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ミステリの祭典

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kanamoriさんの登録情報
平均点:5.89点 書評数:2447件

プロフィール| 書評

No.2447 5点 若旦那は名探偵 七不思議なのに八つある
田中啓文
(2026/02/18 09:22登録)
大阪の大店の道楽息子・伊太郎は、放蕩が過ぎて勘当されかかる。やむなく江戸に上がって、岡っ引きの伴次の家に転がり込んだ。暇つぶしに伴次の御用に付いてまわり、意外なことに、名探偵ぶりを発揮することに。
時代小説(捕物帖)では、ありそうでなかった倒徐形式の謎解きもの?で、刑事コロンボのフォーマットをわりと忠実に守っているのは好感が持てます。
第1話の、歌舞伎役者の座長殺しでは、犯人の犯行に至る経緯や、犯行シーンを結構丹念に書き込んでいます。伊太郎の洞察力や、犯人との心理戦も面白いです。それは第2話も同じです。
最終話の表題作になると少し趣向を変えて、遊び人らしい粋な解法が印象的です。
伴次の嫁と居候の伊太郎とのやり取りなど、作者のユーモアのセンスには好みの別れる所がありそうですが、そこそこ楽しめた作品でした。


No.2446 5点 話すどくろの謎
ロバート・アーサー
(2026/02/16 09:13登録)
ジュピター少年は、骨董品の競売会場で旅芸人グレート・ガリバーの遺した、古いトランクを1ドルで手に入れた。トランクの中には、奇術の小道具らしい「話すどくろ」と、ある囚人からガリバーに宛てた封筒が入っているだけだったが、そのトランクを目当てに、ジュピターの周りで複数の怪しげな人物が跋扈することにーー

ジュブナイル・ミステリ、カリフォルニア少年探偵団シリーズの第1作です。1987年に翻訳出版された本書を始めとして同時期にシリーズが10巻近く刊行されていたことに驚きました。
本作は、端的にいうと「隠された財宝探し」テーマのスリラーです。ロサンゼルス近郊にある、ジュピターのオジが経営する古物再生商会のトレイラーハウスを探偵本部にして、ジュピターをリーダーとする三人組の少年たちの探偵活動を描いたものです。
奇術師や、占い師のジプシーの老婆、街のギャングなどが絡んできて、児童書としては比較的複雑な人間関係になっています。シリーズのお約束なのか、事件が解決後に、探偵団の顧問のミステリ作家セバスチャンが出て来て、事件の総括をしながら、トリックの解説をしているのが、蛇足すぎて可笑しい。


No.2445 5点 白雪姫と五枚の絵 ぎんなみ商店街の事件簿2
井上真偽
(2026/02/14 09:36登録)
下町風の商店街を舞台に、人気焼き鳥店の三姉妹と、父子家庭の木暮家の四兄弟が、それぞれ別々に謎解きをしながら共演する連作短編集です。
シリーズ第1作である前作は、シスター編とブラザー編の二分冊で、同じ事件を二つのグループが裏表で推理進行させるという変則的な多重推理ものでユニークでしたが、今作は一冊で章ごとに主役チームが変わる構成になっています。
かつての青果店の看板娘で、商店街の白雪姫と言われていたが現在は認知症で入院中の八百谷雪子が今回の謎解き騒動の一応の中心人物です。雪子が持っていた童話やお伽噺をモチーフにした五枚の「見立て絵」の隠しメッセージの謎解きが本筋の物語になります。
まず読んでいてストレスを感じるのは、小学生から社会人までいる探偵役の二つのチームの兄弟姉妹のひとりが、ころころ交代して別の語り手なって進行することです。さすがに主役級の人物が7人もいると、感情移入することが難しいです。「見立て絵」に関する解釈も飛躍があり納得が行くものではなかった。


No.2444 6点 怪盗セイントの金庫やぶり
レスリイ・チャータリス
(2026/02/13 20:57登録)
頭のまわりに後光をもった人物の線画をサイン代わりに残して、犯行現場を去って行く、聖者(セイント)こと、義賊サイモン・テンプラーの活躍を描いた3編を収録する短編集。各務三郎の編訳で、子供向けにリライトされたものです。
セイントは、いちおう「義賊」と言うことになっていますが、場合によっては名探偵であり、マフィア相手の殺戮マシーンになったリで、作者のプロットに合わせて、人物設定を変えている感じがあります。本書の収録作では、コンゲーム風のものもあり、難事を抱えている女性に対するお助けマン的な役回りになっているものが多い。
個々の作品は下記の通りです。


