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ミステリの祭典

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豪球復活

作家 河合莞爾
出版日2022年09月
平均点8.00点
書評数1人

No.1 8点 人並由真
(2022/10/25 16:35登録)
(ネタバレなし)
 驚異の天才投手と評価されながら、左腕を故障していつのまにか失踪した、プロ球団「東京ティーレックス」の矢神大(27歳)。同チームのブルペンキャッチャーの沢本拓(27歳)は出先のハワイで偶然に、記憶を失っていた矢神を発見し、日本に連れ帰る。過去の自分を失い性格も別人のように変貌していた矢神は、なぜか左腕の故障も完治し、以前にも勝る豪速球を投げられるようになっていた。そんな矢神の球界復帰を親身に支援する沢本。だが矢神たちの前にはいくつもの難事が立ちふさがり、そんななか、矢神は記憶を失う前の自分が残していたと思しい、あるノートを見つけた。そこに書いてある、過去の殺人の事実らしき記述。そしてそんな矢神と沢本の前に、ひとりの男が接近してくる。

 厚い! 一晩で読めるかと思ったが? 正に豪速球のような加速感に突き動かされ、数時間でいっきに読了。
 良い意味での昭和の作りこまれた大衆小説的なストーリーテリングの勢いを感じさせる長編で、その辺はシドニイ・シェルドンのA級作品あたりを思わせる(さらに、コレはホメ言葉として使うが『おそ松くん』(少年サンデー版)の後期中編路線とか、アニメ版『アタック№1』のクライマックスとかを随所で連想した)。
 通俗的な悪役も、胸を打つ感涙シーンも盛りだくさんの激熱の野球小説だが、同時にミステリとしてもいくつかの長所において、とてもよく練られた作品である。最高に面白かった!

 実のところ、あ、作者はここで泣かせに来てるな、と思う所も少なくないのだが(汗)、しかしそんなことを考えながらも、結局は、作中の登場人物たちの心の機微や熱誠に屈して目頭を熱くしてしまう。少なくとも評者にとってはそんな作品でもあった。
 そして重ねて言うが、そんな傍らでミステリ要素(特に広義のホワイダニット)の部分で、唸らされたポイントも相応にある。
(ちなみに過去の殺人事件の被害者とか事件までの経緯があまりにも類型的すぎるのは、個人的にはノーカンである。そういうところで減点する種類の作品ではないと思うし、終盤の沢本の視点で、ある種の相対化もなされているので。)

 現実のプロ野球なんてこれまでの人生で通算1時間も観たことのない評者(野球ものの漫画やアニメ、実写ドラマの、それぞれ出来のいいものなら大好き)だが、最後まで実に面白く読めた。
(読後にTwitterで感想を探ると『方舟』よりも良かった、と言ってる人もいるみたいで、それはそれで大きく頷ける。まあ作品の形質はだいぶ違うとは思うが、満足感はともに大きい内容というのは同感。)

 各誌の今年の国内ベストの上位3に入ることはないだろうけど、10位内には絶対に入ってほしいなあ。『燃える水』も『ジャンヌ』も良かったけれど、この数年の河合作品の安定・好調ぶりは嬉しい。9点に近いこの点数で。

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