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ミステリの祭典

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HORNETさんの登録情報
平均点:6.33点 書評数:1196件

プロフィール| 書評

No.1196 7点 心地よい眺め
ルース・レンデル
(2025/12/27 00:47登録)
 親から全く愛情を受けず、しかしそのことを苦にもせず生きてきた、工芸大学の学生・テディ。幼い時に母を殺され、一時失語症になりながらも、父との暮らしでそれを克服した女性・フランシーン。富豪と結婚したものの、もはや夫との間に愛情はなく、若い男をあさって欲望を満たしている五十路の女、ハリエット。三者それぞれの毎日から物語は始まり、やがて交差していく。
 社会の中で、一見、皆と変わらず普通に過ごしているように見える人の、内面にある欲や昏さ。レンデルらしい作風の一作である。
 最後は最後で、事態をそのまま放り出したような終わり方。だが、それがかえって面白い。ある意味ハッピーエンド(?)のようですらある。
 前半がやや長すぎるのが難だが、じわじわと狂気の展開になっていくさまを楽しむことができた。


No.1195 6点 老警
古野まほろ
(2025/12/27 00:24登録)
 公務員幹部の伊勢鉄造の息子、鉄雄は毎日自室にこもっている三十過ぎの「引きこもり。本人は作家を名乗り、毎日PCに言葉を書き連ねているが、社会には一切相手にされておらず、妄想はエスカレートするばかり。そんな中、伊勢家に隣接する小学校の運動会に不審者が侵入し、児童や教師を刃物で殺傷するという大事件が起きた。犯人は現場に駆け付けた警官も殺害し、その無線で警察に向けてメッセージを発する。そこで犯人は自らを「イセテツオ」と名乗った―


<ネタバレ気味>
 明らかに2019年に起きた、元農水官僚の息子殺害事件を題材にした話のようだが、もしそうだとすると作者の執筆力(スピード)はすごい。
 「8050問題」のテンプレートのような舞台設定で、だからこそ読みやすい。また、「引きこもりの息子がキレて無関係の一般市民を襲った」というストーリーを克明に描くのならサスペンスになるのだが、これはきちんとしたミステリである。事件の様相がひっくり返されていく様はまずまず面白く、ちょっと現実的にはあり得ないかな、というきらいはあるものの仕組みとしては楽しめた。


No.1194 7点 暴走正義
下村敦史
(2025/12/26 23:48登録)
 SNSで人の悪事を晒してアクセスを稼ぐインフルエンサー、スクープを目的に頼りない情報で事件記事を書こうとする週刊誌記者、「事件が起きないと警察は動いてくれない!」と不満をぶつけるストーカー被害を訴える女性、「性犯罪者の再犯を防ぐ」とうたう更生プログラム…間違ったこと・人は許さない、糾弾すべきだ一億総”正義の暴走族”時代を。今日もスマホを握りしめ怒っている「正義系」の人たちを描く短編集。

 令和の社会病理(?)を非常に上手く掬い上げ、趣向を凝らしたまとまりのある各話。6話それぞれの切り口もよく、作者の技量の高さを改めて感じる短編集である。


<ネタバレ>
 特に印象に残ったのは「再犯」。再び罪を犯さないために「遠ざける」というやり方が、かえって欲求を高めてしまうというパラドクス。そういう話の仕組み方に唸らされる。
 読んでから知ったが、1作目があるとのこと。読もうと思う。


No.1193 8点 エレガンス
石川智健
(2025/12/26 23:15登録)
 第二次世界大戦の終局に差し掛かっていた1945年の東京。激しい空襲で日々、人が死んでいく中で、女性が花のようにスカートを広げた洋装で首を吊って死ぬ事件が4件続いて起きた。4人は皆、同じ洋裁学校に通っていた女学生で、自殺に見えるこの事件について再捜査の命が下る。捜査を命じられたのは、戦時中にただ一人、記録係としてカメラをもたされている警視庁写真室勤務の石川光陽と、内務省防犯課の吉川澄一。自殺として通常に処理されると考えていた光陽に対し、吉川は他殺説を主張する。
 捜査を進めるにつれ、激しい空襲で明日の命をも知れぬ日々でありながら、それでも「美」を追究し続けた女学生たちの生き様が浮かび上がる――


