| 虫暮部さんの登録情報 | |
|---|---|
| 平均点:6.20点 | 書評数:2234件 |
| No.2234 | 6点 | 記憶の中の誘拐 赤い博物館 大山誠一郎 |
|
(2026/05/12 14:09登録) 「夕暮れの屋上で」は、1章でもう仕掛けの見当が付いてしまった。その前提で読み進めると、あぁ成程と頷けるデータばかりで、緋色館長が示した “犯人の条件” も判った。でもこんな判り方は邪道である。歌がヒントなんだ、粋だねェ。 「連火」も2章冒頭で。ああ書かれたら、何か関わりがある、と思うしかないし、だったら繫がり方も何となく判る。“事件の陰に別の事件” のパターンは、本作のような形式には合わないと思う。現在進行形なら “別の事件” をもっとさりげなく提示出来るのに。 「死を十で割る」。“切断の理由” と “犯人に熟考する余裕が無かった” 設定を掛け合わせたところが上手い。完全な計画じゃなくても犯人は急いでたんだから仕方がない、と言う説得力がある。 |
||
| No.2233 | 8点 | 赤い博物館 大山誠一郎 |
|
(2026/05/12 14:08登録) どこかで聞いたような設定なのはさておき、すっかり引き込まれた。“再捜査” と言う状況だけでそれなりの物語性が生じるようである。 登場人物が少ないせいもあって厳しく見ると反転のパターンが限られている感はある。でも個々のトリックが粒揃いだから受け入れざるを得ない。「死に至る問い」の意外なところに着地するロジックに感服。 身代金受け渡しの場面は「Yの誘拐」(『アルファベット・パズラーズ』)の資料を使い回したのかな~。まぁ同じことを二度書いたら似てしまうのは仕方ないか。 |
||
| No.2232 | 6点 | 犯人はキミが好きなひと 阿津川辰海 |
|
(2026/05/12 14:07登録) うーむ、もっと楽しめてもおかしくないのに、妙に小粒な印象が残った。特殊なルールを設定しておきながら、読者に対してその裏をかくことばかりしている(初出の順序を見て驚いた)。 ルールの捻りは第三話、事件そのものは意外にも(とは、花林の言う通り “言ったもん勝ち” だと私も思うので)第一話のダイイング・メッセージが面白い。 この “悪女センサー” 設定で最も意外な捻り方はこうかな、でも具体的にどう展開すればフェア・プレイを維持しつつそれが出来るのか判らんな~、と思ったら第六話がそうだった。成程、そう来たか。グッジョブ。 シリーズ最終話があのトリック。某有名作を意識しているのかも。 |
||
| No.2231 | 6点 | あなたをつくります フィリップ・K・ディック |
|
(2026/05/12 14:07登録) 前半はコン・ゲーム小説みたい。語り手チームが勝手な行動を取り始めるあたりはなかなか笑えた。しかし後半は精神科医の話になってどんどん道を逸れて、とっ散らかって元に戻らないまま幕。なんだそれ。 解説によると、この頃の作者は “主流文学作家としての地位を得ようと試みていた” そうで、そう言われればこの非SF的な終わらせ方も頷けるところではある。 ところが更に解説によると、雑誌掲載時にはテッド・ホワイトによる最終章が加筆されていた。で、実はそれが、私が後半を読みながら “こういう風なオチじゃないかな?” と想像したものにかなり近い。 加筆部分は削除されているが、他者による加筆の是非はともかく、内容的には結構的確なサポートだと思う。これはそうやってきちんとSFに復帰させるべきでしょう! “現実の不安定さ” と言うディックのいつもの主題にも沿っているしね。 |
||
| No.2230 | 4点 | 特許やぶりの女王 弁理士・大鳳未来 南原詠 |
|
(2026/05/12 14:06登録) それなりに巧みにエンタテインメント化しているが、私はこういうビジネス・ウォーズみたいなのを楽しむ下地をあまり持ち合わせていないし、VTuber にも興味が無い。作中人物が驚いている事柄、例えばトラブルの解決案なんかにも “ふーん、そうなんだ” としか思えなかった。 |
