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平均点:6.00点 | 書評数:1833件 |
No.1833 | 6点 | Blue 葉真中顕 |
(2025/03/15 13:52登録) 「絶叫」(2014年)に続く、「女性刑事・奥貫綾乃」シリーズの二作目。 本作は、まさに「平成」という時代を総括するかのごとく、平成が始まった年から、終わった年までが舞台となる作品。 単行本は2019年の発表、 ~平成15年に発生した一家殺人事件。最有力容疑者である次女は、薬物の過剰摂取のため浴室で死亡。事件は迷宮入りとなった。時は流れ、平成31年4月、桜ヶ丘署の奥貫綾乃は、「多摩ニュータウン男女二人殺害事件」の捜査に加わることに。ふたつの事件にはつながりがあるのか・・・? 平成という時代を描きながら、さまざまな社会問題にも切り込んだ社会派ミステリの傑作~ もはや言うまでもなく「力作」である。いつもながら、作者の物語を紡ぐエネルギー、思いには頭が下がる。 今回も単行本で450頁を超える長尺の物語。目くるめく作品世界に翻弄されながらの読書となった。 特に本作は、他の方も書かれているとおり、「平成」という時代のさまざまな政治、文化の流行や社会の変遷、エポックメイクな事件を織り交ぜ、自分自身の過去にも思いを馳せることになった。 確かに、「平成」とはよく言ったもので、世界情勢はさておき、日本はとにかく「平和」な時代だったのは間違いない。ただし、「平和」という仮の姿のそこかしこで、さまざまな「ひずみ」が露見してきた時代でもあったんだろうなーと再認識した。 話を本筋に戻して。 前作では事件に真摯に立ち向かう、クールで切れ者キャラという印象だった刑事・奥貫綾乃。本作では殺人事件の真犯人を追いながら、自分の子供を愛せなかったという拭い難い後悔と、自身への絶望と闘うこととなる。 そして、もうひとりの主人公が「青」こと「Blue」。無戸籍児として生まれ、劣悪な家庭環境で育てられた少年。彼の半生についても、二人称という形式で語られていく。 「親子の愛」。それは普遍的で当たり前のものだと思ってきた。しかし、平成の時代のうねりのなか、その普遍的な「価値観」を持てない親がいた。悲しいのは、子供を愛せない親に育てられた子供は、親になったとき、自身もまた子供をうまく愛せない親となってしまうことなのだろう。生きていくなかで、血縁のない「家族のようなもの」を得たBlueだったのだが、まるで昔の自分のような子供に接したとき、新たな展開が・・・。 ふたりをはじめ、さまざまな関係者があるひとつの場所に集結を始めた終章、悲しく切ないラストを迎えることとなる。ただ、綾乃の心は、今回相棒となった若き女性刑事・藤崎司の言葉で、救われることとなる・・・(良かった) ただ、いつもなら重厚な物語のなかに、ミステリ作家たる矜持を示すように、ミステリらしいギミックが仕掛けられてきたのだが、本作はそれがかなり薄味だったのがちょっと残念。 悪くいうなら、「想定の範囲内」のまま進んでいったという面はあった。 ということで評価としては、前作(「絶叫」)の方が上になるなあ。 まあ、次作では前向きになった奥貫綾乃に会えることを期待したいところ。 |
No.1832 | 5点 | ネロ・ウルフの災難 外出編 レックス・スタウト |
(2025/03/15 13:49登録) 「ネロ・ウルフの災難~外出編」と名付けられた作品集。別に「(同)災難~女性編」という姉妹編(?)もあります。 どちらもネロ・ウルフが“苦手なもの”というくくりで集められたという次第。まあ、それだけ作品数が多いということなんでしょうね。 本作は2021年に刊行されたもの。 ①「死への扉」=洋蘭をこよなく愛するネロ・ウルフ。洋蘭の飼育係が病欠するに至り、後任候補をスカウトするために外出。で、なんだかんだやってるうちに、温室内で女性の死体に出くわすことに・・・。現地の警官の妨害に遭いながらも一家の面々を集めて真犯人を指摘!って書くとカッコいいけれど、これってもしかして「偶然」? ②「次の証人」=ある殺人事件の裁判に証人として出廷したネロ・ウルフ。しかし、事件に疑念を抱いた彼は、裁判所から逃げ出し、事件の究明をすることに。電話交換業界というこの時代ならではの舞台設定。ただ、多数が出てくる交換手の女性の書き分けが甘いような・・・ ③「ロデオ殺人事件」=NYの真ん中でまさかのロデオ大会を開催するという剛毅な舞台設定。大勢の人間が集うなか、姿が見えなくなっていたカウボーイが死体で見つかる。そう聞くと面白そうな舞台設定なのだが、途中がとっ散らかっていて、うまくのみこめなかった部分あり。ネロ・ウルフの真犯人特定のロジックもあやふや。 以上3編+ボーナストラックあり。 相変わらずウルフとアーチーのコンビは安定している。 今回は外出しているためか、いつもよりもウルフの覇気がない気はしたが・・・ うーーん。いいんだけどね。どうもね。 いつも高評価にならないんだけど、本作もそうなってしまった。 いい意味でも、悪い意味でも安定感は十分。 (個人的には①が一番いいかな) |
No.1831 | 6点 | 罪の声 塩田武士 |
