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ミステリの祭典

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虫暮部さんの登録情報
平均点:6.20点 書評数:2269件

プロフィール| 書評

No.2269 7点 流れよわが涙、と警官は言った
フィリップ・K・ディック
(2026/06/29 13:22登録)
 或る日、自分のデータが消滅して “存在しない男” になってしまう――と言う、ミステリでも見かけるプロット。SFだから遠慮無く徹底して消えてしまう。SFだからリアリティ気にせずスリリングな不条理劇として読めるのが良い。存在しない筈でもどうにか人の間でやっていく強かさは、まぁ現金を持っていたからってのも大きいか。
 だけどそこはディックのこと、後半は話が警察本部長の方へ移って妙に湿っぽくなる。そんな話だったっけ? とも思った。この真相はSFだからセーフでしょう。

 解説を読むと、作者の私的なトラブルが物語に影響を与えたみたいなことが書いてある。でも物語内の理屈で言うと、あの人が死なないと状況が元には戻らず、それだと作中人物が真相を認識することは出来ない筈だから話を閉じられない。ああいうゴシップ的なものを真に受けて良いのか、ちょっと疑問である。


No.2268 7点 揚羽蝶
泡坂妻夫
(2026/06/29 13:21登録)
 何処かで読んだ記憶のあるエピソードが幾つも鏤められている。何処か、と言うか泡坂妻夫の他の作品である。
 小説が書ける紋章上絵師やマジシャンは少なく、しかも趣味性の強い限定的な領域なので、そのまま書くだけで割とオンリー・ワンな持ちネタに出来てしまうのだろう。個々のエピソードとしては大ネタではなく “さりげなく良い小粒の話” で、読んでいる最中はそこが良いのだけど、思い出そうとしてもいつの間にか “紋章上絵師やマジシャンの話” と言う大きな印象に呑み込まれてしまう。困ったね。

 増補版に収録の「ホロボの神」は雑誌掲載時のヴァージョン。後に大幅改稿の上『亜愛一郎の狼狽』収録。並べて読むと、時代設定的に改稿版の方が受け入れ易いかな、と思う。


No.2267 7点 時計屋探偵の冒険 アリバイ崩し承ります2
大山誠一郎
(2026/06/29 13:21登録)
 ほぼ安楽椅子な探偵が、“冒険” なんてしてる?

 それはともかく、事件の概要が自然に物語的な興趣を要求する類のものだったのか、“謎解き以外の要素を削ぎ落とした” とはあまり感じなかった。何故本によってこうも違うのかね。
 時計屋探偵個人に関する描写は、前巻から一貫して乏しい。“ソツの無い人” みたいな印象がいつの間にか、“有能な部分以外は空っぽな人” のようにも思えて来た。
 微笑で取り繕ってはいるが、“殿方から誘われてレストランでディナー” と言うのが彼女にとっては “冒険” なのかも知れない。


No.2266 5点 廃ゲーマー刑事 ソシャゲか捜査か
上條つづる
(2026/06/29 13:20登録)
 “バカ” を含むネーミングってどーなの? と言いたいところだけど、このキャラクターだったらそれもアリかなぁ。
 タイトル通りの設定で、それだけだったら単なる “キャラに魅力の無いキャラミス” で終わってしまう。しかし最後の一捻りでどうにか持ち直したか。短く纏まっているので呆れ尽きる前に読み終われた。

 主人公に合わせたかのようなゲーマー向きの事件である。一発目だから仕方が無い。もし続きがあるなら、非 “ゲーマー向きの事件” をゲーマー的手法で捌く、と言う方向で是非。


No.2265 5点 街角ハルシネーション―探偵AIのリアル・ディープラーニング
早坂吝
(2026/06/29 13:20登録)
 うーむ。小粒になっちゃったなぁ。
 “風景写真のAI生成疑惑” と言っても、メタ的に見れば話の流れとしてどちらに進むかは明白であって、ハルシネーションの謎も “まぁ何らかの解はあり得るのだろう” と思ってしまう。こう言ってはナンだが、所詮は写真に過ぎないので不可解さの度合いは低い。
 後半の活劇もさほどではない。シリーズ前巻までの内容が関わって来る点は、承知の上で掟破りをしている感じはするが、どれだけ効果的なのか疑問符が付く。
 あと初版、裏表紙の粗筋にネタバレが。しっかりしてよ新潮社。


