| パメルさんの登録情報 | |
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| 平均点:6.12点 | 書評数:782件 |
| No.782 | 7点 | 出版禁止 長江俊和 |
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(2026/08/28 09:02登録) 映像作家としても知られる作者が、モキュメンタリーの手法で小説として成立させた異色のミステリ。実際に存在する禁断の原稿を読んでいるような読書体験が特徴で、読者自身が真相を読み取る構造となっている。 物語は「長江俊和」という著者本人が、ある出版できなかった原稿を入手したところから始まる。原稿のタイトルは「カミュの刺客」。それはフリーライター・若橋呉成によるルポルタージュで、有名ドキュメンタリー作家と愛人の心中事件を追った内容だった。事件は男女が心中を図り、男性だけ死亡。女性・新藤七緒だけ生還する。 この作品の最大の魅力は、騙される感覚そのものを楽しむことができる点にある。探偵が真相を説明するのではなく、断片的な資料だけが提示されるため、なんとなく不気味で妙に引っかかるが、何が変なのか分からないという感覚で読み進めることになる。そして最後に真相に気付くと、序盤の会話や描写が別の意味を持ち始め、二度読みしたくなる構造が実に巧妙。結末は純愛の成れの果ての狂気が描かれ、徹底した後味の悪さを感じることができる。 |
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| No.781 | 6点 | invert II 覗き窓の死角 相沢沙呼 |
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(2026/08/24 09:26登録) 城塚翡翠がトリックを解明する倒叙ミステリが2編収録されている。 「生者の言伝」夏木蒼汰は、ある目的を果たすため友人の別荘に潜入していたが、予期せず訪れた友人の母親に見つかり、もみ合いの末に包丁で刺してしまう。隠蔽工作を行おうとした矢先、城塚翡翠とその助手の千和崎真が訪ねてくる。 少年が圧倒的な観察眼を持つ翡翠に、じわじわと追い詰められていく緊張感が秀逸。その一方で翡翠のあざとく可愛らしい振る舞いに少年が翻弄されるコミカルな描写もあり、軽快な掛け合いとサスペンスが楽しめる。ただし、真犯人の存在を示唆する伏線が弱く感じる。 「覗き窓(ファインダー)の死角」写真家の江刺詢子は、妹を自殺に追い込んだモデルの藤島花音に復讐するため、綿密な計画のもと殺人を実行する。詢子は自身のアリバイ工作として、友人となった翡翠を利用する。翡翠は初めてできた心許せる友人が犯人であるという運命に直面するが、正義感を持ってロジックを積み重ねて追い詰めていく。翡翠の生い立ちが明らかになり、仕掛よりも翡翠の人となりに重点が置かれている作品で、苦悩の中で彼女の人間味や孤独が深く描かれている。 |
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| No.780 | 7点 | 倒錯のロンド 折原一 |
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(2026/08/20 09:22登録) 完成版で読みました。 山本安雄は、推理小説新人賞への応募作として長編ミステリを書き上げる。それをワープロで清書してもらうため友人に原稿を預けるが、友人の不注意からその原稿を紛失してしまう。しばらくして、新人賞を受賞したと発表された作品は、タイトルも内容も自分が書いた「幻の女」そのものだった。作者名は白鳥翔。山本は盗作者・白鳥翔の正体を突き止めようと動き出す。 物語が進むにつれ、単純な原作者対盗作者という構図は次第に崩れていく。誰が本当の作者なのか、誰が誰を騙しているのかと、作中作と現実の物語が複雑に絡み合い、読者の認識そのものが何度も覆されていく。原作者と盗作者の駆け引きを軸に巧妙な仕掛けが全編に張り巡らされている。一度真相が明かされた直後で、さらなる仕掛けが提示されるため最後まで油断できない。 このどんでん返しに次ぐどんでん返しに翻弄されることを快感と感じるか、くどいと感じるかで評価が分かれるでしょう。極限まで詰め込まれた叙述トリックと構成美を堪能することができた。 |
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| No.779 | 5点 | 華麗なる誘拐 西村京太郎 |