(2025/03/15 13:47登録) 今さら「グリコ・森永事件」である。一応私は幼い頃の記憶が多少残っていますが、多くの方は、もはやこんな事件があったことさえ知らないという時代なんだろうと思います。 ただ、作中に書かれているとおり、ここまでの「劇場型」犯罪はこれ以前もこれ以降もないようには思えます。 2016年の発表。 ~京都でテーラーを営む曽根俊也。自宅で見つけた古いカセットテープを再生すると、幼い頃の自分の声が。それは、日本中を震撼させた脅迫事件に使われた男児の声と、まったく同じものだった。一方、大日新聞の記者、阿久津英士も、この未解決事件を追い始め・・・。圧倒的なリアリティで衝撃の真実をとらえた傑作~ こういう手のミステリ。決して個人的に嫌いではない。 ただ、よくこの「グリコ・森永事件」を題材に取り組もうと考えたなあーという、まずはその志の大きさに敬意を表したい。 冒頭にも書いたように、自分自身がこの事件を報道等で見たときは幼い子供だったので、本当に表面的なものでしかなく、今回、本作に触れることで、より深いところまで改めて知ることができた。 そういう意味では感謝したいくらいの作品&作者。 実際、本作で書かれたことが真実にどれだけ近づいているのかは不明だけど、株価操作という側面なんかは「さもありなん」という気にはなった。 劇場型であればあるほど、本当の狙いはきっとこういう「手堅い」というか「現実的な」動機があるのだろうと思う まあこういう推理は当時から割とよくあったのかもしれないし、本作が格別真相に迫ったという訳でもないのだろうなあ。 そこはあくまでもフィクション、エンタメ作品なのだから、それで良い。 で、作者が書きたかったのは、新聞やテレビでさかんに書かれていた事件の「表の部分」ではなく、事件の裏、いや事件の「陰」にあった部分、ということに違いない。 事件の大筋に片が付いたと思われた後の「第七章」。ついに、その「陰」が明らかとなる。 ただ、ここが多くの読者が不満に思うところなのかもしれない。確かに、事件に「陰」はつきものだし、こういう見えないドラマもあるに違いない。 ただし、それが面白いかどうか、響くかどうかは別物。私もここはちょっと「今さら」というか、陳腐には感じた。 作者自身、元新聞社勤務という略歴であり、主人公のひとりである阿久津は、おそらく作者自身が投影されたキャラ。自身の願望や考え方を作中の彼に託しながら、畢竟の大作となった本作を作り上げたのだろう。 それに対しては素直に賞賛。ただ、高評価できるかといわれると、「そこまでは・・・」という感覚がある。 でも読んで良かったのは事実。 (キツネ目の男の人は当時いろいろと言われたことでしょう…) |
No.1830 | 4点 | ずっとお城で暮らしてる シャーリイ・ジャクスン |
(2025/03/02 13:43登録) これって、「ホラー」という分類だったんだね。知らなかった・・・ どちらかというと「ファンタジー」に近い作品のように思うのだけれど、まあ変わった作品なのは間違いない。 1962年の発表。 ~わたしはメアリ・キャサリン・ブラックウッド。ほかの家族が殺されたこの屋敷で、姉のコニーと暮らしている・・・。悪意に満ちた外界に背を向け、空想が彩る閉じた世界で過ごす幸せな日々。しかし従兄のチャールズの来訪が、美しく病んだ世界に大きな変化をもたらそうとしていた。「魔女」と呼ばれた女流作家が、超自然的要素を排し、少女の視線から人間心理に潜む邪悪を描いた傑作~ うーん。本作をどのように評するのが適切なのかな? そもそもコテコテの本格ミステリ好きがコレを読んではいけなかったのかもしれない。 テーマというか、本作の底流にあるのは、“人間の持つ悪意”とのことである。 確かにチャールズなどは、悪意の固まりのような人物として描かれていると思う。ただ、この程度の「悪意」って、それこそそこかしこに溢れているのではないか? もう、昨今のSNSなんて悪意の権化、いや、「スーパー悪意くん」みたいなもの。 ホント、世の中生きにくくなったものです。ちょっとしたことで、すぐにコンプライアンス、コンプライアンス違反・・・ いやいや、愚痴はこれくらいにして・・・ なので、もちろん時代背景が違うとはいえ、どうにもノリきれないというか、価値観の相違のような感覚が消えずに終わってしまった、というのが本音。 まっ、所詮は、浅はかな読者ですから。 (自虐) |
No.1829 | 5点 | 告解 薬丸岳 |
(2025/03/02 13:42登録) 久々の薬丸岳である。社会派風味の重厚なミステリ書き、という印象の強い作者。 本作もそのような作品なのだろうか? 単行本は2020年の発表。 ~罰が償いでないならば、加害者はどう生きていけばいいのだろう? 飲酒運転中、なにかに乗り上げた衝撃を受けるも、恐怖のあまりそのまま走り去ってしまった大学生の籬(まがき)翔太。翌日、ひとりの老女の命を奪ってしまったことを知る。自分の未来、家族の幸せ、恋人の笑顔・・・。失うものの大きさに、罪から目をそらし続ける翔太にくだされたのは、懲役4年をこえる実刑だった。一方、被害者の夫である法輪二三久は、「ある思い」を胸に翔太の出所を待ち続けていた~ 正直、もっともっと重い話かと予想していた。 飲酒運転でひとりの老婆を轢き殺した男。刑期を終えて、世間から隔絶された暮らしを始めた男と、その原因の一端をつくった元恋人の女性。そして、轢き殺された老婆の夫。 この三人を軸に物語は進み、動いていく。 紹介文のとおり、本作の一番のポイントとなる謎は、夫・二三久が命を賭してまで、何を加害者の男に伝えたかったのか。ほぼ、この一点に尽きる。 話の流れからすると、恐らくこういうことではないかと考えていたものと、結果として、あまり違いはなかった。 そういう意味でも、本作のキーポイントで今ひとつノレなかったなあーという感覚になってしまった感はある。 認知症を発症して、自分の子供にさえ「どちらさまですか?」という老人が、死ぬ間際に、そこまで明瞭に自らの思いを伝えられるというところにも、どうにも違和感は感じる。(認知症のふりをしていたというような表現はないしね) ハッピーエンド風のラストも、ややチープかと・・・ 尺の問題かもしれないけれど、ここは“もうひと山”“もうひと掘り”が必要だったんじゃあないかな・・・ もちろん、よくまとまってるんだけどね。 個人的には、そのまとまり具合が、今回は高評価にはつながらなかった感じ。 |
No.1828 | 6点 | 入れ子細工の夜 阿津川辰海 |
