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ミステリの祭典

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sophiaさんの登録情報
平均点:6.95点 書評数:357件

プロフィール| 書評

No.357 7点 プロジェクト・インソムニア
結城真一郎
(2024/04/17 21:11登録)
ネタバレあり

特殊な状況下のフーダニット、ハウダニットとしては出来がよかったと思いますし、真相はなかなかに強烈なインパクトがあります。ドリーマーたちが肌で感じる違和感、疑念が口の軽い蜂谷君(笑)の補強によって確信へと変わっていくサスペンス構図も上手いです。ただし、ある人物の「××が欲しい」がやはり不自然で受け入れ難い。それを手に入れてどうするのよ、という。クライマックスに主人公が陥る「夢なのか、現実なのか」の板挟みを作り出すためだけの布石に思えます。それから全編を通して文章がやや読みにくい。世界観の難しさを差し引いても情景描写があまり上手くないと感じました。


No.356 7点 変な絵
雨穴
(2024/04/12 22:37登録)
前作「変な家」は一つのエピソードに継ぎ足しを重ねて長編にした感じがありましたが、今作は最初から最後まで計算して構築された作品になっており、小説らしさが格段に向上しています。無駄な登場人物が全くおらず、使い捨てのように思われた人物を含め全員がリンクして真相を紡ぎ出していく様は圧巻。欲を言えば、文章を練ることでもっと小説らしくすることもできそうなのですが、基本的にYouTubeが活躍の場の方にそれを求めるのも違うのかなあと思います。くどいほど随所に図を挿入するところからしても読み易さ、分かり易さを重視しているのは明らかでありますし。今作ぐらいの塩梅がベストなのでしょう。


No.355 9点 地雷グリコ
青崎有吾
(2024/04/06 19:15登録)
最初の2話は肩慣らしといったところで、その後段々ときな臭いゲームに巻き込まれていく展開が面白い。ギャラリーの客観視点や対戦相手の視点、真兎の視点とカメラの切り替えが巧みで、駆け引きの妙を描くことに成功しています。しかもゲームとは、戦略とは、人生で大切なものとは、といった重いところまで軽快なタッチで描いて3人の女子高生の爽やかな友情物語に仕上げており、青春ミステリにもなっています。「カイジ」や「ライアーゲーム」が大好きな私にとっては最高の作品でした。こういうものを小説であまり読んだことがないので、おまけして9点にします。


No.354 8点 ちぎれた鎖と光の切れ端
荒木あかね
(2024/03/25 00:20登録)
デビュー作からいきなり終末モノだったので2作目以降が心配だったのですが、この人は本物だと確信しました。「十角館の殺人」を思わせる冒頭と怒涛の連続殺人。他にも「十角館の殺人」を思わせる箇所はいくつもあります。小道具に着目した推理合戦や第一発見者が連続して次の被害者になってしまう意外な理由も面白く、第一部は文句なしの10点。しかしながら第二部は6点。第二部でやりたかったことは分かるのですが、予定調和のゴールへ向かって駆け足でまとめたという感じがしますし、第一部のコテコテの本格ミステリーとの食い合わせが悪いです。もっと歴史的傑作たり得た惜しい作品でした。最後にひとつ。「お前は背の低い人間を何だと思っているんだ」には笑いました。


No.353 7点 好きです、死んでください
中村あき
(2024/03/17 19:49登録)
ネタバレあり

ラノベ調の作品かと思っていましたが、意外としっかりした文章で語彙も豊富です。本作は共通の要素を持った二つの場面が交互に進行する形ですが、そうなるとどういう類のギミックが仕込まれているかはおおよそ見当が付きますので、すっきり騙されたという気分ではありません。しかしながら学校パートには更にギミックがありまして、それは見抜けなかったのですがだいぶ力業であります。特にSNSの「こいつOUTで、男新メンプリーズ」がですねえ。なのでそちらはあまり評価できないのですが、メインの孤島パートに限って言えば、茶番に思われた序盤の推理劇がしっかり伏線として機能し、現実の殺人事件の手がかりとも相まって変則消去法推理につながっていくという高等技術があり満足できました。
余談になりますが私はSNSは一切やりません。理由は本作でも語られているような負の部分に嫌悪感を持っているからなのですが、現実でも本作のような誹謗中傷による事件はありましたし、今後こういうテーマの作品が溢れていくのだろうかと考えると暗澹たる気持ちになるのでありました。


No.352 6点 あなたが誰かを殺した
東野圭吾
(2024/02/20 23:11登録)
腹黒一族の内紛パターン。別荘地で殺人事件が起きて、たまたま居合わせた加賀恭一郎が解決するというようなオーソドックスな展開を思い描いていたのですが、東野圭吾には珍しい凝った構成の作品でした。内容は自分の苦手な時系列パズルだったので、整理していくのがとても大変でした。特に加賀が殺人の順序を4パターンに絞ったところが頭が痛かったです(読了後にも自分で改めて検証してみましたが、他のパターンもある気がして釈然としませんでした)。結局時系列を完璧に把握することは諦めました。その論理正しいの?と思うところも多く、緻密なようでいて粗い作品だと思います(阿津川辰海の「蒼海館の殺人」のような)。それでも節目節目で一癖も二癖もある登場人物たちの正体が暴露されていくという趣向があり、引き付けられたので何とか挫折せずに読めはしたのですが。事件解決後にとある登場人物の独白で語られる後悔がよかったです。ところでこの作品はタイトルだけ見て例のシリーズの第3弾かと思っていましたが、クイズ形式でない以上は別物と捉えるのが妥当でしょうか。


