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ミステリの祭典

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sophiaさんの登録情報
平均点:6.92点 書評数:381件

プロフィール| 書評

No.381 6点 死んだら永遠に休めます
遠坂八重
(2025/05/05 00:17登録)
ネタバレあり

第四章までで完全に解決しているように思われる事件、最終章で明かされるその背景は確かに驚愕に値しおぞましさすら感じるものでありますが、仁菜による種明かしは裏付けに乏しく、推理というよりも推測の色合いの方を濃く感じます。伏線ももう少し欲しかったところ。主人公の記憶力が低いのは散々描写されていますが、それは多忙すぎるがゆえのことではなく、そもそもの記憶力が低いという解釈で合っているのでしょうか?各章終わりに挿入される独白パートを最後まで読むとそのような暗示を感じるのですが、ここはちょっと分かりにくいかもしれません。というか、そんなに記憶力も低く絶望的に仕事ができない人が結構なレベルの国立大学に合格できるとは思えませんし、自分が仕事ができないということすら自覚できていないというのは設定に無理があると言わざるを得ません。サプライズありきで話を作ったからこうなってしまったのでしょう(自分が本来お気楽人間であったことまで忘れていますよね?)。それからラストはあのようなビターな終わり方でもよいと思いますが、あっさりしすぎていて勿体なさを感じました。


No.380 6点 スイッチ 悪意の実験
潮谷験
(2025/04/20 21:56登録)
ネタバレあり

映画「運命のボタン」のようなSFチックな作品かと思っていましたが、思いのほか現実的な話でした。スイッチを押した人物を特定する推理は面白かったのですが、綻びとなった「弱い教祖」の論理があまりピンと来ませんでした。ここは本作の内容を鑑みるに重要な箇所だったと思うのですが、私に宗教学的な素養がないことが原因かもしれません。それから、主人公の抱える「自分の意志で選択できない」という秘密があまり主題に関係していないのかなあと思いました。脳内コイントスの原理は面白いのですけどね。


No.379 4点 斬首の森
澤村伊智
(2025/04/07 23:22登録)
ネタバレあり

「首を斬ればいい」という情報を受けて二人の人物がたどり着いた同じ結論が飛躍しすぎですし、実際にその方法が可能なのはご都合主義以外の何物でもない気がします。首も簡単に斬れすぎでは?それから、この方の作品を読むのは四作目になるのでそろそろ気付いてきたのですが、登場人物に軽薄な人が多すぎませんか?もう少し重々しい人物描写の方がホラーとの相性がいいように思うのですが、軽いのがこの方の良さなのでしょうかね。


No.378 8点 時空犯
潮谷験
(2025/03/27 16:44登録)
ネタバレあり

西澤保彦「七回死んだ男」は現象をミステリーのルールとしてのみ用いていますが、本作はメカニズムに斬り込んでいくスタイルであり、その過程で殺人事件が発生するという流れになっています。中盤の史実を確定させないために奮闘する展開は「ジョジョの奇妙な冒険」の第4部、吉良吉影のスタンドを思い起こしました。「知性体」の概念はスケールが大きく難解に過ぎますが、巻き戻しのルールの厳密性に知性体による客観的な保証を与えているのは上手いやり方だと思いました。本作はフーダニットとしても楽しめますが(殺人の被害者自身が重要な証言をする!)、目玉は何と言っても「時空犯が巻き戻しを行う理由」ですね。世界観の難しさと見合うだけの感動が確かにそこに存在しました。また余談ですが、夜行列車なんてものがまだ本格ミステリーに絡んでくることを嬉しく感じました。


No.377 5点 まず良識をみじん切りにします
浅倉秋成
(2025/03/21 23:06登録)
●そうだ、デスゲームを作ろう 5点・・・ただのDIY奮闘記
●行列のできるクロワッサン 5点・・・ただの行列奮闘記
●花嫁がもどらない 5点・・・ただの偏見大会
●ファーストが裏切った 5点・・・ただのNHKスペシャル
●完全なる命名 6点・・・この中では一番マシ

多くの話で主人公の行動の描写、心情の描写ばかりが続き劇的な展開はありませんし、オチらしいオチもありません。「行列のできるクロワッサン」は「世にも奇妙な物語」でありそうな話。「完全なる命名」は歌野晶午「世界の終わり、あるいは始まり」を思わせる構成ですね。総じて浅倉秋成に期待するものではなかったです。ひょっとすると短編は向いていないのかもしれませんね。


No.376 7点 雷龍楼の殺人
新名智
(2025/02/24 17:55登録)
ネタバレあり

これは久しぶりに物凄く評価に苦しむ作品ですねえ。ええ、小説家が出てきた時点でアレは疑いましたが、まさかまさか。このギミックを成立させるために主人公の人格は完全に破綻してしまっていますし(それが後の因果応報の悲劇につながりはしますが)、このような強引なことをやられると私の今後の読書人生に支障を来すのではないかと戦々恐々としてしまうのですよね。それから流儀なのか何なのか知りませんがこの作品において「読者への挑戦」は必要なかったでしょう。挟まれている位置も序盤の妙なところですし、そもそも何を挑戦しているのか分かりません。オチも読めましたし4,5点を付けることも可能なのですが、読んでいる最中は面白かった(本格というよりもサスペンスとして)のは確かですし、冒頭の電話のシーンが犯人の特定につながるところなどは上手かったのでこの点数にしておきます。なお枝葉の部分になりますが、穂継と真子が戦わせるミステリ談義が結構面白かったです。


