弾十六さんの登録情報 | |
---|---|
平均点:6.13点 | 書評数:524件 |
No.524 | 6点 | プレード街の殺人 ジョン・ロード |
(2025/06/28 02:44登録) 1928年出版。国会図書館デジタルコレクションの「Ondori Mysteries」(表紙にも奥付にも日本語の表記無し)で読みました。森下雨村訳は日本語として、こなれてるなあ。 さて人並由真さまが(ネタバレ有りなので、事前に読むのは慎重にしていただきたい)もしかしたら、原書やおんどり版は… と書かれておられます。どちらもチェックしましたけど、もちろんそんな描写はありません。 雨村訳にはちょっとした誤りがあります。結構大事なポイントなので、あらかじめ書いておきますね。「第四章 毒のパイプ」の後半で、「半ペニーくらいの大きさの、原料に骨片を交ぜた白いカード」が登場するのですが、半ペニーなんて直径25.48mmですよ。カードにしてはずいぶん小型だし「骨片」入り、というのも気になる。原文はa white bone counter, about the size of a halfpennyでした。「ゲーム用のチップ」ですね。bone game counter antiqueで検索すると出てくるような物でしょうね。 さて、お話自体は本格物ではなくて軽スリラーですね。プリーストリー博士が意外と、かなり行動的なのでちょっとビックリ。物語の最初の方は、英国中流層で叩き上げの父親が上流階級に憧れてるのですが、妻と娘とは考え方が異なり、少々波乱あるホームドラマを予感させます。なかなか良い感じですが、ここら辺の掘り下げが足りないかなあ… まあでも、展開が面白くて満足です。 トリビアは後ほど。 |
No.523 | 7点 | 銀のサンダル クリントン・H・スタッグ |
(2025/05/25 02:12登録) 1916年出版。初出People's 1914-07〜11(5回連載)、挿絵J. A. Lemon。ヒラヤマ探偵文庫(2025)。アガサ・クリスティ『二人で探偵を』に登場する忘れられた探偵シリーズを発掘する試み。平山先生は次々と精力的に古い探偵小説を翻訳されておられ、実に素晴らしい。本作のようなストレートな文体は平山先生の文章にピッタリ。同人誌だと数量限定なので、値段は同じで良いから電子本で出して欲しいです… 本書の内容は、怪奇風味のある無茶苦茶な冒頭で、目まぐるしいスピード展開が素敵な軽スリラー。手がかりは盲人探偵コルトンがどんどん勝手に見つけて、推理も直感的かつ自由闊達にズバズバ、本格ものとは言えないでしょうね。 本文レイアウトに苦情を一つ。割注の文字が小さすぎて読みにくいです! ------------ 以下トリビア。翻訳はヘンテコなのがほぼ無くて上々。誤植や気になった所を書いておきます。同人本なので訂正はめんどくさいですからね。いずれもうっかりレベルで、たいした誤りではありません。平山先生におかれましては、これからもたくさん翻訳をお願いいたします! 原文はHaitiTrustでW. J. Wattの初版が一冊丸ごと読めます。Will Fosterの素敵なイラスト二枚入り。 p7 点字で書かれた手紙(the raised Braille letters)◆ 試訳「盛り上がったブライル式点字の文字」 p10 ビューモンド(Beaumonde)◆ 高級ホテルの名前。気取ってフランス風に「ボーモンド」なのでは? beau mondeなら英語でも「ボー・モンド」と発音する。 p12 「お前はわれらの命令を知っているだろう。注意せよ」(You have our order. Attend to it)◆ 試訳「注文は伝えた。その通りで頼む」 p13 ポール・ロジェ五六年もの(Pol Roger '56) p14 連れがいない女性に関するブロードウェイのルール(Broadway rule regarding unescorted women)◆ まだ女性には窮屈な時代。淑女が「お一人様」を獲得するのはいつ頃から? p24 マクマン警部(Captain McMann)◆ 短篇集には登場しない。 p26 検死官(coroner)◆ この時代、ニューヨーク市はまだ検死官制度を維持していた。 p27 バイアーバウアー(Bierbauer)◆ 検死官。短篇集には登場しない。 p33 第四章 試行錯誤(Trail)◆ ケアレス・ミス。「追跡」 p34 ゲインズバラ風帽子(Gainsborough hat)◆ フリーマン「青いスパンコール」(1908)で被害者が被っていたような帽子だろう。ここの書きっぷりだと、当時はやや流行遅れだったか。 p36 タクシーのエンジンをかける係が車のドアを開けて待っていた(The cab starter held open the door of a taxi)◆ cab starterとはタクシーへ乗客を誘導するのと、クランクを回してエンジンをかけるのを兼ねた仕事なのだろうか? ググっても出てこなかった。 p36 コルトンの長くて黒い車(Colton's long, black car)◆ 短篇集ではbig black automobileと形容されているだけ。ロールスロイス・シルバーゴーストだと推定しておきましょう。 p36 三十三丁目◆ ブロードウェイのビューモンド・ホテルは、ここより北か南か。 p37 ガチャガチャと音を立てている高架鉄道L線の下、三番街を下った(down Third Avenue, under the clank and clatter of the L trains)◆ L線(L train)とは高架鉄道(Elevated Train)の愛称。"El"とも言う。ここら辺の記述から三番街を南下してマディソン街(23丁目?)からチャタム広場の方へ行ったようだ。この区間は1955年に廃線となっている。 p39 牛乳配達のワゴン(a milk wagon)◆ この時代は馬引きかも。 p41 Shrimp◆ フィー(The Fee)の別名。コルトンはここで2回、Shrimpと呼びかけているが翻訳では省略。翻訳では煩わしいので、他のShrimpも「フィー」で統一している。アガサさんの『二人で探偵を』では「フィー」と「シュリンプ」に言及してるので、原文に忠実にしてほしかったなあ。なお、地の文でもThe FeeとShrimpを併用している。第一作目の短篇The Keyboard of Silence(初出1913-02)の設定はテムズがThe Feeと呼ぶ、となっている。 p43 自動車免許局(Bureau of automobile licenses)◆ 車のナンバーから持ち主を調べられるようだ。 p48 黄金の錠前(Golden Locks)◆ 「金色の巻毛」かも。錠前に関連した働きはしていない。 p54 心霊主義者のありとあらゆるトリック(all the tricks of the spiritualist charlatan)◆ 原文では一応charlatan(ペテン師)に限定している。 p60 ブロードウェイ最大のホテル(one of the biggest Broadway hotels)◆ ブロードウェイの大きなホテルを探したら、名前が似た感じのHotel Belleclaireと言うのがあった。西77丁目ブロードウェイの建物で1903年開業。 p64 シャーロック・ホームズ p68 夕刊の早刷り(early evening papers)◆ 臨時大ニュースなので、夕刊紙でも早朝号外を出すのだろう。ここの感じだと朝7時ごろの発売か?日刊紙の早刷りはそれより早いようだ。あるWeb記事で日刊紙の記者が「午後版を同じ日に数回出したこともあるよ」と書いていた。 p71 ベルティヨン法(Bertillon measurement)◆ 現役の犯人特定方式である。 p76 そちらの時間で真夜中になる一時間前(for an hour before your time of midnight) p77 よろしければただちに捜査を開始し(Kindly proceed at once to make your official investigation)◆ 検死審問が終わらないと埋葬出来ないため。 p79 所収者◆ 「所有者」の誤植だろう。 p83 十二月八日(December 3)... 六十八歳(age 63)◆ 冒頭の日付と年齢。どちらも8に見間違えそうな書体だが、参照した初版のファクシミリでは間違いなく「3」である。 p86 赤毛の少年(A red-haired boy)◆ フィーは赤毛なんだ。 p88 一ドル◆ 鳥を入れる箱(a bos to put the bird in)の値段。 p92 チェス(chess)... 犯罪ゲーム(crime game)◆ 面白い光景 p92 十セント銀貨(silver dime) p96 身分証明書(his papers) p100 電話番号を交換台に告げた(gave a number over the phone)◆ 当時の電話にはダイヤルは無い。全て交換手に番号を告げ、接続してもらう方式。多分キャンドルスティック型。 p115 最新の流行歌(one of the latest songs) p117 m中に入るとわずかに肩を落とした(inside the door, his shoulders dropped a trifle)◆ 「m」は誤植。「ドアの」が欠けているが、無くても意味は通じる。 p117 セレスティン(Célestins) p120 ソーンさん(Thorn)◆ テムズがソーンレイを呼ぶ時の愛称。 