No.351 7点 アミュレット・ホテル
方丈貴恵
(2024/02/01 22:13登録)
本作は物理的な意味ではなく、治外法権的な意味での変わり種のクローズドサークルものと言えるかもしれません。起こる事件も「密室殺人」「衆人環視の毒殺事件」「人間消失」「凶器消失」とバリエーションに富んでおり飽きさせません。特に第一話「アミュレット・ホテル」の密室を作った理由と、第四話「タイタンの殺人」の5年後にまた事件を起こした理由に目から鱗が落ちる思いでした。続編も期待できそうですね。


No.350 8点 でぃすぺる
今村昌弘
(2024/01/21 19:10登録)
ネタバレあり

謎が多すぎるよ!と悲鳴を上げつつメモを取って読み続けましたが、頑張った甲斐がありました。この手の作品はリドルで終わるのが常だと思うのですが、まさかの完全決着で新鮮でした。それに伴いジャンル投票がネタバレになってしまいかねないという、このサイト特有の問題が発生していますね。「ノックスの十戒」が出てきたのにもびっくり。そしてただ出しただけではなく、謎解きの重要なファクターだったのにもびっくり。小学校の卒業を間近に控えた少年少女のセンチメンタルな冒険譚としても読めます。ラストの主人公の心情描写が素晴らしかったです。この方の例のシリーズ以外の作品は初めて読みましたが、作家としての底の深さを思い知らされました。ただ、ジュブナイルというには少々難解に過ぎるでしょうか。


No.349 7点 名探偵のままでいて
小西マサテル
(2023/11/20 22:06登録)
中盤にサプライズを作ったり、クライマックスで犯人を特定する手がかりとしたり、「幻視」の活用が上手いです。連作短編集としては典型的な安楽椅子探偵もので割と楽しめたのですが、第五章「まぼろしの女」の出来がよろしくない気がします。祖父の洞察力がいくら並外れているとはいえ、まぼろしの女が××××だと断ずる根拠がさすがに弱すぎます。さらに作者が刑法や刑事訴訟法に関して勉強不足のように見受けられました。なお本作はこのミス大賞の大賞受賞作ですが、本作と文庫グランプリ受賞作「レモンと殺人鬼」はちょっと似てしまっていますね。


No.348 8点 世界でいちばん透きとおった物語
杉井光
(2023/10/20 00:19登録)
正直な話この作品の仕掛けとその意味は半ばほど読んだところで分かってしまったのですが、それはこちらの事情なのでそれで減点はいたしません。伏線の張り巡らし方はしっかりと本格ミステリーのそれでありますし、遺稿をあるいは父親の影を追う主人公の心境の移り変わりが言葉巧みに描かれた素晴らしい作品であったと思います。最後の鍵括弧の使い方でプラス1点です。本屋大賞狙えるんじゃないでしょうか?

追記 すいません。ノミネートされませんでした。うーん、そうか。


No.347 5点 フォトミステリー ―PHOTO・MYSTERY―
道尾秀介
(2023/10/08 16:44登録)
読者の受け取る力が求められる異色のショートショート集。あっと言わされたのは「土の馬」「今夜」ぐらいでしょうか。作者の意図のよく分からないものもありますが、まあ深く考えるようなものでもないでしょう。簡単に読めて気分転換にはよかったです。


No.346 7点 レモンと殺人鬼
くわがきあゆ
(2023/10/06 18:52登録)
ネタバレあり

終盤に主人公の家庭の秘密が明かされるところが最高潮でしたかね。その後のもうひとつのどんでん返しは無理にもうひとひねりさせた感じがあり、蛇足に感じました。しかしながらサスペンスとして出来がよく、一気に読ませる力がありました。主人公の妹に対する複雑な感情など心情描写もよく出来ています。それだけに最後の着地をもっとしっかり決めてほしかったかなと思います。それと姉妹が××であることを伏せていたところと、ある人物がある人物を自分が勝手に付けた名前で呼んでいたところは多少引っ掛かりを覚えました。


No.345 6点 可燃物
米澤穂信
(2023/10/03 00:35登録)
●崖の下 7点・・・まさか×××じゃないよなってみんな思いましたよね(笑)
●ねむけ 6点・・・これはミステリーでよくある話のような 
●命の恩 7点・・・これが一番出来がいいですかね
●可燃物 5点・・・これはがっかり
●本物か 6点・・・注文数を確認した意味があまりないような

