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ミステリの祭典

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メルカトルさんの登録情報
平均点:6.04点 書評数:2010件

プロフィール| 書評

No.2010 6点 死小説
福澤徹三
(2026/05/17 22:10登録)
あとがきにはほとんどの場合、文庫化に際し大幅に加筆修正を加えるが、本書に関してはほぼそのまま訂正せず出版されたとあります。私にしてみれば、なかなか味わい深い文章で全く手を加える所が見当たらないと感じました。その意味では完成度の高い作品集と言えます。五篇の短編はいずれも『死小説』その名の通り何らかの形で死に迫っています。「死」とは一体どういうものなのか、永遠の謎である命題に対して作者なりの解釈を施していると言っても良いと思います。

特に印象深いのは最初の『憎悪の転生』で、主人公に大いに感化されました。他も凡百のホラーとは一線を画す中身の濃い短編が並びます。怖いと言うより人間の業や罪深さ等を描いた佳作ばかりです。最後には確りとオチが付いていて、成程と納得させられます。ホラーの枠に嵌り切らない異色の短編集でしょうか。


No.2009 6点 あの日、君は何をした
まさきとしか
(2026/05/15 22:30登録)
北関東の前林市で平凡な主婦として幸せに暮らしていた水野いづみの生活は、息子の大樹が連続殺人事件の容疑者に間違われて事故死したことによって、一変する。深夜に家を抜け出し、自転車に乗っていた大樹は、何をしようとしていたのか――。
15年後、新宿区で若い女性が殺害され、重要参考人である不倫相手の百井辰彦が行方不明に。無関心に見える妻の野々子に苛立ちながら、母親の智恵は、必死で辰彦を探し出そうとする。
刑事の三ッ矢と田所が捜査を進めるうちに、無関係に見える二つの事件をつなぐ鍵が明らかになる。
『完璧な母親』で最注目の著者が放つ、慟哭のミステリー。
Amazon内容紹介より。

105頁までの一部は大樹の母親であるいづみの視点で、執拗に描かれくどい位の内容になっています。なぜ息子が死ななければならなかったのかが繰り返し違う表現で書かれ、いづみの心痛が胸に刺さります。が、あまりの変容ぶりに心が付いて行けない、そんな心境になることも事実です。そして二部はガラリと変わって、二人の刑事が行方不明の男を探っていく姿を多視点で描いています。

この両者の間に必ず何らかの関係性がある筈だとは分かっているのですが、なかなかそれらを繋ぐ鍵が見つからず、ヤキモキさせられました。しかしいづみが二部で人間の生まれ変わりを信じるに至るまでの心理描写はとても印象に残りました。
結局意外な形でタイトルの様な少年はあの日何をしようとしていたのかが明かされ、その真相にはちょっと意表を突かれました。
本作は人間がよく書けているし、なかなかのリーダビリティでぐいぐいと引っ張っていく文章はお見事です。特に三ツ矢の人間性は掴み所がないのが又魅力的で、この事件の探偵役としてはうってつけと言えるでしょう。佳作であり力作だとは思いますが、どことなく消化不良な点が気になるところであると思いました。


No.2008 5点 みんなの少年探偵団2
アンソロジー(出版社編)
(2026/05/12 22:33登録)
江戸川乱歩生誕120年を記念して刊行され、テレビや新聞など様々な媒体にも紹介されて話題にもなったアンソロジー『みんなの少年探偵団』。
2015年は江戸川乱歩没後50年ということで、市場も盛り上がりを見せているが、その最後の締めくくりとしての『みんなの少年探偵団』第2弾企画。
第2弾も、子供時代に少年探偵団と怪人二十面相の息詰まる対決に胸を躍らせた過去を持つ作家陣が集結。
今作では、有栖川有栖、歌野晶午、大崎梢、坂木司、平山夢明という豪華5人が「少年探偵団」オマージュに挑む!
Amazon内容紹介より。

5作品の中では有栖川有栖の『未来人F』が頭抜けて面白かった。流石としか言いようがありません。オマージュとしては勿論、やはりミステリですからそこに最も比重を置いているのが有栖川でした。又メタミステリにもなっている辺りが凄いです。その点歌野晶午は記憶に残りませんでした。他の三人はそれぞれが自身の色を出していて、比べてみるとなかなか興味深いものがありますね。