No.375 7点 禁忌の子
山口未桜
(2025/02/11 19:08登録)
ネタバレあり

自分と瓜二つの人間などというのは一卵性双生児かクローンしかあり得ませんし、密室トリックも古典的なものですし、これをどう展開させたら傑作になるのだろうという懐疑的な気持ちでのスタートでしたが、終盤の思いもよらぬ方向への跳躍に確かに驚かされましたし、同時にタイトルの真の意味を浮かび上がらせるところにも作者の手腕を感じました。ただ、生殖医療に関する部分はその道の専門家にしか分からないと思いますし、密室殺人の犯人を絞っていく論理は素直に飲み込めない部分がありますし、分数からXを特定する推理には論理の飛躍を感じないでもありません。そして何よりも主人公たちの真実には正直に言って引くところがあるのですが、こういったミステリーが登場するのも時代の必然なのかなと考えました。8点にするかすごく悩んだのですが暫定的に7点で。


No.374 7点 奇岩館の殺人
高野結史
(2025/02/04 16:30登録)
ネタバレあり

主人公の青年の自分の置かれている立ち位置の必死の模索、それに加えて運営の苦労が楽しめるお得な作品です(笑)終盤に明かされる探偵遊戯の真の姿は、まあありがちな物かもしれませんが、その圧倒的な絶望に対してそういう角度から風穴を空けるのか、と素直に感心させられました。8点にしようかなとも考えたのですが、そもそものシナリオ、特に古典作品になぞらえた3つのトリックがちょっと弱いので7点止まりです。この作品は映画で言うと「ホステル」シリーズですかねえ。


No.373 5点 この限りある世界で
小林由香
(2025/01/29 00:28登録)
ネタバレあり

大技のミステリー的な仕掛けは不要なので、ただひた向きに犯行動機を突き詰める作品であってほしかったなあという個人的な思いがあります。美月が用意したダミーの動機も主人公がたどり着いた真実の動機も意外性に欠けました。私がこのような読み方をしてしまったのも帯によるところが大きいと思います(笑)つくづく帯って大事だなあと。それからタイトルもスケールが大きすぎますし、ラストの1行もちょっと臭いんじゃないですかね。読み終えてどうも著者との温度差を感じました。


No.372 6点 二人目の私が夜歩く
辻堂ゆめ
(2025/01/22 00:31登録)
ネタバレあり

最初の方に答えが出ているのに見過ごしてしまうなどミスリードも上手く、夢遊病小説(?)としては面白いのですが、過去の事故に関する謎解き部分がしっくり来ません。事故当時の街並みや登場人物たちの動線を頭の中で再現するのが難しかったですし、事故のあらましや過失割合の話もよく分かりませんでした。発端となった親友と先輩との三角関係も何が何だか。主人公が自分でも知らずに抱えている大きな秘密と過去の事故の部分がもっと自然に融合していたら評価は上がったと思います。


No.371 8点 名探偵のはらわた
白井智之
(2025/01/16 18:06登録)
ネタバレあり

作風のグロさが評判で食わず嫌いしてきた作家さんですが、ランキング上位常連になっていますのでこれから少しずつ読んでいこうと思います。本作は最初の「神咒寺事件」が七つの事件のどれでもなさそうだけどというところから興味を引かれ、章を読み終える頃にはもう世界観の虜でした。過去に犯した犯罪の特性をヒントに人鬼に迫っていくのですが、そこからむしろ過去の犯罪の真相が見えたりするという予想外の展開が面白い。はらわた君が最終話で急に覚醒したなあとは思いますが、作品タイトルのダブルミーニング(あるいはトリプル?)が完成して終わるのが実に爽快です。


No.370 4点 ずっとお城で暮らしてる
シャーリイ・ジャクスン
(2024/10/09 19:39登録)
主人公の少女のとりとめのない独白、無駄に細かい描写、会話の噛み合わない登場人物たち、最後まで解き明かされないいくつもの謎。このような作品は大の苦手です。分類的にはホラーのようですが、怖くないのですよね。ただただ理解不能で登場人物に対する不快感だけが残りました。長らく海外作品を読んでいないということもあって、何となくタイトルに惹かれたこの作品に手を出してみたのですが、海外作品にますます苦手意識を持ちそうで、チョイスを失敗してしまったという気持ちでいっぱいです。


