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ミステリの祭典

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寿ぐ嫁首 怪民研に於ける記録と推理
天弓馬人シリーズ(刀城言耶シリーズ・スピンオフ)

作家 三津田信三
出版日2025年06月
平均点7.00点
書評数4人

No.4 8点 人並由真
(2025/11/07 17:48登録)
(ネタバレなし)
<ジェネリック名探偵>という趣向そのものでファンにウケようという(?)作者の発想&思惑が、まずスバらしい(笑)。それくらい今回の天馬の謎解きは、お師匠の刀城言耶まんまである。
(どこかの箇所で「いや、アノ辺の天馬の思考や言動はとても刀城言耶らしくない!」と思われる方がいたら、そちらの方が正しいのかもしれないけど。なんせ自分は正編シリーズを、まだ全部は読んではいないので・汗。)

 第一の怪事件の人を食った真相はバカミスっぽいが、個人的には納得であり、興味深い。実際、その手の事象は現実では実際にどうなるのだろう、という関心は昔から抱いているので(しかし元ネタはひょっとしたら、あの戦前の……)。
 最後の最後の(中略)も丁寧すぎるミステリの作法からおおむね見当はついたが、その前の(中略)トリックの方は隙を突かれた。

 エピローグの余韻まで含めて、おもちゃ箱をひっくり返したような実に楽しいオカルト謎解きパズラー。
 事件の一番の骨子となる着想もこれまでの国産ミステリのどっかにありそうで、意外になかったのではないか(私が寡聞にして知らないだけかも、しれないが)。

 作者のA級作品では消してないのだろうけど、年単位の新作としては十分に面白かった。

No.3 6点 ALFA
(2025/10/06 17:09登録)
不思議な作品だと思う。内容ではなくてその位置付けが。
前回の「歩く亡者」は刀城シリーズのスピンオフ短編集として軽く楽しめたが、今回は堂々たる構えの長編。会話の中に刀城言耶がたびたび登場するし、「首無」の媛首村の因習まで引用されている。
これではスピンオフではなく、刀城言耶シリーズの正統な後継作ではないか。
さては三津田先生、キャラを入れ換えて人気シリーズのリフレッシュを図ろうという魂胆か。
作中に名前だけ登場する刀城先生はすでにレジェンド。謎解きは助手の天弓馬人だが実際の探偵役はその教え子の瞳星愛で、これがなかなか肝の座った女子学生。キャラ構成としては魅力的。

今回のモチーフは因習+婚姻儀礼で、これは完全に「首無」の変奏作品。
文体はなめらかで読みやすく、適度な多重解決と適度に意外な反転が仕込まれている。
そつなくまとまった本格ミステリーだが、本家ほどのダイナミックなトリックやメタ構成はないし、凍るようなホラー味もない。何より第一の事件が無理筋。
まあ比較の相手が傑作すぎて分が悪いのは確かだが。

No.2 7点 メルカトル
(2025/10/01 22:18登録)
大学生の瞳星愛は、友人の皿来唄子に誘われ、彼女の実家で行われる婚礼に参加することになる。「山神様のお告げ」で決まったというこの婚姻は、「嫁首様」なる皿来家の屋敷神の祟りを避けるため、その結婚相手から儀礼に至るまで、何もかもが風変りな趣向が施されていた。婚礼の夜、花嫁行列に加わった愛は、行列の後ろをついてくる花嫁姿のような怪しい人影を目撃する。そして披露宴を迎えようというその矢先、嫁首様を祀る巨大迷路の如き「迷宮社」の中で、奇怪な死体が発見された――。作家であり民俗学研究者、そして名探偵としても知られる刀城言耶の怪異民俗学研究室、通称「怪民研」に出入りし、言耶の助手にして素人探偵の天弓馬人と共に数々の怪異譚の謎に挑んできた愛は、皿来家分家の四郎と共に事件の謎解きに挑むことになるのだが……。
Amazon内容紹介より。

これは人間関係のややこしさや嫁首様という障りの存在、雰囲気などが名作『首無の如き祟るもの』と通じるものがありますね。比べてしまうと複雑さや衝撃の部分でそれよりかなり劣るのは仕方ありませんが、天弓馬人の登場が遅く、彼はそれまで一体何をやっていたのかの説明があっても良かったと思います。事件が全て終わってからおっとり刀で駆け付けるので、やきもきしました。

最初の広義の密室事件に対する解決は相当無理がある気がします。余りにも偶然に頼り過ぎでしょう、現実的にはまず不可能。それでも師匠の推理同様天弓の二転三転する推理に振り回されながら、結局落ち着くところに落ち着いて論理的に解決される奇怪な事件の数々に、なるほどと頷かざるを得ず、アッと驚く様な真相が開示されます。そして最後の最後まで目が離せません。シリーズ前作よりも個人的には好みです。三津田信三らしい秀作だと思います。

No.1 7点 HORNET
(2025/08/30 23:42登録)
 大学生の瞳星愛は、友人の皿来唄子の婚礼に参加するため、彼女の実家・孟陀村に行く。「山神様のお告げ」で決まったというこの結婚は、皿来家の屋敷神「嫁首様」の祟りを避けるための数々の儀礼があった。だが婚礼の夜、嫁首様を祀る「迷宮社」の中で、新郎の父の奇怪な死体が発見された――。愛は、皿来家分家の四郎と共に事件の謎解きに挑む―

 本家と分家、村に伝わる祟り神、特異な儀礼文化…横溝正史さながらの舞台設定と難解な地名、複雑な家系と難解な読みの登場人物はもうお馴染み。こうでなくては!のテンプレートである。
 婚礼の晩に起きた殺人からは、虫や動物殺しが続くが、終盤にまた殺人が続く展開。もったいをつけた展開にじれるところもあったが、終盤に近付くにつれどんどん興趣が高まっていった。
 最初の事件の真相には…ちょっと思うところもあったが、天弓馬人による推理の開陳はまんま刀城言耶パターンで、二転三転する推理はなかなか楽しめた。
 が、やっぱり言耶のほうが役者が上。本家にはかなわないかな。

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