平山夢明なんかを読むと、「少年探偵団」って何でもアリなんだなと思います。グロさを抑えきれず思わず書いてしまった感が半端ないです。物語として破綻はしてませんけど。坂木司はそう来たかって感じで、ちょっとだけ意外性を楽しめました。全体的に目立つのは、怪人二十面相がどんだけ変装するんだよって事でした。そんなに変装してたかなあって。


No.2007 7点 χの悲劇
森博嗣
(2026/05/11 22:16登録)
香港で仕事をする島田文子のもとに男が現れた。島田が真賀田研究所にいた頃に起きた飛行機事故について質問があるという。その日、走るトラムの中で殺人が起き、死者の手に「χ」の文字が遺される。乗客として警察の捜査に応じた島田だったが、そこである交換条件を持ちかけられ……。Gシリーズ後期三部作開幕!
Amazon内容紹介より。

本作は妃真加島の事件に一枚噛んでいる島田文子の物語であり、ミステリ部分は全体の10%未満です。その背後には少なからず真賀田四季の存在が確かにあり、その意味ではファンには嬉しい作品だと思います。ただ、物語が一向に進展せず、特に第二章、第三章はいささか退屈な想いをしました。おまけに殺人事件の真相はかなり拍子抜けするものであり、それは島田によって呆気なく解かれるので、うっかりすると読み落としてしまいそうな危険性すらあります。

それでも第四章だけは格別好印象を受けました。かなり切ない話になり久しぶりにセンチメンタルな気分にさせられました。ゴリゴリの理系作家でもこの様な抒情的な描写が出来るんだと、新鮮な衝撃を受けました。そしてラストの二段オチには拍手を送りたいです、マジで。この終盤で評点をグッと押し上げましたね。


No.2006 5点 新「超」怖い話6
樋口明雄
(2026/05/08 22:22登録)
怪談話と云うのは、基本的に本人に聞いたか又聞きした怪談を作家が書くというスタイルを取っています。よってそれが事実なのか作り話なのかは判然としない場合が多いと思います。だからなのか、似たような話が結構多い気がしますね。枝葉は違っても根本的に同じとか。まあそんなものを含めて本書は「とにかく怖かった怪談」「どうにも奇妙な怪談」「かなりヤバい怪談」に分かれていて、私的にはそれほど怖くなかった感じです。繊細な心を持った方には結構グサッと来るものがあるかも知れませんが。

その中でも印象深かったのは風変わりなドッペルゲンガーを描いた、どこか牧歌的な雰囲気の『ドッペルゲンガー』。遭難した凍った死体を解剖するととんでもない異変が起こる『人氷』。人の足が転がっていてそれが・・・という『むかしむかし』辺りですかね。
怪談としてはこれだけシリーズ化されている訳ですから、その筋の人にとっては歓迎されるべき著書なのかも知れません。個人的に思うのは、よくこれだけ集まったものだなあという事。それ以外特にこれと言った感想はありません。


No.2005 3点 妖怪変化殺人事件
赤川次郎
(2026/05/06 22:18登録)
傍若無人・神出鬼没のあの大貫警部が殺人犯を追って勇猛果敢、遊園地の〈怪奇の館〉に突入。不気味な闇に待ちうけるのは吸血鬼・ミイラ男にゴーゴン、そして狼男――。けれどもこんな怪物たちよりもっと恐ろしい生きものが、この世にはいたのである。表題作を含め四編収録の大人気・大貫警部シリーズ・第八弾。
Amazon内容紹介より。

第三話まで、ゴチャゴチャして非常に解り難い内容だと思います。さしたる仕掛けもトリックもない、面白味の無いユーモアミステリの凡作と言えるでしょう。大貫シリーズも第八弾ともなるとネタ切れ感が半端なく、会話文が多くサクサク読めるだけが取り柄です。殺人事件そのものにも魅力がなく、外連味すら感じられないし、褒めるところが見当たりませんね。

第四話の『表裏一体殺人事件』だけは比較的真面な連続殺人事件であり、背後にストーリー性があってまずまずの出来かなとは思いました。
しかし、こんなに面白くないのによくここまで続いたなという感じですね。大貫警部もアクが強いだけで、たまにまぐれで推理が当たるケースもありますが、ただの人の悪い人物として描かれているのが残念です。時折人情味を見せるとか何にかしら人を惹き付ける物があればなあと思います。


