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ミステリの祭典

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ぷちレコードさんの登録情報
平均点:6.24点 書評数:287件

プロフィール| 書評

No.287 5点 デッド・ディテクティブ
辻真先
(2025/08/17 21:14登録)
死後の世界へ向かう究極のトラベルミステリ。
フーダニットにしてハウダニット、さらに絶対に嘘がつけない、生前に見たものを再現させられるという状況下にもかかわらず、殺人事件の犯人が判明しないのはなぜなのか、というのが最大の読みどころ。
あの世のシステムを逆手に取って意表を突くところが作者らしく、見せ方の巧さに唸らされた。


No.286 6点 私が殺した少女
原尞
(2025/08/17 21:10登録)
天才ヴァイオリニストの少女の誘拐事件で、身代金の受け渡し役を依頼された沢崎が、事件解決のための調査を依頼されるところから事件は動き出す。舞台設定自体は、いわゆる正統派ハードボイルドである。
やがて悲惨な結末を迎える誘拐事件の真相、少女の死への引き金となったのは誰か。二転三転するサスペンスは読む者を飽きさせない。直木賞受賞作でもある。


No.285 8点 メルカトルと美袋のための殺人
麻耶雄嵩
(2025/08/05 21:33登録)
推理の腕は確かながら、性格が悪く自分の利益のためには他人を犠牲にすることなど、なんとも思っていない探偵メルカトル鮎の非情さと論理性を愉しめる短編集。
メルカトルの活躍を作家でありワトスン役の美袋三条が語る。幽霊や作中作が出てくるなど、趣向を凝らしているが基本は正統的な本格ミステリであり、見事なロジックとトリックが堪能できる。


No.284 7点 OUT
桐野夏生
(2025/08/05 21:29登録)
主婦たちの家族関係からくる鬱屈した気持ちと暗い情念が作品全体を覆っている。
一つの心の闇が引き起こした犯罪が次の犯罪を引き起こす。その闇が生まれた抑圧の背景をリアルに描かれいている。四人の女性が様々な事情から死体解体の作業に参加していくが、きっかけはほんのわずかなお金が必要だったため。
お金が人格を与える影響というのは、作者の作品全体に通底している。


No.283 7点 スクランブル
若竹七海
(2025/07/26 22:41登録)
一九八〇年の新国女子高を舞台に、六人の少女が関わる六話の短編集。
一話ごとに語り手と探偵役が交代するロンド形式で、さらには十五年後の現在と過去とが交互に描かれて、やがて物語冒頭に起きたまま解決されなかった殺人事件の真相に辿り着くという入り組んだ構造。
しかも一話ごとに殺人事件の推理も繰り広げては否定される。苦さと爽やかさが強い作者らしい青春ミステリ。


No.282 4点 すべてがFになる
森博嗣
(2025/07/26 22:35登録)
大学の工学部の助教授である犀川と教え子の萌絵が、徹底した理系思考で事件の謎を解明していく。
コンピュータ用語やバーチャルリアリティーに関する難解な用語が次々と飛び交い、理系ならではの想像を絶するトリックと結末が用意されている。しかし、犯人の動機が重要視されていないので、殺人の動機が弱いというか理解が出来ない。


No.281 5点 ボーダーライン
真保裕一
(2025/07/15 21:36登録)
主人公は、アメリカで日系企業の調査員として生きる日本人。日本人観光客の起こすトラブルの後始末が主な仕事だ。そんな彼が、ふとしたきっかけで邪悪な犯罪者と関わることになってしまった。また同時期に同棲相手が不可解な失踪を遂げ、仕事と私事の両方で困難な事態に直面しながら苦闘する羽目になる。
本場アメリカの作風を忠実に再現したような私立探偵小説でありながら、現代日本の抱える問題と真摯に向き合っている。


No.280 6点 チョコレートゲーム
岡嶋二人
(2025/07/15 21:32登録)
学校という密室の中で生徒同士の遊びが犯罪にエスカレートし、その結果一人の男子生徒が命を落とす。
この物語は死んだ生徒の父親が息子の死の真相を探るという構成をとり、父親の哀切な感情が痛いほど胸に響く。また崩壊した親子関係、学校が発端となった犯罪など現在の社会問題に鋭く切り込んでいる点から、作者の深い洞察力を窺い知ることが出来る。


