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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ]
ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ
スマイリー3部作
ジョン・ル・カレ 出版月: 1975年01月 平均: 7.50点 書評数: 2件

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早川書房
1975年01月

早川書房
1975年01月

早川書房
1986年11月

早川書房
2012年03月

No.2 7点 クリスティ再読 2018/06/13 08:34
ル・カレは今年のテーマのひとつなんだが、ちょっと思いついた企画で本作と「ヒューマン・ファクター」と「1984年」を連続して読んで比較しようと思う。「二重スパイは何を裏切るか?」というのがテーマだね。
ル・カレって評者はある意味「厄介な巨匠」だと思うんだ。影響力と重厚さでリアル・スパイ小説のカテゴリーキラーな作家なのだが、改めて読むと小説としてはアンブラーみたいなアイロニカルな「うまさ」はないし、文芸か、というとグリーンほど突っ込めていなくて、イイ部分は結構ベタなエンタメの部分だったりもする。しかしル・カレ特有の「くどい」描写が、「日常のあらゆるデテールを、敵・味方のシグナルとして解釈せざるをえない職業スパイの不安な心理」を如実に示す必然性があって、「読みづらさに意味がある」小説だったりするわけだ。
でもちろん「ル・カレといえば」なテーマとしての「公務員スパイの硬直的な官僚性批判」というオリジナルなネタがあって、実はこれが「スパイも俺も同じじゃないか」とサラリーマン層にウケる要素でもあったわけだ...で本作に限っていえば「スパイとしての挫折」と「負け組のリベンジ」という「エンタメとして狙ったね」という感じのストーリーラインが売りになる。

だから、おれはそうしているんだ、命令に従って、忘れているんだ!

と負け組スパイはスマイリーの再調査で悲鳴を上げる。官僚組織の頽廃と硬直性を印象的に示すとともに、キャリアの上での「挫折」に共感する、という大きな見せ場である。
また本作は、スマイリー三部作の「敵手」としてのカーラの造形が、いい。スマイリーが回想の中で、一度だけ対面したカーラの独特の平静さが、尋問する/されるの力学を逆転してスマイリー自身を追い詰めるのが、極めて印象的。三部作としてのキモはこの部分だろう。
本作の「もぐら」はもちろんキム・フィルビーをモデルにしている。隠された同性愛や30年代のイギリスのインテリの間でのソ連への共感といった要素はもちろんフィルビーのものを転用しているわけなのだが...これが正体が露見したあとではどうも取ってつけたようだ。またスマイリー自身の愛情をネタにした部分も、単なる偽装であって、意外なくらいに深みに欠けている。同性愛と左翼シンパシーの問題は、フィルビーから見て20歳も年下のル・カレでは、手に余ったような雰囲気もある。国家を前提としたモラリスティックな批判しか、ル・カレはできないようだ。ここらを突っ込めるのは、グレアム・グリーンの「ヒューマン・ファクター」を措いてない。

余談:フィルビーと同性愛の話は、海野弘の「ホモセクシャルの世界史」が詳しい。やはり「世代」をキーワードにして戦間期を青春とした「太陽の子たち」と呼んでいる。

No.1 8点 mini 2014/01/07 09:54
* 今朝は寒~~~(((((´゚ω゚`)))))

寒いと言えば「寒い国から帰ってきたスパイ」
発売中の早川ミステリマガジン2月号の特集は”ジョン・ル・カレ”
昨年12月に早川から刊行された「誰よりも狙われた男」の宣伝も兼ねてだろうね

「寒い国から」はル・カレの最高傑作の1つだろうけど、私は代表作とは思わない
「寒い国から」は文章はともかく内容的にはよくあるタイプの普通のスパイ小説であり、他の作家でも書けなくはないなと思うからね
もう一つの理由は作者には一般的に代表作と目されるシリーズが有るからだ、もちろんスマイリー3部作である
その3部作の第1弾が「ティンカー、テイラー」だ
一昨年は映画化公開もされ早川から新訳版も刊行された
「ティンカー、テイラー」の旧訳はフランシスで御馴染みの菊池光だったのだが、新訳版では3部作の他の2作と同じ翻訳者になり、3部作全てが同一の訳者に統一された事になる

「ティンカー、テイラー」は「寒い国から」と異なる印象が有るのは、「寒い国から」には欠けていた官僚組織という問題意識が強く有るからである
要するに”諜報局”とは言っても所詮は官僚機構の中に組み込まれた存在であり、そこで働く職員は一種の国家公務員なのだ
「ティンカー、テイラー」にはそうしたテーマ性が濃厚に表れており、「寒い国から」とは違うスパイ小説の進化系なのである
これはもう実際に元諜報局員の経歴を持つル・カレでなくては書けないタイプのスパイ小説だろう
舞台設定の大半がロンドン市内に限定されるという動きの少なさが難だが、地味好きな私としてはこういうものを評価出来る書評者で有りたいと思えるそんな作品である


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