No.2443 6点 名探偵のままでいて
小西マサテル
(2026/02/12 09:18登録)
幻視を伴う認知症を患っている元校長が、小学校教師である孫娘が持ち込む様々な事件の謎を解く、安楽椅子探偵ものの連作短編集です。このタイプの連作ミステリの不文律に則り、探偵役の名前は出てきません。(過去に同じような事を何回も書いてきた気がする)、でも昭和の噺家名人のように、住んでいる街の名前を通称にして「碑文谷さん」と呼ばれていたりもします。二年ぶりぐらいの再読ですが、今回のほうが楽しめた気がします。
探偵役の老人が、早稲田大学のミステリクラブに在籍時に瀬戸川猛資氏の後輩だったような設定で、(今70歳代の前半みたいだから、同じワセミス出身の著名人だと、北村薫や折原一あたりと同世代になるのかな)
今でもミステリマニアの現役で、内容的にも古い翻訳ミステリの話題が多くビブリオ・ミステリ風の作品もあります。居酒屋の密室や、プールからの人間消失などの正当な本格ものよりも、翻訳ミステリを小道具に使った「まぼろしの女」がお気に入りです。
シリアスとユーモアが混じった愉しい作品なので、TVドラマにしてもいいのでは。あっ、肝心のあの探偵役の決め台詞がダメか。近年のテレビは喫煙シーンがNGだから難しいですね。


No.2442 7点 もつれ星は最果ての夢を見る
市川憂人
(2026/02/10 09:08登録)
エンジニアの零司は、会社の上司から要請され、第39回の宇宙開発コンペに出場することになった。地球から十光年離れた未開の地球タイプの惑星に降り立った零司は、コンペ参加者の銃殺死体を発見することになる。宇宙船制御AIのディセンバーの知識を使いながら、調査を進めようとするも、何故かコンペ運営本部との通信が不能になってしまう。
宇宙という「広すぎるクローズドサークル」を舞台にした連続殺人ーー「ハードSF✕本格ミステリ」です。

本格的に物語が始まる前に、現代物理学の二つの柱である相対性理論と量子力学について簡単な言及があります。前者のウラシマ効果や、後者のシュレディンガーの猫、神のサイコロ遊び、量子もつれ等々で、ハードSFの雰囲気だけは味わうことが出来ますw 量子もつれについては、後々タイトルにも繋がるキイワードだったことが分かる。

ディセンバーが自律思考が出来るAIであることが明らかになってからは、零司とAIのバディものの捜査小説のようになります。謎ディナの毒舌執事を思わせるディセンバーが面白いです。
アシモフ「鋼鉄都市」の刑事とロボットのバディものの発展形ともいえますが、ロボット工学三原則のような規制はなく、自律思考が可能というのがキモといえます。
あとは、いつ自由の女神像が出てくるのかの興味で、チンタラ読んでいていたら、終盤にはいる直前に、それを超える驚天動地の事態が待っていました。これは凄いです。
ミステリ要素のフー・ハウ・ホワイもいいですが、やはりハードSF要素が一番の読ませどころだと思います。


No.2441 6点 うたかた 吉原面番所手控
戸田義長
(2026/02/08 09:44登録)
現(うつつ)は泡沫(うたかた)の夢

長年、吉原の面番所に詰めていた同心の木島が体調不良のため出仕が叶わなくなり、見習い同心の湯田が代わって勤めることになった。ところが、遊廓で不可解な事件が相次いで発生する。「困った事態があれば、夕顔に頼れ」と木島から聞いていた湯田は、花魁の夕顔に事件を持ち込む。
面番所手控シリーズの2作目。前作の内容からは、続編はないだろうと思われましたが、今作では夕顔がまだ健在な過去に戻っていて、再び密室殺人や人間消失などの不可能犯罪の連打に対峙することになります。今回は花魁・夕顔による安楽椅子探偵ものと言う趣向。
遊廓独自の文化・風習を伏線・トリックに結びつけるなど、まあ異世界のロジックとまでは言えないかも知れないが、作品舞台を上手く活かしている点は評価できます。
なお、本作には連作ミステリによくある仕掛けがありますが、前作そのものがミスディレクションとも言えるので、そちらを先に読んでいたほうが、より楽しめるのではないかと思います。


