| 人並由真さんの登録情報 | |
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| 平均点:6.36点 | 書評数:2310件 |
| No.2310 | 6点 | コージーボーイズ、あるいは四度ドアを開く 笛吹太郎 |
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(2026/02/14 07:45登録) (ネタバレなし) 一冊目は未読でこちらから読んだけれど、特に大事はないですな? 「ブラックウィドワーズクラブ」の本家取りもの、その現行作品として水準以上の出来だろうし、各編のおまけにつくミステリトリヴィアについての話題トークも楽しい。 中身の方は「居酒屋の謎」の回が、文字で読む限り、そんなことって、あるのかなあ、という感じ。あとはそれぞれフツーに楽しめた(一部、感心はするが感嘆や感銘に至らず、というのもあったが)。 劇中劇の密室事件のネタは、なるほどこういう使い方ならオッケーだね。 それなりに楽しい一冊だったが、7点はちょっとキビシイということで、この点数で。 |
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| No.2309 | 8点 | その血は瞳に映らない 天祢涼 |
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(2026/02/14 06:30登録) (ネタバレなし) いやー、……メチャクチャ面白かった! 数年単位で<最高傑作>を地味に更新し続ける作者だが、もしかしたらこれが自分にとっての現時点での著者の著作のベストワン! になるかもしれない。 メインキャラから脇役まで、話に絡む登場人物の造形が総じて出来がよく、記号的な役割の人物もどこか印象に残るキャラクターになっている(気弱で上司の命令を聞かなければならないサラリーマン社員だが、決して悪人ではない編集長とか)。そこがまずよろしい。 でまぁ、終盤の(以下略)。これはアレでないの、海外ミステリ黄金時代の(中略)ではないの! 雑多な人間模様を見つめてその上で、ちゃんと謎解きミステリとしての仕掛けとサプライズにこだわりながら、同時に、主題として作者が小説の形で言いたいメッセージ性もしっかとそこにある。 というより、中盤までは<ミステリとしてはまずはともかく、小説として面白い>だったのが、最後の最後でその枠を突き破った破壊力にシビれた。 優秀作。 9点に近い、この点数で。 |
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| No.2308 | 8点 | 魔法使いが多すぎる 名探偵倶楽部の童心 紺野天龍 |
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(2026/02/11 06:15登録) (ネタバレなし) 2019(2020?)年。「僕」こと東雲大学の薬学部2年生で、校内の先輩かつ「東雲の名探偵」金剛寺煌(こんごうじ きら)が創設した<名探偵倶楽部>の一員である瀬々良木白兎(せせらぎ はくと)は、ある夜公園で二人の若き女性魔法使いが対決する図を目撃する。その魔法使いの片方で母校の在学生でもある美女・聖川麻鈴から事情を聞いた瀬々良木は、後輩の美少女・そして名探偵の来栖志希とともに、10年前のクリスマスの時期に起きた「白ひげ殺人事件」の真実に立ち入っていくが、事態は思わぬ展開を繰り返していく。 2年半ぶりの<名探偵倶楽部シリーズ>第二弾。 前作『神薙虚無最後の事件』が相応の反響を呼んだのに、今回は本サイトでも誰も読みませんね? まあそういう自分も刊行後ほぼ1年目にしてようやく読了だけど(笑・汗)。 で、結論から言うと、とても楽しめた。 ケレン味満点で、しかも(中略)が続出する作劇パターンは昨年の某話題作(そっちは評者はまだ未読だけど)と趣向が似ちゃったらしいものの、それでもそのテーゼをひとつひとつ覆していく美少女名探偵・来栖さんが今回もカッコイイ。 まとめ方は良くも悪くも王道の新本格だな~というところもあるものの、謎解きミステリとしての完成度の向こうにある、作品全体が抱える某・主題が、個人的にはとても心地よい(逆に言うと今後のシリーズの方向性に、もしかしたら、とにもかくにも読者への予断を授けてしまうかもしれないけれど)。 あー、某キャラの去就についてちょっと大雑把なのがやや気になったけれど(一応は21世紀の話なので)、まあいいか。 9点に近いこの評点で。昨年の国産作品・現状でのマイベスト1……はちょっと辛いけれど、個人的には上位3~5位には入れておきたい。 シリーズ次作も楽しみにしておこう。 |
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| No.2307 | 7点 | 嘘つきたちへ 小倉千明 |
