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ミステリの祭典

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平均点:5.89点 書評数:2462件

プロフィール| 書評

No.2462 5点 意外な犯人 犯人当て小説傑作選
アンソロジー(国内編集者)
(2026/04/03 12:16登録)
創元推理文庫版の「犯人当て小説傑作選」シリーズ最終の第3巻です。
シリーズ各巻は発表年代順に作品が収録されており、本巻は新本格ムーヴメント以降に発表された近年の作品が対象になっていますが、正当な犯人当てミステリがあまりなくて、変化球ばかりでバカミス風の物や、ショートショート、パロディ作品などが目立つ残念なセレクトになっています。序文で編集者が”犯人当て小説の奔放な広がり”と書いていますが、何か言い訳じみた感じさえ受けます。犯人当て小説の系譜をたどることを意図したアンソロジーならば、「傑作選」なるタイトルはピント外れな気がします。

そういった中で、比較的良かった下記の3作品を寸評しておきます。
標題作の綾辻行人「意外な犯人」は、いかにも新本格らしい犯人当てミステリで、新本格を象徴する2つのガシェット”クローズド・サークル(社会性の排除)”と”徐述トリック”を体現した作品です。
白井智之「「少女」殺人事件」は、ノックスの十戒を消去法推理のネタにするという、バカミスながらも発想が面白くて作者らしい作品。
最後の北山猛邦「竜殺しの勲章」は、第二次大戦時のナチス・ドイツに侵攻されたフィンランドが舞台の物語性豊かな作品。ハウダニットが主軸ながらも、意外な犯人を設定した良作です。ちなみに、もともと本作が収録されていたアンソロジー「推理の時間です」(講談社)は、佳作揃いの作品集です。


No.2461 6点 ハウスメイド2 死を招く秘密
フリーダ・マクファデン
(2026/04/01 11:44登録)
前作の「ハウスメイド」の事件から4年経っていて、ミリーは、車中泊から狭いアパート住まいになるも、相変わらずの金欠状態です。
”妻に酷い仕打ちをしている男を懲らしめるハウスメイドがいるらしい”
そのような評判が密かに流れているなか、ミリーは、大会社のCEO・ダグラスのペントハウスのハウスメイドの職を得るも、何故か妻のウェンディは部屋に閉じ籠ったままで、すすり泣きや、流血の痕跡を見掛けることになるが………。

やはりヒットした作品のパート2になると、期待値が上がり、どうしても物足りなく感じてしまうのはやむを得ないところでしょうか。全体の3分の2を占める第一部の展開がゆったりで、サスペンスが乏しく感じてしまう。
登場人物が限られており、どんでん返しを狙うとすれば……というようなメタ読みをすれば、ある程度は裏の構図を察することが出来てしまう。それでも、最終盤に出て来るある人物の行動は意外性があり、面白く読めました。


No.2460 6点 サプライズ・エンディングス 罠
ジェフリー・ディーヴァー
(2026/03/27 09:12登録)
4作品収録されている中篇集。本国では出版されておらず、電子版でバラ売りされている作品を日本で独自に編集したものです。タイトルは編集部ではなく作者自身が命名したようですが、”驚愕の結末”というより”意外な展開”を楽しむ感じのスタンスで読んだ方がいいと思います。

最初の「完全犯罪計画」は、リンカーン・ライムが登場する幕間劇の様なもので、FBIのフレッド・デルレイから得たライム暗殺計画という不穏な情報をもとに、お馴染みのライム・ファミリーがタウンハウスに勢揃いするファン・サービス的な作品です。シリーズの某新作長編のプロモーション版らしい。
「魔の交差点」は、色々な思惑を持った面識のない七人の男女が、犯罪多発地域にある街のコンビニで交錯する群像劇の様な作品。狙いは面白いが、登場人物が多すぎてちょと混乱する面がある。
「麗しきヴェローナ」は、暗黒街が舞台でギャング版の”ロミオとジュリエット”風の物語が、”意外な展開”を見せる、編中では最も好みの作品です。
最後の「どんでん返し」は、やや後半の展開が予想しやすいかな。この中では凡作と言えよう。


No.2459 5点 新学期にだけ見える星座
似鳥鶏
(2026/03/24 09:12登録)
学園ミステリ「市立高校」シリーズの8作目。前作の「家庭用事件」が2016年の作品なので10年ぶりで、随分久しぶりの刊行です。(→追記、これは誤りなので訂正、未読ですが2021年に「卒業したら教室で」という作品が出ていました)

