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ミステリの祭典

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HORNETさんの登録情報
平均点:6.34点 書評数:1250件

プロフィール| 書評

No.1250 8点 ローズマリーの赤ちゃん
アイラ・レヴィン
(2026/08/13 23:17登録)
 予備知識なしで読むと、前半は映画スターの卵とその妻の微笑ましいただの新婚物語にしか見えない。新居を構えたことによる、ご近所さんとのつきあいや、なかなか芽が出ずにいらだつ夫を支えようとする新妻のエピソードなどが続き、妖しさや不穏さはほとんどないまま物語は進んでいく。
 が、妊娠が分かってから、主治医の変更、お腹の子のためと飲み物を差し入れる隣家の妻…といった「ちょっと変だな」と思う展開が少しずつ積み重ねられ、じわじわと不穏感が増してくる。そして、夫婦が懇意にしていた友人の突然の悲報を皮切りに、読者の不審は決定的な疑いに変わっていく。
 段々と浮かび上がっていくその”おかしさ”を、主人公・ローズマリーの視点から描き出していく展開は非常によく、どんどん読み進めたくなる欲を喚起し続けた。
 疑いは妄想なのか?本当なのか?主人公のその不安感やいらだちに読者も没入し、楽しむことができる作品。


No.1249 7点 石の微笑
ルース・レンデル
(2026/08/13 22:51登録)
 普通に過ごしているように見える人に内在する”狂気”をじっくりと描くレンデルらしいサスペンス。
 母親の恋愛、主人公フィリップ自身の恋愛、恋人となったゼンダの奇矯な言動、妹・チェリルの不審な行動。さまざまな要素を同時進行で描きながら、ゼンダの告白は本物なのか?虚言なのか?という中心的な謎に読者も翻弄され、そこにキーとなるアイテム「石の彫像・フローラ」が絶妙に機能する。
 ラストに、彫像・フローラを契機にストーリーが大きく動く畳みかけは見事。ゆっくり進む物語の中で、巧みに仕組まれていた作者の仕掛けに心地よく撃たれる。
 ―結局、そっちだったか!でも確かにそうでなければ…何の話だったんだ?ともなるしなぁ。
 本格ミステリのような、名探偵が真相を喝破する、というキレのいい結末ではないいかにもサスペンス。だが、長編ながら読んだ甲斐があると満足できる一作。


No.1248 8点 白昼の悪魔
アガサ・クリスティー
(2026/08/11 21:35登録)
 男を翻弄する美魔女、アリーナ・マーシャルが夫と旧家に訪れていたリゾート地で殺害された。ホテルに滞在し交流のあった宿泊客たちに嫌疑がかかるのだが、その中にはバカンスを楽しみに来ていたポアロも。アリーナをめぐる愛憎劇が交錯する中、真相はどこにあるのか?

 殺されたアリーナが、同じホテルに宿泊している他の夫婦の旦那を誘惑し、公然といい仲になっていたという状況で、ある意味分かりやすすぎる容疑者がいる。が、当然事件はそんなに単純じゃない。実際の人間関係を紐解いていくポアロらしい捜査過程は地道ながらも面白く、そこで「?」と感じる小粒な(独特の)違和感が積み重ねられ、最後に見事に回収される。
 夏のリゾート地、島で起きた事件という(ベタな?)舞台設定も魅力的。無駄のない描写ながら情趣を感じさせるクリスティの筆力で、自分もその地にいるような没入感で読み進めてしまう。
 そんなリゾートバカンスの描写に、ぽつぽつと巧みに伏線を落としていき、すべてが真相につながっていくストーリーはさすが。一つの殺人(後半に複数になるが)の解明でこれだけの紙幅を割いても飽きず、一気に読めてしまう時代を超えたリーダビリティは本当にスゴイ。
 この時期(真夏)に読むことをオススメする。


No.1247 7点 鏡は横にひび割れて
アガサ・クリスティー
(2026/08/11 21:16登録)
 パーティの最中、事件が起こる直前にマリーナ・グレッグが見せた「不可解な表情」を謎の軸に据えて組み立てられたストーリーは、それで物語の魅力が持続するクリスティの筆力あってこそだとつくづく思えた。
 後半、マープルがこだわる事件当時のやり取りなどから、真相は看破できた。であっても、真相の推理だけない、人間ドラマとしての魅力も兼ね備えるクリスティらしい作風は十分に堪能できる。
 とても楽しめた。


