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ミステリの祭典

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HORNETさんの登録情報
平均点:6.34点 書評数:1234件

プロフィール| 書評

No.1234 7点 妻はりんごを食べない
瀧羽麻子
(2026/06/28 23:23登録)
 40代に入った小川暁生は、妻と二人の生活を気に入っている。ところがある日、妻が実家に行ったきり、戻ってこない。京都にある彼女の実家を皮切りに、彼女に縁のある場所を探る暁生だったが、どこへ行っても、彼女は気配だけ残し、姿は無い。見知らぬこの地で彼女は何をし、どんな顔を見せていたのか?遠く離れた土地と土地を結ぶ“線”には、どんな秘密があるのか?
 そもそも彼女は無事なのか?穏やかすぎる夫婦に突然訪れた、愛のゆらぎの物語。(Amazon書籍紹介より)

 お互い何の不満もなく、周りも認めるほど仲睦まじく結婚生活を送っていたはずの夫婦。そう思っていたのは自分だけだったのか―?妻・玖美の行方を追う中で、暁生は妻のことを何も知らなかったことを思い知らされる。順に明らかになっていく「知らなかった妻のこと」が、読み手をどんどん作品に引き込んでいき、一方で失踪(連絡はつくので正確には違うが…)の真意についての謎はどんどんふくらんでいく。
 「このミス」2026年版で「ジャンル外の注目作品」として紹介されており、興味を惹かれて読んだが、十分にミステリである。


No.1233 5点 濱地健三郎の奇かる事件簿
有栖川有栖
(2026/06/28 23:10登録)
前日に自殺したはずの女性を旅先の電車で見かけ、恋に落ちた男性。ホテルのある部屋に現れる少女の幽霊。死んだはずの常連客が露天風呂に現れる老舗旅館。直前に殺されたはずのミュージシャンを、事件後に目撃したという女子高生。説明できない怪異の謎を、「心霊探偵」濱地健三郎と助手の志摩ユリエが解き明かす、七編の短編集。

 いたってありがちな心霊話を描いた小噺みたいなものもあり、毛色や質もさまざま。なかには心霊現象でもなく、濱地が解くこともなく終わる話もあり、小粒な作品を集めた短編集という感じ。だから読み易いと言えば読み易い。
 ストーリー的には「ある崩壊」、ミステリ色でいえば「目撃証言」、ホラーテイストでいえば「怪奇にして危険な状態」がそれぞれよかった。


No.1232 7点 ビブリア古書堂の事件手帖V ~扉子と謎めく夏~
三上延
(2026/06/17 22:39登録)
 その夏、不在中の両親に代わり、ビブリア古書堂を任された少女。美しい女店主とよく似た顔立ちで、本への好奇心と洞察力も母親譲り。だが異なるのは表情豊かで物怖じしないその性格。特殊な依頼に首を突っ込まぬよう少女の監視役を任された少年は、持ち込まれた古書に秘められた謎を、少女が鮮やかに解き明かしていく姿を目の当たりにする。戦時中ある男を救った『シャーロック・ホームズの饋還』と、残されたいたずら書き。
 真夏の鎌倉を駆ける「探偵と助手」の物語が始まる――。
(KADOKAWA書籍紹介より)

 作者の「あとがき」に書かれていたが、本シリーズも第1巻が刊行されて15年。時のたつのは(歳を取るのは)早いものだ…
 シリーズ開始当初、世間で話題になった本作だが、その熱も過ぎ去り、今も続いていることを知る人のほうが少ないかも、という現在。だがそんな世間の人気の起伏に全く惑わされることなく、粛々と書き続ける作者の姿勢(勝手な推測だが)がよい。変に「前作を越えなければ」とか「もう一度世間を振り向かせたい」とかいった気負いがない(勝手な推測だが)カンジが、安定のクオリティを保ち続けている気がする。


 今回は3話のエピソード(事件)。込み入ってはいたがミステリ的にかなりよかったのは2話目「森山大道 『写真よさようなら』」かな。(どれが本物でどれが復刻版なのか、ややこしいきらいはあったものの…)3話目も、疑われていた娘の見方が反転する件は面白かった。
 まだまだシリーズは続くとのこと。楽しみだ。


