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ミステリの祭典

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影と踊る日

作家 神護かずみ
出版日2022年12月
平均点7.50点
書評数2人

No.2 7点 HORNET
(2025/05/31 11:14登録)
 新潟県警生活安全部の女性巡査部長・鈴山澪は、テレビ番組の特殊詐欺被害コーナーに出演するなど、県警の広告塔として活躍していた。そんなある日、以前認知症の高齢女性を助けたことで表彰を受けた、澪も懇意にしていた青年が行方不明に。心配な澪が独自で捜査をしていくと、隠されていた青年の過去が次第に見えてきて―

 行方不明となった沢田一平を追うストーリー、テレビで共演していた高齢女性とのストーリー、裏で不審な動きを見せマル暴刑事・桑島のストーリー、澪の親友・舞とのストーリーと、話がかなり枝分かれして進んでいくので、今何を追っているのか、混乱してしまうこともあった。
 後半から各ピースが次第に一つの形を成していくので、全貌が見えてくると理解も整理されたし、ある意味予測もついた。広範囲な仕掛けもきれいに収束されるさまはなかなかで、読後の満足度は高かった。

No.1 8点 人並由真
(2023/03/03 08:18登録)
(ネタバレなし)
 新潟県警生活安全課の巡査部長で29歳の女性警官、鈴山澪は、地元の報道番組「夕方情報ワイド」の防犯コーナーに出演。なりすまし詐偽の対策を啓蒙する婦警として人気を集めていた。そんななか、番組の共演者で防犯、詐偽被害者市民グループの代表で80歳の老婆、山野麻子が突然、本番中に激情を高ぶらせる。一方、澪と知り合いの、人命救助に貢献した26歳の青年・沢田一平が行方不明になるが。

 乱歩賞を受賞した作者の、三冊目の長編ミステリ。
 新刊が出てることに少し前に気づいて、読み始める。

 なんだ主人公は、前二作のトラブルシューター、西澤奈美じゃないのかと、ちょっと残念だったが、本作の主人公、鈴山澪もなかなかキャラクターの造形がいい。
 さすがは女戦士萌えを自認する、作者だけのことはある。

 ネタバレにならない限りに語るなら、全編を貫く主題は、まぎれもなく「善とも悪ともつかぬ人間の二面性」であり、そんな文芸テーマに沿った登場人物それぞれの叙述が実に面白かった。
 その辺は主人公の澪自身も例外ではないが、そういった主題をときにミステリ的なサプライズとして呈し、ときに泣かせの小説的な旨味として語る作者の手際はとてもいい。
(作中のリアルでいえば、この登場人物にソコまで、できたのかな、と思わされる部分がまったく無きにしもあらずではあるが。)
 あ、とはいえ二人だけ、まったく裏表のないキャラクターがいたな。でもそれがまた……(以下略)。

 よくある、キャラクターものの警察小説の大海のなかに沈んでしまいそうな作品、という面もある(言い換えれば、良くも悪くも、記号的に特化したものは少ない)のだが、単品のポリスものとしては、十分に面白かった。
 作者は、ミステリ執筆に本格的に舵を切ってから、一冊ずつ、レベルアップしていく感じがある。たぶん。

 西澤奈美のキャラクターがそれなり以上に好きな身としては彼女の今後の再登場も望むけれど、こっちの主人公、澪の方もシリーズ化してほしいのお。
(特にあの、悪役令嬢というか意地悪お嬢様風のキャラは、次作でもっと掘り下げてほしい。作者もたぶん、好きそうな気配がある。)

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