No.2440 6点 吉原面番所手控
戸田義長
(2026/02/07 09:17登録)
大遊廓・吉原の治安を担当する面番所に、40年勤め上げた元同心の木島が、かつて遊廓で遭遇した幾つかの難事件を、死の床で語りはじめる。いずれも木島の手柄とされていたが、謎を解いたのは、実は花魁の夕顔だった。

東京創元社出身の時代ミステリ作家三人衆と言えば、伊吹亞門、羽生飛鳥、戸田義長となるのでしょう。(前の二人は実在した人物を主人公としたものが多いので時代ミステリと言うより、歴史ミステリになるのかな)、戸田は今のところ文庫オリジナルの出版が大半なためなのか、あまり評判を聞かないような気がする。
作風は正に「本格ミステリ✕時代小説」で、不可能犯罪(密室モノが多し)やダイイングメッセージなどコテコテのトリッキーなものが多い連作短編集です。なかにはコラコラ!と、つっこみが入りそうな作品もありましたが、本作は一人の少女(禿)が遊女から花魁まで登っていく人生を縦糸としているので、物語性もあります。時代小説と本格ミステリが、うまく融合しているように思います。


No.2439 6点 アンジェリック
ギヨーム・ミュッソ
(2026/02/04 09:25登録)
心臓の病で入院中の元刑事タイユフェールがシューベルトの音色で目を覚ますと、病室にはチェロを演奏する見知らぬ少女が立って居るという、なんともシュールなシーンから始まる本作は、いかにもフランスミステリらしいエスプリの利いた作品です、一気に物語に引きこまれます。
その17才の医学生ルイーズの用件は、アパルトルマン6階の自宅から母親が転落死した真相を洗い直して欲しいというものです。おお、これは退職刑事によるベットディテクティヴかと思いましたが、実際はこのコンビによる実地の探偵活動が、始まります。
本作の構成が変わっているのは、同じアパルトルマンの上の階に住んでいた画家の男が同時期に亡くなっているという情報を探偵コンビが得た段階で、物語が中断し、第二部で別の人物の視点で、墜落事件の真相や別の犯罪が語られていくのです。
第三部で再びコンビの探偵活動に戻りますが、読者にとっては、既に知らされている事実を読まされることになるわけで、その辺は工夫が必要だったかなと思います。第三部には一応別のサプライズが、用意されてはいますが。
いずれにしても、なかなか面白い作品で、年末ランキングなどであまり取り上げられていなかったのが不思議です。本当は深く突っ込んで評したい点もありますが、管理人さんが「ネタバレは禁止していない」と宣言しているとはいえ、実態はやや違うので、クレームがあってもすぐ抹消出来るよう、下記に、それに関わるフレーズだけ書いておきます。
と言う訳で以下はネタばらしです。


①まるで天使のようなアンジェリックは反語?
②パトリシア・ハイスミスの某作とは、「なりすまし」テーマのプロットは勿論のこと、共に主人公の名前がタイトルになっている(邦題)点など、共通点がある。


No.2438 7点 群狼
C・J・ボックス
(2026/02/01 09:39登録)
ワイオミング州の猟区管理官ジョー・ピケットを主人公とした冒険スリラー、シリーズ新刊の19作目です。
2004年に講談社文庫から出た第1作「沈黙の森」(本国2001年発表)から始まり、2020年に創元推理文庫に移籍して通算13作目の「発火点」に至る。出版社を変えながら、四半世紀近くに渡って翻訳出版されている人気シリーズです。
本国では25作目まで出ている様なので、ほぼ年1作のペースで書かれているという計算になる。
シリーズが長く読まれているのは、次の三つの柱(テーマ)を融合・組み合わせながら目先を変え、毎回魅力的なエンターテイメントに仕上げているからでしょう。

①ワイオミングの大自然を背景にした冒険小説の味わい。
②邪悪な人物・集団を相手にした謀略系スリラーの味わい。
③妻メアリーベスと三人の娘との交わりを描く家族小説の味わい。最近は三姉妹の成長小説の要素が強い。

