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[ 本格/新本格 ]
メルカトルと美袋のための殺人
メルカトル鮎シリーズ
麻耶雄嵩 出版月: 1997年06月 平均: 7.17点 書評数: 42件

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講談社
1997年06月

講談社
2000年08月

集英社
2011年08月

No.42 7点 パメル 2024/07/25 19:30
自分の身はさておき、他人に乱暴したり、見捨てたりすることは決して厭わないという性格の名探偵・メルカトル。本書における最大の犠牲者は事件の被害者ではなく、ワトソン役を務める友人のミステリ作家・美袋にほかならない。そんなメルカトルが名探偵としての才能をいかんなく発揮した7編からなる連作短編集。
「遠くで瑠璃島の啼く声が聞こえる」別荘で起こった密室殺人。美袋が事件に巻き込まれ、自分にかかった疑いを晴らそうとメルカトルに救いを求めるが。美袋は探偵を読者と同じ地位に押し込めてフーダニットを競わせる。本格ものとして秀でている点は、その先にあるホワイダニット。
「化粧した男の冒険」ペンションの一室で刺殺された男の顔に、なぜか化粧が施されていた。メルカトルの相変わらず突拍子もない物証の提示には良い意味で唖然とさせられた。
「小人閒居為不善」退屈したメルカトルは、財産絡みで殺されそうな老人ばかりを選りすぐり、探偵事務所のPRダイレクトメールを送り付ける。まさにホームズ譚を思わせる結構。あきらめの良すぎる依頼人と対峙するメルカトルの知略が冴え渡る。非人道的なやり口が楽しめる。
「水難」メルカトルと美袋が泊まった民宿は、10年前に起きた土砂崩れで死んだ少女の幽霊が出るという。少女にまつわる因縁の物語。トリックは大したことなく、意外性もない。
「ノスタルジア」いわゆる雪密室の離れで、さらに密室殺人が企てられる。メルカトルが暇つぶしに書き上げたという犯人当ての小説が、作中作ではめ込まれ、美袋は二重密室の謎に挑む。ワトソン役の美袋が、探偵の解明にアンフェアだと文句をつけるくだりが堪らない。
「彷徨える美袋」大学時代の友人から美袋に送られてきたシガレットケース。その直後、彼は何者かに拉致されてしまう。犯人の陥穽にはめられた美袋が殺人の容疑を掛けられる。美袋はメルカトルに翻弄されっぱなし。メルカトルの性格の悪さが本領発揮している。
「シベリア急行西へ」雪原を走る列車内で発生した射殺事件をめぐるパズラー。利き腕をめぐる消去法は手垢のついたものだが、偽の犯人を動かす手並みは鮮やか。

No.41 6点 じきる 2021/03/21 15:20
メルカトルのブラックさを味わえる、この作者らしい風変わりな趣向の短編集。

No.40 7点 虫暮部 2020/08/27 13:54
 ミステリのスタイルやルールを“どのように”扱うか、と言うメタ的興味が麻耶雄嵩作品のキモであるが、核になる事件自体は割と正統的な(≒今読むとややしょぼい)フーダニットに思える。そのせいで“地味な短編に奇妙な味のエンディングが付いている”だけのように見えてしまうところがあって損だな~。やっていることを考えるともうちょっと感じるものがあってもいいところ。
 「遠くで瑠璃鳥の啼く声が聞こえる」は非常にエクセレント。
 「ノスタルジア」の “A≠A´ (を呼び方と絡めるトリック)”は他の短編で再利用していて、使い方としてはそちらの方が思い切りが良い。その点がちょっと微妙。

No.39 7点 レッドキング 2020/01/06 21:38
・「遠くで瑠璃鳥の啼く声が聴こえる」 虚偽の欠片もない「明晰」な記憶。一点の曇りもない誠心誠意の愛情。第一人称の証言者の「まごころ」がどんなに真剣なものであろうと、情け容赦もなくそのカラクリを暴き立てて行くシニカル極まりない探偵。7点

・「ノスタルジア」  ➀二重密室のロジック・・外壁のみの密室内に凶器が残っていれば自殺が疑われ、残っていなければ壁内にいたAに疑いがかかる。が、外壁の中に内壁もあり、Aがその外にいた場合には、他の何者かによる密室偽装の可能性が生じて、外壁内・内壁外にいたAへの疑いは相対化する・・眩暈を誘うようなロジック。 ➁「翼ある闇」「夏と冬の奏鳴曲」と併せて麻耶三大バカミストリック。いやそれ以上に「衣裳戸棚の女」「くたばれ健康法」にも比すべき素晴らしいトンデモトリック。 ➂メルカトル曰く「A=C、A'=B、B≠C、よってA≠A'・・」「すなわち、『自殺したA』と『自殺させたA'』は別人であり、これは自殺ではなく殺人である・・」作中作とは言え驚くべきトンデモロジックに脱帽(かつ脱力)。あまりに贅沢な伏線と叙述トリックまで有効に決まって・・9~10点

