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ミステリの祭典

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平均点:6.26点 書評数:265件

プロフィール| 書評

No.145 7点 スティグマータ
近藤史恵
(2022/07/19 00:24登録)
「サヴァイヴ」「キアズマ」と変化球がきた後、今回は「サクリファイス」「エデン」と同じ白石の語り。ああ、私は白石の語りが好きだ、と気づかせてくれた。
「サクリファイス」「エデン」も白石の語りだったからよかったんだな。抑制が効いていて、基本的に冷静で、けれどときに熱くなる。熱くなっているるときも、語り口は冷静。ああ、この語りいいなぁ。白石の語りでの続編を早く書いてほしい。
とはいえ、「サクリファイス」「エデン」とプロットとして似すぎている点は気になる。次回作は別のプロットにしてほしい。
最後に、本作を読んだとき、めずらしい経験があったので書いておきます。
本作は、本屋の店頭で文庫化したのをみつけたのだが、そのとき「早速読もう」と思って読みかけていた小説は一旦止めて、買い求めた本作を読み始めた。読んでみると、途中で重要なキャラとしてヒルダという人物がでてくるのだか、読むのを一旦止めた小説が、なんと「ヒルダよ眠れ」だった。ヒルダなんていう名前を小説で読んだのは他に記憶に無いのに、たまたまその2作をこんな風に読むなんて、「いやいや、どんな偶然だよ」と唖然とした。


No.144 6点 キアズマ
近藤史恵
(2022/07/19 00:18登録)
「サクリファイス」シリーズ扱いだが、同じ自転車競技を題材にしている(同じ世界線の?)別キャラの話。シリーズとしていいのか?
「サクリファイス」シリーズとしては、疾走感に劣るので少し点は低い。(つまらなくはない)


No.143 7点 サヴァイヴ
近藤史恵
(2022/07/19 00:17登録)
「サクリファイス」での周辺キャラを主人公にしたサイドストーリー。
「サクリファイス」の世界が楽しめたなら、楽しめます。とはいっても、「サクリファイス」を読んでキャラを知っていないと、そんなに楽しめないかも、と思われるところはある。


No.142 8点 エデン
近藤史恵
(2022/07/19 00:16登録)
「サクリファイス」と比べるまでもなく、ミステリ要素はほぼ無しです。ミステリを期待する人は読む必要はないかもしれません。
ただ、美点は「サクリファイス」と同様なので、「サクリファイス」が楽しめたら、本作も楽しめます。「サクリファイス」にあったミステリ的無理がない分、かえって本作のほうがまとまっているかもしれない。舞台も海外になって、スケール感が大きくなっていて楽しめます。
とはいっても、「サクリファイス」と楽しみの質が同じすぎるので、「サクリファイス」より採点は下にします。


No.141 9点 サクリファイス
近藤史恵
(2022/07/19 00:15登録)
他の人も書いているが、ミステリとしては無理を感じる。それは、ある人物の心理がまったく理解できないから。といっても、それは本作のポイントでないと言いたい。
ミステリとしてではなく、スポーツ小説として傑作だと思う。
文章は軽快で疾走感があり、エンタメ小説としては最高。自転車競技のルールや駆け引きもストーリーの中でスムーズに語られ、キャラも立っている。(青春というには年齢が高いが)青春小説としての雰囲気もある。夢中になって一気読みでした。
どのジャンル読みにも、遠慮せずにおすすめできる傑作です。