No.2004 7点 野良犬の値段
百田尚樹
(2026/05/04 22:30登録)
突如としてネット上に現れた、謎の「誘拐サイト」。
<私たちが誘拐したのは以下の人物です>
という文言とともにサイトで公開されたのは、
6人のみすぼらしい男たちの名前と顔写真だった。
果たしてこれは事件なのかイタズラなのか。
そして写真の男たちは何者なのか。
半信半疑の警察、メディア、ネット住民たちを尻目に、
誘拐サイトは“驚くべき相手"に身代金を要求する――。
日本全体を巻き込む、かつてない「劇場型犯罪」が幕を開ける!
Amazon内容紹介より。

誘拐サイトの第一発見者、フリーライター、新聞社、TV局、出版社、誘拐犯、警察等の多視点から描かれ、登場人物は夥しい数に上ります。しかし群像劇という訳ではなく、飽くまでエンターテインメントに徹しています。社会派の様相も呈しています。残念ながら文体としては会話文が多く、その分重厚さに欠けるのが気になるところではありますが。

誘拐物によくある警察と誘拐犯との駆け引きはあまり見られず、終始警察が誘拐犯の罠に翻弄されるという形が取られています。個人的には第一部より第二部の方が面白かったですね。特にホームレスへの拷問シーンとその背景にあるものは心に突き刺さりました。ここが私にとってはクライマックスであったのではないかと思っています。
世論を巻き込んでの劇場型犯罪、読み応えも十分で、特にエピローグは良かったです。多くの読者に受け入れられる納得の一冊だと思います。


No.2003 6点 累々
松井玲奈
(2026/04/30 22:20登録)
23歳の小夜は、同棲中の恋人からのプロポーズを受けて戸惑っていた。私の年齢は、結婚をするのに適しているのだろうか――? 獣医師のセフレと奔放に夜を過ごす「パンちゃん」、恋愛ゲームのようにパパ活女子との逢瀬を楽しむ星野の前に現れた不思議な女子大生「ユイ」、才能あふれる美大の先輩に切ない恋をする「ちぃ」……現代を生きる女性のさまざまな顔を描く、たくらみに満ちた連作小説集。
Amazon内容紹介より。

男女の別なく人間が描けていると云うのはこういう事なんだろうなと思います。文体はクールで恋愛小説としてはどちらかと言えば感情を抑えた短編集となっています。しかしながら、エロ描写ではないものの、かなり性に対して踏み込んだ内容です。元アイドルで現女優という立ち位置としては大胆な作品と言って良いでしょう。

作品全体に仕掛けられた罠に嵌る事必至で、成程と唸らされました。男女の駆け引きもさることながら、男と女の本質的な違いが奔放とも言える描写によって浮き彫りにされる辺り、作者が只者ではない事を感じさせます。最早これは広義の恋愛ミステリと呼んでも差し支えないのではないかとさえ思わせます。まあミステリじゃないけど。それでも面白い、期待通りの出来栄えでした。特に『パンちゃん』が良かったなあ。


No.2002 7点 未館成の殺人
信国遥
(2026/04/28 22:19登録)
X大学ミス研の夏合宿の舞台は、建築家・黒澤泰洋が忽然と姿を消した無人島。島には建設を中断された、奇妙な館の基礎部分だけが残されていた。
ミステリさながらのこの状況を記事にするため、島に降り立ったミス研メンバー。しかし到着早々、本土との唯一の連絡手段だった船が炎上し、完全に孤立してしまう。飢えと渇きで衰弱していくなか、なんとか生き延びようと策を講じるメンバーだったが、ひとり、またひとりと不可解な死体となって発見されるーー。
Amazon内容紹介より。

前半は連絡不能な孤島に取り残されたX大学推理小説研究会のメンバーが、何とか生き残るために水を確保しようと火を熾すことに腐心するシーンが長すぎて、ちょっと飽きるし疲れました。やっと殺人事件が起こったと思ったら、これがまた地味で何だかなあって感じです。つまり本作は問題編はちょっと詰まらないけれど、解決編でグッと盛り返すタイプの典型的な例だと思います。

ただ動機をどう考えるかでこの作品の評価が割れる可能性は大いにあります。実は私も最後の畳み掛ける展開には心奪われましたが、ホワイに対しては完全に納得する事は出来ませんでした。従って採点はちょっと甘目にしてあります。文章に関しては可もなく不可もなく、読み進められます。過去の事件や怪しげな建築家など、見所は幾つかありますがどれも既視感がかなりありますね。