||
| No.2229 | 7点 | ダンデライオン 中田永一 |
|
(2026/05/05 12:54登録) ネタバレあり。タイム・リープだけどパラドックスものではないので助かった。登場人物が限られているので真相を見抜き易いのが欠点。でも中心は犯人探しよりも “ミッションの遂行” だからまぁ良し。 ……なんて思ったけど、仕掛けはその先にあった。SFの設定を持ちつつ構造はミステリに近い、と見せかけて実は丸ごとパラドキシカルなSFの謎で包み込んでみせたのである。 彼は自分宛の手紙を書きながら自問する。“この文章は、だれが最初に考えたことになるのだろう?”。同じ疑問が “彼と彼女の関係そのもの” についても言えるではないか。二人はどうやって知り合ったのだろう? タイム・リープのせいで予め知り合い同士として発生してしまった二人を、物語の力でパラドックスに見せずに描くこと――。 作品の真意はそんな矛盾した挑戦だ。時間SFなら定番の謎だけどね。 作者は承知の上で、読者が自力で気付くかな~と北叟笑んでいると思う。壮大な引っ掛けである。 |
||
| No.2228 | 7点 | 漂泊の星舟 北清夢 |
|
(2026/05/05 12:54登録) 宇宙船の乗員に関する或る設定は端的には説明されず、記述の端々にさりげないほのめかしがあって、読者に “もしかしてこういうことかな?” と自分で情報を集めて把握させる書き方になっている。明確な記述が(多分)初めて出て来るのは実に152ページ。 それを踏まえると、その点を裏表紙の粗筋にサクッと書いたり、解説で言及したりするのは、野暮だと感じた。読者が自分で気付く機会を奪って、作者の意図を無駄にしているのではないでしょうか早川書房。 ミステリ部分はあまりミステリの文法になっていないから、まぁ “犯人探しを含むSF” と言ったところか。アスカの性格にはイライラしたけど、それは狙いだと思うので良し。 (全体は)長くてちょっと疲れた。しかし個々のエピソード自体は短く纏まっているし、良く出来た成長物語だし、どれかを削るとなると悩ましい。 “ミッションにとって、きみたちの感情はどうだっていいんだ!” と言うコーチの台詞が印象的。私も同感。その点で、実はこのメンバー達、ベスト選抜というにはデコボコ過ぎない(笑)? |
||
| No.2227 | 6点 | Butterfly World 最後の六日間 岡崎琢磨 |
|
(2026/05/05 12:53登録) もはや珍しくもないVRミステリ。 “紅たちの秘密” は即座に判った。噂やら動画やらで話題になっているなら、あの程度の真相に誰も気付かないのは不自然。実際に和馬はすぐ見当を付けたではないか。これは、“秘密” の難易度ではなく、多くの人が知っていると言う状況が問題なのであって、改善の余地はあったと思う。 館の事件と外側の出来事を緻密に絡めて、変則パズラーを上手に組み立ててはいる。ただ、不自然な事柄から目をそらして読み進むのは、やはりちょっと気分的な重荷になってしまった。 |
||
| No.2226 | 5点 | D機関情報 西村京太郎 |
|
(2026/05/05 12:53登録) 私は未だにスパイ小説を上手く読めない。 物語を貫く “理” が探偵小説とはまた違うでしょ。諜報戦に於ける “理詰めの基準” が今一つ摑めないせいで、主人公にせよ敵陣営にせよ、その判断が、その選択肢が、適切なのが愚かなのか判らない。状況が上向きなのか転落しているのか読み取れないのである。 たまに “探偵小説の理” が顔を覗かせると、物凄くホッとした気分になるのが自分でも可笑しい。 しかし、100キロをトランク二つに詰めて一人で運べって、罰ゲームのような無茶振りじゃない? 陽動作戦だろうとずっと思っていた。 |
||
| No.2225 | 4点 | 灰色の仮面 折原一 |
|