p121 第二十七分署(Twenty-seventh Precinct)◆ コルトンの住所から車を北に飛ばして十分の距離。27分署は実在しないようだが、番号付けのルールから考えると、もしあれば山手のハーレム地区(155丁目〜96丁目)だろう。 p138 三回切り込みを入れました(It was then the three slashes on the wrist were made)◆ 原文では動作主が不明なので「切り込みが入れられた」と受動態にすべきだろう。 p139 コルトンはそれが何かすでにわかっていた。◆ その後のパラグラフが丸ごと抜けている。ちょっとネタバレなので、未読の方は飛ばしてくださいね。 Father intended that the truth should be known the day after his death. He did everything he could to protect us. He sent the notes, with the bottle of wine. He knew that it could be easily proved that he had written them. The notes to the police and the coroner were Philip's idea. Father sent the death notices. He posed for the photograph in the robes he always wore at home. They seemed, to us, the things that would convince any one that there had been no foul play. [概要] 父は死後に全てが判明するように計画した。ワイン・ボトルを添えてメモを送った。警察と検死官宛のメモはフィリップのアイディア。父は死亡広告を新聞に送り、いつも着ているローブ姿で写真を撮った。これで誰もが不正なことはないとわかってくれるものと思われた。 p141 誰かが慎重に計画を練り、彼を冷血そのものに殺害した(Some one had taken advantage of the carefully laid plans. Some one had murdered him, killed him in cold blood)◆ 試訳「誰かが慎重に練った計画を利用した。彼を冷酷に殺したのだ」 p146 ではおやすみなさい(アウフビーターゼーエン) Auf wiedersehen◆ なぜドイツ語? p148 大型のフェアフィールド(Big Fairfield car)◆ デトロイトのPaige社のブランドだが1915年からの発売なので作者としては架空メーカーのつもりだろう。 p148 二十四時間営業のドラッグストアにある電話ブース(an all-night drug-store 'phone booth) p152 流行曲の合間に(between two bars of one of the latest musical atrocities) p159 ポーの小説に登場する、文字の出現頻度を数える方法(The Poe method of counting letters) p159 残した暗号も、コルトンの頭脳ならなんということもなかった(Colton's brain could make nothing of the cryptogram that old man had left to be solved)◆ コルトンの頭脳でも歯が立たなかった、という意味だろう。 p162 フェアフィールド60(A Fairfield sixty) p171 ナディン(Nadine)◆ Nadine Nelson、短篇The Ringing Goblet(初出People's 1913-09)に登場する。 p178 警察官は… 手を振り回した(Policemen... took a step forward with upraised hand)◆ ニューヨークで信号機が整備されるのは1930年ごろからなので、交通整備は警官がハンドサインや手動のGo&Stop回転棒を持って交差点で指示していた時代。 p183 補助椅子(the rumble seat) p183 運転◆ いくら何でもヤバすぎるでしょう。だが当時、運転免許制度は無かったようだ。地下鉄サムが自動車を初めて買った時(1919)、ディーラーから数時間チョチョイと教えられただけで公道に出ている。 p188 第二十章の表題 (Carl's Story)◆ うーん… |
No.522 | 7点 | 地下鉄サム(平凡社) ジョンストン・マッカレー |
(2025/05/17 18:10登録) 地下鉄サムを追っかけて、いろいろ判明したつもりになっていたが、Aga-Searchさんの「地下鉄サム」のページを見ていたら、『平凡社 世界探偵小説全集7』(1929年、横溝正史 訳)に創元推理文庫にもグーテンベルク21にも未収録の短篇があることに気付いた! お馴染み国会図書館デジタルコレクションで読めるので、早速調査しましたよ。 収録全15作中、6作がダブり。9作が新たに読めることが判明した(この数はAga-Searchさんの推定どおり)。従来、私が推定した原題が誤っていると思われるものも数篇あった(こっそり修正済み)。これで現在、日本で気楽に読めるのは41+1+9の邦訳51篇、英文28篇、合わせて全79篇である。(2025-05-18修正: Internet Archiveに初出雑誌DSMが大量に登録されていた。英文の数字を修正) ---------- 以下、平凡社版の収録作品。年代順に読んだ方が良い作品もある、と思う。 原題を同定しようと頑張ったけど、原文が入手できず、推定がほとんど。記号なしは確定、☆は「たぶん」、?は「決めてに欠けるがそれっぽい」DSM= Detective Story Magazine、#️⃣表示はシリーズ通算番号、MegaPakは電子本"Thubway Tham MegaPack"収録、WikiTextはWiki sourceに英文あり(リンクはJohnston McCulleyから) ◉はグーテンベルクor創元文庫とのダブり作品 横溝正史の翻訳も坂本義雄、乾信一郎と同様、ちゃきちゃきの江戸弁である。ダブりの数篇の翻訳は微妙に違っていて、読み比べるのも面白い。 (1)「サムと田舎者」 ?"Thubway Tham and the Rube" (初出DSM 1927-11-12) #️⃣86 ニューヨークは初めて、と言う田舎者と知り合ったサム。下心満々で地下鉄見物に案内してやるが… (2)「サムの不景気」 ☆"Thubway Tham’th Buthinethth Thlump" (初出DSM 1923-01-20) #️⃣57 ◉グーテンベルク続(10)「サムの不景気」と同じ作品。 (3)「サムの双生児」 ?"Thubway Tham’s Double" (初出DSM 1918-12-03) #️⃣8 ノエルが「縄張りを荒らすな!」と文句をつけてきた。何のことだかわからないサム。 (4)「サムの恐怖」 ☆"Thubway Tham’s Terror" (初出DSM 1928-05-05) #️⃣91 つい獲物を追いすぎて大学のある北ターミナルまで来たサム。知らない土地だが、放心家の教授が膨らんだ財布を持っているのに気づき… (5)「サムの愛國者」 ☆"Thubway Tham, Patriot" (初出DSM 1928-02-25) #️⃣88 明日はワシントンの誕生日。サムは新しい下宿人が建国の父を悪く言うのを聞く。 (6)「サムの正直」 "Thubway Tham’th Honethty" (初出DSM 1922-10-21) #️⃣ 54 MegaPak4 ◉創元文庫(6)「サムの紳士」と同じ作品。 (7)「サムのクロスワード」 ☆"Thubway Tham’s Crothword Puthle" (初出DSM 1925-08-29) #️⃣73 ◉グーテンベルク正(5)「サムのクロス・ワード」と同じ作品。 (8)「サムの御奉公」 ?"Thubway Tham’s Underground Loyalty" (初出DSM 1925-07-04) #️⃣72 サムは地下鉄で偶然、悪党二人が何か企んでるのを見つけたが、チクる訳にはいかない。 (9)「サムの手術」 "Thubway Tham’s Operation" (初出DSM 1921-03-12) #️⃣36 MegaPak6 ◉グーテンベルク続(4)「サムの手術」と同じ作品。 (10)「サムと悪童(チンピラ)」 ☆"Thubway Tham’s Pupil" (初出DSM 1926-10-09) #️⃣83 マディソン広場のいつものベンチに15歳くらいのガキがいて、何か絵を描いている。 (11)「サムとペテン師」 ?"Thubway Tham and the Con Man" (初出DSM 1926-02-13) #️⃣77 ノエルがシカゴから来たペテン師をサムに紹介する。スリを馬鹿され、サムの心に火がついた。 (12)「サムの合資会社」 ☆"Thubway Tham Meetth Elevated Elmer" (初出DSM 1925-06-13) #️⃣70 エルマーがサムに持ちかけた相談とは?なお翻訳で「昇降機(エレベーター)」となっているのはElevated Train(高架鉄道)の事ですね。 (13)「サムと魔法財布」 ?"Thubway Tham’s Puzzling Leather" (初出DSM 1927-11-26) #️⃣87 サムが「ご立派な男」からスった財布は不思議な細工だった。 (14)「サムの友情」 ☆"Thubway Tham’th Chrithmath Thpirit" (初出DSM 1922-12-23) #️⃣56 ◉グーテンベルク続(9)「サムの友情」と同じ作品。 (15)「サムの自動車」 "Thubway Tham’s Flivver" (初出DSM 1919-07-15) #️⃣20 WikiText ◉グーテンベルク続(7)「サムの自動車」と同じ作品。 |
