| kanamoriさんの登録情報 | |
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| 平均点:5.88点 | 書評数:2473件 |
| No.2473 | 6点 | 法月綸太郎の不覚 法月綸太郎 |
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(2026/05/19 13:28登録) 法月綸太郎シリーズの連作短編集としては「〜の消息」以来、7年ぶりぐらいの出版のようで、まあ「消息不明」にならなくて良かった。本作には短編3篇と書下ろしの中編が収録されています。 消去法推理なり伏線の回収なり、ロジック展開を重視する作風なので、まわりくどい説明や、短編の割には複雑な人間関係のものが多く、中にはなかなか本題に入らない作品もあって、初期の頃のキレはあまり感じません。 始めの2編「心理的瑕疵あり」と「被疑者死亡により」は、共に他のアンソロジーで読んでいたので、かえって作者の技巧を再確認する事が出来て良かった。後者の隠されていた構図はなかなかお目にかからないパターンなのでは。 初読の「次はあんたの番だよ」は、ホラーテイストの味付けが効いていて、個人的には好みの作品です。 作者の「あとがき」にも、それらしき趣旨の言及がありますが、長編の「キングを探せ」の影響なのかどうかは分かりませんが、あるミステリ趣向を色々とひねくり回したり、別のアプローチで改変した仕掛けがあって、それが収録4作のうち3編に出てくるのは、さすがに気になります。 |
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| No.2472 | 6点 | カーラの選択 ニック・ハーカウェイ&ジョン・ル・カレ |
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(2026/05/15 14:12登録) 1963年のロンドン。モスクワ・センターが送り込んだと思われる暗殺者が、任務を途中放棄し警視庁に逮捕される未遂事件が起きる。同時に、標的だった初老の文芸エージェントが姿を消した。 英国情報部「サーカス」を指揮するコントロールは、この事案に対処すべく、ベルリンの壁を挟んだ熾烈な諜報戦の、あの悲劇的な結果を受けてサーカスを去ったスマイリーを呼び戻す。 ジョン・ル・カレによるスパイ小説の古典的名作「寒い国から帰って来たスパイ」の続編的エスピオナージュ。息子のハーカウェイによる作品で、ジョージ・スマイリーとその仲間たちをわりと忠実に再現していて、往年のファンなら楽しめる。(なお、表紙やAmazonのデータは二人の共著のような連名表記ですが、ル・カレは設定の原案者であり、本作の執筆には関与していません) 先に作者ハーカウェイの怪作・特殊設定のSF私立探偵モノ「タイタン・ノワール」を読んでいたので、不安がありましたが、物語の滑り出しの数ページを読んで、文体にはほとんど違和感がなく、しっかりとル・カレしていたので安心しましたw 、 あと「寒い国から~」の主人公アレック・リーマスの運命を始め、同作の核心部分に触れた描写が頻繁に出てくるので、未読の場合は先に読んでおくことをお勧めします。 さて、プロットのほうですが、後年の「ティンカー、テイラー〜」の時の、ソ連の諜報指揮官カーラの工作によるサーカスの深刻な事態とは違って、今回は引退したスマイリーを呼び戻す状況にそれ程の説得力がないのが気になります。まあ、途中からはピーター・ギラムに任せば良いのでは?という感がありますね。 消えた男、ハンガリーからの移民でソビエトの昔の諜報員ローカの行方を追って、残された手掛かりと元秘書の証言を元にベルリン、ウィーン、ブタペストと東欧諸国を飛び回る活動的なスマイリーが新鮮でした。 |
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| No.2471 | 6点 | ゲノム・トーカー 林譲治 |
