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ミステリの祭典

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nukkamさんの登録情報
平均点:5.44点 書評数:2955件

プロフィール| 書評

No.2955 6点 狂骨の夢
京極夏彦
(2026/07/03 10:10登録)
(ネタバレなしです) 1995年発表の百鬼夜行シリーズ第3作の本格派推理小説で、講談社文庫版で950ページを超します(全3巻の分冊文庫版もあります)。「何度も妻に殺されては復活する夫」という事件が記憶のあやふやな証言で語られたり、時系列が逆転してどくろに肉がつき生首になる怪現象が起きたらしいなど非常に幻想性の強い作品です。妖怪要素はそれほど濃厚ではありませんが、宗教要素、哲学要素、神話要素が濃厚です。巻末解説を山田正紀が書いていて、このシリーズは一般には幻想的な探偵小説と解されているが実ははなはだしいまでにリアルと評価しています。そして探偵小説にリアリティを持ち込んだ作家として松本清張を紹介していますが、京極夏彦は清張とは異なるリアリティを持ち込んだと評価しています。この解説も私には難解でよく理解できませんけど、幻想を解き明かして真相に導く京極堂の推理は圧巻です。


No.2954 5点 公爵さま、謎解きディナーです
リン・メッシーナ
(2026/07/03 03:34登録)
(ネタバレなしです) 2020年発表のベアトリス・ハイドクレアシリーズ第7作のコージー派の本格派推理小説です。「公爵さま、執事には負けません」(2020年)の事件でベアトリスが切られた首を調べていたと新聞記事になってしまいます(実際は死体は片付けられていて触れてもいないのですが)。公爵夫人としての面目を保つために謎解きディナーパーティーを開催するという流れになりますが、そこで本当に殺人事件が発生します。早く帰ろうとする社交界でもトップクラスの貴族たちをベアトリスが阻止したところからがとても面白く、想像以上の批判と非難をあびながらの事情聴取がスリルにあふれています。


No.2953 5点 龍臥亭幻想
島田荘司
(2026/07/03 02:49登録)
(ネタバレなしです) 御手洗潔シリーズ番外編の「龍臥亭事件」(1996年)の続編として2004年に発表された本格派推理小説で、作中時代も「龍臥亭事件」の8年後の設定です。「龍臥亭事件」には及ばないものの本書も光文社文庫版で上下巻合せて750ページを超す大ヴォリュームです。前半は不思議な現象の謎はありますが犯罪性が希薄なためか盛り上がりに欠けた感がありますが、後半は巻き返します。あまりにも忍耐力を求めるトリックには唖然とさせられます。なお光文社文庫版の巻末解説で「ファン待望!御手洗潔と吉敷竹史の推理が、いま初めてクロスする!」と紹介されているので大きく期待される読者もいると思いますが活躍は極めて限定的なのでシリーズ番外編作品と評価すべきと思いますし、両者が邂逅するわけでもありません。「龍臥亭事件」と同じく主人公は石岡和己が務めます。


No.2952 5点 上流の一族でも
レックス・スタウト
(2026/07/03 02:06登録)
(ネタバレなしです) 1950年発表のネロ・ウルフシリーズ第13作で、アーノルド・ゼック三部作の最終作となった作品です。大富豪の夫人から7ヶ月も夫に金を渡していないのに以前よりも大金を使っているらしいので調べてほしいと依頼されたのがきっかけで殺人事件とゼックからの脅迫に直面することになります。第5章の終わりで衝撃の出来事があり、助手のアーチー・グッドウインがてんてこ舞いする展開が本書のセールスポイントになっています。反面、警察も手出しできないほどの犯罪組織の大物という三部作を通じての設定の割にはゼックとの決着場面はあっけなくて物足りませんが、ではアガサ・クリスティーの「ビッグ4」(1927年)みたいな派手派手な演出の方がよかったかというとそれも微妙ではあります。証拠が強力ではないようにも思えますが、きちんと推理で殺人事件を解決して本格派推理小説として着地しているのはよかったです。