(2025/03/02 13:41登録) いろいろなタイプの本格ミステリを量産していく作者の短編集。 昨今目に付く日本の最高学府出身の作者は“スキのない”ミステリ書きという印象なのだが、それは本作にも当てはまるのだろうか? 単行本は2022年の発表。 ①「危険な賭け~私立探偵・若槻晴海~」=若竹七海の「葉村晶シリーズ」にインスパイアされた一編(と思われる)。ラスト前のひっくり返しで驚かされたせいか、オーラスの仕掛けではあまり驚けず。いずれにしても、最初の一編らしく軽いノリの作品。 ②「二〇二一年度入試という題の推理小説」=さすが、最高学府出身者!とでも言えばよいか。「なんだこりゃ?」「オフザケ?」という気がしないでもない。でも、面白い試み(かも)。作者のミステリ遍歴も垣間見えて興味深い。(けっこう私と似ているかも・・・) ③「入れ子細工の夜」=まさに「入れ子」構造で、マトリョーシカのごとく、真相が何重構造になっているのか見えてこない仕掛け。ただ、だからといって、最終的に判明する真相が特別面白いということでもなかったのが・・・ちょっと残念。「裏の裏」なのか「裏の裏の裏」なのか・・・ ④「六人の激昂するマスクマン」=学生プロレスも一時期流行ったよなー。棚橋とか(あっ、彼は本物だが)。で、六人のマスクを被った学生が会議を開くというシュールな設定。で、欠席していたマスクマンが殺されたというニュースが飛び込んできて、さあ・・・、という流れ。ラストに参考文献として多くのプロレス関連書籍が書かれているのが興味深い・・・。(そこかよ!) 以上4編。 まあ、まあ。まあまあ。まあまあまあ・・・ てな感想かな。別に悪くないです。というか、よくできますし、器用だと思います。設定もひと工夫あって面白いし。特段不満点もありません。 本作では作者のミステリ好き具合も知れることができて良かったし。プロレス好きが知れることができて良かったし 葉村晶シリーズは私も大好きだし、入試は・・・うん別に・・・ ということで、良き短編集でした。 (個人的には②が好きです) |
No.1827 | 5点 | 緋文字 エラリイ・クイーン |
(2025/02/15 14:23登録) 久々のクイーン長編の読書となったのが本作。一般的なクイーンのイメージとはかなり風合いの異なる作品のようだ。 ライツヴィルシリーズがちょうど終わったころに書かれたというのが興味深いところだが・・・ 1953年の発表。 ~本作は、赤いインクで「A」と一字タイプされた手紙を受け取ったヒロイン、マーサの「姦通物語」として進展していくが、なかなか犯罪が起こらない。殺人事件が起きるのは、殆ど終わりに近づいてからである。また登場人物も非常に限定されている。これまで、E.クイーンの国名シリーズなどに親しんできた読者にとっては、かなり意外な印象を受けるだろう・・・~ 本作は、ホーソーンの名作「緋文字」(未読)で同名作品が下敷きになっている。 両作とも「姦通」事件を扱っていることや、本作の章題にもなっているアルファベットが(まるでABC事件のように)絡んでくるのが共通している。 それで、本題なのだが、正直なところ終章までは「なんじゃこりゃ?」というのが偽らざる感想。 物語もオーラスを迎えようとしているまさにそのとき、エラリーの頭の中に、突然の稲妻のように天啓が舞い落ちてくる。その刹那・・・ 最後には物語の構図が一変させられる。これが本作の大技。柔道で言うなら、”ブサーの前の内また一本! これを見事ととるかはやや微妙。もちろん真犯人の意図は分かるが、なにもこんなに回りくどいことをしなくても・・・どうしてもそう思ってしまう。 ただ、テーマは「姦通」である。もともと下敷き作品があるという縛りのあるプロットなわけで、これはこれで作者の苦労が偲ばれるということかも。 個人的には世評ほど面白くないわけでもない、と感じた。 あとはニッキー・ポーターだね。他の方もいろいろと書かれているので付け加えることはあまりないけれど、うん健気だね。 割と映像向きな作品かもしれない。 |
No.1826 | 5点 | 犬神館の殺人 月原渉 |
(2025/02/15 14:21登録) 「使用人探偵シズカ」シリーズの三作目。 タイトルだけみると、「犬神家の一族」のオマージュかと想像してしまうけれど、特に関連性はないと思われます。 文庫書下ろしで2019年の発表。 ~その死体は、三重の密室の最奥に立っていた。異様な形で凍り付いたまま・・・。そのとき犬神館では、奇怪な「犬の儀式」が行われていた。密室のすべての戸に、ギロチンが仕込まれ、儀式の参加者は自分の首を賭けて、「人間鍵」となる。鍵を開けるには、殺さねばならない。究極の密室論理。これは三年前に発生した事件の再現なのか? 犯人からの不敵な挑戦状なのか?~ 相変わらず、よく言えば「無駄がない」、悪く言えば「あっさりしすぎ」な作品。 冒頭からたいした説明もなく、いきなり本筋に突入していく。しかも、それがとびきりの不可能趣味満載の殺人事件・・・ かの島荘あたりなら、それこそたっぷりもったいつけて序盤だけで100ページ以上稼ぐだろうになど、いらぬことを考えたりする・・・ これは、もう本レーベルの「尺」の問題で、作者としても致し方ないということなのだろう。 で、肝心の本筋。 こんな突拍子もない特殊設定。よく考えるよねぇ・・・ いろんな特殊設定にお目にかかってきたけど、ぶっ飛び具合ではかなり上位にあると思われます。 いったい何時代の設定なんだろう? 警察の介入など、ほとんどお構いなし(警察も「尺」の壁に跳ね返されたか?)。 しかも、三年前の事件と現在進行形の事件の二重構造。ふたつは一見相似だが、実は相似では〇〇、いや〇〇 密室の方は三重構造だ。しかも、誰も犯人足りえないとしか思えない状況。 ただ、どうもしっくりこないというか、作者のいいたいことが頭の中に落ちてこないというか、例えると出来のあまり良くないプレゼンを見せられているような感じが・・・ もちろんベクトルとしては好みなのだけど、装飾がゴテゴテし過ぎて美しくないのかもしれない。 「作り物感」が強すぎて(→当たり前といえば当たり前だが)、ノレなかったというのが本音。 限られた分量でこれだけ詰め込める作者の努力と苦労には、やはり敬意は表してしまう。 読者としては、「せめてもう少しの尺を作者に与えてください!」と願うばかりです。 |
