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ミステリの祭典

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最後のあいさつ

作家 阿津川辰海
出版日2025年08月
平均点8.00点
書評数1人

No.1 8点 人並由真
(2025/10/28 06:27登録)
(ネタバレなし)
 1980年代終盤から90年代半ばにかけて放映された、国民的人気番組の刑事ドラマ『左右田警部補』。だがその最終シーズンである第7期は、誰にとっても思いもかけぬ形で終焉を迎えた。それから30年を経た2025年。番組に大きな関わりのあったシリアルキラー「流星4号」の復活を思わせるような殺人事件が発生した。新進ミステリ作家の「私」こと風見創(はじめ)は取材活動の上で、少年時代からの親友で今は記者の小田島一成の協力を受けながら、『左右田警部補』の元主演俳優・雪宗衛(ゆきむね まもる)本人と彼にからむ30年前のある事件の軌跡を追っていくが。

 ミステリテレビドラマ制作の業界もの、という側面もあり、同時にドキュメントノベルと映像、ジャンルは異なれど、創作や表現に勤しむ者たちの人間ドラマでもあり、そしてそういった大枠の中で、広義の密室殺人事件の謎が語られる。

 相応に具材が多い作品ではあるが、その割には登場人物はそんなに多くなく、リーダビリティもこの作者の作品らしく非常に高いのでスイスイ読める。
 かたや、本文一段組なれど全部で400ページの紙幅にはなかなかの量感はあり、途中でこれだけ読むのにカロリーを使った感があるのにまだ半分か、という気分も生じたが、250ページを過ぎたあたりから、ほぼイッキ読みであった。トータルで読了までに4時間ぐらいかな。

 (中略)の密室トリックは現実に出来るんだろうか? とも思ったが、作者が自信ありげに説得にきてるのでまあ可能なのでしょう。ビジュアルで観たいものである。
 一方で犯人の方は物語の構造と作者のミステリ趣味から何となく想像がつき、まんまと当たり。まあそこで終わり、の作品ではないけれどね。

 謎解きパズラーの軸を守る一方、キャラクタードラマを描きたい、という作者の欲目も満々で、その辺を雑駁ととるか小説的な厚みととるかで、作品の評価は変わるだろう。個人的には作者が意図的に蒼さをさらけだしたような部分も踏まえて、おおむね読み応えを感じた。
 まあヒロインの扱いとかに作為を感じるというamazonとかのレビューはわからんでもないが、その辺はヌカミソサービスでいいじゃないか。

 今年の国産ベスト3は微妙だけど、ベスト10には入ってほしい、そんな一冊。

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