No.2951 5点 天帝のはしたなき果実
古野まほろ
(2026/07/03 00:20登録)
(ネタバレなしです) 新本格派推理小説の発展に力を注いだ編集者として知られる宇山日出臣(1944-2006)が最後に発掘した新人と言われる古野まほろのデビュー作が2007年発表の本書で、私の読んだ幻冬舎文庫版で750ページ近い大作です。裏表紙で「青春×SF×幻想の要素を織り込んだ」と紹介されていますが、SFらしさを感じさせたのは自然界に存在しない青いバラの栽培に成功したくだりぐらいでした。とはいえ作中時代は1990年秋ながら舞台は架空の「日本帝国」となっており、登場人物には貴族の子供がいます。冒頭で中井英夫の「虚無への供物」(1964年)が引用されていることからかなり癖のある作品かと思っていましたがその予想は当たりました。難解な用語多数、意味不明な会話も多くてとても読みにくいです。それでも事件が起きてからは謎解きにまともに取り組み、推理合戦や2度に渡る「読者への挑戦状」など本格派らしさを十分に楽しめました。しかし第4章での犯人との対決場面はまるで悪魔と天使のいる世界のようで、普通の本格派の枠組を超越しています。


No.2950 6点 水面の弔花
アン・クリーヴス
(2026/06/23 10:57登録)
(ネタバレなしです) 2007年発表のヴェラ・スタンホープ警部シリーズ第3作の本格派推理小説で、英語原題は「Hidden Depth」です。母親が自宅に帰って浴槽に沈んだ息子の死体を発見します。死体の周辺に花がばら撒かれているところはジューン・トムスンの「ローズマリーの追憶」(1988年)を彷彿させます。そして海辺でやはり花をばら撒かれた死体が新たに見つかりますが被害者同士の関連がわかりません。ヴェラだけでなく事件関係者たちの視点での心理描写も織り込まれ、人間関係に潜む秘密が少しずつ見えてくる展開は地味ですが終盤にはサスペンスを盛り上げる演出があります。真相はアガサ・クリスティーの某作品を連想させます。


No.2949 6点 ちぎれた鎖と光の切れ端
荒木あかね
(2026/06/12 17:49登録)
(ネタバレなしです) SF設定本格派推理小説の「此の世の果ての殺人」(2022年)で作家デビューした荒木あかね(1998年生まれ)の第2作が2023年発表の本書で、講談社文庫版で550ページ近い大作です。二部構成となっており第一部では孤島を舞台にした連続殺人事件というアガサ・クリスティーの「そして誰もいなくなった」(1939年)や綾辻行人の「十角館の殺人」(1987年)を連想させつつも、殺人を企む男を語り手にしながら別人が殺人を犯していくという設定で読ませる本格派推理小説として楽しめます。第二部はその三年後、舞台も都会になり登場人物リストも第一部と総入れ替えになります。こちらは新たな語り手が無差別連続殺人事件の次の犠牲者になるかもしれないという巻き込まれ型サスペンススタイルで、物語が進むにつれ複雑な人間模様が明らかになっていく展開は社会派推理小説的でもあります。個人的にはこの第二部、本格派要素が薄まったことや重要人物が登場人物リストに載っていない点などは不満ですが、ジャンルミックス型が好きな読者ならむしろプラス評価するかもしれません。裏表紙の「伝統と革新が詰まった」という紹介はなるほどと思いました。余談ですが作中でアガサ・クリスティーの「ABC殺人事件」(1935年)のネタバレしてますがせめて作品名は伏せてほしかったです。「ネタバレしてもいいですか?」(中略)「わたしネタバレ全然平気」って自分勝手に進めないでほしかった(涙)。


No.2948 5点 シャーロック・ホームズは引退しました
ホリー・ヘップバーン
(2026/06/09 07:48登録)
(ネタバレなしです) フィールグッド(心温まる)小説の書き手として知られる英国の女性作家ホリー・ヘップバーンが初めて手掛けたミステリー作品が2024年発表の本書です。シャーロック・ホームズはあくまでもコナン・ドイルの小説の人物として扱われています(創元推理文庫版の巻末解説では「広義のパロディ」と解釈していますが)。ホームズの活躍拠点であるベイカー街221番地宛てにホームズへの相談や依頼の手紙が次々に送られたことは有名ですが、本書はそこに実在した住宅金融組合で手紙処理担当をしているハリエット(ハリー)・ホワイト(こちらはもちろん架空の人物)を主人公にしています。作中時代が1932年で、既にドイルも死去していますが巻末解説によるとホームズ宛ての手紙は現在でも送られてくるようです。ハリーがホームズの秘書を演じながら行方不明のメイドを捜査することになるのが本書のプロットです(英語原題は「The Missing Maid」)。捜査を助けてくれる人は登場しますけどアマチュア女性探偵としてのハリーの苦労が読みやすい文章でよく描かれていますし、メイドの行方が判明してから盛り上がる展開も巧みです。犯罪の黒幕が誰だったのかが説明不足に感じられるところがミステリーとしては物足りませんが、冤罪被害者の救済を優先させているところがフィールグッド小説らしいです。