多彩な作風の米澤穂信ですが、唯一苦手なのが警察小説ではないだろうかと思っています。本作はミステリーとしても期待を超えてきませんでしたが、それよりも何よりも主人公の葛警部に人間的な魅力が乏しいです。機械的に捜査をして事件を解決しているだけで、彼の経歴や生い立ち、家庭環境や思想・主義など何も描かれていません。警察官に太刀洗万智のような「エモさ」は必要ないという考えなのでしょうか。どうにも物足りない作品でした。


No.344 5点 一寸先の闇 澤村伊智怪談掌編集
澤村伊智
(2023/09/22 00:37登録)
全21編、分かりやすい幽霊話か意味の分からない話か大体どっちかです。面白かったのは「せんせいあのね」「さきのばし」「はしのした」ぐらいでしょうか。「さきのばし」のような非心霊系の現実的な話がもっと欲しかったです。


No.343 4点 プリズム
貫井徳郎
(2023/09/18 23:35登録)
ネタバレあり

これは難解な作品ですが、要は各章の視点人物の間で疑惑の連環を作りたかっただけの作品ですよね。最後に疑惑を向けられる第一章の男子児童がシロなのは明白ですし。その構造を面白がれるかどうかが評価のポイントなのでしょうが、自分はいまいちでした。それをやりたいがために終盤で急に話が変わるのがどうにも不自然でしたし。やはりリドルストーリーは基本的に合わないようです。


No.342 5点 恋する殺人者
倉知淳
(2023/09/11 19:14登録)
この構成とギミックは著者の過去作の二番煎じでありますし、今回はスケールも小さく真相が脱力系です。サラッと読めるところ以外に特に評価するポイントがありません。しかしこのトリックを成立させるためだけに舞台をヨガ教室に設定したのかなどと考えるとちょっと微笑ましいのです(笑)


No.341 7点 十戒
夕木春央
(2023/09/04 22:25登録)
ネタバレあり

タイトルを「百戒」に改めてほしいんですけど(笑)それはさておき。「方舟」とは違い、最後のどんでん返しがあまり効いていません。最初の解決で終わっていても、この作品の評価に変化はそう生じないと思うのです。「十戒」というテーマもあまり活かされていません。読み終わって「十戒」の内容を思い出せる人はあまりいないでしょう。なぜそのような条項を入れたのかというような謎があったりするとよかったんですかね。それとアリバイに関する記述がフェアなのかどうかはこの作品の問題点だと思われます。

追記 上記を書いた後しばらく考えていて気付きました。そういうことだったんですね。なぜ主人公以外は苗字しか出さないんだろうという地味な疑問がずっとあったんですが納得しました。しかしそれはあくまでプラスアルファの部分であって、分かったからと言って点数をプラスするには及ばないかなあと判断します。


No.340 6点 大雑把かつあやふやな怪盗の予告状: 警察庁特殊例外事案専従捜査課事件ファイル
倉知淳
(2023/08/31 00:16登録)
「片桐大三郎とXYZの悲劇」と同様、どの話も内容に比して冗長で筆がくどいです。ページ数を稼ごうとしているのが見え見えで何とも嫌ですね。作品の本質とは関係ない部分かもしれませんが、どうしても密度が薄くなってしまっているように感じるのです。7割ぐらいの分量に収めてくれていればプラス1点したかもしれません。
主人公の属するよく分からない組織の設定も活かし切れているのかどうか。表題作だけはまあまあ面白かったと思いますが、人間の心理として果たして入れたままにしておくだろうかという疑問が残ります。


No.339 7点 しおかぜ市一家殺害事件あるいは迷宮牢の殺人
早坂吝
(2023/07/24 23:59登録)
ネタバレあり

「迷宮牢の殺人」のグズグズっぷりに立腹しかけていたのですが、それすらも伏線でしたか。キーパーソン死宮遊歩の正体へ迫るヒントが初登場シーンに示されているのは実にフェアです(しかも助詞一文字の違和感という細かさ)。これはこれで面白かったのですが、当初期待していた通り真っ当なクローズド・サークルものとして読みたかった気もしますし、六つの未解決事件のインパクトの強さの余りスケールダウンした印象で損をしてしまったのではないでしょうか。しかしこの作品は誰もがあの新本格作家のあの作品を思い浮かべると思いますが、オマージュなのですかね。米澤穂信のあの作品っぽくもありますが。


No.338 8点 清里高原殺人別荘
梶龍雄
(2023/07/10 19:18登録)
ネタバレあり

「梶龍雄 驚愕ミステリ大発掘コレクション」と仰々しく銘打たれた本作。こんなに面白い作品がよく今まで未文庫化だったものです。別荘(ビラ)に最初からいた秋江と闖入者の勝浦グループの双方が秘密を抱えており、解決編で2つのサプライズが味わえます。目ぼしいトリックはそう使われていないのですが、唯一と言ってもいいとあるトリックが明かされることで犯人の抱える秘密も明らかになるという技巧が冴えます。また本作は本格ミステリーと恋愛小説が融合しているとも言えるでしょう。難点を挙げるならば、章タイトルである程度結末が予想できてしまったことです。それと序盤から頻繁に名前が出る「川光」という人が何者なのかよく分からなかったので早めに説明してほしかったです。いやしかし、勝浦の女性蔑視がすごいことと呉殺しの動機が酷いこと(笑)

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