No.1231 8点 沈黙と爆弾
吉良信吾
(2026/06/08 00:07登録)
 熊本県警警務部監察課の阿玉清治は、家族の不祥事がもとで出世の道を断たれ、首席監察官からの指示を無難にこなす"お掃除ロボット”と揶揄されて過ごす日々だった。ある日、所轄の刑事が民間人に暴行を働いたという事案の調査を命じられる。警察の威信に傷がつかないよう落としどころを探るという、いつもの"汚れ仕事”だったが、時を同じくして、熊本地震をきっかけに失声症を患っている小学生の息子に、動物殺しの容疑がかけられる。息子の無実を信じながら、与えられた事案の調査を進める阿玉だったが――。

 物語は、警察内部の非違事案の調査と、阿玉の息子にかけられた動物殺しの嫌疑との2本のストーリーが軸になっているが、どちらも熱く面白い。
 「動物殺し」の真相のほうがミステリらしい魅力があり、なかなかの意外な犯人だった。さらにそちらには阿玉の「家族の物語」もあり、心を打つものがあった。
 非違事案調査のストーリーは、組織を守ろうとする警察VS主人公の矜持という、警察小説では非常によくある構造ではあるが、主人公・阿玉の人物的な魅力もあり、力のある物語だった。
 


No.1230 6点 シスター・レイ
長浦京
(2026/06/07 22:00登録)
 予備校の英語講師・能條玲は、東京墨田区の外国人たちの相談役的存在で、「シスター」と慕われている。地域柄、暴力団や外国人半グレ集団も関わって来るトラブルの解決に乗り出す彼女には、元フランス特殊部隊のエースという経歴があった。ある時、フィリピン出身の友人女性からの頼みで彼女の息子を探すことになった玲は、そこから相次ぐトラブルに次々に巻き込まれていく。やがてそれは、中国やベトナムの犯罪組織が絡んだ、国際的な陰謀の渦中につながっていく―

 卓越した武闘能力をもつ元傭兵の女性が、警察や国際的犯罪組織を相手に体を張って闘うというバイオレンス。屈強な男たちをなぎ倒す主人公の活劇シーンも多く、エンタメとして楽しめる作品。
 外国人界隈で起きている不穏な動きを、裏で操っている”Um Mundo”の正体が物語のキーになっているが、作品の中盤くらいで容易に想像がついたし、その通りだった。
 さまざまな組織が入り組んで関わってくるので、その図式を理解するのにやや苦心するが、映画のような分かりやすい(ベタかもしれないが)ヒロイン像を素直に楽しむことができた。


No.1229 4点 夜と霧の誘拐
笠井潔
(2026/05/25 23:32登録)
 矢吹駆とナディアがダッソー家での晩餐会に招待されたその夜、運転手の娘・サラがダッソー家の一人娘・ソフィーと間違えて誘拐される。犯人からの連絡で、身代金の運搬役に指名されたのはナディアだった。ナディアが身代金の受け渡しに奔走する同じ夜、カトリック系私立校の聖ジュヌヴィエーヴ学院で女性学院長の射殺体が発見される。その殺害された女性学院長の夫は、なんと誘拐犯だったことが分かり、二つの事件の関連が疑われることになる―

 特に”二重誘拐” の手口には感心させられたし、学院長殺害の不可思議状況も興趣が高まるものだったが、いかんせん(不必要に)長い。特に駆と女性教授の、ナチスや第二次世界大戦後のフランスに関する議論は本筋には全く絡んでこないのにも関わらず結構紙幅を割いていて、読むのが面倒だったので飛ばした。
 おそらく本シリーズの愛読者とそうでないのとで評価が分かれるのではないか(自分は後者)。


<ネタバレ>
 正直、誘拐事件の結末を見たときにうっすらと「真犯人では…」と思っていた。さらに、真相が1分を争う綱渡りのような道筋で、不可思議状況を作るために無理筋を通しているような感じもする。
 ここまでが高評価で恐縮だが、自分の正直な感想。


