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[ ホラー ]
黒い家
貴志祐介 出版月: 1997年06月 平均: 7.22点 書評数: 45件

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角川書店
1997年06月

角川書店
1998年12月

No.45 6点 E-BANKER 2020/08/10 18:23
もともとはホラー作品からデビューした作者。
なかでも代表作と言っていい作品が、第4回の日本ホラー小説大賞を受賞した本作だろう。
1997年の発表。

~若槻慎二は生命保険会社の京都支社で保険金の支払い査定に忙殺されていた。ある日、顧客の家に呼び出され子供の首吊り死体の第一発見者になってしまう。程なく死亡保険金が請求されるが、顧客の不審な態度から他殺を確信していた若槻は、独自調査に乗り出す。信じられない悪夢が待ち受けていることも知らずに・・・。恐怖の連続、桁外れのサスペンス。読者を未だはてない戦慄の境地へと導く衝撃のノンストップ長編~

とにかくこえーよ! “菰田幸子”!!
二度に渡って長包丁を振り回され追いかけられることになった主人公の若槻。
保険会社の社員もまさに命懸け。しかもラストには更なる恐怖が!っていうオマケ付き。
いやいや、作者も人が悪いねぇ・・・

どちらかというと、「ホラー」というよりは「サイコ・サスペンス」という色合いが強いと感じた。
”菰田幸子”なんて典型的な「サイコパス」だろうし、心理学でいう「人としても感情を持ち合わせていない」人間として描かれている。
一番ゾーッとしたのは、殺人のために手段を選ばないこと。とにかく、狙った獲物に対しては目的(=殺人)を達するまで何時間でも我慢できるという忍耐力。まさに人間として生まれ持ってるはずの「良心」というものの欠片も持っていないということだろう。

ということで、どうしても話の筋よりも、”菰田幸子”のキャラの方に目が行ってしまう本作。
でも、さすがに貴志祐介。デビュー当初から緻密に計算されたプロットは健在。
「保険金略取」という身近なテーマとホラーを見事に融合させている。
でも、確かに「保険金」って「人間の死」と密接に関係しているんだよな。そう考えると、人間の体或いは存在そのものを「金」に変えるシステムと言えないこともない。
実際いるんだろうな、”菰田幸子”みたいな奴。おお怖っ!!

No.44 8点 HORNET 2020/07/18 20:16
 事件の黒幕についてはかなり前の段階で想像がついていた。しかし、それがじわじわと明らかになっていく様を丁寧な筆致で描き進めている展開はスリルがあり、真犯人の迫りくる異常性を描くホラー作品として非常に秀逸だった。
 生命保険会社に勤務する主人公の生活や業務の描写もしっかりしていて、日常に根を下ろした舞台で恐怖を描いているところもよかった。
 各場面の描写が、視覚、聴覚だけでなく嗅覚に訴えてくるところが非常に強く、作者の基底にある筆力が作品を支えていると感じた。

No.43 8点 Tetchy 2020/06/18 23:45
第4回日本ホラー大賞受賞作で貴志氏の本質的なデビュー作となり、そして映画化もされた本書。
ホラーと云えば怪異現象、超常現象を扱った物が多い中、保険会社員が顧客の訪問先で子供の首吊り死体に出くわし、更にその保険金を巡って遺族であるその両親との陰湿で執拗な催促に取り乱される、そんな風にストーリーの概要を理解していた私はサスペンスでありこそすれ、この題材のどこがホラーなのだろうかと長年訝しく思っていた。そして刊行後22年を経てようやく読む段になってそれが理解できた。

本書は正真正銘のホラーである。
それもとても他人事は思えないほどの迫真性を孕んだ怖さがある。それはどこかにはいるであろう、少し変わった隣人が本書の元凶であるからだ。

まず題材が実に一般的だ。怪我や入院、そして人の死を日常的に取り扱う保険会社が舞台。

自殺した子供の保険金を巡ってその両親との確執にて主人公に降りかかる災厄が本書の内容で、従って物語の細部に保険会社の業務や保険業界の裏話などが丹念に織り込まれており、非常にそれが読み応えのある内容となっている。生命保険会社に勤務していた作者が知る業界の内輪ネタに事欠かない。

