| パメルさんの登録情報 | |
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| 平均点:6.12点 | 書評数:772件 |
| No.772 | 6点 | 密閉山脈 森村誠一 |
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(2026/07/17 07:57登録) 冬の八ヶ岳で失恋を苦に自殺しようとしていた湯浅貴久子を、登山家の影山隼人と真柄慎二が救う。その後、影山と付き合うことになった二人は、婚前旅行としてK岳に出掛ける。「山頂から灯火を愛の信号にして送る」と麓で待つ貴久子と約束した影山だが、送られてきたのはSOSの信号だった。 まず作者が登山愛好家らしく、冬の北アルプスの峻嶮さや恐怖の描写がリアル。密室を建物ではなく、雪山そのものに成立させた発想が独創的。厳しい自然環境がそのままトリックの一部となっており、山岳小説と本格推理小説が見事に融合している。 心理戦と密室の裏に隠された罠。主要な登場人物が絞られているため、物語の早い段階で犯人の目星はついてしまうのは残念だが、追い詰められていく犯人とヒロインの心理の揺れ動きが見事。アリバイトリックの解明はもちろん読み応えがあるが、友情と恋愛、嫉妬、登山家としての名誉や野心が複雑に絡み合い、登場人物の心理描写にも厚みがある。雪山の美しさと恐ろしさが対照的に描かれ、人間の欲望の危うさを際立たせている。 |
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| No.771 | 7点 | 終章からの女 連城三紀彦 |
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(2026/07/13 09:05登録) 夫殺しの容疑を受けた主人公の小幡斐子は、かつての恋人だった彩木弁護士に弁護を依頼する。しかし彼女は無罪を主張するわけではなく、むしろ重い刑を受けたがっているようだった。彩木は彼女の態度に不審を抱きつつも、法廷闘争に挑む。 本作は単なるフーダニットに止まらず、斐子の幼少期の火災事故や複雑な家庭環境など、斐子の過去が明らかにされていくにつれ、予想もつかない反転を重ねる。この作品の魅力は犯人捜しよりも、ホワイダニットに重点が置かれている点。人間関係の感情のもつれが事件の核心にあるが、「なぜ斐子は自ら追い詰めるのか」という一点に読者の関心を集中させる構成が非常に巧み。 夫殺しの一件が片付いた後半、かつての事件とそっくりの事件が再び起こる辺りは、作者の独壇場というべき展開。妄想と脅迫観念ともつかぬトラウマを背負ったヒロインのキャラクターや日時表示へのこだわりが、やがて事件の反復に立ち現れていくサスペンスなど、そうした仕掛けはサイコスリラー趣向を増幅させるだけでなく、トリックの伏線ともなっている。 人間の心の闇と愛情の歪みを描く筆力はさすがで、謎解き以上の余韻が残る。濃密な心理描写と予測不能な展開が楽しめる本格的な心理サスペンス。 |
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| No.770 | 5点 | 死者が飲む水 島田荘司 |
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(2026/07/10 08:59登録) 札幌の実業家・赤渡雄造の自宅に2つのトランクが届く。その中に詰められていたのは、バラバラに切断された赤渡本人の死体だった。牛越刑事が捜査に乗り出すが、有力な容疑者たちには鉄壁のアリバイがあった。 刑事による粘り強い捜査を中心に描いており、牛越刑事が現場を訪れ関係者と出会い、少しずつ真実へ近づいていく。タイトルが事件の核心と結びつく構成は巧みで、医学的知識を伏線として生かした謎解きも読み応えがある。 とはいえ、聞き込みや移動を繰り返しながら少しずつ真相に迫るため、物語のテンポはかなりゆっくりで冗長に感じてしまう。牛越刑事も御手洗潔のような強烈な個性がないため、キャラクター性という点でも印象が弱い。時刻表トリックも好みではない。 事件の真相には強い哀しみがあり、派手さより人間の悲劇と執念深い捜査を味わいたい人にはお薦めできる。 |
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| No.769 | 4点 | ずっとあなたが好きでした 歌野晶午 |