No.2947 5点 二重殺人トライアングル
由良三郎
(2026/06/05 21:39登録)
(ネタバレなしです) 1989年発表の本格派推理小説です。私は「偽装自殺の惨劇」に改題された光文社文庫版で読みましたが自殺かどうかの議論は後半になってからなので、旧題の方がよかったように思います。大学のロックバンドがステージでの演奏中に事件が起きるのですが、演奏描写が全く劇的でないところがこの作者らしいです(笑)。毒殺トリックは使われている薬物こそ異なりますが手段は某フランス作家の1970年代後半の本格派を連想させるものでしたし、鎖切断トリックは某国内作家の1980年代前半の本格派のトリックを連想させるものです。トリックの謎解きが中心の前半から犯人探しの謎解きの後半という展開となりますが、1940年代後半の某英国作家の本格派を連想させる大胆な真相と思わせてそこから更にどんでん返しを狙っていますけど結果的にありきたりの真相に落ち着いてしまったように感じました。


No.2946 5点 ブック・フェスティバルは大騒ぎ
E・C・ネヴィン
(2026/06/05 03:04登録)
(ネタバレなしです) 英国の女性作家E・C・ネヴィンはさまざまな職歴を経て作家デビュー、2025年発表の本書は売れないミステリ作家ジェイン・ヘップバーンを主人公にしたコージー派ミステリーのシリーズ第1作です。プロローグを死体発見の場面にしてその後は時間をさかのぼって殺人に至るまでを描いているのはジョアン・フルークのハンナ・スウェンソンシリーズをちょっと連想させます。本書の場合はその殺人もすぐに起きるのですけど。ジェインだけでなく容疑者たち視点も随所で織り込んでいるのが作品個性ですけど、読者の謎解き興味をかき立てるのには工夫がもう一歩という感じがします。さすがにアガサ・クリスティーの名作「そして誰もいなくなった」(1939年)の手法と比べるのはアンフェアでしょうけど。あと46章の終わりである謎(というか前提?)が明らかになるのですが、あれはもっと早く明らかになっていないとおかしいのではという気がします。


No.2945 5点 怪しい店
有栖川有栖
(2026/05/11 14:04登録)
(ネタバレなしです) 2014年に発表された火村英生シリーズの中短編5作を収めて同年に単行本化されたシリーズ第15短編集です。倒叙本格派や日常の謎系もあり、全体的に小粒ですが作品の質は揃っているように思います。中編「古物の魔」では「辻褄が合う」で犯人扱いされてはかなわないと開き直る犯人に、論理的推理でないことを認めながらも自分の辻褄合わせは決定的な証拠にまっすぐつながっていると犯人を追いつめる火村が印象的です。変わり種の印象を受けたのが表題作の「怪しい店」で、ずばりその人物が犯人と(火村が)名指ししたわけではない解決となっています。この実験的な試みは読者の賛否両論かもしれませんが。


No.2944 4点 時計殺人事件
ルーファス・キング
(2026/05/08 17:37登録)
(ネタバレなしです) 米国のルーファス・キング(1893-1966)は1920年代後半から1930年代までは全11作のヴァルクール警部補シリーズの本格派推理小説が創作の中心を占め、1940年代からはサスペンス小説系の非シリーズ作品や短編ミステリーに力を入れたそうです。1929年発表の本書がシリーズ第1作です。英語原題は「Murder by the Clock」でジョン・ディクスン・カーの「死時計」(1935年)を連想する読者もいるかもしれませんが、拍子抜けすると言っていいほど時計に重要な役割が与えられていません。ヴァルクールが容疑者の1人から「人の心の中にありもしないことを見たり読み取ったりしている」と批判されていますが、そういう容疑者たちだって何を言っているのかよくわからないことしばしばで、とにかく会話がぎくしゃくしています。論創海外ミステリ版の巻末解説で二階堂黎人が意外性を誉めていますけど、こうも読みにくいと意外性以前に読者の謎解き意欲が削がれてしまうのではないでしょうか。


