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ミステリの祭典

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一八八八切り裂きジャック

作家 服部まゆみ
出版日1996年05月
平均点8.00点
書評数4人

No.4 6点 メルカトル
(2016/06/25 22:23登録)
読んでも読んでも終わらない。文庫で770ページの大作、しかも文字が新聞のように細かいので、一般の文庫本なら軽く800ページは超えているだろう。だが、決して時間の無駄ではなかったとだけは言っておこう。
これだけ長尺なのだから、切り裂きジャックに関する考察や人物像の構築がふんだんに見られるのかといえば、そうでもない。ストーリーは主に主人公の柏木が霧のロンドンで体験する冒険譚を中心に進行し、切り裂きジャックによる犯行そのものにはあまり触れられていない。だが、当時の世相やかの地の生活ぶりなどが事細かに描かれており、なかなか面白い。さらにはエレファント・マンやバーナード・ショウ、森鴎外などなど実在の人物が多数登場し、その意味でも読みごたえがある。
印象深いのはエピローグで、芳しい文学の香りがそこはかとなく漂って、物語の締めくくりにふさわしいものになっていて好感が持てる。

No.3 10点 ボンボン
(2015/12/18 14:44登録)
史実とおびただしい数の実在の人物のプロフィールを、作者創作の主人公2人を動かすことで綴り合せて、1888年(と1923年)を目の前に出現させてしまう神業。スマホを片手に出てくるものを調べながら読み進めると、大筋どころか、細々としたことの一々が綿密に調べられた資料を見事に活かして書かれていることが分かり驚かされた。
ヴィクトリア朝の霧のロンドンの世界観を楽しむも良し、誰も彼もが疑わしい中から真犯人を追うも良し、制限時間を横目に疾走するサスペンスにドキドキするも良し。
また、鬱々グズグズのモラトリアム青年の、目が覚めるような成長物語としても、心潤う読みごたえがあった。

そして、(多少のネタバレになるのかな?真犯人とは直接関係ない話だけど・・)
第1部の小説と第2部の日記、プロローグとエピローグを含めた構成自体が、全編を通して語られる裏テーマである「物語のすばらしさ」にも関わってくるのだが、最後の最後に繰り出される柏木の名言「だって君・・・小説とはそういうものだろう?」には、ひっくり返った。
そもそもが100年以上前の「実在」の未解決事件を基にした「物語」なのに、その中で「日記」を下敷きに「小説」を書き、さらにそこから抜け出して、前述の台詞を言うのだから、まさに迷宮、すべてはロンドンの霧の中となる。これは、私の中で一、二を争う名台詞となった。

No.2 8点 蟷螂の斧
(2012/02/24 20:22登録)
医学留学生から見た1888年のロンドンの様子や雰囲気がうまく描かれています。一般ミステリーとは趣が異なった小説であり、福翁自伝(諭吉氏がアメリカの異文化に驚いている様子)を思い出させるような雰囲気です。実際に起こった事件(未解決)なので大胆なトリックなどはありませんが、ある有名人物を上手に絡ませている点や、また犯人に仕掛ける罠など評価できると思います。大変な力作であることは間違いないのですが、ただちょっと長かったなあ・・・との印象です。(格調の高さに+1)

No.1 8点 kanamori
(2010/03/17 21:42登録)
切り裂きジャック事件を題材にした歴史ミステリ大作・・・と書くと類似先行作品がいくつも頭に浮かびますが、これが決定版といっていい傑作だと思いました。
スコットランドヤードに派遣中の日本人青年と英国留学中の日本人医学生(これがホームズ&ワトソン役)が切り裂きジャックの正体を追うというのが、もちろん本筋なんですが、細部がいいです。
ビクトリア朝文化や実在人物の造形がいきいきと描かれています。エドワード殿下やヴァージニア・ウルフ、エレファント・マン!まで登場しています。この時代の英国に詳しければ、より楽しめたと思います。
探偵役の鷹原と柏木のコンビもいい味だしてます。締めのセリフがしゃれてました。
しかし、あの人をジャックにしていいのか!とは思いましたが。

「だって君・・・小説とはそういうものだろう」

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