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ミステリの祭典

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アリゲーターブリッジ

作家 菊谷保
出版日2025年08月
平均点5.00点
書評数1人

No.1 5点 人並由真
(2025/10/22 17:36登録)
(ネタバレなし)
 民俗学者と、元・モーターレースの女性メカニックスタッフを両親に持つ25歳の美人・美羽瞳は、私立探偵事務所「ミウ・ビュー・デ・ディテクティブ」を開設。3歳下の青年・富戸木玖輝(ふとく くき)を相棒に、地味な調査仕事で日々を過ごしていた。そんななか、美羽はマンションの隣人の中年女性・志村から、その志村の実父である大富豪・山吹慎之介の遺書公開の場に、さる事情から代理で出席するように頼まれた。美羽と富戸木が指示されて赴いた屋敷は鳥取県の郊外の湖の中に建てられ、邸宅の周囲のおよそ幅30mの外堀の中には複数のアリゲーターが泳ぎ回っていた。やがて遺書内容の公開と前後して、屋敷の周辺では怪事が発生する。

 新人作家の読みやすそうな新本格? クローズドサークルもの? の新刊ということで手に取ったが、何というか……。
 アマチュアとしてはそこそこ筆の立つ、よくミステリを知らない人が書いた二流半ミステリという印象。
 奥付の著者紹介は作者自身の文章らしいが、妻と初めてデートした鳥取県を舞台に書きました、とか、無趣味ですが可愛い息子たちの成長を見守るのが生甲斐です、とかどうもその辺からしてユルユルである。

 そもそも発行元の「幻冬舎メディアコンサルティング」って自費出版の会社なんだな。プロの編集者の手がどのくらい入っているかは知らないが、少なくとも編集・版元の方で作品の内容を評価して発売した作品ではなかった。いやそういう形(自費出版)で世の中に出た本のなかに佳作や秀作があっても、別に全くいいのだが。
 リメンバー! 門前典之『死の命題』。
(ちなみにAmazonの版元表示では「幻冬舎メディアコンサルティング」ではなく、単に「幻冬舎」としか書いてない。これってサ×じゃないの? 『Piaキャロットへようこそ! 2』の玉蘭ちゃん、出番です。)
 
 まったく同じ顔の姉妹が複数登場し、目撃者の情報から犯人はそのなかの一人らしいと推察されるという、外連味変化球フーダニットとか、(すでに手垢がついた趣向とはいえ)まあいいんだけどね。

 さらにラストの真相は送り手としては読者の意識の死角を狙ったんだろうけど、いやまあ、みんな覚えてるでしょ、という感じであった。
 あと<あのギミック>は、作者が素でそれでいい、と思ったのか。あるいは一回りした一種のメタネタ(都筑の『最長不倒距離』のような)ものをやろうとしたのか知らないが、前者なら演出不足、後者ならそもそもこの作品、そんな大それた(?)ことをする器ではない、という印象。

 モテまくるヒロイン主人公の美人探偵とか、敷居の低い意味でのキャラメイクにはそれなりに成功してるとは思うが、最終的には書いた御当人とご家族が納得されているのなら、それでいいでしょう、という感じ。
 田舎の法事に出かけて、初対面の遠縁の親戚(たぶん善人らしい)から成功譚や苦労話を聞かされ、そこそこ退屈はしなかった、という印象の一冊。

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