No.2943 5点 憎悪の化石
鮎川哲也
(2026/05/08 04:04登録)
(ネタバレなしです) 1959年発表の鬼貫警部シリーズ第4作の本格派推理小説です。容疑者全員にアリバイが成立するのですが犯人の正体については見当がつきやすいと思います。ちょっとしたどんでん返しもありますが意外性は感じませんでした。犯人のアリバイトリックは意表をついたアイデアで印象に残りますが、マニアックな知識頼りなので読者の評価が分かれそうです。余談ですけど私の読んだ創元推理文庫版には作者ノート(1975年)が巻末に付いていますが、「近い将来もう一本の星影物を書く予定でいるけれど(「朱の絶筆」(1977年)のことですね)、私のホームグラウンドは何といっても鬼貫物であった」とアリバイ崩しの鬼貫警部シリーズが創作の中心であることを再認識しています。個人的には王道の犯人当て本格派の方が好きなので複雑な気持ちになりました。


No.2942 5点 偽装を嫌った男
R・オースティン・フリーマン
(2026/05/07 04:02登録)
(ネタバレなしです) 犯人の正体をあらかじめオープンにする倒叙本格派推理小説の創設者として有名なフリーマンですがその種の作品は案外と多くなく、長編2作と短編6作しかありません。1925年発表のソーンダイク博士シリーズ第8作の本書はその希少な長編の1つです。これが倒叙本格派の原典であり、後発のF・W・クロフツやヘンリー・ウエイドがどのような新趣向の倒叙本格派を書いたのかを比較してみるのも面白いかもしれません。一方で第8章でソーンダイク博士が何を考えているかを読者に対してオープンに描写しているところはフリーマンがクロフツの影響を受けているのかもしれません。登場人物たちがソーンダイク博士について「彼は法律家なのか、医師なのか、科学に携わる人なのかはっきりわからなかったのです」「彼はその三つを兼ねている」と会話していますが、殺された被害者が失踪中のように見せかける犯人の細工をかなり早い段階でソーンダイク博士は見抜くのですけど科学的には解決されても法律的には解決されていないと結着するまでに慎重な姿勢が続きます。そこが冗長に感じる読者もいるかもしれません。


No.2941 5点 六人の超音波科学者
森博嗣
(2026/04/24 01:36登録)
(ネタバレなしです) 2001年発表のVシリーズ第7作の本格派推理小説です。クローズドサークル状態の研究所で起こった事件を扱い、容疑者の大半が科学者という設定はS&Mシリーズの某作品を連想させます。私が読んだ講談社文庫版の裏表紙で「美しいロジック溢れる推理長編」と紹介されていますが推理の筋道があまり明快でないように感じられました。「そもそも最初がいけなかった」の「最初」をどうやって推理したのか私にはまるでわかりませんでした。冷静なようで意外と感情的だった紅子、活躍したとは言えないながら紅子への敵意を抑えた努力は評価してあげたい七夏などシリーズキャラクターはそれなりに描かれていますが、容疑者たちの描写は物足りず存在感が希薄です。


No.2940 5点 ニューヨーク・クルーズにぴったりの失踪
ドーン・ブルックス
(2026/04/16 10:22登録)
(ネタバレなしです) 本国ではRachel Prince Mysteryと宣伝されているシリーズの第2作で2018年に発表されました。豪華客船コーラル・クイーン号が再び舞台となり、航路はサウサンプトン発ニューヨーク着です。シリーズ第1作の「地中海クルーズにうってつけの謎解き」(2018年)では失恋の痛手がレイチェルのクルーズ旅行のきっかけでしたが、本書ではそれが払拭されてか気持ちが前向きになっています。ロシア人船員の急死と容疑者の失踪という事件が起きますが、船客の立場のレイチェルと船員の立場のサラが足並みを揃えての活動場面は案外と少ないです。正体不明の殺し屋が登場してサスペンス小説要素の濃かった前作に比べると犯人当て本格派推理小説らしさはありますが、レイチェルが第37章で説明した「それだけだったらなんでもないけれど(中略)いろいろと考え合わせたら」についてはもう少し詳しく説明してほしかったです。