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(2026/05/11 10:00登録) 2034年、日本の無人探査機「かいせい」は木星圏近くで奇妙な電波源を発見する。カメラに映り込んだ巨大な黒い影は、人類が始めて遭遇する異星種族の宇宙船だった。彼らは1万6000年前に放たれたホモ・サピエンスの全遺伝情報(ゲノム・データ)を受信し、その発信源を辿って太陽系を訪れたのだという。ゲノムを他星系に送ったのは未知の超古代文明なのか? それとも…………。知的興奮を呼び起こす、人類史✕宇宙SF。 異星人との「ファースト・コンタクト」がテーマという点ではクラークの「地球幼年期の終わり」、1万6000年前の地球(旧石器時代?)からのデータ送信の謎という壮大なアリバイ崩しは「星を継ぐもの」を想起させる側面もあります。 ただ後者の謎については、物語の中盤で海洋調査船がNUMA(海底の金属性物体)を発見してからは、上位レベルの技術知識を持つ異星人(ゲノムトーカーと称される)と日本人科学者たちの交渉が中心になって続いて、ハードSFをあまり読んでいない身には、やや退屈に感じました。作者の持論なのか、ダンバー数を持ち出しての組織論を展開、宇宙空間と海底が主な舞台な割に、地に足がついた展開が「日本沈没」を代表とする和製のハードSFの伝統なんだろうか? しかし、終盤のある一人の人物による行動が意外な事態に発展する部分は衝撃的ですし、エモーショナルなエピローグも印象的です。 |
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| No.2470 | 5点 | 降り止まぬ雨の殺人 床品美帆 |
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(2026/05/06 09:34登録) 京都の中京区にある「六角法衣店」の若い店主・六角聡明は、失せもの探しの他、どんな相談にも乗ってくれる辻占い師で名探偵。知り合いの駆け出しカメラマン・安見直行をワトソン役にして過去に幾つか謎解きを行ってきた。 雨の降るある日、森沢レミと名乗る若い女性が店を訪れる。彼女の依頼は、七年前に自動車の転落事故で死んだ妹・聖奈の遺品である青い日傘の「本当の持ち主」を探すことだった。ところが、調査を始めた二人が関係者と思われる人物に接触を試みたところ相手が不審死を遂げ、続いて密室状況下で起きた殺人事件に巻き込まれる。 京都辻占い探偵六角シリーズの第2弾。 デビュー作の前作は同じ主人公ながら連作短編集だったようですが(そちらは未読)、今作は長編です。 辻占い師という探偵役の設定から、てっきり安楽椅子ものの、日常の謎系のもっとライトな作風のものを考えていましたが、犯行動機や事件の裏の構図などは結構ヘビィで、また探偵たちも行動派で、北は福井県の港町から、西は神戸の三宮まで、手掛かりを求め動き回ります。ただ、読み進めるにつれ、気になる点が多々出てきます。まずは現場や先々で目撃される”白いワンピースの女”の正体、これはどう見てもダメでしょう。密室状況下の殺人の大技トリックも物語の流れから浮いている感じがします。作風は、どちらかというと連作短編集のほうがむいているのかな。 |
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| No.2469 | 6点 | サプライズ・エンディングス 嘘 ジェフリー・ディーヴァー |
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(2026/05/01 10:12登録) 先に翻訳出版された「サプライズ・エンディングス 罠」と同じく、電子版でのみ発表されていた作品を日本で独自に編集した中編集で、8編のうち残りの4編が収録されています。 個人的に、最近のディーヴァーの長編は書き込み過多と言うか、長尺を読んでいて疲れてしまう感じがあるので、ある程度物語性があって、意外な展開を楽しめる中編が丁度いい。 最初の「被害者クラブ」は、地方の名門大学で起きた女性教授を被害者とする、性的画像拡散事件をベテラン保安官補が追う捜査小説&フーダニット。作者にしては地味な展開が続くが、保安官補のルーティンワークを伏線にして、最後に現れる裏の構図は独創的で意外性がある。 「忘れられし者」は、懸賞金ハンターのコルター・ショウが登場し、麻薬密売人殺しの罪で逮捕・収監されている青年の冤罪を晴らす。シリーズ長編のプロモーション版のようですが、あまり読んでいないシリーズの主人公の造形を知るのに丁度良かった。 「帰任報告」は、国境の街エルパソ市の麻薬捜査課の刑事たちとメキシコの麻薬組織との攻防戦を背景にして、どんでん返しの連続技が繰リ出される編中で最も作者の本領が発揮された作品です。 最後の「ターニングポイント」は、マトリョーシカ人形を現場に残す連続殺人犯と、家族も標的にされかかる捜査班のネヴィル刑事の視点で語られる物語の、登場人物の立ち位置が終盤に劇的に変転する正に作者のお家芸の作品です。 |
