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[ クライム/倒叙 ] ソーンダイク博士の事件簿Ⅰ |
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R・オースティン・フリーマン | 出版月: 1977年08月 | 平均: 6.25点 | 書評数: 4件 |
東京創元社 1977年08月 |
No.4 | 6点 | 弾十六 | 2020/07/05 06:04 |
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第2短篇集『歌う白骨』(1912)のほぼ全篇4作(未収録は「オスカー・ブロズキー」だけ)とソーンダイク初短篇(1908)を含む第1短篇集(1909)からの3作に1924年発表の1作で合計8作収録。
7月4日はソーンダイク博士の誕生日(藤原編集室ネタ)。フチガミ個人訳ソーンダイク短篇全集企画記念。予行演習のため創元の1、2を読んでます。なんと言っても挿絵完全収録というのが良い。あらためてWEB「海外クラシック・ミステリ探訪記」を読んだら、博士の初出情報や雑誌に掲載されたイラストがたくさん載ってるんですね。是非、短編全集には初出を記載したフリーマン全著作リストもお願いしたいところです。 以下、初出はS・フチガミさん情報によるもの。時々FMIを参照しています。 ⑴A Case of Premeditation (米初出McClure’s Magazine 1910-8 挿絵Henry Raleigh)「計画殺人事件」評価6点 倒叙ソーンダイクもの。冒頭から素晴らしい作品。犯行前に犯人が色々なものを揃えるのですが、何故それを、が示されないのが面白い。警察犬を無茶苦茶批判してるけど、それは使いようじゃないの?と思いました。作者は犬嫌いか。これがフリーマンによる倒叙作品の初登場。執筆も実は先?(オスカー ブロズキーはPearson’s 1910-12初出) p16 年200ポンド♠️消費者物価指数基準1910/2018で114.4倍、現在価値322万円。 p17 チェンバー百科事典(Chambers’s Encyclopaedia)♠️10巻本の百科事典。初版1868年完成。1908年には改訂版(第5版?)が出ています。 p19 半クラウン銀貨(half-a-crown)♠️エドワード7世の銀貨(1902-1910)は重さ14.1g、直径32mm。半クラウン=2シリング6ペンス=0.125ポンド、現在価値2010円。なお1ペニー銅貨は同時期のものだと重さ9.4g、直径30mm、現在価値67円。半クラウンで4ペンスのお釣りなのでここでの買い物は1742円相当。 (2018-12-31記載) ⑵The Echo of a Mutiny (初出Pearson’s Magazine 1911-9 挿絵H. M. Brock, as “Death on the Girdler”)「歌う白骨」評価5点 倒叙ソーンダイクもの。偶然の犯行なので手がかりが豊富、博士には赤子の手を捻る程度の事件。 p65 リカルヴァ沿岸警備所の双子塔(the twin towers of Reculver)♠️海沿いの聖メアリ教会に12世紀に加えられたtwin towersで有名。原文に「沿岸警備所」はありません。 (2019-1-6記載) ⑶A Wastrel’s Romance (初出Novel Magazine 1910-8 as “The Willowdale Mystery”)「おちぶれた紳士のロマンス」評価5点 倒叙ソーンダイクもの。かつての素晴らしき日々への感傷、からの暗転が唐突。結末もちょっとどうかなあ。 p121 親しくしている弁護士さんの言い草ではないけれど「名前になんか、なんの意味も」ない(as our dear W. S. remarks, 'What's in a name—')♠️残念じゃがWriter to the Signetでは無い。沙翁Romeo and Julietteじゃのう… p133 イエール鍵(Yale latch-key)♠️1844年、米国人Linus Yale Jr(1821-1868)の発明。 p150 郵便局の人名簿(Post Office Directory)♠️英国ではstreet別、commercial(商売)別、trade(職業)別、court(貴人・公人)別などの名簿を郵便局が発行していたらしい。 p161 オランダ時計の文字盤みたいに表情がなかった(devoid of expression as the face of a Dutch clock)♠️オランダ製はシームレスに針が動くのかも。花のセリに使われるDutch clockは針が急がしく動くらしいので違うと思う。(2020-3-9追記) Dutch Clockとは盤面に贅沢な彫刻などない普通の振り子時計、とDickens関係のWebページに書いてありました。 (2020-3-8記載) ⑷The Old Lag (初出Pearson’s Magazine 1909-4 挿絵H. M. Brock, as “The Scarred Finger”)「前科者」評価4点 かなり手間のかかるトリック。