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ミステリの祭典

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平均点:6.04点 書評数:1994件

プロフィール| 書評

No.1994 6点 もののけ本所深川事件帖 オサキ つくもがみ、うじゃうじゃ
高橋由太
(2026/03/30 22:42登録)
『このミステリーがすごい! 』大賞シリーズ。大人気の妖狐オサキ・シリーズ最新刊。今回は主人公・周吉が奉公する古道具屋の鵙屋に棲む“つくもがみ"たちが、オサキと本所深川を大暴れします。辻斬り事件が相次ぐなか、鵙屋から妖刀がなくなる。店に棲む付喪神たちは、身の潔白を証明すべく下手人捜しに乗り出した…「絵猫」。親方に勘当された簪職人の鶏太は、簪を刀と交換していった。しかし簪が包んであった木綿は、付喪神の一反木綿で……「一反木綿」。ほか、オサキが家出する「唐傘小僧」、番頭の初恋「小桜」の全4話を収録。
Amazon内容紹介より。

オサキシリーズ第五弾。今回は趣向を変え短篇集となっています。まあしかしこの作者の描く文章は一定のリズムがあって非常に読み易いですね。時代小説なのにそれを全く感じさせません。ただ、周吉とオサキ以外のシリーズの顔ぶれがほとんど出て来ないのがやや不満ではあります。お琴すら全然です。

さてこの作品、意外とミステリに近い内容でありそれぞれテーマが違っていて、付喪神、もののけが主役という訳ではなく、飽くまで人間の心の深奥を突いたものになっています。『猫絵』は江戸の本所深川で起こる連続首切り事件。大袈裟に言えばフーダニット、ホワイダニットもの。『唐傘小僧』は最も長く中編に近い人情話+ホワイダニット。『小桜』は最後の二段オチに意表を突かれます。『一反木綿』はあの鬼太郎が乗った空飛ぶ木綿が登場。叙述トリックが意外性を演出しています。


No.1993 6点 大好きな人、死んでくれてありがとう
まさきとしか
(2026/03/28 22:40登録)
解散した男性アイドルグループの一員、南田蒼太が何者かに殺された。
北海道Y市の廃ホテルで、めった刺しの遺体で発見されたのだった。
メディアは騒ぎ立て、警察は地道な捜査を開始する。
事件当夜に南田と会った同じ職場のパート女性、グループの元メンバーたち、十代で孤児となった南田を引き取った伯母とその娘……。
誰もが昏い秘密を抱えるなか、驚愕のラストが待ち受ける傑作ミステリ。
Amazon内容紹介より。

本を選ぶって本当に難しいんだなあ。第一章を読み終えた段階では、何これ無茶苦茶面白いじゃんと思いました。第二章もそれなりの出来でこれは傑作かも?となりましたが、その後トーンダウンして行きあーあやっぱりこんなものかという感じに。章ごとに視点が変わり話は拡散していきます。頭を整理するのに若干時間がかかりました。殺された南田蒼太の関係者が絡み合い、イヤミスの様相を呈して、かなり異色なサスペンスと云った印象になり、どんどんミステリと離れて行ってしまいます。

帯の惹句「驚愕のラスト」とはどれを指しているのでしょうか。何かしらのどんでん返しがあると思ったら大間違いでした。そうした出版社の戦略に見事に嵌ってしまった私が悪かったのです。まあ面白かったとは言えますが、期待を超える事はありませんでした。もう少し構成を変えるなり見せ方を工夫すれば、もっと秀作になったかも知れませんね、残念でした。


No.1992 6点 死の絆 赤い博物館
大山誠一郎
(2026/03/25 22:54登録)
コミュ障でニコリともしない美貌の持ち主、犯罪資料館館長の緋色冴子警視。過去の事件の遺留品や証拠品、捜査資料の不審な点を鋭く見抜き、部下の寺田聡と共に再捜査に乗り出すが……。
著者渾身の力で紡がれた6篇をぜひ、ご堪能ください。