No.2264 10点 ジンタルス
皆川博子
(2026/06/23 16:09登録)
 これはちょっと吃驚するくらい面白かったな。寒さ、飢え、喪失、孤独、様々な苦痛が物語のアップダウンを彩り、嫌な奴もマシな奴も陰影に富む存在感を持ち、全てを象る言葉自体が柔軟な完成度を誇る。
 主人公が良い流れに乗れば乗るだけ、“このままで済む筈がない” と不安が募った。見せ場は多いが、敢えて一つ選ぶなら “マクシミリアンの最期”。平行する二つの物語がミステリ的な絡み方をしなかった点が不満と言えば不満。
 フェイヴァリットに『白痴』を挙げる作者のこと、ドストエフスキーへのオマージュかも。とか言える程、かの文豪を読んだわけじゃないけれど。


No.2263 8点 コージーボーイズ、あるいは消えた居酒屋の謎
笛吹太郎
(2026/06/23 16:07登録)
 バービーボーイズかと思ったら違った。そりゃそうだ。
 でも “女性がいるのにどうしてボーイズなのか” に答えるなら、ビーチボーイズよりそっちだろう。

 この手の、安楽椅子探偵でコージーな短編集は、普段は敬遠気味。真相がショボい、わざとらしい、あるいはこじつけがましい、と感じることが多いので。
 本書も読み始めは “失敗したかな” と思った。ところが豈図らんや、これが大当たり。
 真相が大き過ぎず小さ過ぎず説得力があるし、話としての着地点もさりげなく上手い。推理合戦では色々しっかり押さえている。語り口も心地良い。一冊の中にはっきりハズレのネタが混ざっていないのも立派――地味さが身上みたいな作品だからガツンとは褒めにくいけど、グッジョブ。

 メドゥーサアイズの川津さん、と言うのは “蛇に睨まれた蛙” って洒落だろうか?


No.2262 8点 アド・バード
椎名誠
(2026/06/23 16:07登録)
 日本語を基盤に据えた異界構築。筒井康隆とか小林泰三とか北野勇作とか酉島伝法とかがやってるけど、本作も負けていない。それをやると皆不思議とヌルヌルした世界になるなぁ。人間の登場しない章が幾つもあるところが良い。
 (菊丸と離れた時の)マサル、脳髄男、キンジョー、C4の一行って、キャプテン・フューチャーのフューチャーメンみたいじゃない?


No.2261 8点 暗闇のスキャナー
フィリップ・K・ディック
(2026/06/23 16:06登録)
 近未来が舞台だし、時々奇妙な機械が登場するも、全体としてSF臭は薄く、寧ろ麻取系サスペンスと言える。
 監視中と言う状況故にヤク中達の与太話も微妙な緊張感を生み、“ディックだからなぁ” と諦念の入り込む余地が無い。ここまで一貫したテンション、実は彼の長編では稀少じゃないだろうか。手慣れた “認識の不安定化” テーマは此処に来て洗練を極め、しかし冷静に俯瞰するとギャグにもなる。そこが良い。
 最後の最後、陰謀論的な大ネタのオチはちょっと大味に感じられた。現実をそこで安定させちゃうか……しかしこれも俯瞰するとギャグで、マッチポンプな世界に対する批評なのかも知れない。


No.2260 5点 リスタデール卿の謎
アガサ・クリスティー
(2026/06/23 16:05登録)
 暗黙の諒解が成立しづらいノン・シリーズ、それを寧ろ利点として相応に生かした作品集。「ナイチンゲール荘」「事故」「白鳥の歌」あたりは、単純な被害者とか犯人とか言う話ではなくサスペンスフルな心情を上手く切り取った佳作だと思う。
 一方で下らないドタバタみたいなものもあるが、謎とその解決 “だけ” のつまらないシリーズ短編よりはまだ面白い。