No.369 6点 成瀬は信じた道をいく
宮島未奈
(2024/10/04 18:52登録)
前作は構成が凝っていたのでミステリー的な仕掛けを期待してしまい失敗したのですが、本作は特にそういうひねりもなく、時系列通りの客観的な成瀬あかり史という王道の描き方で安心して読めました。おかげで尚更ミステリーではなくなりましたし、当サイトにおける評点としてはこんなものになってしまうのですが、いやしかし最終話はミステリーではないですか?「成瀬はどこへ消えたのか」これは立派なミステリーでしょう。伏線もしっかりと提示されていますし、正直言ってこれは当てたかったですねえ。第3弾もありそうなので次はリベンジさせて下さい。そして成瀬シリーズはミステリーであると言わせて下さい(笑)


No.368 9点 少女には向かない完全犯罪
方丈貴恵
(2024/09/16 16:28登録)
ネタバレあり

あらすじを読むと特殊設定ミステリーのように思われるのですが、それは調査手法や展開のために用いられるだけであり、対象となる事件そのものは現実的なものです。本作は本格でありサスペンスでありクライムノベルでもあるという実に贅沢な構図。慎重で臆病だった烏由宇が行動的に、短絡的で向こう見ずだった音葉が思慮深く、互いに成長していくバディものとしても優れています。読んでいてオーバーラップしたのは「レオン」「ゴースト/ニューヨークの幻」「シックス・センス」「デスノート」あたり。そして個人的に納得のいく多重解決ものを初めて読んだ気がします。強いて言うと、ある人物に罪を着せるプランが偶然に助けられている点がマイナスポイントですかね。しかしこの作家さんは本当に傑作しか書きませんね。


No.367 7点 六色の蛹
櫻田智也
(2024/09/08 00:03登録)
●白が揺れた 8点
●赤の追憶 8点
●黒いレプリカ 6点
●青い音 6点
●黄色い山 8点
●緑の再会 採点不能

前作「蝉かえる」と比べると当たり外れのある印象。犯行態様の杜撰な「黒」とトリックの必然性のない「青」がいまひとつ。「黄色」はまさかの続編でしたが、真相が明らかになるラストシーンに魞沢の蛹の講釈が重なるのが秀逸で、ここが今作の最高到達点であろうと感じました。その後のエピローグ的な「緑」は不要だったかと思います。しかし謎解きを通して人間の悲哀を描き出すのが相変わらず上手いですね。


No.366 7点 明智恭介の奔走
今村昌弘
(2024/08/25 23:16登録)
「〇〇の殺人」と銘打たれる剣崎比留子シリーズの緊迫感とは好対照のコミカルな作品集です。剣崎比留子のような天才型ではありませんが、ミステリー愛をエンジンに日常に潜む謎に取り組む努力型の明智恭介の姿勢には好感が持て、それだけでも読む価値があるというのに、どの作品もレベルが高いです。これを読んだ今「屍人荘の殺人」を再読したら泣いてしまうかもしれません。

追記 いつもこの方の作品は高評価してばかりなのでたまには難癖でも。「泥酔肌着引き裂き事件」に関して。そこまでやったなら覚えときましょうよ。というか、そこまでやれるなら泥酔してないでしょ(笑)


No.365 6点 成瀬は天下を取りにいく
宮島未奈
(2024/07/30 17:38登録)
このサイトで扱う対象の作品なのかなとは思いますが、既にいくつか書評が登録されているので私も書かせていただきます。第3話で全然違う人物の話になったことや、第4話以降の駆け足っぷりに翻弄されましたが、滋賀県密着型および新型コロナウイルス流行の世相を反映という特性がなければまあ普通の作品かなと思います。成瀬は言うほど奇人でもありませんし。それでも絶賛されているのだから最終話で大きなサプライズがあるのだろうと期待してしまったのはミステリー読みの悪い癖なのでしょうか。その後どうなったのと思う人物もおり、続編ありきの作品なのかなあと考えました。


No.364 5点 超短編!大どんでん返し Special
アンソロジー(出版社編)
(2024/07/23 22:29登録)
前作はなかなか楽しめたので期待して読んだのですけれども。最初の森見登美彦「新釈『蜘蛛の糸』」が大変素晴らしく、以後それを超えるものは残念ながらありませんでした。まあまあよかったのは「イズカからユウトへ」「試験問題」「飯の種」「美味しいラーメンの作り方」「おとうちゃん」ぐらいでしょうか。


No.363 7点 ぼくらは回収しない
真門浩平
(2024/07/19 00:05登録)
これは多くの人が7点評価なのも頷ける実に手堅い独立短編集ですね。純粋な謎解きの部分も優れていますが、各短編にはそれぞれ特色があります。推理のアプローチ法が鍵となった「街頭インタビュー」「速水士郎を追いかけて」。動機が鍵となった「カエル殺し」。過去と未来にテーマを置いた「追想の家」。そして最後の「ルナティック・レトリーバー」はこの3つの集大成と言える作品でした。若手らしからぬ構成力を持っており、今後に期待できる方だと感じました。


No.362 7点 早朝始発の殺風景
青崎有吾
(2024/07/09 00:39登録)
薄味の連作短編集なんですが、私は好きですね。青春とは薄味で意味のないものであり、劇的である必要はありません。これくらいで丁度いいのです。限られた人数で、限られた空間で、限られた時間で繰り広げられる高校生たちの駆け引きおよび敗者のいない決着が何とも言えず心地よかったです。

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