No.140 5点 孤独の島
エラリイ・クイーン
(2022/06/24 00:09登録)
再読。まったくクイーンらしくない話だが、それなりによかった印象がある。はたして再読でどう感じるだろう?
まず冒頭、悪役側から描かれるが、この悪役に魅力がない。設定は類型的で、知性が感じられず、げんなりしてしまった。
主人公が登場してからは持ち直すが、中盤の裏のかきあいも、いまひとつもりあがらない感じがした。とはいえ、クイーンらしい部分もある。なにしろ、主人公が考える。行動する前に、まず考える。ああ、これはクイーンらしいなぁ。まあ、そのために捜査小説の味がでてきて、サスペンスが弱まってしまっているところがあるかもしれない。
終盤には熱い展開があり、全体的には悪くない。初読時はこの終盤の印象がよかったんだなぁと納得。
「最後の一撃」より後のクイーン長編では、上位になりますね。
1つ小ネタ。主人公が登場の直後、映画の感想をいう場面がありますが、内容からすると、映画は「明日に向かって撃て」ですね。ディリンジャーは「ジョン・デリンジャー」(日本語ウィキペディアに記載あり)のことでしょう。本作も「明日に向かって撃て」も1969年の発表です。


No.139 8点 ブルー・シャンペン
ジョン・ヴァーリイ
(2022/06/19 01:04登録)
「プッシー」と「タンゴ・チャーリーとフォックストロット・ロミオ」以外は既読。この2作を目当てで読んだ。
「プッシー」
ちょっと切ないSF話。いい話だけど、これがヒューゴー賞/ローカス賞受賞はちょっとできすぎ。
「タンゴ・チャーリーとフォックストロット・ロミオ」
これはいい。
最初はどういう状況かわからない。説明抜きで現場の描写がされる。それから少しずつ、どこで、なにが起きていて、以前になにがあったのか、これからどうなりそうなのか、見えてくる。状況が見えてくるにしたがい、どんどん深刻さがわかってくる。そこからはスリリング。一気読み。最終盤はかなり深刻な状況なのに、描写は淡々としていて、これもヴァーリイの味だ。これが絶版か。残念。
解説の「あらゆる悲劇がTVカメラの眼でとらえられ(中略)提示される、今の現実の世界の苦さ」というのは秀逸。解説が書かれたのは1995年だが、これは今のほうが皮膚感覚でわかる。
また解説に、「ブルー・シャンペン」の続編とあるが、メインストーリーは「ブルー・シャンペン」と全然絡まず、バッハ以外にも共通の登場人物が登場して「ブルー・シャンペン」の後日談が近況報告のように少しあるだけなので、続編といっても、映画のシリーズ(007シリーズでQとかMとかは毎回でるといったような)ものの第2作というほどの感覚だろう。シリーズ第3作がないのが残念だ。
短編集全体としては、これも『逆光の夏』と同レベルのベスト盤といってもいい。個人的には「残像」がもっとも好きなので、『逆光の夏』を押すけれども。


No.138 7点 さようなら、ロビンソン・クルーソー
ジョン・ヴァーリイ
(2022/06/19 01:01登録)
短編集『逆光の夏』がよかったので読んでみた。〈八世界〉全短編2。
「びっくりハウス高価」
これは描写を楽しむ話だろう。ストーリーは好みではなかった。
「さようなら、ロビンソン・クルーソー」
書評済みなので略。本短編集のベストの1つ。
「ブラックホールとロリポップ」
メインの設定が途方もない。そこから展開されるサスペンスフルな1編。本短編集のベストの1つ。
「イーノイノックスはいずこに」
1巻の「歌えや踊れ」で説明された”共生者”の冒険譚。本作は「歌えや踊れ」の後のほうが”共生者”のイメージがわいていいかも。
「選択の自由」
”変身”がまだ日常になっていない時代の人々の戸惑いを描いた話。現在のほうが、より現実のジェンダー問題とつながるというのは、さすがの視点というべき。
「ピートニク・バイユー」
異世界での法の問題が面白い。
以上だが、レベルは高いが、やはり『逆光の夏』がベスト盤だったのだと思う。


