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ミステリの祭典

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それは令和のことでした、

作家 歌野晶午
出版日2024年04月
平均点6.33点
書評数3人

No.3 6点 パメル
(2025/08/16 19:12登録)
令和時代の社会問題を鋭く切り取り、陰鬱な展開や心理描写に思いがけない仕掛けを秘めた、全8編(7つの短編と1つの掌編)からなる短編集。
「彼の名は」主人公の船橋太郎の母・和世は、世間の多数派に異を唱え、新しい価値観を見出そうとしている女性。息子に対しても本人の意思など構わずに胸元や袖口がフリルになったシャツやスカートで小学校に登校させる。当然のごとく太郎はいじめを受ける。早い段階で物語の前提の「何か」がおかしいと感じるが、その「何か」が言及されないまま進行するので、奇妙な読み心地に包まれる。オチは、現代の親子関係やジェンダー問題を鋭く突いている。
その他にも、良かれと思っての行為が全て裏目に出る「有情無情」、ひきこもりの姉と対立するようになった青年が主人公の「わたしが告発する!」など、現代の価値観を皮肉に扱いつつ、ブラックな余韻に突き落とす作品が多い。「彼の名は」や、母に厳格な育てられ方をした女性が自身の娘に対しても同じ行為を繰り返してしまう「死にゆく母にできること」、読後感という点では、収録作の中で異色の「彼女の煙が晴れるとき」などのように、作中の出来事の背景には歪な親子関係がある場合が多いのも本書の特色だ。
ミステリとしての秀逸さで際立つのが「君は認知障害で」。日雇い労働者の苛酷な現実と、そこに潜む犯罪の真相。暗号解読の要素もあり、満足できる仕掛けが詰まっている。「死にゆく母にできること」のホワイダニットの要素も強烈。ラスト一ページの切れ味が鋭いのが「無実が二人を分かつまで」。社会派的なテーマ性と、ミステリとしての完成度が両立している。

No.2 6点 take5
(2025/07/31 11:31登録)
葉桜など、作者が叙述に凝る作品と比べれば、
それは小粒な短編集ですが、まあ叙述の反転を
楽しもうと思えば楽しめるかなと。出来事が、
令和を象徴する事かというと首を傾げますが、
まあ東雲や辰巳の描写はそうかなと納得です。

No.1 7点 虫暮部
(2024/08/29 13:10登録)
 本当にありそうな怖い話々。“題材” を “物語” にする技には安定感がある。但し突出した部分は見当たらないし、“近年社会問題化した事象を織り込む” と言う狙いが、こうやって一冊にまとめてしまうと約束事めいて少々鼻に付く。

 「わたしが告発する!」。死体が発見されなければ起訴も無いのだから、投了には早過ぎると思う。でも気持が折れちゃったんだね。

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