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(2026/07/06 09:00登録) 恋愛をテーマにした13編からなる短編集。 「ずっとあなたが好きでした」中学生の大和は年齢を偽ってスーパーでアルバイトをしている。そこで知り合った三千穂と親しくなるが売り場の主任が二人の仲を妨害する。 「黄泉路より」事業の失敗と家庭崩壊で人生に絶望した五十嵐は、自殺サイトで知り合った男女と富士の樹海へ向かうが、同行者の智子に恋愛感情を抱く。 「遠い初恋」弓木は転校してきた弥生に憧れを抱く。そして弥生のネックレスが盗まれる事件が起きた。 「別れの刃」板橋継世は演劇サークルの先輩と恋に落ちる。 「ドレスと留袖」永嶌は妻の佐和子をストーカーの魔の手から必死に奮闘する。 「マドンナと王子のキューピッド」主人公のDJはラジオ番組へのネタ投稿を趣味にしている高校生。ある日、学校一イケメンの王子から美少女マドンナとの二人の恋の架け橋役を引き受ける。 「まどろみ」大学四年生の大輔は、就職が決まっていないことを理由に、友里の将来設計から逃げる。 「幻の女」主人公は街で見かけた女性に惹かれ、その後を追い酒場へ入る。やがて女性と言い争いになり、彼女を追跡するうちに見失ってしまう。その後、近くで発生した殺人事件の容疑者として疑われてしまう。 「匿名で恋して」主人公はインターネットの掲示板を通じて、ある女性と知り合い、やがて現実世界で会う約束をする。 「舞姫」十條は恋人のフランソワーズから紹介してもらったレストランで働いていたが、そのレストランで事件が起きる。 11話目の「女!」、12話目の「綿の袋はタイムカプセル」、13話目の「散る花、咲く花」で全貌が明らかになる。 甘酸っぱい恋、泥沼の愛、人生の終わりの恋など、多少ミステリ要素のある恋愛小説が続く。オチが読めてしまったり、「何これ」ぐらいの酷いオチだったりと途中で投げ出したくなった。だがこの作者のことだから、何か特別な仕掛けがあるだろうと読み進めていった。13話あるうち、11話目で「?」となり12話目から「そういうことだったのか」と巧さを感じたが、特別驚いたわけではなく、作者らしいなと思ったぐらいであった。 |
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| No.768 | 7点 | 盾と矛 方丈貴恵 |
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(2026/07/02 09:50登録) 罪を犯した者を絶対に逃さず有罪にする車椅子探偵・草津正守と、腕っぷしの強い助手の霧島平太郎。事件を隠蔽・捏造することで、依頼人である犯人を確実に無罪にする仕事人の氷見朱鳥ことヒミコ。 ある日、雪山の別荘で密室殺人事件が発生する。事件解決と思われた矢先、決定的な証拠が消失してしまう。一旦、謎が解けてから始まる上書き推理合戦。「犯人か分かってからが本番」という逆転の発想が新鮮で、一度完成した推理を敵によって物理的・論理的に壊された後で、どのように再び追い詰めるかという過程がスリリングで、多重解決ミステリの新しい形として楽しめる。 草津と霧島のコンビがとても魅力的である。草津は「悪運の持ち主」という設定とも併せ、名探偵でありながらその不完全さが人間としての魅力に繋がっている。一方の霧島は荒事を担当する実働部隊のような存在。この「知」と「暴」の役割分担が、一般的な名探偵ものとは少し違う読み味を生んでいる。 探偵、助手、仕事人の3人が中学時代の旧知の中であるという設定が、物語に深みを与えている。事件が進むにつれて明らかになる彼らの過去や、ヒミコの真の目的、そして最後に待ち受ける切なくも爽快な展開は、予想外で結末に心を動かされた。本格ミステリのロジックを楽しめるだけでなく、アクションやライバルとの対決といったエンターテインメント要素が非常に強い一冊となっている。 |
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| No.767 | 5点 | 42.195 倉阪鬼一郎 |
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(2026/06/28 09:22登録) エーデル貴金属に所属する無名のランナー・田村健一の長男が誘拐される。犯人からの要求は身代金ではなく、「東京グローバル・マラソン」で2時間12分を切れ」と言いう奇妙なものだった。田村にとっては、自己ベストに4分以上も上回るタイムだけに極めて高いハードルであり、なぜ犯人はその要求をするのか誰にもわからなかった。 マラソンのキロ数に合わせて全体が、42+0.195の四十三節に分かれているのも面白いが、読者への挑戦状代わりに作者がヒントを出す「給水ポイント」が3カ所も設けられているのが目を引くし、マラソンレースの進行と捜査の進行が並行して描かれるため、タイムリミットサスペンスとしての緊張感もある。そして事件はレースの進行とともに、ますます不可解で驚きの様相を見せ始めていく。 正体不明の犯人たちの目的が徐々に明らかになっていく構成だが、最後に明かされる真相は強烈。作者はバカミスの旗手として有名だが、さすがに真相が斜め上すぎる。給水ポイントを読み返せば、フェアな表現を心掛けていることがわかるが、人によっては壁本になりかねない作品である。 |