 毎日のように身近な人が爆撃で亡くなっていき、自分の命も明日どうなるか分からない。それでも日々の生活は続くし、娯楽も酒などの楽しみもあれば、笑いや恋愛もある。「戦争が日常となっている」日々のリアルが、人々の息遣いが、生々しく伝わってくる厚みのある作品である。非常に読み応えがあった。
 女学生たちが次々と不審な死を遂げる事件の真相を追うミステリであったが、それ以上に戦争当時の世情と人々の生き様が強く心に残った。事件の真相、特にその動機には、そうした世情への反駁も込められており、うまく編み上げられたストーリーだと感じた。
 面白かった。


No.1192 9点 抹殺ゴスゴッズ
飛鳥部勝則
(2025/12/04 23:22登録)
 令和元年、高校生の詩郎は、同級生の西郷寺桜が荒くれ者どもに暴行されるのを目撃した。助けに入るも詩郎もリンチを受けて死を覚悟した時、親友の聖夜と空想で話していた怪神・ゴスゴッズが出現し、荒くれ者たちを蹴散らした―
 遡ること30年の平成元年、詩郎の父・正也は、地元名士の元医者が脅迫状を受け取ったのを知る。地元の金山を観光用に整えた施設を開く日に市が訪れるという。当日、式典が開催される中、突如「怪人」の声が鳴り響き、見世物の人形に見立てた死体が...。


 「令和の詩郎(息子)」と、「平成の正也(父)」のくだりが交互に描かれ、それぞれにボリューミーではあるものの、どちらのストーリーからも目が離せない。個人的には父・正也の平成のストーリーのほうが、乱歩の「少年探偵団シリーズ」を思い起こさせるような雰囲気で惹かれるものがあった。


<ネタバレ>
 「ゴスゴッズ」という正体不明の「怪神」がピンチになると現れ、悪党どもをなぎ倒していく、という冒頭からは特殊設定ミステリかのように見えるものの…最後まで読めば特濃の「本格ミステリ」であることが分かる。
 終盤に差し掛かったあたりで、真相が見えたかのような段に入り、読み手が「だと思った…。厚みのある作品だけど、真相はオーソドックスだな…」なんて思おうものなら―そこからが怒涛。真犯人だけでなく、さまざまな真実が明らかになっていく展開は圧巻だった。
 ラストの桜との場面…切ないながら、美しい。
 読後は満足感に浸れた…


No.1191 9点 ハウスメイド
フリーダ・マクファデン
(2025/11/30 16:19登録)
 前科持ちのミリーは、その素性を隠して裕福な家庭のハウスメイドの仕事を得ることができた。狭いながらも部屋も与えられ、申し分のない条件だったが、家主の妻ニーナはかなり人格に難があり、虚言や理不尽な叱責を受けることもしばしば。一方、夫のアンディは絵に描いたような成功者でハンサム、しかもミリーにも優しい。女性なんてよりどりみどりであろうアンディなのに、なぜニーナのような女性と結婚生活を続けるのか…?何かがおかしい一家には隠された真相が…!



<ネタバレ>
 ミリーの視点から描かれる第1部から、ニーナの視点へと変わる第2部で、見え方がひっくり返る。ただ、この作品の「反転」はそれだけにとどまらない。ミリーが前科者である、という設定があるから、まぁ予測できた行き先ではあったけれども、それでも痛快。物語の展開は「その女、アレックス」のもう一段重ね、雰囲気はレンデルのサスペンス的といったところ。
 主要な登場人物が5名という少なさも、海外物は登場人物が覚えづらいという読み手にとってはありがたいだろう。
 すべてが終わったように見えた後にも、さらに細かな伏線の回収や展開が盛り込まれていて、最後まで飽きさせない。
 面白かった!!
 これはよかった!