No.137 7点 汝、コンピューターの夢
ジョン・ヴァーリイ
(2022/06/19 00:59登録)
短編集『逆光の夏』がよかったので読んでみた。〈八世界〉全短編1。
「ピクニック・オン・ニアサイド」
少年の冒険譚。ただし舞台は月。ほろ苦い青春物の味わい。
「逆光の夏」
書評済みなので略。
「プラックホール通貨」
遠い宇宙空間でのぎりぎりでの交流を描いた話。孤独感と切なさがいい。
「鉢の底」
『逆光の夏』の解説にあった「太陽系名所案内の趣」がもっともでている1編。
「カンザスの幽霊」
人体改造などの〈八世界〉の設定がひねって使われたサスペンス風味の作品。本短編集のベスト。
「汝、コンピューターの夢」
サイバーパンク風の、おかしいような怖いような1編。どこか既視感があるが、本作の発表が1976年ということを考えると(『ニューロマンサー』が1984年)、これが最初期の作で、以降、類似作が作られたのだろう。
「歌えや踊れ」
”共生者”という設定を掘り下げた話。”共生者”については、次巻でまた使用される話がでてくる。
以上だが、レベルは高いが、やはり『逆光の夏』がベスト盤だったのだと思う。


No.136 8点 悪魔を呼び起こせ
デレック・スミス
(2022/05/26 00:22登録)
再読。(いまひとつだった記憶だけで、完全に忘れていて、初読の感覚でした。犯人も仕掛も忘れていた。やはり、どんどん記憶を失っているなぁ)
結果……。いや、これよくできてるなぁ。傑作。
事件が起きるまでが案外長く、視点人物もぶらつきがあり(複数の人物の心理が3人称記述で行われる)読みづらく、少し退屈して「やはり、記憶どおり、いまひとつかな」と思ったが、読み終わってみると、事件が起きるまでの退屈な部分にも、いくつもの伏線がはられていて、唸らされた。もちろん、事件発生後にも、いくつも伏線がはられていて、うん、これはすごくよい。
推理の取っ掛かりになる情報は(解説にある通り)少しフェアでないが、そこからパタパタと展開される論法もかなり説得力があってよい。解決編では、正面衝突しそうな2つの乗り物がするっとすり抜けるイメージが浮かんだ。エピローグに相当するシーンも(ちょっとピント外れ感もあるが)微笑ましく好感。途中に挟まれる密室談義(ロースンの小説が、作品内では現実扱いになってるし!)も楽しい。
なぜ、昔の私は楽しめなかった? 思うに、密室の解法が”知恵の輪”のように丁寧に外していくもので、一読、インパクトに欠けたからかもしれない。そして、そのひとつひとつは、どこか既視感があったからかもしれない。また、xxxのxxがxxならxxxxできると思ったからかもしれない。
まあ、探偵も個性に欠けるきらいはあり、ストーリーは一本調子といった感じもある。しかし、逆に言えば、謎解きミステリとして不要なものは入っていないとも言える。
もう一度いうが、よくできている。これは好き。


No.135 6点 ジョン・ブラウンの死体
E・C・R・ロラック
(2022/05/14 19:04登録)
最近「エラリー・クイーンの事件簿1」を読んだが、その中の「消えた死体」が、そのまま「ジョン・ブラウンの死体」(ジョン・ブラウンという人物が殺される)だったので、思いついて、積読だった本書を読んでみた。
冒頭、盗作の疑いがある作品の話で目を引くが、これはすぐ背景になり、その後はムーア地方で地道に捜査の過程をおっていく。このあたりの読み心地は、クロフツにきわめて似ていて、それでいてクロフツより情景描写に味わいがある。
そして、終盤、盛り上げて締め。と、よく出来た作品だった。
私は好感だけど、捜査の過程をおっていく部分が、人によっては単調と思うかもしれないなぁ。また、会話は常に冷静な感じで、もっといきいきとしていれば、より面白かったと思う。
推理については、心理の推定が説得力があって、実によかった。うん、クラシカルな英国ミステリを読みたいなという人には、文句なしにおすすめできる良作です。


