YMYさんの登録情報 | |
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平均点:5.87点 | 書評数:302件 |
No.302 | 5点 | 血の奔流 ジェス・ウォルター |
(2024/04/19 22:27登録) 女囮捜査官も上司も、FBIプロファイラーも、犯人や犠牲者たちまでもが個性的。作り物臭くないし、切ないまでに不条理でスラップスティックなこの世のありさまが、きれいに再現されている。 純文学の風格を持ったエンターテインメントである。犯罪小説が苦手な人におすすめ。 |
No.301 | 9点 | 深夜プラス1 ギャビン・ライアル |
(2024/04/19 22:22登録) 主人公は、予期せぬ方向から敵が次々と攻撃してくるので、予定通りにいかず、臨機応変に対処しなけばいけない。その度に局面は変化するし、自動車を乗り換えたり鉄道を利用したりする移動手段のバリエーションも楽しい。 こうした派手なアクションの面白さを背景に、主人公の魅力もさることながら、彼の眼を通してアル中に悩むガンマンのロヴェルの陰影に富んだキャラクターを描き出した部分が何より秀逸である。 物語の枠組みが単純なだけに、プロットのひねりにせよ男のドラマにせよ、鮮明に印象付けられる。シンプルなかたちに切り取られた設定の中で、濃密な作品世界を繰り広げた完成度の高さがこの作品の魅力である。 |
No.300 | 6点 | メソッド15/33 シャノン・カーク |
(2024/04/07 22:34登録) 17歳の女子高生が何者かに拉致され、監禁されるところからスタートする。だが、ありがちな女性監禁ものではない。性暴力が登場しないからではなく、主人公の女子高生が、理知的な天才少女だからである。粗暴な犯人を巧みにやりすごしながら、何やら逆転のための策を練る。暴力と性的アピールに寄りかかりがちな監禁サスペンスとは一線を画している。 彼女が助かるのは、誰もが想像つくと思うが、物語が最後に辿り着くのは予想できなかった。ありふれたカタルシスさえも裏切る結末となっている。 |
No.299 | 7点 | そしてミランダを殺す ピーター・スワンソン |
(2024/04/07 22:30登録) 男が空港のバーで知り合った相手に殺人計画を語るという、冒頭こそ交換殺人スリラーを匂わせているが、章が変わるとある語り手の忌まわしい過去が明かされていくなど、一筋縄ではいかない。 丁寧な登場人物の描写をベースに、捻りの効いたストーリーが緊迫感に満ちて展開し、視点の切り替えによる怒涛のどんでん返しで翻弄する。どのように収拾をつけるのかと思ったが、言われてみればそれしかないという結末を提示してみせる手さばきはお見事としか言いようがない。 |
No.298 | 8点 | アックスマンのジャズ レイ・セレスティン |
(2024/03/25 22:30登録) かつての上司の不正について証言したことが原因で、今は警察内で孤立している刑事と、その証言のために服役し、マフィアから抜ける条件として最後にボスの依頼を受けることになった男が、それぞれの目的のため同時に連続殺人犯を追い始めるという構図がいい。 そこに「何とか手柄を立ててピンカートンに正式な探偵として採用されたい娘」が第三の主人公として絡んで申し分のない人物配置である。キャラクターの設定には深度もあり、刑事が抱えている秘密には思わず虚を衝かれた。 |
No.297 | 6点 | ホテル1222 アンネ・ホルト |
(2024/03/25 22:25登録) 列車が脱線事故を起こし、乗客たちは近くのホテルに避難する。ところが、そこで殺人事件が発生した。ホテルに集まった二百人近い人間の中に潜む真犯人は。 荒れ狂う雪嵐、相次ぐ死者、反抗的な少年、ヒステリックな評論家、ホテル最上階にいる謎の客。混迷を極める事態に、車椅子の元警部ハンネ・ヴィルヘルムセンが直面を強いられる。謎解きそのものより、ノルウェーの社会の縮図のような人間模様と、彼らを襲う極限状況の迫力が印象的。 |
No.296 | 7点 | 暗殺者の反撃 マーク・グリーニー |