倒叙として構成してみれば、作者も不自然だと気づくはずなのに… ソーンダイクの推理もパッとせず、警視が間抜け過ぎるのも面白くない。 p169 舌を見ただけで… 当てるバクダードの占い女(the wise woman of Bagdad… by merely looking at his tongue)♠️面白そうな話だが、調べつかず。有名な占い師なのか。 p189 昔話の狐と鳥(the old story of the fox and the crow): イソップ童話より。 p189 きみは、ぼくに一生けんめいしゃべらせておいて、自分は耳を楽しませながら(the old story of the fox and the crow; you 'bid me discourse,' and while I 'enchant thine ear,')♠️Shakespeare “Venus and Adonis”(1593)より。作曲家Henry Bishop(1786-1855)がこの詩をもとにBid me discourse(1822)という曲を作っている。 p202 ハンカチの隅にゴムのスタンプで(printed in marking-ink with a rubber stamp)♠️新しく買った半ダースのハンカチに奥さんが名前を入れた(p202)。洗濯屋に出している、というから紛れないための工夫なのか。(他の衣類にも名前を入れるのだろうか?) (2020-4-3記載) ⑸The Blue Sequin (初出Pearson’s Magazine 1908-12 挿絵H. M. Brock)「青いスパンコール」評価5点 現場のコンパートメントは通路が無いタイプなので、列車が動いている時は密室状態、だから最後に降りた者が犯人なのは確実、という話なのだが、当時は当たり前で説明無用の前提条件が現在の人間にはわかりにくい。(20世紀初頭から通路ありのCorridor coachが導入され始めたようだ) 本篇の解決がそーゆーことなら、物理的にはこーゆー現場の状況にはならないような気がします。(室内中央に戻る可能性はかなり低いと思う) p217 干し草を燃やす(set a rick on fire)♠️このrickは交換後の「枕木」ではないか?保線の話に干し草が出てくるのが不思議なのだが… (その後に家畜の話題が出てきて話が繋がってるように見えるが、本来、保線工事の話) p223『ゲインズボローの肖像に描かれたデボンシャーの公爵夫人』(Duchess of Devonshire in Gainsborough's portrait)♠️ゲインズバラが描いた「デヴォンシャー公爵夫人の肖像」(1787?) 大きな帽子の有名な絵。 (2020-3-8記載) ⑹The Moabite Cipher (初出Pearson’s Magazine 1909-?? 挿絵H. M. Brock)「モアブ語の暗号」評価6点 ジャーヴィスとアンスティ揃い踏みなのが楽しい。アンスティは反抗的な性格のようだ。謎の解決はフリーマンらしくて良い。(読者もジャーヴィスも置いてけぼりだが…) p237 救急車を(ambulance)♠️ロンドンで最初の救急自動車は1904年。救急用連絡ポストが市内数カ所に設置され、電信でセンターに知らせる仕組みだったようだ。(1907 ambulance city london policeで検索) p237 患者に変化が♠️ここら辺の描写は医者ならでは。 p238 ポーク・パイ(Pork-pie)♠️英国伝統の甘くないパイ。冷やで食べるのが良いらしい。ここの感じでは普通に製品として販売されていたのか。 p239 呼鈴のボタンの列(a row of brass bell-handles)♠️がオルガンのストップみたいに見える… と言うので画像を探したら本当にそんなのがあった。https://www.flickriver.com/photos/stonerabroad/6372235067/ 翻訳では「押した」となっているが原文ではpulledとあるので、このタイプなんだろう。 p239 赤毛型の典型的なユダヤ人(a very typical Jew of the red-haired type)♠️調べると欧米で「赤毛」はユダヤ人の属性という偏見があったらしい。だから「にんじん」や「赤毛のアン」なのか?とすると「赤毛連盟」はPC的にヤバいのか? p253 夕食の駅弁を買ったり(furnish ourselves with dinner-baskets)… 駅弁の冷えた鶏肉(cold fowl from the basket)♠️「駅弁」というから、そーゆー商品があった?と思ったら自分たちで食べ物をバスケットに詰め込んだ… という意味だろう。(駅弁というのも、おそらく日本独自のものではないでしょうか。ヨーロッパの大きな鉄道駅には、テイクアウト可能なサンドイッチ等を販売する様々な店舗が並んでいますが「テイクアウト用に最初からパッケージされたもの=弁当」は、まず見たことがないのです。