No.134 6点 龍神池の小さな死体
梶龍雄
(2022/05/07 18:47登録)
古書が高価になっていた本書が復刊。過去の作品が容易に読めるのは喜ばしい。
さて、世評が高かったので期待をもって読み始めたが、期待ほどではなかったのが正直なところだ。
(プロットに少しふれてしまうが)タイトルのとおり、「昔の龍神池の事件を主人公が調べ直す」というかたちで物語は始まるが、途中から現在の事件に少しずつ焦点が移動していく。これがまず残念。昔の事件は、伝承などが絡んだ幻想的なものなのに、現在の事件はきわめて現代的(”現在”といっても、作品発表時期の”現在”なので、学生運動が盛んでかなり古色蒼然としているが)なので、味わいが違いすぎて、違和感が拭えなかった。
たしかに世評のとおり、メインの趣向は大胆なものだし、伏線はたくさん存在する。これはなかなか楽しめたが、見せ方が魅力的とは思えなかったのも、残念なところ。伏線の魅力は、「あれが伏線だったか!」という気づいたときの驚きにあると思うが、驚きを演出するようには感じられなかった。
とはいえ、かなり読みやすく、一気に読めるので、読んで損はないかな。
(ただし、1章はかなりの違和感があった。主人公が状況説明をするが、主人公がどういう人物かの紹介もないので共感もなにもないし、会話の相手も、会話をすすめるためだけの質問を適時入れていくだけ。これは読みすすめるのがちょっとしんどいかなと考えたが、2章からはかなり普通の描写になった。なんでだ?)


No.133 7点 赤の組曲
土屋隆夫
(2022/05/04 18:53登録)
再読。(面白いと思った記憶だけで、完全に忘れていて、初読の感覚でした。メインの仕掛けすら忘れていた。やはり、どんどん記憶を失っているなぁ)
メインの仕掛けは、とても好み。これに気づけば、パタパタとすべてがはまるようにできている。いいなぁ、これ。ただ、新本格以降の作品をたくさん読んでいれば、想定の範囲内になってしまうかも。
構成も、(目次にあるとおり)きれいな4章構成。各章毎に、カタリと事件の様相が変わるポイントがあって、飽きさせない。
ただ、別作の感想にも書いたが、土屋隆夫の文学味はやはり好きでない。本作では、(多分当時でも)保守的な考えが散見して、気が削がれるところがあった。動機も「またか」というもので、土屋隆夫の文学的射程はせまいだろうと思う。
とはいえ、それらは少量で、ほぼ「事件の発生と、その解明」に費やされているので、ミステリを楽しむ邪魔にはならない。「ビゼーよ、帰れ。シューマンは待つ」という言葉や、真相に気づくきっかけなど、印象的な部分も多い。土屋隆夫の私的ベストは本作で決まりです。


No.132 4点 エラリー・クイーンの事件簿1
エラリイ・クイーン
(2022/05/02 23:50登録)
数十年ぶりの再読。
ノベライズのため、心理描写が薄いからだろう。読み応えが軽い。
・「消えた死体」
元の長編から、事件の構図はそのままで、周辺状況を変更させた作品。
若いときは、タイトルになった「死体を消す理由」が気がきていると感じてかなり評価が高かったが、今回の再読では、それ以外がかなり評価が低い。
エラリーは名探偵らしくないし、警察連中はポンコツだし、オリジナルはこんなキャラじゃないよ、と残念だった。さらに、これはノベライズの悪いところがでてしまったのだと思うが、会話が安っぽいし、味気ない。特に、エラリーとニッキーの会話は、目も当てられない。(事件簿2の「完全犯罪」は、エラリーとニッキーの会話が少なかったので目につかなかったのだと思う)
「死体を消す理由」も、「最終的な落とし所はどうするつもりだった?」という点が疑問で、少し評価がさがった。
総じて、おすすめはできないかな。
・「ペントハウスの謎」
これもノベライズのためだと思うが、エラリーが、違法侵入したり、タクシーで追跡したりと、私立探偵小説の探偵のような行動をして、キャラが違う。ガジェット満載だが、定形のガジェットで面白みは少ない。