No.521 | 7点 | 下宿人 ベロック・ローンズ |
(2025/05/16 10:37登録) 1913年8月末出版。初出Daily Telegraph連載1913-08-02〜(終了日、回数不明)。元々は英国Nash's Magazine 1911-01 挿絵A. C. Michael 及び 米国McClure's Magazine 1911-01 挿絵Henry Raleighの短篇を長篇化したもの。マクルーア誌の短篇版はWikiSourceにあり(英Wiki “The Lodger (novel)”にリンク)。短篇版の邦訳は無さそう。(2025-05-26追記: おっさんさまに邦訳ありと教えていただきました!『幻想と怪奇1 ヴィクトリアン・ワンダーランド 英國奇想博覧會』(新紀元社2020)収録です) 私は無料でダウンロード出来る林清俊さんの新訳で読みました。端正な文章が非常に良いです。他にも面白そうな翻訳作品がありますよ!http://classicmystery.web.fc2.com ---------- 同じような内省を繰り返してる部分があって、どうかなあ、という印象があったのだが、成立過程を知って、なるほど、と思った。でもディテールを膨らませたおかげで、当時の金銭感覚や生活実態が読めて良かった。インクエストのシーンも短篇版には出てこないし。 じんわりくるホラーというよりサスペンス。グロい描写は一切なし。短篇版はざっと見た程度で、熟読してない。オハナシとしては短篇の長さで十分だろうと思う。 ヒッチ映画を見たら、感想を書きますよ。 トリビアもたくさん拾えた。これも後ほど。 |
No.520 | 6点 | 招かれざる客たちのビュッフェ クリスチアナ・ブランド |
(2025/05/15 16:53登録) 1983年出版。 クリスティアナ・ブランド書誌付き。 私は(5)英国ヴァージョン目当て。 ---------- (5) Murder Game 「ジェミニー・クリケット事件」深町眞理子訳: 評価7点 米国バージョン(EQMM 1968-08 as "The Gemminy Crickets Case")は早川書房 世界ミステリ全集18『37の短篇』で読めます。 英国バージョン初出は短篇集"What Dread Hand"(1968-10出版)のようだ。出版年月と米国版初出を考慮すると、二つのヴァージョンは当初から存在していたようである。作者としては英国版が本筋だったらしい。なお出版月は英国The Bookseller1968年10月新刊リストで確認しました。 私の好みは米国版の方かなあ… ワールドカップについては蟷螂の斧さまの評文に詳しく載っていました。英国バージョンだと「数か月前の事件」と思われるのでフットボール・ワールドカップで間違い無さそうだが、米国バージョンだと「少し前の事件」なので1960年のラグビー・ワールドカップ決勝戦の可能性もあるかもです… --------- 他の短篇についてはおいおいと。 |
No.519 | 6点 | 地下鉄サム選集 ジョンストン・マッカレー |
(2025/05/14 15:35登録) 2016年発行。ヒラヤマ探偵文庫の電子本。 ごく初期の作品を収録。 #️⃣表示はシリーズ通算番号、DSM= Detective Story Magazine、MegaPakは電子本"Thubway Tham MegaPack"収録、WikiTextはWiki sourceに英文あり(リンクはJohnston McCulleyから) (1)「地下鉄サム、魔が差す」 "Thubway Tham's Inthane Moment" (初出Detective Story Magazine 1918-11-19) #️⃣6 MegaPak13 WikiText 創元推理文庫(9)「サムと贋札」と同じ作品。未訳のを収録して欲しかったなあ。 (2) 「地下鉄サムの感謝祭のご馳走」"Thubway Tham's Thanksgiving Dinner" (初出Detective Story Magazine 1918-11-26) #️⃣7 MegaPak14 WikiText 派手に五ドルのディナー(午後1時)を二十人招待する、友達のいないサム。誰を選んで、どうやって金を工面する? (3)「洒落者サム」"Thubway Tham, Fashion Plate" (初出Detective Story Magazine 1919-10-07) #️⃣21 MegaPak1 本字旧仮名に挑戦した意欲的な翻訳。 |
No.518 | 7点 | 地下鉄サム(グーテンベルク21) ジョンストン・マッカレー |
(2025/05/14 15:03登録) 『地下鉄サム 第1〜第3』坂本義雄 訳、日本出版協同(1952〜1953)全29篇を再構成したもの。創元推理文庫とはカブリ無し。 ⚫️数字は日本出版共同版の収録巻。原題を同定しようと頑張ったけど、原文入手できず、ほとんど推定。記号なしは確定、☆は「たぶん」、?は「決めてに欠けるがそれっぽい」#️⃣表示はシリーズ通算番号、DSM= Detective Story Magazine、MegaPakは電子本"Thubway Tham MegaPack"収録、WikiTextはWiki sourceに英文あり(リンクはJohnston McCulleyから) 、IntAr(MGZN)はWebサイト"InternetArchiveに初出当該号のPDFあり。 発表順に読んだ方が面白い作品あり。特に続(3)→正(8)は続きものである(実は全5作のシリーズ)。正(15)は創元(10)で言及されてる、など。 ---------- 『地下鉄サム』収録作品 正(1)「サムの魚釣」❶ "Thubway Tham’s Fithing Trip" (初出DSM 1921-05-28) #️⃣38 WikiText 正(2)「サムのラジオ」❸ "Thubway Tham Tunes In" (初出DSM 1926-04-10) #️⃣79 MegaPak3 ラジオを買って夢中になるサム。ある日ムーアが頼み事にやって来た。 正(3)「サムと猿公」❷ ☆"Thubway Tham’s Monkey Pal" (初出DSM 1926-08-07) #️⃣82 正(4)「サムの良心」❶ ?"Thubway Tham’th Better Thelf" (初出DSM 1922-11-25) #️⃣55 路上で良心を説く男の話を受け売りしてクラドックに話すサム。だが縄張りを荒らされてると聞いて… 正(5)「サムのクロス・ワード」❸ ☆"Thubway Tham’s Crothword Puthle" (初出DSM 1925-08-29) #️⃣73 正(6)「サムと詐欺師」❶ "Thubway Tham Meets Mr. Clackworthy" (初出DSM 1922-02-18) MegaPak21 #️⃣50 Christopher B. Boothのシリーズ・キャラクターであるシカゴのクラックウォーシー&早起き鳥(DSM連載)と共演する企画もの。お返しにBoothは"Mr. Clackworthy and Thubway Tham" (初出DSM1922-03-04)を書いている。 正(7)「サムの誕生日」❸ "Thubway Tham’s Birthday" (初出DSM 1920-04-13) #️⃣27 IntAr(MGZN) 正(8)「サムの覚醒」❷ "Thubway Tham’s Dithilluthionment" (初出DSM 1921-10-15) #️⃣44 IntAr(MGZN) 正(9)「サムの競馬見物」❷ "Thubway Tham Goeth to the Ratheth" (初出DSM 1921-10-29) #️⃣45 MegaPak10 初めて競馬場に行き、レースに賭けたサム。 正(10)「サムの義侠」❷ ?"Thubway Tham, Hero" (初出DSM 1924-11-01) #️⃣66 女は嫌いだが、若い母娘と乗り合わせたサム。 正(11)「サムの陪審員」❶ ☆"Thubway Tham’th Jury Thervithe" (初出DSM 1923-02-10) #️⃣58 正(12)「サムと犬」❶ "Thubway Tham’s Dog" (初出DSM 1922-07-01) #️⃣52 MegaPak2 正(13)「サムとクリスマス」❶ ☆"Thubway Tham’s Merry Christmas" (初出DSM 1918-12-24) #️⃣9 ポーカーに負けて素寒貧だがクリスマス・プレゼントをあげたいサム。登場キャラ: ノエル 正(14)「サムの悪日」❸ ☆"Thubway Tham’s Tough Day" (初出DSM 1924-11-29) #️⃣67 なんだか運の悪い日。