No.1228 7点 普通の底
月村了衛
(2026/05/25 22:59登録)
 ある青年から届いた手紙。そこには幼少期から「普通」を願って生きてきた半生が綴られていた。教育熱心な母親、少し距離のある父親、一般的な友達付き合い。多少の挫折はあっても、彼は「普通」の軌道に乗り続けているはずだったのに―。高校時代の同級生からの、ひょんな誘いをきっかけにその歯車が狂っていき、行きついた先は―僕が悪いのでしょうか?ただ「普通に」生きたかっただけなのに…

 主人公の「手記」ともいえる手紙で、少しずつ歯車が狂い始めていく半生を描く物語は、取り立てて特異なものではないかもしれないが、昨今の世情も反映した内容で読ませるものがある。特に主人公の転機となった高校3年時のエピソードは、「波風立たせずにうまく乗り切ろう」とした悪意のない処世術が、のちのち自分の首を絞めていく結果になり、同情を覚えてしまうところもある。
 要所要所で確固たる自分の意思を示せなかった主人公にも罪はあるかもしれないが、積極的に悪に加担しようとしていないはずなのに引き返せないところまで行ってしまう、その構図を巧みに描いていて、非常に興味を惹かれる一作だった。


No.1227 6点 白魔の檻
山口未桜
(2026/05/25 22:09登録)
 研修医の春田は実習のため北海道へ行くことになり、過疎地医療協力で派遣される城崎と、温泉湖の近くにある山奥の病院へと向かう。ところが二人が辿り着いた直後、病院一帯は濃霧に覆われて誰も出入りができない状況になってしまう。そんな中、院内で病院スタッフが変死体となって発見される。さらに翌朝に発生した大地震の影響で、病院の周囲には硫化水素ガスが流れ込んでしまう。そして、霧とガスにより孤立した病院で不可能犯罪が発生して──(Amazon紹介文より)

 硫黄ガスが徐々に溜まっていき、生存のタイムリミットが迫って来る極限状況で起きる不可解な殺人、という設定・雰囲気は好み。病院の隠された黒歴史、そこにすべての因果があるだろうと推察されるものの、誰が?何のために?はなかなか見えてこないという展開もまずまずだったが、建物の構造や、人物の行動の時系列といった物理的なロジックが入り組んでくると、だんだん追うのが億劫になってしまうというのも正直あった。
 だから結局、城崎医師が真犯人にたどり着いたロジックは正確には理解できていない。”まぁ、その辺はいいから真相を早く教えて”みたいなカンジになってしまった。


No.1226 6点 殺める女神の島
秋吉理香子
(2026/04/30 22:19登録)
 リゾートアイランドに集められた、外見と内面の美を競い合うコンテストの最終候補者。メンバーは女子高生モデル、経営者、小説家、医師、シェフ、インフルエンサー、大学院生の七人。これから二週間、互いを知りながら、高め合いながら、助け合いながら、最終選考の準備を行う。その日々を見守ってグランプリを決めるはずだった主催者が、二日目の朝、瀕死で見つかった。次々と殺人が起きるなか、巧妙に隠された参加者たちの「嘘」も明らかになっていく――。この中で、一番嘘つきの殺人鬼は誰?(JPROより)

 いわゆる「絶海の孤島モノ」だが設定がなかなか面白い。連続する事件の途中までは「これも審査の一つなのだろう」などと勘違いしていたある候補者の姿など、展開の中にも面白さがある。
 ただ真相はちょっと飛躍しすぎて、もう少し現実的な路線で意外性を期待していたところがあった。
 女性同士の本性がぶつかる作風は、十分に作者らしかった。


No.1225 5点 あいつらの末路
真梨幸子
(2026/04/30 22:07登録)
 熟年結婚をした朝美のところに、友人のフリーライターの景子から「助けて」というメールが送られてきた。婚活サイトで出会った夫と、郊外のニュータウン「ハワースの丘」で幸せに暮らしているはずだった彼女の身に一体何が? 朝美は、馴染みの雑誌編集者・睦代と共に、景子を訪れることにする。ところが景子には会えず、そこで出会った「ハワースの丘」に住む女子高生とともに、おかしな事態に巻き込まれていく―