一応の主人公である葉山君が三年生になり美術部の部長になっていて、男女二人の新入生がレギュラーキャラクターとして加わっています。最初のうちは、この美術部の後輩二人のプロフィール紹介が続くので、てっきり、そのひとり中内修太郎と幼馴染みの岩境ひなを主人公として進行していくのかと思っていたら違いました。大学生になっている伊神先輩を含め、誰が探偵役になるのかが不明のまま各編が進行します。

第1章の「日常的な非日常」は、華道部の密室状況の控え部室で、備え付けの壺が壊された事件の犯人捜しで、これがなかなかの難物で、一応の解決があった後に、真相が三転四転と転がる転がる多重解決ものです。密室のハウより動機がポイントでしょうか。続く2章と4章は、葉山君が何故か卒業生の伊神先輩に呼び出されて、ともに不可能犯罪的な日常の謎に関わる話で、全然学園ミステリではないw
三章が、男子バスケ部の部室を巡るトラブルを謎解く話。霊感というか予知能力がある後輩の岩境ひなが目立つ話で、真相はシリアスで、シリーズとしては異色作です。


No.2458 6点 華に影 令嬢は帝都に謎を追う
永井紗耶子
(2026/03/21 18:11登録)
明治39年の帝都東京。千武男爵家の令嬢・斗輝子は、書生の影森怜司を供に、政府重鎮の黒塚伯爵邸で行われた夜会に当主である祖父の名代として出席した。ところが夜会の最中に黒塚伯爵が何者かに毒殺されてしまう。不当な疑いをかけられた千武家の名誉のため、斗輝子と怜司は、事件の真相を調べ始める………。

2014年の初刊なので、割りと作者の初期の作品を改稿・改題して、2021年に二葉文庫から再販された作品です。
気高く勝ち気な令嬢と不遜ながらイケメンな書生のコンビは、最初のうちは関係性がラブコメの少女漫画やライトノベルのような感じを受けましたが、終盤に差し掛かるとかなり印象が変わります。
謎解きミステリとしては、事件の関係者を訪ね調査を進めるうちに、おぼろげに裏の構図は見えては来るものの、最後の最後に明かされる真相は予想を超えるものです。華族制度と、こういった時代であればこそのトリックと言えるでしょう。作中にしばしば出てくる「婦道の鑑」と言う言葉がポイントと言えるかもしれません。それと「華に影」とは、ある華族の行く末を考えれば、なるほどねーのタイトルで、改題は正解だと思います。


No.2457 5点 濱地健三郎の奇かる事件簿
有栖川有栖
(2026/03/19 12:02登録)
心霊現象を専門にする探偵・濱地健三郎の事件簿の4作目です。
レギュラーキャラクターの助手の志摩ユリエは、霊視が出来るようになって来て、今作から立ち位置が心霊探偵の弟子に格上げされている感じ。
収録7編のうち、2つが捜査一課の赤波江刑事が持ち込んだ殺人事件絡みで「目撃証言」がまずまず。次の2つがユリエの恋人・進藤からの日常の謎風のネタで、心霊写真もの「観覧席の祖父」がまずまずですが、いずれもホラーと言うにはユルい内容です。
残る3編はいずれも正規の依頼人がいる案件で、うち最終話の「怪奇にして危険な状態」が最も力のはいった作品です。怪異現象が強烈で、読み応えがある。正直なところ、これ以外の作品はホラーとしてもミステリとしても物足りないとしか言いようがなかった。


No.2456 6点 暗殺者の奪還
マーク・グリーニー
(2026/03/13 09:12登録)
ジェントリーは、ロシア国内に捕らわれている元ロシアSVR(対外情報局)の女性将校で恋人のゾーヤを救出すべく、東欧諸国で死闘を繰り広げていた。ゾーヤの監禁先が某矯正収容所であることを知った彼は、反ロシア政府派の人脈を頼り、ロシア潜入の行動を開始する。