No.131 7点 ルピナス探偵団の憂愁
津原泰水
(2022/04/29 22:08登録)
「ルピナス探偵団の当惑」より、平均はかなり良い。1作ずつみてみよう。
「1.百合の木陰」
メンバーの病死という、ショッキングな出だしだが、語りは軽快。ラストの3行に見事に収斂する。
でも、1つ疑問点。xxがこんな複雑なことするかなぁ?
「2.犬には歓迎されざる」
ドードー鳥、ドイルの妖精写真、など、会食のシーンがとても楽しい。なにも事件がないのに、こんな会食いいなぁと思わせる筆致だ。しかも、それらが最後に伏線として立ち上がる。これは、よくできている。
でも、1つ疑問点。もっと穏便な方法があったんじゃないかなぁ?
「3.初めての密室」
冒頭の会話がいい。もうこの手の会話が主体の青春小説のほうが面白いのではないかと思う。また、犯人との対峙で、1作目のメンバーの出自が思い出される構成は見事。
でも、1つ不満点。事件が重すぎるよなぁ。
「4.慈悲の花園」
ある事実から一足飛びに真相にたどりつくが、これはちょっと飛躍が過ぎるだろう。卒業式前という設定やラストシーンと、本筋の事件がアンバランスと思われる。ラストシーンが、1作目に繋がるのがよくできているだけに残念。
1つ不満点。やはり、動機は共感どころか、理解もできない。
全体として、小説として読ませる部分はたくさんあって良いのだが、ミステリとするための作りに無理がある気がする。個人的意見では、”作者はミステリのセンスはない。でも、小説家としてのセンスはある”ということになる。


No.130 5点 dele ディーリー
本多孝好
(2022/04/25 22:56登録)
デビュー作を含む「MISSING」が、このミス10位に入っただけあって、本作もミステリ的作り”謎と解決”をもっている。
ただし、それは”依頼者は、何を、なぜ、削除してもらおうとしているのか?”という謎で、解決に相当するのは”依頼者の思い”だ。
それぞれ、なかなか感じさせる”思い”なので、読みやすい、ちょっとほろりとさせるいい話が読みたいときには、最適かもしれない。
けれど、「MISSING」のころと、なにか違う。「MISSING」には、もっと強烈な皮膚感覚のようなものがあった。うまくできているのだが、なにか足りないなぁ。


No.129 6点 エラリー・クイーンの事件簿2
エラリイ・クイーン
(2022/04/24 00:51登録)
数十年ぶりの再読。
ノベライズのため、心理描写が薄いからだろう。読み応えが軽い。けれど、それぞれの作品に、見どころがないわけではない。
・「〈生き残りクラブ〉の冒険」
このプロットは好きだ。ある日本の有名作品を思い起こした。手がかりの提示シーンの演出もよい。犯人指摘シーンの演出は、警視が無能に見えていただけないが、ラジオ向きの演出として作られたのだろう。
・「殺された百万長者の冒険」
プロットとしてはみるところはないけれど、手がかりと推理はなかなか面白い。スポーツ観戦と移動手段は、当時としてはキャッチーだっのではないかなと感じた。
・「完全犯罪」
元の長編と構図は同じだか、犯人指摘の段取りは違う。ある1点から事件の構図を転換させるまではよいが、その後の人物特定は即断だろう。とはいえ、競売シーン(元の長編と同じ展開だが、こちらのほうがテンポがよい)など、楽しいシーンもおおいので、佳作ですね。


