皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
黄金の13/現代篇 エラリー・クイーン編 |
|||
---|---|---|---|
アンソロジー(海外編集者) | 出版月: 1979年11月 | 平均: 7.50点 | 書評数: 2件 |
画像がありません。 早川書房 1979年11月 |
No.2 | 7点 | 蟷螂の斧 | 2020/07/17 17:26 |
---|---|---|---|
①「戦士の星」マンリイ・ウェイド・ウェルマン 6点 民族の歌を得ようと、3人の歌手に近づき殺された艶女。インディアンの風習が決め手?
②「名探偵、合衆国大統領」H・F・ハード 8点 北極の氷が溶け、領土が狭くなることを懸念する大統領。彼のとった戦略は?SF的であるが発想が面白い。 ③「裁きに数字なし」アルフレッド・セグレ 4点 賭け事と首なし死体の取り合わせだが意味不明の小説。これが年間のベスト? ④「幸福なるかな、柔和なる者」ジョルジュ・シムノン 8点 懸賞金付き殺人事件。主人公は犯人を知るが、証拠を示せないので焦るのだが。 ⑤「パリから来た紳士」ジョン・ディクスン・カー 6点 遺言状の隠し場所をのん兵衛が推理する。 ⑥「敵」シャーロット・アームストロング 7点 子供たちが犬が毒殺されたと騒いでいる。その顛末は? ⑦「アデスタを吹く冷たい風」トマス・フラナガン 5点 別途書評済み ⑧「追うものと追われるもの」スティーヴ・フレイジー 5点 森へ逃げ込んだ脱獄囚を捜索隊が追う。捜査隊の一人は囚人を狩ることしか頭にない男。 ⑨「二重像」ロイ・ヴィガーズ 8点 夫とそっくりな人物が現れた。夫は双子であるが、片方は死んでいるという・・・。 ⑩「決断の時」スタンリイ・エリン 9点 自信家ヒューの前に引退した奇術師が現れる。ヒューは彼に挑戦状(賭け)を突きつける・・・。リドル・ストーリー。表面上は負け、実質は勝ちという結末を大発見(笑) ⑪「黒い小猫」A・H・Z・カー 6点 愛娘が飼っている猫を誤って殺してしまったやもめの牧師の心情。ミステリーか? ⑫「物は証言できない」エイヴラム・デイヴイッドスン 5点 奴隷に証言を求めるが・・・。 ⑬「一滴の血」コーネル・ウールリッチ 9点 本短篇集のマイベスト。完全犯罪のはずが・・・。短篇「砂時計の伝言」(法月綸太郎)は本作のオマージュ。 |
No.1 | 8点 | Tetchy | 2013/05/03 23:00 |
---|---|---|---|
エラリイ・クイーンズ・ミステリ・マガジン誌上で1945年から1956年までの12年間で年1回行われたミステリ短編コンテストで選出された短編を集めたまさに珠玉のアンソロジー。つまりその年の“トップ・オヴ・ザ・トップス”というわけだ。これは期待が高まるのも無理はない。
その公募はアメリカ本土のみならず、世界中に向けて発信されており、ヨーロッパはもとよりオセアニア、アジア圏から毎年多数の応募があったらしい。そして毎年送られてくる800前後の短編の中からのベスト・オヴ・ベストを選ぶ作業の厳しさと大変さも書かれているが、正直このような極限状態ではもはや正当な判断が出来なくなり、ちょっと変わった物が珠玉の輝きを放ち出す。 またエラリイ・クイーンが選出に関わっているとは云え、本書に収録されている作品はロジックやトリックが優れているというわけではなく、むしろ人間ドラマとしてのミステリが非常に多いと感じた。どちらかと云えばキャラクターの設定の妙や選者たちにとって未知の世界への好奇心、またそれぞれの作者が放つ隠れたメッセージの強さといったミステリ以外のプラスアルファが含まれている作品が傾向として選ばれているように思えた。 これらの作品が選ばれたのは1945年から1956年の12年間と5年後の1961年。つまりこの頃のクイーン作品と云えばライツヴィル物の『フォックス家の殺人』から『クイーン警視自身の事件』、そして1961年は1958年の『最後の一撃』の後、2年の沈黙を経て代作者によって発表された『二百万ドルの死者』に至る。まさに作品の傾向はパズラーから人の心へと踏み込んだロジック、探偵存在の意義について問い続けた頃に合致する。それ故選ばれた作品は上に書いたように物語の強さを感じる物ばかりなのかと得心した。 本書における個人的ベストはH・F・ハードの「名探偵、合衆国大統領」、シャーロット・アームストロングの「敵」、ロイ・ヴィガーズの「二重像」、スタンリイ・エリンの「決断の時」、A・H・Z・カーの「黒い小猫」。特に後半に行けばいくほどその充実ぶり、内容の濃さと行間から立ち上る凄みのような物が感じられる作品が多く、尻上がりで評価は高くなった。 正直クイーンのアンソロジーには期待値だけが高く、肩透かしを食らうことが多かった。増してや本書には「黄金」という仰々しい煽り文句が冠せられるため、一層身構えるような気持ちで臨んだが、予想に反して実に濃い作品が選出された粒揃いの作品が多かったのは嬉しい誤算だった。 また本書に収められた作品の中には現在入手困難な物もあるし、既にミステリ史に埋没してしまった傑作もある(特に「名探偵、合衆国大統領」)。そんな埋もれつつある傑作・佳作を現代に遺す歴史的価値も含めて評価したい。 |