| 虫暮部さんの登録情報 | |
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| 平均点:6.20点 | 書評数:2105件 |
| No.2105 | 8点 | ファウンテンブルーの魔人たち 白石一文 |
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(2025/11/15 13:54登録) 人類の明後日を占うエンタテインメント。SF的ガジェットが作品の根幹に据えられている点を重視するなら本作はSF。 とは言え、“パズラー的な謎と論理” ではないものの、不可解な要素が次から次へと繰り出され、思いがけない地点へ誘導されて、ハッと気付くとオセロのように黒白が鮮やかに逆転しているのは、変則的かつハイ・スケールなミステリの読み味にも通じるものがある。 それ反則! と何度も突っ込み、しかしそれら全てがいつの間にかアリになっていた。分厚いのにちっとも重厚な印象を残さないのは、初出が週刊新潮だったせいか(偏見?)。 |
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| No.2104 | 6点 | 悪党たちは千里を走る 貫井徳郎 |
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(2025/11/15 13:53登録) 作者のイメージとあまりに違うので冒頭から面食らったが、スピード感にもユーモアにも素直に乗れた。こんな引き出しもあるのか……。 ただ、犯人の設定は唐突で強引だと思う。今までのことを伏線として用いなきゃならないので既に登場している人物から犯人を選んだ、と言う感じ。 |
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| No.2103 | 6点 | おれたちはブルースしか歌わない 西村京太郎 |
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(2025/11/15 13:53登録) “9月23日が日曜日” なので舞台は1973年。ぴんからトリオ「女のみち」は72年なので合っているが、“グループサウンズ” なんて語はだいぶ流行遅れ。これは'73年の日本ではなく、架空の国・架空の時代の架空の青春であると考えた方が、微妙に変なセンスも許容し易い(笑)。 簡単にポンポン殺し過ぎではあるが、ミステリ的ポイントは相応に押さえていると思う。そして、どこがどうとは言えないけれど、登場人物の血肉や息遣いによるプラス・アルファが感じられた。 作者は当時40代半ば。書き方にズレはあっても “青春は青春” と言う的は外してないゼ。 |
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| No.2102 | 5点 | 異人たちの館 折原一 |
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(2025/11/15 13:52登録) “複数の文体による云々” は誇大広告だなぁ。普通の小説でも、例えば三人称とインタヴューであのくらいの違いは当然だと思う。 そして、構成によるトリックをやり過ぎて、末尾の部分が単なる “解説” になってしまった。あれを “物語” として自然に取り込めれば良いのだが。いっそ末尾を削除して不条理ホラーにした方がベターかも? |
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| No.2101 | 5点 | 学ばない探偵たちの学園 東川篤哉 |
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(2025/11/15 13:52登録) これは御気楽に過ぎるのではなかろうか。 作中の台詞 “本格の議論に不謹慎だとか不健全だとかいうのはナシだ” には同意するが、あまりの当事者意識の欠如は別の問題を招くらしい。つまり、探偵部の三人と殺人事件が別のレイヤーに存在するような不整合な感じが、最後まで消えなかったのである。 二つの密室トリックは面白いと思ったけどね。 |
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| No.2100 | 7点 | 戦争を演じた神々たち 大原まり子 |
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(2025/11/07 12:10登録) 基本的に整合性が求められるミステリは、それ故に時として大胆な破綻が一線を越える為の表現になり得る。それに対して、投げっ放しでも成立する(特にファンタジー寄りの)SFには、それ故にこそ何らかの糸を一本通して単なる断片集にならないよう繫ぎ止めて欲しいと私は思う。 さて本作。どこまでも美しく奔放なイマジネーションを(結構シンプルに、無造作に)言語化しているのは間違いない。 しかし私には、何故これらの短編群が共通の表題を戴くシリーズとして纏められているのか、ピンと来なかった。謎の軍団だけでは背景として弱い。寧ろ一つ一つ単独の短編として読んだ方が楽しめそう。作者の意図を受け止め切れなかったみたいで口惜しい。 |
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| No.2099 | 5点 | 私たちに残されたわずかな永遠 乾緑郎 |