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(2026/08/16 09:17登録) 首相官邸に蒼き獅子たち(ブルーライオンズ)と名乗る男から、「日本国民1億2千万人を誘拐した。身代金5000億円を支払え」と脅迫電話が入る。悪質ないたずらと思われていたが、喫茶店で無差別毒殺事件が起き、その脅迫が現実味を帯びる。 本作の最大の魅力は、「日本国民全員を誘拐した」という大胆な発想でしょう。一見すると荒唐無稽だが、非常に独創的で惹きつけられた。犯人グループの狙いは何なのか、そして姿なき犯人をどうやって追い詰めるのか、警察の裏をかく知能犯と私立探偵左文字の壮絶な知恵比べが読みどころで、左文字の地道な推理によって真相へ近づいていく構成は読み応えがある。 1977年という、まだプロファイリングた一般的でなかった時代に、その手法を取り入れている点が驚き。警察の足を使った泥臭い捜査と、左文字のスマートな心理分析の対比が見事。これまでの誘拐捜査のセオリーが一切通用せず、犯人グループに翻弄されていく警察組織の焦燥感やリアルな描写が緊迫感を高めている。 一方で、終盤の犯人像や動機については、壮大な導入部に比べて小さくまとまった感は否めない。一番残念に思ったのがブルーライオンズを罠にはめるために警察がとったある行動。あり得なさ過ぎて興醒め。絶対にやってはいけないでしょう。 |
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| No.778 | 7点 | 聖母 秋吉理香子 |
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(2026/08/11 09:08登録) 東京都藍出市で、幼稚園児の男の子が殺害される事件が起こる。しかも被害者には、死後に性的暴行を受けた痕跡があった。事件を知った主婦の保奈美は、不妊治療の末に授かった一人娘を持つ母親。保奈美は「自分の娘も被害に遭うのでは」という不安に駆られていた。 物語は娘を守ろうとする母親、事件を追う刑事、そして犯人など、複数の人物の視点を交錯させながら進んでいく。早々に犯人が明かされた状態で進むサスペンスかと思いきや、終盤で読者が信じていた前提がガラリと覆されることになる。作中では不妊治療の過酷さや葛藤、性被害トラウマといった重いテーマも丁寧に描かれいている。 「ラスト200ページで世界が一変する」という謳い文句の通り、巧妙な叙述トリックが最大の魅力。登場人物の立場や性別、時系列など読者が無意識に抱く先入観が見事に利用されており、ラストで事実が繋がった瞬間の衝撃とカタルシスは圧倒的。 タイトルの「聖母」という言葉が示す通り、本作の中心にあるのは「子供を守りたい」という母親の無償の愛と執着。しかしその愛情が極限に強くなった時、正義と狂気の境界線が曖昧になる。恐ろしくもありながら、どこか切ない母性を描き切っており、深い余韻を残す。 |
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| No.777 | 7点 | 神の光 北山猛邦 |
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(2026/08/07 08:15登録) 建造物の消失をテーマにした5編からなる短編集。 「一九四一年のモーゼル」戦時下のロシア。監視下にある館が、一夜にして跡形もなく消失する事件が起きる。極限状況の中で誰も侵入、搬出できないはずの建物が消えた謎に挑む。心理の盲点を突いた消失もので、物理トリックと同時に「見るとは何か」という認識論テーマが絡んでいる。 「神の光」ジョージは砂漠の違法カジノで大金を稼ぎ、追跡を逃れるためにその場を離れる。しかし翌朝、カジノがあった街そのものが忽然と消失していた。幻想的な雰囲気の中で、街ごと消えるという圧倒的スケール。読者の現実感覚を根底から揺さぶるインパクトがある。 「未完成月光 Unfinished moonshine」ポーの未発表原稿とされる作品の中で、小屋が消失する謎が描かれている。その続きを書かなければならないという強迫観念に取り憑かれていた。現実と虚構が交錯する中で、消失の真相に迫る。作中作というメタ構造にポー的怪奇趣味を融合させ、ホラーテイストの強い作品で不気味さが際立っている。 「藤色の鶴」時代や場所を超えて、社や建物、車両などが消失する複数の事件が描かれる。それらは一見無関係に見えるが、ある共通の仕組みによって結びついていく。一種の構造美を楽しむ作品となっており、ファンタジー色の強い一編。 「シンクロニシティ・セレナーデ」夢の中で館が消える光景を何度も見る主人公。やがて同じ夢を見る人たちと出会い、その夢と現実の消失事件の関係が明らかになっていく。夢を共有する人々、消失する白い館、偶然と必然の境界を組み合わせた観念的・哲学的なミステリ。 |