No.1190 6点 その血は瞳に映らない
天祢涼
(2025/11/24 21:26登録)
 横浜のアパートに住む鈴原咲玖良と娘の女子高生・優璃が、同じアパートの住人・緑川に襲われ、母親は死亡、娘も負傷した。すぐ逮捕された緑川は死刑になりたかった、と動機を供述。ニュースサイト記者・千弦は、犯人の供述に疑問を抱き、優璃と共に事件を取材する。
 不審な行動をとる緑川の弁護人や思惑を秘めた関係者の証言に振り廻される千弦たち。 犠牲者が犠牲者を生んでゆく!SNSの闇を抉る傑作長編ミステリー。
<Amazon書籍紹介より>




<ネタバレ>
 片方の側に感情移入してしまった記者は、果たしてその足かせを振り払って真実を見極められるのか―これまでもいくらでもあったであろう作品テーマだが、リーダビリティの高い筆者の筆力もあって、結局面白い。
 そのうえで、最後のどんでん返し―…いきなり違う方向から矢が飛んできた。警察まで結託してのトラップは現実味に欠けるものだったが、エンタメとして読み下せばまぁよし。
 ただ、著者の作品としてはこれまでのほうが好きだったかなぁ…


No.1189 9点 有栖川有栖に捧げる七つの謎
アンソロジー(出版社編)
(2025/11/24 21:09登録)
 有栖川有栖35周年のトリビュート企画。「地雷グリコ」の青柳有吾、「屍人館の殺人」の今村昌弘、「方舟」の夕木春央、「名探偵のいけにえ」の白井智之、「紅蓮館の殺人」の阿津川辰海、「花束は毒」の織守きょうや、「ツミデミック」の一穂ミチ…現在のミステリ界を彩る超豪華な第一線作家の競作と言っても過言ではない、有栖川有栖というビッグネームだからこそ実現した一冊。しかも、これらの豪華作家陣が、有栖川作品のシリーズを書くという…!!個人的には、970円という価格に見合わない(良い意味で)一冊だった。


 王道の「火村英生シリーズ」を、他作家が書くという興奮。他にも、阿津川辰海はが選んだのは、なんと「山伏地蔵坊」。そして今村昌弘は、学生アリスシリーズ。
 著作者とメンバーだけで評価を上げているのではなく、一編一編が本当に面白い。解説で有栖川氏が書いているように、企画モノの短編にするネタとしてはもったいなんじゃない…?とさえ思えるような、上質な短編集。
 有栖川有栖というビッグネームのトリビュート企画だからこそ実現した、かなりレヴェルの高いアンソロジーではないか。
 最高だった。


No.1188 6点 任侠梵鐘
今野敏
(2025/11/24 20:52登録)
 阿岐本組組長・阿岐本雄藏のもとに兄弟分から相談がもちかけられた。暴対法の影響で、地元のお祭りからテキヤが締め出されるという。それは致し方ないことではあるが、同時にその地域のお寺が「除夜の鐘がうるさい」などの苦情を受けて困り果てているという。それも、「時代の流れ」なのか…阿岐本組代賀・日村はいつものように、阿岐本の命で動き出す―

 今回は、阿岐本組の面々が潜入捜査(?)に入るような事態にはならず、あくまで相談事を受けながら ことの背後にある実情を探り出すという体。愛分からず軽妙な文体とテンポで、サクサク読めるし、普通に面白い。
 「古き良き時代」という懐古主義で昔の風潮を懐かしがるようで、人として、社会として大事なことが描かれているような気がする。それを深刻にならず軽妙なタッチで描く著者の懐の深さ、力量はさすがである。
 エンタメとして楽しみつつ、「そうだよな…」と頷きたくなる、著者らしい、本シリーズらしい、安定した面白さ。


No.1187 7点 不等辺五角形
貫井徳郎
(2025/11/16 21:10登録)
 重成、聡也、梨愛、夏澄、雛乃ら5人の男女は、インターナショナルスクールで出会って以来20年以上の付き合い。30歳を間近に控えた5人は、仕事で海外赴任することになった重成の送別も兼ねて、久しぶりに聡也の別荘で会うことになった。だがそこで深夜、雛乃が頭を殴られて殺害される悲劇が起きる。驚愕する仲間を前に、梨愛が「私が殺した」と告げ、警察に連行されていく。逮捕後も殺害の動機を語ろうとしない梨愛。弁護士は、残された重成、聡也、夏澄に話を聞いて回るが、証言を重ねるごとに5人の人物像と関係性は変貌していく。果たして5人の間には、本当は何があったのか――。