さて、前置きが長くなりましたが、本作「群狼」のことを少し書いておきます。
端的に言えば、本作はほぼ上記②のテーマのスリラーです。
ジョーの盟友で、重要なサブキャラクターである、不穏な過去を持つ鷹匠ネイト(凄腕のお助けマン)が、いつも通りの活躍をします。
狩猟のルール違反をしている人物の捜査から、ジョーが行き着いた謎めいた家族の存在、そして、その件とは別に、男女四人組の凶悪な暗殺者チームの暗躍がカットバックのように進行する。
ジリジリした展開で、「いったい何が起こっているのか」風の物語は、シリーズ初読の読者には付いていくのが少し難しい面もありますが、終盤に一気に隠されていた構図が判明する瞬間はインパクトがあり、最近の作品の中では秀作だと思います。
ついでに、読んだ範囲で、シリーズのベスト3を挙げておきます。まずは今月復刊予定の記念すべき第一作「沈黙の森」、中期の傑作「狼の領域」、創元推理文庫版での第一作で、冒険小説の傑作とも言える「発火点」の3冊です。


No.2437 6点 まぼろしの女 蛇目の佐吉捕り物帖
織守きょうや
(2026/01/29 09:16登録)
「相生町の親分」と慕われていた亡父の跡を継いだばかりの、駆け出しの岡っ引き佐吉が、知りあいの町医者・秋高の知恵を借りて、5つの難事件に対峙する連作短編集。
あまり捕物帖とは縁がなさそうな作家だと思いつつ読んでいましたが、伝統的な人情ものの捕り物帳の味を出しながら、謎解き部分もしっかりした作品集でした。
帯でアピールされているように「本格ミステリ✕捕物帖」で、なかなかトリッキィな作品もあります。
各篇のタイトルが、表題作はじめ「三つの早桶」「消えた花婿」「夜、歩く」「弔いを終えて」と、ディクソン・カーやクリスティなどの海外古典ミステリのオマージュになっているのも愉しい。
収録作のなかでは、やはり表題作の「まぼろしの女」がベストかな。大川に傷だらけの死体であがった女の身元が何故か判らない話、現代なら割りとありがちなネタながら、江戸時代なら意外性を発揮出来る。伏線も丁寧な良作です。
謎解きが終わって、はいこれで終わり、とはせず各篇とも余韻があるのが良い。


No.2436 6点 虎口
フェリックス・フランシス
(2026/01/26 14:25登録)
新・競馬シリーズが本作で8作目だそうな。いつの間にそんなに書かれていたのかと、少し驚きました。
主人公(探偵役)が競馬に関して門外漢なため、競馬のシステムをはじめ、裏方や調教師の日常の仕事内容と厩舎の様々な事情をこと細かく説明されていく、その序盤の展開は冗長と感じるところもありました。
もっとも、競馬そのものが好きで競馬シリーズを読み続けているという読者は、多分そう多くなく、主人公の不屈の精神なり苦難や障害を乗り越えていく過程のスリラー部分が魅力的だから、旧競馬シリーズが40年以上読まれ続けて来たのでしょう。
本作は、そういった要素は意外と少なく、放火と殺人事件を巡るフーダニット&ホワイダニットの謎解きがメインです。さらに事件の裏にある闇の部分は、父ディック・フランシスなら恐らく書かないであろう、まさに「現代ミステリ」的要素です。前作「覚悟」は旧シリーズの人気キャラクターを引き継いだものだったので、あまり感じませんでしたが、今作はフェリックスの個性が現れているように思います。

二世作家と言えば、ジョン・ル・カレの息子ニック・ハーカウェイがジョージ・スマイリーの復活作を書いているし、次はジョー・ヒルが「ミザリー」の続編でも書くのかなw


No.2435 6点 刹那の夏
七河迦南
(2026/01/24 15:07登録)
いちおうノンシリーズの短編集。5篇収録されている。
「七海学園」シリーズとのリンク(共通する登場人物がいるらしい)との評を見かけましたが、そのシリーズを読んだのはずいぶん前で内容を覚えていないし、本書のあとに出たシリーズの最新作も読んでいないので、その件は全く分かりません。
表題作の長めの作品「刹那の夏」が、不満点もあるが、編中の個人的ベスト。都会から田舎の港町に移住した少年の甘酸っぱく淡い青春物語の美しさに魅了される。ところが一転後半になると、とんでもない展開の本格ミステリに変調した。あまりの強引さや、死体の扱いには前半の雰囲気も台無しにしているようにも感じた。謎解き部分にのみ焦点を当てた読み方をすれば気にならないのかもしれないが。
「魔法のエプロン」は叙述の技巧が冴えた好篇。タイトルがなんとも。
残りの作品も含めて全体的に暗い雰囲気の作品が多いので、読者を選ぶ作品集と言えるかもしれない。あと、これは作者の趣味なのか、言葉遊び(アナグラムや回文)が頻繁に出てくるのは、個人的には煩わしさしか感じなかった。