”暗殺者グレイマン”こと、元CIA特殊工作員コート・ジェントリーを主人公にした冒険活劇シリーズの14作目です。
今作は冒険小説のタイプでいうと”敵地潜入もの”ということになります。
冷戦時代ならお馴染みなスパイ冒険ものの定番ですが、ソ連崩壊を契機に、すっかり書かれなくなったタイプの小説ですが、プーチンのおかげで悪の帝国が復活したということでしょうかw
しかし、内容的には反ロシア政府組織の協力や、CIA時代の元上司ハンリーの後方支援、特殊工作班時代の同僚ザック・ハイタワーの協力もあって、ジェントリーの単独行動ではなく、軍事作戦の中にグレイマンが組み込まれている様なプロットは個人的にはやや不満があります。
最近、グリーニーは軍事オタク作家トム・クランシーと共著で「米露開戦」などの軍事シミレーション小説にも手を出しているので、それが影響しているのではないかと思います。


No.2455 5点 じゃあ、これは殺人ってことで
東川篤哉
(2026/03/09 14:03登録)
烏賊川市を舞台にした5編収録の連作短編集。私立探偵・鵜飼杜夫や、砂川警部&志木刑事などのレギュラー・キャラクターのほか、準レギュラーを含めてお馴染みのメンバーが登場する、脱力系のギャグを交えたユーモア・ミステリです。鯉ケ窪学園探偵部シリーズと並んで、初期の頃から書いてきたシリーズなので作品の出来に安定感を感じます。

表題作の「じゃあ、これは殺人ってことで」は、密室殺人を扱った探偵小説のパロディで、倒叙形式なのがブリテンの「ディクソン・カーを読んだ男」を連想させますが、皮肉な結末が良い。
最初の「李下に冠を正せ」は、ブドウ園を舞台に、河川敷に遺棄された死体をめぐるホワイダニットが面白い作品。
「博士とロボットの密室」も倒叙形式ですが、文字どおり”困難は分解せよ”のハウとともに、犯人自身が密室を逆手に取られる結末が印象的。
「深夜プラス犬(ワン)」は、本来は陳腐な、”替え玉を使ったアリバイ工作”に、ある工夫を凝らしている点が良い。
その他は、ゆるキャラ探偵マイカや、大家の朱美さんが登場する”人間消失”ものなどで、そこそこ楽しめる作品集でした。


No.2454 7点 パパイラスの舟
評論・エッセイ
(2026/03/06 09:12登録)
著者の小鷹信光(1936年ー2015年)に対する一般的な認識は、ハードボイルド原理主義者とか、テレビドラマ「探偵物語」(主演の松田優作がアドリブでテレビ越しに小鷹に語りかけたエピソードが有名)の原案者ということになるかと思いますが、ミステリ分野で結構広範囲の業績が有ります。
「ハードボイル小説を中心としたミステリ評論家」が一般的ですが、小説家であり、翻訳家、アメリカの短編を中心としたアンソロジスト、ペイパーバックのヘビィな収集家でもあります。とくに、ビブリオグラファー(書誌学者)としての側面が多く見れるのが本書です。
本作は、1970年から早川の「ミステリマガジン」に同タイトルで連載されたエッセイをまとめて、1975年に出した単行本を50年ぶりに文庫化したものです。(著者没後10周年ということもあるのでしょう)

海外ミステリという未知の大海を、海図も無い自由気ままに漂う航海は、軽い語り口ながらも、ディープな内容に溢れていて、読み終えるのに時間を要しましたが、多くの示唆に富むものでした。
やはりハードボイルド御三家への言及が多いですが、途中チャンドラーの「プレイバック」の項で、例の「優しくなければ……」を小鷹がダメ出しする所で、大昔に図書館で借りて読んでいたことを思い出しました。ハードボイルド派では、御三家の次世代のスピレイン、ブレット・ハリデイの言及が多いが、まだ翻訳がほとんど出ていなかった、クェンティンのダルース夫妻シリーズを詳しく言及しているが印象的だった。
ひとつ留意すべき点は、本作が書かれた70年代は、インターネットが無い時代ということです。それはネットでなく紙(パパイラス)を相手ということで、作家や作品に関する資料を集める作業が現代とはケタ違いに大変なことだったと想像出来ます。「幻影城」の編集長でもあった島崎博氏のエピソードが書かれていますが、書誌学的な話も面白いです。

巻末に、小山正氏の解説と読書ガイドが掲載されていますが、初出から50年経っているので、資料としては大幅なアップデートが必要な訳なので、その気の遠くなるような捕遺の作業の大変さが分かります。この功績も大きい。
因みに、小山氏のパートナーは若竹七海女史ですが、葉村晶シリーズの中の「店長」が巻末に載せる作中のビブリオ・ネタの解説とは大変さはだいぶ違いますw


