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[ 本格 ] ソーンダイク博士の事件簿Ⅱ ソーンダイク博士 |
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R・オースティン・フリーマン | 出版月: 1977年08月 | 平均: 6.50点 | 書評数: 2件 |
東京創元社 1977年08月 |
No.2 | 6点 | 弾十六 | 2020/08/29 18:21 |
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創元文庫Ⅱでは第3短篇集(1918)から2作、第4短篇集(1923)から3作、第5短篇集(1925)から1作、第6短篇集(1927)から3作の全9短篇を収録。
フチガミ個人訳ソーンダイク短篇全集、第1巻がついに予約可能状態になった! 値段も意外と安い! 早速、紀伊國屋で予約してきました。予行演習も兼ねて創元文庫を少しずつ読んでゆく。 以下、初出や挿絵画家はS・フチガミさん情報によるもの。時々FictionMags Index(FMI)を参照してるが、FMIにはこの頃のピアソン誌情報がほとんど無いので、バックナンバーをお持ちのフチガミ様におかれましては是非目次データを提供してやって欲しい。 黒丸数字は英国短篇集の番号。カッコ付き数字は本書収録順で、以下は初出順に並べ替えています。 --- ⑴ Percival Bland’s Proxy (初出Pearson’s Magazine 1913-12 挿絵H. M. Brock) ❸「パーシヴァル・ブランドの替玉」評価6点 まあ当たり前の帰結なんだが、フリーマンは制度に対する批判を書いてる。ここではインクエスト。運営は検死官次第らしいので、事故死と判定された殺人も結構あったろう、と思われる。 p8 イングランド銀行の偽造紙幣(flash Bank of England notes)♣️5ポンド以上の高額紙幣(当時の最高額面は1000ポンド)。裏が白紙だしデザインも単純、偽造しやすく見えるよねえ。 p8 イングランド銀行の関係者の手に渡って(are tendered to the exceedingly knowing old lady who lives in Threadneedle Street)♣️the Old Lady of Threadneedle Streetで「イングランド銀行」を差す。James Gillrayによる風刺画(1797)が由来だとBoE公式ホームページが書いてる。 p9 いとこ(first cousins)♣️普通cousinと言ったらfirst cousinのこと。「はとこ」(いとこの子)ならsecond cousin。さらに、いとこの孫はthird cousinというらしい。 p10 三千ポンドの生命保険♣️英国物価指数基準1913/2020(116.15倍)£1=現在の15346円なので4604万円。 p14 昔気質の御者なら、大きな声で軽率な歩行者に警告してくれるだろうが、いまどきの御者は…(The old horse would condescend to shout a warning to the indiscreet wayfarer. Not so the modern chauffeur...)♣️この対比はhorseとautomobileだろう。「昔の馬車なら… いまどきの運転手ときたら…」Webで調べるとデータの出どころがよくわからなかったがGrüberのグラフだと石油自動車と馬車の数が交差してるのは1915年あたり。同グラフで見ると馬車のピークは1910年、急激に減少し出すのは1925年だ。 p14 辻馬車(taxi-cab)♣️taximeter cabの略なのでここは自動車の方だろう。 p14 集合馬車(omnibus)♣️当時ロンドンのomnibusを独占していたLondon General Omnibus Companyでは1902年に馬車から自動車に移行し始め、最後の馬車は1911年。なのでここは数行前と同様、「集合バス」(原文はmotor omnibus)が正解だろう。 p15 いよいよ身を隠すときが来た/まっさかさまに—身を躍らせて(Then is the time for disappearing,/Take a header—down you go—)♣️登場人物がハミングする歌。続きも書いてある。「上の空が晴れたら/何食わぬ顔で/ひょいと姿をあらわす(When the sky above is clearing, When the sky above is clearing, Bob up serenely, bob up serenely, Bob up serenely from below!)」色々探すと元はフランスのコミックオペラLes noces d'Olivette(オリベットの結婚)初演1879年11月13日パリThéâtre des Bouffes Parisiens、音楽Edmond Audran、台本Alfred Duru & Henri Charles Chivot。