〜“EKIBEN”は英語になるか? 2018.09.26 WEB「鉄道チャンネル」) p253 いらいらした口調で… 「もう七分も遅れている!」(exclaimed irritably. "Seven minutes behind time already!")♠️列車の遅れ7分でこれ。やはり昔は結構定刻どおりだったのでは? p260 あらゆる銀器に良心的な反感(a conscientious objection to plate of all kinds)♠️ソーンダイク博士の感想。贅沢を象徴してるから? (2020-7-4記載) ⑺The Aluminium Dagger (初出Pearson’s Magazine 1909-3 挿絵H. M. Brock)「アルミニウムの短剣」評価6点 立派な密室殺人なんだから、もっと盛り上げて良いのに。サスペンスが全く無い。筋立てが直線的過ぎるんだよなあ。 p274 「入浴」という神聖な儀式(The sacred rite of the "tub")♠️たまたまwikiにあった雑誌版(McClure’s 1910-7)を見たらmy bathとあっさり表現。単行本時に洒落た文章に直したようだ。 p286 不潔な猿を肩に乗せた男が手回しオルガンを持って... 神聖な曲とコミック・ソングの—『ロック・オブ・エイジス』『ビル・ベイリー』『クジュス・アニマル』『オーヴァー・ザ・ガーデンウォール』などを、ごちゃまぜに... 『ウェイト・ティル・ザ・クラウド・ロール・バイ』を演奏しはじめ…(there was a barrel-organ, with a mangy-looking monkey on it... Kept mixing up sacred tunes and comic songs: 'Rock of Ages,' 'Bill Bailey,' 'Cujus Animal,' and 'Over the Garden Wall.' ... started playing, 'Wait till the Clouds roll by.')♠️McClure版ではWait till the Clouds roll byのくだりは無い。沢山の曲名が出てきて嬉しいねぇ。調べたら大体判明したので満足です。 ①Rock of AgesはHymn. 詞Augustus Montague Toplady(1763), メロディは数種あるが、英国では"Redhead 76", also called Petra, by Richard Redheadが普通(英Wiki)。 ②Bill Baileyは1902年作詞作曲Hughie Cannon(米国人)のBill Bailey, Won't You Please.... Come Home?だろう。英Wikiに(Won't You Come Home) Bill Baileyの項目あり。 ③Cujus AnimalはRossiniのStabat mater(1841)第二楽章Cujus animam(テノール独唱)のことか。 ④Over the Garden Wallは作詞Harry Hunter、作曲G. D. Fox、1879年出版のmusic-hall piece。 ⑤Wait till the Clouds roll byは作詞H. J. Fulmer、作曲J. T. Wood、1881年出版のポピュラーラヴソング。 p288 サドラー基金賞の最高賞がもらえるぞ(They are worthy of Sadler's Wells in its prime)♠️基金賞では見当たらず。1683年リチャード・サドラーが見つけた、薬効のある井戸のほとりのミュージックハウスが起源の由緒ある劇場名だと思われる。日本語Wiki「サドラーズウェルズ劇場」参照。本作の頃はすっかり落ちぶれたボロ劇場だったようだ。スケートリンクや映画館に改装されたというのもこの頃か。全盛期のサドラーズウェルズ劇場みたいに古いネタ(あるいは素晴らしいネタ)、というニュアンス? p291 約2万ポンド♠️全財産。英国消費者物価指数基準1908/2020(121.09倍)で£1=15999円。2万ポンドは3億2千万円。 p294 小柄で、色白で、痩せぎすで、髭をきれいに剃って(he is rather short, fair, thin, and clean-shaven)♠️浅黒警察出動!「金髪で」 p295 お礼に一ソヴリン♠️探しものの謝礼。=£1なので15999円。当時のソヴリン金貨はエドワード七世、純金、8グラム、直径22mm。 p296 空中ごま(デイアボロ)(diabolo)… その玩具は、往復する紐から外れ(the shuttle missed the string)♠️英wikiに項目あり。ああ、アレね。日本では流行ってないと思う。 p297 背が高く、痩せていて、色黒で(was tall and thin, dark)♠️浅黒警察ふたたび出動!