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ミステリの祭典

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刀と傘 明治京洛推理帖
鹿野師光シリーズ

作家 伊吹亜門
出版日2018年11月
平均点6.00点
書評数7人

No.7 6点 E-BANKER
(2025/09/06 13:31登録)
2015年、「監獄舎の殺人」で第12回ミステリーズ新人賞を受賞した作者(有栖川有栖の後輩だね)。
本作は、明治維新における英雄のひとりである肥前の江藤新平と、腹心にして微妙な関係となる鹿野師光を主役に据えた連作短編集。
単行本は2018年の発表。

①「佐賀から来た男」=まずは江藤と鹿野の出会いが描かれる第一編。尊王攘夷論が勢力を増すなか、開国論者の仲間が惨殺される。仲間の中に犯人がいる?という疑惑が浮かぶなか、ふたりが辿り着いた真相とは?
②「弾正台切腹事件」=一応「密室」である。ただし、明治時代初めの設定だからね、そこはかなり緩~い密室なわけです。決して密室トリックというほどのものではありません。
③「監獄舎の殺人」=やはりコレが一番の佳作だろう。逆説めいた真相が実に効いている。“殺さぬために殺した”・・・「これは如何に?」という謎。要は動機の問題なのだが。
④「桜」=最初から犯人が明白。そう、倒叙ミステリの形になっている一編。ただ、真相は江藤の頭脳の前にアッという間に見抜かれてしまう。
⑤「そして、佐賀の乱」=征韓論(西郷隆盛が下野した事件だね)で敗れ、佐賀に帰還することになった江藤だが、途中京都に向かい、鹿野と再び相まみえることに・・・。ただし、悲しい結末が待っていた。

以上5編。
数多の才人が綺羅星の如く活躍した幕末そして明治維新。はっきり言ってあまり知らなかったなー「江藤新平」って・・・
ウィキによると、「近代日本司法制度の父」とのこと(作中でもこの辺りは触れられている)。本作がどこまで史実に基づいているのかは不明だけれど、探偵役に相応しい人物なのは間違いないだろう。
で、本筋なんだけど、前評判どおり「よくできている」。何より「端正」という表現がピッタリ。
最近、特殊設定ミステリばっかり読んでいたせいかもしれんけれど、「人間の機微」をきっちりと書いているところに好感が持てる。

ただ、個人的にはそれほど好きな分野ではないんだよなあー、時代設定が古すぎるミステリは。
指紋も気にしない。ましてやDNAも、とにかく科学捜査が全くない世界。あっ! これもよく考えればひとつの「特殊設定」なのか・・・ いろんな呪縛から逃れて自由にミステリを書けるのなら、それはいいことかもしれない。
でも、どこか物足りなさもあるんだよな。まあ、自分勝手なお話です。

No.6 6点 makomako
(2023/06/24 19:52登録)
明治維新ごろの時代設定で、江藤新平と尾張藩出身の男がたんていやくの推理小説です。
本格ミステリー大賞受賞とのことで、確かにしっかりした本格物です。
私はこういったものが好きなのですが、この作品はあまりピンときませんでした。
多分精緻な舞台考証がしてあり、不可解事件として成り立っているのだと思うのですが、文章だけだとどうもはっきりしたシチュエーションが見えてきません。図があるとよかった。
さらに登場人物がかなりあっさりと死んでしまったり、全く関係ないのに身代わりとなって罪をかぶってもよいと言ったり。当時のお侍さんが武士道とは死こととみつけたりという方がいたのは確かだとは思いますが、それにしても従容として受けなくてもよい罪を受け入れてしまうのは現代の感覚からすると違和感がぬぐえません。
そういった感じが強かったためあまりよい評価となりませんでした。

No.5 8点 HORNET
(2022/12/12 22:04登録)
 幕末の京都を舞台とした、若き尾張藩士・鹿野師光と江藤新平の複雑な関係を主軸に編み込んだ歴史ミステリ。
 うーん…これは面白い。激動の時代に、立身出世を目論む思いと、「日本社会のために」という義の心とが相まみえて織りなす濃密な人間模様を下敷きに、見事に編みこまれたミステリに酔いしれる。
 最近、歴史ミステリがめっぽう面白い(米澤穂信「国牢城」、羽生飛鳥の平頼盛シリーズなど)。読みながら思わずwikiなどで歴史の復習をしてしまう。
 これは続編「雨と短銃」も必読だ。

No.4 5点 パメル
(2022/10/08 08:59登録)
明治政府の初代司法卿・江藤新平と元尾張藩士の鹿野師光が、その日に処刑される予定の囚人が何者かに毒殺された謎に挑む「監獄舎の殺人」(ミステリーズ、新人賞受賞作)を含む連作だが、ありがちなパターンと異なるのは、この受賞作を連作の冒頭に置くのではなく、真ん中の第三作に据えて、そこから先の出来事だけではなく、過去へも拡げている点である。
国事に奔走していた浪士が、めった斬りにされた事件を扱った「佐賀から来た男」で江藤と鹿野の出会いが描かれる。しかし、この時点で両者の関係が通常のミステリにおけるホームズとワトソンのそれとは大きく異なっているのは明らか。頭脳明晰だが野心家の江藤に対し、鹿野が覚えた違和感は、連作が進むにつれて大きくなり、やがて二人は、それぞれが奉じる正義故に訣別せざるを得ない。さらにラストの「そして佐賀の乱」では、江藤に関した人物が殺され、意外な犯人が明らかになる。
時代の変化と人間の変化。変わる江藤と変わらない鹿野を通じて、それが鮮やかに表現されている。江藤と鹿野の友情物語としても味わい深い。

No.3 7点 まさむね
(2020/06/27 21:28登録)
 明治維新の京都を舞台とした連作短編。
 ベストは第12回ミステリーズ!新人賞を受賞した「監獄舎の殺人」。斬首を目前に控えた罪人が何故毒殺されたのか、がポイント。法月氏の「死刑囚パズル」を思い起こしますねぇ。ラストの捻りも印象的です。
 佐賀の乱で有名な江藤新平と、この作品のための架空の人物・鹿野師光との関係性、時代小説としての一面…などなど、短編集全体としても様々な読みどころがあって、好きなタイプの作品でしたね。

No.2 5点 yoshi
(2019/07/28 12:19登録)
個別の作品のトリック等は正直いまいち。
せっかく科学捜査のない時代を舞台にしているのだから、
もっと大胆なトリックでも良いのに、妙にちまちましている印象。
本格ミステリ大賞は、雰囲気の勝利かな。

No.1 5点 虫暮部
(2019/05/22 11:33登録)
 第19回本格ミステリ大賞受賞作。
 舞台は明治維新前後の激動期。人々の行動原理も命の軽重も現代とは異なる時代設定を上手く謎に絡めている。ネタの見せ方を心得ている人だと思う。手堅い文章力で歴史小説としての読み応えも、多分あるのだろう。
 しかしそこが却って、ぶっ飛んだ部分の無さ、と言うことで私の嗜好とは食い違う原因にもなってしまった。

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