No.1825 | 6点 | 神津恭介の回想 高木彬光 |
(2025/02/15 14:20登録) 出版芸術社が編んだ”名探偵”神津恭介登場の短編集。 いやいや、もう、油ギトギトという感じ(表現が適当でないかもしれませんが)の作品が並んでいた印象。 単行本は1996年に発表されたもの。 ①「死せるものよみがえれ」=まずは初っ端の作品としては妥当なセレクションだろう。つまりは”ジャブ”的な作品。小市民が犯罪を犯すとこのようになってしまう、ということなのだが、最終的には名探偵・神津恭介が颯爽と登場して、主人公を窮地から救い出す。そして指摘される意外な犯人。まっ、意外でもないか・・・ ②「緑衣の女」=乱歩の「緑衣の鬼」を意識した作品なのだろうか。こちらは緑ずくめの恰好をした「女」が登場する。しかも「四本指」である。序盤から、それこそ、もう、これでもかというほどに、作者は「緑衣」「緑衣」とあおってくる。さぞかし、ものすごいトリックかと思いきや、うん。この時期のミステリにはありがちな着地点ではある。短編だと登場人物が少ないから、どうしても役割をそれぞれに振らなければならなくなる。そういう感が強い。 ③「白魔の歌」=戦前に活躍した名探偵なる人物のもとに届く「白魔」を名乗る者からの脅迫状。過去の名探偵は、「現代の」名探偵である神津恭介の出馬を強く要請する。そして、連続殺人事件が発生するなか、海外出張から戻った神津は、アッという間に真相解明・・・。でもこの動機は・・・ ④「四次元の目撃者」=これはなかなか面白かった。まるで四次元の世界のごとく空中に向かって開ける扉。そんな扉がある部屋で起こった密室殺人事件。魅力的な謎ではないか! ただし、密室の解法は、どこかで見たやつだな・・・(もしかしてこれが初なのか?) ⑤「火車立ちぬ」=熊本地方に伝わる言い伝え、それが「鴉」「猫」「狐」の三匹の動物が出てくる不吉な言い伝え。そして、現実に発生した殺人事件にも「鴉」、次の事件には「猫」の幻影が。神津は冷静に推理を行うが、真相はかなりご都合主義でこじつけ感が強い気がする・・・ 以上5編。 うん。まずまず面白い作品が並んでいた印象。もちろん時代がかりすぎて、「なんじゃこりゃ?」的な感想のものもありはしたけど、さすがは作者。どこか光るポイントがあるように思った。 短編から長編化したものや、改題したものなど、作品ごとの経緯はさまざま。 ただ、神津恭介の魅力は時代を超えてミステリファンの心に確実に響いている(であろう・・・) (個人的ベストは④) |
No.1824 | 6点 | スリーピング・マーダー アガサ・クリスティー |
(2025/01/26 13:39登録) ミス・マープルシリーズの12作目であり、シリーズの掉尾を飾る作品でもある。 同じくポワロシリーズ最終作である「カーテン」と並び称されることも多いであろう。 発表は1976年だが、実際の執筆はかなり早い段階で行っていたと推察される。 ~若き妻グエンダは、ヴィクトリア朝風の旧家で新生活を始めた。だが、奇妙なことに初めて見るはずの家の中に既視感を抱く。ある日、観劇に出かけたグエンダは、芝居の終幕近くの台詞を聞いて、突如失神した。彼女は家の中で殺人が行われた記憶をふいに思い出したというのだが・・・。ミス・マープルが回想の殺人に挑む~ 紹介文にもあるとおり、本作は「回想の殺人」。つまり、かなり昔に発生した殺人事件を解き明かそうというプロット。 だからであるけど、特に序盤から中盤にかけては、実に曖昧模糊とした形で進行する。 序盤から事件に関わることとなるミス・マープルも、示唆的な言葉は発するが、具体的なことは何も語らず・・・ まあ、こういうプロットの常套手段として、そのときの関係者たちに面会を求め、過去の記憶を取り出そうとする。 そんなやり取りが相応に続いていく。 これを「冗長で退屈」ととるか、「情緒的で優美」ととるかで本作の見方は変わってくる。 で、当然ではあるけど、徐々に過去の事件の姿かたちが明確になっていくわけ、だと思っていたが、いろいろな推測は生まれながらも、どれが真実なのかはなかなか鮮明にならない、展開。 ただ、終章近くになり、ようやく容疑者が三人に絞られるところまでは進んでいく。 そして、唐突に取り戻される記憶、いきなり判明する真犯人。 うーん。この段階での第二の殺人というのは美しくなかったよなあー。あまりにもラスト前すぎて、口封じ以外あり得ない。 で、この真犯人。もう、いかにも、クリスティらしい「真犯人」だ。 意外性はあるのだが、あまりに「クリスティ的真犯人」すぎるのが、読者にとってはどう映るか? などなど、つらつら、割とネガティブな感想を書き連ねてきましたが、ここまで多くのミステリを生み出した作者ですから、ネタのストックは多いとはいえ、切れ味抜群のネタが湧いて出ることはなかったでしょう。 ただし、さすがに読者を惹きつける手練手管は見事。最後までそれほど飽きることなく読ませていただいた。 マープルも当初の「おしゃべり好きのおせっかい婆さん」という下世話な印象から、英国風でちょっとおしゃべりな貴婦人という印象になった。その分、もったいぶった言い方になってるので、ポワロとの重複感はある。 いずれにしても、まだ未読作は多いので、引き続き手に取っていきたい。 |
No.1823 | 4点 | 誰のための綾織 飛鳥部勝則 |