No.2453 7点 悪党たちのシチュー
ロス・トーマス
(2026/03/04 09:12登録)
落ちぶれていた辣腕ジャーナリストのシトロンは、くせ者政治屋のヘールに雇われる。現政権の大きな弱みともなるスキャンダル情報を入手すべく、協力を求められたのだった。勇躍、中米の軍事国家ヘと調査に向かったシトロンは、隠蔽されていた同国での過去の不祥事の内実を探りにかかるが…………。
あらゆる面白さをごった煮(シチュー)にし、思わぬ展開と粋な対話で編み上げた、騙りと企みのタペストリー。(裏表紙の内容紹介から)

新潮文庫の「海外名作発掘シリーズ」では3冊目となるロス・トーマスのクライム・ノベル。書かれたのが、エドガー賞を受賞した「女刑事の死」のひとつ前ということで、自然と期待が高まるというものです。
ダブル主人公の一方の政治屋へールが、次期州知事に決まっている人物を、大統領候補にすべく動いている序盤の展開だと、また「ポーク・チョッパー悪徳選挙屋」(立風書房)や「狂った宴」と同タイプの選挙ネタかと思いましたが少し違った。怪しげで個性的な人物が次々と登場する、全く先が読めない展開に振り回されます。特に三人の女性の存在感が際立ちます。マイアミの大富豪で麻薬王の娘ヴェルヴィータ、次期知事の妻でへールの愛人でもあるルイーズ、そしてシトロンの母親で伝説的ジャーナリストのグラディスが強烈。
しかし、300ぺージが過ぎても、上のあらすじ紹介にあるような状況がいっこうに出てこないw 途中でへールが言うように「全て、なにかしらで繋がっている」謀略小説の様相になって行き、終盤は怒涛の展開に雪崩れ込みます。
なお、原題のMissionary Stew(宣教師のシチュー)は、この小説の冒頭のエピソードで、シトロンがアフリカ某独裁国家の刑務所内で食べた物のことでしょうか。


No.2452 7点 迷宮
マイクル・コナリー
(2026/02/28 09:12登録)
ハワイ出身で趣味が早朝のサーフィンという、ロス市警の女性刑事レネイ・バラードを主人公とする、警察小説シリーズの第6作。2作目の「素晴らしき世界」からは、ハリー・ボッシュ(ずいぶん前に市警を退職している)がサポートするダブル主人公のような形になっています。
初登場の「レイトショー」でのバラードは、懲罰人事でハリウッド署に飛ばされ、深夜勤務の平刑事でしたが、今作ではコールド・ケースを担当する未解決事件班のチーフになっています。とはいっても市の予算削減の影響下で、正規職員はおらず、スタッフはボランティアばかりという貧弱なチームでした。そこに、市警の巡査になっていたボッシュの娘マデリン(マディ)が加わることになります。
一方、父親のボッシュはどうしているかと、バラードが連絡をとってみると、Netflixで「リンカーン弁護士」シリーズを一気見しているヒマ老人をしていました。コナリーは意外と遊び心というか、読者サービス的な小ネタを時々放り込んでくるので面白いです。過去作では、ロス市警つながりでコロンボ・ネタだったり、ロスの私立探偵エルヴィス・コール(ロバート・クレイス作品の主人公)をカメオ出演させていたりします。今作は2024年の作品で、ドジャース・ネタが散見される。17番のレプリカ・ユニフォームを着た怪しげな故買屋が登場したりしますw

さて、本編は、バラードがサーフィン中に車上荒しにあって警察バッジと拳銃を盗まれる事件から始まります。
このシリーズは、いつも複数の事件の捜査が並行して進行するモジュラー形式が多いので、読んでいて混乱する事もあります。さらに本作は三つの事件が絡んでいますので、下記に整理してメモっておきます。