・「シベリア急行西へ」 ニセ手掛かりのロジック・・「『容疑を避ける為のニセ手掛かりを仕掛けるA』の偽装に見せかける為のニセ手掛かりを仕掛けるB」・・眩暈を越えて卒倒を誘うようなロジック。狂言にまで昇りつめたナンセンスに至る程のロジック。この極端さこそ麻耶雄嵩の醍醐味。7点

その他 「化粧した男の冒険」4点 「小人閑居為不善」4点 「水難」3点 「彷徨える美袋」3点
※以前、「遠くで瑠璃鳥の啼く声が聴こえる」だけを単独で採点しましたが、削除し、皆さんに倣って作品集としてあらためて登録しました。全体・・平均ではなく・・で7点。

No.38 7点 まさむね 2017/01/06 22:38
 銘探偵・メルカトル鮎の“やり口”は終始一貫しているものの、個々の短編は実にバラエティに富んでいます。意外にも(?)正統派の短編も多かったですね。
 そんな中、メルカトルが書いた犯人当て小説に美袋に挑む「ノスタルジア」が、設定の意外性もあって良かったかな。それと、これはアリなのか否かを含め、様々な点で考えさせられる「遠くで瑠璃鳥の啼く声が聞こえる」も印象には残りそうかな。(評価は相当に分かれると思いますが…)

No.37 8点 青い車 2016/10/26 17:11
 『遠くで瑠璃鳥の啼く声が聞こえる』をベストに挙げる人も多いですが、僕はあまり感心しませんでした。そんなのアリかよ、という気持ちが、ぶっ飛んでるけど面白い、に勝ってしまいました。むしろメルカトルが私立探偵もののパターンを壊して見せたり、限りなくアンフェア寄りの犯人当て小説を書いてみたり、といった他の作品の方が捻りとして好きです。
 あと、あまり話題にならない『シベリア急行西へ』を個人的に推します。ストレートな論理展開が好みで、かつそれを麻耶雄嵩が書いた、ということに貴重さを感じるからです。メルの強烈なキャラを楽しみたい人には物足りないでしょうが、作者には単発でいいのでこういうのをもっと書いてほしいです。

No.36 8点 風桜青紫 2015/12/29 06:02
一作目の『遠くで瑠璃鳥の啼く声が聞こえる』がとんでもない破壊力。だってこのトリック、いろいろとタブーじゃないの。それらしい伏線はかなり露骨にあるんだが、それを無理矢理に納得させてしまうメルカトルの推理と、そこからくる世界観の崩壊がどえらい。メルカトルと美袋くんのゲスいキャラクターを確立したという点でも、ぶっちゃけ麻耶雄嵩の全作品中でこの短編がベストじゃないかと思う。メタ視点を子憎たらしく利用した『ノスタルジア』や、探偵役のキャラクター性を存分に使った『小人閑居為不善』もなかなか。作者の遊び心がなんとも面白いわけです。

No.35 5点 ayulifeman 2014/10/27 07:20
違う作品でメルカトルさんが出てきた作品を読みましたが、なんだかよくわからない人という印象でした。今回この作品を読んでみて嫌な感じの性格だと分かりました。難しい文体の作品もあったりで全部をちゃんとは読めませんでしたがまあ楽しかったです。

No.34 7点 ボナンザ 2014/09/23 18:07
相も変わらずの鬼畜ぶりを発揮するメルカトルと不幸な相方美袋の驚異的な短編集。同系列の短編集は数多くあるが、有象無象とはレベルが違う発想と容赦のなさ。

No.33 7点 いいちこ 2014/09/19 19:55
例によってミステリや名探偵のコードをことごとく打ち破る銘探偵のあり様が見事で、一筋縄ではいかない作品群。
白眉は「遠くで瑠璃鳥の啼く声が聞こえる」。
●●オチという決して褒められない「信頼できない語り手」ネタを斬新な形で使用しつつ、説得力を持たせ、アクロバティックな解決に導く剛腕に脱帽。

No.32 7点 アイス・コーヒー 2014/04/14 18:36
悪徳銘探偵メルカトル鮎が、ワトソン役の美袋三条を引き連れてひたすら暴れる短編集。メルは自らを「長編に向かない探偵(天才すぎて長編のように推理を引っ張ることが出来ない)」と称しているが…。