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| No.2468 | 6点 | 探偵物語 小鷹信光 |
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(2026/04/27 12:16登録) 「私立探偵の工藤俊作さんだね?」………下北沢の雑居ビルにある事務所で受けた電話の内容は、失踪した17歳の少女の捜索依頼だった。相手の低い威圧の入った声と、四日間の期限つきという奇妙な条件はあるものの、高額な報酬にひかれ工藤は依頼を引き受ける。だが、調査を始めて間もなく、少女を誘拐したという何者かの脅迫電話を端緒に、事件は複数の人物が関わる複雑な様相に変わる。(本書裏表紙の内容紹介文を一部抜粋) 昭和54年から55年(1979~80年)にかけて日本テレビ系列で放映された、松田優作主演の伝説的な連続ドラマ「探偵物語」の原案者は、確かに小鷹信光ですが、このたび復刊された創元推理文庫版の巻末の小山正の解説(ドラマ制作の裏話)によると、小鷹は主に探偵のキャラクター設定を提示したものの、ドラマのプロット作りには関わってはいなかったようです。企画打合せ時に、突如として小鷹が小説版を書くと宣言し、TV放映と小説の出版が同時に実現したという経緯があった。このエピソードには驚いた。だから本作はTVドラマのノベライズではなく、小鷹のオリジナル小説になります。匿名でポルノ小説を書いた経験はあったようですが、初めて書いたハードボイルド小説とは思えない完成度の高さを感じます。 ドラマの方は、良くも悪くも松田優作の個性というか存在感が大きく、ハードボイルド探偵のパロディとまでいかないにしても、戯画化した造形が目立った作品。 小説版は、女性弁護士などTV版のサブキャラなどの設定をそのまま活かしながら、翻訳モノで培ったと思われる洒落た比喩表現の多用と、ロスマク風の複雑な家庭環境、「マルタの鷹」を思わせる裏の筋立てなどが、なかなかやるなと思わせます。書かれた時代性も多少関係する違和感が多々あり、昭和の国産ハードボイルドあるあるな浪花節的な展開は、個人的には気になった。 |
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| No.2467 | 6点 | 勝機 フェリックス・フランシス |
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(2026/04/22 15:26登録) 元騎手のシッド・ハレーは、旧知の調教師から、今競馬界で密かに行われているレースの不正行為に関して命がけの告発の電話を受ける。 一方、義手を外し他人の手を移植手術した左手に馴染めず今でも違和感を感じていて、それが原因で妻マリーナとの関係にも暗雲が立ち込めていた…………。 不屈の男、シッド・ハレーが登場するシリーズの通算6作目です。父ディック・フランシス名義で4作(ただし4作目の「再起」はフェリックスが代筆)、版元が文春文庫に移り、フェリックス名義の新競馬シリーズとしては「覚悟」に続く2作目になります。 原題は”Hands down”、文句なしでとか、問題なくといった意味ですが、もともとは競馬レースで、騎手が手綱を強く引くことなく余裕で勝利することから転じた慣用句です。本作の内容とは微妙にずれている感じもありますが、おそらく、「ハンド」の複数形(両腕)が入る競馬用語をタイトルに使いたかったのではと思います。 さて、内容についてですが、家族が事件に直接巻き込まれた前作「覚悟」が明確ですが、「家族愛」がテーマのひとつになっているのがフェリックスの個性と言えるでしょう。本作のラストシーンが顕著です。ただ、スリラーとしてはどうでしょう、探偵社時代の同僚チコ・バーンズに協力を頼んでからの、中盤の関係者から情報収集の過程がテンポが悪く平板に流れていて、往年のフアンはともかく、新しい読者には冗長に感じるのではないかと思います。本作の中心となる舞台、北ヨークシャーにある廃墟、ミドルハム城跡における終盤の対決が唯一の山場と言えるでしょう。 |