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| No.766 | 7点 | 黄昏の囁き 綾辻行人 |
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(2026/06/25 07:55登録) 津久見翔二は、兄の急死の知らせを受けて帰省する。事故死と聞かされていたが、事件に巻き込まれた可能性があると知り、元予備校講師・占部直毅の協力を得て独自に真相を追っていく。 調査を進める中で、兄の友人たちが「ね、遊んでよ」という謎の言葉と共に残忍な方法で次々と殺害されていく。翔二の兄の死とこれらの殺人事件、そして自身の幼い頃の封印された記憶の闇に深い関わりがあることに気付いていく。 序盤は兄の不審死をめぐる調査ミステリとして進むが、中盤以降は幼少期の記憶の断片が少しずつ蘇り、ミステリの謎解きと過去の記憶が紐解かれていくホラー的な恐怖が味わえる。伏線の配置も見事で、「あの描写はそういう意味だったのか」と後から気づかされる場面が多くある。本作では怪奇現象よりも人間の悪意や罪悪感が恐怖の中心に据えられており、子供の残酷さや過去の行為が長い年月を経て大きな悲劇を生むというテーマは非常に重く、単なる犯人探し以上の後味を残す。謎解きミステリの要素は控えめながら、心理的不気味さや郷愁を伴う恐怖が魅力的なホラーサスペンス。 |
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| No.765 | 8点 | 魔法使いが多すぎる 名探偵倶楽部の童心 紺野天龍 |
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(2026/06/21 09:58登録) 人を不幸にしない名探偵を目指す来栖志希と、その助手となった瀬々良木白兎。彼らのもとに、自らを魔法使いと信じる聖川麻鈴から、10年前に起きた師匠の不可解な死「白ひげ危機一髪殺人事件」の真相を解明してほしいと依頼される。 この事件に、それぞれ異なる魔法分野に長けた姉弟子たちが、次々と自分が殺したと自白するという異常事態に陥ってしまう。現実世界と魔法世界が入り混じるような不可解な状況の中、名探偵・来栖は「依頼人を信じぬく」という信念を胸に、論理の力で姉弟子たちの偽りの自白を見破り真相へ迫っていく。 依頼人の幼少期で見聞きしたものは、実際には何だったのか。魔法で殺害されたように思えた被害者にどんなトリックが使われたのか。依頼人の救いのための謎解きを行う来栖志希と、真実を明らかにするための謎解きを行う金剛寺煌の二人の探偵の謎解き合戦が読み応えがあり、どんでん返しが連続する後半の展開が素晴らしい。ファンタジーと錯覚させる前半の描写から、現実的なトリックへと着地させる手際が鮮やか。本作は不可能犯罪と多重解決がうまく融合されており、それぞれの矛盾をロジックでついていくプロセスが見事。優れた本格ミステリ小説であるとともに、爽やかな青春小説であり、可愛らしいキャラクター小説である。 |
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| No.764 | 6点 | 死の絆 赤い博物館 大山誠一郎 |
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(2026/06/17 07:44登録) 警視庁付属犯罪資料館の館長である緋色冴子と部下の寺田聡が、過去の未解決事件を資料や遺留品から再検証して真相を暴く赤い博物館シリーズの第3弾で6編からなる連作短編集。 「三十年目の自首」ある男性が警察に出頭し、「自分は30年前の殺人事件の犯人だ」と自首する。なぜ今になって名乗り出たのかが不可解だった。心理的な謎が中心となっており、論理的推理と読後に余韻の残る構成が印象的。 「名前のない脅迫者」交通事故で炎上した車のトランクから死体が見つかる。しかし車の持ち主の妻は、トランクに入っていた人物の正体を明かそうとしない。誰もが知っているはずの情報をなぜ隠すのか、という点から推理が展開されるのが巧み。 「3匹の小ヤギ」深夜のコンビニで強盗事件が発生し、犯人は自殺する。