警察官よ汝を守れ プール警部シリーズ |
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作家 | ヘンリー・ウエイド |
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出版日 | 2001年05月 |
平均点 | 5.75点 |
書評数 | 4人 |
No.4 | 6点 | YMY | |
(2025/08/13 21:37登録) 警察本部内で執務中の本部長が射殺されるというセンセーショナルな事件を扱っているが、プール警部は試行錯誤を繰り返しながら地道に捜査を進めていく。その描写はリアルで手掛かりの提示もフェア。 警察小説的要素が濃厚で、組織内の人間関係やヤードと地方警察の関係、その中でのプールの立場と動き方などが興味深く描かれている。 動機と機会が一人の人物に重なった時点で犯人はほぼ特定されるため、謎解きの妙味はやや欠けるとことがあるが、よく練られたプロットと的確な人物造形に支えられた物語である。 |
No.3 | 7点 | 弾十六 | |
(2025/07/15 03:41登録) 1934年7月出版。鈴木さんの翻訳は上質でした。 ウエイドさんは組織人なんだなあ、という感想。組織の中の軋轢とか、地方自治体の上部団体との関係とか、上司部下の関係とかをたくみに描く。こういうのは、そういう経験がないと書けないと思う。CIDと地方警察の捜査協力も、クロフツが描くのとは一味違った細やかなリアリティがある。個人主義、と言われる英国だが、けっこう周りにいろいろ配慮しているのだ。そして、当時の銃器特定検査が出てくる。コニントン『キャッスルフォード』(1932)では覚束ない科学鑑定のように描かれていたが、ここではちゃんとした確認が出来る法科学となっている感じ。旋条痕も顕微鏡で確認している。ほかに検死廷で犯人と名指しされたら、警察はホンボシは違うと思っていても逮捕しなければならないなど、興味深い制度上の問題も書かれていた。 ミステリとしては、アクロバットより納得感を大切にしている作者である。今まで読んだ作品も皆、無理矢理作ったところがあんまり無い。それでいて、いろいろ引っ張り回して悩ませてくれる。一見、これはあからさますぎ?と感じたところも、なるほどね感を重視していると思えば、むしろ良い工夫かも。最近よく言われる伏線回収の妙、というやつだ。 トリビアは後ほど。今回は原文が入手出来た。 先出しで銃関係を一件だけ。 p14 ドイツ軍の機関砲(a German machine-gun)◆ 言及されているのは第一次大戦なのでMG08(使用弾は8mmモーゼル)。「砲」は大口径(20mm以上)の用語であり、機関砲(autocannon)はmachine gunとは違う。訳者は「機関銃」と訳すと手で持ってバリバリやるトンプソン・サブマシンガンみたいなものだと誤解されると思ったのかも。それなら「重機関銃」とする手もあった。だが第一次大戦当時、手持ち式マシンガンはまだ開発されておらず、据え付けの(今でいう)重機関銃が一般的なので「機関銃」が実は一番良い訳語である。 |
No.2 | 5点 | pachio | |
(2014/02/28 17:21登録) 殺人罪で20年の服役を終えた男が出所した直後、警察署内で20年前にその男を逮捕した本部長が射殺される。スコットランドヤードから派遣されたプール警部は、容疑者が警察官ばかりという状況の中で、関係者の秘められた過去を洗い出し、真相に迫る。トリッキイな犯罪を、警察官の捜査過程を地道に描いていくという作風は、珍しいのではないか。場面展開が早く退屈はしないが、1934年発表という時代を感じさせられてしまうのは、今の眼で見たこの作者の限界か。黄金時代の本格は全て読んでおかなくては気が済まないというマニア向け。佳作。 |
No.1 | 5点 | nukkam | |
(2009/10/26 11:09登録) (ネタバレなしです) 1934年発表のプール警部シリーズ第3作でウェイドの代表作と評価される作品ですが初めてウェイドを読もうとする読者にはちょっと勧めにくい面もあると思います。警察署内の殺人という、あまりにも派手な序盤がウェイドとしては異色で、中盤以降の地味にこつこつ捜査を進めていく展開(こちらはウェイドらしいです)とのギャップがビギナーにはなじみにくいかもしれません。感情描写を控え目にしてドライに淡々とした筋運びながら終盤にしんみりした場面が用意してあるのも唐突感を覚えます(非常に印象的な締めくくりではありますが)。 |