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ミステリの祭典

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蜘蛛の牢より落つるもの

作家 原浩
出版日2023年09月
平均点6.50点
書評数4人

No.4 7点 メルカトル
(2025/08/06 22:25登録)
フリーライターの指谷は、オカルト系情報誌『月刊ダミアン』の依頼で21年前に起こった事件の調査記事を書くことに。
六河原村キャンプ場集団生き埋め死事件――キャンプ場に掘られた穴から複数の人間の死体が見つかったもので、集団自殺とされているが不可解な点が多い。
事件の数年後にダムが建設され、現場の村が今では水底に沈んでいるという状況や、村に伝わる「比丘尼」の逸話、そして事件の生き残りである少年の「知らない女性が穴を掘るよう指示した」という証言から、オカルト好きの間では「比丘尼の怨霊」によるものと囁かれ、伝説的な事件となっている。
事件関係者に話を聞くことになった指谷は、現地調査も兼ねて六河原ダム湖の近くでキャンプをすることに。テントの中で取材準備を進める指谷だが、夜が更けるにつれて湖のまわりには異様な気配が――
Amazon内容紹介より。

何と言っても序盤に提示される事件の不可解さ、奇妙さが際立っており、その後のストーリーを支える牽引力になっているのは間違いないと思います。なかなか全容を現さない割にはテンポ良く物語は進み、手を変え品を変え読者を飽きさせません。文章も上手くホラーとしても良く出来ています。

しかしながら本作は実はホラーの皮を被った本格ミステリなのだったというのは、最後まで読んでから判りました。一枚一枚薄皮を剥いでいくように真相が明かされる様は、そうだったのかという意外性を十分発揮していると思います。比丘尼を祓うシーンだけは余計だった気がしますが、ホラー要素として一応あったほうが良かったという作者の判断だったのでしょうから文句は言えませんね。面白かったですよ、いや本当に。

No.3 7点 非公認ゃん
(2025/07/22 19:21登録)
Xでホラーミステリのおすすめとして名前が挙がってたので。ホラーの皮を巻いた本格ミステリ仕様でした。
こういうのは着地の仕方がホラーかミステリかのみで評価が一転してしまう宿命があるので、上記は事前に知っておいた上で読む方がいいかと思います。

以下ややネタバレあり
過去に起こった集団生埋め事件が意味不明すぎてワクワクさせてくれます。普通に考えたら説明がつかないシチュエーションで、この事件についていろいろ想像を膨らませるターンが本作で一番楽しいところ。
事件関係者のインタビュー録音が提示される方式で進みますが、証言同士を突き合わせたら誰が嘘をついているかは割と簡単にわかってしまいます。
問題は嘘の割合が大きすぎることで、詳細は伏せますが話の持って行き方次第ではもう少しスマートな解答にできたんじゃないかとは思います。でもまぁあの動機を採用したんならこの真相しかないのかなぁと……事件関係者がもっと多くいたら気にならなかったかも。

一番の難点は探偵役にまったく魅力がないこと。
ワトソン役に対してやたら勿体ぶるがただ勿体ぶってるだけで結局なんの意味もない。
とある狂言に関しても目的に対して手段が大袈裟すぎる。無駄に怪我人まで出してるのになんかヘラヘラしてるのが腹立たしい。
遊び半分な態度がまさしく"人が死んでんねんで"というやつなんですがワトソン役はなぜ注意しないのか理解に苦しみます。
他作品にも登場してるらしいのですが読めば感情移入できるのかしら?

いろいろ書き連ねましたが当たり外れが大きいこのジャンルではかなりしっかり楽しめる仕上りです。前作「火喰鳥を、喰う」を読んでから触れればもっと楽しいかもしれません。

No.2 7点 文生
(2025/04/10 20:05登録)
関係者の口から語られる21年前の集団生き埋め事件が訳がわからなすぎてとにかく怖い。その事件を調べているうちに起こる現代の事件もかなりの不気味さです。このまま怪異ホラーとして突っ走っても十分に面白そうですが、最後は伏線を回収してミステリーとして着地します。これだけの怪現象を論理的に説明したのはなかなかに見事です。ホラーミステリーとして十分レベルの高い作品だといえます。ただ、謎解き自体にホラー描写ほどのインパクトはなく、前半と比べてパワーダウンの印象も。

No.1 5点 ぷちレコード
(2025/04/09 21:54登録)
渇水によってダム湖の底から姿を現わそうとしている村のキャンプ場では、かつて互いを埋め合って死に至らしめた不可解な集団生き埋め事件が発生した。事件関係者や旧村民たちは渇水と、あの時と同じ蜘蛛の大発生に、村に祀られていた比丘尼の祟り再びと恐れおののく。そんな中、奇妙な黒い影が出現し、新たな異常死が。
村人に惨殺された比丘尼の怨霊譚と、不条理な生き埋め殺人の謎を生理・心理的ディテールで忌まわしく肉付けしながら、人間が怪異を生み出すというテーゼで結びつけている。

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