名探偵のままでいて 認知症探偵「おじいちゃん」シリーズ |
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作家 | 小西マサテル |
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出版日 | 2023年01月 |
平均点 | 6.60点 |
書評数 | 10人 |
No.10 | 6点 | zuso | |
(2024/09/01 22:40登録) 孫娘の楓が次々と持ち込む謎を、レビー小体型認知症を患う祖父が華麗に解決する。 楓の出生も絡み、謎解きだけでは終わらない驚きの展開になる。二人の絆に涙が浮かぶことも。古典ミステリへのオマージュも散りばめられ、古典マニアにはたまらない描写もある。 |
No.9 | 7点 | まさむね | |
(2024/07/27 11:29登録) 孫である小学校教師、楓が持ち込む謎を、元校長の祖父が解き明かす安楽椅子探偵系の連作短編。その祖父は「レビー小体型認知症」を患っていて、時に幻視などの症状も現れる。ここもポイント。 一部ではあるのだけど、その事実でそこまで推理できるものか、推理の根拠も弱すぎるかなぁ…と思う箇所も。しかし全体としては、心憎い転換等の工夫や終盤の急加速などもあって好印象。会話も含めて読みやすく、ミステリ蘊蓄も楽しかったです。 ちなみに、個人的には「岩田か四季か?」は蛇足っぽく感じたのだけれど、むしろこういう部分がある方がいいのかしら。 |
No.8 | 7点 | take5 | |
(2024/06/23 12:35登録) 正直、終章を含む全6章のうちの、 初めの2つからは残念感を抱いて、 中盤の2つからは、おや中々!然し そこまではと思ってしまいました。 このミスってこんなものかとさえ。 作者の散りばめられた過去の名作愛 それは最初から伝わります。幻の女 冒頭の名言、出たねって感じです。 しかし最後の2章でギヤが上がって、 一気に人物のディテールが露わに! 見事でした。主人公の祖父が紫煙を 超えて、いや私怨を越えた所で真相 いやみんなの心想も描くという構成 が素晴らしかった。タイトルの改訂 くさ過ぎるので改訂は正解でしょう。 とにかくあえての前2章で此方の側の バイアスをさらすことそのものが伏線 だとしたら驚異的です。←読み過ぎ? 装丁も美しくお勧めできる作品です。 ウイリアムアイリッシュもお勧めですw |
No.7 | 6点 | makomako | |
(2024/06/22 09:22登録) 名探偵がレビー小体型認知症のじいさんとは。なかなかユニークです。 私の父親も晩年この病気になり、また自分の職業上もこの病気の方とほぼ毎日付き合っている関係上興味深いものでした。 作者が並々ならぬ推理小説マニアであることから、お話の内に多くの推理小説のネタが出てきます。これがマニアにとっては面白い。読んだことがない小説もおるので、これを機会に読んでみようという気になしました。 小説の内容はまあこんなものかな。 推理内容はもちろんアームチェア探偵のものですので、ちょっとこじつけや無理があるのはまあ仕方がないところですが、まずまずでしょう。 さすがに介護が必要な爺さんがいくら昔とったきねづかでも、あっさ人犯人もねじ伏せてしまうのはやりすぎでしょうね。 私にとって一番衝撃的だったのは、なんといってもこの爺さんが私より年下であったことです。ああなんということだ。 私も覚悟せねばならないのかも。 |
No.6 | 7点 | sophia | |
(2023/11/20 22:06登録) 中盤にサプライズを作ったり、クライマックスで犯人を特定する手がかりとしたり、「幻視」の活用が上手いです。連作短編集としては典型的な安楽椅子探偵もので割と楽しめたのですが、第五章「まぼろしの女」の出来がよろしくない気がします。祖父の洞察力がいくら並外れているとはいえ、まぼろしの女が××××だと断ずる根拠がさすがに弱すぎます。さらに作者が刑法や刑事訴訟法に関して勉強不足のように見受けられました。なお本作はこのミス大賞の大賞受賞作ですが、本作と文庫グランプリ受賞作「レモンと殺人鬼」はちょっと似てしまっていますね。 |
No.5 | 7点 | 人並由真 | |
(2023/09/12 10:50登録) (ネタバレなし) ここまでのレビューで、誰もな~んもおっしゃいませんが <主人公(のうちの一人)の老アマチュア探偵(小学校の元校長)、 実はその彼は、あの瀬戸川猛資と、ワセダミステリクラブで同門で友人だった> ……この趣向を読んだときには、歓喜&感涙の絶叫を上げてしまいましたよ! いや、マジで。 この設定だけで、瀬戸川ファンとしては、ご飯五杯はいけます(笑)。 謎解きミステリの連作としては、なるほど直観推理に頼りすぎた気配のもののようなものが多く、第2話や第4話も大筋で先読み可能。 とはいえ愛すべきメインキャラたちの動向は、なかなか好ましい。 終盤でヒロインの過去設定がいきなり明かされ、いきなり決着したきらいはあるが、しかしこのパートでようやく老探偵の大設定がしっかり活きたという感もあり、お話としてはこれで良かったのであろう。 最後に、フイニィの『クイーン・メリー号』からの引用のくだりは、もしかしたら、作品そのものからの出典というより、先日亡くなったばかりの石川喬司の書評「極楽の鬼」の同作のレビューの方に影響を受けてないですか? 白状してください(笑)。 |