ロンドンでもH.B. Farnieによる英語版Olivetteがヒットした。1880〜1881年、Strand Theatreで466回の上演。ここで歌われるのは第1幕の公爵(tenor)ソロ、“Bob up serenely”。この歌、某Tubeに登録されてないので音楽は聴けなかったが、実は楽譜が無料公開されてる。 p32 「信頼された十二人の善良な人々」(“twelve good men and true”)♣️陪審員を指す由緒ある言い方のようだ。ここではインクエストの陪審員。 p32 「医学的な証言?」検死官は嘲るように… 「専門家をやとって公金を浪費[する気はない]」♣️インクエストは検死官の広い裁量に任されている。 p38 ダートムア地方の見通しのよい高台(the breezy uplands of Dartmoor)♣️Daniel Asher Alexanderデザインによる1809年に建造された捕虜収容所。ナポレオン戦争、米英戦争で使われたが、1815年に役目を終えた。1851年〜1917年には一般人の刑務所として再利用されていた。(英wiki) (以上2020-8-29記載、2020-9-16若干修正) --- ⑵ The Missing Mortgagee (初出Pearson’s Magazine 1914-6 挿絵H. M. Brock) ❸「消えた金融業者」評価5点 あまり盛り上がらずに終わる話。これは博士が出馬するまでもなく保険会社で調査が完了してもおかしくないレベルだろう。 p39 最近、ある冗談好きの男が、南アフリカに大勢いる「スコットランド人」を二つのグループに分類(A contemporary joker has classified the Scotsmen who abound in South Africa into two groups)♠️「最近の冗談だが…」というような感じ? グラスゴーにはユダヤ人移民の結構大きなコミュニティがあったようだ。ユダヤ人が南アフリカに移民する時もスコットランドっぽい苗字を名乗るのが好まれたのか。ここに出てくるGordonもスコットランド系の苗字なのだろう。 p40 『蟻を見習え』(‘Consider the ant.’)♠️『箴言』Proverbs 6:6 KJV “Go to the ant, thou sluggard; consider her ways, and be wise”から来た表現らしい。『惰者よ蟻にゆき其爲すところを觀て智慧をえよ』(文語訳) p41 返済額は20ポンド、つまり四半期分の利子だ(...)払わないと、これが元金に繰り入れられて、一年で、さらに4ポンドかえさなくちゃならなくなる(Here’s a little matter of twenty pounds quarter’s interest.(...)If it isn’t, it goes on to the principal and there’s another four pounds a year to be paid.♠️恐ろしい高利。利率20%って事で合ってる? p48 はっきりしるしを(marking them so plainly)♠️下着に他人のと紛れないようマークがついていたようだ。洗濯屋に出すときの備えなのだろうか。 p50 合わせると年に百ポンド近い出費… 稼ぎ出す収入のほぼ半分(That’s close on a hundred a year; just about half that I manage to earn)♠️英国物価指数基準1914/2020(116.15倍)で£1=15837円。年収200ポンド(=317万円) p52 激昂したユダヤ人(the infuriated Jew)♠️この作品中でJewという単語はここだけ。Palestineとかthe drooping nose(たれさがった鼻)とかの表現で判るのだろう。 p67 なんとなく子供のペリカンを思わせる格好(somewhat after the fashion of the juvenile pelican)♠️伝説にある乳の出ない母鳥にせがむ子ペリカンのイメージ? p73 この抵当証書が、以前つくられたのと同じ形式で作成されたことはご存知ですね?(are you satisfied that the mortgage deed was executed as it purports to have been?)♠️purportには「偽造っぽい」ニュアンスがありそう。「古いものだと装って作られたものだと思いませんか?」という感じか。 (2020-9-16記載) --- ⑼ The New Jersey Sphinx (初出Pearson’s Magazine 1922-4 挿絵Sydney Seymour Lucas) ❹「ニュージャージー・スフィンクス」評価6点 タイトルが謎めいてるが、いわくは語られずじまい。作中、在ロンドンのインド人商人を偏見なく描いている。 