「普通の上司のようにあれこれ喋りかける必要がないので、気が楽」という聡と、訊き込みを強引に終わらせるクセが抜けない冴子の(息ぴったりの?)コンビは健在です!
Amazon内容紹介より。

如何にも玄人受けしそうな、凝ったパズラーの好編がラインナップ。
どれがと云うのではなく、どれも一定の水準をクリアしていて、しかも趣向を変えた作品ばかりで読者を飽きさせません。寺田聡と共に聞き込みに参加するようになったコミュ症の緋色冴子は相変わらずのクールぶりを発揮し、いかなる場面においても沈着冷静でスタンスを変えることはありません。これは一つの大きな武器でしょう。たまには焦る緋色、驚く緋色を見てみたいと望むのは私だけではないと思います。

そんなシーンが少しだけ見られるのが若き日の緋色冴子を描いた『春は紺色』ですね。ちょっとだけ意表を突かれています。それだけ意外だったんですよ。
人並由真さんが触れられている様に、あとがきが又ふるっていて楽しいです。其々の短編のジャンル分けに於いて、国内外の作品を引き合いに出して、タイトルをもじった元ネタを明かしたりしています。採点は厳しめですが、佳作揃いでトリッキーな作品集です。


No.1991 7点 スノウマンの葬列 真々部律香の推理断章
麻根重次
(2026/03/23 22:21登録)
「令和の御手洗潔、推参」(ただし、ややメンヘラ)――中山七里(作家)
(島田荘司氏のシリーズ名探偵)
異様な死体、密室殺人、謎の暗号……
女性探偵・真々部律香の〝推理無双〟!
Amazon内容紹介より。

第一話を読み終えた時はときめきました。この表題作は点数で言えば8~9点。この分で行くと本作はとんでもない傑作になるだろう。そして最終話の『初めては毒殺』が又素晴らしく、こちらは7~8点。しかし他の二話が私のあまり好きではないジャンルのアリバイと暗号を扱ったもので、内容はイマイチ。第四話に至っては何これ?って感じで、全くもって凡作と言わざるを得ない出来であります。

私は悩みました。果たしてこれを6点にして良いのかどうか・・・考えた末7点にしました。余りにも一話目と五話目が突出しているので、これだけでも読む価値ありだとの思いからの結論でした。
探偵の律香は躁うつ病を抱えながら苦悩するタイプの天才型で、確かに御手洗潔に似ている面もない訳ではありませんが、個人的にはあまり好感が持てませんでした。それよりも助手の達希の苦労に同情を禁じ得ません。他のキャラも含めてそれぞれ個性的で面白いので、この四人のメンバーでのシリーズ化も十分あり得ると思います。


No.1990 7点 冷蔵庫婆の怪談
大島清昭
(2026/03/21 22:28登録)
地方に住む小学生の間でかつて流行していた“冷蔵庫婆(れいぞうこばばあ)”の怪談。それを模倣したような、連続児童殺害事件が発生する。被害者たちの遺体は異様な状態で冷蔵庫の中に遺棄されていた。民俗学のフィールドワークの手法を用いて怪談を執筆する作家・呻木叫子(うめききようこ)は警察から捜査協力を要請されるが……表題作のほか、大足様(おおあしさま)と呼ばれる神の祟りで、娘が二十五歳になると必ず自殺してしまう蘆野(あしの)家のおぞましい秘密に迫る「蘆野家の怪談」など、四編の本格ミステリ×怪異譚を収録する。
Amazon内容紹介より。

全体的にホラーと本格ミステリを上手く融合させています。
第一話『ハザコ男の怪談』と第二話『蘆野家の怪談』はどちらも非常に謎めいた怪異譚は魅力的で惹き付けられるものがありますが、解決編となるとかなり拍子抜けです。『ハザコ男』の首の切断の理由はありふれたものであり、しかも何故そこまで推理できるのかが読み手としては解りません。一方『蘆野家』の密室殺人は私でも想像出来た単純なトリックであまり感心しませんでした。