登場キャラ: ノエル 正(15)「サムの新弟子」❶ ☆"Thubway Tham’th Apprentithe" (初出DSM 1922-09-30) #️⃣53 ---------- 『続地下鉄サム』収録作品 続(1)「サムの女嫌い」❷ ?"Thubway Tham’s Female Petht" (初出Detective Story Magazine 1930-08-23) #️⃣96 上流夫人が道楽でスリの実態調査を希望し、サムが付き合わされる。登場キャラ: 鼻のムーア サムが南極探検のバード少将と同じくらい知られている、と冒頭にあるので時事ネタと判断。1930年くらいの作品か? 続(2)「サムの礼装」❸ ☆"Thubway Tham Dons a Dinner Jacket" (初出DSM 1923-10-27) #️⃣60 ノエルに唆されてタキシードを着てみたサム。いつもと勝手が違って戸惑うばかり。 続(3)「サムの初恋」❶ "Thubway Tham and Cupid" (初出DSM 1921-08-06) #️⃣41 IntAr(MGZN) めかしこむサムをからかう大家。どんな娘と知り合った? 続(4)「サムの手術」❷ "Thubway Tham’s Operation" (初出DSM 1921-03-12) #️⃣36 MegaPak6 体調不良で耐えられず医師に行くサム。 続(5)「サムのロマンス」❸ ☆"Thubway Tham’s Romance" (初出DSM 1918-07-09) #️⃣3 地下鉄で見かけた気になる女の子。これが恋だなんて言言いたかねぇよ! 続(6)「サムの慈善家」❸ "Thubway Tham, Philanthropist" (初出DSM 1919-04-01) #️⃣14 MegaPak17 続(7)「サムの自動車」❸ "Thubway Tham’s Flivver" (初出DSM 1919-07-15) #️⃣20 WikiText 続(8)「サムの百ドル」❶ ☆"Thubway Tham’th Honetht Hundred" (初出DSM 1923-03-10) #️⃣59 正直に稼ぐ、と宣言し25ドルの賭け。 続(9)「サムの友情」❸ ☆"Thubway Tham’th Chrithmath Thpirit" (初出DSM 1922-12-23) #️⃣56 クリスマスだというのに、サムが近所の犯罪者仲間たちと何か企んでいる様子。 続(10)「サムの不景気」❷ ☆"Thubway Tham’th Buthinethth Thlump" (初出DSM 1923-01-20) #️⃣57 クラドックが元気が無い。誕生日を明日迎えるのだが、歳をとった、と憂鬱のようだ。 続(11)「サムの美顔術」❷ ☆"Thubway Tham Gets a Mud Pack" (初出DSM 1924-03-08) #️⃣62 何か良くない予感。そんな日には「仕事」をしちゃいけないんだが… 続(12)「サムと特ダネ」❸ ?"Thubway Tham’th Thcoop" (初出DSM 1924-03-22) #️⃣63 続(13)「サムの鬱憤」❶ "Thubway Tham, Delegate" (初出DSM 1921-06-11) #️⃣39 IntAr(MGZN) ワシントンの高級ホテルでぼられ、田舎者扱いされて憤慨するサム。原文では「アトランティック・シティ」になっている。馴染みがないので訳者が変えたんだろうね。 続(14)「サムと遺産」❷ "Thubway Tham’s Legathy" (初出DSM 1921-04-30) #️⃣37 IntAr(MGZN) |
No.517 | 7点 | 地下鉄サム ジョンストン・マッカレー |
(2025/05/14 14:28登録) 元は『地下鉄サム 第4』日本出版協同(1953)→『世界大ロマン全集第6巻』東京創元社(1956)→創元推理文庫(1959)という流れ。全10篇収録(全て国会図書館デジタルコレクションで読める)。 『地下鉄サム 第1〜第3』日本出版協同(1952〜1953)坂本義雄 訳はグーテンベルク21で『地下鉄サム』&『続地下鉄サム』として電子本になっている。全29篇収録。 他、ヒラヤマ探偵文庫『地下鉄サム選集』に3篇収録されてるが1篇ダブりなので、日本では手軽にこのシリーズ全百三十数篇中、41篇が読める。古いファンはEQアンソロジー『完全犯罪大百科(下)』に1篇収録されていたのをご記憶だろう。英語が出来る人ならあと28篇読める(MegaPack[Thubway Thamに10篇、Victorian Roguesに1篇]、WikiSourceに数篇、Internet Archiveに11篇)。なので頑張れば70篇のThubway Thamシリーズが読めますよ!(2025-05-17追記: あと9篇の邦訳が『平凡社 世界探偵小説全集7』に見つかった。なので日本語と英語で現在79篇が読めます!) ---------- 以下、創元推理文庫の収録作品。年代順に読んだ方が良い作品もある、と思う。 原題を同定しようと頑張ったけど、原文が入手できず、推定がほとんど。記号なしは確定、☆は「たぶん」、?は「決めてに欠けるがそれっぽい」DSM= Detective Story Magazine、#️⃣表示はシリーズ通算番号、MegaPakは電子本"Thubway Tham MegaPack"収録、WikiTextはWiki sourceに英文あり(リンクはJohnston McCulleyから) (1)「サムの放送」 ☆"Thubway Tham on the Air" (初出DSM 1930-12-06) #️⃣99 (2)「サムと厄日」 ☆"Thubway Tham’s Ides of March" (初出DSM 1928-03-24) #️⃣89 クラドックが明日は三月十五日、シーザーが殺された悪い日だ、と講釈。次の日、サムは仕事をしに出かけるが… (3)「サムと指紋」 ?"Thubway Tham—Framed" (初出Street & Smith’s DSM 1931-05-09) #️⃣101 クラドックの様子がおかしい。何かたくらんでいるのか。 (4)「サムと子供」 ☆"Thubway Tham—Kidnaper" (初出DSM 1930-11-22) #️⃣98 最近誘拐が多くて憂鬱なクラドック、手柄を立てようとサムに張り付いてうるさい。 (5)「サムとうるさがた」 ?"Thubway Tham’s Ignoble Patht" (初出DSM 1930-12-13) #️⃣100 昔、旅先で知り合った田舎者がNYに来た。言うことがことごとくむかつく。 (6)「サムの紳士」 "Thubway Tham’th Honethty" (初出DSM 1922-10-21) #️⃣54 MegaPak4 (7)「サムと名声」 "Thubway Tham and Elevated Elmer" (初出DSM 1919-03-04) #️⃣12 WikiText 地下鉄は高架線より優秀か?大きな顔はさせないぜ!登場キャラ: エルマー (8)「サムと大スター」 ?"Thubway Tham Shakes a Star" (初出DSM 1928-03-31) #️⃣90 映画を楽しみに行ったら、意外なものを観た。映画スターを狙え。 (9)「サムと贋札」 "Thubway Tham's Inthane Moment" (初出DSM 1918-11-19) #️⃣6 MegaPak13 WikiText たばこ屋で働くサム。クラドックは怪しむが… (10)「サムと南京豆」 ?"Thubway Tham’s Skyrocket" (初出DSM 1926-07-03) #️⃣81 不景気がスリ業界にもやって来た。他業種の男がサムのところに来て… |
No.516 | 6点 | 死体をどうぞ ドロシー・L・セイヤーズ |
(2025/05/12 13:33登録) 1932年出版。創元文庫で読みました。浅羽さんのお陰で上質な翻訳のピーター卿シリーズが読めるのは、本当にありがたいことだと思います。 皆さんの評価が何故か高い。これがオッケーなら前作『五匹の赤い鰊』も同じくらいの作品では?と思いました。あっちは方言(の翻訳)が足を引っ張ってるのかな? 私の不満は、ちゃんと絶体絶命シチュエーションを作ってるのに、そっちにフォーカスせず、スリルを盛り上げていないこと。どう考えても最重要容疑者はあの人だよね… 当初は、そこから救出、という話だったのでは?と思うのだが(その片鱗が第13章にある)、それじゃ『毒』の二番煎じだし、そんな関係を繰り返したくない!という事だったんだろう。それで、ピーター卿の振る舞いがワザと自己模倣してるみたいで乗れないし、ハリエットの反応もなんだか空々しい。無理にわちゃわちゃしてる、という結果になっちゃった。 犯人の計画もなんだか詰めが甘いし、訴追側もこれではヒヤヒヤものの裁判になるだろう。まあ何かの証拠が後から出てくるんだろうね… トリビアはとりあえず項目だけ。あとで膨らませますよ。 p31 六月十八日、木曜日◆ 1931年が該当。 