<ネタバレ>
 弁護士の聴取に対する、重成、聡也、夏澄3人の証言が二回り描かれ、最後に梨愛の「独白」で物語は幕を閉じる。
 そこで真相が「ある程度」語られるのだが、完全に明示した書き方ではなく、読者に推理の余地を残しているようにも感じる。それまでの3人の証言の中にやたらと事件の本筋から離れる「エピソード」が多く挿入され、その中に伏線があるのだが、数多くエピソードをバラまくことで本線を埋もれさせる戦術のようでもあるし、複数の真実を生み出す(いわゆる多重解決?)仕組みのようでもある。
 私は私なりに真相にたどり着いたつもりだが、ひょっとして他の読者と話したら違う解釈がされているかもしれない。重要エピソードっぽいのが後出しな感じなのは気になったが、総合的にはかなり楽しめた。


No.1186 4点 火喰鳥を、喰う
原浩
(2025/11/15 21:15登録)
 久喜雄司は、信州で生まれ育ち、一つ上の夕里子を嫁に迎えて暮らしていた。あるとき、久喜家代々の墓石の一部が、何者かによって削り取られ、続いて家に、太平洋戦争末期に戦死した雄司の大伯父・久喜貞市の日記が届く。そこには異様なほどの貞市の生への執着が記されており、その日を境に、久喜家の周辺では不可解な出来事が起こり始める。いつしか日記には、誰も書いた覚えのない「ヒクイドリヲクウ ビミナリ」の言葉が……。

 雰囲気を楽しむことはできた。夕里子の不思議な立ち位置が、物語によい不安定感をもたらしていた。が、「現実を乗っ取ろうとする貞市」という世界のルールというか論理があまり意味が分からず、終盤はただただ展開を受け入れるだけの感じになってしまった。
 「ホラーとミステリの融合」となると……まだまだ澤村伊智には遠く及ばないなぁ。


No.1185 5点 七人の記者
一本木透
(2025/11/15 20:51登録)
 宝城大学2年生美ノ輪七海は、大学新聞「宝城タイムス」を発行する新聞部員。学内のスクープニュースを追いかけ、いずれは新聞記者を志す女子学生だったが、ある日親友の亜里沙が「男性教授に性被害に遭っている」という衝撃の悩みを打ち明け、自ら命を絶った。親友の無念を晴らそうと問題を追及するうち、同大出身の政治家らが絡む私学助成金の不正受給疑惑が明らかに。タウン誌の老記者や新聞部のOBに相談を持ちかける中で、心を動かされた者たちが集い、巨悪の追及に乗り出した。だが、政権と強いつながりを持つ相手は、ヤクザとも手を組んで七海たちをつぶしにかかる―




<ネタバレ>
 分かりやすい勧善懲悪のストーリー。後半、「本当の黒幕は誰か?」「嘘をついているのは誰か?」といったミステリ要素もしっかりとあり、疾走的な展開を楽しむことができる。
 ただ、ストーリーの展開に重きを置きすぎてか、各場面の心情的臨場感が弱いかな…。ついこないだ話を聞いた人があっさり「消され」るのに、そのことに対する記者たちの反応が薄い。それに、それほど手回しがいい相手なのに、裏切者の虎吹や、七海たち有志連合に切迫した危険がなかなか及ばないのも、ちぐはぐした感じがある。
 最後は一発逆転の気持ちよい展開だが、そこに至るまでの筋書きがなんだか淡白に感じてしまったのも正直なところ。


No.1184 7点 アミュレット・ワンダーランド
方丈貴恵
(2025/11/03 21:23登録)
 アミュレット・ホテル別館は、「犯罪者」御用達の会員制ホテル。「ホテルに損害を与えない」「ホテルの敷地内で傷害・殺人事件を起こさない」という2つのルールさえ守れば、どんな違法なサービスでも受けられるし、警察の介入も一切ない、犯罪者の安全地帯。だが、そのルールを破る者が現れたときのために、ホテルにはお抱え探偵がいる。
 ホテルの部屋で生配信中に殺されたSinTuber、バーの落とし物を巡る奪い合い、ホテルでのバトル・ロワイヤルが開催される殺し屋コンペ、爆弾魔ボマーとの対決……どんな時も冷静な女探偵、桐生の推理が冴えわたる。

 非現実的な設定でエンタメ感を高めながらも、一編一編ロジカルな謎解き。推理の道筋がなかなか細かいところもあるが、子細な手がかりを紡いで真相を見抜いていく桐生の姿は往年の名探偵さながら。