「黒髪で」 p299 この前の四季支払日(クオーター・デイ)に来たばかりで—六週間ほど前から♠️英国(イングランド&ウェールズ)ではLady Day(3/25)、Misdummer Day(6/24)、Michaelmas(9/29)、Christmas(12/25)で、スコットランドやアイルランドでは別の日が指定されている(英Wiki)。微妙にズレてるのがなにか伝統っぽい。本作は「夏の陽光(p278)」とあるので約6週間前が6/24、つまり8月上旬の事件。 p299 半ソブリン♠️御者への駄賃。8000円。当時の半ソヴリン金貨はエドワード七世、純金、4グラム、直径19mm。 p300 フランス製の小型武器—1870年の悲劇の形見—の廃物(obsolete French small-arms—relics of the tragedy of 1870)♠️ small armsとは「1人で携帯操作できる拳銃、小銃(ライフル)、ショットガン、手榴弾など」のこと。定訳は「小火器」。1870年の悲劇とは自信満々の仏軍があっさり敗れた普仏戦争のこと。 p305 どの部分をみても『イギリスの製作者が作ったもの』であることは明白(there is plainly written all over it 'British mechanic.')♠️その後の説明を聞いても明白だとは思えないが… まーお国自慢の一種かな。 p309 ドレイパー社製の変色性インク(Draper's dichroic ink)♠️Bewley & Draper社(Dublin)の黒インク。1886年の広告には“The Best Black Ink Known — Draper’s Ink (Dichroïc)“とある。dichroicは漆黒性と高輝度を併せ持った、という意味での「二色性」か。1891年の広告ではturns at once jet blackと表現してるので「変色性」で良いのか。 p310 インクを入れた石の壜(a stone bottle)♠️Stone wareの訳語は「炻器(せっき)」。半磁器や焼締めとも呼ばれ、日本では備前・常滑・信楽・伊賀焼きに見られる」ものらしい。ヴィクトリア朝に流行したようだ。 (2020-7-4記載; 2020-7-8追記) (8)A Mystery of the Sand-Hills (初出Pearson’s Magazine 1924-12; 米初出Flynn’s 1924-11-29 as “Little Grains of Sand”)「砂丘の秘密」評価5点 Flynn’sは有名な米国パルプ誌Detective Fiction Weeklyの前身。 ひた隠しにする依頼人にズバリと失踪者の特徴を言い当てる場面だけが楽しい物語。あまりに読者に手がかりが隠されているので面白い話として成立しません。御託宣をははぁと聞くだけ。 p318 背の高い、髭をきれいに剃った、色の黒い男だった (Tall, clean-shaven, dark fellow)♠️しつこいようですがdarkな髪の色だと思うのです。 p328『クランプス』というゲーム(the game of "Clump")♠️Webにclumpsという指定人数の塊を作る子供用ゲームの動画がありましたが… George Ellsworth Johnson著 Education by plays and games(1907)にYes, No, I don’t knowのいずれかで答える推測ゲームClumpsの項あり。源平戦で、推測が当たったら相手方から一人奪い、最後に人数が多い方のグループが勝ち、というゲームのようです。(kindle版を手に入れましたが、OCRの精度が低くてちょっと読みにくい…) p333 狐狩りの猟犬♠️ここでは大活躍してます。「犬嫌い」ではないらしい。⑴参照。 (2019-8-31記載) 以上で全巻終了。全体を通して捻りが無い感じ。ミスディレクションというかアッチに振ってからの〜意外な解決、というテクニックを使わないのがシリーズの物足りなさですね。ソーンダイク博士のキャラもおんなじで、欠点の無いハンサムキャラじゃ、可愛げ全く無しです。これで超美人だが超性格の悪い恋人or妻が登場すれば面白かろうに… まあでも第二巻も楽しみです。もちろんフチガミ全集も。1冊5000円じゃ収まらないのかな? あれ?弾十六得意のネタを書いてない…と思われた方もいるのでは?でもアレ書いちゃうとムニャムニャじゃないですか…なので以下、ちょっとぼかして銃関係のトリビアを書きます。 「ライフル銃」は、名称が作品中にバッチリ明記してあるので、興味がある人は各自でwikiを調べてくださいね。この銃にはwikiにある通り皮肉なエピソードがあって銃世界でも結構有名です。 「消音器(a compressed-air attachment)」が出てくる作品があるのですがマキシムの特許は1909年3月。となると作中年代の方が先になっちゃって整合性が取れないかも。手作りのオリジナルと考えれば良いでしょうか… 22口径(5.7mm)程度の小口径なら結構効果は高いようですが… 最後の方で「強力で大きな消音ライフル(a large and powerful compressed-air rifle)」とあるので犯人は空気銃に改造した、という設定なのかも。こっちの解釈なら博士が「いかなる爆発の痕跡も残さないために[attachmentを使った](prevent any traces of the explosive)」という発言とも合致します。フチガミさま、いかがでしょうか? 「携帯便利な武器—大口径のデリンジャー型ピストル(a more portable weapon—a large-bore Derringer pistol)」も登場します。お馴染み41口径レミントンダブル(1866)ですね。口径は大きいんですが、弾は寸詰まりで火薬量が少なく銃身も短いのでパワーはそんなにありません。 (2020-7-8記載) |