No.2001 5点 マイナス・ゼロ
広瀬正
(2026/04/25 22:17登録)
幻の名作が大きな活字で登場
戦時中に隣人と交わした約束。18年後にその約束を果たそうとして、主人公が見たものは? 日本語で書かれたタイムトラベル小説の最高峰といわれる名作が大きな活字で登場。(解説/星新一)
Amazon内容紹介より。

昭和38年でも無理なのに、昭和7年の東京が舞台って全然ピンと来ませんね。なかなかの大作ですが、余計な描写が多い割に肝心の所で色々と説明不足なので、非常にアンバランスな印象を受けました。タイムカプセル物が好きな方には良いかも知れませんが、どうも私には合いませんでした。SFっていうのは元々肌に合わない所がありまして・・・まあ時間の無駄だったと言うか、何でこういうのを買ったのかなあと過去の自分に問い質したい気分です。

最後にどう収束させるのか、それだけが興味の的でした。しかし、結局モヤモヤ感しか残らず、自分をどう説得させたらよいのか分かりませんでした。昔の作品だからこれが精一杯なのかなとは思いますが、ストーリーとしては兎も角SFとしての本領を発揮して欲しかったですね。Amazonの評価が高いのはSF好きが多いせいなのか、昭和初期の雰囲気が好ましかったのか、その辺りを鑑みての事だと思います。あ、イマイチ面白くなかったという個人の意見を勝手に反映させてすみません。


No.2000 7点 バラバの方を
飛鳥部勝則
(2026/04/20 22:34登録)
もっと野卑で暴力的な小説かと思っていたら、意外と真っ当な本格ミステリでした。ただ登場人物のほとんどがクセの強い人ばかりで、雰囲気は殺伐としています。相変わらずの絵画に関する薀蓄は健在で、特に宗教画を模した腸を引き摺り出された死体や、歯が抜かれた死体など見立て殺人をどう解釈するかが事件の鍵ともなっています。本作は異色作の多い飛鳥部作品の中でも特異点に位置する作品だと個人的には思いました。これが飛鳥部勝則を初めて読む読者にとっての入り口であっても悪くないでしょう。

なかなか破壊力のある本書ですが、グロやスプラッターとしては控えめで飽くまで本格寄りに軸足を置いている様な気がします。特に動機に関して比重を高めにしていると思います。だからと言って必ずしも納得感の得られる動機とは限りませんが。
個人的に印象に残ったシーンは、久仁子の父親の逸話や実質的な探偵役であり、独特の魅力を持っている佐井光次と持田との邂逅ですね。


No.1999 5点 この素晴らしい世界に祝福を! あぁ、駄女神さま
暁なつめ
(2026/04/16 22:20登録)
ゲームを愛する佐藤和真は女神を道連れに異世界転生。大冒険が始まる……と思いきや、衣食住を得るための労働が始まる。「安定」を手にしたい和真だが、女神が次々問題を起こし、ついには魔王軍に目をつけられ!?
Amazon内容紹介より。

コメディを多分に含んだファンタジー。魔法使い、冒険者、アンデッド、魔王討伐と一般的なラノベの定型を踏襲した極々ありきたりなファンタジーです。どこがどう受けたのか、Amazonでは完結編の17巻まで評価が800以上付いていて、いずれも高い評価が下されています。私にはありふれたラノベとしか思えませんが、その道の読み手には琴線に触れるものがあったのでしょう。全く理解不能な世界ですね。

主人公は引き籠りの佐藤和真。彼は少女を助けた代償に自身がトラクターに引かれて亡くなります。死後女神に天国を選ぶか、生き返りをを目指して魔王を討つ道を選ぶか選択を迫られます。後者を選んだ和真はその女神と共に二人の少女とパーティーを組み、冒険の道に足を踏み出すというお話です。
「ぱんつ返してください」のシーンは良かったですが、キャラもそれほど立っているとは思えませんし、ストーリーも物珍しいものではありません。和真の内面を抉っているとかもないです、どこを取っても平凡としか言いようがありません。世の中何が当たるか分からないですね。


No.1998 6点 ハウスメイド
フリーダ・マクファデン
(2026/04/14 22:03登録)
前科持ちのミリーが手に入れた、裕福な家庭でのハウスメイドの仕事。だが、この家は何かがおかしい。不可解な言動を繰り返す妻ニーナと、生意気な娘セシリア。夫のアンドリューはなぜ結婚生活を続けていられるのだろうか? ミリーは屋根裏部屋を与えられ、生活を始める。しかし、この部屋には……。そして、家族にまつわる真相が明かされるや、それまでに目にしたものすべてがひっくり返る。恐怖と衝撃のエンタメ小説。
Amazon内容紹介より。