(2024/03/12 22:26登録) グレイマンは、ワシントンDCに潜入し、アメリカ政府を敵に回し、序盤は資金と武器の調達、アジトの構築にはじまって、多彩な戦闘場面がこれでもかと詰め込まれている。 アイデア満載なので知的スリルも充分だし、戦闘員、スパイマスター、官僚、ジャーナリストなど多視点による語りも完璧。陰謀をめぐる意外な真相まで仕掛けられており、スティーヴン・ハンターの「狩りの時」を想起させた。 |
No.295 | 6点 | その雪と血を ジョー・ネスボ |
(2024/03/12 22:22登録) 暴力と隣り合わせの人生を歩まざるを得なかった殺し屋オーラヴは、二人の運命の女の間で孤独な魂を揺らつかせつつ乾坤一擲の賭けに出る。 これは、純白の雪と深紅の血に象徴される、不自然なまでに美しい暗黒叙事詩であると同時に、強く心を打つクリスマス・ストーリーでもある。愛と憎しみ、信頼と裏切り、献身と我欲が絡み合う凄惨なれど哀愁漂う贖罪と救済の物語だ。 |
No.294 | 5点 | 名もなき人たちのテーブル マイケル・オンダ―チェ |
(2024/02/26 22:22登録) セイロンから母が待つイギリスへと向かう大型客船に、たった一人で乗り込んだ十一歳のマイケル。食堂で船長から最も遠い末席をあてがわれた彼が、同席した個性豊かな大人たちとの交わりを通じて、「面白いこと、有意義なことは、たいてい、何の権力もない場所でひっそりと起こるものなのだ」という人生の真実に気付き、二人の友達とともに悪戯と冒険を繰り返すうちに、悲劇的な死と深く関わり、少年時代の終わりを実感する。 美しい文章で綴る三週間の瑞々しくも猥雑な船旅。これは成長と喪失の物語。 |
No.293 | 5点 | レッド・スパロー ジェイソン・マシューズ |
(2024/02/26 22:17登録) アメリカとロシア、それぞれの国家中枢に潜むスパイの正体をめぐって両国が繰り広げる駆け引き。最初は互いを騙すつもりで、やがて惹かれあう関係になったCIA局員と、ロシアの女スパイの運命は、冷戦期を彷彿とさせる苛烈な諜報合戦に翻弄されてゆく。 諜報のリアルなディテールと生彩あるキャラクター描写が渾然一体となり、最後の一ページまで緊迫感が途切れることはない。 |
No.292 | 5点 | 探偵術マニュアル ジェデダイア・ベリー |
(2024/02/13 22:23登録) 幻想小説にミステリの意匠を凝らした、といった風の小説である。奇妙な街にそびえる探偵社にまつわる奇妙な事件は、イタロ・カリヴィーノが基本設定を考えたと言われても違和感がないほど夢幻的。 ただし野放図にイマジネーションを垂れ流さず、風呂敷も制御可能な範囲で広げるにとどめる辺り、ミステリとして締めるべき所をきっちり締めてきて、なかなか侮れない。 |
No.291 | 7点 | 三秒間の死角 アンデシュ・ルースルンド&ベリエ・ヘルストレム |
(2024/02/13 22:18登録) 法治国家の抱える矛盾と限界に苛立ちつつも、国境を越えて流入する凶悪犯罪の真相追求に執念を燃やすストックホルム市警のエーヴェルト警部と、刑務所という闇の奥へと潜入し孤立無援の中、ミッションを遂行する潜入捜査員ホフマン。 この二人の視点を中心に、北欧警察小説のお家芸である犯罪によって人生を狂わされた個人と社会の関係を真摯に見つめる物語に、ひりつくような冒険小説の面白さが加わり、その上、大胆かつ入念に構築された謎解きの妙味も味わえる。 |
No.290 | 5点 | シャンハイ・ムーン S・J・ローザン |
(2024/01/29 23:03登録) 現代のニューヨークで起きた殺人事件の背後から、第二次世界大戦前後の悲話と、それにまつわる宝石の伝承が少しずつ浮かび上がってくる。 私立探偵小説の枠を借りて、国家と民族と個人を翻弄する歴史の残酷さ、人間の運命の数奇さ、そして欲望に振り回され幻に固執することへの愚かさを描ききった、奥行きの深い作品。 |
No.289 | 6点 | ミステリガール デイヴィッド・ゴードン |
