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ミステリの祭典

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HORNETさんの登録情報
平均点:6.32点 書評数:1156件

プロフィール| 書評

No.1156 7点 復讐の準備が整いました
桜井美奈
(2025/05/17 18:27登録)
 高校の漫画研究会のたった一人の部員兼部長の小野川葵。そこに新入生の由利が入部してくる。やっとできた後輩に喜ぶ葵だったが、由利が過去に漫画賞に入選していたのを隠していることを知る。その事実に嫉妬と羨望を抱いてしまう葵。そんな二人の関係は、歌舞伎町のビルから女子高生が転落した事故を境に大きく歪み始めて…。

<ネタバレ>
 タイトルから、後半あたりから復讐に向かうストーリーが展開されていく、クライム風の作品かと想像していたが、一向にその気配がなく、予想していた作風と違った。
 前半にあった”リリ”の話と共にラストに一気に回収されるということは理解し、どんな着地点なのか予想を立てながら読むのはそれなりに面白かった。ミステリの経験値から、読者を相手に仕掛けるトリックとその内容はだんだんと想像がついてくるものの、物語としての結末がどうなるかは分からない部分があり、そういう意味では最後まで楽しめた。
 ラストも心地よい着地で、全体的に楽しめた。


No.1155 6点 絵馬と脅迫状
久坂部羊
(2025/05/17 17:52登録)
●「爪の伸びた遺体」…学生時代に自殺した親友と瓜二つの男が、新人医師として自分のもとで働き始めた。以後、不可解な事件が頻発する。彼は誰なのか?
●「闇の論文」…大学病院の助教授・山際が指導する研究員が、がんに関する画期的な研究結果を出した。しかし、論文提出は認められないという。なぜなのか?
●「悪いのはわたしか」…メディアにも露出し、著書もベストセラーという女性精神科医のもとに「二度と人前に出られなくしてやる」と届いた脅迫状。いったい誰が?
●「絵馬」…科学のみを信じ、信仰を馬鹿にしていた内科医が、病院の近所にある神社の絵馬を誤って割ってしまった。すると、わが身に次々悲劇が降りかかる。
●「貢献の病」…野尻は、ベテラン作家・今城榮太郎の秘書。今城の作家としての評価に陰りが見えてきたことを知った野尻を悩ませる新たな問題が…
●「リアル若返りの泉」…ある時から突如として薄くなっていた髪が増え始め、若返った元教員・泉宗一の数奇な体験

 主に医療を舞台とした短編集だが、「貢献の病」や「リアル若返りの泉」など、その範疇にないものもある。それぞれに小ぶりな出来ではあるが、まぁ面白い。「闇の論文」は、ミステリというより社会小説的。
 人間の欲や迷いを上手く滑稽に描いているという点で、「絵馬」と「リアル若返りの泉」」がよかった。


No.1154 6点 ゆうずどの結末
滝川さり
(2025/05/17 17:23登録)
 大学生の菊池斗真はサークルの同級生の投身自殺を目撃する。その死から数日後、菊池は同じサークルに所属する先輩の日下部から、表紙にいくつかの赤黒い染みがある本を手渡される。それは、自殺した同級生が死の瞬間に持っていた小説らしい。「ゆうずど」というタイトルの小説は角川ホラー文庫から刊行されているごく普通のホラー小説だったが、今度はそれをよんだ先輩の日下部が翌週に自殺をしてしまう。気味が悪くなった菊池は、小説「ゆうずど」を何度も捨てるが、なぜかいつも手元に戻って来る。そして挟まれているしおりが、日を追うごとに勝手に進んでいくのだ――。

 「呪いの〇〇」的な、ホラーの典型ともいえる枠組みの物語。日を追うごとに「しおり」が勝手に進んでいくという死への時限設定もパターンではある。が、やはり臨場的で面白い。さらに呪いを回避するために主人公・菊池が打った一手というのが、ホラーらしいラストを飾っておりなかなかのもの。
 良い意味で、標準的なホラーの一作。