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(2026/02/10 05:40登録) (ネタバレなし) 表題作で、新設された短編ミステリの新人賞を受賞。それをハシラにあとの4編のノンシリーズ編を書き下ろし、一冊になる分量ということで(?)、最初の著作として刊行。 こういうパターンもかなり珍しいんじゃないかと思う。いや創元は現在もミステリ掲載誌(「紙魚の手帖」)があるんだから。それとも抱えている作家が多すぎて、新人作家に割く紙幅の余裕がそんなにないのか? ①このラジオは終わらせない ……いきなり、こってりした話。本書の方向性を読者に明示するという意味では、最初に読ませる作品としては的確かも。 ②ミステリ好きな男 ……「おそ松くん」の某エピソードの元ネタにもなった、かの名作海外短編へのオマージュ編。というか、後半のヒネリ具合は、海外の某単発ミステリドラマだな。 ③赤い糸を暴く ……オチは素朴ながら、話の見せ方で得点した一編。これも国産の某・名作短編を意識してるとは思う。 ④保健室のホームズ ……個人的には、一番良かった。読後感が、エリンの某短編を思い出してしみじみ(え?)。 ⑤噓つきたちへ ……最後の最後まで引っ張るトリッキィさで、なるほど出来はいい。特定の作品とかではなく、なんか佐野洋あたりの切れ味のいい短編を思わせる。 ④と⑤で稼いで、この評点。 |
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| No.2306 | 7点 | 美しい探偵に必要な殺人 藤石波矢 |
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(2026/02/09 04:58登録) (ネタバレなし) 「俺」こと、高校生・田坂眞人の前に現れた美貌の教育実習生・刀根美聖(とね みさと)。やがて彼女は、病死した伯父・加茂肇(はじめ)の事務所を引き継ぎ、私立探偵稼業を始めた。刀根に初対面の時から心惹かれ、自主的に彼女の助手となった田坂はその後12年の間に警察に奉職し、ひそかに彼女に複数の事件の捜査情報を非公式に提供し続ける。そして先日、焼死したのはかつての田坂の母校の恩師であり、田坂と刀根が宿敵の巨悪として追い続けた男であった。田坂と刀根は電話で、彼らが出会ってから現在までの十数年の間に生じた複数の事件の話題を語り合う。 できれば帯もAmazonの内容紹介も見ないで、いきなり中味を読み進めて欲しい。 主人公二人の出会いの時からのいくつかの事件が順々に語られる連作短編集っぽい形式だが、中味は実際には書き下ろしの長編ミステリ。真髄に触れるには確実に全一冊、最後まで読み通す必要がある。 大枠の仕掛けはなんとなく読める部分もあるが、わかりやすい説明で語られる各事件の謎解き、さらに練りこまれた、一部の事件の意外な構造など、確かによく出来ている部分も多い(かたや、そううまく行くかな、と思える箇所が皆無ではないのだが)。 ネタバレを警戒しながら言葉を選んであえて不満を言えば、主人公コンビとは別のキーパーソンの動きがやや甘い、と思える事。(中略)のために、ああいうことやそういうことをしようとは思わなかったのだろうか? と少し疑問が生じた。 それでもミステリとしてのパワフルなどんでん返しに乗っかる形である種の文芸性と独特の情感があり、それら全部を総合した作品として結構惹かれる。 着想と勢いで書いたような部分と、計算されたいくつかの細部。その相乗でなかなか面白かった。タイトルの意味は……まあ、ねえ。 |
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| No.2305 | 5点 | 退職刑事6 都筑道夫 |
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(2026/02/07 18:59登録) (ネタバレなし) ブックオフの100円棚で見つけた、元版の徳間文庫版(文庫オリジナル)で読了。つまり評者が手に取った文庫の通巻表示は「6」でなく「5」である。ややこしい。 『新・必殺仕事人』は仕事人シリーズパート2だが、『新ハングマン』はハングマンシリーズパート3。なんかその辺を思い出してしまう。 本シリーズはリアルタイムで2冊目までは読んだ記憶があるが、3冊目はどうだったか心もとない。4冊目と5冊目はたぶん確実に読んでない。つまみぐいでこの最終巻を、例によって就寝前とか病院での待ち時間とかに少しずつ読んだ。 推理も何もなく、直感で一応はつじつまの合う? 話をヒネリ出すだけ、というのはこのシリーズの途中……あるいは晩年のツヅキ作品の多くへの悪口だが、今回は当初からそんなもんだろと思って読み始めたので、あまり腹も立たない。というか、なんか今となってはこのマイペース? な作劇がちょっと懐かしくもある。 ウワサの「拳銃と毒薬」は(中略)オチで、そのぶっとび具合そのものよりも、老境の、もはや国産ミステリ界での第一線にいるとはいえなくなった当時のツヅキが、なんか世の中(本邦ミステリ文壇)に爪痕のひとつももうひとつ遺しておこうと願いながらこんなのを書いた? という感じで微笑ましい。 個人的に割と面白かったのは、最後の2つ前の「針のない時計」。しかしこれ、出題に回答がない(一応説明はあるのだが、う~ん)ヘンな話だね。いや、正にソノ辺こそが後年のツヅキ作品か。あと(中略)投げるな。 あとがきを読むと5年かけて、このシリーズ6冊目の全9編を執筆。まだ書こうと思ってたらしいが、単行本未収録、あるいは他のシリーズとあわせて補遺的な短編集とかあるのかしらん。ちょっとだけ思い付きで、気になった。 |
