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ミステリの祭典

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虫暮部さんの登録情報
平均点:6.21点 書評数:2006件

プロフィール| 書評

No.2006 6点 死への旅
アガサ・クリスティー
(2025/06/30 12:49登録)
 冒険とかスパイとかはメインではない。トーンは違うが、江戸川乱歩『パノラマ島奇談』『影男』のような “大金持ちがユートピアを作る話” だな~と思った。
 冒頭のひどいリクルート方法、私は面白かった。AC安定のキャラクター造形のおかげもあって、真相に納得し切れない幾つかの本格ミステリ作よりはこっちの方がアリではないか。気を抜いて読めると言う意味も含めて。


No.2005 6点 死の猟犬
アガサ・クリスティー
(2025/06/30 12:48登録)
 あまり期待していなかったが、神秘譚とミステリの融合、なかなか良い。特に「死の猟犬」。“選ばれた物” とか “円を閉ざす” とか思わせ振りな言葉だけで殆ど何も解明されていない点に、却って世界の広がりが感じられた。
 「検察側の証人」。図らずも滲み出てしまったようなわざとらしさがあって真相は何となく見当が付く。後半は、如何にしてその着地点に落とし込むか、と言う意味での上手さ。
 「青い壺の謎」のような御芝居のプロット、私は本来嫌いなんだけど、これは何故かオチで笑えたなぁ。
 「赤信号」。城真子さん? 麻姑四郎さん?


No.2004 5点 死者のあやまち
アガサ・クリスティー
(2025/06/30 12:48登録)
 作者は真相を知っているが故に、ついついそれを踏まえた語り方をしてしまった。
 だって捜査陣のこの対応はどうなの。少女の死をあっさり巻き添えだと決め付けて、目の前の死体より行方不明者の人間関係にかまけている。最終的にそれで正解だったものの、年齢を理由に被害者個人のアイデンティティを軽んじてないか、と言う違和感がずっと付いて回った。
 登場人物皆が、とある暗黙の諒解の下に、つまり作者が意図するレッド・ヘリングを際立たせる方向に、動いているみたい。その範囲が事件の直接関係者ならまぁ許容出来なくもないが、警察まで巻き込むのは行き過ぎである。まずお祭を封鎖して、人海戦術で変質者を捜索すべきじゃない?
 
 この三年前の長編では “ついつい” の軛から逃れられた反面その結果として見当違いな調査に終始した、のと対照的。その分あちらは真相がより唐突な印象だけど、本作の不自然さの方が長期に亘るから困るなぁ。バランスを取るのは難しい。
 そう言えば、あちらは “殺されたんでしょう?” 、こちらは “人殺しをするのよ”。思わせ振り台詞対決か。


No.2003 8点 死せる案山子の冒険
エラリイ・クイーン
(2025/06/30 12:48登録)
 辛うじて一問正解、但しロジックは不完全。
 そんな成績で偉そうに言うことでもないが、ラジオ放送時に “聴取者への挑戦” として、何を、何処まで、問うていたのだろうか?
 「〈生き残りクラブ〉の冒険」の場合、“犯人” とは何をやった者を指すのか。しかしそこにこだわると、挑戦の文言がヒントになりかねない。フェアに行くなら複数形で問わねばならない作品もある。表題作の殺人犯は指摘出来ても、動機や被害者の正体(本書の中ではそこが一番興味深かった)まで推理するのは難易度が高そう。

 「黒衣の女の冒険」の登場人物の説明で、“異父弟” と “義理の弟” はイコールじゃないぞ(原文未確認)。


No.2002 4点 死時計
ジョン・ディクスン・カー
(2025/06/30 12:47登録)
 色々と判りにくいんだけど、私が最も受け入れがたかったのは動機。何その迂遠な憎悪の表現!?
 しかも、その騙しはあっちの真犯人が捕まっちゃったら破綻するのだから、実は計画として失敗である。
 更にメタ視点で見ると、ミステリである以上 “あっちは未解決です” で済ませるわけにはまぁ行かないのであって、従って作中でそのように進展して犯人の計画が破綻するのは必然なわけで、それは小説のプロットとしても失敗なのではないか。


No.2001 6点 心臓
小塚原旬
(2025/06/28 21:16登録)
 群像劇として、登場人物達の気持の流れには引き込まれた。まるで “警察小説は肌に合わないが、SFが混ざると格段に読み易く感じる” 私の嗜好に寄り添ってくれているようだ。

 但し未来社会設定は良し悪しで、未来のテクノロジーを謎解きの興趣と如何に両立させるかと言う点では苦闘気味。進歩の上限を読者に示せないから、どうしてもアンフェアっぽくなる。串刺しとか心臓がどうとか、事件の様相だけ見ると島田荘司ばりで魅力的なんだけどね……。
 脱獄のエピソード。脱走の経路や手段が具体的にイメージしづらく、それ故に難易度も量りづらいのが難点。


