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梅雨物語
貴志祐介 出版月: 2023年07月 平均: 6.33点 書評数: 3件

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KADOKAWA
2023年07月

KADOKAWA
2025年06月

No.3 6点 パメル 2025/07/02 19:25
ミステリとホラーが融合した、緻密な論理と理屈を超えた恐怖が渾然一体となった3編からなる中編集。各作品は独立した物語だが、「罪」や「因果応報」をテーマにしているところが共通している。梅雨時に合わせて読んだのですが、今年は梅雨らしい日は、ほとんどありませんでしたね。
「皐月閣」元中学教師の俳人・作田慮男が、自殺した教え子の遺した句集「皐月閣」に秘められた謎を解く。俳句の解釈からロジカルに推理を展開し真相に迫る構成は知的興奮を呼ぶ。後半に入ると、叙述トリックを駆使した鮮やかな逆転があり印象的。
「ぼくとう奇譚」昭和11年の東京が舞台。高等遊民の木下美武が黒い蝶の夢に悩まされる怪異譚。夢の中の遊郭が次第に狂気じみた様相を呈し、因果応報の恐怖が描かれ生理的な不快感を呼び起こす。本作の題名は永井荷風の代表作「濹東奇譚」を想起させるが、なぜ「ぼくとう」となっているのかは終盤に明かされ、そのおぞましさは並大抵のものではない。
「くさびら」工業デザイナーの杉平が、自宅の庭がキノコに埋め尽くされていくことに恐怖を感じるようになる。一見するとキノコを題材にした不気味なホラーなのだが、濃厚な謎解きの要素が含まれている。キノコの増殖が象徴する「家族の喪失」と「罪の償い」がテーマで、不気味さの中に哀愁を感じさせるラストが印象的。精緻な謎解きミステリであり、底なしの怖さを味わえるホラーでもある。

No.2 6点 文生 2023/09/24 09:12
ホラーミステリー系の中編3編収録。
なかでもインパクトがあるのが「皐月闇」で、物語としては社会人となった教え子から相談を受けた元教師が、教え子の弟が作った句集に秘められたメッセージを紐解いていくというもの。最初はオーソドックスな安楽椅子探偵ものかと思っていると、だんだん不穏な空気が高まっていく展開にゾクゾクします。ただ、謎解きを懇切丁寧にやりすぎて途中で話の展開が読めてしまうのが惜しいところです。他の2編も「皐月闇」ほどのインパクトはないものの、なかなかの良作。

No.1 7点 虫暮部 2023/09/07 13:14
 「皐月闇」。前半は想定通りでつまらないが、展開を鑑みるとそれは必定。後半はスリリングで興奮した。この言霊ミステリを楽しめる自分を誇ろう。
 しかし、作品集の構成としては如何なものか。「皐月闇」と「ぼくとう奇譚」には、共通の要素として罪悪感と記憶が扱われている。そしてそれが「くさびら」に対するミス・ディレクションとして働いている。少なくとも私はそんな思い込みを抱いてしまった。作者の意図かどうかは判らないが、あまり良い組み合わせではないと思う。

 「くさびら」の、相続に関する説明は間違っており、それを修正すると動機が無くなってしまう。


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