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| No.2304 | 6点 | 月射病 ジョルジュ・シムノン |
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(2026/02/06 23:15登録) (ネタバレなし) あらすじと断片的に目についた作品解説、さらにネットでの感想&ウワサなどから<広義のミステリとはいえる、事件性のある小説>を予期して読み進む。その意味では、いつもの(大半の)非メグレもののシムノンの一冊。 で、実際にその通りの作品なのだが、中盤はアフリカの奥地での黒人現地人の文化描写がやや長めであった(といっても大した事はなく、読むこっちの辛抱が足りないだけかもしれんが)。 しかしながらヤマ場で物語のコアに分け入るあたりの手応えは、正にいつもの&のちのちの、シムノン。主人公のジョゼフ・ティマールは、ある意味で、<異国の地でメグレに会えなかった若者>であった。 ラストの叫びなど生硬だな~と思えるところもあるが、それもまた本作の個性ではあろう。 たぶんシムノンの非メグレものの中でも上位にくることはないと思うが(作品の出来不出来というより、単に作者の著作の絶対数が多すぎるため)、シムノンに薄く長く付き合ってきた者として、記憶の片隅に残したい一編。 巻末の瀬名先生の解説はとてもお勉強になると同時に、良い意味でのファントークで非常に楽しい。 |
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| No.2303 | 8点 | アンジェリック ギヨーム・ミュッソ |
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(2026/02/04 05:24登録) (ネタバレなし) 2021年9月6日。コロナ禍のパリのアパートの6階から、元トップダンサーのバレリーナで52歳のステラ・ペトランコが転落。死亡した。ステラの娘で、飛び級医大生でもある17歳の美少女ルイーズ・コランジュは、入院中のパリ警視庁元警視で47歳のマティアス・タイユフェールに接触。事故死と認定された母ステラの死の経緯の再調査を願うが。 2022年のフランス作品。 結論から言うと、非常に面白かった。 これで評者が呼んだミュッソ作品は4冊目のはずだが、これがダントツに一番、出来がよろしい。 中盤でいきなり物語の外側が割れ、中味が見えたようになる……? が、当然ながら紙幅はまだまだ残っているので、このあと何があるのかとハラハラワクワク読み進めるが……(後略)。 とはいえたぶんミュッソの頭の中にあったのは、1950年代の欧米の某・名作ミステリだろうね。だがそれを良い意味でパーツのファクターとして取り込み、プロットレベルで二つ三つヒネることで独自の作品にしている。 全部で300ページ足らずだが、エネルギッシュでパワフルな展開。 サプライズのために一部の登場人物の思考をゆるくしてあるような箇所もまったくないではないが、まあ許容範囲。 (逆に本作を低めに評価する人は、その辺のラフさを突いてくるかも知れんが。) 作者は20作以上も長編を書いていながら、邦訳はまだ3分の1以下? というのがもったいないなあ。翻訳者の吉田氏はこれで翻訳家業を引退だそうだけど(長らくお疲れ様でした&ありがとうございました)、今後もミュッソの未訳の秀作が紹介されることを願う。 |
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| No.2302 | 6点 | ルーカスのいうとおり 阿津川辰海 |
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(2026/02/03 04:18登録) (ネタバレなし) 小学五年生・沢城タケシは2年前に児童書の編集者だった母あずさを事故で失い、今は市役所で市民からのクレーム応対役の父・裕一郎と二人暮らしだった。そんななか、裕一郎が同じ市役所の若い女性職員・丸岡美樹との再婚をタケシにほのめかす。タケシは、亡き母が童話作家・はないあきとともに生み出した創作児童文学のキャラクター「おおどろぼうルーカス」の人形に執着するが。 今回はホラー×パズラーの趣向だけれど、 ・どういう形で謎解きの要素があるのか ・後味は良いのか悪いのか ・そもそもスーパーナチュラルな要素はあるのかないのか ……もちろん全部言いません(笑)。ネタバレになるので。 で、まあ読んでる間はそれなり以上に面白かったけれど、作者が作者だけにちょっと<エンターテインメントとしてはフツーだな>という印象の一冊でもあった。他の新人の作品だったら、もうちょびっと(死語?)高い評価になってたかも。 (いやところどころで、例によっての達者さは見受けますが。) タケシの友人となる転校生の少年・森恭介とその父親の心霊探偵。彼らはいずれまた、何らかの形で再登場させるのであろうか? そんな気配がないでもない。 |