メルが書いた犯人当て小説の顛末を描く「ノスタルジア」が群を抜いていたように思う。メルカトル的とでもいうべきか、メタミステリの色が濃く、尚且つ本格の論理を皮肉った問題作である。ラストの「これでもか」というほどのどんでん返しは、一見の価値がある。
それ以外にも灰汁が強い(ブラックな)ストーリーが多いが、一方で論理がよく出来ていることには感心させられた。「シベリア急行、西へ」などは、疑問点が残る結末ではあるが、直球勝負だといえる。
そして、本作最大のテーマはメルと美袋の特殊な関係だろう。『翼ある闇』で登場する、木更津×香月の奇妙なホームズとワトソンの前例はあるが、メルと美袋の関係も独特で異常だ。メルカトルに散々な目にあわされ、挙句の果て殺意まで抱くようになる美袋だが、結局はメルに頼らなくてはならなくなる。一方のメルは、全知を自称しその内面は全く謎に包まれている。彼らの関係は、一体どうなるのだろうか?
総合的に満足な作品だった。

No.31 6点 STAR 2012/10/31 14:34
おもしろいと思ったのは、③と⑦でした。
①「遠くで瑠璃鳥の鳴く声が聞こえる」:他の方のコメントからすると、けっこう高評価?私はこれはちょっと…。何故美袋が佑美子に突然惚れたのか?という問題があるが、リアリティに欠けるかなと。
②「化粧した男の冒険」:早く帰りたいので、早く解決したいというおかしな設定はおもしろいです。
③「小人閑居為不善」:島田氏の探偵御手洗に似ています。でも流れはちゃんとしているし、おもしろかったです。
④「水難」:殺人が成立するか運によるところもあると思うし、幽霊は出てくるし…で、いまいち。
⑤「ノスタルジア」:メカルトが原稿を書くという珍しい設定。
⑥「彷徨える美袋」: 良くも悪くもあまり印象に残っていない。
⑦「シベリア急行西へ」:ロジックがちゃんとしているので、おもしろかったです。

No.30 6点 mozart 2012/10/27 21:04
今更ですが、メルカトル鮎シリーズの作品を初めて読みました。どれも話は良くできていて、それなりに納得させられるものが殆どでしたが(幽霊はちょっとアレでしたが)、自分としては、この探偵との相性は余り良くないようです。癖のあるキャラクターは良いとしても、ちょっとブラック過ぎの(一線を越えている)ような・・・。

No.29 5点 simo10 2012/02/13 23:59
講談社にて絶版されていた麻耶氏の作品の一つが集英社で復刊となっているのを本屋で発見し、すぐ購入しました。隻眼の少女でダブル受賞したのが効いたかな。(集英社さんありがとう!他の作品も何卒よろしくお願いします!)
本書は探偵メルカトル鮎、ワトスン役の美袋(みなぎ)が活躍する7つの短編で構成されています。

①「遠くで瑠璃鳥の鳴く声が聞こえる」:何故美袋が佑美子に突然惚れたのか?という一風変わったワイダニット形式が印象的。
②「化粧した男の冒険」:ワイダニットもの。「木は森の中に隠せ」の典型です。ラストの美袋のセリフが真相かもしれないブラックなところが著者らしい。
③「小人閑居為不善」:安楽椅子探偵もの。依頼人の武装がやや甘いのが気になったが展開は面白かった。ここでのメルカトルは初期の御手洗に凄く似ていると思いました。
④「水難」:事件のインパクトは薄いわ、幽霊は出てくるわで、いまいち。
⑤「ノスタルジア」:メルカトル著の何とも怪しげなフーダニット作品。ヒントは提示されてはいるものの、その隠し方は巧妙というより卑怯。見事に意地悪に仕上がっており、割り切って楽しめます。
⑥「彷徨える美袋」:メルカトルの黒さ以外はインパクト薄し。
⑦「シベリア急行西へ」:フーダニットもの。ロジックは見事で読者への挑戦状でも欲しかったところ。死兆星には笑った。

メルカトルの短編集とあって、さすがに風変わりな作品が多いものの、ミステリの体裁は整えられてはいます。この作風とメルカトルの悪業を受け入れられるかどうかの差は大きいと思います。個人的には③が好きで、①⑤⑦がまあまあ、②④⑥がいまいちでした。

No.28 7点 E-BANKER 2012/02/01 22:00
銘探偵・メルカトル鮎登場の作品集第1弾。
メルカトルのキャラはかなり強烈でブッ飛んでますが、プロットそのものは短編らしい作品が並んでます。