自分の顧客が次から次へと身内を殺し、また傷をつけ保険金を請求するサイコパスであった。
本書はこのワンアイデアのみと云っていいだろう。
しかし物語はシンプルなものこそ面白い。本書はまさにそれを具現化した作品だと云える。

実に計算尽くしで書かれた本書は、日本ホラー小説大賞の受賞作であることから、その内容はいわゆる賞を獲るために必要不可欠な小説の要素が教科書通りに放り込まれていることが解る。

まず作者自身が生命保険会社に勤務していた強みを活かし、保険業界のエピソードをふんだんに盛り込み、その業界ならではの内輪話、蘊蓄で読者の興味を惹きつけながら、更に忌まわしい過去を設定している。
主人公若槻は小学校の4年の時に6年生の兄を自殺で亡くしており、それはいじめられていた兄を見つけた際にいじめっ子に見つかり、自分がその当事者の弟であることを知られたくないがために知らんぷりを決め、その結果兄を自殺に追いやったと信じ、それがトラウマになっている。そのトラウマが主人公の若槻が顧客の息子菰田和也の自殺に対して不信感を抱き、調べる原動力となっているのだ。
原因と結果という因果をきちんと設定し、物語を淀みなく進める磐石さを持っている。
更に物語に心理学、生物学などの専門知識を放り込み、読者の知的好奇心を刺激し、次から次へと事件を連続させ、ページを繰る手を止めさせない見事な筆捌きを見せる。もう、受賞のためのファクターが過不足なく盛り込まれており、戦略と戦術を立てて応募されたことが如実に判るのである。
そんな作者の恣意的な創作作法が見えながらもやはり本書は実に面白い。あざとさの一歩手前で踏み止まるバランス感覚に優れているのである。

しかし保険業界とはまさに世に蔓延る魑魅魍魎共を相手にするような職業であることが本書でよく解る。
お金が人間の欲望と直結して駆り立てるものであるがために人の生死をお金で取引するシステムに人はどうにか旨い汁を吸ってやろうとたかるのだ。また生保業界も契約を取れれば天国、取れなければ虫けらのように扱われる極端な成果主義となっていることも慈善事業ではなく金満事業となっている歪みが生じているのだ。
本来突然の死に見舞われた時に遺された者が安心して生活を続けられるように作られたシステムであるのにそこに蓄えられた金をどうにか騙して手に入れようとする詐欺師たちが横行するからこそ保険会社もまた支払いにはより一層慎重となり、そしてなかなか支払いが行われなくなるのだろう。

通常その業界に身を置いている者はそういった業界の特異な状況が常識となり、奇異に感じなくなってくる。しかし貴志氏は保険業界に身を置きながらも一般人の感覚を持ってそのおかしさ、恐ろしさに気付いたのだ。そして彼は自分たちの日常業務こそホラーそのものだと発見したのだ。

一人のみずぼらしい小母さんが恐怖の殺人鬼だったという設定は買えるが、大の男が次から次へと不意打ちとはいえ、彼女によって殺されるのは少し都合がよすぎると感じた。
特に百戦錬磨のヤクザ上がりの強者、「潰し屋」の三善は今まで逢う者皆がその異様さに呑まれていた菰田幸子を震え上がらせるほどの胆力を持った人物であり、正直この2人の対決が見どころの1つだと思っていたが、呆気なく菰田宅で陰惨な死体となって発見されたのは残念だった。菰田幸子の無敵ぶりを示すためのファクターだったのかもしれないが、もっとどうにかならなかったものか。

あとは前作『十三番めの人格―ISOLA―』でも気になった男女の関係の書き方だ。若槻慎二と黒沢恵の2人の関係がなんとも稚拙すぎる。繊細で傷つきやすい性格である黒沢恵が菰田幸子に襲われ、危うく一命を取り留めた後、両親に庇護されることについて自分を2人の思い通りに動く人形のようにならないと決意するくだりがあるが、これも思春期の子の台詞ではないかと思ったくらい成熟味がない。また若槻が彼女を欲するあまりにその思いをぶつけるのもいつの頃の話だと思ったくらいだ。


第1作目が多重人格、大賞受賞の第2作の本書がサイコパスと貴志氏がホラーの題材として選んでいるのは常に人間そのものが持つ怖さだ。その後の諸作のテーマを見ても常に作者が人間の心に潜む悪意や宿る狂気に目を向けてその怖さに注目しているのが解る。本書はまさに受賞するための法則に則って書かれたような教科書的作品であり、怖さを感じる反面、その端正さが逆に気になった。

