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平均点:6.01点 | 書評数:1809件 |
No.1809 | 7点 | 碆霊の如き祀るもの 三津田信三 |
(2024/11/03 13:50登録) 刀城言耶シリーズの第七弾。比類なき(?)人気シリーズとなった感もある本シリーズ。 相変わらずの「分厚さ」に心が折れそうになる、かと思いきや、スイスイ読まされるところも本シリーズらしい。 単行本は2018年の発表。 ~碆霊様を祀る、海と断崖に閉ざされた強羅地方の村々。この地を訪れた刀城言耶は、村に伝わる怪談をなぞるように起きた連続殺人事件に遭遇する。死体に残された笹舟。事件の現場となった「開かれた密室」の謎。碆霊様が遣わすという「唐食船(からたぶね)」とは何なのか。言耶が真相にたどり着いたとき、驚愕の結末が訪れる!~ 久し振りの「刀城言耶シリーズ」となった。他の方の書評を見ると、過去作(「首無」や「山魔」かな)と比べるとやや不満・・・的な意見が多そう。 うん。確かに頷けるところもある。でも、まあ充分だろう。作中に仕掛けられた滅茶苦茶な数の伏線を考えると、作者のスゴさを改めて感じることができた。 そして何より、本シリーズ名物(?)。真相解明前の「数多くの謎の列記」。今回はなんと、合計70個もの謎が提示される!(殺人事件だけでなく怪談の謎も含まれるが) 果たして刀城言耶は70個もの謎をすべて解明できるのか?ページ数も少なくなってきたぞ、とつまらない心配をしたりしながら読み進める私。 で、今回はいつもよりまして「行ったり来たり」が多い印象。真犯人が示されたと思いきや、「いや、やはり・・・」と言っては否定され、今度こそと思いきや「いや・・・」と否定される。 これを繰り返すこと数回。ついにたどり着いた真相! 多分、これが先の「不満」のひとつの原因なのかも。 要は、割と「陳腐」なのである。こういうプロットは他作品でも幾度かお目にかかってるし、割と「何でもあり」「トリック軽視」という感覚をもたらしやすいように思える。 例えば紹介文にある「開かれた密室」の謎。つまりは人の目ある状態の「密室」=「準密室」のことなのだけど、これは捨て筋の方が数倍魅力的に思えた(特に滝と洞窟なんて、なんて魅力的!)。 最終的にやや現実的な真相にもってきたのは何故なのかな? で、問題の「終章」。もちろん「驚愕」といって差し支えないのだけど、なんとも「寓話」的な印象ではある。明かされなかった真相はいかに? というわけで、読書としては充分な満足感を覚えた。確かに「トリック」や全体的な「謎の構成の妙」では「首無」や「山魔」には敵わないけれど、ここまでの大作を遺漏なく作り上げる作者にはやはり敬意を表したい。 今回は殺人事件とともに、過去の怪談やその舞台となった村々そのものの謎についてもかなりの分量を割かれていた。賛否あるかもしれないけど、個人的には本シリーズの特徴として良かったのではと思う。 (なんか上から目線的でスミマセン・・・) |
No.1808 | 6点 | パディントン発4時50分 アガサ・クリスティー |
(2024/11/03 13:48登録) ミス・マープル登場作品としては七番目に当たる長編。 タイトルだけを見てると、クリスティもトラベルミステリー書いてたのか?と思ってしまいますが、さて・・・ 1957年の発表。 ~ロンドンのターミナル、パディントン駅発の列車の座席でふと目を覚ましたミセス・マギリカディは、窓から見えた光景にあっと驚いた。並んで走る別の列車の中で、今まさに背中を見せた男が女を絞め殺すところだったのだ・・・鉄道当局も警察も本気にはしなかったのだが、好奇心旺盛なミス・マープルだけは別だった!~ 確かにこの導入部は実にそそられる。実に映像的でもある。 並走する別の列車のなかで、今まさに殺人が行われている現場を目撃するのだから・・・ 今回のマープルは、ほぼ完全に安楽椅子探偵である。で、マープルに代わって、事件の中心となるクラッケンソープ家へ単身乗り込むのが、“スーパー家政婦”アイルズバロウ女史。 このアイルズバロウがなかなか魅力的に描かれている。美貌も家政婦としての能力も絶品という設定。クラッケンソープ家のすべての男性に言い寄られる、というオマケ付。この当りも映像向きな作品という気がする。 そして、彼女のマープルにも負けないくらいの好奇心が、思わぬ場所での死体発見という結果につながる。 この死体は「いったい誰なのか?」というのが前半の謎の中心。事件の動機は、大富豪であるクラッケンソープ家の相続問題に違いないという筋でストーリーは進んでいく。そして発生する第2、第3の事件。 でも、多くのクリスティファンは知っている。「いかにもの本筋」は決して「真相」ではないことを。 当然、私自身も思いました。「こりゃ、絶対疑似餌(ぎじえ)に違いない」。 で、やっぱりそうでした。最終盤で明かされる意外な真相、意外な真犯人。 ただ最初から動機は読者に対してあからさまに示されてはいた。そういう意味では「なーんだ」というべき真相なんだけど・・・ うーん。他の方も触れていますが、どうも真犯人の動き方が理解できない。 死体の隠し方もそうだけど、ここまで事件を広げる意味は殆どなかったように思う。特に真犯人の「属性」を考えれば、もっともっと効率的なやり方はあったろうに・・・ この当りがどうにもモヤモヤした感じが残ってしまう作品。そこが今一つ高評価につながってない原因なのかも。 ただ、セントメアリミード村という狭い田園ミステリーではなく、広い舞台でも活躍するマープルの姿は割と新鮮に映った(これ本来ならポワロ向きの事件ではなかったかな?) |
No.1807 | 5点 | 時計屋探偵の冒険 アリバイ崩し承ります2 大山誠一郎 |
