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ミステリの祭典

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まぐさ桶の犬
葉村晶シリーズ

作家 若竹七海
出版日2025年03月
平均点6.50点
書評数2人

No.2 7点 人並由真
(2025/10/15 05:12登録)
(ネタバレなし)
 当人の年齢が50歳台に突入。さらにコロナ禍に揺れる世相も影響し、まともな探偵稼業をほぼ3年間もしていない「私」こと女性私立探偵・葉村晶。彼女は、ミステリ専門古書店の住み込み店員兼町内の御用聞きなどで、糊口をしのいでいた。だがその年の4月、いささかややこしい迂路を経て、そんな葉村に久々に人探しの依頼が入る。調査対象の70代の老女・稲本和子(わこ)の行方を追い、活動を始める葉村だが、彼女の眼前には迷宮のような現実が錯綜しながら広がっていく。

 2019年の連作短編集『不穏な眠り』から5年ちょっと。前回の長編『錆びた滑車』からカウントすれば実に7年ぶりの葉村晶ものの新作長編。
 本サイトでも人気のシリーズなのに、なぜmakomakoさん以外、誰も読まないのか? たぶんきっと皆さん、前作『錆びた滑車』のヘビーぶり(個人的には面白かったが)を何となく覚えていて、敷居が高かったりするんだろうな、と不遜にも邪推したりしている(汗・笑)。

 で、はい。予想通り、今回も完全な、後期ロス・マクドナルド世界の21世紀国産女性私立探偵版です。目が回るように、実に人間関係がややこしい。
 巻頭の登場人物表には<たった>32人しか名前が並んでいないけど、騙されてはいけない。ネームドキャラだけでその倍の70人以上出てきた。

 絶対に登場人物メモの自作一覧が必要な内容で、さらに相関図まで作った方がいい筋立てだけど、これだけ込み入った話の割には、さほどの摩擦感もなくスイスイ(まあ比較的)読める。
 終盤に明かされる人間関係の立体的、時に四次元的一歩手前の縦横ぶりは、正に本家ロスマクといい勝負だ。
 断言していいがお話そのものは楽しんだ自覚があるにも関わらず、たぶんオレは半年後には絶対に細部を忘れてる(笑)。
 ただしその一方、印象深い、おそらくはそれなりに長く心に残るであろうシーンや劇中人物の言動・内面なども少なくなく、その辺にこの作品の厚みを実感する。

 いやエンターテインメントとしては、本シリーズの前作長編『錆びた滑車』のぶっとんだクライマックスに比べ、今回はこの手のミステリとしての手堅(?)さを目指した感もあった。
 その辺の、今回もまた同工異曲なようで、実は一冊一冊微妙に味わいの違う辺りも、後期ロスマクの諸作っぽい。
 たぶんトータルでは僅差で前作の方がスキだけど、本作も相応に楽しめた。
  
 終盤の葉村晶の述懐の一節

「それきりわたしは(中略)のひとたちとはいっさい関わり合っていない」

 うん。ここらへんは『長いお別れ』だよなあ。

No.1 6点 makomako
(2025/04/27 17:02登録)
久しぶりの葉村晶シリーズです。
彼女も50代となり男っ気はなくさらに不運も増しているようです。
このシリーズはきちんとプロットが組みあがっており、一見何でもないようなところが実は真相の手がかりであることが多いので、だまされないように(実はたいてい騙されるのだが)慎重に読んでいきました。
海外ミステリーが好きな作者らしく登場人物が多く、途中で親子関係などが入り乱れてくるので、名前を覚えるのが苦手な私には大変でした。
お話の性格上初めから家系図を出すことができにくいとは思いますが、話が進んだらその時点で系図を挙げて頂けると分かりやすいのではないでしょうか。
私は関係者の血縁が変化するたびに前に戻って確認するといった面倒な作業を何度も繰り返しました。そうしないとお話の意味が解らなくなる。
でもちゃんとした推理小説ですので読みごたえは十分あります。

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