p280 アパー・ベッドフォード街(Upper Bedford Place)…ブルームズベリにはアフリカ人や日本人やインド人が、たくさん住んでいる(there must be quite a considerable population of Africans, Japanese and Hindus in Bloomsbury)♣️漱石の最初の下宿先(1900年10月末)も、その辺から徒歩十分くらいのGower Streetだった。 p280 服装はきちんとしているが、帽子はかぶらず…(His hatless condition—though he was exceedingly well dressed—)♣️外出時には帽子あり、が当然の時代 p286 流行の山高帽子の高級品…黒くて堅いフェルト製(black, hard felts of the prevalent "bowler" shape, and of good quality)♣️ボウラー・ハットは「1850年の発明…元々は乗馬用の帽子であるが、上流階級が被るシルクハットと労働者階級が被るフェルト製ソフトハットの中間的な帽子」(wiki)とのこと。 p288 五カラット程度の上質のルビーで、だいたい3000ポンドくらい(A fine ruby of five carats is worth about three thousand pounds)♣️英国消費者物価指数基準1922/2020(57.20倍)£1=7558円、3000ポンドは2267万円。 p289 革のヘッドバンドの裏…折りたたまれた紙片がたくさん♣️帽子の中に色々紙を挟むのは普通だったようだ。 p289 ガス・ストーブの料金表(a leaf from a price list of gas stoves)♣️「料金表」だとガス料金のことか?と誤解する。「価格リスト」が良いのでは? p294 郵便配達用の人名簿(Post Office Directories)♣️ソーンダイク博士お馴染みの七つ道具。1799創設、と自称していたKelly's Directoryのことだろう。現在のYellow Page(職業別電話帳)のようなもの。1836年ごろの郵便局長?Frederic Festus Kellyが半公式的に出版し、その後、出版権を世襲したようだ。「郵便局人名簿」と言うのが適訳か。Post Office london Directory 1914 part 1で無料版を見ることが出来る。 p296 近頃新聞で(as the papers call him)♣️何故そう言うあだ名なのかがよくわからない。米国由来だろうが… p302 ミカエル祭の日(Michaelmas)♣️訳注は「9月29日」とだけ。四半期日(quarter day)の第三番目、という情報が抜けている。四半期単位の貸間契約のようだ。 p302 一階の5番(a ground floor at No. 5)…二階の51番(a good first-floor set at No. 51)が空いています… [借りてたキャリントンが急に外国に行ったので] ♣️「5番地の一階、51番地の二階」だろう。訳者はマンモス集合住宅とでも思ってるのかな?(p299でクリフォード・イン51番を訪ねて、そこが三階建てで二階にキャリントン、とちゃんと書いてるのに…) p303 「…背の高い色の浅黒い人(a tall, dark man)じゃありませんか?」「…背が低くて、すこし頭の禿げた、血色のいい人です(a little, fairish man, rather bald, with a pretty rich complexion)」♣️博士がよくやる、ワザと正反対の人相を聞く手。答えがまずfairish(訳し抜け「薄い色、金髪」)、bald(禿げ)なので、当然darkは黒髪の意味だろう。 p303 意味ありげに鼻をなで、小指を立てた(tapped his nose knowingly and raised his little finger)♣️このジェスチャーは、鼻を軽く叩くで「秘密だよ」、小指を立てるで「悪い(bad)」(親指を立てるgoodの反対)だろうか。(モリス『ボディートーク』参照) 日本と違い小指に「女」の意味はあまり無いようだ。 p308 自動拳銃(an automatic pistol)♣️しゃれたFN1910ではなく無骨なSavageM1907を連想(個人の見解です)。 p309 辻馬車(in a hansom)♣️1922年だが馬車はまだ現役。 (2020-9-19記載) --- ⑻ The Funeral Pyre (初出Pearson’s Magazine 1922-9 挿絵Howard K. Elcock) ❹「焼死体の謎」 評価6点 原題は「火葬用の積み薪」という意味らしい。インクエストの場面が興味深い作品。外部の人間が自由に発言を許されている。(ソーンダイク博士が有名だからだろうか) p246 夕刊(an evening paper)♠️博士は気にくわないようだ。(作者も?) 1881年創刊のEvening Newsが草分けらしい。(2020-9-26追記: 夕刊紙は大衆紙、というイメージらしい。wiki「ジョージ五世」より) p246 堆積された乾草が燃えている(a rick on fire)♠️ 「青いスパンコール」ではrick=枕木の束?との説を出したが、ここは藁で間違いない。 