(2024/11/03 13:47登録) 「アリバイ崩し承ります2」ということで、地上波ドラマ化もされた前作に続く続編が早くも登場した感じ。 いつまでネタは続くのか、若干心配なところはありますが・・・ 単行本は2022年の発表。 ①「時計屋探偵と沈める車のアリバイ」=アリバイ崩しの常套手段といえば、それは「場所の錯誤」という訳で、これぞtheアリバイ崩しとでも評したくなる初っ端。このくらい警察も気づけよ!というのは野暮なのだろうな・・・ ②「時計屋探偵と多すぎる証人のアリバイ」=今回の容疑者は、なんと政治資金パーティーに集まった500人もの証人がある、という設定。被害者の動きも大きなカギとなるのだが、ここの一工夫に作者の旨さを感じた次第。 ③「時計屋探偵と一族のアリバイ」=今回は容疑者が従兄妹どうしの三人。いずれにも当然のようにアリバイありとの状況で、一度に三人のアリバイ崩しを依頼することに。逆転の発想が光るな。 ④「時計屋探偵と二律背反のアリバイ」=これはなかなかのテクニックが光る一編。ひとりの有力容疑者にふたりの被害者。ひとりの容疑者は当然同じ時刻にふたりの人間は殺せないわけだが・・・でも、かなりリスキーなトリックでは? ⑤「時計屋探偵と夏休みのアリバイ」=最終話のみ書下ろし。時計屋探偵が高校生の頃の事件。いわば、エピソード・ゼロ的なもの。ただ、期待したほどの大した仕掛けはなかった。 シリーズ前作。『「時を戻そう byぺこぱ』ではなく、『時を戻すことができました』」と書評で書いていたわけだが、あっという間に消えたねえ・・・ペ〇パ いやいや、そんなことはどうでもよくて、本作である。 全体的には前作よりもレベルアップしたような印象を持った。まあワンアイデアなのは同じなのだが、見せ方が旨くなったということだろうか。最近のお手軽な地上波ミステリー系ドラマっぽさはやむを得ないのかもしれない。 これなら次作も期待できるかな。 (個人的ベストは②かな。他もあまり差はない) |
No.1806 | 5点 | 友達以上探偵未満 麻耶雄嵩 |
(2024/10/06 14:18登録) これは・・・麻耶雄嵩版のラノベなのだろうか・・・ なぜか三重県伊賀市を舞台にしたふたりの女子高生を主人公とした連作短編集。 単行本は2018年の発表。 ①「伊賀の里殺人事件」=「犯人当て」の趣向も取り入れた一編目。「伊賀」といえば、当然「忍者」とそして「松尾芭蕉」。ということで、忍者と芭蕉のコスプレ(!)をするイベントで発生した殺人事件。なんと、芭蕉の俳句の「見立て殺人」などの要素も盛り込んでいるんだけど、メインテーマは「広義の密室」と作者お得意の「細かいアリバイ」。でも、うーん。そんなに面白くない、ような・・・ ②「夢うつつ殺人事件」=今度の舞台は高校内の美術室。美術室内で部員の殺人事件が発生するんだけど、これにも「広義の密室」問題がある。①と同様、「犯人当て」の趣向はあるんだけど、最後はあまりにもアッサリと真犯人が指摘される。でも、うーん。そんなに面白くない。 ③「夏の合宿殺人事件」=今回は打って変わって、ふたりの主人公の出会いから始まり、中学校の文芸部時代にあった夏合宿で発生した殺人事件が舞台。つまり「過去の話」である。合宿所建物のどん詰まりの部屋で発見された死体、となるとやはり今回も「広義の密室」がテーマとなる。今回は「もも」と「あお」の推理対決のすえ、思わぬ真犯人が指摘されることに・・・。でも、うーん。今回はマズマズというところか。 以上3編。 「麻耶雄嵩」・・・三重県上野市(現、伊賀市)出身。知らなかった。ついに生まれ故郷を舞台に作品を書いたわけか・・・。市長にでもタイアップを頼まれたのか? まあそれはいいとして。本作。イタイです。麻耶雄嵩もいい年のオッサン。オッサンが女子高生コンビのミステリーを書くなんて無謀すぎる。③ではふたりの過去を描いて、人物面の肉付けを図ろうとしているけれど、特段成功していない。 ①②③とも作者らしいロジックこそ盛り込まれているけれど、如何せん練りこみ不足、迫力不足、なにより作品としての熱量不足。まあライトなミステリーを目指しました、ということなら仕方ないけど、作者のファンは本作のようなベクトル作品は求めていないような気が・・・ 作品ごとに思いもよらぬ趣向や仕掛けを産み出す作者なので、一概に否定する気はありませんが、本作を持ち上げる要素はない、かな。 ということで、「麻耶雄嵩」を欲している読者であっても、本作はスルーしてまったく問題ないでしょう。 (敢えていうなら③がベスト、ではあるが・・・) |
No.1805 | 5点 | εに誓って 森博嗣 |
(2024/10/06 14:17登録) Gシリーズも四作目に突入。Φ→θ→τの次は「ε」(イプシロン)・・・ いったいこのシリーズにはどんな謎が仕込まれているのか? 今までにないスケールの大きささえ感じさせる。 2006年の発表。 ~山吹早月と加部谷恵美が乗り込んだ中部国際空港行きの高速バスが、バスジャックされてしまった。犯人グループからは都市部とバスに爆弾を仕掛けたという声明が出される。乗客名簿にあった「εに誓って」という団体客名は、「φは壊れたね」から続く事件と関係があるのか? 西之園萌絵が見守るなか、バスは疾走する~ 今回、本シリーズとしては一風変わった設定に見える。 紹介分のとおり、東名高速を走る高速バスがジャックされ、シリーズキャラである加部谷と山吹のふたりが人質となり巻き込まれてしまう。 で、終章前、くだんのバスがなんと谷底に落下してしまう! ふたりの運命は? っていう緊張感に包まれるわけなのだが、真相はいかに?という展開。 仕掛けそのものは、本シリーズらしからぬアナログ的なもの。それもそのはずで、仕掛けた方が真犯人側ではなく、〇〇の側だから・・・ 普通のミステリーであれば多少のヤラレタ感はあるのかもしれんが、なにせこのシリーズ作品なのだからなあー、若干の拍子抜け感はある。 そして何よりも”ε”の謎。これは少しも真相に近づくことなく終了。ますます深まる「なぜ」の連続。真賀田四季の残像もチラついてきているので、まあ徐々に謎は解けていくのだろう(本当?)。 そういう意味でも、本シリーズはひとつひとつの作品が大きな「章」であるということなのかな。 とすれば、このモヤモヤ感も致し方なし・・・。でも、今後の展開が心配にはなる。 |