p61 女らしさへの回帰 p63 週に十二ギニ p63 外科医の手術代が百ギニ p63 地方税やら国税やら p66 体の在り無し p68 新聞の渾名 p70 コーナー・ハウス p70 マフェット嬢の話 p81 デ・レシュケ p81 バーリントン・アーケード p84 デブレット p94 オートバイに乗る p97 結婚許可証… 二週間後には結婚… しばらく教区に住む必要がある p98 フローラ p102 ボルシェヴィキの仕業 p125 あくび… にきび p131 速度制限が廃止されて p170 モーガン p176 ソブリン金貨 p178 インドの王さま p180 イングランド銀行券 p180 紙幣のほうが確かに安全 p195 あおひげごっこ… 塔の上のアン姉さん p195 お茶の時間(四時) p195 六ペンス◆ 子どもへの情報料 p198 映画館に改造する p211 クォーンやパイチリー p211 ロシアの小麦がばかすか、安値で輸入され p211 手間賃や国税、地方税や教区税や保険料 p211 小麦… 一エーカーあたり九ポンドの経費… [収入は] 運がよくて五ポンド p251 五ポンド… 銀行券で p251 F・ハルム p251 一回二ペンス半で p264 トーキー映画 p271 賄いこみで週に二ギニ半、もしくは家賃だけで十二シリング p272 おばさん p273 国会制定法 p274 パントマイム p275 プリンシパル・ボーイ p285 煙草のカード p310 年収三千ポンド◆ 13万ポンドの利子か? p315 旅券… 査証 p345 結婚許可証 p347 赤いベントレーのオープンカー p357 コンサート p383 多数評決(A majority verdict is sufficient)◆ インクエスト p396 チェンバース英語辞典 p402 フリス写真館 p402 ドレ&シー社 p416 付加税だの相続税だの p458 出典不明 p465 All is known, fly at once p474 わしが十八の時ゃ、週に五シリングの給料で p528 聖マーティンズ・イン・ザ・フィールズ教会の地下 p529 エドガー・ウォレスの小説 p529 離婚沙汰 p531 ほんとに機能する電気式の通話装置 p531 十シリング札 p532 フロリン銀貨 p532 コーナー・ハウス p533 流行り歌 p534 映画館… 三シリング六ペンス席 p535 背中をごまかす p546 金本位制 p580 探偵作家 p584 ジョン・ロード p586 ベルサイズ・ブラッドショー |
No.515 | 6点 | Murder at Sea リチャード・コネル |
(2025/05/10 13:17登録) 1929年出版。初出The Elks Magazine 1928-06〜10 (5回連載)。最近Kindleで入手しやすくなりました。 マシュー・ケルトン探偵シリーズ、唯一の長篇。 出版時期から、もしかしてストークス社と新マクルーア誌が開催した賞金$7500(現在価値約2000万円)の探偵小説長篇コンテストに応募した作品では?と思ったが、募集は1928年8月12日あたりが開始時期なので、本作の雑誌連載の方が先。コネルさん、このコンテストのニュースを見て「失敗した!もう少し待てば良かった!」と思ったのでは? こういう応募できなかった組も、次回のコンテストを期待して探偵小説のアイディアを練り、それが1930年代の探偵小説ブームを呼んだのだろうか(長篇デビューの有名どころ: ディクスン・カー1930、スチュアート・パーマー1931、ロラック1931、ESガードナー1933)。でもまあ不況化で売れそうなのはミステリ分野だった、という理由の方が強いと思います。 さて私が苦手なあらすじ。 第一章は、事件解決のため、ずぶ濡れで捜査したケルトン探偵、お陰で解決に至ったものの風邪をひいちゃいます。それでバミューダへバカンスを目論み、SSペンドラゴン号に乗り込みます。ツテを使って船長とよしみを通じ、気楽な旅が始まった、と思ったら船長から呼び出しが… 人が死んでるのじゃ!どう見ても殺人じゃ! あとは目次で我慢してくださいね。 第一章 知りたがりの男 第二章 船室Bの悲劇 第三章 骸骨との饗宴 第四章 恐ろしい眼 第五章 再び眼が 第六章 悪魔がうろつく 第七章 追い詰められる 第八章 新たなもつれ 第九章 夜遅くの訪問 第十章 ヴァルガ 第十一章 声 第十二章 誰がやった? 第十三章 死より強いもの 第十四章 有能な船員ゲイブ・フェストの運命 第十五章 ジュリア・ロイドが知ったこと 第十六章 マシュー・ケルトンが知ったこと 第十七章 その後 本格ものとしては手がかりがところどころ隠され、フェアプレイ重視ではありません。怪奇風味ありです。登場人物の掘り下げも弱い。解決もまあまあレベル。残念ながら傑作じゃなかったです… |
No.514 | 7点 | 長いお別れ レイモンド・チャンドラー |
(2025/05/09 01:44登録) この作品、ずっと懸案だったのだが、⼭形浩⽣センセーがチョチョイと翻訳を開始したので、(今のところまだ6章まで)読み始めた。(2025-05-15追記: もう第15章まで進んでいた!) 清水俊二訳でかなり昔に読んでるが、内容はもうすっかり忘れてた。 ⼭形センセーは村上訳のダメさに憤慨して、趣味的に始めたらしい。ぜひ終わりまでやって欲しいなあ! https://cruel.hatenablog.com/entry/2025/05/07/015430 引き締まった良い翻訳。商業としたらブラッシュアップが必要な細かい誤りやもっと推敲した方が良いところが残ってるけど、タダだから、一見の価値あり、と思います。 もうチャンドラーも著作権が切れてるんだなあ、と驚いた。 小説の内容は、マーロウとレノックスの変な関係性が面白いけど、チャンドラーの性格の弱さがハッキリ出てるねえ… 小さいことで無闇にムカついてるし。こういう大人はカッコ良いとはとても思えないなあ。 続きが早く読みたいけど、山形センセーの気まぐれにかかっている。 我がブログでもあの名文句やテリーの拳銃について語っていますよ! https://danjuurock.hateblo.jp/entry/2023/08/20/204714 https://danjuurock.hateblo.jp/entry/2023/08/13/000601 |
No.513 | 5点 | 闇の中から来た女 ダシール・ハメット |
(2025/05/06 03:18登録) 初出Liberty 1933-04-08〜22(三回連載)。別冊宝石79号(乾信一郎訳、昭和33年9月発行)で読みました。あまりに短いので抄訳だろうなあ、と思って、原文と比べたらかなり抜いており全体の六割ほどの翻訳でした。 元々、梗概みたいな、骨組みだけのオハナシ。ハメットは手を抜いて真面目に書いてない感じです。ディテールを膨らませるのもめんどくせー、というような作品を三回分載してもらえるなんて、当時のハメットはよっぽど売れっ子だったんだなあ、と変に感心しちゃいました。 空さまが言及してる主人公の最後のセリフ?は原文には無し。多分船戸先生の創作でしょう(彼女の最後のセリフは"All men are"なんですが、空さまがこれを指してるとは思えませんでした)。 まあこの出来ならちゃんとした全訳は望めないですね。どこかでハメット短篇全集を企画して欲しいなあ… なお、船戸与一訳については小鷹信光『翻訳という仕事』のなかで24ページにわたって誤訳が指摘され、クズ本、と結論されている。原文をカットしている箇所も多く、その上、原文に無い言葉がたくさん加えられ、ふやかされているようだ。誤訳指摘の公開後に小鷹さんが深町真理子さんから贈られた言葉が良い。「他人の欠陥は目につきやすい」 (以下2025-05-07追記) RKO映画(1933)も見ました。映画権は$5000ですぐ売れたらしい。米国消費者物価指数基準1934/2025(24.60倍)で$1=3505円。1753万円か… ちょろい商売だと作者が思っちゃうよね。 フェイ・レイとラルフ・ベラミー。非常にわかりやすいB級ノワール。某Tubeで見られます。まあでもハメット・ファンが参考のために見れば良い程度の内容だった… |
No.512 | 5点 | 恐怖通信 アンソロジー(国内編集者) |
(2025/05/05 00:40登録) 1985年出版(河出文庫)。国会図書館デジタルコレクションで読んでいます。 SF系の作家が多い怪奇小説アンソロジー。見慣れない作品が多いので、編者がちゃんと選んでる感じがします。翻訳者は耕治さん主催の翻訳教室に所属していた人たち、ちゃんと弟子の面倒を見る良い師匠ですね。 収録短篇を発表年順に並び替えました。 ---------- (8) Rose Garden by Montague Rhodes James (1911)「バラ園」モンタギュ・R・ジェームズ作、長井裕美子訳: 評価7点 ご婦人を怪奇小説に絡めるのが上手なMRJ。物語の流れが巧みです。そしてエンディングも素敵。 (2025-05-04記載) ---------- (4) The Ghost of Versailles by Frank Usher (1940)「ヴェルサイユの幽霊」フランク・アッシャー作、南波喜久美訳: 評価6点 マリー・アントワネットの幽霊譚。ちょっと変わったアプローチが面白かった。 (2025-05-05記載) ---------- (12) The October Game by Ray Bradbury (1950)「十月ゲーム」レイ・ブラッドベリ (7) Devil's Henchman by Murray Leinster (1952)「悪魔の手下」マレイ・ラインスター作、成田朱美訳 ---------- (5) Poor Little Saturday by Madeleine L'Engle (初出Fantastic Universe 1956-10)「愛しのサタデー」マデリーン・レングル作、笹瀬麻百合訳: 評価4点 基本、ファンタジーは好きじゃないのです。