのは、評者はためらわれるなぁ。
そこらを踏まえての評価になる。

No.1 6点 2020/10/10 12:41
『寒い国から帰ってきたスパイ』の次に書かれたル・カレの4作目には、引き続きスマイリーが脇役として登場します。ただし、前作ではスマイリーは事件の黒幕だったのに対し、本作ではほとんど傍観者的な立場です。それが最後には、主役たちが集まっているところに首を突っ込んできて、彼等に容赦のない現実をつきつける役割。この人、本作で「職を辞しては、また復帰するといった行動をくりかえしておる」と言われています。なるほど、デビュー作『使者にかかってきた』の後、彼はやはり一度辞任していたのですね。
で、その本筋に関わるのは、スマイリーの所属する外務省諜報部とは、いわばライバル関係にある陸軍情報局の連中です。最初の方に彼等の建物について「甘美な時代錯誤」という言葉が出てきますが、そのような感情を引きずっているがための悲惨な結末のブラック・コメディとも呼べそうな作品になっています。


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ジョン・ル・カレ
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