更に第三話の表題作に至っては謎だけばら撒いて、何も解決していないじゃんと業腹ものです。しかし、最終話『満月館の怪談』ですとんと腑に落ちる見事な真相を呻木叫子が開示し評価は大幅にアップしました。私としては成程と大きく肯かざるを得ない結果に。なかなかやりますな、結局怪談もミステリも楽しめて、一粒で二度美味しい作品集なのでした。


No.1989 5点 大サービス
評論・エッセイ
(2026/03/19 22:31登録)
ハラダ家はなぜビーチサンダルがふえるのか? ハラダはこだわる。ハラダはウンチクする。ささやかなこと、大事なこと、みんなまとめて大サービス。買って納得、読んで満足。気前のいいエッセイ。
Amazon内容紹介より。

CanCam始め様々な雑誌に掲載された、原田宗典のエッセイ集。
何が大サービスなのか判りませんが、イマイチ笑えません。こうした何かに特化したエッセイでない場合、読者に笑ってもらってなんぼだと私は考えますので、その意味では優れているとは言えません。例えば貰ったサボテンに名前まで付けて話しかけたりして可愛がっていたのに、結局腐らせてしまった話とか、4歳の娘がリップクリームを塗るまでの顛末など、心に残るものもありました。私の好きな映画監督、フランシス・コッポラの話もちょっとだけ出てきて嬉しかったのも事実。

だから、そうした当方の琴線に触れる話題がもっとあればなあと言うのが正直なところ。娘の話がもっと収録されていれば合格点だったと思いますが。しかし幼い子供の考える事は摩訶不思議で、美味しいのにカエルは食べないものはなあに?という娘の出したクイズにトイレで考え込む原田の姿は流石に笑えました。その答えは・・・まさに不条理の世界でした。
しかし、原田宗典と云う人は真面目なんだろうなと実感しました。一つひとつのエッセイに著者の実直さが透けて見えてしまってるんですよ。


No.1988 6点 MM9 destruction
山本弘
(2026/03/17 22:55登録)
地震、台風などと同じく自然災害の一種として“怪獣災害”が存在する現代。有数の怪獣大国である日本では、気象庁内に設置された怪獣対策のスペシャリスト集団“特異生物対策部”略して“気特対”が、日本を守るべく昼夜を問わず駆けまわっている。スカイツリーを襲った宇宙怪獣を辛くも撃破してから二日。一騎と亜紀子、そしてヒメは茨城県内のとある神社に護送された。そこで出会った美少女巫女・ひかるは、ヒメとの意外な関係を明かす。一方、日本近辺では透明怪獣が次々と出現。その裏には、地球侵略を企むチルゾギーニャ遊星人の恐るべき目論見があった。果たして一騎たちは、最強の宇宙怪獣を迎え撃てるのか? 本格SF+怪獣小説・『MM9』第3部!
Amazon内容紹介より。

うーん、しかしここのところの花粉で鼻がムズムズして集中できませんでした。
シリーズ三作目ですが、二作目を飛ばして読んだので、あちこちで疑問符が頭の中に浮かんでしまいました。序盤、宇宙論や量子力学、神話等どうでも良いから早く気特隊を出してくれと思いながら読んでいましたが、その肝心の気特隊は脇役で最後にちょっと活躍する程度です。主役は案野一騎(誰やねん)で、重要な役割を果たすヒメの事は一作目である程度知識があったので、何とかなりましたが。それにしても、間に何があったのかさっぱり分からず、全く違う話を読んでいる様な感覚が常に拭えずに終わってしまった感じでした。