①バラードのバッジ盗難犯をボッシュと探す過程で、テロ・グループの襲撃計画にぶつかるエピソード
②別件のDNA鑑定から20年前の連続レイプ犯の手掛かりを追い、「DNAパズル」を解く未解決事件班の本来の仕事
③マデリンが偶然手に入れた写真ファイルから、あの「ブラック・ダリア」事件の真犯人に迫る捜査
特に③の、ロサンゼルスの犯罪史上最も有名な、1947年に起きた未解決事件「ブラック・ダリア」ことエリザベス・ショート惨殺事件が興味深かった。
今作でボッシュ・サーガとしては、ますます拡がっていますが、加齢と病魔を抱えるボッシュに精彩がないのが気になった。今後はマディ・ボッシュが中心になっていくのだろうか。


No.2451 6点 怪盗ニック全仕事(6)
エドワード・D・ホック
(2026/02/26 09:12登録)
価値のない物(あるいは奇妙なもの)を専門に盗みを請け負う「怪盗ニック」こと、ニック・ヴェルヴェットの冒険&探偵譚の全87作品を6巻で収めた全集の最終巻です。
本作には、74作目から最後の87作目までの14作品(うち8作品が初訳)が収録されています。
さすがに、目新しい趣向のものは特になく、過去作に類似したプロットの作品も目立ちます。ひとつ取り上げるとすれば、ニックと恋人グロリアの出会いのエピソードでもある「グロリアの赤いコートを盗め」になります。グロリア視点で語られる上に、彼女自ら推理する点などが面白いです。最終作になった「仲間外れのダチョウを盗め」は、トラブルにあったサンドラ・パリスを助けてコンビで活動する話で、最終話と言っても特別な趣向が有るわけではありません。

あと、巻末に全作品の書誌データが載っているのは嬉しい。本国EQMMに1966年に掲載された第1作「斑の虎を盗め」から2007年の最終作までで、つまり40年以上に渡って書き継がれている。改めてすごいです。ほとんどがEQMM初出ですが、初期には「マイク・シェーン・ミステリマガジン」に載ったものもありました。
一方、日本での翻訳出版状況を見ると、1976年のポケミス「怪盗ニック登場」(小鷹信光・編訳)を発端として、早川から出した独自編集の4冊が先駈けになるようです。

最後に、無理やり個人的ベスト3を挙げておきます。
①「プールの水を盗め」(1巻収録)ハウダニット&ホワイダニットともに秀逸。
②「何も盗むな」(2巻収録)ホワイが魅力的。
③「レオポルド警部のバッジを盗め」(5巻収録)ホックの2大キャラクターの共演作です。


No.2450 6点 横丁の名探偵 犯人当て小説傑作選
アンソロジー(国内編集者)
(2026/02/24 09:11登録)
創元推理文庫版「犯人当て小説傑作選」の2巻目。今巻は昭和後期から平成初頭あたりに発表された作品から精選されたもので、前巻と比べて分量がある作品が多いので、読み応えがあります。特徴としては、消去法推理や、秘密の暴露などのオーソドックスなものは少なく、いわゆる仕掛けものが多い印象があります。
他のアンソロジーや個人短編集で読んだ覚えがある作品が少なからずありますが、内容を憶えていないので全く問題はありませんw 収録7編のうち、気に入った5編を下記に書いておきます。

表題作の仁木悦子「横丁の名探偵」は、長屋のご隠居が、八っつぁんや熊さんを前にして、掛軸の盗難事件を、安楽椅子探偵で謎解きする愉しい作品です。
泡坂妻夫「ダイヤル7」は、元刑事が講演で話す昔の事件が問題編になる構成で、平凡なアリバイ崩しものが、ラストで大仕掛けが炸裂する作品です。蛇足として明かされる小ネタは、鮎哲の某犯人当て短編のオマージュでしょうか。
今邑彩「時鐘館の殺人」は、作中作である下宿屋仕様の舘で起きた殺人事件の謎解きが終わったあとに、読者への挑戦ではなく、読者から作者に対する挑戦状があるのが面白い。
中西智明「ひとりじゃ死ねない」は、あの長編「消失!」の作者と言うことから方向性は推察出来るが、あざといばかりの騙りが賛否が分かれそうです。
巽昌章「埋もれた悪意」は、読者の先入観や思い込みを利用したミスディレクションが冴えた傑作と言えよう。とてもアマチュア時代に書いたものとは思えない。
最後の二人は、犯人当てパズラー創作の「虎の穴」こと、京都大学ミス研出身で、収録作品は在学時に書いたもののようです。


