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ミステリの祭典

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木挽町のあだ討ち

作家 永井紗耶子
出版日2023年01月
平均点8.33点
書評数3人

No.3 8点 まさむね
(2024/05/03 07:58登録)
 舞台は江戸。木挽町にある芝居小屋のそばで、若衆による仇討ちが成された。その2年後、別の若侍が木挽町を訪れ、芝居に関わる複数の者たちから事件に関する話を聞いて回る…。
 それぞれの語り手によって次第に事件の背景が見えてくる構成自体は、特段目新しいものではありませんが、それぞれの半生をも語らせているところがポイントで、グイグイ読まされます。結末は想定しやすいかもしれませんが、既にそういった視点のみで読ませていない上手さがあります。
 純粋に良い小説を読ませていただきました。直木賞と山本周五郎賞のW受賞も納得です。

No.2 9点 ALFA
(2023/08/01 11:47登録)
掛け値なしに面白い。
ミステリーとしてはオーソドックスなプロット。クリスティの「5匹の子豚」のような構成美。
語り口は宮部みゆきにも似ているがさらに薄口で滑らか。とても読みやすい。

委細は人並由真さんの丁寧な書評に尽くされているのでそちらを・・・

No.1 8点 人並由真
(2023/07/31 07:59登録)
(ネタバレなし)
 時は老中・松平定信が行政を改革した時期の江戸時代。今から2年前の雪の日に、芝居小屋が立ち並ぶ木挽町(こびきちょう)で、森田座の下働きだった美青年の若侍・伊能菊之助が父の仇を討ちとった武勇伝は今も語り草になっていた。そんなある日、ひとりの人物が、関係者を訪ねて歩き、当時の状況についての詳細を聞いて回る。

 今年の新刊で、直木賞と山本周五郎賞の同時受賞の話題作、ということで関心が湧き、読んでみた。

 名前の出ない狂言回しの主人公? が、縁ができる人脈を順々に辿って5~6人の関係者を訪ねて回る「舞踏会の手帖」みたいな構成だが、江戸の風俗や当時の文化事情などを仔細に書き込んだ各章は、ひとつひとつが連作短編的に読み手を楽しませる。

 関係者のそれぞれが聞き手役の主人公に、個々の立場からの若侍・菊之助との関係性を語り、そして関係者自身の半生を流れのなかで口にする。特に後者の部分は短くも長くもない紙幅のなかで、各自のコンデンスな人間ドラマが綴られる。この要素が積み上がっていくのが本作の大きな賞味部分だが、しかし物語は最後まで読んで、さらにまた一皮二皮、剥ける。

 決して斬新な作法やギミックを採用しているわけではないが、丁寧かつよく練り込まれた仕上がりで、一冊丸々、心地よく楽しめた。

 未読の方へのネタバレは極力控えたいので、読後の後味の方向性もここでは割愛するが、一冊まとめて上質なエンターテインメントであり、人間ドラマミステリであった。確実に、今年の収穫といえる一作になるであろう。

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