(2025/01/26 13:37登録) 作者の記念すべき(?)十作目の長編となるはずだった本作。 いやー、ついに読んじゃいました。ある意味、ミステリーの禁じ手に挑戦するという意欲的な作品になるはずだったのに・・・まさかの盗作疑惑が(もはや「疑惑」ではないのだろうな) 単行本の発表は2005年。 ※本作についてはもはや紹介文さえみつからず・・・ということでいきなり本筋へ いやー、クセが強い! 今さらちょっと前のはやりのフレーズを使いたくなる、そんな独特の読後感だ。 全体としては、作中作を利用しながら、ラストには爆弾級の大仕掛けが発動される。その辺りは実に作者らしいといえる。(てっきりこの仕掛けそのものが盗作に当たるのかと想像していたのだが・・・) この大仕掛けは・・・まあアリなのかもしれないけれど、最初から明らかにおかしかったからね。 あの状況で誰も「真犯人足りえない」し、それぞれのアリバイも終始曖昧なまま進行。 伏線だと指摘された部分も、「その程度で?」というほどのレベルである。 例の「館」の密室問題にしても、構造が分かった段階でほぼ察しがついてしまう状況、っていうことは捨て筋だなと・・・ という具合に最後まで何とも言えない「粗さ」、極論すれば「雑さ」が目立つ。 もしかして「ワザと」?という気がしないでもなかったけれど、前作に当たる「レオナルドの沈黙」はブッ飛んだなかにもマトモな作品だったからなー 10作目ともなれば、ど真ん中のストレートなんて投げてられないのは分かるけど、アイデア一発勝負だし、ここまで雑さが出るとちょっと評価はしにくい。当時の出版社もよく出したね・・・ まあ挑戦的な作品でしたということなのだと考えることにしよう。 でも盗作は実に残念で勿体なかったなあー。ミステリーとしてのプロット部分とはあまり関係ないしなあ。 とにかく新春から問題作をひとつ片づけた感じだ。 (「蛭女」については、とにかくコワー! 想像したくない・・・) |
No.1822 | 6点 | むかしむかしあるところに、死体がありました。 青柳碧人 |
(2025/01/26 13:35登録) 作者の「洋の東西昔ばなしパロディシリーズ」(と勝手に名付けてみました)の第一弾。 本作の好評を受けて、次作以降の発表、シリーズ化につながったものと推察します。本当? 単行本は2019年の発表。 ①「一寸法師の不在証明」=これは目の付け所が見事。「一寸」しかない男の不在証明なんてできるのか?と思ってましたが、そうきたか・・・。犯行の手口はかなり複雑で強引。そこまでの計画を短時間で思いつくとは、一寸法師、おぬし、やるな! ②「花咲か死者伝言」=これもなかなかのトリッキーぶり。真犯人についても「おぬし、ワルよのおー」とでも言いたくなる。テーマであろう“ダイイング・メッセージ”については、やや中途半端な出来かな。 ③「つるの倒叙がえし」=なるほど。これは評価が高いのも頷ける一編。終章を読むと、殆どの読者は「えっ!?」となるのではないか。それでもって、リドルストーリーをも思わせる構成。こりゃ、いっぽん取られたな・・・ ④「密室竜宮城」=まさか、この年になって、竜宮城内の見取り図を知ることになるとは・・・(二階建だったのね)。まあ「ヒラメ」の件は捨て筋感満載だったけれど、真相はなあー。「トトキ貝」の意味に気づけば分かるかもしれんが、まあ無理だよね。それでもってラストには③の設定までが生きてくるなんて。 ⑤「絶海の鬼ケ島」=確かに。これは「そして誰もいなくなった」のパロディになってるねぇ。よくもまあ、これは考え付いたな。これを思いついたときの作者のニヤケ顔が思い浮かぶようだ。ただまあ、冷静にみれば、めちゃめちゃ強引なプロットではある。(ところで、「鬼」を一頭、二頭と数えるのと、一匹、二匹と数えるのが混在している・・・誤植?) 以上5編。 これはもう、アイデアの勝利だろう。 当然強引なものもあるにはあるけれど、原作の設定や制限を生かそうとすれば、ある程度強引になるのはやむなしだろう。 ゼロから物語をひねり出すよりは、下敷きとなる物語からアイデアを膨らませるほうが楽といえば楽なのかも・・・ (それに誰でも知ってるむかしばなしだからね。そういう利点もありそう) アリバイ、ダイイング・メッセージ、倒叙、密室、そしてCCか・・・ ミステリーの「あるある」をうまく当てはめたものだね。 これはこれで「あり」だろう。 ただ、読了後の満足感は今ひとつではあったな。(個人的ベストは、やっぱり③かな。) |
No.1821 | 6点 | 6月31日の同窓会 真梨幸子 |
(2025/01/13 14:11登録) 実際には存在しない「6月31日」の開催で届く同窓会の招待状。 皆が憧れる幼稚園から一貫教育の女子高私立「蘭聖学園」に潜む大いなる謎とは・・・ 単行本は2016年の発表。 ①「柏木陽奈子の記憶」=冒頭から早くも不穏な空気が漂う。最初の犠牲者が出る。 ②「松川凛子の選択」=蘭聖学園始まって以来の秀才と謳われ、弁護士となった松川凛子。彼女は本作全体のキーパーソンのひとり。 ③「鈴木咲穂の綽名」=高校時代の綽名が「コメンテーター」の彼女。実に嫌な性格なのだが、彼女のもとにも案内状が届く。 ④「福井結衣子の疑惑」=松川のもとにまたもや相談にやってきた蘭聖学園OB。コイツもかなりのクセ者。ねじ曲がった性格で他人に不幸を招く。 ⑤「矢板雪乃の初恋」=本物のお嬢様である彼女。今度は松川の方から彼女の元へと出向くことになる。そして判明する過去のある事実(らしきもの) ⑥「小出志津子の証言」=⑤で浮かび上がった「恵麻」。彼女の人となりを知るために、またも松川は出張。過去の「恵麻」はどういう? ⑦「海藤恵麻の行方」=意外なところにいた?恵麻だが、すでに行方知れずになっていた。しかし、ここから物語は更に意外な方向へ ⑧「土門公美子の推理」=「推理」とあるが、別に真相が明らかになるわけではない。これまで作中で「クミコ」として登場してきた彼女もここにきて・・・ ⑨「合田満の告白」=蘭聖学園時代の綽名は「ゴウダマン」。でも本当は「アイダミツル」。もちろん女性です。 以上。①から⑦までは「月刊ジェイ・ノベル」誌に連載されたもの。⑧以降は書下ろしとなる。 『フッ化水素酸』って・・・そんなに恐ろしい薬物だったのね。触っただけで死に至るなんて、コワッ! 作者らしく企みに満ちた連作仕立ての作品。 各編のタイトルにもなっている登場人物は、全員が蘭聖学園の卒業生。全員が実にイヤーな性格で、ときにつるみ、ときに敵対し、ときにそれぞれの揚げ足をとる。 男が想像する「女子高あるある」かもしれない。 ただ、ラストが少し弱いかな。ここまでぐちゃぐちゃにしたのだから、もうちょっとインパクトのあるラストの方が良かった。 でも、最近作者の作品を定期的に読みたくなっている、そんな私がいる。 これって、ハマッてるってことだろう。 |