No.1804 | 4点 | チェスプレイヤーの密室 エラリイ・クイーン |
(2024/10/06 14:15登録) 「E.クイーン外典コレクション」と銘打って刊行された作品。 J.ヴァンス(個人的にはよく知らない作者だが)が代作者となる。原題は“A Room to Die in” 1965年の発表。 ~父親の「自殺」で少なくない遺産を手にすることになったアン・ネルソン。現場は完全な密室状態であったという。しかし、あの父親が自殺するなんて考えられない。殺人であることを証明するためには、かの密室を破らなくてはならないのだが・・・~ 作者名こそE.クイーンとなっているけれど、やっぱり「似て非なるもの」という読後感。 邦題では華々しく「密室」と打ち出されており、その名のとおり密室トリックも登場する。それらしい「挿入図」も出てくるし、材料は揃っているわけだけど・・・ うーん。でも本当に「一応」だよね。解説者はえらく誉めてはいるけれど、どうみても「パッとしない」し、「しっくりくる」ものではなかった。 (そもそもwhyが相当弱いし) 「犯人当て」の趣向としても、いいとこ二級品。 登場人物も少ないし、「いかにも分かりやすい」人物は真犯人でないはずなのが、割とそれに近い人物が結局真犯人だったりする。(ネタバレっぽいけど) いいところは何かなあー? うーん。なんかある? 探偵役となるヒロインの造形くらいか。 やはり、クイーンの名は偉大で、所詮は代作者であったということなのか。 でも、外典シリーズではこれが一番との評もあるようなので、だとすると他の作品は手を出しにくい。 うん。ちょっと雑な書評だけれど、やむを得ない。 |
No.1803 | 7点 | 絶叫 葉真中顕 |
(2024/09/14 13:03登録) 本作の後、続編が発表されることとなる「女性刑事・奥貫綾乃」シリーズの第一作に当たる。 作者らしい重厚で奥行きの深いミステリーとなっているのか? 単行本は2014年の発表。 ~「鈴木陽子」というひとりの女の壮絶な物語。貧困、ジェンダー、無縁社会、ブラック企業・・・。見えざる棄民を抉る社会派小説として、保険金殺人のからくり、孤独死の謎・・・ラストまで息もつけぬ圧巻のミステリーとして、平凡なひとりの女が、社会の暗部に足を踏み入れ生き抜く、凄まじい人生ドラマとして・・・~ やはり、この作者の作品は読者を強く惹きつける「熱量」、「パワー」を感じる。 前回は「凍てつく太陽」という超大作に心を打たれた私なのだが、本作でも作者の「作品世界」の渦に吞み込まれた気にさせられた。 何といっても「鈴木陽子」である。 本作は彼女の半生を綴った大河ドラマといってよい。ただし、彼女の姿、心の内は他者の目線で描かれる(いわゆる二人称)。 高度成長期という時代を過ごした幼年期。企業戦士の父親の姿は家になく、常に母親と接することとなる。しかし、母親は「息子=弟」にしか愛情を注がない、捻じれた性格を持つ女性だった。引き続き起こる弟の死、父親の浮気そして蒸発。 いつの間にか家庭は崩壊し、彼女は大人になり平凡な生活を営むはずだったのだが・・・ 本作のもうひとりの主役が刑事・奥貫綾乃。国分寺のマンションで一年間放置された死体として「鈴木陽子」と対面することとなる。それから、綾乃は陽子の人生を遡ることとなる。捜査を行うごとに判明する怪しく、不可解で不穏な事実、出来事の数々・・・ そしてついに明かされる、大事件の構図。 いやいや、本作のストーリーを要約しようと思ったけど、とてもじゃないが書ききれない。 まさに、どこにでもいる、平凡な小市民だったはずである。どこで狂ったのだろうか? 読者は遡りながら考える。なんとも救いのない、不幸な偶然の連鎖もあった。 でも、思う。誰にでも起こりうるのだ。ほんのちょっとした運命のいたずら、ほんのちょっとしたボタンの掛け違え、そんなささいなことで人生はどうにでも動いていく。そんなどうしようもない、人の性(さが)を作者は描き出す。それが読者の心に強く訴えてくる。 いかんいかん。すっかり独白のような書評になってしまった。 そうはいっても作者はミステリー作家である。ラストも間近になって、本作全体に仕掛けられた大きな欺瞞、策略が明かされる。なるほど、これがミステリー作家たる作者の矜持か。 そして、これがここまで「鈴木陽子」というひとりの女性にフィーチャーした大きな理由でもあるのか。いやいや、さすがである。 まあ、正直なところ、既視感はあるし、アノ作品とアノ作品をつなぎあわせたような部分も見え隠れはしているけど、それでも十分に面白いし、堪能させていただいた。もちろん続編も読むだろう。 (ラストシーン。ってことは、当然アノ人が・・・ってことだよね。名前からして・・・) |
No.1802 | 5点 | サーチライトと誘蛾灯 櫻田智也 |