No.1246 4点 私、死体と結婚します
桜井美奈
(2026/08/11 21:07登録)
 結婚を間近に控えた婚約者が突然死んだというのに、即時順応して、「このまま結婚する」という主人公。死体と結婚するというより、その順応の速さに違和感を感じるはじまりだったが…まぁ、最後まで読めば。

 真相まで読み通すと、翻って前半の反応や言動に逆に違和感が。工夫ある物語だとは思うが、紙幅の関係か展開が一足飛びな気がして、間断なく出し物を見せ続けられているような感覚だった。


No.1245 8点 『石球城』殺人事件
北山猛邦
(2026/08/04 21:11登録)
 大規模な気候変動により、地球は冬の時代となった。太陽の見えない生活の中、ルーサは「最果ての地に楽園がある」という話を信じて仲間と旅に出るが、仲間割れの末、氷河のクレバスに落ちて意識を失う。気が付くとロメリアという少年に助けられていて、見たことのない地にいた。
 そこは、13の灯台と壁に囲われ、完全に外界と遮断された世界―「石球城」だった。いったいどうやってここに来たのか…ルーサの戸惑いをよそに、13人の灯台の巫女たちが、次々と殺されていく…




<ネタバレ>
 作者の作品は「オルゴーリェンヌ」しか読んでおらず、それがあまり肌に合わなかったため手を伸ばさずにいたが、本サイトの評価が非常に高いため手に取った。
 13の密室殺人に13のトリック、加えてラストにプラスα。怒涛のような密室トリック解明劇は確かにスゴイ。令和のこの時代に、海外古典のような物理的密室トリックのオンパレードもこれはこれでよい。何よりも、一つ一つがそれ単体で作品にできそうなくらいのものもあるのに、一作で13トリック放出した作者の度量に感嘆する。
 ただ一方で、13の密室を一掃する一発がくることも心の中で期待していた。各現場で残されていた要素がすべてひとつながりになっていくような…。一つ一つを「それぞれ」順に解き明かしていく展開は、怒涛ともいえるが、ある意味地味に感じるところもあった。
 また、石球に宿された「磁力」を利用したトリックはあまり現実感がなく、「物理トリック」と素直に受け止められないところもあった。「死の灯台」「雨の灯台」「大地の灯台」「「闇の灯台」のトリックなんかは特に。一方、「世界の灯台」の浸水によるトリック、「梟の灯台」のビリヤード的なトリックは非常に面白かった。(ところで、「初めの灯台」のトリックは結局何だったのか?)
 一番は、「石球城」そのものの構造を明かしたラスト。文字通りの“驚天動地″。ルーサの謎も論理的に説明され、唸らされた。
 年末のランキングに入りそうな一作だぁ・・・


No.1244 7点 怖い客
矢樹純
(2026/07/30 22:58登録)
洋菓子店で、長時間居座った挙句毎回"1点だけ"お菓子を買っていく女性。妹の葬儀に冷淡な態度で葬儀社のスタッフを戸惑わせる女性。保険会社のコールセンターに執拗にクレーム電話をかけてくる男性。施術中の写真をSNSにアップされたと脱毛サロンに訴えてきた女性。一人の書店店員だけにいろいろ訪ねて毎回時間を取らせる高齢女性。カスタマーハラスメントをテーマにした、珠玉の5編を収録した短編集。

 ここ最近ホラー作品が続き、そちら方面で活躍している作者で、タイトルや文庫本の表紙もホラーテイストだったが、一編一編ちゃんとした謎解きのミステリ。どれも、日常離れした不可解な行為に隠されていた真実を、その対象となった店員・社員が解き明かしていくというストーリー。
 不可解であったり奇異であったりする客の行為行動だからこそ、「それはどんな意味があるのか」という謎への好奇心は高まる。各編50ページほどのコンパクトな作品ながら、ホワイダニットやフーダニットを巧みに編みこんでいる。
 奇異な行動の真相という面白さでは「一点さん」、散りばめられた謎の回収の面白さでは「サトリ夫人」
 あっという間に読めてしまう短編集だが、粒ぞろいの良質な一冊だった。