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| No.776 | 6点 | ぼくと、ぼくらの夏 樋口有介 |
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(2026/08/03 08:07登録) 高校生の戸川春一はある朝、刑事である父から同級生の岩沢訓子が自殺したと聞かされる。やがて同様の死が続き、春一は友人の死に疑惑を抱く。そして同級生の酒井麻子と聞き込みを行い真相に迫っていく。 調査が進むにつれて、亡くなった少女たちの知られざる側面や人間関係が浮かび上がり、少年たちはひと夏の中で事件と向き合いながら、少しずつ大人へと近づいていく。シニカルな主人公ととぼけた父親、小悪魔的な麻子の組み合わせが絶妙で、事件の追求よりも彼らの人間関係の進展ぶりで読ませる作品。 ミステリというよりも、青春小説としての比重が大きい作品で、登場人物たちの心理の変化が丁寧に描かれており、夏の空気感と成長が物語の中心にある。特に気だるく乾いた雰囲気や、どこか達観した主人公の語りは、いわゆるハードボイルド調の軽妙さを感じさせる。読後は爽やかで少し切ない余韻が残る。 |
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| No.775 | 4点 | 殺人!ザ・東京ドーム 岡嶋二人 |
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(2026/07/30 08:39登録) 東京ドームで開催された巨人対阪神の伝統の一戦で、一人の観客が突如倒れ死亡する。死因は南米産の猛毒「クラーレ」を塗った毒矢による刺殺だった。5万6千人もの観客がいる衆人環境でありながら、犯行の目撃者はいなかった。捜査が難航する中、同様の凶行が繰り返され緊迫感を増していく。 犯人の暴走した行動を中心としたパニックサスペンスとして読み応えはあるが、プロットはそれほど凝ったものではなく、トリックや構成の緻密さに物足りなさを感じた。 |
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| No.774 | 7点 | 赤い糸の呻き 西澤保彦 |
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(2026/07/26 09:16登録) バラエティに富んだ謎と論理が楽しめる5編からなる短編集。 「お弁当ぐるぐる」自宅で男性が新聞紙を握りしめたまま、死亡しているのを発見される。ぬいぐるみ警部の初登場作で、突飛でユーモラスな設定でありながら、ロジカルな謎解きが展開されるギャップが絶妙。 「墓標の庭」自宅の庭に幽霊が出ると相談を持ち込んだ女性。都築道夫氏の「物部太郎シリーズ」のオマージュ・パスティーシュ作品。思わぬ真相へ導かれるプロセスが鮮やか。 「カモはネギと鍋のなか」憧れの女性から誘いを受け、嬉しくなる男子高校生。しかし部屋で彼を待ち受けていたのは、彼女の死体だった。登場人物たちの思惑が複雑に絡み合い、互いに利用し合う構図が面白い。動機の組み立てが巧妙。 「対の住処」事件現場を捜査していた刑事が、窓の外に見える建物に対し、既視感を覚える。人間の生々しさや気味悪さが味わえる。 「赤い糸の呻き」結婚式場へ向かうエレベーターが停電で緊急停止した。明かりが戻ると乗客の一人が殺害されていた。密室トリックとフーダニットが高いレベルで融合しており、読者への先入観を巧みに利用したミスリードが印象的。人間関係の糸を解き明かしていくロジックも見事だが、何よりもラストのオチが素晴らしい。鳥肌が立った。 |
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| No.773 | 5点 | その意図は見えなくて 藤つかさ |