 「六ペンスのうた」。ウィリアムのことを “従兄” と呼んでいるが、“リリー叔母” は実際には “大叔母(祖母の妹)” で、ウィリアムは “その甥” とある。従って厳密には “マグダレンの親のいとこがウィリアム” であり、マグダレンとウィリアムの続柄は “いとこ違い” である(原文未確認)。


No.2259 7点 まず良識をみじん切りにします
浅倉秋成
(2026/06/16 15:26登録)
 今までとは着地点を若干ズラした奇妙な作品集。リーダビリティの高さは変わらず。ジャンルの境界上をフラフラする小川哲や宮内悠介のような佇まいへの野心を見せたか。こうやってヴァリエーションが増えるのは良いこと。
 全編面白かったが、“奇妙なものを書きました、と言うパフォーマンス” 的な匂いが抜けておらず、意味不明さだけでぶっちぎる至高の一編は見当たらなかった。精進したまへ。


No.2258 6点 アリバイ崩し承ります
大山誠一郎
(2026/06/16 15:26登録)
 アリバイと言えば時刻表、と言う古いイメージが全面的に刷新された。“アリバイ崩し” 縛りによって、却って様々なヴァリエーションを捻り出せたのだろう。
 意外な事実のその先でもう一捻り畳み掛ける第3話が良かった。第6話、“足跡だけを見て、途中で立ち止まったか否か判別可能” と言うのは良く判らない。
 ただ、全体的に物語性は希薄。悪い意味でトリック見本市。文章力と言うか肉付け力の高い他の作家にリメイクして貰ったらどうだろうか。あっ、ドラマ化ってそういうこと?


No.2257 6点 密室の鍵貸します
東川篤哉
(2026/06/16 15:25登録)
 登場人物の行動が作為的だなぁと感じられる部分が幾つか目に付いて、トリックの構造は事件発生の前から何となく判ってしまった。熟考するとつまらなくなりそうなので、そっちからは目を逸らしつつ読んだ。
 メインは時間の問題であるところを密室に注目させるミスリード(タイトルも含む:でも内容には合っていないのでは。鍵を貸したりしてないじゃない。つまり、もっと嵌まる映画のタイトルって無かったの?)が効いている。
 真相の後半は予想外(事故だと推測した)だけど、だからと言ってさほど面白いものでもない。寧ろ “誰の為のトリックか” と言う部分が絶妙なところを突いている。


No.2256 6点 これから自首します
蒼井上鷹
(2026/06/16 15:25登録)
 これから自首します、と言うのだから何かをやった誰かは判っているのだが、そこから謎が明後日の方向へ増殖して混乱の一途。どこかで上手く整理して欲しかった。それが無いから話自体も終わってるような終わってないような妙な読後感だ。
 冒頭の、警察官がアレしていたエピソードだけ浮いている。裏社会的なキャラクターは登場させない方が良かった気もする。
 いや、基本的には面白かった。ただ、必要以上に軽い印象。まぁユーモア無しで書いたらひどく陰惨な話になっちゃうか。


No.2255 7点 許されようとは思いません
芦沢央
(2026/06/16 15:24登録)
 収録作品のポイントを分類すればそれなりに多彩なのに、どうも全作似たような色に見える。それだって個性が確立されていると考えれば悪いことではないが、この作者には何だか “その先” を期待したくなってしまう。本書に限らず、非常に “肝の据わった” 印象のタイトルのせいだろうか? 故に “とても面白いのに物足りない” と妙な思いが残るのであった。

 「目撃者はいなかった」。“あなたに不利な証言をしますよ” と言えば対抗出来るね。しかもその場合、偽証をしたのは相手が先だから道義的にもさほど胸は痛まない。落ち着いて対処すれば道は開けるのに、と言う反語的訓話(?)。


No.2254 7点 猫鳴く森で謎解きを
楠谷佑
(2026/06/09 13:41登録)
 軍手云々とかは、作中で言い訳しているように “机上の論理” ではあるが、しっかり組まれていると思う。青春ミステリゆえに一挙手一投足が眩しく、そしてやはり犯人確定の瞬間は苦い。
 しかし猫達の存在感がちょっと控え目じゃないですか? 遠慮しなくていいのに。猫探しの小ネタは良かった。