内容はなかなかへヴィながら文体はライトで読み易い、一般受けしそうな作品ではあります。私としてはもっとじわじわ来る様なサスペンスを期待していたのですが、恋愛要素もあったりして飽くまで大衆を狙った作風なのがやや残念でした。訳者あとがきにある様に、中盤そう来たかとの感想は全く同感です。流石に予想外でしたが、成程ね、そういう事か程度で、驚くほどではありませんでした。

割と長尺ですが、サクサク読めます。あまり長さは感じさせない面白さがあります。でもこれが本屋大賞第2位だと言われると、そうなのか、これがねえってなります。確かに良作ではあると思います。しかし、やはり翻訳物はこれが限界なのかと私には感じられてなりません。国内作家の手練れが書いたらもっと傑作になっていたのではないかと。続編は多分読まないでしょう。


No.1997 7点 拝み屋怪談 壊れた母様の家<陽>
郷内心瞳
(2026/04/10 22:36登録)
高鳥千草の元夫、謙二から娘に亡き妻が憑いたと相談を受けた拝み屋の著者は、さっそく原因の解明に動き出す。その過程で拝み屋の深町と桔梗、占い師の小夜歌、そして霊能師の美琴と浅からぬ縁で繋がり、行動を共にすることになった。一方で、こちらも著者と因縁深い老姉妹の一団が、ある“神さま”を目覚めさせようと暗躍していた……。過去と現在の点と点が線になり、膨れに膨れ上がった災禍の核心に迫る、シリーズ最終巻!
Amazon内容紹介より。

正直、色々起こり過ぎて何を書いてよいのやら分りません。大筋は内容紹介の様に、椚木家の生き残りの謙二の娘に妻の千草が憑依したのを祓うべく、画策する拝み屋郷内。行動するうちに仲間が増えチームを結成します。一方シロちゃんの成れの果てが神様だと主張し復活の儀式を行う、怪しげな霊能者の一味が暗躍します。そして運命の糸で結ばれた両者が激突します。

本書の激流の如き紆余曲折に翻弄されながら、何とか話に付いて行くのがやっとだったのが、最終盤の異能者と、命を落としながらもその霊力は衰えない老姉妹とある重要な人物との激闘に痺れました。
まさに拝み屋率いるアベンジャーズと言えるでしょう。ここにアノ人がいないのは非常に残念ですが、過去のエピソードが語られるシーンに登場しているので良しのしましょう。それと前作に書いた『来たるべき災禍』を世事前に読むべきかどうかについては、とても微妙なところで、気にしなければ気にならないと思いますが、読んでいた方がよりストーリーに入り込めるのは間違いないと思いますね。


No.1996 7点 拝み屋怪談 壊れた母様の家<陰>
郷内心瞳
(2026/04/06 22:25登録)
昔、ある人が言った。呪いや祟りに期限など存在しないと。またある時、別の人がこう言った。人は自らの意思で、願いで、欲望で、神を造りあげることができるのだと――。10月半ば、拝み屋を営む著者の許に、電話で一件の相談依頼が舞い込んだ。依頼主は高鳥謙二。謙二は11年前、大きな災いにまつわる相談をしてきた女性で今は亡き、高鳥千草の元夫だった――。全てが終わったはずの忌まわしき災禍が、再び息を吹き返す……。
Amazon内容紹介より。

本作は『花嫁の家』に収められた『母様の家』の続編の様なものなので、そちらを先に読まないと人物相関図が十分に理解出来ない為、順序を踏んで読み進めるのは必須だと思います。『来たるべき災禍』の加奈枝は少しだけ出て来る程度なので、読まなくても支障はないでしょう。ただこれに続く<陽>の方はまだ分かりません。

この作品に対してこんな言い方は不謹慎かもしれませんが、エンターテインメントとして優れていると思います。怖さはそれ程でもありませんが、とにかく面白いです。特にシロちゃんの章は琴線に触れるものがありました。このエピソードがどう物語に影響して来るのか、最初はさっぱり理解出来ませんでしたが、後々効いてきます。前作と違って話が動くのがスピーディーで、各シーンの切り替えが早いので話がどう転ぶのかが読めません。まずはこれにて役者は揃い、プロローグはこれで打ち切りと云う訳でしょう。本書の真価は次巻で発揮されるものと思われます。それにしても途中意外過ぎる事実が明かされ、そんな筈はないと個人的に非常に驚かされました。