小さな違和感が大きな真相に繋がる。事件の構造がパズルのように整理されていく過程が魅力的。 「掘り出された罪」工事現場から過去の事件の凶器が、偶然発見されたことから再調査が始まる。この話の魅力は、証拠の再解釈。同じ証拠でも見方を変えると意味が変わるという本格ミステリの醍醐味が味わえる。 「死の絆」ホームレスの男性と国会議員が同じ場所で殺害される。社会的立場が全く異なる二人の間にはどのような接点があったのか。推理の爽快さと人間の因縁を組み合わせたバランスの良い作品。 「春は紺色」緋色冴子が警察学校にいた頃のエピソード。警察学校の中で、眼鏡とアイロンが盗まれる事件が発生する。彼女の原点が描かれており、シリーズファンには興味深く読めると思うが、推理が飛躍しすぎていると感じた。 |
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| No.763 | 7点 | 共犯者(新潮文庫版) 松本清張 |
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(2026/06/14 07:56登録) 犯罪に手を染めた人間の不安、欲望、虚栄心を描いた10編からなる短編集。その中から6作品の感想を。 「共犯者」内堀彦介は、家具デパートの社長として成功を収め名声と地位を手に入れたが、その商売の元手となった資金は町田武治と共謀して銀行を襲い強奪した金だった。過去の罪という目に見えない鎖に縛られ、自ら墓穴を掘っていく人間の心理が見事に描かれている。 「恐喝者」大雨による川の氾濫に乗じて拘置所から脱走した湊太は、脱走の途中で溺れかけていた多恵子を救い出す。その後、偶然多恵子と再会し彼女の弱みに付け込んで恐喝をするようになる。一度、簡単に金を手にできる味を占めるとどこまでも邪悪な者へと堕ちていく生々しさが恐ろしい。多恵子側にも秘密を守りたいという弱みがあり、その心理的な間を突く作者の冷徹な観察が光る。 「愛と空白の共謀」夫が急死した一年後、章子は生前から不倫関係にあった福井秀治と旅行に出掛ける。飛行機の搭乗手続きのやり取りや、機内で見かけた女性客から夫の急死の裏に隠された真相に気付き始める。日常の何気ないディテールの変化から、過去の犯罪の構図がパズルのように組み合わさっていく展開がスリリング。 「発作」田杉は仕事でのミス、病気で療養している妻への仕送り、借金、愛人関係などストレスが限界に達したある日、ある些細な出来事が殺意へと結びついてしまう。日常生活のストレスの積み重ねが発作的な狂気へと変わる恐怖が描かれ、重苦しい現実味と余韻を残す。 「青春の彷徨」大学教授の娘・佐保子と教授の教え子である木田は、周囲から交際を禁じられたことで思いつめ心中を決意する。ロマンチックな美しい死に憧れる若者特有の心理と、過酷な現実、本能的な生の対比が見事。 「潜在光景」浜島はある日、幼なじみの泰子と再会する。夫に先立たれ、外交員をしながら息子の健一と暮らす泰子の美しさに惹かれた浜島はやがて彼女と深い関係になる。しかし、泰子の家を訪れるたびに健一の冷たい視線が浜島を苦しめる。誰もが目を背けたい過去の罪悪感やトラウマが子供の無垢で冷徹な視線に呼び覚まされ、自ら精神的に狂気へと追い詰められていく描写は息をのむ怖さである。 |
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| No.762 | 6点 | 彼女たちの牙と舌 矢樹純 |
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(2026/06/10 07:36登録) 中学受験を控えた4人の母親たちが、思いも寄らぬ形で犯罪に巻き込まれていくサスペンス。 序盤はママ友同士のマウンティングや嫉妬を描くイヤミスのような雰囲気だが、中盤から一気に犯罪組織との命懸けの攻防へとシフトしていく。物語は4人それぞれの視点で語られ、互いに抱える不満や表面上は見えない本音、誰が味方で誰が敵なのか分からない関係性が徐々に露になっていく。この見えていたはずの現実が何度も反転する構造によって真相はつかめないまま翻弄され続ける。 この作品で描かれるのは、特殊詐欺や闇バイト強盗といったニュースでよく見る犯罪。4人がどのように事件に関わったかが描かれるが、次の章に移る直前で意外な情報を突きつけてくるので、誰を信用していいのか分からなくなってくる。 4人の女性が犯罪に手を染めるという構図から、桐野夏生の「OUT」を彷彿させ、非常事態に陥った女性たちの強さが印象的であるが、緊迫感がやや弱いところが残念。 |
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| No.761 | 7点 | ミステリー・アリーナ 深水黎一郎 |