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| No.2301 | 8点 | ゆるやかに生贄は ドロシイ・B・ヒューズ |
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(2026/01/31 07:25登録) (ネタバレなし) その年の5月初旬。ロサンジェルスの青年インターン、ヒュー・デンズモアは、20歳の姪クライティの結婚式に出席するため、アリゾナ州フェニックスに愛車で向かっていた。だが砂漠のハイウェイでヒッチハイクをしているアイリス・クルームと名乗る10代の少女に出会い、仏心を起こして彼女を乗せてやったことから、ヒューは予期しない事態に巻き込まれていった。 1963年のアメリカ作品。ヒューズの第16番目の、そして最後の長編。 ヒューズの翻訳がある長編のうち、「別冊宝石」掲載の2作を除いて、書籍化された邦訳は3冊とも読んでいる。十数冊の著作の中からセレクトされて? 翻訳された作品がそれなりに出来がいいのはまあ当然といえば当然だが、どれもそれなり以上に面白かった。 いずれにしろ本書は、先の訳書『青い玉の秘密』の邦訳刊行から、ちょうど10年ぶりの旧作発掘新訳紹介である。それで少し楽しみにしてはいたが、刊行されてから半年以上たってようやっと読んでみた。 全体の4分の1くらい読み進んだところで、ああ……というサプライズがある。 本書の解説(吉野仁氏の担当)ではネタバレを断った上で解説してあるのでまだいいが、Amazonの内容紹介はちょっとアブナイ。なるべくなら目にしない方がいい。 (ちなみに現状でレビューをくれている数名の購読者各人は、ちゃんと配慮した物言いをしており、リテラシーが高くてよろしい。) とはいえそのサプライズ自体がミステリ的な大ネタ、という訳では決してなく、むしろ巻き込こまれ型のサスペンス作品としてはその(軽い?)驚きを経た中盤以降がヤマ場となる。 話の起伏の付け方に、ページタナーとしての職人性を実感。 さすがこの作品までに実績20年以上のベテラン作家(どちらかといえば寡作で、本書の前の作品は11年前の1952年だったそうな)という貫録で、良い意味で話の幅を広げず、クライマックスのギリギリのギリギリまで主人公を追い込んでいく作劇はパワフルの一語に尽きる。 まあ悪く言えばシンプルすぎるくらいシンプルな、曲のない……とまでは言わないにせよトリッキィさなどとは無縁な話、ではあるのだが、読み物小説として最高級に面白い。 (なお作品の内容に、時代性・社会派的なメッセージを感じてもいいが、むしろ<そういう主題>を具材にしたエンターテインメントとして楽しんだ方がいいだろう。) 重ねていうが、ヒューズ面白い! これまで読んだなかでは本書が最高だったが、未訳長編がまだ10作近くあるのはもったいないなあ。もう少しどんどん発掘してほしい。 |
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| No.2300 | 8点 | 死の絆 赤い博物館 大山誠一郎 |
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(2026/01/30 15:22登録) (ネタバレなし) 今回は全5編収録。 良い意味でとても安定した面白さで、個人的に比較・連想するならホックのレオポルド警部シリーズあたりを読む愉しさに通じる(加えて、石沢英太郎の牟田刑事官ものあたりの雰囲気にも近いかも?)。 第4話のホームレスと国会議員の同じ現場での同時他殺? 事件など、ああこれはジェイムズの『死の味』(評者はまだ未読だが、ジェイムズご本人が来日の際に新作構想の形で御当人から話を伺った)ネタだな? と思いきや、本書の巻末に作者自身の各編のメイキング記事あとがきがあり、正にこれはそちらへのオマージュ、と語ってある。ほかにも各編がいかに既存の名作へのオマージュ、新世代作家からの挑戦という主旨で書かれたか、ミステリマニア作家としての愛情たっぷりに(特にネタバレはないと思う。そこにも感心)語られており、本書の評点もこのあとがきで一点……いや0.5点おまけ。 その4話など冴子の推理がやや直感に過ぎるかな? というものもないではないが、最後の名探偵イヤー・ワン編がなかなかぶっとんでおり、良い感じにいかにも奇想パズラーという味わいで面白い。 (もし、この程度で? という方は、さぞミステリを読まれているのだと思うが。いやイヤミや皮肉ではなく。) いずれにしろ今回もとても楽しかった。作者自らが一番、自作の連作のなかではトリッキィなシリーズと自負しているんだけど、ここ(本サイト)ではあまり読まれないのね。少し残念である。 |
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| No.2299 | 6点 | 今日未明 辻堂ゆめ |