No.1243 7点 ファイア・ドーム
辻村深月
(2026/07/29 23:39登録)
 1994年、L県蒔戸市でデパートの受付嬢の誘拐殺人事件が起きた。犯人は逮捕され事件は終結したが、全国的に注目された事件の熱にあてられた地元民たちは、同時期に蒔戸市で起きた小学生の事故死と誘拐事件を結びつけ、「被害女性が小学生を轢いたのではないか」などという事実無根のありえない"噂"に沸き立ち、それに乗じたマスコミ報道も過熱した。
 それから25年、誘拐殺害事件の被害者家族の小学生の息子が、またもや行方不明に。「なぜ、うちばかりが―」被害者家族の苦しみをよそに、再燃する憶測と噂。だが、この事件がやがて過去のすべてを暴き出す―

 今、どの書店に行っても作者渾身の一作ということで平積みされている本作。
 上下巻計900ページの厚みだが、動的な展開が続く高いリーダビリティで、数日でイッキ読みできる。


<ネタバレ>
 25年前の事件で娘(受付嬢)を殺された戌井家の孫息子・光汰朗の行方不明を皮切りに、さまざまな事象が絡み合って展開していく前半、そのことが端緒となって25年前の真相に迫っていく後半と、幾重にも重ねられた構成の面白さは見事で、「一粒で何度もおいしい」展開にはなっている。
 光汰朗が発見された際の「勘違い」と、その真犯人の意外性はなかなかで、そからさらに蒔戸市の物語が深化していく筋書きは素晴らしかった。
 登場人物の衝撃や怒り、痛切な思いを描く心情描写が連発され、さまざまな言い回しを駆使しているところはさすがだが、あまりに頻度が高いためだんだん重みが薄れてくる(慣れてきてしまう、食傷気味になってしまう)感じはあったが、最後まで力のあるストーリーだったことは間違いない。
 “無責任で暴力的な噂”という本作のメインテーマに、大人の噂や風評に惑わされず友情を育んでいく小学生たちの物語や、新聞記者や刑事の矜持の物語などさまざまな物語が付加されることで、非常に厚みのある一作となっていた。

 ただ、「デビュー22周年記念」って… 笑


No.1242 8点 ハウスメイド3 最後の秘密
フリーダ・マクファデン
(2026/07/26 21:05登録)
 元ハウスメイドのミリーは、今ではソーシャルワーカーに職を変え、結婚して2人の子どもをもつ。夫のエンツォと郊外に念願の一軒家を購入し、新しい生活に胸を膨らませていた。だが、向かいの家にはいつもこちらの様子を見張っている詮索好きのシングルマザー、隣家の夫婦の妻・スゼットは、夫のエンツォに周りを憚らずに色目を使う。人の好いエンツォが、スゼットのアプローチに悪気なく応じる様にやきもきする日々を送っていた中、事件は起きる―


 1作目で"反転"により読者の意表を突き、2作目では1作目で明らかになった設定を生かしながらも仕掛け、さて3作目は…と思って読んだが、これまたまったく違った作りで面白かった。
 そもそも今回はミリーは"ハウスメイド"でもない。結婚したミリーの、転居にまつわる"ご近所トラブル"から始まる話はそれ自体なかなかに面白いが、どこに向かっていくのだろう?というさらなる期待が膨らむ。
 結果、1、2作目にも通ずる"部屋"の話や、やはりハウスメイドが絡んでくるという巧みな構成にうならされた。
 相変わらず登場人物も少なく、リーダビリティも高い。これでシリーズは完結してしまうということなので残念な気もするが、作者の次のステップに期待したい。


No.1241 5点 怪物を捕らえる者は
ネレ・ノイハウス
(2026/07/26 20:38登録)
 雪の下から16歳の少女の遺体が発見された。遺体や服から移民の青年のDNAが見つかるが、刑事オリヴァーとピアが事情聴取をする前に彼は失踪してしまう。数日後の夜には、田舎道である男が車にはねられて死亡。男は裸足で、体には動物に咬まれた傷や拷問の痕が。一体どこから逃げてきたのか──。
 無関係に見えたふたつの事件がやがてつながり、ドイツ警察を揺るがす最悪の真相に──