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(2026/06/07 08:52登録) ネタバレあります。 物語の舞台は、クイズ番組「推理闘技場(ミステリー・アリーナ)」。番組では、嵐で孤立した洋館で起きた連続殺人という架空のミステリが出題される。出演者は早押し形式で推理を披露し、犯人とトリックを当てるというもの。 ある解答者が完璧と思われる推理を展開すると、次の解答者が新たな事実を提示し、その推理が論破される。こうして次々にもっともらしい真相が現れ、最終的には15通りもの解決案が提示されていく。さらに番組の舞台裏でも不穏な出来事が進行し、番組そのものの謎にも向き合うことになる。 この作品の最大の魅力は犯人当てではなく、推理そのものをエンターテインメント化したところで、多重解決が極限まで追求されている。推理が何度も覆されるため、常に足場が揺らぐ感覚がある。 また作者らしいメタ的な遊び心も強烈。解答者の推理にあわせて裏で臨機応変に真相を改変させていたという作中のメタ的な悪意の構造が巧く処理させている。そのシステムに気付いた解答者が番組を制圧していく終盤のカタルシスは素晴らしい。 映画化されたということで本作を読み、映画を観に行ったのだが映画は今ひとつだった。やはりこのタイプの小説を映像にするのは難しいのだろうとつくづく思った。 |
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| No.760 | 5点 | 籠の中のふたり 薬丸岳 |
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(2026/06/03 08:01登録) 主人公の弁護士・村瀬快彦は、小学生の頃に母親を自殺で亡くした過去を持ち、他人と深く関わることを避けて生きてきた。もう一人の主人公である従兄弟の蓮実亮介は、傷害致死事件を起こして服役していた。そんな二人が身元引受人と出所者として再会を果たすところから物語は展開していく。 快彦は前科者である亮介を拒絶し、距離を置こうとしていたが、明るく情に厚い亮介や彼を取り巻く人々との交流を通じて、頑なな心を溶かしていく。しかし、快彦が亡き母の遺品から自分の出生の秘密を知ったことをきっかけに物語は急展開を迎える。 出生の秘密や過去の事件の真相といったミステリ要素が、二人の再生の物語と見事にリンクしている。冷静で心を閉ざした弁護士の快彦と、罪を背負いながらも明るい元受刑者の亮介。この二人がお互いの欠けた部分を埋めるように成長していくバディものとして読ませる。人生において自分を変えられるかもしれないタイミングが来た時、素直に心を開くことが出来るか。もし逃げずに受け止めさえすれば、道は開けてくる。快彦の変化はそんなことを教えてくれる。 とはいえ、ミステリとしてはやや物足りなさを感じてしまう。人間ドラマ重視の人には強く刺さるのではないだろうか。 |
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| No.759 | 7点 | I 道尾秀介 |
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(2026/05/30 08:22登録) 本作は「ペトリコール」と「ゲオスミン」という二つの章からなる物語で、読む順番により物語の結末が大きく変わるという実験的なミステリ。 「ペトリコール」かつて起きた一家惨殺事件の生き残りである女子高生の小峰夕歌は、ガラス工房を営む律子に引き取られ、そこでアルバイトをしながら暮らしている。夕歌は心に深い傷と誰にも言えない秘密を抱えていた。 「ゲオスミン」娘を亡くし心を病んで休職中の医師・田釜。彼は、かつて刑事だったというホームレスの男・野宮と出会う。二人は共に愛する娘を亡くしたという共通点から心を通わせる。 一見単なる視点の違いや印象の変化と思いきや、実際には時系列や特定のアイテムの役割が、読む順番により物理的に変化するという巧妙なトリックが仕掛けられている。繊細な文章や精緻な構成により、それが出来てしまうから驚きで体験型エンターテインメントとして高く評価できる。 仕掛けばかりが目立ちがちだが、「無国籍問題」や「親子の情愛」、「復讐」といった重いテーマを扱ったミステリとしても読み応えがある。「N]は6章構成で複雑だったが2章に絞られたことで、よりダイレクトにひっくり返る衝撃が味わえる。 |
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| No.758 | 6点 | 夜の終る時 結城昌治 |