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(2026/07/22 08:20登録) 八津丘高校を舞台にした日常の謎をベースにした思春期ならではのほろ苦い感情に深く踏み込んだ5編からなる連作短編集。 「その意図は見えなくて」生徒会長選挙において、大量の白票が投じられた事件を清瀬諒一が解決に導く。人間のエゴや他者と比べてしまう高校生特有の心理が痛々しく描かれている。 「合っているけど、合っていない」陸上部の部屋が何者かによって荒らされる事件が発生。陸上部一年の染谷が謎を追う。真相は合っていても、動機やその背景にある感情を読み違えてしまえば、誰かを救うことは出来ないという少しビターな切なさが残る。 「ルビコン川を渡る」地域の陸上部の合同合宿において、他校の部員の一人が突然姿を消してしまう。自分の限界を感じて苦悩する様が丁寧に描かれており胸が締め付けられる。 「その訳を知りたい」中学時代にクラス内で起きた対立の本当の原因を2年の歳月を経て知ることになる。十代の頃の人間関係の危うさや言葉に出来なかった本音などが描かれ、ヒリヒリとした読後感をもたらす。 「真相は闇の中」文化祭実行委員室にあったパンフレットが、なぜかゴミの集積場に捨てられていた事件を追う。ある人物に対する清瀬の厳しい姿勢と、同様に自身に対する容赦ない姿勢が印象深い。 本作は地の文が説明的なので読みづらさを感じる。また登場人物それぞれに個性が感じられないため、誰視点なのか掴みにくい場面がいくつかあったのが残念。 |
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| No.772 | 6点 | 密閉山脈 森村誠一 |
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(2026/07/17 07:57登録) 冬の八ヶ岳で失恋を苦に自殺しようとしていた湯浅貴久子を、登山家の影山隼人と真柄慎二が救う。その後、影山と付き合うことになった二人は、婚前旅行としてK岳に出掛ける。「山頂から灯火を愛の信号にして送る」と麓で待つ貴久子と約束した影山だが、送られてきたのはSOSの信号だった。 まず作者が登山愛好家らしく、冬の北アルプスの峻嶮さや恐怖の描写がリアル。密室を建物ではなく、雪山そのものに成立させた発想が独創的。厳しい自然環境がそのままトリックの一部となっており、山岳小説と本格推理小説が見事に融合している。 心理戦と密室の裏に隠された罠。主要な登場人物が絞られているため、物語の早い段階で犯人の目星はついてしまうのは残念だが、追い詰められていく犯人とヒロインの心理の揺れ動きが見事。アリバイトリックの解明はもちろん読み応えがあるが、友情と恋愛、嫉妬、登山家としての名誉や野心が複雑に絡み合い、登場人物の心理描写にも厚みがある。雪山の美しさと恐ろしさが対照的に描かれ、人間の欲望の危うさを際立たせている。 |
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| No.771 | 7点 | 終章からの女 連城三紀彦 |
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(2026/07/13 09:05登録) 夫殺しの容疑を受けた主人公の小幡斐子は、かつての恋人だった彩木弁護士に弁護を依頼する。しかし彼女は無罪を主張するわけではなく、むしろ重い刑を受けたがっているようだった。彩木は彼女の態度に不審を抱きつつも、法廷闘争に挑む。 本作は単なるフーダニットに止まらず、斐子の幼少期の火災事故や複雑な家庭環境など、斐子の過去が明らかにされていくにつれ、予想もつかない反転を重ねる。この作品の魅力は犯人捜しよりも、ホワイダニットに重点が置かれている点。人間関係の感情のもつれが事件の核心にあるが、「なぜ斐子は自ら追い詰めるのか」という一点に読者の関心を集中させる構成が非常に巧み。 夫殺しの一件が片付いた後半、かつての事件とそっくりの事件が再び起こる辺りは、作者の独壇場というべき展開。妄想と脅迫観念ともつかぬトラウマを背負ったヒロインのキャラクターや日時表示へのこだわりが、やがて事件の反復に立ち現れていくサスペンスなど、そうした仕掛けはサイコスリラー趣向を増幅させるだけでなく、トリックの伏線ともなっている。 人間の心の闇と愛情の歪みを描く筆力はさすがで、謎解き以上の余韻が残る。濃密な心理描写と予測不能な展開が楽しめる本格的な心理サスペンス。 |
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| No.770 | 5点 | 死者が飲む水 島田荘司 |