<ネタバレ>
 後半に行くほど面白かった印象。「ようこそ殺し屋コンペへ」の、循環の鎖を一つ抜き取る発想、「ボマーの殺人」の装置がある爆弾を特定していくくだりの論理など、短編ながら光る仕掛けが要所要所にあった。


No.1183 6点 19号室
マルク・ラーベ
(2025/11/03 21:05登録)
 ベルリン国際映画祭の開会式。華々しい式典のオープニングで全観客の前に映し出されたのは、若い女性の殺害シーンだった。映像の終わりに流れた声は「次はおまえらの番だ」。映像で殺害されている女性はベルリン市長の娘。この映像はフェイクなのか?本物なのか?ベルリン州刑事局刑事のトム・バビロンは、臨床心理士のジータとともに半信半疑のまま捜査に乗り出すが、その先では次の殺人が起き―

 「17の鍵」に続くトム・バビロンのシリーズ。読み慣れたからか、前作よりは読み易い印象。今回は、トムの相棒、五厘刈りの美女・ジータの過去がストーリーに絡んできて、随時回想場面が挿入されるが、混乱は来たさずに読めた。




<ネタバレ>
 結局このシリーズは、前作から引き続き旧東ドイツの「強制養子縁組」を元凶とするところに基軸を置いている。上にも書いたが、前作の予備知識があった(しかもあまり間を置かずに読んだ)から割とスムーズに理解が進んだが、かなり「シリーズを続けて読む人」に向けたものになっている。
 少年時代に共に死線を乗り越え、今もトムと悪縁が続くベネが、別の場でジータとも強いかかわりをもっていた、というのは過ぎた偶然な気はするが…ドイツ(旧東ドイツ)ってそんな狭いのか??
 手がかりから真相を読み解くというよりは、「実はこんな隠れた背景があったのだ」という暴露的な真相解明。意外性はあって面白いが。
 次に続くことが明白な終わり方。ここまで来たら、読まないわけにはいかないか…


No.1182 5点 砂男
有栖川有栖
(2025/10/19 22:00登録)
江神シリーズ2編「女か猫か」「推理研VSパズル研」
火村シリーズ2編「海より深い川」「砂男」
ノンシリーズ2編「ミステリ作家とその弟子」「小さな謎、解きます」

ファンが期待する有栖川作品らしいのは、火村シリーズの2編。表題作は特に、非常にオーソドックスな「短編推理小説」。出色の出来ということもないが、手堅くまずまず面白い。真犯人や動機は予想通りだったが、それは平均的に「犯人当て」を楽しむことができたということ。
対して本作に収録されている江神シリーズはややチープ。特に「推理研VSパズル研」は、クイズを題材にした小エピソード、って感じ。
ノンシリーズ2編は、「ミステリ作家とその弟子」のほうがよかったかな。 


No.1181 5点 17の鍵
マルク・ラーベ
(2025/10/18 18:31登録)
 早朝のベルリン大聖堂で、丸天井の下に吊り下げられた女性牧師の死体が派遣された。現場に出向いたベルリン州刑事局のトム・バビロン刑事は、遺体の首にかけられた、カバーに「17」と刻まれた鍵を見て驚愕する。なぜならそれは、トムが少年の頃に仲間と川で見つけた死体のそばにあった鍵であり、こっそり持ち出したことで紛失していたものだったからだ―





<ネタバレ>
 劇場的な事件の幕開けから、主人公・トムの子供時代の回想と行き来する展開は確かに飽きが来ず、リーダビリティは高い。首席警部・モルテンの裏事情も入り組んできて、だんだん複雑になってはいくものの帯にある「読む手が止まらない!」の謳い文句もあながち的外れではない。
 ただ、ミステリとしては…と考えると、評価は微妙かも。550ページに及ぶ厚みのある作品ながら、終盤400ページを超えてから旧東ドイツの「強制養子縁組」の話だの、シュターンスドルフでの火事の話だの、新たな過去の話が唐突に出てきて、それが真相解明への大きな舵になっていく。広げた伏線の多さと、終盤になって急に提示される諸要素に混乱してきて、こんがらがるとともにだんだん理解が面倒になってきてしまった。
 最後は、続編を前提とした(また)新たな登場人物の登場で締め。勢いで次の「19号室」といっぺんに入手したが、これが吉と出るのか、凶と出るのか…
 ところで、プロローグで描かれている、オルガン奏者を誘惑した女性というのは結局誰で、なんだったんだ?