 熟年世代御用達の婚活サイト、捨てきれないセレブ生活へのあこがれ、女性同士の見栄の張り合い、ロマンス詐欺…いかにも作者らしい題材の、作者らしい展開の物語。
 思慮深さと安っぽさを併せもった女性の心理描写は、浅薄で俗っぽいけど逆にそれがリアルかも。しかし展開がぴょんぴょん飛んで薄っぺらく、心理描写も安っぽい感じなのは否めない。
 その分あっという間に読めて、エンタメとして面白く読むのには差し支えない。


No.1224 5点 死亡フラグが立ちました!
七尾与史
(2026/04/27 11:23登録)
 ここまで辛口の評価が続いているが、まぁそれも分かる。
 自分は途中からそういうコンセプト(バカミス?)の作品だと割り切って読んだから、それなりに楽しめた。
 とはいえ、プロバビリティの犯罪と言い切ることも難しいくらい、偶然の積み重ねによってつながる細~い線に頼った犯罪は、やはり現実的にはあり得ないカンジ。
 ヤクザ・松重さんの結末も、調味料の件が前半からことさらに描かれていたことでほとんど予想がついていたし。
 コメディ的なスタンスで軽く読む分にはアリだとは思う。


No.1223 5点 霧笛の余韻
森村誠一
(2026/04/27 11:10登録)
 新進作家の白沢幸樹は、北海道の旅先で出会った女性・絵里村多鶴子に魅力を感じながら、同時に死を思わせるような儚さも感じていた。旅先で別れた二人だったが、やがて帰京後白沢が連絡を取ろうとすると、多鶴子は帰ってきていないという。そこから多鶴子の双子の妹・志鶴子と共に、多鶴子の行方を捜すことに…


 事件の真相・真犯人が、ラスト直前になって脈絡なく突然明かされるので驚いた。真相自体はおおむね予想していた範疇ではあったが、白沢と志鶴子の関係の行方という点でも興味が惹かれるところはあったので、全体としては楽しめた。


No.1222 8点 アンジェリック
ギヨーム・ミュッソ
(2026/04/27 10:58登録)
 パリ・オペラ座バレエ団の元トップダンサー、ステラ・ぺトレンコが6階の自宅アパルトマンから転落した。警察は事故と判断したものの、ステラの17歳の娘・ルイーズは、殺人ではないかとの疑いをもち、元刑事タイユフェールに調査協力を依頼する。はじめは調査に乗り気でなかったタイユフェールだが、ステラの上階に住む画家も同時期に病死していたことが判明する。その青年画家は、実はイタリアの格式ある家系の跡継ぎでだった。事件性はないと思われた二つの死に疑念が生まれ始める―。

 第Ⅱ部“アンジェリック・シャルベ”の章から事件の意外な枠組みが見え、物語が一気に面白くなっていく。さらに、タイユフェールの過去、離れることになった想い人など、さまざまな伏線が物語のラストに見事なまでに結びつき、多少の出来過ぎ感はあるものの、読み手を充分に満足させてくれる面白さ。
 期待に違わぬ驚きを与えてくれる作家だと思った。


No.1221 8点 イーストレップス連続殺人
フランシス・ビーディング
(2026/04/27 10:39登録)
 イギリス、ノーフォーク海岸沿いの風光明媚な地、イーストレップスで、老婦人が友人宅を訪れた帰りにこめかみを刺されて殺害される。戦慄する住民たちを尻目に、続けて第二、第三の殺人が同様の手口で繰り返され、街は謎の殺人鬼「イーストレップスの悪魔」の影におびえることになる。
 同じ時期、実業家のロバート・エルドリッジは、人妻マーガレットとの道ならぬ恋のため、毎週イーストレップスの彼女のもとへ忍んできていた。が、ある時、殺人が起きる時と、エルドリッジがマーガレットのところに忍んで来る時とがいつも重なっていることに気付く。殺人事件の起きるタイミングで、いつも人目を避けて行動していたことになり、エルドリッジに疑いの目が向けられていくが―