No.2434 6点 六つ首村
折原一
(2026/01/21 16:51登録)
簡単に言えばタイトル通りの作品です。(簡単すぎて何の説明にもなっていない)

詳しくは的確に評されているメルカトルさんの書評をどうぞ、

部屋に引きこもったままの屋敷の当主、天井裏を徘徊する男、文字どおりの覆面作家、謎の通り魔など、折原ワールドではお馴染みの怪しげな人々が、30年前に大惨劇が起きた北関東の村に集結する。終盤の再現ドラマもそうですが、作者の過去作のガシェットが全部盛りです。好意的に言えば集大成のような作品です。
白兼家を巡る人物の関係が複雑過ぎて整理が大変。500ぺージを越える大作を読み終えるまで、頭のなかで、とっちらかったままだった、人物相関図が必要かも。(あ、それを載せるとネタばらしになるのか)


No.2433 7点 ハウスメイド
フリーダ・マクファデン
(2026/01/21 14:21登録)
裕福な家庭にハウスメイドとして雇われた女性が、やがてその家庭の秘密を知ることになり、ある事件に巻き込まれる、という粗筋紹介を読んで、年配者の大半の人が想起するのは、はいそうです、松本清張原案の昭和のテレビドラマ「家政婦は見た!」(市原悦子主演のほう)と言うことになるでしょう。
しかし実際読むと、かなり異なる。
まず主役の造形で、本作のミリーは前科はあるも美人の若い女性、市原悦子とは大きく違いますw 見た目だけではなく、最終的な立ち位置があんな風になる訳ですから。
ありがちなストーリーで、ある程度は先が読めるものの、やはり最後の処理には驚かされた。
これは読まれている理由がよく分かる、エンタメ小説の会心作でした。


No.2432 6点 我輩はカモじゃない
スチュアート・カミンスキー
(2026/01/17 18:16登録)
私立探偵トビー・ピータース・シリーズの3作目。
トビーは主にハリウッド映画界で、スターが巻き込まれた厄介ごとを解決する、探偵と言うより、トラブル・シューターです。
シリーズの特徴は、40年代に実在した有名人を毎回登場させていることでしょう。今作ではマフィアから強迫されているマルクス兄弟が依頼人。今作のタイトルは兄弟が主演した映画から借りています。
情報収集のために、出所して療養中のアル・カポネにトビーが会う場面から小説は開幕します。
シカゴに舞台を移しての、トビーの窮地の場面で助太刀する、謎の英国紳士のジェームズ・ボンドばりのアクション・シーンが見せ所と言えます。


No.2431 7点 夜と霧の誘拐
笠井潔
(2026/01/17 11:16登録)
矢吹駆シリーズ。また「哲学者の密室」以降は鈍器本シリーズともいわれているらしい。この最新作は650ぺージほどで比較的おとなしめ、片手で持てるので鈍器としての使い勝手もいい
感覚的に第一作から半世紀近く過ぎているかと思っていましたが、作中に「三年前のラルース家の事件」という記述が出てきて、頭がクラクラしました。読み手側の時間の流れる速度と、作中の時間のギャップの大きさが凄いですね。

「キングの身代金」オマージュな誘拐事件から始まり、ナディア主役の身代金受け渡しを巡るスリリングな展開、並行して起きる別個の殺人事件と、畳み掛ける前半の展開はリーダビリテイがあります。
途中で一度、目次に戻って各章題を眺めていたら、中盤でカケルが提示する「意外な構図」が閃いて来ました。まあ私の場合は本質直観ではなく「本質山勘」なのですが、
エド・マクベインのアイデアを謎解きミステリに取り入れて、このような良質なパズラーを書き上げた点は素直に称賛したい。
あと1つ、翻訳ミステリがらみのウンチクを披露しておくと、ナディアがマルティン・ベック・シリーズを読んでいることが判る、年代的にも整合性はある。


No.2430 6点 ユーモアミステリ傑作選
アンソロジー(国内編集者)
(2026/01/15 18:56登録)
風見潤編のアンソロジー、おなじ頃に様々なテーマのアンソロジーが講談社文庫から出ていて、一部のマニアにはたまらない探求本といえそう。
ユーモアといっても色々あって、軽妙洒脱な語り口の本格ミステリから、ブラックユーモア、お色気ハードボイルド、ドタバタ喜劇、パロディ、クライム・コメディなど、9編いずれもそれなりに楽しめる。収録作については、以下に簡単に書いておきます。

