エドワード・ゴーリーが愛する12の怪談 ---憑かれた鏡 エドワード・ゴーリー編 |
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作家 | アンソロジー(海外編集者) |
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出版日 | 2006年08月 |
平均点 | 6.50点 |
書評数 | 2人 |
No.2 | 6点 | 弾十六 | |
(2022/03/13 09:07登録) 1959年出版。画家ゴーリーが選んで各篇に挿絵1枚をつけたアンソロジー。まあセレクションは、柴田さんがいうように、ヒネリのない直球で、購入したのも「柴田訳で読んだらどうなる?」という興味。でも全部が柴田訳ではなかった。まあ柴田さん監修なので似たようなものかな。読んでみると、柴田さんの翻訳は、やや硬めの印象。本書の中では、宮本 朋子さんの文章がとても良い。 文庫の表紙絵は、原著のダストカバー裏側の絵。この絵のほうが良いが、原著の表側の絵も何処かに収録して欲しかったなあ。表と裏のセットで鏡の世界を通り抜ける趣向となっているのだろう、と思う。文庫p6にタイトル絵があり、ゴーリーは本書のために作品15枚を提供しているようだ。(他にもあるのかも。未確認。) 各篇の初出データが全然無かったので、WEBで調査して付け加えました。発表年って重要だと思うのですが… (1) The Empty House by Algernon Blackwood (短篇集1906)「空き家」アルジャーノン・ブラックウッド、小山 太一 訳: 評価6点 『秘書綺譚 ブラックウッド幻想怪奇傑作集』南條訳が素晴らし過ぎるのか。この女性の感じだとあんまり楽しくない。 イラスト7点 (2022-3-13記載) ********** (2) August Heat by W. F. Harvey (短篇集1910)「八月の炎暑」W・F・ハーヴィ、宮本 朋子 訳: 評価6点 『怪奇小説傑作集1』平井訳のキズをカバーしている良訳。まあ作品自体が物足りないので、この点数。 イラスト6点 (2022-3-13記載) ********** (3) The Signalman by Charles Dickens (初出All the Year Round 1866 Christmas Extra as ‘No.1 Branch Line. The Signalman’)「信号手」チャールズ・ディケンズ、柴田 元幸 訳: 評価6点 辻褄が合ってるような、合ってないような怪異、というのは大好きだが、語り手と信号手の距離感の方が私には興味深かった。 初出を調べると、お馴染みのクリスマス連作で、ディケンズが枠を作り、他の作家がエピソードを埋める形式。タイトル“Mugby Junction”の第四話。今回の趣向は、人生に絶望した50歳の主人公を中心にした鉄道駅Mugby Junctionに関わる人々の物語。 本作の語り手「私」は、この50歳の主人公ジャクソンのようだ(初出でも第一話から第二話は三人称、第三話は少年(駅のボーイ)の一人称となっているが、第四話の一人称の話者は紹介されていない)。「生涯ずっと自分の狭い世界に閉じ込められて(p50)」というのは、主人公は自分の会社Barbox商会でずっと仕事をしていたが、思い切って会社をたたんで鉄道の旅をしている、という設定に基づくものなのだろう。 最近コリンズを読んでいるが、コリンズ絡みでディケンズ主催の連作を数作読んだ印象では、ディケンズには詩的なファンタジーが文中に突然現れる、という印象。本作でも「いくつもの手や頭がこんがらがっているのが(p60)」なんてどんな場面なのか全然わかりませんでした… (原文はwhat looked like a confusion of hands and heads) イラスト7点 (2022-3-19記載) ********** (4)「豪州からの客」L・P・ハートリー、小山 太一 訳 (5)「十三本目の木」R・H・モールデン、宮本 朋子 訳 (6)「死体泥棒」R・L・スティーヴンソン、柴田 元幸 訳 (7)「大理石の躯」E・ネズビット、宮本 朋子 訳 (8)「判事の家」ブラム・ストーカー、小山 太一 訳 (9)「亡霊の影」トム・フッド、小山 太一 訳 ********** (10) The Monkey’s Paw by W. W. Jacobs (初出Harper’s Monthly Magazine 1902-9 挿絵Maurice Greiffenhagen)「猿の手」W・W・ジェイコブス、柴田 元幸 訳: 評価6点 『怪奇小説傑作集1』平井訳と比べるのは申し訳ないが、堅い感じ。 