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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ]
スマイリーと仲間たち
スマイリー3部作
ジョン・ル・カレ 出版月: 1981年05月 平均: 9.00点 書評数: 2件

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早川書房
1981年05月

早川書房
1987年04月

No.2 8点 クリスティ再読 2018/09/16 17:14
スマイリー三部作というと、どうも「ティンカー、テイラー」「スクールボーイ閣下」だけがクローズアップされるきらいがあるけども、掉尾を飾る本作も前2作に負けないというか、勝ってる部分も結構ある名作だと思う。まあこの3部作、最初から読まないと面白みが薄いので、最後の本作に到達するまでが...はあるんだろうけども、これを読まないのはもったいない級の作品なのは間違いない。
基本は「ティンカー、テイラー」風の、スマイリーの行動中心の作品である。本作では被監視対象の亡命者「将軍」殺しを巡って、それが大事にならないように以前の担当者であるスマイリーに後始末を依頼する、というのが名目である。スマイリーは前作「スクールボーイ閣下」でウェスタビーの不始末の責任を取るかたちで引責して、引退状態なのを無理して再出馬するわけだ。だから「ティンカー、テイラー」以上に「孤独な戦い」を強いられる。もちろん、地味に関係者を回って話を聞いて...が主体なので、ほとんどハードボイルド私立探偵小説風の読み心地である。これがなかなか、いい。回る対象はほぼ昔の直接の配下や仲間たちなので、懐かしがる者もいれば、スパイ稼業に反発する家族を抱えていたりして、それぞれにそれぞれの人生感がある。元アレリン派で点灯屋のチーフだったヘスタエイスなんて、中東美術品バイヤーとしてそこそこ成功していて、過去のいきさつを蒸しかえすスマイリーに「ジョージ、いちどでいいからきいてくれ。たのむから、な、ジョージ。いちどだけでもおれにも説教のまねをさせてくれ」と引退スパイが「いまになってクレムリンめがけ騎兵隊最後の突撃かい」と年寄りの冷水なのを忠告するシーンが、情感ダダ漏れでいい。
結局スマイリーの調査はイギリス国内では済まなくなって、結局西ドイツで死体をみつけ、フランスで....と背景をスマイリーが把握したところで、スイスでの「スマイリー組」の作戦指揮になる。もちろん先程のヘスタイエスも昔取った杵柄でバックアップの点灯屋としてスマイリーを援護する。3部作の最後のなので、ちょっとした「同窓会効果」があって、うるっとくる。長らくお付き合いした甲斐があるというものだ。
作戦はカーラのプライベートの弱点を突くものなので、まあ言ってみれば「鉄の規律」対「人間の情」といった、わかりやすいあたりでまとめてある。前半の静と作戦の動、同窓会効果、結末と、エンタメのツボを押さえた職人的な面白小説、といったもの。グランフィナーレとしては上々。

あとねえ、三部作全体でみると、一番ヤな奴は政府の監視役のオリヴァー・レイコンだ。キラワレ者である曲者サム・コリンズがもう少し活躍してくれると評者はうれしかったんだが、本作ではただの提灯持ちでつまらない...「死者にかかかってきた電話」以来のお付き合いであるギラムくんの没個性は何とかならんか。

No.1 10点 2018/05/26 19:23
 文句無しの10点、というかミステリのマスターピースの一つでしょう。
 一般的には「寒い国から帰ってきたスパイ」、文学性の高い自伝的作品としては「パーフェクト・スパイ」ですが、最もエンターテイメントと筆力のバランスの取れた代表作と言えば「リトル・ドラマー・ガール」かいわゆる「スマイリー三部作」。
その棹尾を飾るのがこの作品です。
 主人公ジョージ・スマイリーの年が年ですのでどうしても辛気臭く、その点では壮年の工作員ジェリー・ウェスタビーを主役に据えた「スクールボーイ閣下」に劣りますが、読み易さは断然こっち。
 ただまあ功績無視の上引退した身を再三再四引っ張り出され(三部作都合二回目)、度々後始末を押し付けられるとなれば彼の愛国心も冷めようというものです。おまけに年齢はとうに70才を越えています。
 元亡命者殺害事件の処理を依頼され気乗りしないスマイリーでしたが、失脚後の亡命者たちのあしらい、加えて公私含めた現役時代の宿敵・KGB第十三局局長カーラの名前が出るにつけ俄然様相が変わってきます。
私立探偵もどきにロンドン、東ベルリン、パリ、ジュネーヴと、全ヨーロッパを舞台に追跡を続けるうちに徐々に姿を現すカーラの秘密、そして失われる命。
 ラストは冷戦を象徴するベルリンの壁を跨いでの、人生最後の賭け。
その時スマイリーの胸をよぎる思いは果たして何だったのか?
 丹念かつ重厚な筆致で決して読み易いとは言えない作品ですが、できれば三部作通して読んでほしいと思います。


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