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[ 本格 ]
証拠は眠る
ソーンダイク博士
R・オースティン・フリーマン 出版月: 2006年03月 平均: 6.75点 書評数: 4件

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原書房
2006年03月

No.4 7点 mini 2017/11/07 10:53
海外ミステリの長い歴史の中で、”理系ミステリ作家”のベストテンとかやったら誰が入る?
こう考えた時にまぁカーなんかも入っておかしくはないし、クイーンと並ぶアメリカ本格黄金時代の雄C・デイリー・キングなどもそんな要素は有るし、自身化学者だったJ・J・コニントンとかも当然入るだろうし、時代は下ってジャンルは異なるがハーバード大医学部のマイクル・クライトンはどう?って意見も出るだろう
しかしながら、2位以下の順位はその時の気分で変わるが、1位だけは絶対に動かない作家が存在する
それがオースティン・フリーマンである

フリーマンはホームズ時代から第一次大戦後の黄金時代まで書き続けた息の長い作家であり、この活動期間の長さは同じ英国のフィルポッツと似ている
しかしである、あんな二流作家のフィルポッツなんかとはレベルが違うのだ(笑)
フリーマンは古典作家の中で過小評価されている代表格と言ってもいい
過小評価されている原因の1つがあまりに理系色が強過ぎる点ではないだろうか
たしかに理系分野は嫌いという読者には最も受けないタイプの作家だろうと思う

フーダニットとしての真犯人隠蔽のテクニックが上手くない、探偵役が温厚な人柄過ぎてエキセントリックな魅力に乏しい、ハウダニット一本勝負な作が多く物語展開が平坦
等々欠点は数多い、尤も上記の3番目の欠点なんかはさ、ジョン・ロードにも如実に当て嵌まるんだけれどね
でもさジョン・ロードを好んで読む読者にもフリーマンだけは敬遠されたりするんだよね(苦笑)

そうした数々の欠点を補っているのが理系トリックの魅力である
この「証拠は眠る」でも、眠っていた殺害トリックをソーンダイク博士が揺り起こすわけだけれども、もしトリック自体がつまらなかったら平凡な作にしかなっていないと思う
しかしこのいかにもな理系トリックが魅力的で、見破れる読者は極めて少数だと思う
こう言うと理系トリックは読者側が推理できる代物じゃないから面白く無いというパズル主義な読者も必ず存在するんだ
私はそういう非難は嫌いである、ミステリーというものは読者が推理可能かどうかだけで価値が決まるものではないと思う
トリックだけを抜き出してそのトリックに魅力が有るなら、それはそれでいいのではと思うのだ
そしてこの作の理系ミステリとしての魅力はトリックだけではないのである
ソーンダイク博士が、グラフなどを用いて真相に迫っていく手法も理系ならではで、いわゆる文系ミステリでは出せない味わいだ

No.3 6点 nukkam 2016/07/24 06:59
(ネタバレなしです) 1928年発表のソーンダイク博士シリーズ第11作です。本書が発表されたのは本格派推理小説黄金時代の真っ只中で、次々と新進作家の意欲作が発表される中、先輩作家にあたるフリーマンはこの時期どういう立場だったんでしょう?時代遅れのレッテルを貼られてたんでしょうか?でも本書を読む限りではフリーマンらしさは十分主張できていると思います。珍しいトリック、グラフまで使った科学者探偵にふさわしいソーンダイクの推理などは他の作家には容易に真似できないでしょう。一方で読者の裏をかくような工夫はほとんどなく、しかも描写や説明がとても丁寧なため犯人当てとしてはわかりやす過ぎると思う読者もいるでしょう。

No.2 8点 蟷螂の斧 2015/09/08 19:44
裏表紙より~『夫の急死で悲しみに暮れる未亡人とその関係者たち。だが、その中の誰かが夫を毒殺したことが明らかにされる。未亡人の幼馴染みであるルパートは、ソーンダイクに真相の解明を依頼するのだが、やがてそれが考えもしなかった結末へと連なっていった。誰が、いかにして夫を毒殺したのか。証拠はどこにあるのか。それも確かな証拠が。ソーンダイク博士シリーズの傑作長編と話題を呼んだ逸品。』~

 科学探偵の元祖といわれるソーンダイク博士(シャーロック・ホームズのライヴァルたち)が活躍するシリーズの11作目とのこと。1928年の作品でありながら古さは感じないし、非常に読みやすい。検死審問などの緊迫感も心地よい。翻訳作品が少ないのが残念です。ソーンダイク博士は基本的にやさしい人なのですが、今回は犯人に厳しい態度で臨んでいますね。登場人物が少ないので、フーダニットよりハウダニットに重点を置いているように感じました。「ポッターマック氏の失策」(1930)は倒叙ものだったので、その前段のように感じました。そのあらすじの骨格になる事にも触れていましたね。作風が好きなので採点は甘目かも(笑)。

No.1 6点 kanamori 2010/06/15 18:36
ソーンダイク博士ものの長編ミステリ。
倒叙形式ではなくフーダニットですが、犯人はある程度見えやすくなっています。ミステリとしての一番のキモは砒素による毒殺方法がなかなか分からない点で、(実際に実行可能か判然としませんが)この真相はなかなか意外でした。
作者に対しては古臭くて退屈というイメージでしたが、本書に関してはいい意味で予想を裏切ってくれています。


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