No.2253 7点 土人形と動死体
円城塔
(2026/06/09 13:39登録)
 敢えて例えるなら、別ルートから神林長平をやろうとして予想外に健闘、と言ったところか。此処には、読者を退屈させ困惑させる目的で言葉を紡いでいた円城塔はいない。

 それでも第一部には多少の退屈さが残っており、ホッとさせられる(?)。魔術だゴーレムだスライムだと並べつつも、舞台設定だけしてオチを用意せずぶった切る様は、架空の国の神話のよう。

 それを我慢して第二部に辿り着けたら、物語が蠢動を始めた。存外に豊かな流れに “こんな作風じゃなかったよね?” と訝りつつ、近年流行の異世界ファンタジーのパロディにも感じられる。あれらはライトな筆致が主流だから、こういう重厚な文章で語られると却って冗談に見えると言う逆転現象である。

 成程ねぇと判った心算で第三部、束縛が次々に消滅して何でもアリ化、無限の改変を経て、これはミステリで究極のトリックとも称されるアレに準ずるものではないか。こんな手もあったのだ!


No.2252 5点 ライフログ分析官
我孫子武丸
(2026/06/09 13:38登録)
 近未来を舞台に、現在未完成のシステムを話の軸に据えているから、SF?
 ミステリ的な謎解きを意識的に排しているフシがあるから、或る種の警察小説の亜種?
 テクノロジーをここまで高レヴェルに想定しちゃうと、却って面白さを損なうのではなかろうか。システムの盲点を突いても、単なる “設定” に感じられてしまう。だって私はアルゴリズムをキチンと理解しているわけじゃないんだから。周りがそれなりに見えていないと、盲点を突かれてもそこが盲点だったと驚けないのだ。


No.2251 5点 女王陛下に捧ぐ、王家の宝の在処
市塔承
(2026/06/09 13:37登録)
 時代設定が古めだと、現代エンタテインメント的なテクニックの導入を敬遠してストーリー展開が鈍重になるケースがある。本作もそう。コンセプト(ネタバレになるので詳述は避ける)上の必然として頁数は膨れ上がるが、それを支え切れる程に物凄く面白いわけではなかった。
 それに、こういうのをやるなら、もうワン・ランク上の文章力が欲しいところ。イメージをそのまま書いているだけで、言葉自体にコクが無いと思った。

 実は、叙述トリックとして “名前は全てニックネームで、彼等は日本人だった” と明かされると予測していた。
 だって “分割された碑文” の効果は日本語が前提じゃないか(少なくとも縦書き可能な言語だ)。異国が舞台の作品に “コレ何語で書いてあるの?” ってツッコミは野暮だけれども。


No.2250 5点 法月綸太郎の不覚
法月綸太郎
(2026/06/09 13:37登録)
 『キングを探せ』でやったからもういいじゃないか。アレは成立条件が限定的だから、あくまで “特殊なケース” だと私は思う。一つの世界線でこんなに幾つも発生している様(しかも同じ本に収めちゃうし)はとても奇妙だ。

 ネタバレありで「心理的瑕疵あり」について。脅迫者を殺すのはリスキーなのである。
 スマホ・パソコンを持ち去ったからと言って、バックアップの存在可能性を否定は出来ない(実際あった)。もし作中で言うところの “グレーリスト” にもっと詳しく記されていたら、脅迫のネタはまるまる警察に知られてしまうから、殺す意味が無い。つまり警察が被害者の周辺を調査するのは極力避けたい。事故に見せ掛けるか、死体を隠して行方不明(被害者の逐電)で済ませるかしたい。自殺に偽装してはいるが御粗末なものでアッサリ見抜かれている。
 「次はあんたの番だよ」にも脅迫者殺しがある。総じて “犯人が最後まで考え抜かなかったので、そういう犯行様態になった” ようで、いや、それならそれで良いが、作者がそこに気付いてなさそうなんだよね。

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