No.1153 7点 魔者
小林由香
(2025/04/15 23:11登録)
 週刊誌の記者である今井柊志は少年時代、兄が高校生をリンチして殺人を犯した。そんな柊志を守ってくれていた姉・小代子は、事件の翌月にトラックにひかれて死んだ。以来、加害者家族であることを隠して過ごしていた柊志だったが、ある日、雨宮世夜という作家が書いた小説を読み衝撃を受ける。そこには、柊志と亡き姉・小代子だけが知っている、事件のことが描かれていたのだ―同じ頃、柊志の職場に「今井柊志は人殺しの弟」という脅迫めいた電話がかかってくるようになる。いったい誰が、何の目的で過去を暴こうとしているのか―

 犯罪被害者、加害者を題材に、その苦悩や内実を描くのはこの作者の十八番。今回もまた、加害者家族を主役に据えながら、過去の事件の真相を探るストーリーとなっている。柊志の兄が殺したのは、姉・小代子の親友、梨七の弟。無二の親友に弟を殺された梨七の苦悩、悲しい断絶。小代子の死が本当に事故だったのか、という謎も加わり、読み応えのあるストーリーになっている。
 運命の交差ができすぎている感はあるものの、それゆえに面白い物語となっているので、それを純粋に楽しんだ。


No.1152 6点 難問の多い料理店
結城真一郎
(2025/04/15 22:22登録)
 "ビーバーイーツ"の配達員が注文を受けて向かったレストランには、超イケメンのオーナーシェフが。シェフは、商品の配達だけでなく「お願いがあるんだけど…」と怪しげな依頼を提案してくる。どうやらこのレストランは、メニューの注文を符丁にして調査依頼を請け負う影の探偵社らしい。―「空き室に届き続ける置き配」「謎の言葉を残して火災現場に飛び込んだ女」「指のない轢死体」…不可思議状況を鮮やかに解決する、"シェフ探偵"の連作短編集。

 各短編で提示される謎がどれも魅力的で、一話一話のリーダビリティが高い。人死にの事件もありながら、そのリドルストーリーは日常の謎風。ただ断片的な情報から真相を看破する展開はかなり飛躍があり、読者は当て推量はできるものの推理は無理かな。
 奇抜なメニューを注文することで暗号的に探偵と依頼者がつながるという設定だが、それは物語の色付けになっているだけで謎解きに影響はない。そう考えると、このような物語設定に必ずしもする必要はなかったような…


No.1151 7点 われら闇より天を見る
クリス・ウィタカー
(2025/04/09 23:35登録)
 カリフォルニア州の海沿いの町に住む少女・ダッチェスは、幼い弟と母とで暮らす母子家庭の子。母親は30年前に、同級生の手により妹が命を落としたという暗い過去をもつ。生活も言動な不安定な母親を、自称「無法者」のダッチェスは支え、懸命に生きていたが、ある日、そんな母親の命もまた奪われ―。苛烈な運命に翻弄される少女と、彼女を取り巻く大人たちの悩める人生を描いた一作。

 ミステリとしての主題の謎は、ダッチェスの母・スターの死の真相だが、物語は謎解き一辺倒ではなく、むしろケープ・ヘイヴンに住む人たちの人生模様から、生きるとは、家族とは何かを描くことにも重きが置かれている。そうした物語としても、十分に面白い。
 とはいえ事件の真相に迫るミステリとしてのストーリーもしっかりしており、ラストに明かされる真相にはそれなりに驚かされた。
 厚みのある一作だが、読むに飽きない。
 楽しめた。


No.1150 7点 魂婚心中
芦沢央
(2025/04/09 22:53登録)
 もしも死後結婚のマッチングアプリがあったら? ベストセラー作家が贈るSFミステリ傑作集 死後結婚用マッチングアプリ「KonKon」が普及した社会で、推しのアイドルの秘密のKonKonアカウントを見つけてしまい感情爆発した社会人女性がとんでもない凶行へと驀進してしまう表題作のほか、この現実とちょっとだけ異なる世界の謎と関係性の物語、全六篇!(出版社より)