しかし受賞する目的のために書かれた作品は本書にて終わった。これ以降の作品は貴志氏が思う存分自分の書きたいテーマを扱い、型にはまらない面白さを追求した作品があると信じたい。それまで5つ星の評価はとっておこう。

No.42 6点 パメル 2019/08/30 01:10
第四回ホラー小説大賞受賞作。
作者自身の生命保険会社に勤めていた時代の経験をいかしており、リアルさが際立っている。前半の保険業界に関する蘊蓄も興味深く読むことが出来ました。
ホラーといっても霊的な類は一切出てこない。生身の人間の恐ろしさと狂気を描いており、キャラクター造形も巧みで、読んでいてゾクゾクさせられる。中盤以降のスピード感あふれる展開も素晴らしく、インパクトの強いホラー作品に仕上げているといっていいと思う。
ただ、後半のある場面で、そこはまず警察に通報するのが最優先なのでは?と行動に違和感を覚えたり、警察自体もあまりにも無能なため、それまで楽しく読めていたのに、一気にトーンダウンしてしまった。

No.41 5点 谷山 2016/07/02 01:22
(ネタバレあり)

まあ怖いといえば怖いのですが、それって主人公の危機感の無さからきてるような気がします。普通自分の電話番号や住所を知られたらもう少し警戒するでしょう。引越しを検討するなり会社や警察に相談するなりするとか。それどころか酔っ払って帰宅とかよくしてるし。

あとは三善や金石などは相手が相当なサイコパスだと分かった上で殺されてますが、その辺りもちょっと納得いきません。まあ余計なことを書かないことで設定に無理が出てくるのを防ぐ意味もあるのかも知れませんが。

ラストの主人公と犯人の対決の場面でも犯人にはほとんど台詞がありません。これによってホラー的な怖さは増してます。相手が言葉が通じる人間というよりモンスターのような怖さになってますから。でも反面犯人の台詞を奪ったことで謎解きの機会が失われたのは残念でした。

金石の他と比べてもかなり凄惨な死体を見ても、この人が多分かなりの地雷を踏んだのは確かだと思うし、その場面こそ見たかったので本当に残念ですw 

No.40 2点 ボナンザ 2014/11/16 23:26
これを楽しめるか(恐がれるか)はそれこそ読者のサイコ経験によるところが大きいのではないでしょうか。
平成10年当時では目新しかったかもしれませんが、今読むとだからどうしたといった感じで、単なる保険金殺人と自己中婆の害にしか読めません。

No.39 8点 あびびび 2014/09/24 11:48
ホラーはあまり好きではないが、この作品は避けて通れない関所のような気がして拝読。

和歌山カレー事件を思い出したが、モンスターになってしまうと、素知らぬ顔で何度も事件を起こしてしまうということ。その連続性が恐怖、凄惨さを何倍にもしてしまう。過去の保険金殺人を思い出してみても、「真実は小説よりも奇なり…」的な事件が多い。

No.38 9点 itokin 2014/08/14 12:43
貴志さんの作品は、どれを読んでもはずれがなく大ファンですが、これは初期の作品でホラー大賞受賞とのこと、やはり並の人とは違いますね。今まで読み忘れていたのが信じられない。

No.37 7点 smk 2013/11/11 01:04
ホラーというよりかはサスペンスかな。
リーダビリティも高く読みやすかったが、肝心の怖い部分が後半の3分の1程度。
サイコパスのシリアルキラーなので動機はどうでもいいとして、殺害場面も出てこないのでなんでこのお○さんがこんなに強いんだろうかと。(三善とか特にね)
全体としては面白かったので8点だけど、ミステリではないので△1点。

No.36 6点 ナノ 2013/05/06 21:33
ハラハラする展開にページをめくる手が止まらない、そんな作品です。
喫茶店での軽い休憩のお供のつもりが、気付けば最後まで読んでいました。
ホラーならではの緊迫感の描写がとても鋭く、映画を見ているが如くその情景が映像として脳内で作られていきます。