SFとしてよりも怪獣小説として楽しめました。特に最後のクライマックスであある怪獣大決戦みたいな描写は迫力がありなかなかの読み応えでした。それにしても気特隊は仕方ないとしても自衛隊にはもう少し活躍して欲しかったですね。でもヒメを復活させるための作戦は成程と思いました。
いずれにしてもいつかはシリーズ第二弾を読まなければ気が収まらないと言うか、やはり飛ばして読んだのは失敗だったとかなり後悔しています。


No.1987 6点 水の迷宮
石持浅海
(2026/03/13 22:36登録)
三年前、不慮の死を遂げた片山の命日に事件は起きた。
首都圏の人気スポット・羽田国際環境水族館に届いた一通のメール。
そして、展示生物を狙った攻撃が始まった。姿なき犯人の意図は何か?
自衛策を講じる職員たちの努力を嘲笑うかのように、殺人事件が起きた!
――すべての謎が解き明かされたとき、胸を打つ感動があなたを襲う。
Amazon内容紹介より。

手堅い文章で描かれる、水族館を舞台にしたある長い一日の出来事。決して派手ではありませんが、謎が多くて興味深く読み進められます。プロットもよく考えられていると思います。しかし気になる点もあります。現実ではあり得ない、不審死を警察に通報せず内部で解決しようとする姿勢がまず問題ですね。他にも○○と●●との繋がりが有機的でなく、偶然に過ぎるなども何故?と思います。

本作では探偵役が不在かと思わせて、徐々にその姿を現すと云うパターンを取っています。細かい伏線を回収して推理される真相は見事で、素人探偵とはとても思えません。全体的に飽きさせず、面白く読めるのは間違いありません。感動できるシーンもありますが、何か一つ突き抜けているものに欠けるので、どうしても地味な印象が拭えません。ただ事件後も未来に向かって歩もうとする水族館の職員たちの姿勢に心動かされ、余韻の残るエンディングは忘れがたいものがありました。


No.1986 6点 をんごく
北沢陶
(2026/03/09 22:22登録)
大正時代末期、大阪船場。画家の壮一郎は、妻・倭子の死を受け入れられずにいた。
未練から巫女に降霊を頼んだがうまくいかず、「奥さんは普通の霊とは違う」と警告を受ける。
巫女の懸念は現実となり、壮一郎のもとに倭子が現われるが、その声や気配は歪なものであった。
倭子の霊について探る壮一郎は、顔のない存在「エリマキ」と出会う。
エリマキは死を自覚していない霊を喰って生きていると言い、
倭子の霊を狙うが、大勢の“何か”に阻まれてしまう。
壮一郎とエリマキは怪現象の謎を追ううち、忌まわしい事実に直面する――。
Amazon内容紹介より。

かなり評価の高い作品ですが、それ程でもありませんでした。第一幕で横溝正史ミステリ&ホラー大賞受賞として合格かなと思いました。しかし第二から第三幕ではあまり盛り上がらないし怖くない、ホラーと言うより文芸作品に近い感触で読みました。文章が上手いとか美しいとか言われていますが、特別優れているとは感じません。クライマックスの第四幕は結構面白かったですけど。

壮一郎は語り手だし、巫女はなかなか良い味出していたりしますが、何と言ってもこの小説を大きく支えているのは、人の姿をした人ならざる存在のエリマキによるところが大きく、物語の半分は彼の魅力でもっていると思います。
それにしてもこの賞、受賞作も最終選考に残った作品もホラーばかりでミステリの敷居がそれほど高いのかと疑わざるを得ません。まあミステリの新人賞は他に沢山あるので、そちらに流れているのだとは思いますけどね。
蛇足ですが、最後に掲載されているホラー大賞受賞作をよく見ると結構読んでいるなと、私はそれ程ホラーが好きなのかと思い知らされました。


No.1985 6点 百年文通
伴名練
(2026/03/07 22:34登録)
扉の向こうに、永遠を見つけた。
女子中学生の小櫛一琉は、引き出しに入れたものが百年前に送られる不思議な机を発見する。そうして机を通じて手紙を送ってきた大正時代の少女・日向静と文通をすることになるが、仲を深める二人の間に時代の荒波が立ちはだかる――ふたつの時を越えて描かれる感動作。
Amazon内容紹介より。