p263 〈喫煙者の友〉(smoker's companion)♠️そーゆー通称のパイプ掃除道具に似てるから? p264 二組のトランプのカード(playing cards... from two packs)♠️があったのだから大きな勝負だった、という推理。そういうものか。ゲームの種類は何だろう。 p270 いくらかアイルランド訛り(with a slight, but perceptible, Irish accent)♠️セリフの原文には訛りは反映されていない。 p272 反対訊問のために立ちあがった(rising to cross-examine)♠️ここは「反対訊問」(法律用語)ではなく「厳しく追及する, 詳しく(細かく)詰問する」という一般的な意味だろう。インクエストは、検察と弁護の対決の場ではなく、反対訊問は禁止されている(実際は結構無視されている原則のようだが)。 p276 粘土(クレイ)パイプ♠️ああ、そーゆー常識があるんだ。 (2020-9-20記載) --- ⑸ Phillis Annesley’s Peril (初出Pearson’s Magazine 1922-10 挿絵Howard K. Elcock) ❺「フィリス・アネズリーの受難」評価5点 このPerilはもしかして映画のタイトル風に「危機一髪」という感じで使ってる? (Perils of Pauline 1914のイメージ) ロス・アンジェルスの映画会社の関係者が出てくる。もちろん当時はまだ無声映画。ヴァレンチノ『血と砂』(1922)、バスター・キートンはまだ短篇時代、チャップリンが『キッド』(1921)の世界的大ヒットでロンドンに凱旋帰国した頃。この翻訳は、描かれてる微妙な男女関係を表現しきれてない感じ。ミステリとしては、ちょっとアレなトリック。 p145 裁判のためにも(for the inquest)♣️ここは「検死審問(インクエスト)」と訳して欲しいところ。インクエストの前から関わってもらっていたら… という後悔だろう。p146などからわかるが既にインクエストは終わっている。 p145「まだ弁護に着手したわけではないのでしょう?」(You reserved your defence)♣️正式な法廷用語はよく知らないが「弁護(方針)を留保している」という意味か? この翻訳では意味不明。法廷戦術として、どういう趣旨で抗弁するのかをあらかじめ表明することが多いのだろうか。 p146 検死の結果(The cause of death was given at the inquest)♣️ここも「インクエストで明らかになった死因は…」 p146 ミス・フィリス・アネズリー(...)この秋旅行をしたときに家のなかを片づけて...(Miss Phyllis Annesley. It is her freehold, and she lived in it until recently. Last autumn, however, she took to travelling about and then partly dismantle the house)♣️色々重要なところが訳し漏れてて経緯がわかりにくくなっている。「彼女の相続財産で、最近まで住んでいた」「この秋からあちこち旅に出て、家具もある程度処分」 p147 別にいやらしい関係ではありませんが(though there is no suggestion of improper relations between them)♣️ここは断定してるニュアンスではない。「不適切な関係を示すものはありませんが」状況はクロだよねえ。いやらしい関係って、子供か。 p147 夫婦仲は…決して仲が悪いわけではなく(they don't seem to have been unfriendly)♣️微妙な夫婦関係の表現を理解してない翻訳。試訳「非友好的という感じではないようでした」続く財産関係の説明もズレてる。以下試訳「夫は金銭的な義務をきちんと果たしていました。妻に自由にお金を使わせていただけでなく、妻のため財産確保にも努めていたのです」 p148 離婚話… あるはずがありませんよ(It couldn't be)♣️そーゆーニュアンスではなく、「出来なかったでしょう」という感じか? これは近年の条件だが「イングランドとウェールズの現行制度では裁判所で「婚姻の回復しがたい破綻」があったと認められた場合に限り、離婚が認められています(破綻主義) ⑴不貞 ⑵同居を著しく困難にする行動 ⑶2年の遺棄 ⑷別居(合意があれば2年、なければ5年)が離婚の成立条件」当時も似たような制度なら、まだ別居して間がないから離婚事由にならないよ、ということだろう。(ちょっと調べたら当時は全然違い、離婚はかなり難しかったようだ。全然知りませんでした! wiki「妻売り」参照) p152 警察が訊問したときの口述書(a verbatim report of the police court proceedings and of the inquest)♣️ここも「インクエスト」抜け。ここまで来ると故意なのか。 p156 シャッター♣️フランス窓なので「鎧戸」が良い感じ。