 死後結婚「魂婚」のマッチングを斡旋するアプリが存在する世の中―「魂婚心中」。犯した罪業の履歴が管理され、死後の行き先が決められる世の中―「閻魔帳 SEO」。誰かに殺意を抱かれたらそれを察知し、逆に相手を死に至らしめる能力をもつ者―「九月某日の誓い」 など、SF設定のミステリ短編を集めた作品集。
 著者には珍しいSFモノながら、工夫を凝らした一編一編にはやはり作者の力量を感じた。素直に面白い。
 読み易いし、よかった。


No.1149 5点 悪魔の家
横溝正史
(2025/04/09 22:38登録)
 由利麟太郎シリーズ、と登録したが、実際はシリーズ内に登場する新聞記者・三津木俊助を主役とした話が多い、いわばスピンオフのような短編集。
「広告面の女」…謎の新聞広告から始まる冒頭は魅力十分。が、本筋は子爵家を題材にしたまぁスタンダードな横溝作品。
「悪魔の家」…表題作。良くも悪くも平均作。
「一週間」…非常に短い一編だが、新聞記者の矜持を描く側面もあり、面白かった。
「薔薇王」…よくできた短編。ラストは戦時中の哀惜も相まってなかなか。
「黒衣の人」「嵐の道化師」…由利先生登場作品。全体を覆う謎めいた雰囲気は氏の作品らしさが顕著。まぁ平均作。
「湖畔」…タイトルがいかにもな感じ。不可解な老紳士の言動の真相は想像通り。でも楽しめた。

「横溝正史」の作品群から探して書評しようと思ったが、なかったので登録したが…ホントかな?二重登録してたらごめんなさい。


No.1148 6点 災厄
永嶋恵美
(2025/03/22 23:39登録)
 冒頭から、感覚が壊れてしまっている高校生の妊婦惨殺シーン。衝撃的な始まりから、物語は少年の弁護を妊婦の夫が務めるという展開に。残酷な罪を犯した少年の弁護をする弁護士には、筋違いの誹謗中傷がいくが、その妻が妊婦とあってはなおさら。話の主軸はどちらかというとその妻を取り巻く状況のほうに移っていく。
 この話が書かれたのは15年以上前だが、今でもそんな社会の風潮は変わらないどころか、インターネットの発達により増しているよう。だから今読んでもリアル感は損なわれず、十分に面白かった。


No.1147 7点 柔らかな頬
桐野夏生
(2025/03/22 23:14登録)
 見えない物語の行く先、登場人物の特異な人生観を描き出す心理描写で、やはり読ませる作家である。
 作者の作品は、得てしてそういった、厭世的ともいえる人生観をもった女性を主人公に据えるものが多いが、本作もその例に漏れない、いかにも作者らしい一作である。
 不倫相手の男性の別荘に滞在中、5歳の長女が行方不明になってしまったカスミは、その娘を探すことが存在意義になる。時とともに周囲の関心が薄れていく中、それとの温度差に感情的になる姿はある意味普通の反応だが、そこからの行動は一般的な感覚からはかけ離れているように感じる。が、ひょっとすると常識に封じ込められた、人本来の深層心理を描いているのかもしれない、とも思え、そういったところが桐野作品の魅力である。

<ネタバレ>
 うすうす感づいてはいたが、やはり後を引く結末であり、一定の解決を期待していた読者にとっては消化不良かもしれない。しかしこれもやっぱり作者らしい、桐野夏生の王道といった感の一作である。


No.1146 8点 木挽町のあだ討ち
永井紗耶子
(2025/03/22 22:59登録)
 江戸・木挽町の芝居小屋尾の裏手にて、雪の降る夜、仇討ちが行われた。白装束に身を包んだ若い侍が、父親の敵とする博徒に挑み、見事に成し遂げたのだ。返り血で真っ赤に染まった若侍は、集まった見物客に仇敵の首を掲げ、江戸へと帰っていった。その2年後、なぜかその仇討ちのことを聞いて回る侍が、木挽町に現れた―

