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ミステリの祭典

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zusoさんの登録情報
平均点:6.23点 書評数:256件

プロフィール| 書評

No.256 5点 裏切りの日日
逢坂剛
(2025/05/09 21:38登録)
ビル最上階の役員フロアに立て籠もり、身代金を奪った犯人がエレベーターに乗り込むがそのまま姿を消してしまう。同じ頃、大物右翼がスナイパーによって狙撃された。
狙撃事件と人間消失を扱った本格ミステリ的な謎を絡ませた作品。物語の中心となる公安刑事が強烈な存在感を見せる。


No.255 6点 宛先不明
鮎川哲也
(2025/05/09 21:33登録)
痴漢冤罪や出版業界の内幕を描くなど、謎解き以外の部分に多様なテーマを織り交ぜている。
身近なある物を利用したアリバイトリックも面白く、読者の発想の柔軟性を試すようなユニークさがある。


No.254 5点 雲州下屋敷の幽霊
谷津矢車
(2025/04/25 21:41登録)
江戸期の様々な事件に材をとった短編集で、思わぬ仕掛けが施されている。
歴史と物語、近世と近代、そして虚と実。数々の表裏一体の存在と人間の業を追求する作者の眼差しには、つい居住まいを正すほどの冷ややかさが垣間見える。残酷で恐ろしく、不思議にも美しい物語。


No.253 6点 観覧車は謎を乗せて
朝永理人
(2025/04/25 21:37登録)
安全装置の誤作動で停止した観覧車が舞台で、六つのゴンドラでそれぞれの物語が展開されれる。
ゴンドラ内での刺殺事件を巡る謎解き、恋の告白、殺し屋による狙撃など、六つのドラマが意外な結末を迎え、同時にそれらを結ぶかすかな糸が明らかになる。設定と伏線の技巧派冴えており、語り口も軽やか。


No.252 5点 ささらさや
加納朋子
(2025/04/12 21:38登録)
突然の事故で亡くなった夫が、佐々良という小さな田舎町に移り住んだ妻のサヤとまだ首もすわらない一人息子のユウスケを、ゴーストになって見守り続ける。
八つの物語は、いわゆる「日常の謎」だが、読後に受ける印象は、優しさと切なさ。恋の先にある愛のかたちとしてミステリ的要素以外にも読みどころはある。


No.251 7点 幽霊人命救助隊
高野和明
(2025/04/12 21:35登録)
天国と現世の中間に留まっていた、四人の自殺者たちが天国に昇天するために、百人の自殺志願者の命を救うというSF設定の作品。
自殺志願者と向き合ううちに、四人の幽霊たちも救われていく様を、ある時はコミカルに、ある時は切なく描いている。「未来が定まっていない以上、すべての絶望は勘違いである」という登場人物の台詞には心打たれる。


No.250 5点 火喰鳥を、喰う
原浩
(2025/03/31 21:42登録)
主人公の久喜雄司の現実が、別の現実によって塗り替えられていく怪異と恐怖を描いている。
太平洋戦争の末期に南方で死んだ雄司の祖父の兄の日記が七十年以上経過して久喜家に戻っってきた。それを契機に雄司の日常が揺らぎ始める。ひたひたと迫り来る静かな恐怖と、アクションと流血に宿る恐怖を、日記を軸に巧みに一つの物語に編み上げている。


No.249 7点 幽玄F
佐藤究
(2025/03/31 21:38登録)
主人公の透の感覚と独特な感性や戦闘機への執着に理由を求めたくなるが、僧侶である祖父に育てられた彼が目にした風景や出会った人、時に起こる乱闘の描写と、織り込まれた三島由紀夫の言葉が、読者の欲求に釘を刺しているように感じた。突き抜けた死生観を感じる。


No.248 6点 残り火
小杉健治
(2025/03/19 21:32登録)
妻に先立たれてすっかりふさぎ込んでいた水木弁護士は、かつて彼に息子の冤罪を証明してもらった人物から、連続殺人の嫌疑をかけられている青年の無罪を証明してほしいと依頼されて再び立ち上がる。
弁護士が主人公の法廷ミステリでは、冤罪テーマは見せ場を作りやすいため作例が数多くあるが、本作はそれらの中でも結末の意外性はトップクラスだろう。


No.247 7点 私雨邸の殺人に関する各人の視点
渡辺優
(2025/03/19 21:29登録)
山奥の大豪邸で当主の老人が殺され、推理小説研究会所属の推理好きの大学生、地元雑誌の編集者、当主の無職の孫の三視点から顛末が語られる。彼らに限らず登場人物はそれぞれ事情を抱えており、途中で「全員が一つづつ嘘をついている」と明かされるなど、全員信用できない。
多重推理も結構な迷走を見せ、放蕩に解決するのかと思っていると、意外な伏線が拾われて一気に解決する。その後の展開もなかなか面白い。