開いてた穴(1インチほど)はデザインなのか? p161 ブリクストン(Brixton)… ホロウェイ(Holloway)♣️HM Prison Brixtonは1820建設の男性刑務所。HM Prison Hollowayは1852建設で1903年以降は女性専用刑務所。 p161 揮発油で髪を洗った(I was having my hair cleaned with petrol)♣️何かの油なんでしょうね。ググったらPétrole Hahnというヘアオイル(1885年からのブランド)の広告が見つかった。この場面はパリでの出来事なのでフランス語の表現か!と納得。(英語だと「ガソリン、石油」の意味が強そう) p163 裁判(trial)♣️ここからは本当の裁判シーン。 (2020-9-21記載) --- ⑷ Pandora’s Box (初出Pearson’s Magazine 1922-11 挿絵Howard K. Elcock) ❻「パンドラの箱」評価6点 翻弄される犠牲者が良い。 p116 あとで申しあげるように、彼の生活ぶりは一風変わっているんですが、このときの行動も、ちょっとかわっていたのです(The circumstances were peculiar, as you will hear presently, and his proceedings were peculiar)♠️試訳「後で話すように色々奇妙な事件が起こったんですが、このときの彼の行動も奇妙だったのです」 p117 乗合馬車(omnibus)♠️第一話のトリビアに書いた通り、ロンドンでは馬車の時代はすでに終わっている。ここは「バス」 p117 車掌が料金を集めにくる(the conductor was coming in to collect the fares)♠️運転手と車掌の二人体制なんだね。 p119 もとは舞台に立って、くだらないショーに出ていた(she had been connected with the seamy side of the music-hall stage)♠️フリーマンの描くダメ女の典型。 p123 ハンテリアン博物館(Hunterian Museum)♠️ロンドンのイングランド王立外科医師会(The Royal College of Surgeons of England)にある博物館。数千もの解剖学的な標本と多数の外科器具が展示されている。 (2020-9-22記載) --- ⑺ The Blue Scarab (初出Pearson’s Magazine 1923-1 挿絵Howard K. Elcock) ❹「青い甲虫」評価6点 多分、ツタンカーメンの王墓発見のニュース(1922-11)に反応して書かれた、かなり早い時期のエジプトもの。他のミステリ作家はカーナヴォン卿が死んだ1923年4月以降ネタにしている。(クリスティ1923年9月号、ヴァンダイン1929年12月号) フリーマンは言語学への興味と素養があったのだろう。ソーンダイクはピクニックに行くような感じで楽しそう。なんか愉快な雰囲気が良い。 解説にあるようにシャーロックのアレを意識してます。メカ好きフリーマンならではのネタの料理法。 p212 小型の証書保管箱(a small deed-box)♣️鍵がかけられ持ち手の付いた金属製の書類保管用の箱、というイメージ。 p212 フランス窓(French window)♣️今調べて初めて理解したのだが、ドアとしての役割が最初から想定されてるのね。窓としても役に立つドア、という感じ。 p213 六月七日の火曜日♣️直近では1921年が該当。 p214 甲虫を転写した(an impression of the scarab)♣️ここら辺、意味がよく分からないかったが、スカラベって古代エジプトでお守りの他、印章としても使われてたんだ! 知りませんでした… 翻訳は「甲虫」を「スカラベ」とすべきですね。試訳「スカラベで封印した」 p218 姿を変えて(in disguise)♣️「変装して」 p223 機械は、明らかにエリート型のコロナで(The machine was apparently a Corona, fitted with the small "Elite" type)♣️試訳「見た感じでは機械はコロナで、小型エリート活字使用のものだ」Elite活字は数枚のカーボン紙を挟んでも視認出来るデザインとのこと。 p224 陸地測量局(Ordnance)♣️ Ordnance Survey (OS) は1791年創立の英国公的地図作成法人。 p225 気の毒なミス・フリート(poor Miss Flite)♣️Dickens “The Bleak House”(1853)の登場人物。『荒涼館』も他のディケンズ作品も私は全く読んでない。コリンズに行く前に読みたいなあ。(また20世紀が遠のく…) フリーマンはかなりのディケンズ・ファンと見た。 p227 あの学識豊かなグラス夫人の古代学の講義でもきいたほうがよかった(you are rather disregarding the classical advice of the prudent Mrs. Glasse)♣️ベストセラー料理本The Art of Cookery, Made Plain and Easy(1747)の著者Hannah Glasse(1708-1770)のことだろう。