(2024/09/14 13:02登録) ~昆虫オタクのとぼけた青年・魞沢泉。昆虫目当てに各地に現れる飄々とした彼はなぜか、昆虫だけでなく不可解な事件に遭遇してしまう・・・~ ということでシリーズ第一弾の連作短編集。 2017年の発表。 ①「サーチライトと誘蛾灯」=探偵が殺される、という事件がいきなり発生。そこでちょっと意表を突かれた感じ。魞沢のキャラは最初から明確。 ②「ホバリング・バタフライ」=とある田舎の環境団体をめぐる”いざこざ”が事件の背景。山中で珍しい蝶を探していた魞沢が何となく感じてしまったことが、事件解決につながる。 ③「ナナフシの夜」=連作短編の王道とも言える”バー・ミステリー”。しかし、探偵役はバーテンダーではなく、あくまで魞沢。なんかよく理解できない男女の関係がねじれた結果・・・ ④「火事と標本」=日本推理作家協会賞の短編部門の候補にもなった作。やっぱり出来は良いと思った。事件の構図は固まったと感じた矢先、魞沢の口から語られる別の推理。こういう「切れ味」が短編には大事なのだろう。 ⑤「アドペントの繭」=教会での事件が舞台となる最終話。牧師の親と子の確執が事件の背景にはなっているんだけど、事件の真相はなんか取ってつけたようで腑に落ちなかったかったが・・・ 以上5編。 文庫版あとがきで作者自身が語られているとおり、本作の探偵役となる魞沢泉(えりさわ せん)は、「亜 愛一郎」の生まれ変わりのような存在。作者と泡坂妻夫との不思議な出会いのエピソードについても語れらていたけれど、人生ってそういう不思議な「縁」があるんだなあーと感じさせられた。 ということなので、1つ1つの短編についても、亜愛一郎シリーズを彷彿させて、どこかのんびりして、どこか浮世離れしたような雰囲気がある。ただし、作中に必ず1つ大きな仕掛けが施されていて、最後に少しだけ唸らされることに・・・。そんな感じの作品が並んでいる。 でも、うーん。「読み応え」という意味ではどうしても薄味にはなるね。 それが特徴といえばそれまでだけど、”玄人受け”はするけれど、一般読者にはどうかな。もう少し刺激、サプライズ感は欲しいところ。 (個人的ベストはやはり④。①や②も良いのだが・・・) |
No.1801 | 5点 | サンセット・ブルヴァード殺人事件 グロリア・ホワイト |
(2024/09/14 13:00登録) 某古書店をブラついて、なんとなく手に取った本作。当然予備知識なし。 とりあえず訳者あとがきを読んでみると、女性探偵ロニー・ヴェンタナ久々の登場とある。どうやらシリーズ四作目のようです。 1997年の発表。 ~サンフランシスコの女性探偵ロニー・ヴェンタナは、二十年前に交通事故で両親を失った。命日の深夜、事故現場に詣でた彼女の前に、一台の車が現れ、男性の死体を投げ捨ててゆく。被害者の身元も不明で、なぜか警察は捜査に熱心ではない。ロニーは目撃者の少女マリーナとともに事件を追い詰めるが・・・~ 予想よりは面白かった。(まあ期待の水準が低かったせいもありますが・・・) なによりサンフランシスコである。作中でも触れているけれど、ハードボイルドの始祖ハメットが選んだ舞台である。それだけでも心踊るというもの。実際、本作でもサンフランシスコの街中を飛び回ることとなる。 主人公である女性探偵ヴェンタナのキャラもなかなか良い。四作目ということもあるのか、キャラだちにブレがなく、魅力的に描かれていると思う。 メインテーマとなる事件そのものは特段込み入ったものではなく、悪く言えば単純なもの。 真犯人も最初からみえみえのところはあるので、そこら辺りは「ご愛敬」という感じかもしれない。まあよくある展開なのだが、警察VSヴェンタナという構図のなかで、協力者たちのサポートを得ながら、徐々に事件の核心に迫っていく。 ただ、惜しむらくはそれほどのピンチシーンがなかったことか。 こういうプロットだと「お約束」のように、終盤の最初辺り窮地に陥る、なんていうシーンがあるんだけどな。 作品に緊張感を出すという意味でも、ここら辺りは改善ポイントなのかも(エラそうに書いてますが・・・) トータルでいうなら、まあよくまとまっている作品。ただ、それこそコナリーのハリー・ボッシュシリーズなとと比べると「数段落ちる」のは否めない。 逆に言えば、軽く楽しめる作品には仕上がっているとも言えるかな。そこは好みの問題だろう。 |
No.1800 | 5点 | わずか一しずくの血 連城三紀彦 |
(2024/08/31 13:26登録) 「週刊小説」1995年5月12日号~1996年1月8日号まで連載。未完のまま埋もれていた本作。作者の没後、堰を切って発表された何作かの作品のうちのひとつをようやく読了できた。 感想は後述するが、「いやいや・・・これは・・・」という作品。 ~薬指に結婚指輪をはめた左脚の白骨死体が群馬県の山中で見つかり、石室敬三とその娘は、その脚が失踪した妻・母のものだと確信する。この事件をきっかけに、日本各地で女性の身体の一部が発見される。伊万里で左腕、支笏湖で頭部、佐渡で右手・・・それぞれが別の人間のものだった。犯人は、一体何人の女性を殺し、何のために遠く離れた場所に一部を残しているのか?壮大な意図が次第に明らかになっていく。埋もれていた長編ミステリが20年ぶりの刊行!~ これまで数々の連城ミステリーを読んできたが、まさに「連城にしか書けない」、いや「連城しか書かない」ミステリー。これほど連城のエキスが注入された作品も珍しいのかもしれない。そんな気さえした。 そういう意味では(連城ファンとして)、もう、十二分に堪能することができて満足。以上!で締めくくっても良い。 ただ、どうしてもこれだけでは締めくくれないなあー ミステリーとして破綻していることは特に言うまでもないのかもしれない。そもそも連城作品に対してロジックとか、リアリティとかいう単語を持ち出すこと自体意味のないことだとは思う。 紹介文にあるように、作品の後半、女性の死体の一部が日本各地で見つかることとなる。これだけ見ると、これって「占星術」のアレか?とどうしても考えてしまう。 ただ、これは全く「似て非なるもの」だった。 「占星術」のアレは、真の犯人の意図と現実的な必要性がうまくマッチングされた形で読者の前に提示されていた。よって、解決編でそれを見せられた読者は計算された作者の手腕に賞賛を贈ることができた。 