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(2026/01/30 01:34登録) (ネタバレなし) 一定の地域内で生じた、別々の5つの<人が死んだ逸話>。 それらの出来事をニュース報道(たぶんネットの)が最初にダイジェストで概要を伝える……という形で各編が開幕。 あとはそれぞれのエピソードごとに、その局面に至るまでの経緯を深掘りしていくストーリー……という形式のミステリばかりを集めた、登場人物などはまったく異なるものの、広義の連作といえる中短編集。 Amazonのレビューで総じてべらぼうに評判がいいので、仕込みかサクラじゃなければ、それなり以上には楽しめるだろう? という期待を込めて、読み始めた。 うーん。アベレージでいうと100点満点で、60~70点くらいの諸作の出来が大半。 で、基本はイヤミスだが、やはり中にはちょっと毛色の違う読後感のものもあり。ソレがどれか、あるいは後味がどうとか言ってしまうと、ある種のネタバレになるので、控える。 中堅作家の手堅い短編集、という感じだが、一本だけ、個人的にこれはミステリ的にもなかなか……というのがあった。これも何で良かったかが言いにくい作品なので、口をつぐむ。ただ、私的には見事にうっちゃられた、とだけ言っておく。 ヒューマンドラマ的ミステリから青春ミステリとか、職人的に幅広い作風の著作を書き連ねている印象の作者で、こういうものも書けます、と地味に才気を示した感の一冊。 Amazonでの絶賛はちょっと過剰じゃないかい、とは思うけれど、一冊まとめて佳作~秀作の中か下。 【2026年1月30日追記】 イヤスミ基調の作品集だから仕方がないかもしれんけど、5本の中に一本(?)だけ、ある種の、あるいはある状況の読者には、これは絶対に読ませたくない! とj本気で思った話がある。どれかかはここでは言えない(言わない)が、当該の方はサブタイトルと最初の1ページ目のイントロ部分で警戒して、そこで読むのをやめるのを老婆心ながら推奨したい。 |
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| No.2298 | 8点 | 百年の時効 伏尾美紀 |
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(2026/01/28 12:55登録) (ネタバレなし) 三日かけて(実質2日で)、昭和編→平成・令和編とその区分で、それぞれイッキに読んだ。 巻頭の主要登場人物表をコピーして余白に各キャラの情報を書き込み、さらに自作のメモで登場人物一覧リストを補遺しながら、読み進む。 非常に腹ごたえのある作品だが、こちらの現代史の記憶に訴えて来る物語の流れ、さらに相応の格調はあるがリーダビリティの高めの文章とあいまって、スラスラ頁がめくれる。 昭和編の主人公コンビ、鎌田&湯浅もいいが、平成編の方の主役・草加の、ややこしい立場のなかで苦悩するキャラもいい。 最後まで読了すると、事件の内実は込み入ってるようで、実は存外に良い意味でシンプルな面もあり、その辺は得点要素。しかし情報の物量攻撃のなかで、中盤で一度疑った大ネタを失念し、最後にムニャムニャ……。 これも確かに昨年の国産の収穫のひとつであろう。 数年後、文庫化されて誰か解説を書くミステリ評論家は、ユーナックの『法と秩序』とかウッズの『警察署長』とか引き合いに出すんだろうな、と予見(ちなみに評者はまだ後者は未読)。 いやミステリ的なネタバレともなんとも関係なく、単に三世代ものの大河警察小説ロマンというだけの話だけど。 |
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| No.2297 | 8点 | 抹殺ゴスゴッズ 飛鳥部勝則 |
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(2026/01/20 15:49登録) (ネタバレなし) 作者の御方は、自分が国産の新刊ミステリからほとんど離れていた時期に活躍されていたようなので、これまでの作品にまったく縁がない(汗)。 何やらスゴイ作品をいくつも書いているようなので、自分が2010年代の半ばにミステリファンとして本腰を入れて(?)再動してから、およそ10年、そのうち、この人の作品の良さげなのを読もう、読もうと思っているうちに、今回の新刊が出てしまった(……)。 で、シリーズものでもないみたいだし、じゃあこの新作から読むかと思い、二日に分けて、しかし実質、一日もかからずに読了。 かなり破格な方向性を感じつつも、最終的には新本格のパズラーに決着するのだろう……そんな予感を抱きつつ、それでもバリンジャー風の並行ストーリー同時進行形式とあわせて、かなりスリリングな読書を楽しむ。 ちなみに登場人物一覧は、平成編と令和編、それぞれ別のシートにメモ書き。ともに登場人物(ネームドキャラ)が40人前後に及び、相応の総数だが、単なる脇役・モブキャラはわざわざ名前を設定したりしておらず、読み手をわずらわせないのは親切。 一方で、登場人物リストの一覧を作ったおかけで、ある程度、先のサプライズが読めてしまった面もないではないが、まあそれは、成り行きみたいなものか。 600ページを超える紙幅に量感と質感があり、同時に思ったよりはマトモな新本格ミステリであった、という感慨もある。終盤の正に<波状攻撃>風の謎解きにも満足。 他の皆さんがおっしゃっている通り、青春小説としての味わいも、あれこれ豊潤でよろしい。 期待通りに、面白かった、というところ。 |