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| No.2466 | 6点 | 封鎖館の魔 飛鳥部勝則 |
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(2026/04/17 10:00登録) 人里から隔離された僻地に立ち、増改築を繰返し、多くの開かずの間を持つ歪な形態の「封鎖館」。持ち主や居住者を変えながら、過去、昭和平成の時代に妖しげな殺人や、不可解な事件が起きていたが、令和になって再び血塗れた連続殺人が起きる………。 昨年出たばかりの乱歩の通俗スリラー風の大作「抹殺ゴスゴッズ」に続く作者の復活作の第2弾は、一転して割とオーソドックスな”舘もの”の本格ミステリです。芸術家探偵・妹尾悠二が登場するシリーズの3作目になるのかな。 館の形態からして、いかにも”斜め屋敷”系のトリックが予想出来てしまうのがアレですが、出入り可能な部屋の中での餓死という不可解な事件や、密室の首切断死体、容疑者全員が部屋に封印された逆密室状態の殺人など、魅力的な謎の連打が読ませます。 関係者が画家や彫刻家・画廊オーナーと、絵画教室に来た高校生で、エキセントリックで個性的な人物が揃うのも作者らしい。なかでも車椅子の美少女の豹変ぶりには笑った。 狂言回しというか、二人の語り手がいて、屋敷に長年住み込んでいる物語の中心人物でもある洋画家・館真一と、高校生の小玉正に関して、それぞれ「恣意的な語り手」と、「客観的な語り手」と見抜く妹尾の洞察力がなかなか面白い。 |
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| No.2465 | 4点 | 粘膜大戦 飴村行 |
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(2026/04/13 15:53登録) 大戦下、戦況が膠着し苦境を強いられる帝国陸軍。起死回生を図るべく軍部が画策したのは、首都が占領下にある東南アジアの小国「ナムール」の王族アロ族の王女マルテ姫を使い、民衆に一斉蜂起の号令を掛けさせることだった。 だが、マルテ姫は常に黄金の仮面を被っており、それを外すには”久遠ノ爪”という鍵が必要。密命を帯びた大尉の堀川美樹夫は、鍵の捜索を開始するが…………。 2008年に日本ホラー小説大賞を受賞した「粘膜人間」でデビュー、2作目の「粘膜蜥蜴」が評判を呼び、日本推理作家協会賞をとった作者の、「粘膜」シリーズの6作目です。 パラレル・ワールドの戦時中の帝国陸軍を中心に、顔が蜥蜴で体が人間の”爬虫人”が多数登場する、エログロ・バイオレンス・ホラーに、ナンセンス・ギャグを交錯させ、秘境冒険小説や戦争小説の要素もある、ジャンル・ミックスというより、支離滅裂な作風が特徴的です。 ただ、このシリーズを久々に読みましたが、初期の頃の圧倒的な熱量が感じられず、かなり期待外れな出来になっています。主人公を置かず、三人称多視点の群像劇風の構成はいいとしても、どのキャラクターも活きていない感がある。内地編で登場する12歳の孤児の少女キノブが面白いキャラですが、後半になるといつの間にかフェードアウトしてしまうのが不思議です。雑誌連載の関係か事情が分かりませんが、物語の進行がギクシャクしていて、短編をつなぎ合わせた様な感じを受けました。 |
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| No.2464 | 6点 | 愚者たちの箱舟 綾崎隼 |