本作のこれは、もう、犯人の意図のみである。犯人の出自や時代性、〇〇という場所の特殊性などで納得するところはあるけれど、これを示された読者は、ミステリー的な驚きではなく、「なぜここまで・・・」という疑問を抱くことになる。 それに対する回答はなく(ただ、女性をアレに見立てた、というところだけはアッ!と思わされたが)、読者は納得するかどうか自身で折り合いをつけなければならなくなる。 いやいや、もうよそう。そんなことをつらつら書いても詮なきことである。久々に連城節を堪能できたのだから十分ではないか。 でも、「ナツメロ」的な感想で連城を評価したくはないというのが個人的感想。それはもう、何度も何度も「アッ!」という作品に触れてきたのだから・・・(相変わらず、よく分からん感想ですなぁー) あっ、本作でキリ番。1,800冊目の書評だったことに今さら気付いた。しまった!! |
No.1799 | 5点 | 震えない男 ジョン・ディクスン・カー |
(2024/08/31 13:24登録) "ギデオン・フェル博士探偵譚。本格とオカルトが融合したいかにも「カーらしい」作品(のようには見えますが)。 実際にはどうなのかな?東京創元社の新訳(「幽霊屋敷」)で読了。 原題は、""the man who could not shudder"" 1940年の発表。 ~かつて老執事が奇怪な死を遂げた幽霊屋敷こと「ロングウッド・ハウス」。イングランド東部のその屋敷を購入した男が、幽霊パーティーを開いた。男女六名を屋敷に滞在させ、何が起きるか楽しもうというのだ。パーティー初日の夜、早速無人の部屋で大きな物音がする怪現象が発生。そして翌日には何と殺人事件が勃発した。現場に居合わせた被害者の妻が叫ぶ、「銃が勝手に壁からジャンプして空中で止まった夫を撃った!」・・・~ 前述したとおり、「道具立て」はいかにも、結構揃っている。 過去に残酷な事件が発生した「幽霊屋敷」が舞台。そして再び起こる不可思議な殺人事件。なんと、勝手に銃が起き上がり、引き金を引き、ひとりの男を銃殺してしまう! Why? そしてHow?である。 これが本作のメインテーマ。でもって、問題なのはその解法。 フェル博士がさんざんもったいつけた結果、終盤に告げた真相が〇〇石である。 なるほど・・・。けど、本当にうまくいくのかなあ? そこは甚だ疑問。 ただまあ、それはいいとして、巻末解説でも書かれているとおり、このワンアイデアで長編を引っ張るのはなあ、かなり無理がある。 でもって、その無理を少しでも薄めるためなのか、打った手が最終盤のドンデン返し、なのだろう。 これも、特に一番最後のやつ、いるかなあ? モヤモヤ感だけが残った感じだ。 ということで、辛口な書き方になったわけだけど、仕方ないかな。 他の佳作群と比較するとどうしてもそうなる。 フェル博士もかなり曖昧な態度に終始してるし・・・ |
No.1798 | 5点 | 婚活中毒 秋吉理香子 |
(2024/08/31 13:21登録) ~運命の出会いは命懸け。「暗黒女子」の作者が贈るサプライズ満載の傑作ミステリー~ 月刊ジョイ・ノベル誌に不定期に連載された作品を集めた連作短編集。 単行本は2017年の発表。 ①「理想の男」=これが一番ドンデン返しがうまく嵌っている。アラフォー女性が藁をもすがる思いで入会した結婚相談所。紹介された男は思いのほか高スペックの「上物」。でも、過去の女性たちを辿っていくうちに不穏な空気が押し寄せてくる・・・。ラストはまさに暗転。 ②「婚活マニュアル」=これもラストに軽くひっくり返される。婚活BBQで知り合ったとびっきりの美女と付き合うことになった幸運な男。しかし、その美女はどんでもなく金遣いの荒い女性だった。でもって、「ブサイク」な方の友人、でも料理がうまくて、切り盛り上手な女性に徐々に惹かれていくのだが、実はその女性は・・・。で更なる災厄が迫る。 ③「リケジョの婚活」=そういや最近見なくなったな、ナイナイがやってた「大規模お見合い番組」(コンプラ的な問題があったのかな?)。それを完全にパクったのが本編。最後の告白タイムで見事にフラレてしまうのだが、実はその後にもリケジョらしい魂胆があって・・・ ④「代理婚活」=実にイタイお話である。いわゆる親どうしが代理でお見合いをする婚活。子供にとっては「大きなお世話」である。普通は。しかも本編の父親。あろうことか先方の母親に恋してしまう。そして、何とかその母親に会うためにイタイ行動を繰り返すことに・・・。でも、最後はいい話になる。なぜ? 以上4編。 なかなか面白くはあった。でもちょっと安直かな。 全体的にネタの安易さが気にはなった。それと、ミステリー要素は極めて薄味。捻りもそれほどなし。 だから評点としてはこんなものになるんだけど、読み物としては気軽に読めて、そこは良い。 (一番シンパシーを感じるのは、②の美女に振り回される男。男は結局ルックス重視からは逃れられない、でしょ?) |
No.1797 | 4点 | アリントン邸の怪事件 マイケル・イネス |
(2024/08/03 14:10登録) (本作の設定では)引退した元スコットランドヤード警視総監、ジョン・アプルビイを探偵役とするシリーズの20作目。 如何せん作者の初読みなので、設定もなにもよく分からん状態で読んでます。 1968年の発表。 ~なごやかな夕食会のさなか、同じ敷地内で難事件発生! 不可解な連続怪死事件に隠された驚愕の真相とは? 民間人となった往年の名刑事アブルビイが再び犯罪捜査に乗り出す。退職した刑事の活躍を描く「ジョン・アブルビイ」シリーズの長編が登場~ なんとなくモヤモヤしながらの読書となった。これは、単に作者の“クセ”や筆致に慣れていないだけなのか? 序盤でタイトルにもなっている「アリントン荘」内で感電死した男が発見されるところから、事件は幕を開ける。 その後も、合計3件の連続殺人事件にまで発展する。するんだけど、何とも展開が緩いというか、私自身の頭の中が盛り上がらないままで過ぎてしまった。 このまま終わってしまうのか?と心配した矢先、オーラスも近くなってからが急展開! いやいや、唐突でしょ!というのは野暮なのだろうか? うーん。いずれにしても、それほどは面白く感じられなかったなあー これはもう、相性の問題かもしれない。 途中の登場人物間のやり取りも、よく言えば「ユーモア」(死語?)とウィットに富んだものなのかもしれんが、正直なところ「いる?」っていうのも多いように思えた。 これがイネスでも上位の作品なのだとしたら、他の作品には特に手を出さなくても良いだろう。 あくまで個人的な意見です。 |