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(2025/11/07 12:10登録) 二つのエピソードは、斬新と言う程ではないにせよ、しっかり組み立てられていてそれなりに読ませる。しかし本の真ん中辺りで両者の絡み方は見当が付き、そして捻りも無く予想通りに纏まってしまうのだ。これでは思わせ振りに二つ平行して語ったのが寧ろ逆効果。 “ドゥマレ” の自然環境はもっと異界感たっぷりに設定しても良かったんじゃないか。タブレットを “石盤のような” と形容するのは皮肉っぽくてナイス。 |
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| No.2098 | 5点 | 作家の人たち 倉知淳 |
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(2025/11/07 12:10登録) “作家はネタに困ったら出版業界ものを書く” と言う印象があるけど、どうなんだろう。 多少の捻りはありつつ、劇毒ではなく許容範囲内の悪ふざけに留まっている点も、この人らしいと言えばらしい。が、さほど高評価出来ない理由でもある。 有栖川有栖『作家小説』にはちょっと負けるか。あ、アレも同じ版元だ。節操無いな幻冬舎(笑)。 |
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| No.2097 | 5点 | 蝶たちは今… 日下圭介 |
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(2025/11/07 12:09登録) 結局、一番の焦点は(人死に自体よりも)芝居じみた “幽霊からの手紙” に関するホワイであって、そこが満足とは言いがたい。思いがけない真相ではあるが、他者を操るようなあの発想は好きではないなぁ。 英語の遺書、車の中の蝶、ハンモック、と言った細かいネタは悪くないし、その人が被害者になる展開には呆然としたけどね。 |
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| No.2096 | 4点 | ひげのある男たち 結城昌治 |
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(2025/11/07 12:09登録) こういう設定の犯人について、例えばEQのあの作品には “アッ、やられた、成程” と納得した。ACや綾辻行人なら “うーむ、まぁ受け入れざるを得まい”。でも本作は “ズルい” と感じた。 何が違うのか、自分でも線引きは出来ないが……その人の存在感が薄いせい? 事件に関わる蓋然性はそれなりにあってアンフェアだとは言えないが、論理が充分に緻密だとも思えない。第二の殺人のホワイが大胆な手掛かりになってはいるんだけどね。 |
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| No.2095 | 7点 | 彼女たちの牙と舌 矢樹純 |
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(2025/10/31 13:11登録) 随所に捻りがあって息をつく暇も無い。ただ、全体として、“言質を取る” とか、相手のフェアネスを信頼し過ぎな感がある。殺人も辞さない反社なのに。反撃したら駄目だろう。ロックオンされないように逃げることをもっと重視しないと。 まぁ最後の落としどころは、それを踏まえて上手いところを突いていたと思う。 ところで第一話。あの人が相手方に情報を売ったなら、前半の “どうして素性がばれたのか?” の推理は机上の空論? でもそれは釣りメールが来た現実と矛盾してない? |
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| No.2094 | 6点 | 嘘つきたちへ 小倉千明 |
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(2025/10/31 13:11登録) 定型から幾らかズラした設定だが、高いミステリ的偏差値、しっかりしたロジックで、設計図を基に書いたような緻密なフォルム、美文と言う程ではないが端正な文体、短編集や連作長編でデビュー――と言う新人さん、近年数多く出会っている気がする。 どれも悪いことじゃないんだけど、それ故に個性の確立が難しいのが問題。本作もそう。 “芝居を打って相手に何かをさせる” 話は好きではない。相手の反応を都合良く予測出来過ぎだし、変な状況が割と何でもアリになってしまうし。 |
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| No.2093 | 4点 | 女たちは泥棒 半村良 |
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(2025/10/31 13:10登録) 伝奇SFの半村良。本作はソフト・ピカレスクと銘打たれているが、驚く程に捻りが無い。泥棒チームの冒険譚と言うより裏社会の人情話みたいな感じ。面白い部分が皆無とは言わないが、どのあたりが狙いなのか良く判らなかった。最終話は辻褄が合っていないと言うか説明不足。 |
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| No.2092 | 4点 | 旅人たちの迷路 夏樹静子 |