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(2026/04/10 10:46登録) 新潟県北部、本土から35キロの沖合に浮かぶ翡翠島に、ひとりの青年が帰ってきたーーー過去に島を襲った連続放火事件の、すべてを明らかにするために………。 うーむ、これはミステリ小説としては、内容を事実を曲げずに(ネタバレなしで)詳しく紹介するのがちょっと難しい作品。(結果的にアンフェアな説明になっていてもご容赦を) 2014年にYA系の文庫の二部作で出版されていた作品を、大幅に加筆修正し改題し単行本化したものです。 主な登場人物は、同い年の三人の若い男女、島に住み続ける「僕」レンと幼馴染みの”姫”、本土から転入してきた「ノア」で、淡い青春小説の味わいとともに、当初は中学生時代に遭遇した連続放火事件が語られていきます。戦時中から島に住み着いたアメリカ人の意匠建築家の手になる複数の建造物を標的にした、放火事件の犯行動機の説明など色々とモヤモヤした不満点がありますが、 「sid.A」と「sid.B」に分けられカットバック方式で過去と現在が語られる構成や、主人公たちをニックネームで表記する点などで、どうしても30年ぐらい前の新本格系の某作品を想起してしまうのが残念です。帯でアピールされている様な凄い作品とは思えなかった。 青春の輝き、雨の日と月曜日は、トップ・オブ・ザ・ワールド、イエスタデイ・ワンス・モア………物語のBGMとして流れるカーペンターズが印象な、ノスタルジックな青春小説としては及第点。 |
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| No.2463 | 5点 | 犯人はキミが好きなひと 阿津川辰海 |
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(2026/04/06 11:48登録) タイトルが表すように、毎回、好きになった女性が実は殺人犯だったり、犯罪を計画している人物だったりする「悪女レーダー」のような”特異体質”を持つ隆一郎と、幼な馴染みの女子の同級生で名探偵を志す・花林のコンビが六つの事件の謎ときに挑む連作短編集です。 まあ一応の特殊設定モノとも言えますが、隆一郎の動向から花林が事件の犯人を察することができてしまうことで、偽の手掛かりやアリバイ崩しなど、一種の倒徐形式のミステリに似た読み味の話もあります。 最初の2編を読んだ時点では学校が事件現場ということもあり、学園ミステリのようなライトな作品集かと思いましたが、途中からは、結構ガチガチの本格モノが続きます。夏の浜辺とリゾート別荘を舞台にした複雜な構図の「海岸通りでつかまえて」と、雪の山荘が舞台の最終話「あなたの愛を……」がまずまずの出来かなと思います。面白い特殊設定を思い付いたものの、それを充分に活かせ切れなくて中途半端になった作品集と言う感じがします。 |
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| No.2462 | 5点 | 意外な犯人 犯人当て小説傑作選 アンソロジー(国内編集者) |
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(2026/04/03 12:16登録) 創元推理文庫版の「犯人当て小説傑作選」シリーズ最終の第3巻です。 シリーズ各巻は発表年代順に作品が収録されており、本巻は新本格ムーヴメント以降に発表された近年の作品が対象になっていますが、正統な犯人当てミステリの収録があまりなく変化球ばかりで、バカミス風の物やショートショート、パロディ作品などが目立つ残念なセレクトになっています。序文で編集者が”犯人当て小説の奔放な広がり”と書いていますが、何か言い訳じみた感じさえ受けます。犯人当て小説の系譜をたどることを意図したアンソロジーならば、「傑作選」なるタイトルはピント外れな気がします。 そういった中で、比較的良かった下記の3作品を寸評しておきます。 標題作の綾辻行人「意外な犯人」は、いかにも新本格らしい犯人当てミステリで、新本格を象徴する2つのガシェット”クローズド・サークル(社会性の排除)”と”徐述トリック”を体現した作品です。 白井智之「「少女」殺人事件」は、ノックスの十戒を消去法推理のネタにするというバカミスながらも、発想が面白くて作者らしい作品。 最後の北山猛邦「竜殺しの勲章」は、第二次大戦時のナチス・ドイツに侵攻されたフィンランドが舞台の物語性豊かな作品。ハウダニットが主軸ながらも、意外な犯人を設定した良作です。ちなみに、もともと本作が収録されていたアンソロジー「推理の時間です」(講談社)は、佳作揃いの作品集でお薦めです。 |
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| No.2461 | 6点 | ハウスメイド2 死を招く秘密 フリーダ・マクファデン |
