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ミステリの祭典

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帆船軍艦の殺人

作家 岡本好貴
出版日2023年10月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 人並由真
(2024/01/15 21:54登録)
(ネタバレなし)
 18世紀の末。のちに第二次百年戦争と言われる英仏の戦いの終盤。英国のソールズベリー地方に住む24歳の靴職人ネビル・ボートは、労働力を必要とする大英帝国海軍の強引な権限のもと、大型帆船の戦艦ハルバード号の水夫として強制徴用された。出産間近の愛妻マリアを自宅に残し、生まれて初めていきなり水兵となったネビルは運命に絶望するが、そんな彼を支えたのはともに徴兵された12歳年上の仕事仲間ジョージ・ブラック、そしてハルバート号で戦友になった気の良い水兵仲間たちとの絆であった。だが、そんなハルバート号で、フランス軍人の呪いとされる怪死事件が発生。ネビルは否応なく、事件の渦中に巻き込まれていく。

 第33回鮎川賞受賞作。
 登場人物は全員が外国人(その大半がもちろん英国人)。
 ズバリ、あのフォレスターの「ホーンブロワー」サーガ、その時系列的に初期の頃の時代(18世紀末)の英国の、海戦の場が舞台である。
 要は海洋冒険小説の醍醐味と、謎解きフーダニットパズラーの興味をあわせもったハイブリッド作品だが、読む前の予想どおり、やはりというか前者の側面がまず面白い。
 いかにも「ものがたり」的な逆境に運命的に放り込まれた主人公ネビルの苦闘譚がドラマチックで、読ませる読ませる。まあガチな、この時代(歴史)設定の英国冒険小説なんかと比べると若干のやわい感じはしないでもないが、ページタナー的な意味での求心力は十分に合格だろう。海戦もこの時代の戦艦も大した知見はない評者だが、それでも平易に十分に楽しませてもらった。

 ミステリ的には結構、手数も多く、謎解きのための伏線もいくつも張ってあるんだけど、演出がいまいち煮え切れなかった感もあって、特にウリ(売り)のトリックは、選評の東川先生の言う通り、アッサリ見せすぎ。とはいえこの手のトリックを、鬼面人をおどかすようにドヤ顔で書いたら、2020年代の今じゃもう違う気もしないでもない。うーん、ちょっとバランスが難しい。

 とはいえトータルでは普通に十分に面白かった。一日で読めちゃったけど、それなりに満腹感もあるし。

 ちなみに作者は五回目の応募でついに今回、受賞だそうで、話を聞くだけでも並々ならぬ努力のほどが伺える。遅咲きの人ほど長持ちするというし、今後にまた期待。

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