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(2026/07/10 08:59登録) 札幌の実業家・赤渡雄造の自宅に2つのトランクが届く。その中に詰められていたのは、バラバラに切断された赤渡本人の死体だった。牛越刑事が捜査に乗り出すが、有力な容疑者たちには鉄壁のアリバイがあった。 刑事による粘り強い捜査を中心に描いており、牛越刑事が現場を訪れ関係者と出会い、少しずつ真実へ近づいていく。タイトルが事件の核心と結びつく構成は巧みで、医学的知識を伏線として生かした謎解きも読み応えがある。 とはいえ、聞き込みや移動を繰り返しながら少しずつ真相に迫るため、物語のテンポはかなりゆっくりで冗長に感じてしまう。牛越刑事も御手洗潔のような強烈な個性がないため、キャラクター性という点でも印象が弱い。時刻表トリックも好みではない。 事件の真相には強い哀しみがあり、派手さより人間の悲劇と執念深い捜査を味わいたい人にはお薦めできる。 |
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| No.769 | 4点 | ずっとあなたが好きでした 歌野晶午 |
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(2026/07/06 09:00登録) 恋愛をテーマにした13編からなる短編集。 「ずっとあなたが好きでした」中学生の大和は年齢を偽ってスーパーでアルバイトをしている。そこで知り合った三千穂と親しくなるが売り場の主任が二人の仲を妨害する。 「黄泉路より」事業の失敗と家庭崩壊で人生に絶望した五十嵐は、自殺サイトで知り合った男女と富士の樹海へ向かうが、同行者の智子に恋愛感情を抱く。 「遠い初恋」弓木は転校してきた弥生に憧れを抱く。そして弥生のネックレスが盗まれる事件が起きた。 「別れの刃」板橋継世は演劇サークルの先輩と恋に落ちる。 「ドレスと留袖」永嶌は妻の佐和子をストーカーの魔の手から必死に奮闘する。 「マドンナと王子のキューピッド」主人公のDJはラジオ番組へのネタ投稿を趣味にしている高校生。ある日、学校一イケメンの王子から美少女マドンナとの二人の恋の架け橋役を引き受ける。 「まどろみ」大学四年生の大輔は、就職が決まっていないことを理由に、友里の将来設計から逃げる。 「幻の女」主人公は街で見かけた女性に惹かれ、その後を追い酒場へ入る。やがて女性と言い争いになり、彼女を追跡するうちに見失ってしまう。その後、近くで発生した殺人事件の容疑者として疑われてしまう。 「匿名で恋して」主人公はインターネットの掲示板を通じて、ある女性と知り合い、やがて現実世界で会う約束をする。 「舞姫」十條は恋人のフランソワーズから紹介してもらったレストランで働いていたが、そのレストランで事件が起きる。 11話目の「女!」、12話目の「綿の袋はタイムカプセル」、13話目の「散る花、咲く花」で全貌が明らかになる。 甘酸っぱい恋、泥沼の愛、人生の終わりの恋など、多少ミステリ要素のある恋愛小説が続く。オチが読めてしまったり、「何これ」ぐらいの酷いオチだったりと途中で投げ出したくなった。だがこの作者のことだから、何か特別な仕掛けがあるだろうと読み進めていった。13話あるうち、11話目で「?」となり12話目から「そういうことだったのか」と巧さを感じたが、特別驚いたわけではなく、作者らしいなと思ったぐらいであった。 |
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| No.768 | 7点 | 盾と矛 方丈貴恵 |
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(2026/07/02 09:50登録) 罪を犯した者を絶対に逃さず有罪にする車椅子探偵・草津正守と、腕っぷしの強い助手の霧島平太郎。事件を隠蔽・捏造することで、依頼人である犯人を確実に無罪にする仕事人の氷見朱鳥ことヒミコ。 ある日、雪山の別荘で密室殺人事件が発生する。事件解決と思われた矢先、決定的な証拠が消失してしまう。一旦、謎が解けてから始まる上書き推理合戦。「犯人か分かってからが本番」という逆転の発想が新鮮で、一度完成した推理を敵によって物理的・論理的に壊された後で、どのように再び追い詰めるかという過程がスリリングで、多重解決ミステリの新しい形として楽しめる。 草津と霧島のコンビがとても魅力的である。草津は「悪運の持ち主」という設定とも併せ、名探偵でありながらその不完全さが人間としての魅力に繋がっている。一方の霧島は荒事を担当する実働部隊のような存在。この「知」と「暴」の役割分担が、一般的な名探偵ものとは少し違う読み味を生んでいる。 探偵、助手、仕事人の3人が中学時代の旧知の中であるという設定が、物語に深みを与えている。事件が進むにつれて明らかになる彼らの過去や、ヒミコの真の目的、そして最後に待ち受ける切なくも爽快な展開は、予想外で結末に心を動かされた。本格ミステリのロジックを楽しめるだけでなく、アクションやライバルとの対決といったエンターテインメント要素が非常に強い一冊となっている。 |