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(2026/04/01 11:44登録) 前作の「ハウスメイド」の事件から4年経っていて、ミリーは、車中泊から狭いアパート住まいになるも、相変わらずの金欠状態です。 ”妻に酷い仕打ちをしている男を懲らしめるハウスメイドがいるらしい” そのような評判が密かに流れているなか、ミリーは、大会社のCEO・ダグラスのペントハウスのハウスメイドの職を得るも、何故か妻のウェンディは部屋に閉じ籠ったままで、すすり泣きや、流血の痕跡を見掛けることになるが………。 やはりヒットした作品のパート2になると、期待値が上がり、どうしても物足りなく感じてしまうのはやむを得ないところでしょうか。全体の3分の2を占める第一部の展開がゆったりで、サスペンスが乏しく感じてしまう。 登場人物が限られており、どんでん返しを狙うとすれば……というようなメタ読みをすれば、ある程度は裏の構図を察することが出来てしまう。それでも、最終盤に出て来るある人物の行動は意外性があり、面白く読めました。 |
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| No.2460 | 6点 | サプライズ・エンディングス 罠 ジェフリー・ディーヴァー |
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(2026/03/27 09:12登録) 4作品収録されている中篇集。本国では出版されておらず、電子版でバラ売りされている作品を日本で独自に編集したものです。タイトルは編集部ではなく作者自身が命名したようですが、”驚愕の結末”というより”意外な展開”を楽しむ感じのスタンスで読んだ方がいいと思います。 最初の「完全犯罪計画」は、リンカーン・ライムが登場する幕間劇の様なもので、FBIのフレッド・デルレイから得たライム暗殺計画という不穏な情報をもとに、お馴染みのライム・ファミリーがタウンハウスに勢揃いするファン・サービス的な作品です。シリーズの某新作長編のプロモーション版らしい。 「魔の交差点」は、色々な思惑を持った面識のない七人の男女が、犯罪多発地域にある街のコンビニで交錯する群像劇の様な作品。狙いは面白いが、登場人物が多すぎてちょと混乱する面がある。 「麗しきヴェローナ」は、暗黒街が舞台でギャング版の”ロミオとジュリエット”風の物語が、”意外な展開”を見せる、編中では最も好みの作品です。 最後の「どんでん返し」は、やや後半の展開が予想しやすいかな。この中では凡作と言えよう。 |
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| No.2459 | 5点 | 新学期にだけ見える星座 似鳥鶏 |
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(2026/03/24 09:12登録) 学園ミステリ「市立高校」シリーズの8作目。前作の「家庭用事件」が2016年の作品なので10年ぶりで、随分久しぶりの刊行です。(→追記、これは誤りなので訂正、未読ですが2021年に「卒業したら教室で」という作品が出ていました) 一応の主人公である葉山君が三年生になり美術部の部長になっていて、男女二人の新入生がレギュラーキャラクターとして加わっています。最初のうちは、この美術部の後輩二人のプロフィール紹介が続くので、てっきり、そのひとり中内修太郎と幼馴染みの岩境ひなを主人公として進行していくのかと思っていたら違いました。大学生になっている伊神先輩を含め、誰が探偵役になるのかが不明のまま各編が進行します。 第1章の「日常的な非日常」は、華道部の密室状況の控え部室で、備え付けの壺が壊された事件の犯人捜しで、これがなかなかの難物で、一応の解決があった後に、真相が三転四転と転がる転がる多重解決ものです。密室のハウより動機がポイントでしょうか。続く2章と4章は、葉山君が何故か卒業生の伊神先輩に呼び出されて、ともに不可能犯罪的な日常の謎に関わる話で、全然学園ミステリではないw 三章が、男子バスケ部の部室を巡るトラブルを謎解く話。霊感というか予知能力がある後輩の岩境ひなが目立つ話で、真相はシリアスで、シリーズとしては異色作です。 |