No.1796 | 7点 | 殺人犯 対 殺人鬼 早坂吝 |
(2024/08/03 14:09登録) 嵐が吹きすさぶなか、孤島に取り残された施設に暮らす子供たち。そこに紛れ込んだ「殺人鬼」と、もうひとりの「殺人犯」。 なかなかに突飛な設定になっているようですが、本格ファンにとってはゾクゾクさせられる設定。そして一癖も二癖もある作者とくると・・・ 単行本は2019年の発表。 ~ここは孤島にある児童養護施設。嵐のせいで船が出せず、職員が戻れなくなっている。島には子供だけ。この好機に、僕・網走一人は彼女を自殺未遂に追い込んだ奴らの殺人計画を実行することにした。まずはボスの剛竜寺だ・・・。なぜもう殺されている? 抉られた片目に金柑のはまった死体。僕より先にこんなふうに殺したのは誰だ? 戦慄の連続殺人の真相を見破れるか?~ よくまあー。こんな設定、こんな仕掛け、おもいつけるよなあー、というのが読後の感想。 途中から薄々気付いてはいた。「殺人鬼」の正体は。 ただ、作品全体の「仕掛け」は気付かなかったなあー。もちろん違和感はあったんだよねぇ。 まあそれは誰でも感じる違和感なのだろうけど、作者の作風からして、ついついスルーしてしまっていた。 こんな「見立て」の使い方も初めてお目にかかった気がする。 最近あまり「見立て」が事件の本筋と有機的に関係しているパターンに触れてなかったように思うけど、それを逆手に取ったかのようなこの「使い方」・・・うーん。なるほど。 途中何度か挟まってくる「殺人鬼の回想」シーン。これもよく効いている。自然読者をミスリードさせる役割なのだが、如何せん、この手のミステリーに慣れてしまった読者にとっては、「ミスリード」を狙っていることはよめてしまう。 ただ、それを上回ってくるラストの真相解明。 そんな「遊び心」というか、この辺りは作者の真骨頂だなぁ。処女作の「〇〇〇〇〇〇〇〇殺人事件」(←〇の数合ってますか?)以来、一貫してエンタメ性と本格ミステリーの融合を謀ってきた作者。 今回もそこは貫かれてます。 他の方も書かれてますが、序盤からもう伏線のオンパレード。そこかしこに真相の伏線となる材料が撒かれてます。これがラストに一度に効いてくる快感。これが本格ミステリーの主眼であるとともに、作者の矜持でもあるのでしょう。 もちろんエンタメ性を重視すればするほど、重厚感はなくなり、ある種「軽~い読み物」になってしまうのは否めないところ。 でも、そこは・・・好みの問題ですから。 今後も「作者らしい」作品を徹底して書いていただきたい。まっでもたまには、重厚感たっぷりの「重い」作品も読んでみたい気はする。 (こういう「仕掛け」って、生成AIなら簡単に思い付けるのだろうか?) |
No.1795 | 5点 | トラップ 相場英雄 |
(2024/08/03 14:07登録) 主に「知能犯」の取り締まりが「お役目」の警視庁捜査二課。二課所属の刑事である西澤をメインキャラクターとした連作短編集。 まぁ「よくある」警察小説っぽくはあるのだが・・・どうか? 単行本は2014年の発表。 ①「土管」=どこの職場でもある「同期との出世争い」。当然警視庁にもあって、同じ二課に所属する同期が大手柄を挙げて警視総監賞をもらう、なんてことを耳にすれば心穏やかではない、当然。でも結果としては・・・? 因みにタイトルは警察の隠語で情報協力者の意味らしい。 ②「手土産」=突然に国会が解散され始まった選挙戦。西澤は選挙違反取締りのための応援で所轄に派遣されることに。そこには本部嫌いの主任刑事がいて、西澤に仕事を与えてくれない・・・。まぁ会社組織なんかではあるあるです。嫌な上司というのは、だいたい過去に自分も組織内で嫌な目にあっている・・・。って、本題は公職選挙法違反です。 ③「捨て犬」=捨てられた柴の子犬と現場重視のキャリア警察官。一見して似て非なるものどうし。でも、ふたつが重なったとき・・・どうなる? 警察小説といえば、キャリアVSノン・キャリアというくらいメジャーなテーマではあるけど、キャリアだって所詮人の子だよな。で、西澤はだいぶ成長した姿を見せる。 ④「トラップ」=会心の捜査、会心の結果! だったはずだったのに・・・まさかの結末が待ち受けている。人生、好事魔多しということなのかな。 以上4編。 実に手堅い作品です。正直なところ、どこかで読んだことのあるような、まさに警察小説の「雛形」という感じ。 まあでも一定の面白さはあります。 こういう手の作品が好みの方なら、一読の価値はあるでしょう。 続編も出ているのかな? (個人的ベストは・・・どれも同水準だな) |
No.1794 | 6点 | 殺人七不思議 ポール・アルテ |