魔女が出てくる話。サタデーは面白いが、概ね凡庸。 (2025-05-04記載) ---------- (11) Operation Salamander by Paul Anderson (1957)「サラマンダー作戦」ポール・アンダースン作、川勝彰子訳 ---------- (3) Victim of the Year by Robert F. Young (初出Fantastic Stories of Imagination 1962-08)「犠牲の年」ロバート・F・ヤング作、風間英美子訳: 評価6点 失業と職安とハロウィン。楽しげで面白い話だけど、ちょっとピンとこない。 (2025-05-05記載) ---------- (6) Unholy Hybrid by William Bankier (1963)「おぞましい交配」ウィリアム・バンキアー作、中山伸子訳 (1) The Ghost by August Derleth(1966)「幽霊」オーガスト・ダーレス作、羽田詩津子訳 (9) My Mother was a Witch by William Tenn (1966)「ぼくのママ魔女」ウィリアム・テン作、大久保庸子訳 (2) Bradley's Vampire by Roger. W. Thomas (1968)「ブラッドレー家の客」ロジャー・W・トーマス作、坂崎麻子訳 (10) Charles Kean’s Ghost Story: “Nurse Black” by Michael & Molly Hardwick (1969?)「ブラック乳母」マイクル・M[sic]・ハードウィック作、伊藤美帆訳 この人だけ作者の紹介が無かった。色々調べると "50 Great Horror Stories" ed. John Canning (Hamlyn/Odhams, 1969)にマイケル&モリー・ハードウィックの作品が多数収録されており、その中の一篇。タイトルも微妙にヘンテコに紹介(Chavles Keau’s Ghost)されていた。 |
No.511 | 5点 | 15人の推理小説 アンソロジー(海外編集者) |
(2025/05/04 22:37登録) 1956年出版のCWAアンソロジー。原題Butcher’s Dozen。編者はJosephine Bell, Michael Gilbert & Julian Symonsのようである。国家図書館デジタルコレクションで読んでいます。 ( )内の数字は翻訳本の順番。【 】内の数字は原書の順番。 「あとがき」によると、この手のCWAアンソロジーの最初のものだったようだ。 ---------- (1) Dinner for Two by Roy Vickers 【14】(初出EQMM 1949-01) 「二人前の夕食」ロイ・ヴィカーズ作、井上一夫訳: 評価6点 迷宮課もの。1933年の事件。面白いアリバイだが成立するかなあ。解剖でわかるはず。 (2025-05-04記載) ---------- (2) Money Is Honey by Michael Gilbert【4】「お金は蜂蜜」マイケル・ギルバート作、橋本福夫訳 [Henry Montague Bohunもの] ---------- (3) Diamonds for the Million by Maurice Procter【10】 (初出Collier's 1952-11-01 as “The Bowstring Murder”)「百万ドルのダイヤモンド」モーリス・プロクター作、中田耕治訳: 5点 なんだか語り口が下手くそでわかりにくい話になっている。英国警察と米国警察が共同して犯人を追い詰めるのだが… (2025-05-06記載) ---------- (4) The Tallest Man in the World by Janet Green【5】「世界一背の高い人間」ジャネット・グリーン作、橋本福夫訳 (5) Portrait of Eleanor by Marjorie Alan 【1】(初出EQMM1947-12)「エリナーの肖像」マージャリー・アラン (6) The Thimble River Mystery by Josephine Bell【2】(初出The Evening Standard 1950-05-08 as "The Thimble River Murder")「シンブル川の謎」ジョジフィーン・ベル[Dr. David Wintringhamもの] ---------- (7) A Death in the Black-Out by Mary Fitt【3】(BBCラジオドラマ)「灯火管制中の死」メアリー・フィット作、井上勇訳: 評価5点 田舎の開業医フィッツブラウンFitzbrownもの。作中現在は1944年11月。オートバイ事故で呼ばれた医師。三人ブリッジをしている場面あり。ミステリ度は普通。 (2025-05-05記載) ---------- (8) Strange Journey by Frank King 【7】(初出Britannia and Eve 1949-09)「奇妙な旅行」フランク・キング作、中田耕治訳 (9) The Killer by Vivian Stuart【12】「殺人者」ヴィヴィアン・ステュアート ---------- (10) Death at the Wicket by Bernard Newman【9】「打席に死す」バーナード・ニューマン作、井上一夫訳: 評価5点 田舎のクリケット試合で起きた出来事。専門用語たくさんだけど、さすが井上先生は上手く処理している。ミステリ度は低いなあ。 (2025-05-04記載) ---------- (11)Rubber Gloves by L. A. G. Strong【11】「ゴムの手袋」L・A・G・ストロング作、中田耕治訳 (12) The Dupe by Julian Symons【13】「かも」ジュリアン・シモンズ (13) The Lost Village by Cecil M. Wills【15】「失われた村」セシル・M・ウィルス (14) He Got What She Wanted by Nigel Morland【8】「魔につかれて」ナイジェル・モーランド ---------- (15) Remote Control by Alan Kennington【6】(初出Esquire 1950-02 as “Fingerprints Can’t Talk”)「遠隔操作」アラン・ケニングトン作、橋本福夫訳: 評価6点 ちょっと面白い工夫。戦後の話。三角関係の顛末は… (2025-05-06記載) |
No.510 | 8点 | 裁かれる花園 ジョセフィン・テイ |
(2025/05/03 23:30登録) 1946年出版。テイ名義第二作。翻訳は上質。 この時点では戯曲家Gordon Daviotと同一人物だと明かされていない。 この作品はミステリを期待せず、普通小説として読んだ方が良いだろう。卒業間近の体育大の女学校で、とある事件が起こる物語。 登場人物(ほぼ女性ばかり、たまに出てくる男たちも良い仕事)が生き生きとしてとても良い作品だと感じた。いつものように話の流れが良い。このまま事件が起きないで欲しい、と思うくらい、キャラに感情移入してしまった。京都アニメーションでアニメ化して欲しいくらい。 テイさんは体育学校での経験を書き留めておきたくなったのだろう。 伝記を読んでいて1949年にセイヤーズがテイさんをデテクション・クラブに誘っていた、という事を知った。残念ながら父の介護でロンドンになかなか自由に行けないのでテイさんが断ったようだが。 トリビアは後ほど。 |
No.509 | 7点 | フランチャイズ事件 ジョセフィン・テイ |
(2025/05/01 23:28登録) 1948年2月出版。テイ名義第3作。グラント警部シリーズ第3作。国会図書館デジタルコレクションNDLdc(元本HPB)で読みました。翻訳チェックは第二章途中までですが、数行大きく抜いてる部分もたまにあり(ちょっと脇にそれた無駄口や固有名詞関連が多そう)、誤りも結構ありました。まあなんとか物語の趣旨は分かりますが、ニュアンスずれはかなりありそう。新訳希望です。 肝心の話はテイさんの丁寧でユーモアたっぷりの物語。ロンドンの演劇サークルに身を置きながらも、故郷のインヴァネスで病身で高齢の父(1950年死亡)を介護していたテイさん。そんな生活と母娘の二人暮らしが、本書を読んでいて重なりました。 ミステリ的には地味すぎる話。派手な展開もない。でもじっくり読ませる。非常に良い小説ですが、私には飛び抜けた高得点は無理でした。最後までちゃんと翻訳チェックをすればもっと点数が上がるかもです… 本作で初めてダストカバーにTey=Daviotと明記。18世紀の有名事件を現代に置き換えた、ということもダストカバーに書いています。元ネタはリリアン・デラトーレ『消えたエリザベス』(1945; これもNDLdcで読めます。良い時代ですね!)で取り上げられてるElizabeth Canning事件(1753)。 正直、なぜこの題材?と思ったのです。でも毎日、老いる親をみていると不安だったのかな、と思いました。その感じを伝えるのに格好な題材だったのでしょう。あと映画化も狙っていたのでは?と思いました。フォトジェニックなところが色々ありますよね。 映画(1951)もなんとYouTubeで見られるのです!冒頭20分ほど見ましたが、グラント警部が出てきます。