No.1820 | 5点 | 眠れぬイヴのために ジェフリー・ディーヴァー |
(2025/01/13 14:09登録) リンカーン・ライム登場前の「初期」ディーヴァー作品。 これまで同シリーズをできるだけ発表順に、丁寧に読み継いできたんだけど、ここで少し時を巻き戻して過去作へ・・・ 1998年の発表。 ~記録的な嵐が近づく夜。精神病院を出た死体運搬車に積まれた死体袋を破って、筋肉隆々の巨漢が這い出た。彼の名は「マイケル・ルーベック」・・・俗にインディアン・リープ事件と呼ばれる凄惨な殺人事件の犯人だった。ルーベックは、裁判で自分に対して不利な証言をした女教師リズに復讐の鉄槌を下すため、脱走を企てたのだが・・・~ なるほど・・・ 他の方のご意見と重なる部分はあるけれど、「ワンパンチ足りない」というのが最もフィットした感想。 「リンカーン・ライム」シリーズのクオリティや、そのジェットコースター=疾走感の強いミステリーに慣れてしまったせいかもしれない。 本作でも、ラストにはサプライズ感のあるドンデン返しが用意されてはいる。 ただ、長い長い物語を読まされてきたわけだから、これくらいのサプライズはまあ当然あるよなあー、という程度にとどまる。 そこは、もう、作者ですから、どうしてもハードルは結構高く設定されてしまう。そこはやむなしだ。 ストーリーは、複数の登場人物たちの視点をとおして、かわるがわる語られ、徐々に進んでいく。(実際はほぼ一日だけのお話だったわけだ・・・) 順番に語られるなか、読者は徐々に作者の術中にはまり、真相とは別の方向に導かれていく。そこはまあ当然。 問題なのは、事件のきっかけ、或いは大元になっている「インディアン・リープ事件」。 この事件の詳細がなかなか明確にならず、読者はモヤモヤ感を持ったまま終盤へ突入していく。おそらく、ここに仕掛けがあるのだろうという予想をしながら、真実が詳らかにされるのは、もう本当にラストの直前。 ここにきて、ようやく事件の全貌が明らかとなる。 まぁ長いよね。引っ張りすぎだろう。 壮大な真実が出てくるのを期待しすぎていると、ちょっと拍子抜けのような気にはなるかも。 そこは、まあ、まだまだベストセラー作家になる前の作品ということで・・・ やっぱり、全体としては、分量と面白さがアンバランス、ということにはなる。 |
No.1819 | 7点 | 沈黙の町で 奥田英朗 |
(2025/01/13 14:07登録) 皆さま、かなり遅くなりましたが、新年明けましておめでとうございます。昨年は元旦から激動のスタートでしたが、今年は平和でのんびりした正月だったのでは?(私はいろいろありましたが・・・) さて、毎年新年一発目に何を読もうかと思案するのですが、今年は本作となりました(本当は別の作品を予定していたのですが、理由あってこうなってしまった) とにかく、まあ、単行本は2013年の発表です。 ~北関東のある県で、中学2年生の男子生徒が部室の屋上から転落し、死亡した。事故か? 自殺か? それとも・・・。やがて、その男子生徒が同級生からいじめを受けていたことが明らかになる。小さな町で起きたひとりの中学生の死をめぐり、町に広がる波紋を描く。被害者や加害者とされた子の家族、学校、警察など、さまざまな視点から描き出される群像小説で、地方都市の精神風土に迫る~ 新年早々、本当に重い話である。 本作の視点人物として登場する、いじめ・死亡事件の被害者、加害者の中学生、それぞれの親たち(特に母親)、校長をはじめとする教師たち、捜査を行う警察、事件を洗う検察官、そして取材する新聞記者・・・ 多くの関係者がひとつの死亡事件により、さまざまな想いを抱き、悶々とし、そして行動する。 作者はまるでそういう実在の事件を見てきたかのように、神の視点ですべてを俯瞰する。 そう、まるでドキュメントのようなリアリティ、雰囲気さえ醸し出している。ただ、決してドキュメントではない(当たり前だが)。 それぞれの人物の心の中まで深く炙り出しているのだから・・・ 本作では、中学生という時期の子供たちの特性についてもいろいろと考察している。 確かに。そういう時期かもしれない。加害者として描かれる中学生も、本来は明るく利発で、正義感の強い子だった。ただ、被害者の「空気を読まない」言動や周囲の雰囲気に吞まれ、やがて流されていく。 いやいや、全くミステリーの書評ではなくなっている… あと、「母親と父親の違い」も浮き彫りになる。子を持つ父親の方は心して読んだほうがよい。ただひたすら、子供に盲目的な愛情を注ぐ母親と、どこか一歩引いてみている父親・・・。当然、夫婦間で諍いが生じます。「盲目的」ということに、作者がどのように見ているかということが気になるところではありますが・・・ そして、どうしても気になるラスト。ラストのラストでついに真相が露わになる。で、これからどうなるのか? 気になるではないか 不幸のどん底のように思っている母親たち、現実に打ちのめされる加害者たち。彼らはこれからどうなっていくのか? バッドエンドもグッドエンドも用意されず、後は読者の匙加減でお楽しみください・・・ということ? とにかく、「人間の業」というものを考えさせられる時間だったなあー 毎年のように起こるいじめを引き金とする悲しい事件。そこには様々な関係者の悲痛な思いまでもが渦巻いている。フィクションを超えた、作者のリーダビリティの高さを十二分に味わうことのできる作品。 (でも重~い気持ちになるよ) |