(2024/07/05 13:42登録) 名探偵オーウェン・バーンズシリーズの二作目に当たる長編。先に四作目に当たる「あやかしの裏通り」を読んでしまっていたけど、あまり関係ないはず。 作者らしい不可能犯罪てんこ盛りのシリーズ。今回も「てんこ盛り」かどうか?気になるところ。 2006年の発表。 ~「探偵のなかの探偵オーウェン・バーンズが、お力添えにまいりました」。密室で生きたまま焼かれた灯台守。衆人環視下で虚空から現れた矢で体を射抜かれた貴族・・・。「世界七不思議」になぞらえた予告殺人の捜査に乗り出したオーウェン・バーンズは、「犯人を知っている」との報せを受ける。ある令嬢を巡る恋敵であったふたりの青年が、互いに相手こそが犯人だと名指ししたのだ。令嬢は彼らにこう言ったという。「私を愛しているなら人を殺して見せて。美しい連続殺人を!」。不可能犯罪の巨匠が贈る荘厳なる殺人芸術!~ うーん。いったいこりゃなんだ? というのが、読了後すぐの偽らざる感想。 「世界七不思議」になぞらえた七つの不可思議な殺人事件。突然に人体が燃えたり、目の前に水差しがあるにもかかわらず脱水症で死んだ男、ありえない位置から大弓で射抜かれた男、などなど、とにかく不可能趣味あふれる状況での殺人が続いていく。 これ自体は、いかにも「ポール・アルテ」らしい、ケレン味に富んだ作品といえる。 ただ、その解法がなあー。実に簡単に、実にアッサリと解決させられてしまう。 「もっと大上段に構えて、もっともったいぶって、大掛かりなトリックを見せろよ!」っていう読者の希望とは裏腹。割と地味に、割と現実的に、割と「まぁそうだよねぇー」という感じで片付けられていく・・・ そりゃ、ねぇー。仕方ないと言えば仕方ないのかもしれんが、ここまで期待のハードルを上げられた身にとっては、肩透かしというかしぼんだ風船、というような表現になってしまう。 あとはフーダニット。紹介文のとおり、序盤からほぼ特定されてしまう。ただ、そこには作者の欺瞞が隠れてはいるんだけど、テーマとしては「ミッシング・リンク」の関心もあるだろうに、そこは最初から捨ててかかっていることは残念ではある。 その代わりに作者が拘ったのが、ヒロイン役のアメリーとオーウェン・バーンズとのラブストーリー的要素ということなのかな。 (個人的にそこはそれほど響かなかったのだが・・・) ということで、いい意味でも悪い意味でも作者らしさ全開の作品とは言えそう。 個人的に本作をひとことで表現するなら「龍頭蛇尾」。 でも、決して嫌いではないです。(ここまで辛口評価しておいて?) |
No.1793 | 5点 | 四月の橋 小島正樹 |
(2024/07/05 13:40登録) 「詰め込みすぎミステリー」の第一人者である作者(個人的に勝手にジャンルを作ってますが・・・)。 初期の「那珂邦彦」シリーズなのだが、探偵役は相棒で弁護士の川路が務めている本作。 なぜか未読だったため、今頃になって読了。2010年の発表。 ~探偵役は鹿児島弁の抜けない弁護士・川路弘太郎。リバーカヤックが趣味のせいか、川では死体に出会い、河口で発見された死体の殺害犯として逮捕された容疑者の弁護を引き受ける。知り合いの女性弁護士の父親だったからだ。前作で見事な推理の冴えを披露したカヤック仲間、那珂邦彦の頭脳も借り、家族の秘密や昔のいじめ事件・・・と複雑な謎を解き、水上の大団円を迎える。日本版『川は静かに流れ』の傑作!~ 紹介文では「鹿児島弁が抜けない」とあるが、作中では自分のことを「ワシ」というくらいで、他は普通に標準語をしゃべっている(前作もノベルズ版では鹿児島弁が強かったようだが、不評を受けて文庫版ではほぼ標準語になっていた)。「川では死体に出会い」とあるが、確かに冒頭の場面で死体と遭遇するのだが、那珂が鋭い推理力を有していることを示すのみで、後の本筋とは殆ど絡んでこない。 などなど、「こんな紹介文書くなよ!」って言いたくなってしまった。 で、話を本筋に戻すのだが、残念ながら、実に残念ながら、本作に「詰め込みすぎミステリー」の要素は皆無。 「詰め込みすぎ」を期待した読者にとっては、肩透かしのような作品になってしまう。 「日本版『川は静かに流れ』」とあるが、残念ながら私は未読のため、それが正しいのかどうかは不明。なんだけど、ひとつの家族が織り成す物語は、まるで川の流れのように、まっすぐではなく、蛇行したり急に水量が多くなったり、人智を超えた偶然にさらされながら進んでいくことになる。 商売を成功させ裕福な暮らしをしているはずの父親、頭脳も美貌にも恵まれ何不自由なく育ったふたりの姉妹。そんな、何の不満もないはずの一家が、どうしようもない不運と抗しがたい流れにさらされていく・・・のだ。 ただ、「ちょっと食い足りないなあー」というのが正直な感想かな。 作者特有のリアリティのかけらもなく、偶然の連続に支えられた大掛かりなトリックを期待している向きにとっては、あまりにも地味すぎた。 確かにたまにはこういうテイストの作品ももちろん良いのだが、作者に期待しているのはあくまでも「詰め込みすぎ」なのだ、ということを再認識した。 誰が何と言おうとも、評論家が辛辣な評価を下そうとも、いつまでも「詰め込みすぎて」欲しい! 読者とは勝手なものです。でも本音だからしようがないでしょう! (リバーカヤックの蘊蓄は確かに多すぎ! でも面白そうだ) |
No.1792 | 5点 | 誘拐の季節 西村京太郎 |