No.128 7点 スペイン岬の秘密
エラリイ・クイーン
(2022/04/23 22:44登録)
今回は角川文庫版で読了。(角川文庫版は、解説が飯城勇三で充実しているのがよいけど、タメ口エラリーは違和感がある。だから、創元がいいんだけど、アメリカ以降はもうださないのかなぁ)
さて、今回エラリーは休暇中の事件で、クイーン警視は登場しない。(タメ口エラリーがなくてよかった)
休暇中ということで、少しゆるい雰囲気。この感じ、有栖川有栖に似てる! 有栖川の作風の原点はここだったか。
全体構成をみてみると、枠組みは初期3作に似ている。初日の捜査が完了するのがやはり200ページくらいで、その後、捜査の手が広がり、解決編に向かう。
今回、特徴的なのは、冒頭にエラリー以外の視点で事件を描いていること。これは、読み終わってから考えると、”事実、事件が存在したこと(偽証でないこと)”の担保だと思う。読者に対するフェアプレイを意識しているのだろう。
(ただ、この部分はすべて伝聞でも作れるので、もしそうしていたらと考えると、xxxxxxxという面白い趣向もできたと思うので、少し残念。フェアプレイを優先したのだろう)
枠組みは初期3作に似ているが、内容はかなりぢがう。初期3作が「捜査の段取り」を主体に描いていたのに対し、スペインは登場人物たちのドラマに力点が置かれている。アリバイ確認などの細かなデータの提示が少ないので、読みながらの試行錯誤(なにが起こっていたかを把握/整理に頭を使う)の量が少ない。謎解きに特化した作風がすきならば不満に思うかもしれないが、小説としては、こちらが多勢を占めるだろう。ドラマ部分もチャイナよりこなれていて、飽かずに読める。
読者への挑戦前に、徐々に盛り上げていくが、このへんは国名シリーズでも上位の出来だと思う。さらに(角川の解説にもあるが)犯人指摘のシーンは抜群によい。 ここだけで、大幅に評価アップ。
ただ、推理は「間違いなくそうだ」という感じではなく、ある点で納得いかないので(だって、あれはもっていく必要ないと思う)、若干減点。
総合的に、国名シリーズでは中位ですね。