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| No.2296 | 6点 | ハウスメイド フリーダ・マクファデン |
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(2026/01/16 07:36登録) (ネタバレなし) ●ミステリが読みたい! 第1位(ハヤカワミステリマガジン2026年1月号 海外篇) ●週刊文春ミステリーベスト10 2025海外部門 第3位(週刊文春2025年12月11日号) ●このミステリーがすごい! 第3位(2026年 宝島社 海外編) ……こんなに高評でなければ、良い意味でもうちょっと期待値が下がって、もっと楽しめたであろう。その意味ではソンした作品。まあ、こっちも評判だったから読んだところも大きいんだけど(なんなんだ)。 シーソーゲームの最初のあたりはふーん、ああ、で、その後の2つ目3つ目のツイストの方がちょっと面白い。最後はまあ。 最後まで<評判>に振り回されたような読書ではあった。 つまらなくは無かったが、いずれにしろ、これが昨年のベスト上位と聞くと、あ、そう、という感じがそれなりに。 2作目? 読むんじゃないの? たぶん。 |
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| No.2295 | 6点 | 松本清張編 黒い殺人者 アンソロジー(国内編集者) |
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(2026/01/13 18:42登録) (ネタバレなし) 松本清張編(名義貸し?)の、翻訳短編ミステリアンソロジー「海外推理傑作選」(全6巻)の第3集目。収録作は以下の通り。 けちんぼハリー / リチャード・ハードウィック 血なまぐさい家系 / リチャード・デミング サマー・キャンプ / ドナルド・ホニッグ 相続人の死 / エド・レイシー 黒い殺人者 / ロバート・C・アクワース うそつき / ウィリアム・ブリテン 静かなる逆流 / スタンレー・アボット テーブルの男 / C・B・ギルフォード 観察 / アーサー・ポージス 七番目の男 / ヘレン・ニールセン 久々にこのアンソロジーを読んで、収録作品のほぼ全部がごっつう面白かった第4集「密輸品」に比べると、さすがに全巻あのボルテージは維持できない、という感じで、こっちはトータルではやや弱く感じた。 それでも巻頭の3本(ハードウィックやデミング、ホニッグ)など、往年の日本語版「ヒッチコック・マガジン」の掲載作みたいな歯応えで、小粋な短編ミステリを読む愉しさが満喫できる。表題作は、ああ、そういう意味(趣旨)のタイトルの作品ね、という思い。 レイシーがなあ、作者の狙いはわかるし、よく出来ているのかもしれんが、ちょっとこの路線アンソロジーで読むのは違うだろ、という感じ。 いや、もっと破格なのは最後のニールセンで、1960~70年代の日本語EQMMかHMMの巻末に載ったボーナス中編みたいな感じで、その意味では懐かしく良かった(&まあ、読み応えもあった)が、いかんせん、レイシー以上にほかの作品と共存する空気を読まない(?)場違いな作品が来てしまった、という印象(笑)。 だがその前のギルフォードとポージスはなかなか良かった。ギルフォードはどっかでこの2020年代に、日本のミステリ研究家による個人作家短編集出してくれんかな、という感じ。ジャック・リッチーみたいな感じで需要があると思うんだけど。ポージスは死体処理テーマの作品だが、トリックの創意もさながら全体の奇妙に静謐な雰囲気がとても良い。終わりの方に当たりが出た! という手応えであった。 なんだかんだ言っても、残りの巻も一冊ずつ消化するのが、とても楽しみではある。 |
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| No.2294 | 7点 | 虎口 フェリックス・フランシス |
