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ミステリの祭典

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セント・メリーのリボン
猟犬探偵・竜門卓もの ほか

作家 稲見一良
出版日1993年06月
平均点7.75点
書評数4人

No.4 7点 ことは
(2022/12/25 00:13登録)
かなり前に稲見一良を読んだときは、そんなにピンとこなかったが、今回は滲みた。年をとってセンチメンタルになったのかもしれない。
「焚火」は、ハードボイルド・タッチの1シークエンスのもの。「花見川の要塞」、「麦畑のミッション」は、現実的舞台に少し不思議が混じりこむファンダジー。「終着駅」は軽い掌編。
最もよかったのが「セント・メリーのリボン」。語り、展開とも、しっかり作り込まれた私立探偵小説で、登場人物の心情も実によい。
本棚の片隅に置いておき、また年を重ねたら、読んでみようと思う。多分、今より滲みるんだろうな。

No.3 8点 E-BANKER
(2017/01/21 21:09登録)
1996年発表。
山本周五郎賞を受賞した名作「ダック・コール」以降の作品を集めた作品集となっている。

⑤「セント・メリーのリボン」
表題作であるとともに、「ダック・コール」集録の作品に負けず劣らずの名作。主人公は作者没後にひとつの作品集として纏められる“猟犬探偵”竜門卓。彼は猟犬を中心とした「犬探し」を本業とする探偵。
もう、何よりも作品全体から漂うただならぬ“香気”が半端ない。作中の登場人物に「フィリップ・マーロウ」に例えられるほど、ニヒルで孤独が似合う男・竜門がこれまたカッコイイ!
そして、ひとりの少女に最高のプレゼントを渡す場面が印象深いラスト・・・。もう、完璧な作品である。
①「焚火」=実に短い作品だが、これも凄まじいほどの静謐感が心に染みる一編。老人と犬の存在感は作者ならではだろう。
②「花見川の要塞」=こちらはどこかファンタジックな作品。花見川沿いの草地で出会う少年とその少年を育てた老婆。彼らにしか見えない日本軍の列車をカメラに収めようとする男・・・。これだけ書いてると荒唐無稽な話にしか思えないが、読んでいるうちに一編の良質な短編映画を見ている気分にさせられた・・・。結局彼らの正体は? なんて聞くのは野暮なんだろうな。
③「麦畑のミッション」=これは・・・どうもよく分からなかったのだが・・・
④「終着駅」=①~③とはやや趣が異なる一編。東京駅の赤帽にスポットライトを当てた作品なのだが、ファンタジックとかノスタルジックというのとは違ってるし、ラストの唐突な終わり方が思わせぶりだ!

以上5編。
作者あとがきで触れているが、『誇り高き男の、含羞をこめた有形、無形の贈りもの』がテーマとなっている作品集。
「ダック・コール」を読んだときにも感じたけど、特に動物に対する描写、表現方法は図抜けている感がある。
そこには無骨だけれど、何とも言えない愛情や優しい目線を感じる。
そして、孤高で誇り高く、実にまっすぐな男たち・・・

分類すればハードボイルドということになるのだろうけど、ジャンルなど無意味に思えてくる。
ひとり、静かな夜に、フォア・ローゼスを飲みながら、時間を惜しむように楽しむのが稲見一良という作家ではないか?
そんな似合わないことを考えてしまった・・・
(とにかく⑤は秀作のひとこと!)

No.2 7点 itokin
(2013/12/26 19:05登録)
短編集だが、やはり猟犬探偵が活躍するセントメリーのリボンが一番好きだ。特に奇をてらった筋書きでなく平易で軽いハードボイルタッチは心地よく先を読ます、また愛を包んだ終盤は温かい気持ちにさせます。

No.1 9点 Tetchy
(2007/10/14 22:05登録)
あの名短編集『ダック・コール』よ、再び!ってな感じの短編集です。
表題作は猟犬探偵竜門卓初登場の作品です。
一番好きな作品は「花見川の要塞」ですね。
作者の自然に対する愛情の深さと大人の男に残るガキ大将への憧憬が余すところ無く注ぎ込まれてます。
とにかく全てが色彩鮮やかです。風景も物語も。

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