(2026/05/05 12:52登録) (オリジナル版)ラストこれでいいのか? と思ったら案の定、改訂版もあるそうで……。 事件の経過がありきたりだとか、主人公の言動が御都合主義的に変だとか、そういう多少の瑕疵はラストが上手く収斂すれば吹き飛ぶ程度のものなのだが、その肝心の部分で余計なことをしてしまった。直前でどうにか纏まっていたと思うのに、数ページの蛇足で台無し。 |
||
| No.2224 | 7点 | アルファベット・パズラーズ 大山誠一郎 |
|
(2026/04/28 13:05登録) これはなかなか良いんじゃないだろうか。 と感じたのは曲がりなりにも物語としての膨らみがあるから。(逆に言うと、この程度は書ける作家なわけで、ならば色々殺ぎ落としたような『密室蒐集家』は意図的にああいう風に書いたと言うことになる。その志向性には共感しがたいなぁ。) 良いと言っても指摘しておきたい欠点はあって、「Pの妄想」の被害者、車椅子でその生活は無謀。 「Fの告発」は無理にパズラーの型に嵌めたよう。死体を運び出せば良かったのでは。 「Cの遺言」、あんな偶然成立しちゃいそうな合言葉はリスキーで意味が無い。 |
||
| No.2223 | 6点 | 雨音 久永実木彦 |
|
(2026/04/28 13:04登録) ドキュメンタリー映画云々は、事件当事者にしてみれば本当に低俗で不謹慎。結果的に “貴重な記録” とやらになったとしても、その為に二次被害を受ける義理は無い。前半を読む上で、語り手の意識の甘さがどこまでも付き纏った。 ところが後半、ベニのアンバランスな魅力(浴衣は起伏のないスタイルの方が似合うと言うので、さぞかし……)や、突き落とされたような喪失感が、別の話みたいに感じられた。これは果たして作者の狙いなのか。 気持の真ん中にある微妙な部分をガシッと容赦無く摑み出す手管には長けているが、見るとそこにはヌラヌラ動く心臓が何故か二つあるのだ。それは違和感が大きくて、あまり効果的だとは思えなかった。 |
||
| No.2222 | 6点 | 『クロック城』殺人事件 北山猛邦 |
|
(2026/04/28 13:03登録) トリックもホワイも面白い。一方で、ミステリ要素以外の部分を思わせ振りに膨らませ過ぎ。 ディストピア・バトルSF? と思ったけど、SEEKと十一人委員会は全面対決しないの?〈ゲシュタルトの欠片〉って何? 等々色々曖昧なままで、まぁそういう手法もアリだけど、ここでは効果的ではない。風呂敷は責任を持って畳んで欲しかった。 |
||
| No.2221 | 6点 | 黄金仮面の王(河出文庫版) マルセル・シュオッブ |
|
(2026/04/28 13:03登録) 全体的にグロテスクだけどユーモラス。文章の修飾で膨れ上がっているのは “そういう手法” だと判ってはいるが、ストーリー性がこんなに乏しくて良いのかと困惑すること多し。 象徴主義だそうです。判らない事物を恣意的にこじつけて自由に曲解出来る便利なシステム。なのでまぁ気楽に読もう。 「未来のテロ」は、文脈抜きで一枚の絵としては鮮烈。「バーク、ヘアー両氏」「顔無し」、チェスタトンみたいで面白い。「木の星」の、無邪気な少年性に対比してブラック・ユーモアなオチが明確で良い。「擬曲」の “船乗り” は、ミステリ風に水中に死体が沈んでいた話にも読める。 同題の短編集が国書刊行会とコーベブックスから既に出ているが収録内容は別。知っていながらそういう紛らわしいことはしないで欲しいな。 |
||
| No.2220 | 6点 | 猫に蹂躙されたい人に贈る25のショートホラー アンソロジー(出版社編) |
|
(2026/04/28 13:02登録) 概ねタイトル通りの内容。各作者の “ホラー” に対する解釈が、“恐怖” 寄りか “怪異” 寄りかでヴァリエーションが生まれるんだな。 猫は、賢いようで間抜けなようで、居るようで居ないようで、曖昧な領域に立たせ易い気がする。故に化け猫は少なからず見かけるが化け犬は珍しい。 特に印象的だったのは岩井志麻子「いたかもしれない猫」、柏てん「あんこさん」、高橋由太「ジュンヤと虎鉄」。 あまりピンと来なかったのは斜線堂有紀「愛らしい猫を迎える際の大切な心得」、香坂鮪「鮪嫌い」、澤村伊智「りこしゃん」。 |