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| No.2458 | 6点 | 華に影 令嬢は帝都に謎を追う 永井紗耶子 |
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(2026/03/21 18:11登録) 明治39年の帝都東京。千武男爵家の令嬢・斗輝子は、書生の影森怜司を供に、政府重鎮の黒塚伯爵邸で行われた夜会に当主である祖父の名代として出席した。ところが夜会の最中に黒塚伯爵が何者かに毒殺されてしまう。不当な疑いをかけられた千武家の名誉のため、斗輝子と怜司は、事件の真相を調べ始める………。 2014年の初刊なので、割りと作者の初期の作品を改稿・改題して、2021年に二葉文庫から再販された作品です。 気高く勝ち気な令嬢と不遜ながらイケメンな書生のコンビは、最初のうちは関係性がラブコメの少女漫画やライトノベルのような感じを受けましたが、終盤に差し掛かるとかなり印象が変わります。 謎解きミステリとしては、事件の関係者を訪ね調査を進めるうちに、おぼろげに裏の構図は見えては来るものの、最後の最後に明かされる真相は予想を超えるものです。華族制度と、こういった時代であればこそのトリックと言えるでしょう。作中にしばしば出てくる「婦道の鑑」と言う言葉がポイントと言えるかもしれません。それと「華に影」とは、ある華族の行く末を考えれば、なるほどねーのタイトルで、改題は正解だと思います。 |
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| No.2457 | 5点 | 濱地健三郎の奇かる事件簿 有栖川有栖 |
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(2026/03/19 12:02登録) 心霊現象を専門にする探偵・濱地健三郎の事件簿の4作目です。 レギュラーキャラクターの助手の志摩ユリエは、霊視が出来るようになって来て、今作から立ち位置が心霊探偵の弟子に格上げされている感じ。 収録7編のうち、2つが捜査一課の赤波江刑事が持ち込んだ殺人事件絡みで「目撃証言」がまずまず。次の2つがユリエの恋人・進藤からの日常の謎風のネタで、心霊写真もの「観覧席の祖父」がまずまずですが、いずれもホラーと言うにはユルい内容です。 残る3編はいずれも正規の依頼人がいる案件で、うち最終話の「怪奇にして危険な状態」が最も力のはいった作品です。怪異現象が強烈で、読み応えがある。正直なところ、これ以外の作品はホラーとしてもミステリとしても物足りないとしか言いようがなかった。 |
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| No.2456 | 6点 | 暗殺者の奪還 マーク・グリーニー |
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(2026/03/13 09:12登録) ジェントリーは、ロシア国内に捕らわれている元ロシアSVR(対外情報局)の女性将校で恋人のゾーヤを救出すべく、東欧諸国で死闘を繰り広げていた。ゾーヤの監禁先が某矯正収容所であることを知った彼は、反ロシア政府派の人脈を頼り、ロシア潜入の行動を開始する。 ”暗殺者グレイマン”こと、元CIA特殊工作員コート・ジェントリーを主人公にした冒険活劇シリーズの14作目です。 今作は冒険小説のタイプでいうと”敵地潜入もの”ということになります。 冷戦時代ならお馴染みなスパイ冒険ものの定番ですが、ソ連崩壊を契機に、すっかり書かれなくなったタイプの小説ですが、プーチンのおかげで悪の帝国が復活したということでしょうかw しかし、内容的には反ロシア政府組織の協力や、CIA時代の元上司ハンリーの後方支援、特殊工作班時代の同僚ザック・ハイタワーの協力もあって、ジェントリーの単独行動ではなく、軍事作戦の中にグレイマンが組み込まれている様なプロットは個人的にはやや不満があります。 最近、グリーニーは軍事オタク作家トム・クランシーと共著で「米露開戦」などの軍事シミレーション小説にも手を出しているので、それが影響しているのではないかと思います。 |
