下宿人 |
---|
作家 | ベロック・ローンズ |
---|---|
出版日 | 1954年12月 |
平均点 | 7.00点 |
書評数 | 2人 |
No.2 | 7点 | 弾十六 | |
(2025/05/16 10:37登録) 1913年8月末出版。初出Daily Telegraph連載1913-08-02〜(終了日、回数不明)。元々は英国Nash's Magazine 1911-01 挿絵A. C. Michael 及び 米国McClure's Magazine 1911-01 挿絵Henry Raleighの短篇を長篇化したもの。マクルーア誌の短篇版はWikiSourceにあり(英Wiki “The Lodger (novel)”にリンク)。短篇版の邦訳は無さそう。 私は無料でダウンロード出来る林清俊さんの新訳で読みました。端正な文章が非常に良いです。他にも面白そうな翻訳作品がありますよ!http://classicmystery.web.fc2.com ---------- 同じような内省を繰り返してる部分があって、どうかなあ、という印象があったのだが、成立過程を知って、なるほど、と思った。でもディテールを膨らませたおかげで、当時の金銭感覚や生活実態が読めて良かった。インクエストのシーンも短篇版には出てこないし。 じんわりくるホラーというよりサスペンス。グロい描写は一切なし。短篇版はざっと見た程度で、熟読してない。オハナシとしては短篇の長さで十分だろうと思う。 ヒッチ映画を見たら、感想を書きますよ。 トリビアもたくさん拾えた。これも後ほど。 |
No.1 | 7点 | 人並由真 | |
(2017/09/16 01:42登録) (ネタバレなし) ビクトリア朝末期の英国。かつて上流階級の家庭に奉公していた男やもめのロバート・バンティングは、同じ職場の若いメイド、エレン・グリーンを後妻に迎えた。その後、地方で下宿屋を開業した夫婦。しかし好調だった下宿屋は流行病の影響で不振となり、彼らはロンドンの一角の古い住宅に転居。そこでまた下宿屋を営むことになる。だが現在、間借り人は誰もおらず、生活費に翳りが見えたとき、ある日、背が高く痩身の紳士・スルウス氏が現れた。人付き合いを避けて寡黙な言動ながら、部屋をまとめて借り受けて支払いを渋らないスルウス氏をバンティング夫妻は歓待する。しかしその頃、ロンドンでは謎の通り魔「復讐者」が、飽きることなく凄惨な殺人を重ねていた…。 今さら語るまでもない現実上の近代史の謎<ジャック・ザ・リパー>事件(1888年に発生)をもとに、英国の女流作家ベロック・ローンズが著した長編サスペンススリラー。ヒッチコック監督の映画化作品でも有名で(筆者はまだ映画は未見)、ポケミスの解説によると原作は当初、原型の短編小説として著されたのち、1913年に長編(本作)にリライトされて刊行されたという。 当初ははやらない下宿屋の福の神として迎えられた間借り人=スルウス氏に「まさか…」とバンディング夫妻の疑惑の目が向けられていく物語の流れは、読者の誰の眼にも自明の設定ではある。 しかし主要登場人物はこの3人に加えて、ふだんは別居して親類の家で暮らす夫妻の19歳の娘(ロバートの先妻の娘で、エレンの継娘)デイジイ、その彼女に恋する若者で、ロバートの旧友の息子、さらに警官でもあるジョー・チャンドラーというわずか5人のみ。 その場面のみのほとんど無名のサブキャラはほかにも数名登場するが、これだけのキャラクターで約250ページの内容を一気に読ませるのだから、一世紀以上前の作品ながら物語の求心力はかなり強い。 特に、クラシック作品ながら小説技法的に「うまい」と感じたのは、最初に下宿人に疑惑を抱くエレンの内面をほとんど直接は描写せず(心の声で「まさかあの人が殺人鬼!?」とかわかりやすい叙述はしない)、当初は猟奇的な連続殺人をおぞましがっていた彼女が事件の情報の載っている朝刊を積極的に手にするようになったり、病院に行くと夫に嘘をついて、やはり事件の情報を求めて裁判所に出かけるなどの客観的描写を積み重ね、読者にも物語上ベクトルの変化を実感させていく手法。 なるほど、これはヒッチコックが映像化に臨んだわけである。 夫妻の家に出入りしながら下宿人に紙一重のところで接近するかそうでないかの緊張を続ける娘デイジイや警官チャンドラー青年の使い方も鮮やかで、その意味でもサスペンス感は十分。 なおラストは刊行当時にして未解決の四半世紀前の事件をもとに、小説上の勝手な結末を許さなかった感じだが、詳細はネタバレになるので控えよう。最後の最後まで十分に面白いし、読後の余韻もある。 ちなみに半世紀以上前の翻訳はやや硬く古めかしいが、読み進むうちにそんなに気にならなくなる(翻訳家の加藤衛は、ほかにペリー・メイスンものなどもわずかながら訳出)。 ただし新訳でさらに読み易く再刊してくれれば、確実にもっと評価や知名度は上がる一冊だろうね。 |