No.246 5点 ギフトライフ
古川真人
(2025/03/05 22:23登録)
政府と一体化した企業が運営するポイント制社会に過剰反応した主人公が出張先で窮地に陥る近未来ディストピアSF.
タイトルは、重度不適正者の生前献体を可能にする、一種の強制的安楽死制度。主人公が乗る自動運転車が流し続けるCMや杓子定規な告知が絶妙なアクセントとなり、笑いと恐怖、SFと寓話の間をギリギリのバランスとなっている。


No.245 7点 海を見る人
小林泰三
(2025/03/05 22:16登録)
SF設定は物理的に厳格に統制されているが、青春小説色が強く理系分野に縁がない人も楽しめる作りになっている。
壮大かつ緻密なランドスケープが印象的な「時計の中のレンズ」、仮想空間のエラーの意外な真相が判明する「キャッシュ」、時間の速度が場所によって異なる世界で悲恋を描いた表題作など、クオリティは粒ぞろい。各短編の合間に挟まれる先生と少女の会話も味わい深い。


No.244 5点 楽園の真下
荻原浩
(2025/02/22 22:11登録)
十七センチのカマキリの取材と、連続自殺事件の調査の目的で島に渡ったフリーライターが、現地に住む野生動物の研究者とのコンビでカマキリの巨大化の謎に挑み、さらに暴れ始めたカマキリたちとの闘いに挑む。その謎解きは生物たちの生存戦略に則っていてロジカルかつスリリングで、そして巨大カマキリたちがもたらす恐怖はリアルに描かれている。しかも連続自殺事件とリンクしているところがいい。


No.243 5点 灰いろの鴉
櫛木理宇
(2025/02/22 22:05登録)
県警捜査一課の刑事が、老人ホームでの殺害事件を探る。
「上級国民を狙った」という表面的な構図と、その裏側の相違が徐々に見えてくるのだが、そうしたずれがあちこちに潜んでおり、それらが個々の登場人物の人生に繋がっている。
心に響く衝撃と驚愕の連続。鴉が静かに刑事を手助けする特殊設定も独自で魅力だ。


No.242 6点 不可視の網
林譲治
(2025/02/09 21:45登録)
監視カメラシステムが張り巡らされた先端技術特区を舞台にした近未監視社会ミステリ。
全ての市民が監視されているはずの「安全・清潔都市モデル地区」で起きたバラバラ殺人を通じて、電子的な監視網のの弱点や問題点が浮き彫りになってゆく。網からこぼれ落ちるものをいかにすくい上げるか、そもそも遺漏なくすくい上げることが正しいのか、そんな問題提起を含む作品となっている。


No.241 5点 空を切り裂いた
飴村行
(2025/02/09 21:38登録)
「空を切り裂いた」は、架空の作家の作品に人生を歪められた人々を描いた群像劇。「蘇る光」は、戦争を経験し、戦後文壇において名を馳せた小説家・堀永彩雲の遺作。
オーディションを落ち続ける役者志望者の極限の心理と行動を描いた第二章「曳光エイコウ」。海辺の町に生まれたその地に閉じ込められても生きてきた十六歳の少年が、堀永彩雲との出会いによって一歩踏み出すさまが鮮烈な「裂果レッカ」の心理の変遷は粘膜シリーズを彷彿とさせ、おどろおどろしくも清々しい。


No.240 5点 オランダ宿の娘
葉室麟
(2025/01/27 21:54登録)
日本橋のオランダ宿・長崎屋は、江戸に参府するオランダ商館長の定宿だった実在の旅籠。
本作は江戸には稀なこの異国との窓口を舞台に、シーボルト事件などの歴史上の事件を解き明かす一方で、二組の若い恋人たちの運命や彼らを取り巻く人々の有為転変をも描き出す読みどころの多い作品。


No.239 5点 女だてら
諸田玲子
(2025/01/27 21:50登録)
江戸後期に実在した女性漢詩人、原来蘋が主人公。彼女の年譜の中で事実関係が判明していない時期に着目、そこに秋月黒田家お家騒動を嚙ませて展開する時代サスペンス。
男装した上で密命を果たそうとする原来蘋の前に立ちはだかる敵、幾度となくやって来る危機、出会いと別れ、ジェットコースター的な展開が最終的に史実に回収されていく様は実に鮮やか。


No.238 6点 虚構推理 鋼人七瀬
城平京
(2025/01/16 22:49登録)
妖怪などが真実を教えてくれるという、異様な設定の中で展開されていく。
亡くなったアイドルの亡霊を信じるネット上の都市伝説的なものによって、その亡霊が存在しているという設定を用いて、偽物の推理に誘導するメディア・コントロールを展開させる快作。


No.237 5点 私に似た人
貫井徳郎
(2025/01/16 22:45登録)
「小口テロ」と呼ばれる無差別殺人が頻発する近未来の日本で、全国各地の無関係な人々が連作形式で登場し、「小口テロ」の背後にあるものが次第に炙りだされていく。
世界中でいろいろな立場から正義を叫び、他人を害する人々がいる。そしてそれが他人事でないことを訴えている。

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