グルーバーは人間百科事典もの「ソングライターの死」、これは後にジョニー&サムものの長編に転用されたようだ。
ブリテン「クリスティを読んだ少年」は、「読んだ男」シリーズの一篇。
フィッシュはお馴染みシュロック・ホームズもの「エリート・タイプの怪事件」
スラデック「見えざる手によって」は、サッカレイ・フィンが密室殺人に挑む。
ジョイス・ポーターは「ホンコンおばさん、正義を行使す」
アーサー・ポージス「イギリス寒村の謎」は名探偵セロリ・グリーン登場、国名シリーズのパロディですが、オチが分かりにくい。(これは山口雅也のアンソロジーにも収録)
プラザー「ストリップ戦術」は、私立探偵シェル・スコットと恋人がドタバタ騒動を起こす、お色気ハードボイルド。
ウェストレイクの「殺人の条件」は、完璧な計画の妻殺しのはずが、思わぬ事態に展開していくクライム・コメディ。これは笑える。
ジョシュ・パークター「サム、シーザーを埋葬す」は、ちびっ子探偵ネロ・ウルフ&アーチィが愛犬の轢き逃げ事件を追いかけるが、、これはアイデアが秀逸といえるかな。

後発のアンソロジーや短編集で読めるものもあるけど、これでしか読めない作品が結構あるのでポイント高し。


No.2429 5点 うたかたの娘
綿原芹
(2026/01/15 09:13登録)
昨年の横溝正史ミステリ&ホラー大賞の受賞作。
よく知りませんが、もともとあった二つの新人賞を数年前に統合させた賞です。名前から、閉ざされた因習の村で猟奇的な事件が起こり、背後には謎の集団が、、みたいなホラーミステリ系を対象としている様に思いましたが、募集要項を見ると、対象は広義のミステリと、広義のホラーと並記されていました。
ところが、巻末の選評を見ると今回最終候補に残ったのは全てホラー小説で、ミステリがないのです。選考委員の一人は「ミステリを読みたい」と露骨に不満を表明する始末です。主宰のKADOKAWAとしては恩義のある横溝の名を冠した賞を存続させたいと苦肉の策で合併したんでしょうが、なんか裏目にでた感がありますね、

それで肝心の受賞作ですが、評判はいいようですが、私の嗜好には合わなかった。若狭地方を発祥とする人魚伝説をモチーフとしたオムニバス形式の連作長編で、3話目の水族館の怪異現象がインパクトがあった、ただ全体を通してメッセージ性が前面に出ているのがどうも苦手、
昨年は、ちょっとホラーミステリにはまっていたので、阿泉来堂の一連のシリーズや「鬼神の檻」「羊殺しの巫女たち」のようなもの期待していたこともある。


No.2428 6点 名探偵登場 5
アンソロジー(国内編集者)
(2026/01/11 18:21登録)
前巻からなんと5年ぶりの初期ポケミス名物シリーズの5巻目

聖者サイモン・テンプラー、トラント警部、マローン弁護士、奇術師グレート・マーリニ、リュウ・アーチャーなどの有名探偵の登場作よりも、名探偵が登場しない、ロバート・アーサーのオー・ヘンリー風の「大金」(別題「マニング氏の金の木」)や、バカミス・トリックが炸裂するフレドリック・ブラウン「スミス氏、顧客を守る」が面白い、そのシーンを想像すると笑える

次の最終第6巻はハードボイルド系の名探偵らしい
リチャード・デミングが「このミス」の1位を取るご時世でもあるし埋もれた佳作があるかも

アンソロジー「名探偵登場」は1956年初めから半年間で1巻から4巻までほぼ続けて刊行されました。この年の夏には日本版EQMMの創刊も予定されていて、この二つに関わったのがマニアックな若い編集者・田中潤司です、
田中は名探偵登場の作品選定・編集をしながら、EQMMの掲載作品の選定や発刊準備をしていたが、創刊の直前に退職したのです。(理由は諸説あり)
この「名探偵登場」の5巻の刊行が大きく遅れたのはおそらくそのためです。
急遽EQMMの編集長として都筑道夫が招聘されましたが、その時点で創刊号から3号までの作品選定は終わっており、都筑が担当したのはフレドリック・ダネイのコメントの翻訳だけだったようです。(都筑のエッセイ風半自叙伝「推理作家の出来るまで」を参照)

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