No.1995 6点 拝み屋怪談 来たるべき災禍
郷内心瞳
(2026/04/04 22:32登録)
虚実の境が見えなくなってしまった時、人にとってあらゆるものが、怪異となり得る危険を孕んでしまう――。現役拝み屋が体験した現世のこととも悪夢とも知れない恐るべき怪異。すべてのはじまりは20年以上前、ある日曜日の昼下がりに出会った一人の少女だった。その少女、14歳の桐島加奈江は果たして天使か怪物か、それとも……!? 訪れた災禍を前に恐れおののく一方で、必死に解決を図ろうとする拝み屋の衝撃実話怪談!
Amazon内容紹介より。

『壊れた母様の家<陰>』『壊れた母様の家<陽>』を読むには本作を読んでおいた方が良いとの意見がSNSで幾つか見られましたので、『花嫁の家』の再読と共に漸く読了しました。正直、今のところ別に読まなくても良かったのではないかと思っています。まあ取り敢えず先に進んでからその結果も書きたいと考えているところです。

さて本作は拝み屋郷内心瞳自身が体験した怪談であり、彼自身の物語でもあります。著者の心の中に棲み付く桐島加奈枝は果たして幻想なのか、実像を持った何かなのかが最初から最後まで延々と描かれています。郷内が様々なシチュエーションで加奈枝に救われたり、危険な目に遭わされたりと敵か味方かも判然としません。その中で彼は模索し煩悶します。こんな辛い目に遭いながら拝み屋など出来ないとまで思い詰めます。読者もそんな彼の心の揺らぎを嫌と言う程追体験することになります。箸休め的に他のサイドストーリーも少しは味わいたいものですが、それは叶いません。拝み屋の心の内を赤裸々に描いている為、読み手側も心理状態が不安定になりそうです。なかなか冷静ではいられない陰隠滅滅たる心境になりたい方にはお薦めしますが、気軽に読書を楽しみたい方には決してお薦めしません。


No.1994 6点 もののけ本所深川事件帖 オサキ つくもがみ、うじゃうじゃ
高橋由太
(2026/03/30 22:42登録)
『このミステリーがすごい! 』大賞シリーズ。大人気の妖狐オサキ・シリーズ最新刊。今回は主人公・周吉が奉公する古道具屋の鵙屋に棲む“つくもがみ"たちが、オサキと本所深川を大暴れします。辻斬り事件が相次ぐなか、鵙屋から妖刀がなくなる。店に棲む付喪神たちは、身の潔白を証明すべく下手人捜しに乗り出した…「絵猫」。親方に勘当された簪職人の鶏太は、簪を刀と交換していった。しかし簪が包んであった木綿は、付喪神の一反木綿で……「一反木綿」。ほか、オサキが家出する「唐傘小僧」、番頭の初恋「小桜」の全4話を収録。
Amazon内容紹介より。

オサキシリーズ第五弾。今回は趣向を変え短篇集となっています。まあしかしこの作者の描く文章は一定のリズムがあって非常に読み易いですね。時代小説なのにそれを全く感じさせません。ただ、周吉とオサキ以外のシリーズの顔ぶれがほとんど出て来ないのがやや不満ではあります。お琴すら全然です。

さてこの作品、意外とミステリに近い内容でありそれぞれテーマが違っていて、付喪神、もののけが主役という訳ではなく、飽くまで人間の心の深奥を突いたものになっています。『猫絵』は江戸の本所深川で起こる連続首切り事件。大袈裟に言えばフーダニット、ホワイダニットもの。『唐傘小僧』は最も長く中編に近い人情話+ホワイダニット。『小桜』は最後の二段オチに意表を突かれます。『一反木綿』はあの鬼太郎が乗った空飛ぶ木綿が登場。叙述トリックが意外性を演出しています。


