皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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[ その他 ] ヘレン・ヴァードンの告白 ソーンダイク博士 |
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R・オースティン・フリーマン | 出版月: 2024年11月 | 平均: 6.50点 | 書評数: 2件 |
![]() 風詠社 2024年11月 |
No.2 | 8点 | 人並由真 | 2025/03/14 23:45 |
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(ネタバレなし)
1908年4月の英国。「わたし」こと細工工芸師の卵で23歳の美人ヘレン・ヴァードンは、その夜、事務弁護士の父ウィリアム・ヘンリー・ヴァードンと初老の金貸業者ルイス・オトウェイの会談をたまたま耳にした。どうやら父ウィリアムは公的に信託された高額の金を自分の判断で勝手に友人に融資し、その事実をオトウェイに責められているらしい。公職の事務弁護士の横領は最大7年の懲役もありうると脅したオトウェイはウィリアムに、今回の件に目をつぶる代わりにヘレンとの婚姻を希望した。オトウェイの申し出を断り、逮捕もやむなしと思うウィリアムだが、ヘレンは父を救うためにオトウェイの希望を受ける覚悟を決めた。だがそれがヘレンをさらに予想外の事態へと追い込んでいく。 1922年の英国作品。ソーンダイクものの長編第5弾。 今さら新規に発掘されるくらいだから翻訳されずに残っていた後期作品のひとつかと思ったら、実際にはかなり初期の一本だった。ちょっと意外。 物語の全編が「わたし」ヘレンの一人称で綴られるが、父親の咎から始まるその動乱の青春ドラマの積み重ねが、全くもって、日本アニメーションの「世界名作劇場」路線の一年間にわたって放映された連続テレビアニメ番組みたい。 しかしソレが本当に、めっぽう面白かった(笑)。 いやソコにあるのは謎解きミステリの興趣というより、シリアル連続ドラマ的なオモシロさっていうのは百も承知しているが、剛速球の娯楽新聞小説みたいな求心力で、読者の鼻面を掴んで振り回すフリーマンの職人作家ぶり、それがスゴクいい。 なおロンドンに舞台を移してヘレンの世話を焼く下宿のおかみさんが、ソーンダイクのおなじみの助手ポルトンの実の姉さん。この辺のキャスティングの妙もちゃんとソーンダイクもののファンの視線も意識してるよん、という感じでよろしい。 で、最後の4~5分の1でようやっとミステリっぽくなり、いやソコからも作者は無器用にマジメに、20世紀序盤当時の未成熟なパズラーっぽいものにもってこうとしてるのは重々わかるのだが、しかしなんか一方で、あー、本当はもっともっと、そこまでのヘレンと周囲の登場人物たちの通常の日々のドラマの方を書きたかったんだけどな……まあ、編集部も読者もソーンダイクもののミステリ期待してるんだから、しゃーねーな……と言いたげなホンネが何となく覗くようで、そういった作風の揺らぎようも、またゆかしいことしきり(笑)。 いや実際、最後まで読むと終盤のくだりは必要十分な描写はこなしてる一方、どーにもパワー不足な感が強いんだよね。すんごくバランス悪いぞ、この作品はその辺が。 とはいえ全体の4分の3くらいまでは、前述のように、当時の読み物エンターテインメントとしてすんごく面白かった。たぶんこれまで読んだソーンダイクものの長編の中では『ポッターマック氏』に次いで楽しめたと思う。 ちなみにこれが今年のSRの会のマイ・ベスト投票用に読んだ新刊の最後の一冊である。オーラスになかなか手応えのある一冊をしっかり楽しめて良かった(笑)。 (ま、これくらい「他の人の評価? 知らん。少なくともオレは存分に面白かった」というタイプの作品も、そーはそうそうないかもしれないのだけど。) |
No.1 | 5点 | nukkam | 2024/12/16 08:46 |
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(ネタバレなしです) 第一次世界大戦で軍医として活動したためか、1922年発表の本書は「もの言わぬ証人」(1914年)から久しぶりとなるソーンダイク博士シリーズ第5作の本格派推理小説で、待ち望んでいたファン読者も多かったでしょう。風詠社版で500ページを超す、かなりの力作です。父親の借金の肩代わりとして望まぬ男との結婚を決意するヘレン・ヴァードンの1人称形式の物語です。芯の強さを持っていて、運命に決然とした態度で臨む女性として描かれています。物語性豊かなのはいいのですが、ミステリーを期待する読者はミステリーらしさのない展開が長過ぎて冗長に感じるかもしれません。法医学探偵として有名なソーンダイクが本書では法律家的な立場であることが新鮮でした。もっとも最終章では科学的捜査に立脚した推理を披露しています。ただ捜査場面の描写がないまま法廷で証言しての一気の解決なので、完全に後出しの証拠提示ではありますけど。 |