||
| No.2219 | 7点 | 3分で読める!人を殺してしまった話 アンソロジー(出版社編) |
|
(2026/04/17 15:52登録) “人を殺してしまった。” で始まる企画ショート・ショート集。講談社のメフィストリーダーズクラブよりも随分直球である。いかにも軽そうな佇まいに反して全体的に高品質。 うーむ、人を殺す話ってやっぱりいいなぁ。 特に印象的だったのは佐藤青南「贖罪のカクテル」、貴戸湊太「名探偵現る」、降田天「お悩み相談ラジオ」。 あまりピンと来なかったのは三日市零「生成AIは人気作家の夢を見るか?」、桐山徹也「侵入者」、歌田年「ループ」。 人を殺してしまった。 どこに? って、死体をしまうのは棺桶の中に決まっている。 ってのはどうだろう。苦しいか……。 |
||
| No.2218 | 7点 | それはそれはよく燃えた アンソロジー(出版社編) |
|
(2026/04/17 15:51登録) メフィストリーダーズクラブ企画第6弾。全体的に、最初の一文に関してはあまり捻らず、“何が燃えたか” で素直に話を広げている印象。高田崇史がここまで皆勤賞。 ベストを挙げちゃうと似鳥鶏「全滅館の殺人」。ミステリ者として許せない(笑)。 他にもほっこりしたオチが意外にも心地良い風森章羽「黄金の森の神様」。強烈な雑学、古泉迦十「マザー・ジン」。秋吉理香子「ファンの鑑」と五十嵐律人「不完全怨燃」はちょっと似てしまったが、いずれ菖蒲か杜若。 かなり充実したショート・ショート集だと思う。しかし皆川博子のアレだけは、うーむ……判断不能。 |
||
| No.2217 | 7点 | 妄想銀行 星新一 |
|
(2026/04/17 15:51登録) 本書を読むのは中学校以来。その時は図書館で借りるのではなく実家の蔵書だったから、何度か繰り返し読んだ筈。それが此度読み返して覚えていたのは僅かに「信念」「変な客」「博士と殿さま」。あと「人間的」は教科書に載っていたね。 犯罪関係やミステリ的な謎を含む話が思ったより多く(三分の一くらい)、日本推理作家協会賞受賞も伊達ではない。 印象的な作品は、世界の曖昧さを結構長々と描いた「陰謀団ミダス」、この真相には意表を突かれた「古風な愛」、星新一らしからぬダークな「敏感な動物」。 「破滅」のオチは良く判らん。「鍵」はH・G・ウェルズ「塀についたドア」みたい。表題作は “妄想” の内容とその扱いに時代を感じる(ポリコレ的に……)。 |
||
| No.2216 | 6点 | 悪魔はあくまで悪魔である 都筑道夫 |
|
(2026/04/17 15:50登録) 都筑道夫は雑学的でノスタルジックな脱線が面白い。本書収録作の多くは、オチよりも途中経過で読ませるショート・ショート、だと思った。しかしそれ故に、煙に巻かれた読後感なものも多く、ロジカルな語り口と整合しない嫌いがある――だからたまに “切れ味オチ” タイプの作品があると、もう効くったらない。 「旅行ぎらい」「不老長寿」「超能力」あたりが良かった。 |
||
| No.2215 | 6点 | 妖しいクレヨン箱 阿刀田高 |
|
(2026/04/17 15:50登録) 本書の中で更に「妖しいクレヨン箱」と題されたパートは、まず冒頭の「白い犬」が出色。オチよりも詩情で読ませる。 驚いたのはコレ:“N子ってだれですか” “名前の頭文字にNのつく人ですよ……夏子、直子、浪子……” 登場人物をアルファベットで表しているのは表記上の便宜かと思っていたら、いきなり本当のイニシャル・トークになるんだもの。叙述トリック? 十二編、色々なタイプで総じて高品質。“マダム” なる雑誌に連載されたもの。原稿料が良かったのかしらん。 以降のパートには波があって、でもショート・ショートはそういうものだ。広告の為に書かれたスケッチ風のものも幾つか収録、あっさりし過ぎじゃないかと思ったが、そう説明されるとまぁ納得せざるを得ない。 「田代湖殺人事件」。泡坂妻夫に頼めば “実物” を書いてくれただろうか? |
||