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(2025/10/31 13:10登録) 第一話。“偽の手掛かり” を、“偽の手掛かりである” と推理されるよう期待して差し出す、と言うのは面白い。 しかしその内容が “真か偽か” みたいな単純なものなので物足りない。もっと深みのある心理戦になるべきなのに……。 そもそも、件のバッグが後から出て来たことによって “(どういう関わりかはともかくとして)その持ち主が事件に関わっている” と確定しちゃってる。犯人に都合が良いのは “あの報道は間違い、警察の勇み足だった” と言う展開だから、バッグは慌てて打ってしまった悪手なのである。 第二話はもう最初から裏が全て見え過ぎ。 |
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| No.2091 | 4点 | 幽霊たち 西澤保彦 |
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(2025/10/31 13:09登録) うわー判りづらい。まるで “錯綜した事実関係・人間関係を把握出来るかどうか” が主題になっているみたい。 そこで疲れ果てて、謎がどうとかに立ち向かう余力が残らなかった。核にある幾つかのアイデアは悪くないが、それを成立させる為にゴテゴテ飾り過ぎて本末転倒、と言う作者の悪癖がもろに出ている。 |
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| No.2090 | 7点 | 飽くなき地景 荻堂顕 |
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(2025/10/24 13:49登録) 前作で積み上げたものを一から組み直したような変貌である。頭でっかちで中途半端に皮肉屋な主人公の人となりを、回りくどい一人称の文体で的確に表現していて感服。 このキャラには冷笑半分共感半分。ジーンと来る場面を提示した後の仮借無く苦い落とし方に翻弄されるばかり。 ミステリやアクションの要素は希薄だと私は感じた。しかしそれは、そういう形のフック無しでも引っ張ってやると言う心意気だろうと思う。 |
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| No.2089 | 6点 | 五十万年の死角 伴野朗 |
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(2025/10/24 13:49登録) 北京原人の化石……そんなものの為に人がポンポン死んで行く(名前も無いまま殺されたモブに合掌)。金銀財宝の為なら良いと言うわけではないが、上官がマニアックだと大変である。まぁマクガフィンとは概してそういうものか。この虚しさこそ或る意味でこの手の物語の醍醐味なのだろう。 |
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| No.2088 | 5点 | 誘拐劇場 潮谷験 |
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(2025/10/24 13:48登録) 導入部はとても面白かったが、肝心の誘拐事件にはあまり乗れなかった。位置情報ゲームと言われてもピンと来ないせいか、百人超が動いている割に表層は地味なせいか。また、心理的な駆け引きを説明的に描き過ぎだとも思う。総じて “良く出来た理屈を読まされた” と言う印象(良い意味悪い意味半々)。 |
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| No.2087 | 4点 | モンテスキューノート アガタ2 首藤瓜於 |
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(2025/10/24 13:48登録) プロットがそこまで悪いとは思わないが、書き方が雑。書き易い場面だけ並べた感じ。でも、“小説を書く” とは、頑張ってその隙間を埋めることではないのか。論文投稿者を矢鱈と詳しく紹介しているが、注力すべきはそこじゃないだろ。 |
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| No.2086 | 5点 | 死神の座 高木彬光 |
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(2025/10/24 13:47登録) 次の犯行を待っているかのような、のんびりした捜査。殺人事件よりも、“神津恭介が列車で同席した謎の女の言動” の真相の方が、苦笑させられつつも印象に残った。 意味ありげな “死神の座” だの “さそり” だのは、“旧家に連綿と続く恨みの象徴” とかでなく単なるでっちあげのポエムであり、それを変に真に受けた恭介のせいで捜査陣&読者に対して必要以上にフィーチュアされている――この構造は、よくある “トレード・マーク付きの連続殺人” に対する批評となっているのである。高木彬光は雰囲気やパターン重視の作風かと思っていたが、こういう醒めた視座も持てたんだなぁと感心した。 |
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