(2024/01/29 22:59登録) 未完の実験的小説を書きためるも、未だ一編も売れず、助手家業のプロとして糊口をしのいできた小説家志望のサム。勤め先の古書店が潰れ、その上、妻から別れ話を切り出された彼は、巨漢の引きこもり探偵の助手となり、「ミステリガール」と呼ばれる女性の素行調査を始める。 奇矯な天才型名探偵にカルト・ムービーに実験小説。全編にぶちまけられたジャンクなガジェットと、いかれた人物が醸し出す熱気にあてられつつ、次から次へと変化するストーリーに酔いしれていると、終盤に至って周到に練り上げられたミステリと解って驚いた。 |
No.288 | 6点 | カナリアはさえずる ドゥエイン・スウィアジンスキー |
(2024/01/19 22:28登録) ひょんなことから犯罪者の世界に飛び込んでしまったヒロインが、襲いかかるトラブルをどう乗り越えていくのかが読みどころ。いかにも普通の大学生といった口調で、プロの犯罪者、捜査官もびっくりの策をひねり出すサリーの視点のパートは、作者らしい捻じれた物語の魅力を放っている。 ヒロインの語り口や、家族をめぐるドラマを絡ませる点など、洗練されたサスペンスアクション。 |
No.287 | 5点 | あの子はもういない イ・ドゥオン |
(2024/01/19 22:23登録) 細切れたフィルムを繋ぎ合わせるように展開するサスペンスとバイオレンスが強烈。特に第二部の冒頭数ページに広がる光景のインパクトは、いつまでも心に爪痕を残すほどのものだ。 ただし、本作は決して荒々しさだけが売りの作品ではない。姉妹の運命を追ううちに、その通底には暴力に対する冷ややかな目線があることに気付くはずだ。派手な見た目とは裏腹に、実は繊細なテーマをはらんでいる。 |
No.286 | 5点 | 謝罪代行社 ゾラン・ドヴェンカー |
(2024/01/05 22:13登録) 謝罪代行業なる新ビジネスを始めた四人の若者が、正体不明の殺人者に脅迫されて死体処理をさせられる。 有無を言わせぬ状況設定で、ぐいぐいとサスペンスの中に巻き込んでいくやり方が凄まじい。三つの時刻が不思議な形でばらまかれた叙述も特徴的で、終盤になって何がどうなっていたのかが判ると不思議な感動がある。 |
No.285 | 6点 | 冬の灯台が語るとき ヨハン・テオリン |
(2024/01/05 22:08登録) 昔からいくつもの悲劇を見てきた双子の灯台。そして今また、その近くに引っ越してきたヨキアムが、家族を失い沈んだ日々を送る。 本書の核は間違いなく、このヨキアムの喪失感であり、全編に刻印された哀感だろう。しかし、作者はそれだけにとどまらず、職業犯罪や女性警官の苦悩を描くプロットを絡めた上で、巧緻な計算によって意外にして論理的な真相すら用意する。強固な構成と豊かな肉付けが両立した味わい深い小説である。 |
No.284 | 4点 | 暗殺者たちに口紅を ディアナ・レイバーン |
(2023/12/21 22:33登録) 秘密組織の暗殺者として、40年に渡って共に働いてきたビリーら4人の女性。引退記念に組織がプレゼントしてくれた豪華客船の旅に出る。だが、組織は彼女たちの命を狙って、船に殺し屋を送り込んできた。体力こそ下り坂だが、ベテランの知恵と技術で彼女たちは生き延び、そして反撃を試みる。 ビリーたちは、息の合ったチームワークと殺しの技術で、数々の危機を乗り越えていく。カリブ海からアメリカへ、そして欧州へと移動しながら、あの手この手を駆使した戦いを堪能できる。 深みに書ける物足りなさ、ややご都合主義な面も感じるが痛快なエンタメ小説だ。 |
No.283 | 5点 | その罪は描けない S・J・ローザン |
(2023/12/21 22:26登録) ニューヨークを舞台に、白人男性のビル・スミスと中国系女性のリディア・チンの二人の私立探偵が活躍する第13作。 ビルを訪ねてきた男は、殺人で服役し、仮釈放されたかつての依頼人。彼はビルに奇妙な依頼をする。最近起きた2件の殺人事件の犯人が自分だと証明してほしいというのだ。 風変わりなシチュエーションが忘れ難い。依頼人の有罪を立証するのだ。二人の探偵や奇妙な依頼人をはじめ、登場人物の個性が印象に残る。ミステリとしては真相に大きな驚きはないものの、ユニークな幕開けから解決までの流れは安定している。 |