皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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[ クライム/倒叙 ] The Uttermost Farthing チャロナー |
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R・オースティン・フリーマン | 出版月: 2016年12月 | 平均: 6.00点 | 書評数: 1件 |
ISM Publishing Lab. 2016年12月 |
Bibliotech Press 2020年09月 |
Blurb 2021年12月 |
No.1 | 6点 | 弾十六 | 2022/01/10 20:48 |
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今年は原書に手を出すことにしました。待ってても翻訳されそうもないけど、とても興味深いのを取り上げたいと思います…
1914年出版(米国)。初出ピアソン誌1913年4月〜9月(六回連載)。英国ではフリーマンの版元から「身の毛がよだつ」として出版を断られ、ピアソン社が1920年にA Savant’s Vendettaと題して出版。長篇、というより一つ一つが短篇としても成立している連作短篇集。 まずは冒頭を紹介すると… (ネタバレに気をつけて書いています) 医者と患者の関係で始まった「私」(Wharton)とHumphrey Challonerとの親しい付き合いは、彼の健康状態の悪化で終わりを迎えることとなった。死の前にチャロナーは自身に起こった昔の悲劇について語った。20年前、自宅に入った強盗に若妻が殺され、犯人の手がかりはあった(珍しいringed hairとはっきり残っていた指紋)のだが結局逮捕されなかったのだ。そしてチャロナーが、所有する秘蔵の不気味なコレクションを私に見せ、博物館の一角を占める人体白骨標本コレクション(かねてから私は他のチャロナー・コレクションと比べて、妙につまらない収集群だと思っていた)の秘密を私に委ねたい、と言うのだった… 大ネタはほぼ第一章で明らかになるので、各物語で色々なヴァリエーションを楽しむ、という短篇集である。 主人公チャロナーは裏ソーンダイクと言って良いだろう。ポーストにおける善良なアブナー伯父と悪徳弁護士メイスンとの関係と同じかな。なのでソーンダイク・ファンには必読の書だと思う。 現代でもPC的には問題のある話だと思われても仕方のないテーマ。そういうのを書いちゃう資質だから、犯人の心理に寄り添った倒叙探偵小説を発案出来たのかもしれない。 フリーマンはChallonerが登場する作品をもう一つだけ書いてる(ピアソン誌1917年3月号)。今のところ収録している作品集を入手出来ていないので内容がわからない。後日談は不可能だから、チャロナーが若い頃の話なのかなあ… とても気になる。 (以上2022-1-10記載) (2022-1-16追記: 最後まで読んだが、出版をためらうほどの「陰惨さ」は感じなかった。もちろん現代の基準では測れないのだが。抑制された表現なのでソーンダイク・ファンなら全然問題なし、と思います。) 以下、短篇タイトルは初出準拠でFictionMags Indexによるもの。原文はGutenbergで入手。 (1) A Hunter of Criminals I. Number One (Pearson’s Magazine 1913-4 挿絵Warwick Reynolds) 評価6点 単行本では第一章‘The Motive Force’と第二章‘Number One’に分離された。フチガミさんは雑誌タイトルを‘The First Catch’としている。 冒頭、不謹慎で異常な物語なので公表をためらう、と語り手が宣言している。確信犯、ということでしょうね。 20年前の事件(1889年発生のようだ)は指紋が残っていても犯人逮捕に結びつかない時期。知識としてはFauldsが1880年雑誌Natureに人間の指紋について記事を発表している。 全体的に英国流の不気味なユーモアがある仕上がり(中盤ややコミカル)。 (2022-1-10記載) ********* (2) A Hunter of Criminals: II. The Housemaid’s Followers (Pearson’s Magazine 1913-5 挿絵Warwick Reynolds) 評価6点 単行本では第三章。まあ第一標本は良いとして、次を期待する発想がイカれている。ちょっとハラハラする話。連載タイトルのhunterってそういう趣旨? 女性の扱いが当時を思わせる。コントっぽい幕切れ。 (2022-1-10記載) ********* (3) A Hunter of Criminals III. The Gifts of Chance (Pearson’s Magazine 1913-6 挿絵Warwick Reynolds) 評価6点 単行本では第四章。なかなか行動的な話。コレクターとしての成長がうかがえる。最後の列車でのエピソードが愉快。 (2022-1-10記載) ********* (4) A Hunter of Criminals. IV. By-Products of Industry (Pearson’s Magazine 1913-7 挿絵Warwick Reynolds) 評価6点 単行本では第五章。ちょっと展開が変わる。段々いろいろと上達してゆくチャロナー。新しい技術も覚えた。余裕たっぷりの態度が成功の秘訣かも。 (2022-1-12記載) ********* (5) A Hunter of Criminals V. The Trail of the Serpent (Pearson’s Magazine 1913-8 挿絵Warwick Reynolds) 評価5点 単行本では第六章。起承転結の「転」の章。前の章からしばらく時間がたっている。この話ではしなくても良い無理をしているところが不満。オートマチック・ピストルが登場する。モーゼル大型拳銃かパラベラム拳銃(ルガー08)あたりかなあ。軍隊が持ってきたマシンガンも登場する。これはマキシムのだろうか。Anglo-Aro War(1901–1902)で使用実績あり。(2022-1-14追記: 実際にロシア人亡命者ギャング(ラトビア系ユダヤ人)が自動拳銃で三人の警官を殺害した事件が1910年12月にあって、火器不足の警察は軍隊の協力を得て犯人を鎮圧したようだ。英Wiki “Siege of Sidney Street”参照。ギャングの拳銃はMauser C96 pistolとDreyse M1907) (2022-1-13記載; 2022-1-14追記) ********* (6) A Hunter of Criminals VI. The Uttermost Farthing (Pearson’s Magazine 1913-9 挿絵Warwick Reynolds) 評価5点 さて最後のエピソードは、内容については第一章でほとんど明かされているようなものだから、もうちょっと盛り上がりが欲しかったかなあ。でも、こんな感じがフリーマンらしい、といえば言える。 初めの方で言及されている“Paul the Plumber”は、上述のSiege of Sidney Streetから逃れたと言われる謎の男Peter the Painter(結局正体は不明のまま。英Wikiに項目あり)がモデルと思われる。本作のバックグラウンドは、当時ロシア亡命者ギャングが起こしていた凶悪事件なのだろう。 (2022-1-16記載) |