<ネタバレあり>
 風光明媚な会が員沿いの街で起きる謎の連続殺人。本格黄金期らしい舞台、作風である。次々と起こる殺人の直接的な動機が全く見えないが、おそらく物語の背景にある過去の詐欺事件が関与しているのでは…と推察しながら読み進める。
 ところが、最後に示された真相、犯人の動機はまったく違うところから飛んできた。自分としてはいい騙され方だった。
 前半はエルドリッジ視点で書かれる章が多く、道ならぬ恋にひたむきに進む彼に感情移入しそうなのだが、設定としては彼は過去に非道な罪を犯しているわけで…なんだか気持ちのもっていきどころが難しかった。


No.1220 7点 スピーチ
まさきとしか
(2026/03/24 22:15登録)
 札幌、豊平川の川岸で見つかった女性の遺体。遺体は目に”黒テープ”が貼られており、それは8年前に近隣市で起きた女性殺害事件と同じ状況だった。札幌・澄川警察署の刑事、天道環奈は、 その上司であり〝人の不幸が見たい〞緑川ミキと組んで捜査にあたる。その捜査中、署で苦情を言い立ててる中年女性を目にする。女性が言うには、隣家に住む母子の挙動が怪しいという。それは、40代の引きこもり息子と70代の母親が住む家だった。



<ネタバレ>
 要所要所で挟まれる”母親の手記”。我が子が人を殺し、その隠匿に加担したという悔恨を語る内容で、当然”引きこもり息子の母”のように見えるのだが、ミステリに読み慣れ、しかも作者の作風を知っている以上は、その想像を裏切る展開になることはある意味目に見えている。
 で……案の定。
 だが、「では、その先は…?」の行方はなかなか奇想天外で、予想だにできない(できるわけもない?)モノで、いずれにしろ読み進めるのは楽しかった。
 さらに、一旦着地したかに見えたあと、もう一段積み重ねられていて、そここそが最も衝撃的でもあり、最後まで楽しませてもらえる、作者らしい作品だった。
 主人公の上司(相棒)である緑川のキャラもいい。
 いろんな色や要素が盛り込まれているが、複雑ではなく全体的に楽しめた。


No.1219 6点 ルーカスのいうとおり
阿津川辰海
(2026/03/22 21:00登録)
 2年前に母親を亡くした小学5年生のタケシは、残された父と2人暮らし。そのことから立ち直れず、新しいパートナーを得ようとする父に反発を感じていたタケシはある日、編集者だった母親が担当した児童書『どろぼうルーカス』のぬいぐるみを川原で拾う。母との大事な思い出、ルーカス、だがそれを持ち帰ってから、タケシの周りでおかしな出来事が連続する。タケシが「いなくなってほしい」と思い、そのことを口にした途端、その人が事故や殺人に遭うのだ――ルーカスには呪力があるのか?恐れおののくタケシにその真相が明かされたとき――


<ネタバレ>
 "人形”ネタの典型的なホラーでありながら、当然それそのままではない”ミステリ”ではある。とはいえ、人形に呪念がこめられているというホラー設定は生き。
 主題は、”ルーカス”には誰の呪念がこめられているか?ということ。そういう意味ではフーダニット(?)。まぁ、物理的手がかりをもとに犯人を絞り込んでいく、というものではないが。だから読者は、物語の舞台設定や背景から、それを推理(?)していくカンジになる。
 人形が意志をもって現実の人たちを殺す―と、まぁホラーではあるあるの設定ではあるが、やはり雰囲気はあり、上記の謎解き要素が入っていることでなかなかに面白い。
 ただ、王道の本格を書く作者の他作品に比すると、好みもあってそちらに軍配が上がるカンジにはなってしまう。
 とはいえ普通に十分面白いとは思うので、お薦めできる作品ではある。