イラスト7点 (2022-3-13記載) ********** (11) The Dream Woman by Wilkie Collins (初出Household Words 1855-12 [Extra Christmas Number] as 'The Ostler', second part of 'The Holly Tree Inn' by Charles Dickens)「夢の女」ウィルキー・コリンズ、柴田 元幸 訳: 評価8点 登場人物の感じがとても良い。小説だねえ。さらに引き伸ばしたバージョンがあるらしいが、このシンプルさを越えられないのでは? イラスト5点 (2022-3-13記載) ********** (12) Casting the Runes by M. R. James (短篇集1911)「古代文字の秘宝」M・R・ジェイムズ、宮本 朋子 訳: 評価7点 ラストはともかく、日常描写が良い。ご婦人をさりげなく物語に絡ませるのが上手。 p319 一八八九年九月十八日♣️数年前のこと、としか書かれていないので作中現在は不明。 p337 コンパートメントへとさりげなく移動♣️この記述から通路付きの客車(Corridor coach)だとわかる。だが英国初登場は1900年代初頭、としかわからない。 イラスト6点 (2022-3-13記載) |
No.1 | 7点 | mini | |
(2014/10/27 09:56登録) 発売中の早川ミステリマガジン12月号の特集は、”エドワード・ゴーリー” ミスマガ特集内ではゴーリーの作家面についても紙数を割いているが、エドワード・ゴーリーと言えば挿絵画家・イラストレーター・表紙デザイナーであろう 表紙デザイナーの仕事にはミスマガもこだわりを見せいくつかの表紙を載せているが、表紙に関わった作家の顔触れもゴーリーの読者としての好みが伺えて興味深い 中でも印象に残ったのが、”私の好きな作家は既に亡くなっているか、純文学方面に行っちゃった、P・D・ジェイムズみたいに”、という一文 なるほどゴーリーはP・D・ジェイムズが嫌いなのか、と言うかどこまでも純文学ではないエンタメとしての怪奇幻想の世界が好きなんだろうなぁ ゴーリーのもう1つの仕事が編集者としての側面である、その業績の1つがホラーアンソロジーの本書である ここ数年の河出文庫のミステリー分野への貢献には目を見張るものが有るが、特にジャンル境界線上の作品群には早川や創元とは違った趣が有って良い 「エドワード・ゴーリーが愛する12の怪談」は、書名の通り彼の愛する怪奇短編1ダースで纏めたもので、”愛する”だけあって大部分が定番アンソロジーピースである ただし解説でも触れているが、ゴーリー選という先入観から見るといささかオーソドックス過ぎないかという疑問は湧く 案外とエキセントリックな性格の編者ほど、選択がオーソドックスになるのかも知れない、もしかして温和な編者の方が怪作を選びたがるのかな? 解説の濱中氏はその辺について擁護しているが、当サイトでの書評・採点という立場では擁護してばかりもいられない(苦笑) 私はアンソロジーでの書評は収録作品の質は二の次、編集上の仕事振りやセンスへの評価の方が重要であるというスタンスで有る、例えば他のアンソロジーでは読めない珍品も1~2編は入れて欲しいのである 実際に私は12編中4作は既読で、作品は異なるが12人中9人は作家としては既読だった つまり内容的には8~9点は付けられるのだが、定番過ぎる顔触れにアンソロジーとしてはどうしても8点以上は付け難かったのである しかしながら怪奇小説初心者には古典的怪奇小説入門書としてもお勧め出来るし、あのゴーリーが愛する怪奇小説は何なのかという純粋な視点でもお勧めである |