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(2026/05/26 08:05登録) 捜査に出掛けた徳持刑事が何の連絡もないまま消息を絶ち、翌日ホテルの一室で絞殺死体として発見される。 第一部では、同僚たちがその犯人を追う刑事たちの捜査が丁寧に描かれる。徳持は暴力団幹部の関口と高校時代の旧友であり、「癒着しているのではないか」という疑惑を抱かれていた。第二部では、追い詰められた犯人の視点から語られる。犯人が回想する犯行の模様、そして犯行に至るまでの転落の道筋。 後半に入ると徳持自身の内面へと潜っていく。そこで明かされるのは警察組織の腐敗、刑事という仕事の空虚さ、普遍的な人間の弱さと、それがもたらした悲劇。なぜ一人の刑事が破滅に向かったのか、徐々に精神的に追い詰められていく過程が読ませる。 文章は乾いた筆致で派手な演出はないが、昭和の夜の湿った空気や刑事たちの疲弊した日常がじわじわと伝わってくる。古い作品だが古臭さは感じない味のある渋い作品。 |
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| No.757 | 6点 | 彼女はひとり闇の中 天祢涼 |
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(2026/05/22 09:23登録) 女子大生の守屋千弦はある朝、女性が刺殺されたことを知る。被害者は幼馴染みの朝倉玲奈だった。千弦のもとには事件当夜、玲奈から「相談したいことがある」というLINEが届いていたが気づかないでいた。後悔に苛まれた千弦は、事件の真相を探ることを決意する。 主要人物の数も少なく、ストーリー展開が速い。謎自体もそう複雑そうに見えないので、簡単に解けそうなのに真相がなかなか見えてこない。伏線の張り方や記述はフェアで、動機も推定可能となっていたのは作者の技ありといえる。 調査を進める中で、貧困、いじめ、引きこもり、就職難民といった現代社会の歪みが浮き彫りになっていき、千弦の前に社会の闇が姿を現わす。読者の思い込みを利用した、見えている人物像をそのまま受け入れてしまう、この前提自体が不十分だったことが終盤で明らかになり、分かっていたつもりが理解していなかったというズレが浮かび上がる。 タイトルの「彼女はひとり闇の中」は、単に被害者の状況を指すだけでなく、玲奈の孤独、犯人の孤立、そして千弦の気づけなかった心理距離といった複数の意味を内包している。 |
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| No.756 | 6点 | 白魔の檻 山口未桜 |
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(2026/05/18 08:25登録) 研修医の春田は、医師の城崎と共に北海道の山奥にある病院へ派遣される。ところが到着後、病院一帯は濃霧に包まれ、さらに地震により硫化水素ガスが流れ込んでしまう。この極限状況の病院で次々と不可解な犯罪が起こる。 濃霧、地震、有毒ガスという三重の災厄が重なり、病院が完全に孤立する設定が災害パニック小説のような緊迫感で惹きつけられる。また作者が現役医師であるため、カルテの扱い、専門用語を用いた処置、限られた医療器具の対応など、医療現場の描写にリアリティがある。 頑張れば頑張るほど報われないという過疎地医療の厳しい現実や、命の選択を迫られる医療従事者の葛藤など、社会的なテーマも深く描かれており、単なる犯人探しに終わらない重厚な人間ドラマとして満足度が高い。ただ舞台設定は強力だが、それぞれの要素がストーリーに最大限絡んでいるかというとやや弱さを感じてしまう。ミステリとして、もうひと捻りほしかった。 |
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| No.755 | 7点 | 贋作ゲーム 山田正紀 |