惜しむらくはその短さ。折角の好編なのに、あまりにも纏めすぎてちょっと窮屈な感じになっている気がしてやや残念です。まだページが残っていると思っていたら、あっさり終わってしまいました。その分あとがきが長い、そんなSF作品の紹介なんていらないからもう少し本編を読みたかったなと言うのが正直なところです。

最初は些細な――と言っても実際は大事件なのですが――事柄が次第に時代を揺るがす、スケールの大きなストーリーに発展していきます。SFファンには勿論、例えばラノベ読者なんかにも読んでいただきたい作品に仕上がっていると思います。しかし主人公の一琉の妹美頼の性格の悪さには嫌悪感を覚えますねえ。それにしても時折訪れる高揚感は何なのでしょう、見知らぬ少女同士の時代を超えたやり取りに心を揺さぶられる何かがあったのかも知れません。感動したというのとはちょっと違う感情ですが、自分でも上手く表現できません。


No.1984 6点 さよならダイノサウルス
ロバート・J・ソウヤー
(2026/03/05 22:49登録)
あの『イリーガル・エイリアン』の作者ですからね、期待しない訳にはいきません。が、期待通りとは言い難く、面白い部分とそうでもない部分がはっきりしています。大半を占める私ことブランディの説明文はな難解ではないものの、恐竜好きには堪らないのかも知れませんが、普通の知識しか持ち合わせていない私の様な読者にとっては、拍手を持って迎えられるほどではありませんでした。しかしこの小説の設定上、永く記憶に残りそうな気はします。

特異な物語(SFとしてはありがち)ながら、何故恐竜は滅んだのか、又恐竜はどうしてあれ程巨大になり得たのか、等の謎が問いかけられています。そしてそれを意外な形で答えを出しているのには成程と思わされました。
登場人物は極端に少なく、ほぼ二人に限定されていますが、私が密かに注目していたある人物の行く末が余りにも悲惨で想定外だったのが痛々しく、残念でなりません。もう少し露出度を上げて欲しかったですね。結構重要な人物だし、もっと活躍するかと思っていたのになあ。


No.1983 6点 幻影城の奇術師
吉村達也
(2026/03/02 22:11登録)
氷室想介の求愛を虚しく待ちつづけ、ついに彼のもとを去ったアシスタントの川井舞。
失意の彼女は国際的マジシャンとして活躍するノブ・オダと婚約した。
だが、その彼に突然浮上した22年前の一家惨殺事件の犯人疑惑。
しかも唯一の生き残りである女性カウンセラーが、ノブの訪問を受けた直後に変死体 で発見!
Amazon内容紹介より。

読み易く面白いけれど、ミステリ的強さメーターはやや弱目な感じですかね。
アメリカに本拠地を持つ希代のイリュージョニスト、22年前の惨劇、探偵と助手の恋、双子、怪しげな教団、謎めいたQAZの正体等、これでもかとガジェットを盛り込んだ本格ミステリです。普通に読めばそれなりの出来だとは思いますが、もう一歩突き抜けたものが無いのがちょっと物足りません。でもこの人の作品でこれだけグロいシーンがあるのは初めてかも。

しかし、シリーズ物としても単独でもかなり楽しめます。途中でもやし炒めのくだりが出てきた時は、おおこれかと思いましたね。そこだけはよく覚えていました、いやシリーズ第一弾の話です。私が読んだ限りでは平均点の多い吉村達也、今回もそれを上回る事なく終わってしまいました。
それにしても、氷室京介の最初の推理はどこから来るものだったのかと思ってしまう程、伏線が張られていません。結局推理ではなく推測だったのですが、あまりに唐突で何故そんなことが解るのと疑問に感じました。