多少ネタバレとなります。
どうにも和也の殺され方など、置き去りな個所や適当に処理された情報が多い気がします。
山場はとことん、しかし別の場面との温度差が大きく、完璧主義な方やミステリ専門の方には物足りないところもあるかもしれません。

No.35 8点 メルカトル 2013/01/19 21:52
再読です。
ネタバレするかも。

これぞホラー小説の真髄。誠に素晴らしい出来栄えの傑作である。
舞台が保険会社なので、生命保険、傷害保険、入院保険などの勉強にもなり、為にもなる小説。
そして、なんといっても怖いのである、それはもう心底。背中を這い上がるようなぞくぞくする怖さと、とても心臓に悪いショッキングなシーンの両面攻撃で、読者を恐怖のどん底に陥れる。
ハイライトはSが旦那の○○を○○してしまうところ、これはもう半ば予想していながら、トラウマになりそうなくらいの恐ろしさだ。
病棟の個室で、三善が恫喝するシーンが私のお気に入りなのだが、その百戦錬磨の三善が簡単にやられてしまうのはやや不満と言うか、不可思議で疑問が残る。
しかし、気になるのはその点くらいで、他は何を取っても完璧ではないだろうか。
前半のサスペンスフルな展開や、主人公の若槻が事件を追うミステリ的な趣向、後半の若槻とSとの対決はどれも読み応え十分である。

No.34 7点 TON2 2012/11/05 21:14
ホラーというより狂気です。超常現象などなくても、十分に人を怖がらせることができるという作品です。
生保の支社員が主人公なので、生保会社の仕事の仕組みが少し分かりました。
映画では大竹しのぶがおばさん役を怪演。

No.33 7点 蟷螂の斧 2012/08/22 07:49
ホラーは超常現象ありのイメージが強く、手を出しづらかったのですが、本作は純然たるサスペンスもので、読み応えがありました。包丁一本のオバサンの狂気や、黒い家の悪臭が伝わってくるのは、筆力があるからでしょう。

No.32 7点 Q-1 2012/05/27 23:24
怖いという印象は受けませんでしたが、
気味の悪さや禍々しさをヒシヒシと感じる作品でした。

サイコパスのシリアルキラーという最凶最悪な犯人が
中年おばさんというのも気持ち悪さが増す要因でしょうか。

ただ気になったのが数々の修羅場をくぐり抜けてきたであろう三善さんがあっけなく殺されたのは解せませんでした。
解約するよっていわれてホイホイ出ていって後ろから殴られるって飛んだ間抜けですよね。。。

No.31 6点 いいちこ 2012/02/02 18:34
ミステリ要素は少なく純然たるサスペンス。
生命保険のモラルリスクの生々しい描写を通じて、社会保障制度の根幹を揺るがすフリーライダーを想起させる主題はいい。
しかし肝心のサスペンスは想定を下回るレベル。
読了順が逆だったためか後の著者の飛躍ぶりを実感させる結果となった。
リーダビリティの高さを評価に加えてもギリギリの6点

No.30 8点 kowai 2011/07/05 12:52
サスペンスとして楽しめました。確かに黒い家以降はホラーかも。。

No.29 8点 haruka 2011/04/29 21:45
超常現象を一切使わずにここまで読者を怖がらせることができるのか、という作品。保険会社の裏側が詳しく書かれているのでストーリーに現実味があり、単なる虚構と思えないのも恐怖心を煽るのに一役買っている。

No.28 8点 emi 2011/03/10 19:43
サスペンスです。結末はなんとなく予想できてしまいましたが、それでも怖い!!!!

No.27 8点 kenvsraou7 2011/03/08 19:37
怖かった…ほんとに。
小説でこんなに恐怖を感じたのは初めてじゃないかな。
狂気に満ちたおばはんほど怖いものはない。
とくにすごいのはおばはんの旦那の腕を保険目的で
事故に見せかけて切り落とすというのはかなりグロかった。
映画も見たが大竹しのぶが乳出しながら
追っかけてくるのはほんとに怖い(汗)
テンポはゆっくりなのだが
恐怖がじわじわと浸透する衝撃的な作品。

No.26 5点 misty2 2011/01/03 17:39
期待をした種の怖さでは無かったが、楽しめた。
最後は、もっと盛り上がっても良いのではと感じるも、そこがテクニックなのでしょう。
著者の感性に感動し、発行当時に拝読したかった作品。


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