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(2026/01/13 02:06登録) (ネタバレなし) 「私」こと37歳の弁護士ハリィ(ハリソン)・フォスターは、ロンドンの民間トラブルコンサルタント会社「シンプソン・ホワイト社」のスタッフとして活動していた。そんなハリィの新たな任務とは、英国の競馬界のメッカのひとつ・ニューマーケットのとある厩舎で生じた火災事件に関する事だった。火災現場はカリスマ的な調教師・オリヴァー・チャトウィックが息子ライアンに任せた老舗の厩舎「カッスルトン・ハウス」。そこでハリィ自身の旧友でもある中東の小国の王シーク・アーメッド・カリムが預けていた馬が焼死し、さらに身元も性別も不明な死体が発見されていた。事件性を探る警察の一方でハリィもまた事件に首を突っ込むが、やがて事態は思わぬ方向へと連鎖していった。 2018年の英国作品。 次男フェリックスによる単独の「新・競馬シリーズ」の第8弾。 主人公が弁護士という素性の「競馬シリーズ」は、すでに親子共作時期の『審判』があるが、本作はその設定に加えて主人公ハリィが競馬にはまったく門外漢という文芸を加味。法曹家としては一人前で現職トラブルコンサルタントとしての評価も高いハリィだが、ウマのことはほとんど知らない、という趣向が主人公のキャラクターを実際の年齢設定よりも若やいだものにしている。 良い意味で地に足がついた事件の調査ぶり、警察や関係者との情報交換の流れ、引き締まったそしてテンポの良い会話と筋運び……といつものフランシス一家の「競馬スリラー」だが、次第に残すところ後半3分の1くらいでちょっと異様な事件のコアが見えてきて、その辺の緊張は父親ディック(名義)時代の某初期作を思わせる。<馬が凶器>にされるあたり(詳しくは本編をどうぞ)の趣向というか、サスペンス&スリルも面白い。 要するに競馬シリーズの定番を守りながら割とイケる方で、息子フランシス時期の未訳のノンシリーズの中からこれを選んで翻訳したのは、訳者の選球眼が確かだったということになる。ヒロインのケイトもいいし。 で、本文P123という前半の途中で、ハリィが上司のASW(社長のアンソニイ・シンプソン=ホワイト)と電話で相談し、ちょっとだけ先輩の、頼りになる同僚の名を出して応援を求める描写がある。だが彼は別の任務で国外で仕事中ということで、その当該の先輩の件はそれだけになるのだが、なんかいかにもソレっぽいので、ん!? このキャラクター、これまで書かれた「競馬シリーズ」のどれかの話の調査員かな? 本作はそっちと話が姉妹編的に繋がってるのかな? とも思ったが、読了後に巻末の訳者のあとがき(解説)を読むと特にそんな話題も出てこないし、こちらの勘繰り過ぎだったようである。まあもしかしたら本作の方が仕込みで、今後何かあるのかもしれないけれど? いずれにしろ、作品としてはフツーに面白い。 エピローグのなんともいえない、ある種の余韻もしみじみ。 セレクトで翻訳、と言わずにフェリックス版の未訳の新作、全部日本語で紹介してほしいものだ。十分に息子の方も固定客はもうとっくに掴んでるじゃろ。 |
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| No.2293 | 8点 | ネズミとキリンの金字塔 門前典之 |
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(2026/01/10 14:12登録) (ネタバレなし) 後半は怒涛の勢いで読了。 実に強烈な犯人像、あまりに(中略)な犯罪計画。 2025年はこれを読まなきゃダメだろ、と実感。 (といいつつ前者に関しては、某深夜アニメの某メインキャラクターを思い出した←絶対にネタバレにならないと思う。) 一方でどこかで見たような仕掛け、やっぱりな、と思う細部のギミックも多いが、これだけ饗応精神豊かに盛り込んでくれれば、不満はない。しかも最後には、ヒューマニズムでヌカミソサービスしてくれるし。 >「屍の命題」(別題「死の命題」)(1997年)に並ぶ怪作と思います。 とおっしゃるnukkamさんのご意見にはまったく同感だが、今回は個人的にはモロ島田荘司であった(といえるほどA級の島田作品を読んではいないのだが)。小島正樹がいなかったら、十分に直系の後輩作家といえるだろう。 いろいろ凄かったが、なぜかシリーズの中での現状のベストワンにはしたくない。そんな思いも抱く作品。 |
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| No.2292 | 8点 | 終止符には早すぎる ジャドスン・フィリップス |
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(2026/01/08 14:48登録) (ネタバレなし) その年の6月のニューヨーク。「ぼく」こと31歳の青年弁護士コーネリアス(コーニー)・ライアンは、上司のベテラン弁護士ジェイコブ(ジェイク)・クレイマーから、噂の富豪で56歳のマシュー(マット)・ヒグビーの相談に乗るよう指示を受けた。ヒグビーは競馬界のある組織の要人の立場を希望しているが、その組織の長であるリー・フーパー元将軍が、ヒグビーの旧悪を理由に反対しているらしい。ヒグビーと対面したコーニーは成り行きから、彼の恋人らしい中年の美女フランシス・テリルのアパートに赴くが、彼女は若い暴漢2人に何らかの目的で家を荒らされ、フランシスの娘で20歳代初めの美女ドーンとともども何とか危機をやり過ごした状況だった。暴漢の正体に心当たりがあるらしいヒグビーが行動に出る一方、コーニーはテリル母娘と対話するが、事態は思わぬ殺人事件へと展開していく。 