(2024/07/05 13:39登録) まだまだ未読がたくさん残ってる?と思われる、作者の短編作品。 本作は昭和40年代に雑誌に発表された短編作品をまとめ、双葉社が編んだ作品集。 2004年に新書版が発表されている。 ①「誘拐の季節」=人気女優が誘拐された! しかし、誘拐犯と思われる四人の男たちが次々に殺害されていく・・・。まあこの手の話によくあるカラクリですな・・・ ②「女が消えた」=新興宗教が広まる田舎の町で忽然と消えたひとりの若い女性。町中の人に尋ねても誰も知らないという・・・古臭いプロットではある。あと、どうしようもない昭和臭 ③「拾った女」=現代なら総スカンされそうなタイトルである。モテない男がなぜか美女にモテてしまう。そう、当然ウラがあるわけで・・・そういう話です。 ④「女をさがせ」=モテない男がなぜか美女にモテてしまう。そう、当然ウラがあるわけで・・・そういう話です。アッ!③と被ってしまった! でもそうなんです。 ⑤「失踪計画」=いくら何でも安易すぎるだろ! こんなユルユルの計画!ということで、最後にはアッサリと捕まってしまいます。アーメン。 ⑥「血の挑戦」=ラストはタイトルからも想像がつくとおり、ハメット風のハードボイルド作品。ただし、いかにも生煮えで中途半端な最期を迎えてしまう展開で・・・ 以上6編。 今回の作品集はライト級。凝ったプロットなんてものは殆どなし。 まあそれも仕方ない。なんせ掲載誌をみると、ひと昔もふた昔も前のグラビアメインの三流?雑誌ばかり。 さすがの若き日の西村御大とはいえ、何でもかんでも全力投球というわけにはいかんでしょう、と勝手に推測して納得した次第。 多分、御大ならこの程度の作品、一日で何作も書いていたんではないか? (個人的ベストは、作者の嗜好の片鱗が伺える⑥かな) |
No.1791 | 5点 | ホテル1222 アンネ・ホルト |
(2024/06/09 13:18登録) 女性捜査官「ハンネ・ヴィルヘルムセン」を主人公に据えたシリーズの八作目に当たる作品。 ちょっと前にシリーズ前作である「凍える街」を読了して、作者に対しても少し興味が出ていたので、次作も手に取った次第。 2007年の発表。 ~雪嵐のなか、オスロ発ベルゲン行の列車が脱線、トンネルの壁に衝突した。運転士は死亡、負傷した乗客たちは近くの古いホテルに避難した。ホテルには備蓄が多くあり、救助を待つだけのはずだった。だが翌朝、牧師が他殺体で発見された。吹雪はやむ気配を見せず、救助が来る見込みもない。さらにホテル別棟の最上階には正体不明の人物が避難している様子。乗客のひとり、元警官の車椅子の女性が乞われて調査に当たるが、事件は一向に解決せず、またも死体が・・・~ 紹介文のとおり、本作、場面設定でいえば、「嵐のために外界から隔絶された究極のCCで他殺体が1つ、また1つ発見される」という、古き良き本格ミステリーのフォーマットが採用されている。 巻末解説によると、作者自身も敬愛するA.クリスティの諸作(敢えていうと「そして誰もいなくなった」と「オリエント急行の殺人」)のオマージュを狙った云々と書かれている。 ただし、作品のプロットや雰囲気はかなり異なっている。 はっきり言って、本格ミステリーの風味は相当薄味だと思う。一応、最後にはハンネが避難した乗客を集めて真犯人の指摘を行うのであるが、真犯人の絞り込みというか、その辺の興趣は個人的には殆ど感じられなかった。 伏線が全くないとは言わないけれど、それ以外の雑事の描写が多すぎて、殺人事件の解明そのものに集中できないと言えばいいのか・・・。 これが北欧ミステリーの特徴? どちらかというと、極限状態に追い込まれたハンネの心象や過去、同居人等への思いを語る場面が多くて、多分に映像向きの作品のように思えた。 あとは、これも巻末解説の受け売りだけど、ノルウェーという国に対する作者なりの考察を作中に反映させているのかな? 前作でもそうだったけど、雪また雪に埋もれる街、人々は割と敬虔だけど、どこか秘密を抱えているような人が多いetc。本作でも〇〇人、〇〇人という表記が結構多いし、ハンネの感覚も人種で分かれている気がする。 ということで、結構ヘヴィーな読書になった。 単にCC設定が好きだから、という理由だけで本作を手に取ると、「なんか違う!」っていう感想になるかも。 本作はシリーズ八作目ということだけど、現状簡単に手に入るのは前作と本作のみということのようなので、うーん、しばらくは他作品は読めない(読まない?)かな・・・ ただし、「つまらない」という評価ではないので、悪しからず。 |
No.1790 | 6点 | ボーンヤードは語らない 市川憂人 |
(2024/06/09 13:17登録) 個人的に好評を博している「マリア&漣シリーズ」初の短編集。 魅力的な謎の提示と切れ味のあるロジックは短編でも同じなのか? 興味のあるところ。 単行本は2021年の発表。 ①「ボーンヤードは語らない」=本シリーズのフォーマットどおりのタイトルを冠した一編。時系列でいうと、処女作の「ジェリーフィッシュは凍らない」の後日譚的な位置付けのよう。短編らしく、最後に構図が反転してくる。でも、やや地味かな。 ②「赤鉛筆は要らない」=漣がまだ日本にいる頃(=刑事になる前)の事件。これぞ純正「雪密室」の本格ミステリー。これまでも数多のミステリー作家たちが挑んできたテーマ。作者はいったいどんな新しいアイデアを盛り込んできたのか? で、新しいのは「足跡のつけ方」なのかな? ある意味斬新ではある(雪道でそんなことをしている、という意味で) ③「レッドデビルは知らない」=タイトルの『レッドデビル』とはマリアの学生時代のあだ名。ハイスクールの寮生だったマリアと親友が巻き込まれた殺人事件。純粋無垢に見えた親友には大きな秘密があった! そして、マリアに残った苦すぎる傷・・・。 ④「スケープシープは笑わない」=マリア&漣が初めてコンビを組んだ事件として描かれる。ただ、これも実に「苦い」思い出となってしまう。アリバイトリック?と思わせておいて、最後には事件の構図が反転させられる。 以上4編。 作者の器用さを再認識した本作。 ただ、短編を書くのはあまり得意ではないのかも。いつものマリア&漣シリーズの長編に比べて、どこか「窮屈」な作品になっているような感じを受けた。 当然だけど、字数制限の緩い長編の方が伸び伸び書けていて、面白さも数段増すというイメージ。 今回は、マリアと漣の「エピソード・ゼロ」的な作品で、シリーズファンに向けた作品ということかもしれない。 ということで、評点は若干かさ上げ気味に。 (個人的ベストは、うーん、②かな・・・) |