No.2000 5点 キネマ探偵カレイドミステリー 会縁奇縁のリエナクトメント
斜線堂有紀
(2025/06/28 21:16登録)
 キャラクター小説としてはまぁ良く出来ている。但し “映画” と言う題材は私の守備範囲ではない。それを知りつつ手に取ったのは、ミステリ的にもこの作者にはそれなりの期待があったから。

 なんだけど、ネタバレしつつ、気になるエピソードがあったので書いてしまおう。
 その話はAとBそれぞれの視点で交互に語られる。同じ建物に別々に来ているらしい。同じ部屋に入ったのに、Aは死体を見付け、Bの眼前には何も無い。それがメインの “謎” のように読者には見える。
 しかし、読者に対しては “叙述による時間の錯誤” があったことが明らかになる。だから “謎” が生じたのか!
 と思ったら、実は “Bの時にも死体はあった、雨のせいで見落とした” だと示される。だったら “叙述による時間の錯誤” は無意味な、紛らわしいだけの遊びになっていないか?
 叙述で読者を驚かしたいなら、それが “謎” の原因であってこそ。叙述が “謎” とは無関係な遊びなら、真相が “単なる見落とし” なのは如何なものか。このコンセプトは失敗だと思う。


No.1999 5点 天網恢々アルケミー 前崎中央高校科学部の事件ファイル
下村智恵理
(2025/06/28 21:15登録)
 アルケミーとか科学部とか謳っている作品は、科学的に解明するのが御約束。と言う先入観があるから、不可解ではあっても “怪奇現象” 的な見方は出来ない。その点で物語の演出としてあまり効いていないと思った。
 “学園” 要素も、既成のパターンを使って空回りしている感が強い。キャラ的に保健室の新井先生は面白かった。
 ただまぁこれらは総合的に “判り易過ぎて物足りない” と言うことであって、こういう読書初心者の入り口になるような新作の存在は良いことだと思う。


No.1998 5点 観覧車は謎を乗せて
朝永理人
(2025/06/28 21:15登録)
 このコンセプトは考え過ぎだと思う。惹かれるエピソードはあるものの、こういう形でリンクさせたから更に良くなったと言う感じはしない。
 中でも直接犯罪が絡む “殺人犯は如何にして脱出したか” は真相がイマイチ。でもこの件こそ、単なる気持の問題ではないと言う意味で、最も説得力が求められる事例ではないか。


No.1997 4点 千年のフーダニット
麻根重次
(2025/06/28 21:14登録)
 SFとして掘り下げ不足。
 千年のコールドスリープに関するアレコレが色々と雑に感じた。SFサイドから(も)読む私のような読者にしてみれば、解像度はせいぜい星新一なみと言ったところ。
 寓話的ショート・ショートならそれで良いけれど、フーのみならず様々なホワイを内包するミステリの背景がそれでは、人物像までぼやけちゃって切実さが伝わって来ない。そこまでして再度スリープする必要があったのだろうか? 作中の説明では不満だな~。
 最初は良い話っぽかった “断章” がどんどん闇堕ちする様には目を瞠った。


No.1996 7点 有栖川有栖に捧げる七つの謎
アンソロジー(出版社編)
(2025/06/20 11:53登録)
 様々な方向のアプローチが楽しめる。中でも「縄、綱、ロープ」「ブラックミラー」。“完コピ” はまさしく有栖川ワールドそのもので驚嘆。代筆疑惑が(私の脳内で)生じちゃって困る。後者は逆に、有栖川的世界観ではおよそ在り得ないようなエグいトリックをぶっこんで来たのでギョッとした。


No.1995 7点 一次元の挿し木
松下龍之介
(2025/06/20 11:52登録)
 DNA云々と来たら幾つか考え得る可能性があるけれど、最も使いにくそうなネタに挑んだか。SFなら既にありそうな話を現代ミステリの体裁で書いたアイデアの勝利。リアリティを問うよりはパラレル・ワールド設定だと割り切って読むが吉?
 しかし、かの湖と背後に潜む組織との関係がキチンと記述されていないので、事態の根底がやや不安定に見える。まぁ大勢に影響は無いんだけど、そこは上手く設定をでっち上げて欲しかった。

 他のタイトルでも何度か書いたけど “バカ” を含む名前ってどーなの?