No.279 6点 鋼鉄の騎士
藤田宜永
(2025/07/06 21:20登録)
舞台は一九三八年、ナチスの台頭できない臭い空気が漂い始めたヨーロッパ。
帝国陸軍フランス駐在武官千代延子爵の次男、義正は倦怠と憂鬱の日々を過ごしていた。ある日、懇意のフランス人男爵に連れられて見に行った自動車レースに感動し、自らレーサーたらんと決意する。周囲の反対を押し切った華族の身分を捨て、男爵所有の名車ブガッティを借り受けて修行に励むうちに、いつしか欧米列強のスパイ戦の渦中に巻き込まれていく。
若さゆえの直情径行が様々な波紋を引き起こし、彼はますます困難な立場に追い込まれるが、それでもレースへの出場をあきらめない。次々に襲いかかる試練を乗り越えながら、彼は次第に一人前の男に育っていく。陰湿なスパイ戦に翻弄されながらも夢を忘れない青年の心意気を描いており、後味の爽やかな冒険小説である。


No.278 5点 芝浜の天女 高座のホームズ
愛川晶
(2025/07/06 21:11登録)
落語家の故・八代目林家正蔵が実は名探偵でもあった、という設定のシリーズもの。
猫の失踪から始まる騒動を描く「白兵衛と黒兵衛」、過去を語らない妻への疑念のために苦しむ後輩落語家に正蔵が救いの手を差し伸べる「芝浜もう半分」の二編が収録されている。
作中では、いくつかの噺に言及されるが、それらは事件を構成する重要な部分にもなっている。作者の古典芸能に関する造詣の深さをうかがわせ、細部に至るまで構成に無駄がない。


No.277 6点 ブラッディ・ファミリー
深町秋生
(2025/06/27 22:40登録)
非合法な手段であろうと、とにかく関係者を操って真相への道を切り拓く黒滝警部補と彼の上司であり、正論を貫き通す相馬美貴警視を中心に据えたシリーズ第二弾。
監視係として警察内の問題を探る彼らが今回狙うのは、女性刑事を自死に追いやった不良警官だ。彼の父は、次期警察庁長官と目される大物。
全ての行為を適法化できる権力を相手にした黒崎と相馬の闘いが熱い。知力、体力、組織力、脅迫に銃弾、お互いに死力を尽くした暗闘に圧倒される。


No.276 5点 6
(2025/06/27 22:35登録)
怪談記事から読者投稿や独白、カルトの手引書、動画の配信記録まで様々な形態のテキストによって、なんとも不気味で据わりの悪い六つの怪の断章を語るのみならず、それらが組み合わさって、一つの大きなアンチ怪談的に異様で救いのないヴィジョンを描き出す。紙の本ならではのある仕掛けに驚かされる異色作。


No.275 5点 5
佐藤正午
(2025/06/18 22:05登録)
夫婦の関係に倦怠を感じる夫が、旅行先のバリでの奇妙な体験をきっかけに、妻へのかつての情熱を取り戻すところから物語は始まる。主人公の作家・津田は、その妻の浮気相手だったが彼女が変心し関係の清算を迫ったことから、彼の人生も不可解な方向に捻じれ始める。
超自然の現象が起き、愛について語られる本作だが、東京とその近郊を舞台にした風俗小説としての面白さもある。それにして印象に残るのは、津田の性悪なキャラクターだろう。


No.274 5点 エフェクトラ 紅門福助最厄の事件
霞流一
(2025/06/18 22:00登録)
忍神健一の役者生活四十周年記念セレモニーを無事に成功させるべく紅門福助を雇ったのだが、セレモニー準備中に雪で密室状態になった建物で殺人事件が起きてしまう。
謎また謎で幕を開けた本書は、死体に施された見立ての謎、そこに絡んでくる二十世紀末の事件などの謎を紅門福助が解く。ラストの三章を費やして、誰がいかにして何故やったかを、丁寧に解き明かす。しかもその謎解きで浮かび上がる真相は、常識を鮮やかに覆す。


No.273 5点 リベルタスの寓話
島田荘司
(2025/06/08 21:29登録)
本書は表題作を前編と後編に分け、間に中編を挟み込み、正義道徳による民族愛が卑しく転落する仕組みを浮き彫りにしていく。
周囲の民族紛争が主題となっているが、物語の根底を支えているのは、オンラインゲームで使用される仮想通貨を取引するリアルマネートレードである。仮想世界でも欲と合理性によって他人を利用するケースが発生し、現実世界に跳ね返っていく。人間を動物以下に扱う残虐性は、サイバー世界の進化とともに強まっていくのではないかという懸念を抱かざるを得ない。