No.1982 6点 ひとりかくれんぼ
TAKAKO
(2026/02/28 22:32登録)
真夜中、ちょっとした細工を施したぬいぐるみを相手に一人でかくれんぼをすると、何かが起こる?と言う都市伝説を実行した高校生達を襲う怪異とは。
読み始めてすぐに、ああこれはよくあるB級ホラーの典型的なやつだなと思いましたが、一味も二味も違いました。かなり本格的なホラー小説です。起承転結が確りしており、途中で『月刊ホラーミステリー』の編集者が登場する辺りから過去の事件との関連が見え始め、物語は大きく動き出します。

都市伝説と過去との因縁、意外な人間関係、ミステリ的仕掛けなど見どころが多く読み応えもあります。心理描写も良く出来ているし、それぞれのキャラも個性的であり、またリーダビリティも優れているのでノンストップで読むのも可能です。何より面白いのが一番ですね、怖さもそれなりでプロットもなかなかよく練り込まれた佳作だと思います。


No.1981 5点 その血は瞳に映らない
天祢涼
(2026/02/26 22:18登録)
正直に書きます。まぁ楽しめた、その通り採点は5点です。基本短編用の話を無理やり引き延ばして長編に仕立てた感じがします。そのせいか、同じような事柄を何度も繰り返したり、余計な描写が目立ったりします。しかもこの作者に関してこれまで感じたことの無い文章の拙さが読み難さを増長させている様に思いました。あくまで個人の感想ですので、本稿はあまり参考にしないで下さい。

登場人物は少なくないですが、中身が薄いと感じました。事件は至ってシンプルで最後までそこ一辺倒で押しまくり、ストーリーの広がりはありません。折角の逆転劇もあまり効果的とも劇的とも言えず、カタルシスは得られませんでした。Amazonの評価でも意見は割れているようですので、中には私の様なへそ曲がりな読者がいても可笑しくはないと思います。本作に関しては作者の実力が十分に発揮されているとは思いませんでした。


No.1980 7点 我孫子武丸犯人当て全集
我孫子武丸
(2026/02/23 22:35登録)
「犯人当て」とは、問題編と解決編に分かれた、「読者が犯人を当てるべく読む小説」。
“読み手がフェアに謎解きができるよう、
地の文に嘘があってはならず、手掛かりや論理の瑕疵も許されないーー”
新本格ミステリの名手・我孫子武丸が犯人当ての腕を磨いた、京都大学推理小説研究会の厳格な掟がそれだった。
犯人当ては、「必ず」論理的に謎が解けるようにつくられている!
問題編を読み、推理をしてから、解決編のページを開いてください。
Amazon内容紹介より。

作者自身の解説付きと言うのが親切ですね。星海社としては書下ろしを要望していたようですが、残念ながら作者の意向でそれは通らず。その代わりこれまでにアンソロジーで編まれた作品(一作以外)から、フーダニットに特化した短編を集めたものならという事で、本作品集が刊行された経緯があるようです。

アリバイを扱ったものが二作ありますが、個人的な好みから言うとこれらはいまひとつでした。しかし、他の三作品はいずれも秀逸の出来だと思います。特にお気に入りは『幼すぎる目撃者』です。我孫子武丸自身が偏愛するだけあって異色すぎる唯一のホワイダニットもの。凝りに凝ったというのとは違いますが、真相はかなり意表を突かれました。問題編もスマートでぜい肉をそぎ落とし、必要最低限のヒントで解けるように上手く出来ていると思いました。次点は『漂流者』。犯人当て以外に、記憶喪失に陥った「私」は誰かも問題として付随しており、同時に解ける快感を味わえそう。解けた人にはね。