ヒッチコックはカットしたので映画初登場ですね。これも見終わったら感想を書きますよ。 Affairがタイトルなので、英国ミステリ三大Affairを考えました。 ・The Mysterious Affair at Styles by Agatha Christie (1920) ・The End of the Affair by Graham Greene (1951) 『スタイルズ』はaffairという語では軽すぎる気がします… 以下トリビア。 p7 今頃ゴルフ友達はどこかでやっていることだろう(His golfing cronies would by now be somewhere between the fourteenth and the sixteenth hole) p7 ミルフォードでは晩餐の招待は今でも手紙で書いて郵送されることになっている(in Milford invitations to dinner are still written by hand and sent through the post) p7 バターを入れないビスケット(biscuits; petit-beurre)… たっぷりバターを入れたビスケット(digestive) p8 有名な辯護士(a respectable solicitor) p8 大戦中に… 雇われ(war-time product)… 約四分の一世紀の後(nearly a quarter of a century later)◆ 第一次大戦の人手不足で初めて女性を雇って、それから約25年後が現在、ということらしいので、少なくとも1914+25= 1939以降。作中現在は第二次大戦後と思われるので1946年で良いか。(2025-05-02追記) p8 法律事務所は… うまく戦争を切り抜けた(But the firm had survived the revolution)◆ このrevolutionは女性を法律事務所で雇用する、という「革命」 p8 タフ嬢がこの事務所の人気者になった(Miss Tuff had ever been a sensation)◆ 誤魔化し訳。タフ嬢が最初の女性として弁護士事務所に雇われた時のセンセーションは、遠い昔のものとなった、という趣旨。 p10 奥の部屋に住んでいた。彼は別にこれという仕事もなく(was occupying the back room at this moment. Occupying was the operative word, since it was very unlikely that he was doing any work)◆ 試訳「この時も奥の部屋を使っていた。「部屋を使っていた」というのは適切だろう。彼が仕事をしている可能性はほとんどなかったからだ」 p10 アン・ボールウィンの評判(Ann Boleyn’s reputation)◆ 試訳「アン・ブーリンの名声」 p11 彼は足を早めて家に着いた(He had gathered his feet under him preparatory to getting up)◆ ここは明白に誤訳。まだ事務所を出ていない。試訳「立ちあがろうとして、足を寄せた」 p11 外出したと(was departing for the day)◆ 試訳「本日は帰宅しましたと」 p11 みんな単に月並みな興味をそそるだけものだった(would have had only academic interest for him)◆ 試訳「彼にとっては単なる理論上の興味に終わったことだろう」 p11 四十がらみの背の高いやせた色の浅黒い女(A tall, lean, dark woman of forty or so)◆ 「黒髪の」 p12 ホイスラーの母親(Whistler’s mother)◆ ホイッスラーが描いた母親の肖像画Arrangement in Grey and Black No. 1 (1871)の通称。 p12 この前に警視庁にいったのは地方警部とゴルフをした時だった(The nearest he had ever come to Scotland Yard was to play golf with the local Inspector)◆ 試訳「警視庁関連での一番近い体験は、地元の警部とゴルフをしたことだった」 p14 そんな馬鹿なことってございませんわ(I am sorry... That was silly)◆ ここは、前の会話で興奮して思わず悪口を言ったことを反省して、謝っている。翻訳はI am sorryを飛ばしている。試訳「ごめんなさい… 馬鹿なことを言いました」 p14 ほんとうかいとロバートは思った(“Wasn’t it, indeed,” thought Robert)◆ ここは半畳を入れてるのではなく、「本当にそうじゃないんですよ」と訴えるようなロバートの内心。 p15 ハリス・ウィルシェナーの事件(Harris and Wilshere)◆ Harris and Wilshere's Criminal Lawという刑法の解説書のようだ。 p15 貸馬屋(livery stable) p15 三台の古びた貸馬車(three tired hacks)◆ 貸馬屋とちゃんと訳してるのになぜ馬車にする? 試訳「三匹の疲れきった貸馬」 p15 フランチャイズ家という有名な家(the house known as The Franchise)◆ ここは英国人がよくやる屋敷にニックネームをつけるやつ。試訳「フランチャイズ荘という屋敷」 (以下追記2025-05-02) p18 本庁(Headquarters) p22 はっぱの入っていないサンドウィッチ(Sandwiches without tops)… スモガスボード(Smorgasbord)◆ 上のパン(tops)がないサンドウィッチ。パンの上に色々食材を載せて食べる。 p22 車附きベッド(a truckle bed)◆ 使わない時には高いベッドの下に押し込める低いベッド。キャスターが付いていて動くのだろう。ここでは低いベッドだけ臨時用に置いているのかも。 p24 もしその娘がずっと屋根裏部屋にいたとしますれば…(If she ever was in an attic)◆ 翻訳では途中で途切れたようになっているが、前文を受けたセリフ。試訳「もし彼女が本当に屋根裏部屋にいたならね」 p25 さっき塀と門を見た際に彼女はああこの家だと思ったに相違ありません(When the girl saw the wall and the gate today she was sure that this was the place)◆ あやふやではない。試訳「… ここがその場所だ、と彼女は断言しました」 p25 法廷証人(legal witness)◆ 試訳「法律家の立会い」 p26 無論、普通の人間ならそんなことは誰だって出来やしません(No normal person, of course)◆ 長々しい。試訳「もちろん、まともな人ならやりません」 p26 グラントは、ロバートがマリオンの方を見ないように彼の視線をロバートの目の上に注いで(Grant... keeping his eye steadily fixed on Robert’s so that it had no tendency to slide over to Marion Sharpe)◆ 意味不明の文章。試訳「グラントはロバートの目をじっと見ており、その視線はマリオン・シャープの方には向かなかった」 p26 三月二十八日(the 28th of March) p26 私の家は世間とのつきあいってものがないもんですから… (The Franchise is so isolated)◆ 試訳「フランチャイズ荘はどこからも遠くて不便なんです」 p27 貧しい子供としてアイルスベリー教区へひきわたされた(She was evacuated to the Aylesbury district as a small child)◆ 「貧しい」はどこから? 試訳「まだ小さい時にアイルスベリー教区へ疎開してきた」 p27 ほんとうに嘘をいわぬ子供(‘Transparently truthful’)◆ まあこういうのはニュアンスが難しい。試訳「目立たないがちゃんとしている」 これで正解かどうか… p28 秘密を守って貰わなくちゃ困ります(Needs re-tiling)◆ タイルの貼り直しが必要?老女の挨拶にしては変だなあ… ああ、その前のセリフで、ロバートを紹介する際に事務所の建物に言及してるので「外壁のタイルが剥がれているよ」と指摘してるのだろう。試訳「(事務所は)タイルの張り替えがいるね」 p30 ほのかな微笑を顔に浮かべた(something that was like the shadow of a smile)◆ ここはもっとデリケートに。試訳「微笑の影のようなものだった」 p30 しゃぼん玉で(with a cake of soap)◆ 試訳「固形石鹸で」 まあこのへんでやめておこう。クリスティ再読さまが怒っていらっしゃるように、最低レベルの翻訳である。ニュアンスがずたぼろ。意味の取れない適当訳も多い。日本語のセンスも無い。 本書の内容面では、改めて読み返すと、初動捜査が酷すぎる。指紋など科学捜査の軽視、面通しの不適切なやり方。第二次大戦後の物資不足の混乱期だったとしても、流石にこれは無いだろう。 |
No.508 | 7点 | 黒檀の箱 ミセス・ヘンリー・ウッド |