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| No.767 | 5点 | 42.195 倉阪鬼一郎 |
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(2026/06/28 09:22登録) エーデル貴金属に所属する無名のランナー・田村健一の長男が誘拐される。犯人からの要求は身代金ではなく、「東京グローバル・マラソン」で2時間12分を切れ」と言いう奇妙なものだった。田村にとっては、自己ベストに4分以上も上回るタイムだけに極めて高いハードルであり、なぜ犯人はその要求をするのか誰にもわからなかった。 マラソンのキロ数に合わせて全体が、42+0.195の四十三節に分かれているのも面白いが、読者への挑戦状代わりに作者がヒントを出す「給水ポイント」が3カ所も設けられているのが目を引くし、マラソンレースの進行と捜査の進行が並行して描かれるため、タイムリミットサスペンスとしての緊張感もある。そして事件はレースの進行とともに、ますます不可解で驚きの様相を見せ始めていく。 正体不明の犯人たちの目的が徐々に明らかになっていく構成だが、最後に明かされる真相は強烈。作者はバカミスの旗手として有名だが、さすがに真相が斜め上すぎる。給水ポイントを読み返せば、フェアな表現を心掛けていることがわかるが、人によっては壁本になりかねない作品である。 |
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| No.766 | 7点 | 黄昏の囁き 綾辻行人 |
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(2026/06/25 07:55登録) 津久見翔二は、兄の急死の知らせを受けて帰省する。事故死と聞かされていたが、事件に巻き込まれた可能性があると知り、元予備校講師・占部直毅の協力を得て独自に真相を追っていく。 調査を進める中で、兄の友人たちが「ね、遊んでよ」という謎の言葉と共に残忍な方法で次々と殺害されていく。翔二の兄の死とこれらの殺人事件、そして自身の幼い頃の封印された記憶の闇に深い関わりがあることに気付いていく。 序盤は兄の不審死をめぐる調査ミステリとして進むが、中盤以降は幼少期の記憶の断片が少しずつ蘇り、ミステリの謎解きと過去の記憶が紐解かれていくホラー的な恐怖が味わえる。伏線の配置も見事で、「あの描写はそういう意味だったのか」と後から気づかされる場面が多くある。本作では怪奇現象よりも人間の悪意や罪悪感が恐怖の中心に据えられており、子供の残酷さや過去の行為が長い年月を経て大きな悲劇を生むというテーマは非常に重く、単なる犯人探し以上の後味を残す。謎解きミステリの要素は控えめながら、心理的不気味さや郷愁を伴う恐怖が魅力的なホラーサスペンス。 |
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| No.765 | 8点 | 魔法使いが多すぎる 名探偵倶楽部の童心 紺野天龍 |
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(2026/06/21 09:58登録) 人を不幸にしない名探偵を目指す来栖志希と、その助手となった瀬々良木白兎。彼らのもとに、自らを魔法使いと信じる聖川麻鈴から、10年前に起きた師匠の不可解な死「白ひげ危機一髪殺人事件」の真相を解明してほしいと依頼される。 この事件に、それぞれ異なる魔法分野に長けた姉弟子たちが、次々と自分が殺したと自白するという異常事態に陥ってしまう。現実世界と魔法世界が入り混じるような不可解な状況の中、名探偵・来栖は「依頼人を信じぬく」という信念を胸に、論理の力で姉弟子たちの偽りの自白を見破り真相へ迫っていく。 依頼人の幼少期で見聞きしたものは、実際には何だったのか。魔法で殺害されたように思えた被害者にどんなトリックが使われたのか。依頼人の救いのための謎解きを行う来栖志希と、真実を明らかにするための謎解きを行う金剛寺煌の二人の探偵の謎解き合戦が読み応えがあり、どんでん返しが連続する後半の展開が素晴らしい。ファンタジーと錯覚させる前半の描写から、現実的なトリックへと着地させる手際が鮮やか。本作は不可能犯罪と多重解決がうまく融合されており、それぞれの矛盾をロジックでついていくプロセスが見事。優れた本格ミステリ小説であるとともに、爽やかな青春小説であり、可愛らしいキャラクター小説である。 |