No.1818 | 6点 | 月の夜は暗く アンドレアス・グルーバー |
(2024/12/31 13:37登録) 「夏を殺す少女」は確かに読んでいた。 ただ、明確に覚えているかというと、「うーん」・・・という感じではある。ヨーロッパ大陸に跨った作品だったよなあーって、曖昧! そんな作者の長編を再度手に取った。2012年の発表。 ~「母さんが誘拐された!」。ミュンヘン市警の捜査官ザビーネは、父親から知らせを受ける。母親は見つかった。大聖堂で、パイプオルガンの脚にくくりつけられて。遺体の脇には黒インクの缶が。口にはホース、その先には漏斗が・・・。処刑か、なにかの見立てか? ザビーネは、連邦刑事局の腕利き変人分析官とともに犯人を追う。そして浮かび上がったのは、別々の都市で奇妙な殺され方をした女性たちの事件だった。「夏を殺す少女」の作者が童謡殺人に挑む~ プロットや各種の道具立ては実に魅力的である。 なにしろ、童謡の歌詞のとおりの見立て殺人なのだから。国内の新本格やその後の数多の本格ものでもなかなかお目にかかれないテーマだ。 本筋とはあまり関係ないけれど、この童謡がなかなか残酷。よくもまあここまでやるなあーというほど残酷性が際立っている。もしかしてドイツの国民性? で本筋なのだが、主に三つのストーリーが冒頭から交互に進行していく。ただし、時間軸はねぇ。そこはいろいろと含まれているわけです。 プロットとしては、サイコ的な真犯人に焦点を当てたサスペンスの色合いが濃くて、フーダニットの興趣などは途中から放り投げられたようなところはある。というか、中盤にはほぼ特定されてしまう。 そこはある意味現代的にも見えるけど、個人的には残念な部分。 もう一つの読みどころが、主人公ザビーネとコンビを組むS.スナイデル(このSが大事らしい)。コイツが相当なクセ者。当初は交わることはないと思っていた二人が、徐々にコンビニなっていく過程もなかなか。 全体的には十分水準以上の面白さを感じることはできた。 でも、結構長いよ! |
No.1817 | 6点 | 探花 今野敏 |
(2024/12/31 13:33登録) ついに「隠蔽捜査シリーズ」もVOL.9となった。足掛け何年だろう? 長く続くシリーズというのは、やっぱり面白くて読者の支持も強いからだろう。本作についてもそれは同じ。私にとっても、続編が待ち遠しいシリーズとなった。もちろん竜崎伸也の言動が読みたいのだ。 単行本は2022年の発表。 ~横須賀基地付近で殺人事件が発生。竜崎は、極めて異例ながら米海軍犯罪捜査局のリチャード・キジマ特別捜査官の参加を認め、そのまま日米合同捜査の指揮を執ることに。一方、八島圭介が警務部長として県警本部に着任。竜崎の同期で警察庁トップ入庁、決して腹の内を見せぬ男。八島には、前任地の福岡での黒い噂がつきまとっていた。さらに留学先のポーランドで息子の邦彦が逮捕されたとの一報が飛び込み・・・~ タイトルの意味は、中国の科挙制度でトップから三番目の成績の者のこと。竜崎が同期で三番目、つまり「探花」ということ。ちなみに、本作で竜崎の敵役として登場する同期の八島がトップ、科挙でいうところの「状元」(というらしい)。へぇ・・・ 肝心の本筋なのだが、前作でも書いたと思うけれど、とにかくスムーズすぎ! 特段のピンチもなく、真犯人逮捕。竜崎の周りで起こった不穏な空気も、竜崎の手にかかれば、同期トップだろうが、日米地位協定だろうが、衆議院選挙だろうが、ポーランド大使館だろうが、無事に解決してしまう。 それはそれで、もちろんいいのだけどね。 本作が神奈川県警異動後、二つ目の事件でまだ慣れないと作中で何度も独白している。ただ、そこは原理原則を貫く男、竜崎伸也。 神奈川県警の猛者どもも、手の内にいれた感がある。 ますます「理想の上司」となった竜崎。もはや無双といってもいいくらいだけど、シリーズはまだまだ続きそうな気配で楽しみも続いていく。 (先日たまたま山下公園付近を歩いていて、左手にある大きなビルをみると「神奈川県警」の文字が! これが竜崎のいるビルかあ!ってフィクション通り越して感嘆してしまった。ある意味「聖地巡礼」・・・) |
No.1816 | 6点 | #真相をお話しします 結城真一郎 |
(2024/12/31 13:31登録) 「小説新潮」誌に断続的に掲載された作品をまとめた作者の処女短編集。 日本推理作家協会賞受賞はいうまでもなく、作者の名前を世に高めることとなった作品。 2022年の発表。 ①「惨者面談」=昨今の中学受験戦争(?)は凄まじい。で、子供の成績を何としても上げようと親が雇うのが「家庭教師」。ということで、とある家庭を訪問した家庭教師派遣会社の営業マンが巻き込まれた事件。その家の母親の態度はどうみても「おかしい」のだが・・・。真相は二番底にある。 ②「ヤリモク」=昨今、マッチングアプリを悪用した詐欺事件が急増しているというニュースを、たまたま昨日の地上波で見た。で、本作は「詐欺」ではなく「コロシ」である。問題は「コロシ」の理由なのだが、目的を達したはずの真犯人に待ち受けるのは思いがけぬ事実・・・だった。 ③「パンドラ」=いつの世も「子供が欲しいのにできない」夫婦は存在する。そこで闇ルートに存在するのが「精子バンク」(闇ではないかもしれんが)。ここに登場する男性は、敢えて提供者であることを隠さずに提供し、成長した我が子(?)を前にして・・・。そこには予想外の不穏な結論も。 ④「三角奸計」=コロナ禍で流行った「リモート飲み会」がテーマ。大学時代からの仲良し三人組が久し振りに飲み会を開催することに。