No.2939 4点 「萩原朔太郎」殺人事件
草川隆
(2026/04/14 18:37登録)
(ネタバレなしです) 鉄道を題材にした本格派推理小説を多く手掛けてきた作者が「ひと味違った作品」を目指して1996年に発表した文芸を題材にした本格派で、ノン・ノベル版では「推理小説界デビュー後の第25作に当たる」と紹介されています。萩原朔太郎の詩に見立てた死体演出という趣向は内田康夫の「『萩原朔太郎』の亡霊」(1982年)を連想する読者もいるかもしれません。プロット展開は作者の他の作品と大差なく、読みやすいですけど劇的な盛り上がりに欠けており、アリバイトリックも感心できませんでした。関係者たちから情報を引き出すテクニックが冴えるアマチュア探偵役の女性以外は人物個性も感じられません。


No.2938 5点 奇妙な花嫁候補
アリソン・モントクレア
(2026/04/13 21:22登録)
(ネタバレなしです) 2023年発表のアイリス・スパークス&グウェンドリン(グウェン)・ベインブリッジシリーズ第5作です。デビュー作の「ロンドン謎解き結婚相談所」(2014年)の作中時代は1946年でしたが本書の作中時代もまだ1946年で、あまりに短い期間に次々に殺人事件に巻き込まれる設定には思わず笑ってしまいました。英語原題は「Lady from Burma」で、ライト・ソート結婚相談所の新しい顧客の1人がビルマ(現在のミャンマー)出身であることに由来します。不治の病に冒されている彼女の依頼は自分の死後に夫に新たな伴侶を見つけてほしいという風変わりなもので、しかもその後謎めいた死を遂げます。なかなか興味深い事件ですが作者が力を入れたのはグウェンのプライヴェート問題の方で、精神疾患者という社会的レッテルを変更するための苦闘がたっぷりと描かれる上に新たな事件に巻き込まれてサスペンスが盛り上がります。シリーズ前作の「ワインレッドの追跡者」(2022年)のスパイ・スリラー要素はなく、どちらかといえば「疑惑の入会者」(2021年)に近い作風に感じました。本格派推理小説としては物証の少ない推理ですが、目まぐるしい展開の中で混乱しながらもグウェンが気づいた「筋が通らない」行動は手掛かりとして印象的でした。


No.2937 5点 生首に聞いてみろ
法月綸太郎
(2026/03/31 06:26登録)
(ネタバレなしです) 2001年から2003年にかけて雑誌連載され、2004年に単行本出版されました。法月綸太郎シリーズ長編としては「二の悲劇」(1994年)以来となるシリーズ第7作です。新本格派推理小説の作家がホラー作品を発表して新境地を開くのが珍しくなくなっていたので、パメルさんのご講評でも指摘されているようにタイトルからそういう種類の作品かと思ってましたがホラー要素のない本格派推理小説でした。個人的にはホラー系は苦手なのでその点ではありがたいのですが、展開はとても地味で殺人もなかなか起きません。綸太郎の捜査も確かな根拠もないままに複雑な人間関係の整理に苦心しており、登場人物から「きみの話は”かもしれない”ばかり」と批判される始末です。真相説明場面でも証拠に基づく論理的推理は少なく、事件関係者が何を理解し何を誤解していたかを都合よく解釈しての説明にしか感じられませんでした。事件の悲劇性の演出は上手いと思いましたが。


No.2936 6点 ハレー彗星の館の殺人
ロス・モンゴメリ
(2026/03/16 21:59登録)
(ネタバレなしです) 2013年にデビューした英国の児童小説家ロス・モンゴメリが2026年に発表した初の大人読者向け作品が本書です。角川文庫版の巻末解説で本書の魅力を時代背景、舞台設定、人物造形、そして謎解きと紹介している通りの本格派推理小説です。作中時代は1910年で、ハレー彗星が地球に近づき彗星の毒ガスで人類が滅亡するという迷信を信じる貴族が生き延びるために扉や窓を密閉工事させた館を舞台にして密室殺人事件が起こります。主人公2人も個性的です。1人は79歳の高齢で車椅子生活者ながら科学の知見があり毒舌家の貴族のミス・デシマ・ストッキンガム、もう1人が少年院出身でデシマの従僕になる語り手のスティーブン・パイクです。さまざまな制約を抱えながらのアマチュア探偵コンビぶりは読みごたえたっぷりで、終盤のサスペンスもなかなかの出来栄えです。動機についてはやや後出し気味の説明に感じましたが「英米黄金期探偵小説の香り」を漂わせることに成功した作品だと思います。

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