<ネタバレ>
 本作の一番の爆弾は、長年本シリーズで同僚として登場してきた人物の信じられない“裏切り”だろう。シリーズを愛読している読者には慣れ親しんだ登場人物を切って捨ててしまう潔さは日本の作品にはあまりないような気がする。
 物語中盤のそのあたりが一番のヤマ場で、冒頭の「少女殺人事件」の真相は、あれだけ捜査を組織的に進めていたのに?というような単純なものだった(それが落とし穴で意外といってしまえばそれまでだが…)
 巻頭の登場人物に49人(!)も名前が挙げられていて、多くの木に埋もれた中から「この人だった」と種明かしをしているだけのような感じ。
 だいたい、被害者遺族も含めて事件関係者にはすべてアリバイを確認するものなのではないの・・・?
 作品を経るごとに厚みが増していっている本シリーズだが、ここまで長くする必要があるかな…とちょっと思い始めてる。


No.1240 5点 滅茶苦茶
染井為人
(2026/07/20 22:06登録)
 仕事は順調、東京でシングルライフを謳歌する30代女性が始めた不穏な恋愛。下校中、不良に堕ちた元級友に再会した、とある北関東の高校生。老朽化したラブホテルを継ぐが、コロナ給付金が職種ではじかれ社会不満が募る中年男。
 コロナ禍の中、三者三様の“転落”が向かう先は…



<ネタバレ>
 三つの物語はそれぞれに面白く、十分にリーダビリティは高い。その三つがどう交わるのか…と思って読んでいたが…

 完全に奥田英朗の「〇〇」と同じでは…?トレースしているって言っていいぐらい。
 うーん。これってアリなのか?


No.1239 7点 家族
葉真中顕
(2026/07/20 21:56登録)
 東京・八王子の分譲マンション最上階、1フロアを独占するペントハウスには、血縁に関わらず集まった人たちが自らを「家族」と称して住んでいた。その家長は、夜部瑠璃子という女性。いつもどぎついピンクの服を着ている肥ったその女性は、陰で”ピンクババア”と呼ばれ、警察も忌避している存在だった。だが、あるときその家から逃れ、助けを求めてきた女性から、その「家族」の恐ろしい実態が明らかにされていく―

 時折ニュースになる、"洗脳”による支配から起きる犯罪。一般人には、「なんでそんなこと起きるの?警察に駆け込めばいいのに…」と思ってしまうのだが。本作はそんな洗脳支配を題材にした作品。
 犯罪集団は捕まり、警察による取り調べが進む件は割と早くくるため、さらに奥があることがわかる。
 物語終盤に、その結末を匂わせる場面があるのだが、果たして…真相はいかに、という終わり方。
 何にせよ相変わらずの筆力で、ぐいぐい読ませる力がある作品。


No.1238 7点 素敵な圧迫
呉勝浩
(2026/07/20 21:40登録)
 趣向もタイプもそれぞれの、乱歩賞作家・呉勝浩のバラエティ短編集といったところ。
 やはり地力がある作家さんなので、どの作品も面白い。シリーズ短編集じゃないぶん、「次の話はどんなカンジ…?」とかえって楽しめる。
 三億円事件をモチーフにした「ミリオンダラー・レイン」、パラレルワールドを題材にした「パノラマ・マシン」のラストが印象的だった。
 長編を読む合間に肩の力を抜いてミステリを楽しみたい…というときにオススメ。


No.1237 8点 777 トリプルセブン
伊坂幸太郎
(2026/07/12 20:54登録)
 日常的に不運に見舞われる"体質"の殺し屋・七尾、通称「天道虫」。今回も、「ホテルにプレゼントを届けに行くだけの簡単な任務」と言われていたのに…ホテル内で起きている、裏稼業(殺し屋)の業務とその標的の戦いに巻き込まれることに。一つのホテルで起きている、数々の殺し、殺されの戦い。混沌としながらも、息を吞むようなバトルの行きつく先は―