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(2026/05/14 07:18登録) 綿密な計画、専門技術、限界状況での判断という要素が絡み合ったプロの仕事としての犯罪や任務が描かれた4編からなる中短編集。 「贋作ゲーム」有名美術館で展示されようとしている絵画は実は贋作。それを阻止しようとする。困難な状況の中で、ほんのわずかな空隙を突いて目的を達成しようと、あの手この手でアプローチする展開は、まさに作者らしい冒険小説といえる。なんといってもゲームそのものが根底からひっくり返されるラストには爽快さを感じる。 「スエズに死す」爆発処理のプロの「俺」は、娘の命と引き替えに、パレスチナ・ゲリラから機雷を回収するようにという困難な依頼を受ける。「俺」は、パレスチナ・ゲリラの優秀な人物とタッグを組み、時間も材料も圧倒的に足りない中で頭をめぐらせながら、奇妙な方法で目的を達成しようとする。ラストはサプライズ・エンディングが待っている。伏線が見事。 「エアポート・81」公開前の洋画の海賊版を密輸する映画カメラマンの主人公が、それを盗まれたことからハイジャックする羽目になるプロセスをテンポ良く描き出している。周囲を警察と機動隊で包囲された状態の飛行機から脱出するというクライマックスは、少々現実味に欠けるが本作が最も楽しめた。 「ラスト・ワン」「俺」は愛する女のために、金融事務所の金庫から金を奪うことになった。その紙幣が所長の犯罪の証拠となるというのだ。極限状況の中で最後の一手に全てを賭ける作戦が描かれ、綿密な計画と突発的な判断が交錯する。「俺」自身のトラウマの克服も絡み読み応えがある。 |
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| No.754 | 6点 | リング 鈴木光司 |
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(2026/05/10 08:35登録) 横浜の自宅で留守番をしていた女子高生と品川の路上で信号待ちをしていた予備校生が、相次いで不審な死を遂げる。雑誌記者の浅川は、犠牲者の一人が自分の姪であったことから調査を開始する。そしてさらに二人の男女が同様の死に方をしていることを突き止める。 調査の過程で彼らに共通していたのが、あるビデオテープを見ていたことだと判明する。そのビデオの最後に出てくるメッセージは「この映像を見た者は一週間後に死ぬ」とあった。浅川は親友の高山に助けを求め、二人で死の呪いを解くメッセージを探し始める。 本書の特徴はホラーとしての怖さだけでなく、ミステリとしての謎解きの面白さが強いところ。呪いのビデオという超常現象を扱いながらも、原因や仕組みを理詰めで追っていく構成である。単なる怪談ではなく「なぜ死ぬのか」、「どうすれば回避できるのか」というロジックを重視している点が、この作品の独自性といえる。自分だけが助かるために誰を犠牲にするのかという究極のラストシーンは、鳥肌が立つような戦慄を感じさせる。 作者の鈴木光司氏が、一昨日の5/8にお亡くなりになられたそうです。ご冥福をお祈りいたします。 |
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| No.753 | 7点 | たけまる文庫 謎の巻 我孫子武丸 |
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(2026/05/06 08:53登録) 本格ミステリからブラックユーモア、サイコスリラーまで作者の多彩な引き出しが楽しめる8編からなる短編集。 「裏庭の死体」ある人物の家の裏庭から死体が発見される。容疑者にはアリバイがあり、犯行は不可能を思われる。トリック自体は比較的シンプルなのでやや物足りなさを感じる。 「バベルの塔の犯罪」超高層ビルを舞台にしたパズラーで、爆破予告事件に対し警察が奔走する。建物の構造そのものの錯誤を用いた仕掛けが特徴のキレのある作品。 「花嫁は涙を流さない」姉妹と一人の男を巡る三角関係がやがて殺意へと発展していく。最後に明かされるサイコな真相にはゾッとさせられる。心理描写の毒が効いている。 「EVERYBODY KILLS SOMEBODY」交換殺人を斡旋する謎の事務所。そこに依頼した主人公たちが思わぬ方向に転がり始める。皮肉なラストが見事なブラックコメディ。救いのない結末に作者らしさを感じる。 「夜のヒッチハイカー」夜道でヒッチハイクの男女を乗せたことから不気味な展開へと転じていく。オチは比較的シンプルながら、緊張感の演出が巧く短い中でしっかり怖さを感じさせる。 「青い鳥を探せ」自分自身の行動を調査してほしいと探偵に依頼する奇妙な男。その依頼の真意とは何なのか。設定の奇妙さが、そのままトリックに繋がっており構造が秀逸。 「小さな悪魔」塀の修理をしている時に庭を覗き込んでいた少年・コウジは、いなくなった犬を探しているのだと言う。暴力描写や心理的圧迫感が強く、読後にインパクトを残すホラー・スリラー。 「車中の出来事」深夜の電車で犯人を護送中の刑事に話しかけた男は、自分も刑事だと名乗る。二転三転する状況と最後の最後でひっくり返る「誰が何者なのか」という構図が鮮やか。 |
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