どうせそろそろ死ぬんだし |
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作家 | 香坂鮪 |
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出版日 | 2025年03月 |
平均点 | 5.50点 |
書評数 | 2人 |
No.2 | 7点 | nukkam | |
(2025/04/18 19:43登録) (ネタバレなしです) 香坂鮪(こうさかまぐろ)(1990年生まれ)のデビュー作である2025年出版の本格派推理小説で、元は夜ノ鮪というペンネームで某ミステリ賞に応募した作品を改訂したものです。余命宣告された人々が集まった交流会で朝になっても参加者の1人が起きてこず、自然死か殺人かの謎解きへと移行しますが医者も容疑者であることから死因を特定できないまま仮説に仮説を重ねたような議論が続きます。登場人物の1人に「空論ばっかで、つまんない」と語らせているのは作者の自虐でしょうか(笑)。治療や延命、カウンセリングなど医療に関する知識が豊富に紹介されているので意外と読みにくかったです。それでも中盤での意外な展開から大技のどんでん返し(某国内作家の1990年代の本格派に類似の仕掛けがありますけど)、様々な謎解き伏線を充実の推理で回収しての真相説明と後半の盛り上げ方はなかなかの出来栄えで、最後の数ページの演出も(ちょっと唐突ですが)印象的でした。ただ宝島社文庫版の裏表紙の粗筋紹介で「超新星の『館』ミステリー開幕」と宣伝しているのは疑問符がつきます。舞台となる夜鳴荘は(余命の駄洒落なのはともかく)特に館としての個性があるわけではありません。 |
No.1 | 4点 | 文生 | |
(2025/03/18 11:20登録) 第23回『このミステリーがすごい!』大賞・文庫グランプリ受賞作。 余命宣告を受けた人間が集う山奥の別荘で怪死事件が起きるという設定はなかなかユニークで、さまざまなトリックがちりばめられているのも好感が持てました。しかし、肝心の仕掛けが雑過ぎます。まず、医者としての知識を活かした医療トリックが用いられますが、これがあまり面白みが感じられず。また、なぜ余命がいくらもない人間の命を狙うのかというホワイダニットものとしても大した意外性はありません。しかし、この辺りはあくまでもサブであり、メインの仕掛けではないので大きな瑕疵ではないでしょう。より問題なのは以下の点です。 ※以下ネタバレ まず、冒頭で探偵と助手が登場しますが、語り手が助手ではなく、探偵なのがいかにも不自然です。探偵と助手が同時に登場すれば語り手を務めるのはまず助手です。凡人である助手の目から探偵の個性や変人ぶりを語ってこそミステリーとして盛り上がるのであって、これを逆にすると助手の存在意義が薄れてしまううえに探偵の天才ぶりを効果的に演出しずらくなってしまいます。したがって、あえて逆にしているというのは何かそこに仕掛けがあるのだなと、ミステリーを読み慣れていればすぐに気付いてしまいます。 しかし、これはまだいいでしょう。怪しいだけでどんな仕掛けなのかはわからないのですから。真の問題点はここからで、探偵は物語中盤で亡くなるのですが、文章は一人称のまま継続されます。もしかしたら、語り手が探偵から助手にバトンタッチされたのかなとも考えましたが、明らかに助手の視点ではありません。これってどう考えても探偵視点のままだよなと思っていたら案の定、探偵は死んだふりをしていただけで生きていました。なぜこんなバレバレの構成にしたのか?そこが最大の疑問点です。 以上、意欲作ではあるのだけど、それが完成度に結びついていないという感じですね。 |