ここで言ってる「古き良き助言」とはタイトルのplain and easyか。 p227 細字用のペンとゼラチン版のインクで(with a fine pen and hectograph ink)♣️hectographはgelatin duplicatorとかjellygraphとも呼ばれる昔のコピー方法。1869年の発明。15分で100部ほどの複写が可能、という当時の広告があった。Webをざっと見た感じでは左右逆にコピーされるようだが… (原版作成時に裏側からなぞって逆版を作るのかも) p228 『釣魚大全』(The Compleat Angler)♣️17世紀の有名な本。ソーンダイクは遊ぶ気満々だ。 p238 どうしてわかったのだろう(and you know it)♣️お笑い草だ、出鱈目を言うな!と言うニュアンスだと直感(あんま根拠なし)。 p238 きれいな水で体を洗い(after a leisurely wash)♣️原文で洗う対象は示されていない。手や顔を、だと思う。 p245 パンを海に投げよ。いつの日か、それはまた汝の手に戻るであろう(Cast thy bread upon the waters and it shall return after many days)♣️KJVでは後半がちょっと違う。Ecclesiastes 11:1 (KJV) Cast thy bread upon the waters: for thou shalt find it after many days. 小説の言い方もWebで若干見つかったが、英語訳聖書の正式バージョンではないようだ(一応数種を調べたが一致無し)。Revised Version(1884)ではCast your bread upon the waters, for you will find it after many days. 傳道之書11:1(文語訳) 汝の糧食を水の上に投げよ 多くの日の後に汝ふたたび之を得ん。 (2020-10-14記載) --- ⑶ Mr. Ponting’s Alibi (Pearson’s Magazine 1927-2 挿絵Reginald Cleaver) ❻「ポンティング氏のアリバイ」評価5点 作品自体は新し物好きのフリーマンらしい作品。戸板さんの解説は、有名二作品を巻き込んでいて、全部がネタバレになっちゃう悪質物件。こういう書き方、気持ちはわかるがプロの探偵小説評者として工夫して欲しいなあ。時代としては、そーゆー物がちょっとした家庭にあっても普通な感じだった、ということが窺える。(有名二作品の場合は金持ち。本作品ではちょっと特殊な家庭だが) p82 辻馬車(a taxi)... 辻馬車の馭者(a taxi-driver)♠️流石に1920年代後半だから馬車ではない、と翻訳を読んで思ったが、原文ではcabですらなく、ハッキリtaxi。 (2021-4-10記載) --- ⑹ Gleanings from the Wreckage (初出Flynn’s Weekly 1927-3-12, as “Left by the Flames”) ❻「バラバラ死体は語る」 ソーンダイク博士シリーズで最後に発表された作品。この米国パルプ雑誌(Detective Fiction Weeklyの前名)のみの登場でピアソン誌の掲載が無いという。何故だろう。 |
No.1 | 7点 | mini | 2009/09/23 10:28 |
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明後日25日発売予定の早川ミステリマガジン10月号の特集は、”ドイル生誕150周年”
150周年なんて区切り方があるとは思わなかったよ 便乗企画としてホームズのライヴァルたち 創元文庫のホームズのライヴァル企画はフットレルの思考機械だけが全3巻と優遇され過ぎているが、他に複数巻あるのがフリーマンのソーンダイク博士全2巻で、重要度から言ったらこちらは妥当だろう Ⅰ巻目は原著第1短編集と倒叙短編集「歌う白骨」との折衷で、これは分離すべきだったんじゃないかな Ⅰ巻目を第1短編集と他の重要短編との混載、Ⅱ巻目を「歌う白骨」完全版という編集にした方が良かったと思う これだから創元の編集は下手糞なんだよな 結局Ⅱ巻目はその他重要短編の寄せ集めみたいになっちゃってⅠ巻目より意義が薄いものとなってしまっている しかしだね、個々の短編の質的にはⅠ巻目を上回っている面もあるのだよな フリーマンの倒叙短編は案外とそこそこで、普通の謎解き短編の方が面白い 短編ではフーダニット形式ではあまり複雑なものは狙い難く、ハウダニット一本勝負な方が短編という特質を活かし易いから、トリックメイカーのフリーマンには合っているのだろう 例えば「フィリス・アネズリーの受難」などはまさにトリックだけの話だが、短編一本を支えられるだけの大掛かりなトリックなので、フリーマンの真骨頂って感じだ 「ポインティング氏のアリバイ」は、トリック以外のプロットや謎解き面で初期作に比べて技巧の進歩が見られ、読者によってはソーンダイク博士短篇の代表作に推す人も居るかも知れない |