No.4 | 6点 | 名探偵ジャパン | |
(2023/07/30 00:45登録) 認知症を患い、快刀乱麻を断つが如き推理の輝きを放っていたかつてを想像できないくらいに、ほど遠い姿となってしまった往年の名探偵。だが、孫が持ち込む不可能犯罪の話を聞くときだけ、彼のその濁った瞳には全盛期の光が戻るのだ。俺たちはまだまだやれる! 後期高齢者パワー爆発! 超高齢化社会に突き進む現代日本に投げかけるミステリ! ……みたいなのかと思ってたら全然違いました(笑)だって、本作のタイトルからしたら、そういうことでしょう?「おじいちゃん! 名探偵のままでいて!」っていう孫の叫びじゃないですか。投稿時は違うタイトルでしたが、この改題を考えた編集者はあざといですね(笑)仕事のできる人なんだと思います。まあ、認知症を患った老人が孫から持ち込まれた謎を解く、というコンセプトは間違っていなかったのですが。 で、内容なのですが、他の評者の方も書かれているように、探偵役の老人が「えっ? これだけの手がかりからその推理を? 凄すぎひん?」と、引くくらいの超推理をかましてくれます。もはや超能力レベル。ラスト事件の犯人特定に至る手がかりも、ほとんどが読者に明かされていなかったり、特定の知識を必要としたりと、いわゆる「後出しじゃんけん」の連発で、ミステリ(本格)としての骨格は緩いといわざるをえないでしょう。 ですが、良作であることに間違いはないと思います。読みやすいですし、「ミステリって面倒くさい」と感じている読者にも安心して薦められます。「このミス大賞」という話題性も手伝って、ミステリファンの裾野を広げてくれる作品となるのではないでしょうか。 |
No.3 | 4点 | 文生 | |
(2023/07/25 17:12登録) 探偵役がレビー小体型認知症を患っているという設定はユニークですし、その設定自体がミステリーの仕掛けとして機能している点もよくできています。 ただ、一連の推理が可能性のひとつとしか思えず、あまり説得力を感じられなかったのは残念。 私自身はミステリーのロジックにそれほど厳密性を求める方ではないのですが、すぐに他の可能性が頭に浮かんでしまうような緩い推理にはさすがに物足りなさを覚えてしまいます。実際、孫娘が推理の根拠を尋ねたときに「その方が面白いから」などといったりしていますし。あれには唖然としました。 |
No.2 | 8点 | mozart | |
(2023/07/23 17:14登録) 率直に言ってとても面白く満足度の高い作品でした。飽くまでもロジカルに問題が解決されていく過程も十分納得できました。楓と岩田、四季の関係性もとても良くて余韻を残すハッピーエンドで読後感も非常に良かったです。 ただ彼の「告白」は(読者向けだったのかも知れないけれど)なくてもよかったかな、と。十分彼の気持ちは随所に滲み出ていたように思えたし。 |
No.1 | 8点 | メルカトル | |
(2023/02/19 22:46登録) 「認知症の老人」が「名探偵」たりうるのか? 孫娘の持ち込む様々な「謎」に挑む老人。 日々の出来事の果てにある真相とは――? 認知症の祖父が安楽椅子探偵となり、不可能犯罪に対する名推理を披露する連作ミステリー! Amazon内容紹介より。 第21回『このミステリーがすごい!』大賞受賞作。 基本的に私は『このミス』受賞作を信用していないので、なるべく敬遠するようにしています。しかし本作は何故か私の琴線に触れるものがある気がして購入しましたが、結果的にこれが大正解でした。面白い、いや面白過ぎる。ベースは日常の謎の範疇に収まる連作短編集だと思いますが、殺人など物騒なテーマを扱った作品も含まれており、単純に日常の謎に一括りにする訳にはいきません。 なにしろ、レビー小体型認知症を患いながら、孫娘楓の話を聴くや否や事件の全貌を視認して解決してしまう老人(おじいちゃんと呼ばれるだけで名前は不明)が凄いです。様々な毛色の異なる事件をあくまでロジカルに詰めていく本格ミステリ的趣向は、日常の謎と本格ミステリの融合を思わせます。ただ、第五章に顕著に現れていますが、どうしてそこまで見通せるのか、これだけの手掛かりしか与えられていない筈なのにというジレンマはありますね。 余談ですが、この作者は相当なミステリ愛好家の様で、随所にその愛着ぶりが見られます。そしてその幅広い知識は只者ではない事を匂わせます。それもそのはず、本作は鮎川哲也賞の最終選考まで残った作品を改稿しての受賞だから。 |