虫暮部さんの登録情報 | |
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平均点:6.22点 | 書評数:1843件 |
No.1843 | 8点 | 時空犯 潮谷験 |
(2024/11/13 12:38登録) これは良いタイムリープだ。消去法のロジックとシンプルに結び付きつつ余計な混乱は招かず。連れ出された時空で脳が心地良く揉まれた。ナイス知性体。犯人探しがあるだけで “ミステリ” との認識になりがちだけど、私は概ねSF、それこそクラーク系として楽しんでいたなぁ。モグラの対義語はモゲラさん卓見です。 |
No.1842 | 7点 | キッド・ピストルズの冒瀆 山口雅也 |
(2024/11/13 12:37登録) 本格ミステリと言うスタイルのパロディ? 装飾部分を除くと、どの話もミステリ的には割と普通のアイデアだと思う(組み合わせ方は上手い)。 しかし、アイデアと装飾と、どちらがより “本質” かは一概に言えない。総合的に差別化は出来ているのでいいんじゃないの。 バンドを描いた小説には “イヤイヤそういうもんじゃないでしょ” と感じることがとても多いけれど、「パンキー・レゲエ殺人」は結構スンナリ腑に落ちた。 |
No.1841 | 6点 | 仮面 山田正紀 |
(2024/11/13 12:36登録) 犯人と被害者、現実と回想、書き手と読み手。様々な境界線が融解融合する騙りに楽しく幻惑された。記号論的転換によるホワイダニットも、この世界観なら説得力充分イヤ寧ろ斯くあるべしと言う感じ。タマネギの件をダミーに使ってしまうとは贅沢な。 ▲▼を用いたアレは戴けない。あまりにあからさまだし、テキストが長過ぎ。 |
No.1840 | 6点 | ニャン氏の事件簿 松尾由美 |
(2024/11/13 12:34登録) 猫が人語を話さないからと言って、人語を解さないだろうとするのは根拠薄弱である。 彼等はしばしば図々しいだとか何も考えていないようだとか言われるが、その誤解を正し本来の知性品性ある姿を世に知らしめるこのような書の存在はまことに喜ばしい。 ミステリ部分は創作でも、それ以外は作者の鋭い観察眼および彼等との対話の賜物であろう。あなたにネコのお恵みを。 |
No.1839 | 5点 | 二人一組になってください 木爾チレン |
(2024/11/13 12:34登録) これは、デスゲームをやっておきながら、その妙味を放棄したような設定では。 ルールに伴う、誰と誰が今回組んだから以後組めるのは誰々で~、みたいなチェックが物凄く面倒でややこしい。更に視点人物が一章ごとに変わるから一貫した戦略と言うものが読者視点では成立しない。 故に番狂わせらしき展開があっても、そう来たか! えっそんな手アリ? と言った反応が出来ずに淡々と成り行きを見守るだけ。ゲーム自体には寄り添えず、単なる少女達のプロフィール集だった。 終章はヤングアニマル掲載の某漫画を思い出したが、もしかしてこういうNEVER ENDINGは伝統的なパターンなのだろうか。 |
No.1838 | 8点 | 月の扉 石持浅海 |
(2024/11/08 12:38登録) ハイジャックのストーリーと不可能犯罪の見事な融合。この作者は悪巧みする側を書く方が筆が冴えるんじゃない? 動機にも、それに伴う結末にも合点が行った。ただ、密室のトリックはイマイチ好みではない。 |
No.1837 | 7点 | 虚栄の都市 山田正紀 |
(2024/11/08 12:37登録) 「いったい、何なのだ……」 この呟きに全てが凝縮されているようだ。流れ来て流れ行く、その一部分を切り取っただけのような、全然完結していないじゃないかと言う物語は、山田正紀の(特に初期)作品には割と見られる形態で、つまり本作、実はSFなんじゃないかなぁ(フレッド・セイバーヘーゲン『バーサーカー』シリーズみたいな)。 冷酷にバタバタ死ぬ反面、小さなエピソードで人々に “顔” を与える手法が、ここでは取って付けた感じではなく効果を発揮していると思う。アクション系と政治的な題材も上手く並走して、意外と盛り沢山。 |
No.1836 | 6点 | 透明な一日 北川歩実 |