No.2449 5点 新・黄色い部屋 犯人当て小説傑作選
アンソロジー(国内編集者)
(2026/02/22 09:52登録)
全三巻になる「犯人当て小説傑作選」の一巻目です。各巻の収録作はだいたい年代順になっていて、本作は昭和30年代から50年代のものが中心です。昭和55年に文藝春秋社から出たアンソロジー「ホシは誰だ!」と重複する作品が多い印象があります。
目玉作品は高木彬光「妖婦の宿」かもしれませんが、さすがにこれは、今さら感がありますね。
表題作の陳舜臣「新・黄色い部屋」は、軽妙な語り口の中に手掛かりを紛れ込ませた手筋はいいですが、これはネタが判りやすいかな。
あと、江戸川乱歩、坂口安吾、土屋隆夫、笹沢左保、佐野洋とビックネームが揃い、全10作品ですが、ほとんどが推理クイズなみの短い作品なので物足りない。それと、こういう企画には欠かせないと思われる鮎川哲也が抜けているのは、どうしたことか。「達也が嗤う」あたりを採っても良かったのでは。


No.2448 7点 花束は毒
織守きょうや
(2026/02/20 09:23登録)
「二度読み必至」とか、「世界が二度反転する」(反転二回だと元に戻るw)とか、出版社としては読者の注目を得るために、様々なキャッチコピーを考える訳ですけど、本作も「100パーセント騙される!」と帯で過激に煽っていて、必然的に、いわゆる「メタ読み」に誘導されそうになりますが、普通に読むほうが楽しめるのは間違いない。
脅迫状めいた手紙の出し主を探すフーダニットの要素がありますが、基本的にはサスペンス小説です。個人的に作中で一番感心した点は、その脅迫状を巡るカラクリではあります。
主要登場人物が限られているので、メタ読みして真相の一歩手前まではたどり着く読者は多そうですが、ただそれだと中盤の4年前の事件の関係者を尋ね歩き、事実関係を調査する数章は退屈に感じる人もいるのでは。でも、さすがに最後の最後には驚きました。
父親が検事で祖父は判事と言う家系の法学部学生で、正義感が強い善性の主人公が、最後に選んだのは「女か虎か」、それを読者に委ねるエンディングが印象的です。


No.2447 5点 若旦那は名探偵 七不思議なのに八つある
田中啓文
(2026/02/18 09:22登録)
大阪の大店の道楽息子・伊太郎は、放蕩が過ぎて父親から勘当されかかる。やむなく江戸に上がって、岡っ引きの伴次の家に転がり込んだ。暇つぶしに伴次の御用に付いてまわり、意外なことに、名探偵ぶりを発揮することに。
時代小説(捕物帖)では、ありそうでなかった倒徐形式の謎解きもの?で、刑事コロンボのフォーマットをわりと忠実に守っているのは好感が持てます。
第1話の、歌舞伎役者の座長殺しでは、犯人の犯行に至る経緯や、犯行シーンを結構丹念に書き込んでいます。伊太郎の洞察力や、犯人との心理戦も面白いです。それは第2話もほぼ同様です。
最終話の表題作になると少し趣向を変えて、遊び人らしい粋な解法が印象的です。
伴次の嫁と居候の伊太郎とのやり取りなど、作者のユーモアのセンスには好みの別れる所がありそうですが、そこそこ楽しめた作品でした。


No.2446 5点 話すどくろの謎
ロバート・アーサー
(2026/02/16 09:13登録)
ジュピター少年は、骨董品の競売会場で旅芸人グレート・ガリバーの遺した、古いトランクを1ドルで手に入れた。トランクの中には、奇術の小道具らしい「話すどくろ」と、ある囚人からガリバーに宛てた封筒が入っているだけだったが、そのトランクを目当てに、ジュピターの周りで複数の怪しげな人物が跋扈することにーー

ジュブナイル・ミステリ、カリフォルニア少年探偵団シリーズの第1作です。1987年に翻訳出版された本書を始めとして同時期にシリーズが10巻近く刊行されていたことに驚きました。
本作は、端的にいうと「隠された財宝探し」テーマのスリラーです。ロサンゼルス近郊にある、ジュピターのオジが経営する古物再生商会のトレイラーハウスを探偵本部にして、ジュピターをリーダーとする三人組の少年たちの探偵活動を描いたものです。
奇術師や、占い師のジプシーの老婆、街のギャングなどが絡んできて、児童書としては比較的複雑な人間関係になっています。シリーズのお約束なのか、事件が解決後に、探偵団の顧問のミステリ作家セバスチャンが出て来て、事件の総括をしながら、トリックの解説をしているのが、今大人が読むと、蛇足すぎて可笑しい。