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| No.2455 | 5点 | じゃあ、これは殺人ってことで 東川篤哉 |
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(2026/03/09 14:03登録) 烏賊川市を舞台にした5編収録の連作短編集。私立探偵・鵜飼杜夫や、砂川警部&志木刑事などのレギュラー・キャラクターのほか、準レギュラーを含めてお馴染みのメンバーが登場する、脱力系のギャグを交えたユーモア・ミステリです。鯉ケ窪学園探偵部シリーズと並んで、初期の頃から書いてきたシリーズなので作品の出来に安定感を感じます。 表題作の「じゃあ、これは殺人ってことで」は、密室殺人を扱った探偵小説のパロディで、倒叙形式なのがブリテンの「ジョン・ディクスン・カーを読んだ男」を連想させますが、皮肉な結末が面白い。 最初の「李下に冠を正せ」は、ブドウ園を舞台に、河川敷に遺棄された死体をめぐるホワイダニットが面白い作品。 「博士とロボットの密室」も倒叙形式ですが、文字どおり”困難は分解せよ”のハウとともに、犯人自身が密室を逆手に取られる結末が印象的。 「深夜プラス犬(ワン)」は、本来は陳腐な、”替え玉を使ったアリバイ工作”に、ある工夫を凝らしている点が良い。 その他は、ゆるキャラ探偵マイカや、大家の朱美さんが登場する”人間消失”ものなどで、そこそこ楽しめる作品集でした。 |
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| No.2454 | 7点 | パパイラスの舟 評論・エッセイ |
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(2026/03/06 09:12登録) 著者の小鷹信光(1936年ー2015年)に対する一般的な認識は、ハードボイルド原理主義者とか、テレビドラマ「探偵物語」(主演の松田優作がアドリブでテレビ越しに小鷹に語りかけたエピソードが有名)の原案者ということになるかと思いますが、ミステリ分野で結構広範囲の業績が有ります。 「ハードボイル小説を中心としたミステリ評論家」が一般的ですが、小説家であり、翻訳家、アメリカの短編を中心としたアンソロジスト、ペイパーバックのヘビィな収集家でもあります。とくに、ビブリオグラファー(書誌学者)としての側面が多く見れるのが本書です。 本作は、1970年から早川の「ミステリマガジン」に同タイトルで連載されたエッセイをまとめて、1975年に出した単行本を50年ぶりに文庫化したものです。(著者没後10周年ということもあるのでしょう) 海外ミステリという未知の大海を、海図も無い自由気ままに漂う航海は、軽い語り口ながらも、ディープな内容に溢れていて、読み終えるのに時間を要しましたが、多くの示唆に富むものでした。 やはりハードボイルド御三家への言及が多いですが、途中チャンドラーの「プレイバック」の項で、例の「優しくなければ……」を小鷹がダメ出しする所で、大昔に図書館で借りて読んでいたことを思い出しました。ハードボイルド派では、御三家の次世代のスピレイン、ブレット・ハリデイの言及が多いが、まだ翻訳がほとんど出ていなかった、クェンティンのダルース夫妻シリーズを詳しく言及しているが印象的だった。 ひとつ留意すべき点は、本作が書かれた70年代は、インターネットが無い時代ということです。それはネットでなく紙(パパイラス)を相手ということで、作家や作品に関する資料を集める作業が現代とはケタ違いに大変なことだったと想像出来ます。「幻影城」の編集長でもあった島崎博氏のエピソードが書かれていますが、書誌学的な話も面白いです。 巻末に、小山正氏の解説と読書ガイドが掲載されていますが、初出から50年経っているので、資料としては大幅なアップデートが必要な訳なので、その気の遠くなるような捕遺の作業の大変さが分かります。この功績も大きい。 因みに、小山氏のパートナーは若竹七海女史ですが、葉村晶シリーズの中の「店長」が巻末に載せる作中のビブリオ・ネタの解説とは大変さはだいぶ違いますw |
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