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| No.764 | 6点 | 死の絆 赤い博物館 大山誠一郎 |
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(2026/06/17 07:44登録) 警視庁付属犯罪資料館の館長である緋色冴子と部下の寺田聡が、過去の未解決事件を資料や遺留品から再検証して真相を暴く赤い博物館シリーズの第3弾で6編からなる連作短編集。 「三十年目の自首」ある男性が警察に出頭し、「自分は30年前の殺人事件の犯人だ」と自首する。なぜ今になって名乗り出たのかが不可解だった。心理的な謎が中心となっており、論理的推理と読後に余韻の残る構成が印象的。 「名前のない脅迫者」交通事故で炎上した車のトランクから死体が見つかる。しかし車の持ち主の妻は、トランクに入っていた人物の正体を明かそうとしない。誰もが知っているはずの情報をなぜ隠すのか、という点から推理が展開されるのが巧み。 「3匹の小ヤギ」深夜のコンビニで強盗事件が発生し、犯人は自殺する。小さな違和感が大きな真相に繋がる。事件の構造がパズルのように整理されていく過程が魅力的。 「掘り出された罪」工事現場から過去の事件の凶器が、偶然発見されたことから再調査が始まる。この話の魅力は、証拠の再解釈。同じ証拠でも見方を変えると意味が変わるという本格ミステリの醍醐味が味わえる。 「死の絆」ホームレスの男性と国会議員が同じ場所で殺害される。社会的立場が全く異なる二人の間にはどのような接点があったのか。推理の爽快さと人間の因縁を組み合わせたバランスの良い作品。 「春は紺色」緋色冴子が警察学校にいた頃のエピソード。警察学校の中で、眼鏡とアイロンが盗まれる事件が発生する。彼女の原点が描かれており、シリーズファンには興味深く読めると思うが、推理が飛躍しすぎていると感じた。 |
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| No.763 | 7点 | 共犯者(新潮文庫版) 松本清張 |
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(2026/06/14 07:56登録) 犯罪に手を染めた人間の不安、欲望、虚栄心を描いた10編からなる短編集。その中から6作品の感想を。 「共犯者」内堀彦介は、家具デパートの社長として成功を収め名声と地位を手に入れたが、その商売の元手となった資金は町田武治と共謀して銀行を襲い強奪した金だった。過去の罪という目に見えない鎖に縛られ、自ら墓穴を掘っていく人間の心理が見事に描かれている。 「恐喝者」大雨による川の氾濫に乗じて拘置所から脱走した湊太は、脱走の途中で溺れかけていた多恵子を救い出す。その後、偶然多恵子と再会し彼女の弱みに付け込んで恐喝をするようになる。一度、簡単に金を手にできる味を占めるとどこまでも邪悪な者へと堕ちていく生々しさが恐ろしい。多恵子側にも秘密を守りたいという弱みがあり、その心理的な間を突く作者の冷徹な観察が光る。 「愛と空白の共謀」夫が急死した一年後、章子は生前から不倫関係にあった福井秀治と旅行に出掛ける。飛行機の搭乗手続きのやり取りや、機内で見かけた女性客から夫の急死の裏に隠された真相に気付き始める。日常の何気ないディテールの変化から、過去の犯罪の構図がパズルのように組み合わさっていく展開がスリリング。 「発作」田杉は仕事でのミス、病気で療養している妻への仕送り、借金、愛人関係などストレスが限界に達したある日、ある些細な出来事が殺意へと結びついてしまう。日常生活のストレスの積み重ねが発作的な狂気へと変わる恐怖が描かれ、重苦しい現実味と余韻を残す。 「青春の彷徨」大学教授の娘・佐保子と教授の教え子である木田は、周囲から交際を禁じられたことで思いつめ心中を決意する。ロマンチックな美しい死に憧れる若者特有の心理と、過酷な現実、本能的な生の対比が見事。 「潜在光景」浜島はある日、幼なじみの泰子と再会する。夫に先立たれ、外交員をしながら息子の健一と暮らす泰子の美しさに惹かれた浜島はやがて彼女と深い関係になる。しかし、泰子の家を訪れるたびに健一の冷たい視線が浜島を苦しめる。誰もが目を背けたい過去の罪悪感やトラウマが子供の無垢で冷徹な視線に呼び覚まされ、自ら精神的に狂気へと追い詰められていく描写は息をのむ怖さである。 |
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