(2025/05/01 05:53登録) 初出The Argosy(UK) 1883-01〜03(三回) 国会図書館デジタルコレクション(元本は東都書房版)で読了。翻訳(原 百代)は流麗です。 東都書房 世界推理小説大系 第6巻 グリーン・ウッド篇に収録で、かたや長篇『リーヴェンワース事件』は単独登録。そのオマケのやや長い短篇なので、登録はどうしようかなあ、と思いつつ、単独エントリーにしましたよ。 Johnny Ludlowシリーズは、他に『探偵小説の世紀(下)』に収録されています。いずれも19世紀英国の香る、のんびりした、でもハラハラするなりゆきの優れた小説だと思います。 本格ミステリではありません。謎の事件が起こる人情噺。 本作は、金貨の詰まった黒檀の箱が現れたり、消えたりする話で、ジョージ三世のギニー金貨(直径25mm)がいい仕事をします。作中現在は1880年代でしょうね。 「年二百ポンド」が話題に出てきます。英国消費者物価指数基準1880/2025(153.73倍)で£1=29291円。 |
No.507 | 6点 | 五匹の赤い鰊 ドロシー・L・セイヤーズ |
(2025/04/30 03:33登録) 1931年出版。ピーター卿第五作。浅羽さんの労作。原本は スコットランド風味を方言で、という作者の意欲があり、それが魅力なのだろうが、翻訳者にとっては地獄である。 皆さまの評価が意外と低い。 私は十分楽しめました。 なんせ作者のキップが良い。ネタバレ嫌なのでここには書きませんが、読書メーターにはネタバレ・フィルターがあるので書いています。 本格ミステリの形式で当時の英国 スコットランドの日常生活を書いた小説。 拾えるネタがたくさんあったように記憶してるので、トリビアは気が向いたら。 BBCのTVシリーズ(イアン・カーマイケル主演1975)にも取り上げられてるので、これも観たらここに書きます。 |
No.506 | 6点 | 眠れるスフィンクス ジョン・ディクスン・カー |
(2025/04/30 03:03登録) 1947年出版。フェル博士第17作。国会図書館デジタルコレクションで読みました。元本はミステリ文庫。NDLdcでは旧訳のHPBも読めます。 これJDC名義のある作品と好一対。あっちは「男心はわからない」で、こっちは「女心はわからない」(作品名は人並由真さまの奥ゆかしさを尊重してボカしました)。ミステリ的には不可能状況が提示されるが、そっちはオマケの扱い。 でもXXXの正体が、実は… というのは全然いただけない。JDCのやりすぎ。 恋愛模様も、描写が不十分なので、それぞれのキャラが立っていない。作者の登場人物はいつもそうだが、行動が中途半端。球際に弱く、いざという時に第一歩が遅れる。設定は結構良いのになあ、と残念に思う。 一つトンデモない不可能状況があった。フェル博士にあんなXXXは無理。元スパイを向こうに回して大活躍しすぎだ。 以下、トリビア。 作中現在はp11に明記。 英国消費者物価指数基準1946/2025(53.52倍)で£1=10193円。 p11 七月十日水曜日(Wednesday, July tenth)◆ 該当は1946年。 p17 年三百ポンドで生計を(with three hundred a year and my keep)◆ my keep(食費)は別、というように読める。実家暮らしだった? 七年前の話なので英国消費者物価指数基準1939/2025(83.53倍)で£1=15908円。 p25 スリラーや犯罪もの(a thriller or a book of trials)◆ ちょっとニュアンスずれ。試訳「ミステリ小説か裁判実録」 p54 電報なら急用(Telegrams convey a sense of urgency) p62 かみそりのとぎ皮(a razor strap) p67 ジャン・ピエール・バキエ(Jean Pierre Vaquier) p70 ヴィクトリア時代… 医師の社会的地位はあまり高くなかった(his Victorian boyhood: when the social status of medical men, for some reason, was not very high) p81 昔風の殺人ゲームをやる(play an old-fashioned game of Murder)◆ 後ろの方ではthe Murder gameと表記。 p87 おおスザンナ p114 かんぬきやさし錠(bars and bolts) p128 ボルテールやアナトール・フランス◆ JDCはアナトール・フランスが嫌いのようだ。 p128 あたしは十九だから結婚できるのよ(I can get married at nineteen; don't think I can't)◆ 当時の英国では保護者の承諾のない結婚は21未満では無効のはず(Age of Marriage Act 1929; The Family Law Reform Act 1987で18歳に引き下げ)。なので挑戦的にdon't think I can't「(無効になったって)やったるよ」と言っているのか? なお結婚可能年齢は両性とも16以上。 p174 ルーガー拳銃(Luger pistol) p181 前の世代の人々には自殺は恐ろしい罪(suicide.... before our generation that was thought to be a fearful sin) p184 湯タンポ(hot-water bottles) p208 ボルネオの蛮人(the Wild Man of Borneo)◆ デビュー当時、ジミヘンもこう呼ばれていた。 p210 アトリー首相(Mr. Attlee)◆ 英国首相(26 July 1945 – 26 October 1951) p212 いまでは離婚はたいしたスキャンダルにならない(divorce is hardly a scandal nowadays) p227 {リスト} ◆ 名前だけ検索用として。 ・Maria Manning (London, 1849.) Patrick O'Connor. ・Kate Webster (London, 1879.) Mrs. Thomas. ・Mary Pearcey (London, 1890.) Phoebe Hogg. ・Robert Buchanan (New York, 1893.) Annie Buchanan. ・George Joseph Smith (London, 1915.) ・Henri Desire Landru (Versailles, 1921.) p253 五六bは通りの右側にあるはず(55b should be on the left-hand side of the street)◆ 数字はケアレスミスか。ロンドンの番地の付け方のルールはどこかに書いてあったのを読んだ記憶あり。 p276 九九九番を回して救急車を◆ 1937年から英国の緊急電話番号。警察、火事、救急車、コーストガードを呼び出せる。英Wiki "999" p290 ホワイトホール1212(Whitehall 1212)◆ 英Wikiに項目あり。1932年からこの番号とのこと。 p328 彼の方から離婚しても、彼女の方から裁判で離婚しても(Whether she officially divorces him, or he divorces her)◆ 原文ではofficiallyは「彼」にも「彼女」にもかかっている。英国での離婚は両方の同意があっても裁判が必須。1923年以降は夫も妻も不貞だけを理由に離婚を申し立てることが出来るようになった。 |
No.505 | 5点 | In the Night ロード・ゴレル |
(2025/04/29 19:09登録) 1917年出版。Spitfire Publication 2025のKindle版(とても安いよ)で読みました。 献辞 To LT. VIVIAN MORSE (誰だろう?) デテクション・クラブの創立メンバーで、アガサさんが会長だった時に実際の会長仕事をしていたゴレル卿。私には英国の離婚法改正前に先進的な意見書を提出した先代のゴレル卿(1848-1913)がお馴染み。第一次大戦が無ければ、もっと前に1937年の改正が実現していたはずなのだ。 翻訳が無い場合はあらすじを、というここのルールだが、フェアプレイを宣言した序文の全訳で我慢してちょうだい。 ------ このミステリ物語は戦争からの気晴らしにすぎない。戦争は話自体にはちっともでてないのだが。フランスの病院で思いつき、回復期に家で書いた。似たような境遇の人や塹壕にまだいる人が、これで一二時間の気晴らしを得られれば、この本の存在価値が十分にあったと言えるだろう。なんとか読者にフェアでいるように努めた。読者が自分で推理出来る機会を奪われて、ただ作品中の賢い推理を賞賛するだけ、というふうにはしたくなかった。最高にイライラするのは、よくあることだが、犯罪の捜査中に「探偵は満足した様子で立ち上がり、拡大鏡をしまった」というような文章を読むときである。したがって、本書の中では、全ての重要な事実は、発見されたそのままに語られ、読者は、可能な限り、捜査者の目で観察が出来、捜査者同様に、真相に至る機会をあたえられている。 ------- 本書の内容を簡潔に説明しておこう。これは屋敷ものである。屋敷の平面図もついている。 スコットランド・ヤードの若き警部も登場する。 ミステリ度は「ふうん、そんな感じか」レベル。努力賞程度かな。文章は平易なので、読みやすいですよ。 |