No.127 8点 謎のクィン氏
アガサ・クリスティー
(2022/04/21 01:37登録)
私だけではなく他の人も同じだと思うのだか、作品を好きだと感じるとき、「面白い/面白くない」とは微妙に違うベクトルで、「愛着がわく/わかない」というのがある。私は他のクリスティー作のコメントに「クリスティーのよい読者ではない」と書いたが、それは「愛着がわく」作品がすくないからだ。(そんなに面白くないけど「愛着がわく」作品というのが、クイーン、カーにはあったりする)
本作は、クリスティー作では例外的に強く「愛着がわく」作品。1作ずつ見ていきたいと思う。今回は創元推理文庫の新訳で読了。
1.「ミスター・クィン、登場」
1作目から定形ができている。「時間をおいてから事件を再度検討する」「クィンはキューを出す演出家」など。本作は、「現在の問題」「10年前の事件」「その1年前の事件」と3層の構造で、かなり複雑だ。そのせいでかなり駆け足な部分もあるが、情報を的確に配置して、話の落とし所に説得力をもたせているのは、さすがにクリスティー。情報の出し方の上手さは、精読の価値あり。
2.「ガラスに映る影」
これはクィン物としては例外だろう。クィンをポワロと入れ替えても成立するほど、クィンが探偵をしている。ミステリの定形通りという感じで、話としては面白くないが、後期クリスティーの作風の萌芽ともみれるので、そういう視点では興味深い。
3.「鈴と道化服亭にて」
作中に「時間がたってからのほうが物事がよく見える」との文もあるとおり、典型的クィン譚。真相はかなり大胆な仕掛けだが、情報は的確にだされているので、読者はうまく誘導される。1作目と枠組が似ているが、「現在」の人物が整理され、ふと立ち寄った場所という設定の導入で語りもスムーズになっている。1作目(1924年)から本作(1925年)で、うまくなったのだろう。
4.「空に描かれたしるし」
サタスウェイトが捜査をするところがアクセント。「なぜ彼女はアメリカに?」が謎のポイントで、日常の謎のような趣がある。真相の構図は平凡だが、謎のポイントが気が利いているのがよい。
5.「クルピエの真情」
ミステリではなく、ある人物のある事情を引き出す人情譚。1920年代の社交界(どこまで当時の事実に近いのかはわからないが)が、興味深いが、他にみるべきところはないかな。
6.「海から来た男」
あるタイミングである場所に居合わせたサタスウェイトがある行動を行う話。ミステリではないが、ヒューマン・ドラマとして味わい深い。(時をおいて書かれた1編を除くと)雑誌掲載で最終話というのも、ふさわしい。
7.「闇のなかの声」
これは見るべきところがない。真相は納得感が薄いし、手段は迂遠すぎるし、とくに見せ場も感じられない。1つ覚書。クィンとサタスウェイトが出会う場面で「コルシカ島以来」とあるが、このコルシカ島は「世界の果て」のことと思われる。創元推理文庫の解説で初出順があるが、「世界の果て」「闇のなかの声」と連続して雑誌掲載されているので、きっとそのときの名残。
8.「ヘレネの顔」
ある場にいあわせたサタスウェイトが、運命に導かれるように(運命にキューを出されるように)、事件に絡んでいく。その絡み方にクイン物としての特徴がでている。サタスウェイトが自分の過去を回想するシーンがあったりして、なにか懐古的な雰囲気があり、お気に入りの作。
9.「死せる道化師」
物語の構造はクィン物の定形。過去の事件を再考することや、クィンの現れ方など、特徴が明確にでている。ミステリの作りとしては、絵が書かれた背景が不透明だったり、当時の捜査が杜撰すぎるだろう、など、評価できない点があるが、一同に関係者が会するという演出で一気に押し切っている。演出が冴えた1作。
10.「翼の折れた鳥」
ヒロインのキャラクターは魅力的だが、それ以外は見るべきところがない。事件も魅力的でないし、解決も唐突。クィンの登場の仕方も今回は違和感のほうが大きい。
11.「世界の果て」
ミステリとしては、事件と解決があわせて説明されるようなもので、なにもないに等しいが、本編の主眼は人間ドラマ。”世界の果て”と呼ぶ魅力的な舞台設定で、ある人物の思いに焦点があたる。謎の提示が前半にあれば、すっかり「日常の謎」。「日常の謎」の先駆ととらえて読んでもよいかも。
12.「ハーリクィンの小径」
本作も「世界の果て」と同様、ミステリとしては、なにもないに等しい。主眼はある人物の思いであり、最終作にふさわしく、別れの空気感が濃く漂う。作品前半で、<恋人たちの小径>の”小径の果て”が描かれ、これが最後に象徴的に思い出される構成が冴える。本編も、「日常の謎」の先駆としても読める。
ベスト3を選ぶなら、「海から来た男」、「死せる道化師」、「ヘレネの顔」。


No.126 8点 さよなら神様
麻耶雄嵩
(2022/02/27 13:37登録)
”冒頭に神様が「犯人はxxだ」という設定から、「犯人がxxとするならば、こうするのかな……」などと考えてしまい、そうすると、やっぱり想定のひとつに近いということになってしまい、意外性が感じられないなあ。(それを説得する伏線は巧みで意外だが、そういう意外性は、私の琴線にはひびかないのです……) これはいまひとつかな”
と思ったのは、前半3作まで。(前半3作は、世界設定の説明だったのですね) 中心は、後半3作。これはいい。
完全な連作短編で、必ず順番に読む必要がある。
最終作で、主人公はある状況におかれ、ここはやるせない。(麻耶雄嵩作に今までこんなのなかった)
さらに最終シーンで、主人公はある認識と、ある決断をする。これがいい。
最後の数行にハート・マークまで記載されるが、これ、「主人公は幸せになりました」というハッピー・エンド? それとも、「タークサイドにおちました」というバット・エンド?
どちらに受けとるかで読み手の価値観をあぶり出されるようなリドルストーリー感がある。
圧倒的な個性を強く評価します。
あと、4作目である驚きがあるが、これは後半3作の展開を事前に想像させないための予防工作だと思う。これがわかっていると、前半3作で、色々と関係を想像してしまい、後半の展開の一部も想像にあがってきてしまいそうだからだろう。

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