No.1979 6点 小説王
早見和真
(2026/02/22 22:34登録)
大手出版社の文芸編集者・俊太郎と、華々しいデビューを飾ったものの鳴かず飛ばずの作家・豊隆は幼馴染みだった。いつか仕事を。そう約束したが、編集長の交代などで、企画すら具体的にならないまま時間だけが過ぎていく。やがて、俊太郎の所属する文芸誌は存続を危ぶまれ、豊隆は生活すら危うい状況に追い込まれる。そんな中、俊太郎は起死回生の一手を思いつく。三流編集者と売れない作家が、出版界にしかけた壮大なケンカの行方は!?
Amazon内容紹介より。

作家と編集者のそれぞれの立場から描かれた、出版業界の光と闇。更に大袈裟に言えばその裏舞台や内幕を暴くと云った内容の文芸作品であり、エンターテインメント小説であります。主役の二人は勿論、その他の登場人物がその人なりの役割をキッチリ果たしているところにこの作品の面白さがあります。又人間ドラマとしても相当出来の良い方だと思います。とにかく人間がよく描けていますね。

さして派手なな展開がある訳ではありませんが、作者の持つ文章力で自然に物語に惹き込まれました。人生色々あるものだなとつくづく感じさせます。いや、実際この人を見直しました。『イノセント・デイズ』では散々こき下ろしした私ですが、本作ではこんなのも書けるんだという感慨を抱きました。他の作品も読んでみようかと思わせるのに十分な力作でした。


No.1978 7点 キャンプをしたいだけなのに
山翠夏人
(2026/02/18 22:37登録)
無気力系【ソロキャンプ】女子 VS 殺人鬼【サイコパス】!
無気力系【ソロキャンプ】女子 VS 殺人鬼【サイコパス】!
怪異より恐ろしい夜が始まる時、無気力系女子が覚醒する、新感覚サバイバルホラー!
Amazon内容紹介より。

ホラーなのかサスペンスなのか、はたまたミステリなのか、なかなかジャンル分けの難しい作品です。無気力系と言うより心臓強すぎじゃないのと思わせる主人公、斉藤ナツは敢えて感情移入しづらいキャラに仕立てられています。こんな女いないだろうと云う位冷酷と言うか、メンタル最強の女子ですね。その彼女がソロキャンプを楽しみたいだけなのに、何故か二度も殺人鬼に遭遇しながら、知力と鉄の心で立ち向かいます。

本格ミステリ並みの伏線回収はお見事で、テンポ良く読めて後味も最高。これは一般読者にも広く受け入れられる良作だと思いました。登場人物は多くないけれど、それでもこれだけ人間の心理を揺さぶられる事に感銘を受けました。気軽に読めてちょっとした驚きと感動を体験したい人にお薦めです。


No.1977 5点 虎よ、虎よ!
アルフレッド・ベスター
(2026/02/16 22:07登録)
“ジョウント”と呼ばれるテレポーテイションにより、世界は大きく変貌した。一瞬のうちに、人びとが自由にどこへでも行けるようになったとき、それは富と窃盗、収奪と劫略、怖るべき惑星間戦争をもたらしたのだ! この物情騒然たる25世紀を背景として、顔に異様な虎の刺青をされた野生の男ガリヴァー・フォイルの、無限の時空をまたにかけた絢爛たる〈ヴォーガ〉復讐の物語が、ここに始まる……鬼才が放つ不朽の名作!
Amazon内容紹介より。

本サイトでの評価が高かったので読んでみましたが、正直期待通りとは行きませんでした。解説にある様な十年に一度の傑作とはとても思えません。私には合わなかったとしか言えないですね。「これだから素人は」という声があちらこちらから聞こえてきそうですねえ。そうです、私は本を読む事に関しては元々素人だと思っていますので、どうしようもありません。

本作はジョウントありきの作品なので、冒頭でジョウントが詳細に説明され、その時点ではかなり高得点が期待できると感じました。なかなか面白い発想だと思いました。その後もメインストーリーに関しては楽しめましたが、所々で説明不足で情景が浮かんできません。冗長だったのも気になるところ。ラストははっきり言って訳が分かりませんでしたね。残念な結果に終わりましたが、これはひとえに私の読解力の無さから来るものだと思いますので、この感想は気にせず他の方の書評を参考にされますようお願いします。