1962年のアメリカ作品。 作者ジャドスン・フィリップスは、ヒュー・ペンティコーストの別名で、個人(評者)的には数か月前に全くたまたま読んだ、その別名義でのポケミスの旧刊『ささやく街』がエライ面白かったところなので、実にタイムリーに次の新刊(未訳の旧作の発掘翻訳)が出た! という思い。 私は、願った希望が叶う、世界が私中心に動く、翻訳ミステリファン界の特異点。早く来てくれ、ガブリエル・ゲイル。 閑話休題。 そんな状況の上に、本作はあの植草甚一「フランクランテ・デリクトでがホメていた秀作だったそうで(そーだったけ? 「フランクランテ~」は大昔に読んだけど、さすがに記憶にない)、それも発掘新訳企画のブースト的に後押しになったらしい。実にいいことだ。 ということで相応の期待を込めて読みだしたが……いや話の内容そのものは、凝縮された時間の流れのなかで相次いでイベントが生じてテンポよく、フツーに面白い。翻訳も流麗で、読みやすい。 ただしちょっとネタバレするけど、表紙の画題や裏表紙のあらすじにある女子の飛び降り騒ぎっていうのは物語の中盤になってからのイベントで、かなり待たされる。今回の翻訳のこの売り方は、ちょっとアレというかピーキーだ。 私ゃカーター・ブラウンの『ストリッパー』みたいに、いきなり飛び降りるかどうかの騒ぎの場面から開幕するものと思っていた。 でさらに、後半の展開は小説、読み物、隠されていた人間関係の綾が続々と明かされる人間ドラマとしてはかなり面白いけど、ミステリとしては割り切ったくらいに推理の余地もなく、なんか、その辺はどーなの? という感じ。 あと、あんまり言いたくないんだけど、物語の後半でその飛び降り娘を説得にくるメンツが、交代制のローテーションみたいに次々入れ替わるのが、ドリフのコントみたいでこちらもちょっとなんだかなあ、であった。 (いや、劇中の登場人物たちはひとりひとり、 本気でシリアスに行動しているんだけどね。) というわけで全体的には読み物、エンターテインメントとしてはなかなか良かった(後味もいいし)けれど、個人的にペンティコースト、ここまでスゴイのか! と唸らされた優秀作~傑作『ささやく街』の域にはひとつもふたつも及ばない感じです。まあ、期待値のハードルも高すぎるんだけどね。 ただまあ、巻末のリストを見るとペンティコーストの未訳作品ってとんでもなく、冗談でなく空の星の数くらいのイメージである感じなので、まだまだオモシろいものはいっぱい眠っているでしょう。 本書もワタシのヘボ感想なんかは別にして、Amazonでの評とかはなかなかいいみたいだし。 今後もどんどん未訳の旧作で良さげなのを発掘翻訳願います。 評点は実質7点だけど<植草甚一がホメた未訳作品を出します>という版元と編集部の心意気が最高級にウレシイので、もう一点オマケ。 同じ流れで、ブルーノ・フィッシャーの未訳長編あたりとか、4~5冊くらい出してくれませんか、新潮文庫さま。 |
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| No.2291 | 5点 | 宙に浮かぶ首(春陽堂文庫版) 大下宇陀児 |
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(2026/01/05 04:39登録) (ネタバレなし) 春陽堂文庫版で読了。全180ページ弱と薄めの本だが、本文は二段組で小さ目の級数がぎっしり。 短めの長編(長めの中編?)の2本『宙に浮く首』『たそがれの怪人』を同時収録の上、さらに巻末に短編『画家の娘』まで併録してある。 でもサクサク、ひと晩で全部、読める。 『宙に浮く首』(元版は1931年刊行/初出は不明) その年の冬。信州の降雪の村・飯沼村で、19歳の娘・樋口妙子が何者かに惨殺された。だが村の水車業の男で「アホウの与七」「コブ七」と異名を取る中年男・唐沢与七が、事件現場の周辺で宙に浮かぶ素性不明の首を見た! と言い出した。 『たそがれの怪人』 資産家の高楠孝作氏は温情から、夭逝した友人夫婦の忘れ形見の娘・篠村澪子を後見し、実の娘のように養育した。だがその孝作氏も先年他界。美しく育った澪子は、高楠家の長男である潤一郎と両想いの末に婚約を交わす。そしてその年の2月19日、海外から船便で帰国する潤一郎を、澪子は高楠家の次男の少年・潤次郎とともに港に迎えに行ったが。 『宙に~』の浮遊首のトリックというか真相は、現実にはまずありえないもの。だが一方で、良い意味で旧作にも新本格系にもありそうな? おバカネタでもあり、個人的には面白い。そこから別のロジックが展開していくあたりもちょっと気が利いてる。ただし作品の中盤~後半は、かなり安手の猟奇スリラーになってしまい、その辺は残念。 『たそがれ』は、大した推理要素もない通俗スリラーだが、キーパーソンの設定というか劇中での行動原理に、妙なロマン味(あくまで読み物的な)を感じさせる面もあり、そこらへんは作者の持ち味か。 短編も含めて三篇、どれも他愛ない作品ではあるが、まあたまにはこういうのも。 |
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