 「AX」以来の、久しぶりの「殺し屋」シリーズ。前作は一人の殺し屋の「足抜け」を主軸にした、人間ドラマ的な側面も色濃い名作だったが、今回はシリーズ本来の「殺し屋活劇」の雰囲気が戻った感じ。
 何もかもが裏目に出る、絶対的な不運の持ち主"天道虫"のキャラクターを生かしながら、渋滞状態と言ってもよいホテル内の殺しバトルは、章転換のタイミングも絶妙でページを繰る手を止めさせない。作者のよさが存分に出ている。
 真の敵と対決するラストに明かされる真相はなかなかの想定外で、その仕掛けにも素直に楽しまされた。殺し屋の話でありながら、ダークなトーンに仕切らない結末もさすがで、とてもよかった。
 にしても、結局"天道虫"は強いなぁ…


No.1236 8点 倫敦スコーンの謎
米澤穂信
(2026/07/12 20:29登録)
 謎解きで洞察力をひけらかす自身の”悪癖”を封じ、小市民として生きていくことを決意した高校生、小鳩常悟朗。同じ志向の小佐内ゆきと”互恵関係”を約束し過ごす毎日だったが、そんな本人たちの決意をよそに謎は向こうからやってくる。今回は、高校のOBで、いまや世界的な賞を受賞するまでになった美術家の、高校時代の作品が校内に残されていたことから始まった―(桑港クッキーの謎)

 四編の短編が収められた、小市民シリーズの短編集。
 表題作「倫敦スコーンの謎」が、一番原点回帰的な本シリーズの王道なカンジがするが、一編目「桑港クッキーの謎」四編目「維納ザッハトルテの謎」の、船戸高校OBの美術家でつながっている二作が秀逸。美術部顧問・甲村先生の、一編目で蒔かれた疑惑が、四編目で美しく着地しているのはよかった。
 本格ミステリにも存分に力を発揮されている作者だが、やはり真骨頂はこっちか…などと感じさせるほど、学生を舞台にした"日常の謎"モノでの作者の腕に改めて感じ入った。
 


No.1235 5点 こうふくろう
薬丸岳
(2026/07/12 19:59登録)
 2020年、コロナ禍で孤独を抱えていた大学生・芹沢涼風は、池袋の公園で同じように繋がりを求める若者たちに出会う。彼らは「戸籍上のつながりや血縁がなくても、自分を幸福にしてくれる存在こそが本物の家族である」という理念のもと、公園のふくろう像にちなんで互助団体「こうふくろう」を結成した。
 しかし、コミュニティが想像を超えて巨大化していくにつれ、生きるための糧を稼ぐという名目で、日常的に犯罪行為が繰り返されるようになっていく。
 令和の孤独な若者亊事情、社会状況を取り上げて編まれた一作。

 池袋に集う孤独な若者たちの閉鎖的なコミュニティを描くストーリーそのものはまぁ読み易く面白かったが、それが犯罪集団に変貌していく過程はある意味オーソドックスで、目新しさは感じなかった。
 後半に行くにつれ、読み切ることが目的になってしまったのが正直なところ。


No.1234 7点 妻はりんごを食べない
瀧羽麻子
(2026/06/28 23:23登録)
 40代に入った小川暁生は、妻と二人の生活を気に入っている。ところがある日、妻が実家に行ったきり、戻ってこない。京都にある彼女の実家を皮切りに、彼女に縁のある場所を探る暁生だったが、どこへ行っても、彼女は気配だけ残し、姿は無い。見知らぬこの地で彼女は何をし、どんな顔を見せていたのか?遠く離れた土地と土地を結ぶ“線”には、どんな秘密があるのか?
 そもそも彼女は無事なのか?穏やかすぎる夫婦に突然訪れた、愛のゆらぎの物語。(Amazon書籍紹介より)

 お互い何の不満もなく、周りも認めるほど仲睦まじく結婚生活を送っていたはずの夫婦。そう思っていたのは自分だけだったのか―?妻・玖美の行方を追う中で、暁生は妻のことを何も知らなかったことを思い知らされる。順に明らかになっていく「知らなかった妻のこと」が、読み手をどんどん作品に引き込んでいき、一方で失踪(連絡はつくので正確には違うが…)の真意についての謎はどんどんふくらんでいく。
 「このミス」2026年版で「ジャンル外の注目作品」として紹介されており、興味を惹かれて読んだが、十分にミステリである。