①「遠くで瑠璃鳥の啼く声が聞こえる」=密室トリックとアリバイトリックの融合自体は「よくある手」ですが、まさか「○○学習」がトリックの鍵になっているとはねぇー。そういやぁ、むかし、雑誌の巻末広告なんかでよく見たよな・・・
②「化粧した男の冒険」=「木は森に隠せ」とはブラウン神父から脈々と受け継がれているトリックの1つですが、本作もいわばその変形(メルカトルもそう言ってますが・・・)。これは、非常にシンプルなプロット。
③「小人間居為不善」=メルカトルが自身の探偵事務所に事件を呼び寄せるために出したDM(ダイレクトメール)。それに掛かった1人の富豪が、彼に身辺の警備を依頼しますが、実は・・・という流れ。これはプロットからして面白い。
④「水難」=ちょっとオカルトめいた作品だし、トリックそのものはなかなか大掛かり。ただ、事件現場の状況が美袋らの説明だけではやや分かりにくいのが難。真犯人特定のロジックはいいと思うが・・・
⑤「ノスタルジア」=メルカトルが「犯人当て小説」を書き、美袋に挑戦するという変わったプロット。まぁ、メルカトルが小説を書くという時点で普通じゃないわけで、やっぱり真相も普通じゃなかった。
⑥「彷徨える美袋」=学生時代の友人を巡った事件に巻き込まれ、殺人犯の疑いをかけられてしまう美袋。当然ながら、メルカトルに真相究明を依頼するわけですが、真相はとんでもないことに・・・
⑦「シベリア急行西へ」=これも珍しい。シベリア鉄道の列車の中で発生する殺人事件って、まさかトラベルミステリー(!?) これも一種の密室を取り扱っているが、トリックそのものはよくある手だと思う。

以上7編。
最初にも書いたように、キャラの奇天烈さ以外は、実に正調なミステリー短編作品と言っていい。
ロジックもシンプルだが、よく効いてる作品が多く、作者のミステリー作家としての資質&力量が推察できる。
まぁ、長編ほどのクドさがないので、逆に「麻耶キチ」(そんな言葉あるのだろうか?)にとっては物足りないのかもしれないが・・・
(①~④はどれも水準以上。逆に⑤~⑦は水準以下のように感じた)

No.27 6点 HORNET 2011/12/03 21:56
 嫌味で子憎たらしいメルの推理も筋道だってきちんとしており、ミステリとしての質は高いが、「水難」のように超科学的な要素や偶然がからむこともある点では好みが分かれるかも。メルと美袋の決して友好的とはいえない関係も同じく。私も推理は楽しめたが、メルの非人道的な価値観にはちょっとついていけない感じも受け、必ずしも読後感がよいものばかりではなかった。

No.26 10点 黒い夢 2011/10/18 08:42
すべての短編が非常によくできていました。それだけでなくひとつひとつのアクが強く、とても独特な仕上がりでした。これも銘探偵メルカトルならではだと思います。「瑠璃鳥~」と「水難」が特にお気に入りです。

No.25 8点 3880403 2011/05/12 14:54
短編集なのでメルカトルがすぐ出てきて良い。
メルと美袋のキャラがたっていて面白い。

No.24 6点 りゅう 2011/02/27 07:38
 人を人とも思わぬ、傲岸不遜な銘探偵メルカトル鮎と、メルカトルに翻弄される推理作家美袋の物語。メルカトルの推理は、薄弱な根拠に基づいて組み立てられた唐突なもので、説明を聞いてもなるほどと思うところはほとんどありません(笑)。この作品は、謎解きよりもメルカトルの非常識な言動を楽しむものなのでしょう。意外性は、真相よりもメルカトルの行為の方にあります。説明不足なところが多々ありますが、辻褄を合わせることなんて、作者はさらさら考えていないのでしょう。
「遠くで瑠璃鳥の啼く声が聞こえる」
 メルカトルはどうやって竜神像の場所を知ったのでしょうか。
「化粧した男の冒険」
 メルカトルはどうやって犯人のルージュを手に入れたのでしょうか。
「ノスタルジア」
 メルカトルが推理小説を書き、美袋に謎解きを求めます。2つの密室で構成されており、犯人の捻りもある真っ当なミステリなのですが、美袋は作中で「ふざけた原稿」だと言っています。まさにそのとおりでしょう。
「彷徨える美袋」
 メルカトルはどうして将来に起こることが神のようにわかるのでしょうか。
「シベリア急行西へ」
 珍しく、クイーンばりのロジックを前面に出した作品です。被害者のある特徴を推理し、それから犯人を特定するロジックはなかなかのものです。メルカトルは犯行時刻を1時間の幅で特定していますが、どうしてそんなことが出来たのでしょうか。

No.23 10点 isurrender 2009/07/22 01:50
メルカトルが最高にイイ味出してました


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