(2024/11/08 12:37登録) 記憶障害。ありがちだな~。でも読み進むとそれは本題ではなくピースの一つに過ぎないと判る。世界の反転は違う部分で起きるし、犯人のサイコパス的資質とはまぁ無関係。放火・殺人事件を軸に考えるなら、設置する障害物としては必要以上に大き過ぎる。それより犯人のキャラクターの方が深く掘り下げて書くに値すると思う。 つまり総体的に見ると、面白いんだけど長過ぎるし、その長さの原因は複数のネタを無理に抱き合わせたことじゃないだろうか。でもバラしたらもう別の物語になっちゃうか。 |
No.1835 | 5点 | 牢獄学舎の殺人 未完図書委員会の事件簿 市川憂人 |
(2024/11/08 12:36登録) 主人公二人が作中作の手掛かりを吟味するやりとりが楽しい。凝った構成、密室、謎の作家に謎の組織、と構成要素を鑑みればもっと乗れそうなものだが、何故か実際にはそれほどでもなかった。主人公が無個性と言うかプリセットされたキャラクターをそのまま使った感じ。事後従犯グループの動機がファジィで素直には頷けない。 By the way, this title is an important clue(?). |
No.1834 | 4点 | 蠟燭は燃えているか 桃野雑派 |
(2024/11/08 12:35登録) イマイチ。友達からの連絡を受ける為に動画で注目されよう、と言う案は、回りくどくてそこまで効果的には思えない。それで炎上しても意地を張るように頑なに維持。別の視点から描けば、この主人公は非常に浅慮で自分勝手に見えるだろう。 “共感出来ない主人公” だから駄目と言うことではないが、導入部で距離を感じて、それが改善されることは無かった。 社会派めいた部分も、“被害者教” と言うカルトみたい。“まず現実的な対応をすべきでは?” と思ってしまった。 |
No.1833 | 7点 | 日本扇の謎 有栖川有栖 |
(2024/10/31 12:43登録) (ネタバレあり)離れの明かりについて。“ほとんど無意識で電気を消してしまった(だろう)” と言う意見と “すぐ戻ってくるつもりでいたはずなので消灯はしない(=明かりをどうするかは意識的に判断している)” と言う意見が謎解きロジック内で混在している。 前者の推測を認めるなら、後者だって場を離れる時間と関係無く無意識に消した可能性がある。二重基準っぽいのでは。 次男で “颯一”。絶対伏線だと思ったんだけど。まぁ私の知人でも似たようなケースが実在するしね……。 さて本題。脳は何処まで行ってもブラック・ボックスなのである。或る時点で記憶があるからといって、その後の別の時点で記憶が保たれているとは限らない。 何故なら、自動車に撥ねられかけて転倒したから。仮にあの部分がアリスの筆による作中作だったとしても、別れてから見付かるまでに空白の時間帯があるのは確かだ。その間に本当に記憶を失った可能性を否定することは出来ない。 人は “記憶を失くした” と言う嘘を何処までも吐き通すことが出来る。それは裏返すと、本当に記憶を失くしていても “嘘ではない” と客観的に証明は出来ない、と言うことでもある。 つまりこれはちょっとしたリドル・ストーリーで、“嘘ではなかった” と言う一条の希望を作者が残してくれたんじゃないだろうか。 |
No.1832 | 7点 | 密室偏愛時代の殺人 閉ざされた村と八つのトリック 鴨崎暖炉 |
(2024/10/31 12:42登録) 欲張って具を挿み過ぎたハンバーガーは食べるのが大変。鬼畜のアイデアか、“血染め和室の密室” が素晴らしい。いや、“別荘の密室” も “人体発火” も……唯一、鍵の構造を利用した妙にリアルな奴がワンランク落ちる。この世界観にいると評価軸がバグるわ。欲しいのはリアリティではなく変態な発想力! “~らしい” を多用する文体は再考すべき。記述の信頼度に関わる問題である。 |
No.1831 | 7点 | 山手線が転生して加速器になりました。 松崎有理 |
(2024/10/31 12:41登録) 理系の作者にしてみればこういう著作自体がアウトリーチ(学術に於ける宣伝)活動とも言えそう。奇想天外な “山手線” はともかく、結構楽観的な未来像なんだけど、つい説得されてしまう。ミステリ的な叙述もアリ。VRが普及したら、こういうのもSFミステリではなく普通のミステリになるのだろうか。 「ひとりぼっちの都会人」。シェフと長老のやりとりが湿っぽくない温かさで泣ける。そして頗る付きに美味しそうなメニュー! あ~早く東京壊滅しないかな~。 |