No.1233 5点 濱地健三郎の奇かる事件簿
有栖川有栖
(2026/06/28 23:10登録)
前日に自殺したはずの女性を旅先の電車で見かけ、恋に落ちた男性。ホテルのある部屋に現れる少女の幽霊。死んだはずの常連客が露天風呂に現れる老舗旅館。直前に殺されたはずのミュージシャンを、事件後に目撃したという女子高生。説明できない怪異の謎を、「心霊探偵」濱地健三郎と助手の志摩ユリエが解き明かす、七編の短編集。

 いたってありがちな心霊話を描いた小噺みたいなものもあり、毛色や質もさまざま。なかには心霊現象でもなく、濱地が解くこともなく終わる話もあり、小粒な作品を集めた短編集という感じ。だから読み易いと言えば読み易い。
 ストーリー的には「ある崩壊」、ミステリ色でいえば「目撃証言」、ホラーテイストでいえば「怪奇にして危険な状態」がそれぞれよかった。


No.1232 7点 ビブリア古書堂の事件手帖V ~扉子と謎めく夏~
三上延
(2026/06/17 22:39登録)
 その夏、不在中の両親に代わり、ビブリア古書堂を任された少女。美しい女店主とよく似た顔立ちで、本への好奇心と洞察力も母親譲り。だが異なるのは表情豊かで物怖じしないその性格。特殊な依頼に首を突っ込まぬよう少女の監視役を任された少年は、持ち込まれた古書に秘められた謎を、少女が鮮やかに解き明かしていく姿を目の当たりにする。戦時中ある男を救った『シャーロック・ホームズの饋還』と、残されたいたずら書き。
 真夏の鎌倉を駆ける「探偵と助手」の物語が始まる――。
(KADOKAWA書籍紹介より)

 作者の「あとがき」に書かれていたが、本シリーズも第1巻が刊行されて15年。時のたつのは(歳を取るのは)早いものだ…
 シリーズ開始当初、世間で話題になった本作だが、その熱も過ぎ去り、今も続いていることを知る人のほうが少ないかも、という現在。だがそんな世間の人気の起伏に全く惑わされることなく、粛々と書き続ける作者の姿勢(勝手な推測だが)がよい。変に「前作を越えなければ」とか「もう一度世間を振り向かせたい」とかいった気負いがない(勝手な推測だが)カンジが、安定のクオリティを保ち続けている気がする。


 今回は3話のエピソード(事件)。込み入ってはいたがミステリ的にかなりよかったのは2話目「森山大道 『写真よさようなら』」かな。(どれが本物でどれが復刻版なのか、ややこしいきらいはあったものの…)3話目も、疑われていた娘の見方が反転する件は面白かった。
 まだまだシリーズは続くとのこと。楽しみだ。


No.1231 8点 沈黙と爆弾
吉良信吾
(2026/06/08 00:07登録)
 熊本県警警務部監察課の阿玉清治は、家族の不祥事がもとで出世の道を断たれ、首席監察官からの指示を無難にこなす"お掃除ロボット”と揶揄されて過ごす日々だった。ある日、所轄の刑事が民間人に暴行を働いたという事案の調査を命じられる。警察の威信に傷がつかないよう落としどころを探るという、いつもの"汚れ仕事”だったが、時を同じくして、熊本地震をきっかけに失声症を患っている小学生の息子に、動物殺しの容疑がかけられる。息子の無実を信じながら、与えられた事案の調査を進める阿玉だったが――。

 物語は、警察内部の非違事案の調査と、阿玉の息子にかけられた動物殺しの嫌疑との2本のストーリーが軸になっているが、どちらも熱く面白い。
 「動物殺し」の真相のほうがミステリらしい魅力があり、なかなかの意外な犯人だった。さらにそちらには阿玉の「家族の物語」もあり、心を打つものがあった。
 非違事案調査のストーリーは、組織を守ろうとする警察VS主人公の矜持という、警察小説では非常によくある構造ではあるが、主人公・阿玉の人物的な魅力もあり、力のある物語だった。
 

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