No.2445 5点 白雪姫と五枚の絵 ぎんなみ商店街の事件簿2
井上真偽
(2026/02/14 09:36登録)
下町風の商店街を舞台に、人気焼き鳥店の三姉妹と、父子家庭の木暮家の四兄弟が、それぞれ別々に謎解きをしながら共演する連作短編集です。
シリーズ第1作である前作は、シスター編とブラザー編の二分冊で、同じ事件を二つのグループが裏表で推理進行させるという変則的な多重推理ものでユニークでしたが、今作は一冊で章ごとに主役チームが変わる構成になっています。
かつての青果店の看板娘で、商店街の白雪姫と言われていたが現在は認知症で入院中の八百谷雪子が今回の謎解き騒動の一応の中心人物です。雪子が持っていた童話やお伽噺をモチーフにした五枚の「見立て絵」の隠しメッセージの謎解きが本筋の物語になります。
まず読んでいてストレスを感じるのは、小学生から社会人までいる探偵役の二つのチームの兄弟姉妹のひとりが、ころころ交代して別の語り手なって進行することです。さすがに主役級の人物が7人もいると、感情移入することが難しいです。「見立て絵」に関する解釈も飛躍があり納得が行くものではなかった。


No.2444 6点 怪盗セイントの金庫やぶり
レスリイ・チャータリス
(2026/02/13 20:57登録)
頭の上に後光をもった人物の線画を、名刺代わりに残して犯行現場を去って行く、聖者(セイント)こと、義賊サイモン・テンプラーの活躍を描いた3編を収録する短編集。各務三郎の編訳で、子供向けにリライトされたものです。
セイントは、いちおう「義賊」と言うことになっていますが、場合によっては名探偵であり、マフィア相手の殺戮マシーンになったリで、作者のプロットに合わせて、人物設定を変えている感じがあります。本書の収録作では、コンゲーム風のものもあり、難事を抱えている女性に対するお助けマン的な役回りになっているものが多い。
個々の作品は下記の通りです。
最初の「かくされた遺産」は、セイントが、旧知の女性の遺産相続トラブルをトリックを使って解決しょうとしたところ、瓢箪から駒の事態が起こるコメディタッチの話です。
表題作の「怪盗セイントの金庫やぶり」は、パリのカフェで出会った英国女性を助けて、戦争成金の屋敷から発明品の設計図を盗み出す話。冒頭の新聞記事が見事な伏線になっている。
最後の「名優セイント」は、元俳優の詐欺師から金をだまし盗られた女性からの依頼で、詐欺師を逆に騙すコンゲーム風の話。詐欺師の演劇学校に潜り込んだセイントの名演技はともかく、最後のオチはまさに喜劇です。


No.2443 6点 名探偵のままでいて
小西マサテル
(2026/02/12 09:18登録)
幻視を伴う認知症を患っている元校長が、小学校教師である孫娘が持ち込む様々な事件の謎を解く、安楽椅子探偵ものの連作短編集です。このタイプの連作ミステリの不文律に則り、探偵役の名前は出てきません。(過去に同じような事を何回も書いてきた気がする)、でも昭和の噺家名人のように、住んでいる街の名前を通称にして「碑文谷さん」と呼ばれていたりもします。二年ぶりぐらいの再読ですが、今回のほうが楽しめた気がします。
探偵役の老人が、早稲田大学のミステリクラブに在籍時に瀬戸川猛資氏の後輩だったような設定で、(今70歳代の前半みたいだから、同じワセミス出身の著名人だと、北村薫や折原一あたりと同世代になるのかな)
今でもミステリマニアの現役で、内容的にも古い翻訳ミステリの話題が多くビブリオ・ミステリ風の作品もあります。居酒屋の密室や、プールからの人間消失などの正当な本格ものよりも、翻訳ミステリを小道具に使った「まぼろしの女」がお気に入りです。
シリアスとユーモアが混じった愉しい作品なので、TVドラマにしてもいいのでは。あっ、肝心のあの探偵役の決め台詞がダメか。近年のテレビは喫煙シーンがNGだから難しいですね。

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