No.3 | 5点 | 斎藤警部 | 2016/05/24 19:31 |
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倒叙と科学捜査、二つもの目新しい看板を引っさげて颯爽と登場したホームズのライヴァル。
計画殺人事件/歌う白骨/おちぶれた紳士のロマンス/前科者/青いスパンコール/モアブ語の暗号/アルミニウムの短剣/砂丘の秘密書 (創元推理文庫) 地味で時折の退屈を混じえながらも、興味を繋げる物語の本領は脈々。 とは言え読後振り返れば、ちょっとばかりカサついた後味が舌に残ったかなあ。 本書のベースとなったオリジナル第一短篇集の表題作である「歌う白骨」は小学生のとき、ミステリアスでちょっと怖い題名に惹かれてジュブナイル翻訳で読んだが、その時はいまひとつ内容を理解しきれなかった記憶がある。 |
No.2 | 7点 | HORNET | 2014/09/14 09:20 |
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「ホームズのライヴァルたち」の一人、名探偵ソーンダイク博士の事件譚。倒叙推理小説の先駆者として名が知られるフリーマンだが、決してそれがメインではないことがこれを読むとよく分かる。かといって純粋なフーダニットでもなく、物語当初から登場する人物が最後に犯人として指摘されるというような形はまずない。メインは、(当時の)科学的な見識を駆使しながら、博士が「事件の在りよう」を解明していく過程にあるといってよい。そして、それが面白い。
また、博士の人情味のある采配というか、作品として嫌な終わり方がなく、ハッピーエンド的な終末を迎えるスタイルも氏の作品の特徴のように感じる。よって総じて読後感がよい。 さすが一時代を築いた作家という感じ。事件簿Ⅱも是非読みたい。 |
No.1 | 7点 | mini | 2009/02/22 10:21 |
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ホームズのライヴァルの一つで創元文庫版
掲載されたのがホームズ連載雑誌のライヴァル誌だった点など、ホームズ最大のライヴァルはやはりソーンダイク博士だろう ドイルとフリーマンは同じ医師作家だが性格はかなり違い、伝奇ロマン指向だったドイルに比べ、フリーマンは良くも悪くも典型的な科学者タイプで、ライヴァルたちの中では最も理系気質な人だと思う しかしそれが弱点でもあり、トリックの質だけなら本家ホームズやどのライヴァルをも上回るのに、物語性・表現力という面では魅力に欠ける ブラウン神父と並んで本家ホームズを脅かす存在ではあるが、ブラウン神父が独自の魅力でホームズとは別次元の存在感があるのに、ソーンダイク博士は最強のライヴァルではあるが結局ホームズのライヴァルという範疇からは逃れる事ができなかったようだ ところでⅠ巻ではオリジナルの第1短編集から3作、残りは倒叙短編集「歌う白骨」から一編を除いて全て採られている 当初はⅡ巻目を想定してなかったのかも知れないが、今となってみると第1短編集と「歌う白骨」でそれぞれⅠ、Ⅱ巻を構成し、Ⅲ巻目で他の短編集から採るという手もあったんじゃないかなと感じた 早川ならそうしたと思うんだけど、創元ってこういう編集過剰なところが嫌いなんだよな、編集者の親切心がかえって仇みたいなさ さらに倒叙に関して言えば、どうもソーンダイク博士と言うと、”倒叙形式”の発明者という視点ばかりで語られがちだが、いやむしろ普通の謎解き短篇の方が面白いけどなぁ まぁソーンダイク博士譚はフーダニット面が弱いので、最初から読者に犯人の正体をネタバレしている倒叙の方が、この作家としては弱点が目立たないという見方も有るのかもな でもさぁこの第Ⅰ巻にしても、『歌う白骨』所収の倒叙短篇よりも、普通の謎解き短篇である原著第1短篇集所収の短篇の方が面白かったりする 例えば「青いスパンコール」は、ある意味で馬鹿馬鹿しい脱力ものの真相なんだけど、ソーンダイク博士らしくてそれがイイ! 「モアブ語の暗号」も、ホームズ譚「踊る人形」に対して科学者探偵ソーンダイク博士らしい解決法だ これはあまりに暗号解読がややこしいので作者の意図には途中で気付いたが、「踊る人形」への皮肉も込められているんじゃないかなぁ 『歌う白骨』には嶋中文庫版が存在するけど、どこぞの出版社で第1短篇集の完全版を出してくれないかなぁ |