No.1218 6点 断罪
石川智健
(2026/03/22 20:35登録)
 警視庁捜査一課の青山陽介は、ある事件で捜査本部の誤りを正して真犯人を突き止め、その働きを認められ、不審な行方不明事件が続く武蔵野東警察署への出向を命じられる。そこで出会った検案医、夏目塔子は若くして所轄から絶大な信頼を得る存在だったが、その検視結果青山は違和感を抱く。青山は、抜群の推理力を発揮する親友・小鳥冬馬に逐次事件捜査の相談をする。その助けを得て青山が辿り着いた戦慄の真実とは―

 組織的に秘匿された真実の真相を、順に紐解いていく展開はなかなか読み応えがあり楽しかった。昨今話題の”陰謀論”さながらに、歪んだ(?)正義感のもと集まった秘密組織のからくりはかなり現実味がないものの、その分読者の衝撃をもたらす体にはなっていると思う。
 まぁ、「現実味がない」と感じるこちらの感覚がまっとうなのか、実際そういう”闇”は現代社会に本当にあるのか―わかりはしないけれど。


No.1217 7点 マザー
乃南アサ
(2026/03/08 22:39登録)
 認知症になった義父・義母を明るく世話し続ける母、うつ病で社会を挫折した60代の息子を抱える母、勘当同然に家を飛び出し男のもとへ行った娘の出戻りを迎える母、妻子持ちの男性と、不倫を経て結婚した母、子どもたちの巣立ちを機に、突然お洒落に生まれ変わった母―「母」の名のもとに隠された、女性の”本当”を描き出す短編5編。

 ジェンダー、女性の社会的自立、その支援…昨今はかなり社会的な認知も進んできた女性の立場や権利だが、家庭で「母親」という座に縛らされる風土はなかなか根深いものが。さまざまな立場の母親を題材に、その深層を上手く描いた良作5編。


No.1216 7点 全員犯人、だけど被害者、しかも探偵
下村敦史
(2026/03/08 22:12登録)
 電動自転車メーカーの社長が、製品の不良を隠蔽して被害者を出したと社会から責められ、自殺した。その後のある日、社長夫人、会社役員、週刊誌記者など事件関係者ら7名が何者かの呼び出しで山奥にある廃墟に集められ、閉じ込められる。スピーカーから「社長は自殺ではない、殺人だ。この中に真犯人がいる」という主催者の声が……と、ここまでは王道パターンなのだが、続く主催者の「真犯人以外の人間を毒殺する」という言葉に、状況は一気に異様に。こともあろうか集められた者たちは皆、「私こそが犯人だ」と主張し合うようになり―

 デスゲーム仕掛けで事件関係者が集められ、スピーカーから主催者の指示が流れる。まぁベタベタの設定で、それはそれで個人的に大好物なのだが、そこから「我こそは」と関係者たちが真犯人になりたがる、という機軸が確かに面白かった。
 お互い腹のうちを探りながら、だんだん「後出しじゃんけんで上書きしたもん勝ち」になっていく展開も、苦笑してしまいそうだが飽きずに読めた。
 個人的には、終盤に明かされる額縁構造の仕掛けは無くてもよかったかな・・・とも思うけど、そこで重ねられたさらなる作者のトリックはまずますだった。


No.1215 6点 誰かがこの町で
佐野広実
(2026/03/07 22:20登録)
 児童養護施設で育った娘が、自分を置いて失踪したとなっている母親のことを知りに行こうとするが、一家が住んでいた住宅団地は「この町は安全・安心なコミュニティ」「失踪など起こってない」と過去を隠そうとする。
 その体を守ることが第一、その輪を乱す家庭はそこから追いやられる―異常なまでの同調圧力を描いた作品。
 現代ではこんなことまかり通るはずはないと思っているが…ただ集団心理が人を狂気に走らせる例は、程度の差こそあれ現代でも(むしろ現代こそ?)多く見られるので…ありえないことではないのかも?
 ある種の社会病理を題材に描くことを得意としている作者らしい一作。
 楽しめた。

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