 多くの見物客の前で、見事に成し遂げられた仇討ち。時がたってから、その詳細を木挽町の面々に聞いて回る武士。木戸芸者、武芸の師範、芝居小屋の女形、小道具職人…順々に話を聞いていくくだりが章ごとに続いていくのだが、それぞれの話がやがて一つの輪郭をなしていく。上手い。
 読み手にもおぼろげに見えてきた「仇討ち」の真相が、最終章で明かされるが、単なる真相看破というだけでなく、芝居町に住む者たちの粋な生き様がそこには込められていて、「ほうっ」とため息をついてしまう心地よい読後感だった。


No.1145 5点 歪つ火
三浦晴海
(2025/03/08 22:23登録)
 辛い日常から逃れ、私は一人でキャンプにやってきた。テントを張り、のんびりご飯を作る。キャンプファイヤーを囲み初対面の人と語り合う。来て良かった。でも翌日、なぜか私はキャンプ場から出られなくなっていた。しかも昨夜語り合った人たちは皆、時間がリセットされたように「初めまして」と微笑み、昨日と同じ言動を繰り返す。「大丈夫?」訝しげな彼らの視線で私は確信した「ここにいてはダメだ」。戦慄のキャンプホラー!(「BOOK」データベースより)

 いわゆる「ループ」現象を基軸としたホラー。雰囲気はあるが、真相(?)へと導かれる筋は粗い。まぁ超常的な設定のホラーだからそれを期待するものではないとは思うが。エンタメとして軽く読むにはよいかも。


No.1144 7点 終活中毒
秋吉理香子
(2025/03/08 22:05登録)
 余命をSDGs活動につぎ込む資産家の妻をもつ夫、そこにある本心は?(「SDGSな終活」)妻の三回忌のため息子と家のリフォームを始めた男性、ところが…(「最後の終活」)ベストセラー作家の遺品に心を乱された理由は?(「小説家の終活」)余命を告げられた売れない芸人。妻のために挑む最後のお笑いグランプリ(「お笑いの死神」)。

 ブラックな話、心温まる話、織り交ぜた良質短編集。
 「婚活中毒」も面白かったが、劣らずこちらも面白い。
 よかった。


No.1143 6点 パラレル・フィクショナル
西澤保彦
(2025/03/08 21:44登録)
 久志本刻子(ときこ)とその甥・有末素央(もとお)は、未来に起きる出来事を夢に見る、「予知夢」を見る体質をもつ。その2人が、刻子の息子の婚約披露パーティで殺人事件が起こる予知夢を見た。殺人を回避するために、夢とは違う行動をとる素央、推移を見守る刻子。結果現実に起きた出来事と夢とを照らし合わせ、真実を探ろうとする。果たして殺人は阻止できるのか、そして真犯人は―

 ちょっとややこしさはあるものの、予知夢を見る能力がある2人が、夢で起こったことと現実でとった行動とを引き比べながら、答え合わせのように真相を探っていくという展開はなかなか面白い。後半はさらに構造が複雑化していくが、ミステリとしても一段深化する。
 設定の特異さによるところも大きいが、ミステリとしても面白かった。


No.1142 7点 七十五羽の烏
都筑道夫
(2025/03/08 21:20登録)
 不可解な状況の第一の殺人、小道具が配置されたミステリアスな第二の殺人、密室状況の第三の殺人…と、積み重なる謎と、ものぐさで頼りなげな探偵役。それが最後には見事に、要所要所で示されていた手がかりを回収して真相解明。王道な当時の「探偵小説」という感じ。
 文章で描かれている現場の状況が思い描きにくく、頭の中で整理しづらかったきらいはある。要所要所で示されていた手がかりとなる描写、論理的にそれがつながり解明される真犯人…見事な組み立てには唸らされたが。
 よくできたミステリ、であった。


No.1141 6点 愚か者の祈り
ヒラリー・ウォー
(2025/02/08 21:19登録)
 著者の作品は初めて読む。「このミス」2025年度版で、青崎有吾のインタビュー中に出てきて興味がわいたので、読んでみた。
 王道の警察小説で、捜査官のコンビが捜査を進める中で少しずつ真相に至っていくという至って地道な展開。だが、「とにかく事実。事実の積み上げのみが大事なんだ」というダナハー警部と、推測や推理で真相を探ろうとするマロイ刑事のコンビネーションが面白い。一足飛びに犯人を推理しようとするマロイ刑事をダナハーはたびたび一喝し「クソ刑事」とまで言うのだが、なんだかんだで互いをリスペクトしている様子は読んでいて心地よい。
 ひょんな興味から手に取った一冊だったが、読んでよかった。