No.1994 7点 この恋だけは推理らない
谷夏読
(2025/06/20 11:52登録)
 ちょっとした意外性を含むコイバナ、まぁ及第点ではあるかな~。
 と油断していたら途中でガラリと景色が変わって感嘆した。ありがちな手法ではあるが、咲那の痛いキャラクターが格好の目眩ましになって全然気付かず。
 最後の方、ミステリ的な捻りは弱いが、それで却って各々の気持にフォーカスが絞られて良かった。
 スマートフォン非通知着信のルールは不合理だけど大目に見よう。つげオチを予想してたけど流石にそれは無かった(笑)。


No.1993 6点 未来図と蜘蛛の巣
矢部嵩
(2025/06/20 11:51登録)
 特殊な楽器を演奏するには、その為の特殊な楽曲を作る必要がある。逆に、特殊な楽曲の為に特殊な楽器を開発することもある。その手の作品を聴いていると、しばしば自分がどの点を評価しているのか判らなくなる。模範解答を言うなら、そういったプロデュース面も含めた総体が “作品” になるわけだが、単に特殊な音色に耳を引かれているだけに思えることもある。その特殊性のみでも成り立ってしまいかねないからこそ引き際が肝心で、あまりダラダラとジャムを続けるのは感心しない。可不可の評価しにくさはフランツ・カフカに通じる。


No.1992 5点 パンドラブレイン 亜魂島殺人(格)事件
南海遊
(2025/06/20 11:50登録)
 ネタバレあり。
 面白かったことは確か。しかしこの錯綜した物語を、読者が的確に把握出来るように、作者はもっと心を砕くべきではないか。ちょっとお高くとまり過ぎである。だからこちらは判らない部分を色々考えてしまうのである。

 過去の事件について。“19秒” と言う、あまりと言えばあまりな時間的不可能性。これは寧ろ、最大の手掛かりとして機能していないか。
 だって無理でしょ19秒って。ならばどの部分に欺瞞があるかと言えばあそこしかない。すると現場に入れるのは誰か、で犯人は概ね確定する。あの状況であのトリックを選ぶのは実は自殺行為である。
 犯人側としては、いざとなれば全て力尽くで片付けると言うスタンスで、密室トリックは作中で述べられているように本当に感傷だったのだろう。しかし、“負けそうになったら盤を引っ繰り返せばいいや” と言う気持の対局を見せられるのは愉快ではない。
 ついでに意地悪なことを書くと、研究所にAIが存在するのにトリックに用いなかったのは、そうすると “会話の齟齬” と言う手掛かりを残せない作者の都合?


No.1991 5点 砂男
有栖川有栖
(2025/06/13 14:32登録)
 本書の成立過程があれこれ記されているが、単に出来がちょっと弱くて短編集に収録し損ねていたものが集まっちゃったんじゃない? と言う感じもするな~。
 「推理研VSパズル研」のロジックが理解しきれない。作中の説明の仕方はベストなのだろうか?
 表題作。鉄道事故の真相が不明なままで良いのだろうか?
 「小さな謎、解きます」は両方ピンと来た。漢字マニアなもので。歌詞の件は私も気になっていた。ああいうねじれたメタ構造の歌は他にも、「大きなうた」とか、「わかれうた」とか……。


No.1990 5点 猫女
泡坂妻夫
(2025/06/13 14:32登録)
 事件、と言っても色々あるが、人が死んだり消えたりして警察が関わる事件は、御家騒動や人間関係の事件の向こう側に置かれて、間接的にしか見えて来ない。陶芸のエピソード等も興味深いが、ミステリの心算で読んでいるのでやはりもどかしい。結局なんだったの、と言う気持が残ってしまった。
 ところで “音澄” と言う名字は洒落だね。


No.1989 6点 妖鳥
山田正紀
(2025/06/13 14:31登録)
 『僧正の積木唄』より一足早いヴァン・ダインへのオマージュ? と言う気もする。
 結末で明かされる幾つかのホワイ。それ自体は良い。“地球をぐるりと動かす” とか “ミルクを入れた水を飲む” とか、とても好き。
 ただ、それは形而上的に、言葉で概念を玩んでいるに過ぎないのであって、この入り組んだ分厚い物語を支えるには少々心許無い。これだけ延々読んで根っこの動機がコレ? うーむ、その歪な感じも含めてオマージュなのかも(と逃げる私)。


No.1988 7点 盲獣
江戸川乱歩
(2025/06/13 14:31登録)
 自らの欲望がおぞましいと理解しつつ、その心と共に生きねばならないのは、それ自体が罰に等しい。自分自身と言う罰から逃げられずそれ故に罪を重ねる哀しみ。盲獣の背景が大雑把だし捻りには欠けるのだが、彼の内なる慟哭が行間から感じられた。


No.1987 5点 猿神
太田忠司
(2025/06/13 14:31登録)
 あの頃はこんなのがあったなぁ、と言う懐かしネタは、自分が知らない時代のものは興味深いが、記憶にあるものは鬱陶しい。と言うことで、作者のせいではまぁないけれど、バブル期云々の時代背景的要素はパスしたいし紋切型だなぁと思う。
 ホラーとしても、書き方が達者なせいで却って引っ掛かりに乏しい。でも、事態のキッチリした解明や解決を示さない有耶無耶な怪異の描き方こそが狙いにも思えるし、それは成功しているのだろう。

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