No.1993 6点 大好きな人、死んでくれてありがとう
まさきとしか
(2026/03/28 22:40登録)
解散した男性アイドルグループの一員、南田蒼太が何者かに殺された。
北海道Y市の廃ホテルで、めった刺しの遺体で発見されたのだった。
メディアは騒ぎ立て、警察は地道な捜査を開始する。
事件当夜に南田と会った同じ職場のパート女性、グループの元メンバーたち、十代で孤児となった南田を引き取った伯母とその娘……。
誰もが昏い秘密を抱えるなか、驚愕のラストが待ち受ける傑作ミステリ。
Amazon内容紹介より。

本を選ぶって本当に難しいんだなあ。第一章を読み終えた段階では、何これ無茶苦茶面白いじゃんと思いました。第二章もそれなりの出来でこれは傑作かも?となりましたが、その後トーンダウンして行きあーあやっぱりこんなものかという感じに。章ごとに視点が変わり話は拡散していきます。頭を整理するのに若干時間がかかりました。殺された南田蒼太の関係者が絡み合い、イヤミスの様相を呈して、かなり異色なサスペンスと云った印象になり、どんどんミステリと離れて行ってしまいます。

帯の惹句「驚愕のラスト」とはどれを指しているのでしょうか。何かしらのどんでん返しがあると思ったら大間違いでした。そうした出版社の戦略に見事に嵌ってしまった私が悪かったのです。まあ面白かったとは言えますが、期待を超える事はありませんでした。もう少し構成を変えるなり見せ方を工夫すれば、もっと秀作になったかも知れませんね、残念でした。


No.1992 6点 死の絆 赤い博物館
大山誠一郎
(2026/03/25 22:54登録)
コミュ障でニコリともしない美貌の持ち主、犯罪資料館館長の緋色冴子警視。過去の事件の遺留品や証拠品、捜査資料の不審な点を鋭く見抜き、部下の寺田聡と共に再捜査に乗り出すが……。
著者渾身の力で紡がれた6篇をぜひ、ご堪能ください。

「普通の上司のようにあれこれ喋りかける必要がないので、気が楽」という聡と、訊き込みを強引に終わらせるクセが抜けない冴子の(息ぴったりの?)コンビは健在です!
Amazon内容紹介より。

如何にも玄人受けしそうな、凝ったパズラーの好編がラインナップ。
どれがと云うのではなく、どれも一定の水準をクリアしていて、しかも趣向を変えた作品ばかりで読者を飽きさせません。寺田聡と共に聞き込みに参加するようになったコミュ症の緋色冴子は相変わらずのクールぶりを発揮し、いかなる場面においても沈着冷静でスタンスを変えることはありません。これは一つの大きな武器でしょう。たまには焦る緋色、驚く緋色を見てみたいと望むのは私だけではないと思います。

そんなシーンが少しだけ見られるのが若き日の緋色冴子を描いた『春は紺色』ですね。ちょっとだけ意表を突かれています。それだけ意外だったんですよ。
人並由真さんが触れられている様に、あとがきが又ふるっていて楽しいです。其々の短編のジャンル分けに於いて、国内外の作品を引き合いに出して、タイトルをもじった元ネタを明かしたりしています。採点は厳しめですが、佳作揃いでトリッキーな作品集です。


No.1991 7点 スノウマンの葬列 真々部律香の推理断章
麻根重次
(2026/03/23 22:21登録)
「令和の御手洗潔、推参」(ただし、ややメンヘラ)――中山七里(作家)
(島田荘司氏のシリーズ名探偵)
異様な死体、密室殺人、謎の暗号……
女性探偵・真々部律香の〝推理無双〟!
Amazon内容紹介より。

第一話を読み終えた時はときめきました。この表題作は点数で言えば8~9点。この分で行くと本作はとんでもない傑作になるだろう。そして最終話の『初めては毒殺』が又素晴らしく、こちらは7~8点。しかし他の二話が私のあまり好きではないジャンルのアリバイと暗号を扱ったもので、内容はイマイチ。第四話に至っては何これ?って感じで、全くもって凡作と言わざるを得ない出来であります。

私は悩みました。果たしてこれを6点にして良いのかどうか・・・考えた末7点にしました。余りにも一話目と五話目が突出しているので、これだけでも読む価値ありだとの思いからの結論でした。
探偵の律香は躁うつ病を抱えながら苦悩するタイプの天才型で、確かに御手洗潔に似ている面もない訳ではありませんが、個人的にはあまり好感が持てませんでした。それよりも助手の達希の苦労に同情を禁じ得ません。他のキャラも含めてそれぞれ個性的で面白いので、この四人のメンバーでのシリーズ化も十分あり得ると思います。

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