No.1976 6点 ゾンビ3.0
石川智健
(2026/02/14 22:23登録)
香月百合は新宿区戸山の予防感染研究所に休日出勤する。研究熱心で優秀な下村翔太や、医学博士で女性所員憧れの加瀬祐司も出勤していた。日曜なのに全所員の8%ほどの計40人が研究所にいるようだ。席に着いてWHOのサイトに接続すると、気になる報告があった。アフガニスタンやシリアなどの紛争地域で人が突然気絶し、1分前後経つと狂暴になって人を襲い始めるという。しばらくすると研究所内の大型テレビに、現実とは思えないニュース映像が映った。人が人を襲う暴動が日本各地で起こっているというのだ。いや、世界中で。WHOの報告と関係があるのだろうか。研究所は2メートルの塀で囲われているが、外が騒がしくなってきた。テレビ画面に向かって所員が呟いた。「これゾンビでしょ」。
Amazon内容紹介より。

まあ面白かったけれど、終盤までテレビ越しにゾンビが増殖しているのを目の当たりにしているのに、イマイチ切迫した空気が感じられなかったのが残念。それと最後まで、何故世界中で同時多発的にゾンビが現れたのかが描かれていなかったのも、スッキリしませんでした。しかし、終盤になってゾンビが出現した原因を突き止めていく過程は、目を瞠るものがあり、それまでと打って変わって生き生きとしてきます。
予防感染研究所の面々も、途中で参戦した現役警察官の一条やゾンビオタクの城田もそれぞれ個性的で良かったと思います。終盤ではゾンビと無関係の意外な展開が待っており、その意味でも楽しめます。





【ネタバレ】





結局そもそもの原因はモジホコリという粘菌であり、脳がないにも拘らず記憶能力を持っているというものだった訳ですが、これは実在します。読み終わってから気になって検索せずにはいられませんでした。興味のある方はググってみて下さい。尚コロナに関する記述はほんの僅かでした。同じ感染症と云う事でもっとスポットが当てられるかと思いましたけどね。まあゾンビとは関係ないから仕方ないでしょうか。


No.1975 7点 うたかたの娘
綿原芹
(2026/02/10 22:44登録)
道に佇む不気味な人物をきっかけにしてナンパに成功した「僕」。相手の女性と雑談をするうちに故郷の話になる。そこは若狭のとある港町で、奇妙な人魚伝説があるのだ。そのまま「僕」は高校時代を思い出し、並外れた美しさで目立っていた水嶋という女子生徒のことを語る。彼女はある日、秘密を「僕」に明かした。「私、人魚かもしれん」幼い頃に〈何か〉の血を飲んだことで、大病が治り、さらには顔の造りが美しく変化したのだと――。
Amazon内容紹介より。

第45回横溝正史ミステリ&ホラー大賞受賞作。
連作短編形式の長編小説で、大作ではないものの、読み応えは十分ありました。読後、これは綾辻行人のホラーに通じるものがあるなと思ったら、選考委員の一人である綾辻氏は本作を推していたと書いていて、ああやっぱりなと思いました。

四作の短編はそれぞれ少しずつテイストを変えていますが、特に人物像を鋭い刃物で抉る様に描いている点は共通しています。中でも男に関しては誰も彼もろくでなしばかりで、読んでいて男ってのは駄目だよなあと思わせられました。この作者はその他にも構成やストーリーの流れ、控えめながら時にハッとさせられるグロいシーンなどに見られる様に、天賦の才を与えらえた逸材なのではないかと思います。書けそうで書けない、誰にも真似できない自身の確固としたスタイルを貫いていて好感が持てました。ただし読んで気持ちの良いものではありません、逆に気持ち悪いのが癖になるのです。ホラーですから、これくらいで丁度良いのではないですかね。

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