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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ]
スクールボーイ閣下
スマイリー3部作
ジョン・ル・カレ 出版月: 1979年07月 平均: 7.00点 書評数: 3件

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早川書房
1979年07月

早川書房
1987年01月

No.3 8点 2018/10/11 22:27
 宿敵であるKGB第十三局局長カーラの操る工作員「もぐら」によって壊滅的な打撃を受けた英国情報部〈サーカス〉。新たなチーフに就任したジョージ・スマイリーは、「もぐら」に揉み消された事案を丹念に精査することによりカーラに痛撃を与え、情報部を再建しようとする。そして浮かび上がったのは英国領香港に伸びるKGBの巨額送金ルートだった。
 諜報世界の常識を越えた途方もない大金でカーラは何を狙っているのか?それを探る為、スマイリーは「高貴なる小学生」臨時工作員ジェリー・ウェスタビーを現地に派遣する。雑誌記者でもあるジェリーは送金口座の主である香港の大実業家、ドレイク・コウに接触するが・・・。
 スマイリー三部作の中核を成す巨編。第一部「時計のネジを巻くとき」第二部「木を揺さぶるとき」の二部構成です。前半の種蒔き部分はスマイリー主体、後半の活動部分はジェリー主体。
 まず「逆遡行」というアイデアが秀逸。組織を掌握しマズい事案を全て握り潰したことが、逆に己の弱点を曝け出す事になってしまうという反転劇。言われてみれば当然至極なので、完璧に叩き潰された筈のサーカス側が一転反撃という展開にまったく無理がありません。コロンブスの卵ですね。
 第一部はこのへんの過程が丹念に描かれます。特に第一章と第二章はそれだけで独立した短編小説になるくらい完成度が高い。展開は遅いですがすこぶる面白かったです。
 それに比べるとジェリー主役の第二部は少々雑かなあ。勢いに任せた部分があるというか。リジーとの恋愛部分がどうもピンと来ませんでした。そこまで入れ込むほどの魅力は無いような気がするんですよね。一部二章は好きなんですけど。
 ラブスト-リーのみを主因に話を進めるのはル・カレの柄ではないと思います。唯一書いた恋愛小説も盛大にコケてたみたいだし、この作品でも「白馬の騎士(ギャラハッド)」とかちょっと。アンに未練を残したスマイリーが侘しく彷徨うとか、クロウ老人が父性愛を見せながら工作員からさりげなく、本当にさりげなく情報を引き出すとかの方がやっぱり好き。
 色々不満もありますが一部が地味な分二部は名シーン連発ですね。ジェリーがインドシナ半島から撤退するアメリカ軍将校と邂逅するとことか。ここでアメリカが大きく失点したことがラストの苦い展開に繋がっています。「こんなのあり?」って結末ですけど。
 10点満点から2点引いて8点。マイナスはダレた所や恋愛面など、主に二部関連です。

No.2 5点 クリスティ再読 2018/08/23 22:40
スマイリー三部作の「中」にあたる本作は、一番長いが、一番動きがある作品である。「ティンカー・テイラー」が動きがすくない地味な作品で、退屈か...といえばそうじゃなくて、抑えたサスペンスのいい作品だったのだがね。と歯切れの悪い書き方をしているのは、今回再読してどうも本作は気に入らない、のだ。
というのはね、本作の「動」の部分をベトナム戦争が担っているわけだが、本作でのベトナム戦争は、動乱の中に消えた男を、危険を犯して「スクールボーイ閣下」ウェスタビーが追いかける、という「背景」に使われているだけなんだな。どんな紛争でもベトナム戦争のかわりになっちゃうんだろう。ル・カレというと、イギリス帝国主義の尻ぬぐい役としての秘密情報部自体の役割について、大して懐疑的ではないために、ベトナム戦争、とは言っても「欧米人の植民地主義的な見方」を抜け出た視点があるわけではない。ここらを問題化したポスト・コロニアルと呼ばれる文芸批評のスタイルがあるんだが、一世代上のアンブラーやグリーンがなかなかイイ線行ってるように思えるのに対して、保守的なル・カレは「最後の植民地主義者」みたいなもので、後退しているようにしか思えないなあ。
大きな視点を欠いているので、大英帝国主義を担った「honorable」である主人公ウェスタビーの暴走が、何か身勝手なものにしか見えないのが弱いところ。本作の緻密な描写はこういう動きのある事件描写の、ダイナミズムを妨げる方向にしか働いていないようだ。というわけで、本作の発表当時の高評価は、ベトナム戦争が「リアル」だった時代の空気の共有感で成立したものなのだろう。
いい部分は秘密情報部vs他官庁&CIAとの権力闘争にリアリティがあるあたり。ここらはスマイリーの主観描写がなくてギラムの推測で書かれているので、今一つ真意が見えづらいのが難。
結論:本作は古びてる、と思う。残念。

No.1 8点 kanamori 2010/04/14 20:50
英国情報部<サーカス>のスマイリーとソ連の工作指揮官カーラとの諜報戦を描いた<スマイリー3部作>の第2作。
前作で二重スパイ<モグラ>によって壊滅的打撃を受けた英国情報部は、カーラの資金移動のルートを叩くべく反撃に出る。
3部作の2作目となるとつなぎの物語と思われがちですが、前作の重くて暗い動きの少ない物語に対して、今作は東南アジアとロンドンを舞台に壮大なエンタテイメントに仕上がっています。準主人公の<スクールボーイ>こと臨時工作員ウェスタビーの役割もそれに寄与していて、3部作では一番面白い。
といっても、人物、情景の書き込みぶりは尋常ではないし、リアリズムを追求した地味なエスピオナージには変わりないので、読むのに相当の覚悟が必要です。


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