No.1180 5点 大富豪殺人事件
エラリイ・クイーン
(2025/10/06 22:43登録)
 表題作「大富豪殺人事件」は、ひねりのないタイトルも、現代では決め手になんてとてもならないだろう真相看破のくだりも、なんだかチープだった。おそらくこの短い作品では、最後の「犯人の動機」がちょっとした計らいだったのだろうけど……まぁそんなには。
 それよりは「ペントハウスの謎」。アメリカ、中国と国をまたいで、「組織」がやりあうという全体の枠組みはなかなかややこしくはあったものの、登場人物たちがそれぞれに怪しげな動向をするのを追っていきながら、一つ一つ推理を進めていく過程はなかなかだった。ただ、最後に明らかにされた真犯人が、追ってきた道筋の一つで、しかも小者で、何となく地味な結末には感じてしまったが…


No.1179 5点
エラリイ・クイーン
(2025/10/06 22:30登録)
<ネタバレ>


 タイトルである「face」が表していたことが、結局事件の真相に直結する(あるいは示唆する)ものでもなく、被害者の真のメッセージのありかを示す暗号にすぎなかったというのが残念。しかも、そこに書かれていた内容は、すべてそれまでの物語の中で描かれていたことを上書きするだけで、真相解明へ向かう段階としては何も進まないという…
 始めから堂々と描かれていた、「犯人」の思惑が結局真実だった、という一周回っての意外性をねらったものだが、「一周回って騙された!」と思えるか、「まんまやないかい!」と思うかは紙一重。
 男心を利用され、挙句の果てにエラリイにも利用されてしまった傷心のハリー・バークがただただ不憫だ。


No.1178 5点 悪魔の設計図
横溝正史
(2025/10/06 22:20登録)
 「悪魔の設計図」「石膏美人」「獣人」の3編を収録。
 もっぱら三津木俊助が主人公の役割で、後半になって由利探偵が現れる。


 「悪魔の設計図」…三津木が旅先で見た田舎芝居の舞台上で殺人事件が発生し、その背景にある複雑な血縁関係で次々に悲劇が…とまあ、横溝正史らしい立てつけの作品。めまぐるしく展開する活劇的な展開は飽かずに楽しめたが。

 「石膏美人」…本短編集ではもっとも紙幅が厚い中編。動機は一編目の「悪魔の設計図」と重なるような…最後の「婆や」の告白がなかなかのどんでん返しで、この時代の作品らしい突飛さは感じたものの、まずます楽しめた。

 「獣人」…40ページほどの短編で、乱歩の「少年探偵団シリーズ」のような怪人的話を楽しむカンジ。


No.1177 8点 デスチェアの殺人
M・W・クレイヴン
(2025/09/30 22:19登録)
 カルト教団の指導者が木に縛られ石打ちで殺された。さらに遺体には、意味不明の暗号が入れ墨で刻まれていた。ポーとティリーのコンビは捜査を開始するが、同じ頃にアナグマにより墓地が荒らされる事件が起きる。埋葬された遺体の棺が露されるが、その下に全く別の遺体が現れて…。無関係と思われた二つの事件が、捜査を進めるにつれつながっていき―







<ネタバレ>
 死んだアーロンの生前の写真を、イヴに求めた時点で真相は見えた。(一方的に主導権を握っていたのはイヴだった、というところまでは読めなかったが…
 にしても、そもそも物語の舞台がすでに「事件後」で、心身の復調を目指すポーが心療内科医のカウンセリング治療を受ける中で事件の様相が語られていく、というまどろっこしい設定は何のため?と思って読んでいた(まぁそこに仕掛けがあるのも、最後にそれが明かされるのも織込み済みだったが)が、ラストに明かされるそもそもの設定の仕掛けは…一枚上をいかれたかな。
 手の込んだ企みで、シリーズの質が保たれているのは素直に感嘆。ただ今回は若干、暗い雰囲気が作品を支配していた感じがあり、既刊の作品のほうが好みかも。
 現時点で、海外のシリーズものでもっとも新刊を待ち焦がれているシリーズ。それもひとえにポーとティリーのコンビが大好きだから。その点で、今回の結末は今後の不安の種である。

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