No.1830 | 7点 | 奇岩館の殺人 高野結史 |
(2024/10/31 12:41登録) この設定いいなあ。更に、アイデアだけで慢心せず細心の注意を払って(視点によって事態の捉え方が変わる、とか)具現化した手付きが好印象。ドタバタ喜劇的な状況の見せ方も抑制が効いていて上手い。小園間さん頑張れと念じつつ読了。全体的に軽めなのも、このミス大賞シリーズだから問題無いだろう。 |
No.1829 | 6点 | 全員犯人、だけど被害者、しかも探偵 下村敦史 |
(2024/10/31 12:40登録) 特殊な条件のデスゲームで参加者が舌先三寸に命を懸けて自白合戦、と言う発想の転換はとても面白い。変則パズラーに社会派を混ぜたエンタテインメント。そこで終わらせておけば良かった。 それを更に捻って囲い込んだのは蛇足に思える。真犯人の行動原理も強引で、設定ありきな感じ。整形して逃げたならもう脅迫者が誰でもいいじゃん。これには作品全体の評価を下げざるを得ない。 単行本表紙は深水黎一郎『ウルチモ・トルッコ』、更に遡ればレコードだけどユーライア・ヒープ『対自核( Look At Yourself )』、コンセントピックス「顔」。由緒正しいデザインなのである。 |
No.1828 | 7点 | サーキット・スイッチャー 安野貴博 |
(2024/10/25 12:26登録) 未来が舞台と言っても2029年だからあっという間だ。大胆な想像力。それとも、現状のデータから合理的に類推すれば、これも一つの起こり得る話なのだろうか。正直なところ、私は結構 “数の論理で選択する” 派だったりする。 気になる事項にはそれぞれ巧みな落としどころが用意されておりグッジョブ。挿み込まれるロマンスにもだもだしちゃう。switch にはそのものずばり “転轍する” の意味あり。 ところで、この件で死者は出ても最大二名、しかも片方は犯人だ。経済性で考慮したら、トロッコ問題で “選ばれる側” になってしまうのでは。つまり無理を通すには人質が足りないのでは。あっ、道路に対する被害も加算するのか? |
No.1827 | 6点 | 真実の絆 北川歩実 |
(2024/10/25 12:26登録) 人間が “多い” と感じる最小の数は七である。だから奇術師が鳩を出す時は七羽にする。それより多くしても、扱いの難しさに見合う効果が得られない――。 と言ったようなことを泡坂妻夫が書いていた記憶があるな。作者は本書で頑張り過ぎて十羽くらい無理に仕込んでしまった。捻って捻ってまた捻り、しかしそれは読者を楽しませると言うより困惑に導いてしまった。前半の各話を独立したエピソードとして読んでいた時点の方が、纏めに入る後半に進んで以降よりも楽しかった。杉樽は及ばざるが如し。 |
No.1826 | 5点 | 怪傑レディ・フラヌール 西尾維新 |
(2024/10/25 12:25登録) そもそも返却怪盗シリーズは “全部返したら終わりなのだろう” と、完結が予め視野に入ったものだった。で、本書が期待以上の物凄いアイデアによる着地点と言うわけではまぁない。特に前半あまり乗れなかった。新キャラもいないし(ストイックな程に!)、シリーズの消化試合の雰囲気と言うか。ラスト、心臓ならともかく幾らかの肉の為に死ぬ必要は無いので、緊迫した選択とは言い難い。 しかし語り手の痛い感じ(地の文で家族への幼稚な反発がダダ漏れ……)は花丸。いーちゃんを超えたかも。 |
No.1825 | 5点 | キス 西澤保彦 |
(2024/10/25 12:24登録) 「舞踏会の夜」の作中作が一番良かった。“この作品にこう駄目出しが入るか!” と言う観点でも面白い。没原稿の在庫処分なのか? SF作家になりたかった夢をドサクサ紛れに叶えた? |
No.1824 | 4点 | 運命の八分休符 連城三紀彦 |
(2024/10/25 12:24登録) イマイチ。トリックが世界観から浮いている。軽妙なユーモアを意図していると思しき部分は、その “意図” ばかりが目立って苦笑を誘う。心情が(否、文章が、かな?)直線的で、繊細な機微を描くには柔らかさに欠ける。 シリーズとは言え短編集なのに、そのいまいちさが一貫している。ってことは、作者はこういう芸風を良いものだと考えて狙って書いたのだろう。『戻り川心中』との違いに首を傾げざるを得ない。 |