リモートで。飲み会が進行するなか、徐々に妙な方向に話は進んで、ついに・・・どうなった! 「そこまでやるかな?」というのが正直な感想だが。 ⑤「#拡散希望」=長崎市沖の島で成長している四人組の小学生。ある日唐突にそれはやってきた! その名もiphon7(7か・・・)。それを境に、四人組を取り巻く島の環境は変化していき、ついには殺人までも。真相は「いかにも今の時代!」的なもの。 以上5編。 またもや日本の最高学府出身のミステリ作家登場である。いったいどうしちゃったんだ! 最近の出版界、いやミステリー界は? 東大閥なのか?(一時は京大閥かということもあったけど) それはさておき、いやいや、実にスキのない短編集である。 AIがミステリーを書くと、こんなふうになるのではないかと一瞬勘ぐってしまう。それほど高水準だということ。 きっちりと前フリが効いていて、短編らしいラストのツイストもあるし、流行りのテーマも取り入れている・・・ うーん。否定的な感想を書けない。 でもまあ、昭和を知る者としては、「スキのないのが弱み」とでも強弁しておこう。あまりに優等生すぎるのもどうなの?って、単なる「妬み」です。 |
No.1815 | 6点 | 剣持麗子のワンナイト推理 新川帆立 |
(2024/12/05 14:12登録) ~亡くなった町弁のクライアントを引き継ぐことになってしまった剣持麗子。都内の大手法律事務所で忙しく働くかたわら、業務の合間に一般民事の相談にも乗る羽目になり・・・~ ということですでに地上波にも登場した弁護士・剣持麗子が巻き込まれる事件をまとめた連作短編集。 単行本は2022年の発表。 ①「家守の理由」=初っ端は軽~いジャブといった雰囲気の短編。でも、連作の第一話としては、重要な部分も含んでいるから注意が必要! ②「手練手管を使う者は」=またもや事件に巻き込まれてしまう麗子&(相棒役の)黒丑。しかも今度はどう見ても、コイツしか犯人はいない状況。で、タイトルの意味は最後の最後で分かることに。 ③「何を思うか胸のうち」=なぜか、麗子が所属する大規模弁護士事務所で開催される「大運動会」(!)が今回の事件の舞台となる。白熱の競技(→なぜかドッチボール)の後の更衣室で発見された変死体。死んだのは、最近転職してきた「細かくて、嫌われている」嫌な上司だった・・・ ④「お月さまのいるところ」=これまでとちょっと舞台が変わり、今回は深夜の丸の内で事件は起こる。そして、またもや巻き込まれてしまう麗子。痴呆症の老婆に連れられてきたアパートの部屋には首吊り死体が・・・。最後には意外な真相が明らかになる。 ⑤「ピースのつなげ方」=最後は連作の最終編らしく、これまでのつながりやカラクリが明らかとなる。いや、明らかになると書いたが、決してすべてが明らかになってはいない。これはシリーズ化への布石なのか? はたまた単なる消化不良なのか? 以上5編。 なかなかツボを心得た作品だと思う。飛びぬけて面白いわけではないけれど、連作の仕掛けといい、麗子のキャラといい、読者を惹きつける要素はいろいろある。 さすが、日本の最高学府出身者! 頭の出来の違いを感じてしまった。 総じて、器用な作家だなあーという感想。 シリーズ続編も読むでしょう。 |
No.1814 | 6点 | サマータイム・ブルース サラ・パレツキー |
(2024/12/05 14:10登録) アメリカが誇る女性私立探偵のひとり、と言っても過言ではない(?)ウオーショースキー(通称ヴィク)。 シリーズ第一作となる本作は、ハードボイルドを愛する者なら避けては通れない(かもしれない)。 1982年の発表。 ~わたしの名はV・I・ウオーショースキー。シカゴに事務所を構えるプロの私立探偵だ。有力銀行の専務から、息子の姿を消したガールフレンドを探してほしいとの依頼を受ける。しかし、その息子はアパートで射殺されており、しかも依頼人自身も偽名を使ったらしい。さらに、わたしは暗黒街のボスから暴力を受け、脅迫された。背後に浮かぶ、大規模かつ巧妙な保険金詐欺・・・。空手の達人にして美貌の女探偵の初登場作品~ 舞台はシカゴ、である。これまで、NY、LA、サンフランシスコなど様々な街がハードボイルドのなかの私立探偵が活躍する舞台となってきた。 個人的にはやっぱりLAが一番ハードボイルドの似合う街、という気がしているけど、シカゴもなかなか。 (日本だとどうしても「新宿」しか思い浮かばんが・・・) 全米第三の大都市である。本作で主人公のヴィクは、この大都市のなかを縦横無尽に走り回り、へとへとになりながら全力疾走する。作中で語られるとおり、元々は名門シカゴ大学を卒業し、弁護士となった才媛である。それがどう狂ったのか、貧乏暇なしを地でいく私立探偵稼業で生計を立てている。 ただ、やはり魅力的なキャラである。それは、もう、間違いない。美貌もさることながら、イタリア系移民で同じく逞しい女性だった亡き「母親」の影響を受けた彼女。 強いだけではなく、どこか刹那的で、助けてあげたくなる存在。そりゃーシリーズ化されるよなあー で? 本筋は? そうでした。うーん。いや、いいですよ。ヴィクが請け負ったのは、ハードボイルドの王道「人探し」。 探しているうちに、いやおうなく事件に巻き込まれてしまい、事件は当初の想像よりもどんどん大きくなってしまう。 事件の動機はいつだって「金」、そしていつだって「愛憎」。 敢えて苦言を呈するなら、暗黒街のボスなる人物。あまりに紋切型で、かなりチンケ(部下たちもまとめて)。 あくまで脇役の脇役だからいいけれど、そのあたりにも拘って欲しかったな。 事件の「カギ」となる保険金詐欺についても、カラクリは単純。でもまあそこはやむなしかな。 これなら続編も読みたくなる、ということは良かった。 (ラストの彼女の大立ち回り。映像的にも映えるね。前の書評といい、季節か感を無視したセレクトでスミマセン) |