No.1140 7点 ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。
辻村深月
(2025/02/08 21:04登録)
 平成らしい「女子」世界の価値観と、親子関係、愛情の在り方といった家族観の問題が巧みに絡められた作品。桐野夏生作品にも似たような、リーダビリティの高い一作だった。

 みずほの旧友、チエミが母親を殺めて行方をくらました。チエミの母娘は、昔から周囲も認める仲良し母娘だったが、そのあまりの距離の近さに危うさやおかしさを感じる人たちもいた。とはいえ当のチエミは意に介さず、母親を慕っていたはず。どうしてそんなことになってしまったのか、神宮司みずほは独力でチエミの行方を追おうとする。
 ジャーナリストとして都会で華々しく生活するみずほと、内向的で保守的なチエミ。対照的な2人を取り囲む、若いころの友達関係。コンパ、男選び、結婚と、平成の女性群像を如実に描き、さらにその渦中にある一人一人の心を描き出しているのは非常に面白い。たどり着いた真相はやるせなくも心を打つものであり、印象に残る作品だった。


No.1139 6点 架空犯
東野圭吾
(2025/02/08 20:41登録)
 高級住宅地にある邸宅で起きた火災。焼け跡からは、都議会議員と元女優という、著名な二人の遺体が発見された。しかし、男の遺体には絞殺の跡があり、首吊り状態で発見された妻の遺体も、自殺を偽装した跡が。捜査一課刑事・五代努は、所轄の山尾という警部補と組んで捜査に当たることになるが、山尾の言動に何か不審なものを感じる―


<ネタバレ要素あり>
 死んだ元女優・藤堂江利子夫人が、山尾の同級生であったこと、さらに山尾の親友の死に関わっていたことなど、隠された人間関係が明らかになっていくにつれ、読者の想像はある方向に持っていかれるが、それを想定したうえでの後段の企みはある程度成功しているとは思う。親友・永間を裏切った存在であるはずの藤堂になぜ山尾が協力するのか、深まる謎に対する答えとしてはなかなかだった。
 今回も期待する水準は満たしている一作と感じる。安定した人気もうなずける。


No.1138 6点 転落
永嶋恵美
(2025/02/02 18:02登録)
 冒頭の、小学生の少女に恵みを施されているホームレスの話から、物語は意外な広がりを見せていく。ホームレスが殺人事件の容疑者として指名手配されているとという状況が分かってきて、さらに読み進めていくと、「わが子を殺した女性を匿っている被害者女性」といういびつな状況が分かり、これはどういうことなのかという不可解さを抱く。「その始末は自分でつける、警察にやらせるわけにはいかない」といったような復讐心かと思いきや、どうやらそういうことでもないらしい。
 最終段で明かされるその真相は確かに意外であり、よく企まれた一編であるとは感じる。小出しにせずに、事件の背景をもう少し読者に分かりやすく示してくれる方が読みやすいのに、とは思ったが、基本的に十分なリーダビリティで楽しんで読むことができた。


No.1137 5点 長い長い殺人
宮部みゆき
(2025/02/02 17:42登録)
 刑事、探偵、目撃者、被害者…犯人と、それぞれの「財布」を視点人物としてリレー形式で事件を描くという構成は面白かったが、あくまで「一風変わった描き方」という域を出ず、つまりはその利点はあまり感じられなかったという印象。
 明らかに容疑の濃い立場でありながら、むしろ積極的にメディアに露出し、日本中の話題をさらうという様相は80年代に一時日本中のワイドショーを独占したあの有名な疑惑を彷彿とさせ、既視感を感じるものがあった。

 しかし真相は、犯罪の起点がちょっと都合のよすぎる偶然に感じ、これだけの長編で、凝った演出(財布語り)をつないできた構成の受け皿としてはやや物足りなさがあった。

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