No.272 5点 誰かが見ている
宮西真冬
(2025/06/08 21:25登録)
運命の糸に搦めとられた四人の女性の行く道が交わり、やがて思いもかけぬ綻びが露になっていく。
ちょっとしたことで誤作動を起こす心のメカニズムが描かれ、ニューロチックな展開を予感させるが、あくまで作者は悩めるヒロインたちの人生に寄り添おうとする。序章の違和感が一気に解消されるくだりの謎解きのカタルシスは感動的。男性中心社会における女性たちの生きづらさに焦点を当てたミステリ。


No.271 6点 プールの底に眠る
白河三兎
(2025/05/28 22:06登録)
高校最後の夏休みに裏山に出かけた僕は、そこで自殺しようとしていた美少女と出会う。死に場所へ導かれるイルカの話をしたところ、彼女は僕をイルカと呼び、僕は彼女をセミと名付けた。今、留置所の中にいる僕は、十三年前にセミと過ごした七日間を振り返る。
幼馴染で同級生の由利が絡んだ四角関係に悩まされ、彼女の頼みでおかしな野球対決に巻き込まれるなど、青く甘く面倒くさい学園ラブストーリーが次々に展開する一方で、なぜ今、彼は殺人容疑で檻の中にいるのか、という謎が最後で明らかになっていく。奇想めいた逸話が印象深く、散りばめられた細かい企みに驚かされるほか、心を痛める者たちの哀切さが響く小説である。


No.270 5点 ブラック・ローズ
新堂冬樹
(2025/05/28 21:56登録)
欺き、出し抜き、裏切り、寝返り、でっち上げなど、あらゆる手段を使った復讐劇。
舞台はテレビ業界。葉山孝史を死に追いやった仁科真一は、十年連続でドラマ視聴率トップを守り、ドラマ界の帝王と称されている。亡き父・孝史の無念を晴らそうとする女性プロデューサー梨田唯が仁科を追い詰めていく。
その過程で、テレビの内幕を目の当たりにすることになる。ストーリー性のある面白いドラマを書ける脚本家がいなくなり、ドラマ原作を映像化したものばかりになっている。大手芸能プロダクションの人気タレントを順番に主役にするキャスティングの生で、物語無視のドラマが氾濫している。「いまは嘘でも、最後に本当にすればいい」という唯の考え方、口八丁手八丁ぶりには、妙に感心させられてしまう。


No.269 6点 ばくうどの悪夢
澤村伊智
(2025/05/17 21:49登録)
人に害をなすゴーストハンターもので、敵は夢魔である。第一章から登場する語り手の僕は、小説家の父を持つ中学生。彼とクラスメイトが「夢で見たとおりに傷つけられている」被害に遭い、やがてクラスメイトの一人が命を落としてしまう。眠れば殺される悪夢を恐れる僕のため父は野崎夫妻の力を借りる。「見える」妻・真琴は僕に悪夢に対抗するための巾着袋を渡してくれるが。
物語の中盤で大きな転調を見せ、読み手の想像力を凌駕する意外な形でそれを投下する。サプライズと共に凶悪性増してくる。夢魔「ばくうど」の力をいかにして鎮めるかという未知なる命題は、知的好奇心を高ぶらせる。


No.268 5点 60%
柴田祐紀
(2025/05/17 21:40登録)
舞台は杜の都・仙台で、まずは粕谷一郎を始めとする暴力団・山戸会系田臥組の面々の紹介から始まるが、主役は若頭の柴崎純也。柴崎は、経済・金融に通じており、県警暴力団対策課の高峰岳を通じて後藤真一をスカウトし、マネーロンダリング専用の投資コンサルタンティング会社を立ち上げようとしていた。その社名が「あなたの資産を60%増へ」を謳った「60%」という次第。
扱うのは麻薬マネーで、柴崎たちは中国マフィアと組むことになるがやがて破局が。犯罪小説にはよくあるパターンで、闇の哲学で誘う柴崎のキャラにしてもとりわけ斬新というわけでもない。やり過ぎ感はあるが、終盤の捻りには唸らされた。

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